【街角冒険者】姫と王子と悪者と

■ショートシナリオ


担当:言の羽

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月08日〜04月13日

リプレイ公開日:2009年04月18日

●オープニング

 綺麗な着物に素敵な装飾品を身にまとい、もちろんそんなものがなくとも美しい、誰からも好かれる心優しいお姫様。
 そう、お姫様は誰からも好かれているのです――性根の歪んだ悪者からも。

 ある日突然やってきた悪者は、お姫様のお世話係達を不思議な力で眠らせて、お姫様をお屋敷から連れ出そうとしました。か弱いお姫様には悪者に抗うすべはありません。悲鳴を上げても、みんなみんな眠らされていて、誰も助けに来てくれません。
 優しいお姫様は、悪者だって根は優しい人なのだと信じていました。でも、みんなに酷いことをするのはいけないことだし、無理やり連れて行かれて言うことをきかせられるのは嫌でした。
「さあ、姫‥‥諦めて私の妻におなりなさい」
 悪者は今にも泣きそうなお姫様を無理やり抱き寄せ、強引に誓いの口づけを奪おうとしました。ぎゅっと両目を閉じたお姫様でしたが、その時です。
「姫から手を離せ!」
 何ということでしょう。目の前で、武勇の誉れ高い隣国の王子様が剣を振るっていました。
 悪者は身を翻してそれを交わしてしまいましたが、王子様は怯みません。追いかけてもう一度剣を振るいました。
「ふん。またいつか必ず――」
 かなわないと感じた悪者は、捨て台詞を残して消えてしまいました。

 自由の身に戻ったお姫様は、目を覚ました皆に祝福されて、平和を取り戻してくれた王子様と幸せな結婚をしました。

 ◆

「‥‥めでたしめでたし」
 語り終えたセレナ・パーセライト(ez1072)お姉さんは、ふぅ、と小さく息をつきました。話し続けていたので口と喉が疲れていたせいもありますが、何より聞き手に受け入れられていたかがとても不安なのです。
 セレナお姉さんのお話を聞いていたのは、お布団に入っていた女の子。小鈴といいます。今日は小鈴のお母さんが寄り合いで出かけているため、住み込みで働いているセレナお姉さんと小鈴は、夜の帳に蝋燭の灯が揺れる中、お休み前のひと時を過ごしていたのですが――
 ちらりと視線を動かしたセレナお姉さん。すると小鈴の瞳は朝焼けの太陽よりもまぶしく輝いていました。
「すごい‥‥! すごいのー‥‥!!」
 何がすごいのか、セレナお姉さんには良くわかりません。お姉さんは、子供の頃にお姉さんのお母さんから聞いたことのある物語を簡単にお話しただけなのです。お姫様と王子様と悪者が出てきて、最後にはお姫様と王子様が結ばれる、典型的な物語を。
 ですが小鈴の琴線にはそれが物凄く響いたようで。セレナお姉さんが故郷イギリスから持ってきてくれたお土産(子供用ドレス)がとても可愛らしかったのも、一役買っているのかもしれません。
「‥‥会ってみたいなぁ‥‥」
 しみじみと。それはもうしみじみと。
 お姫様と王子様に会ってみたい、と呟きながら、小鈴は眠りに落ちていきました。

 さあ困ったのはセレナお姉さんです。
 かなりの人見知りである小鈴が自分から見知らぬ人に会いたいと言い出した、その気持ちを汲んであげたいと思います。ですが小鈴が望んでいるのは『西洋の』お姫様と王子様なのです。単に洋服を着ればいいという話ではなく、体格や立ち居振る舞いの問題もあります。なんだかんだで老舗呉服屋の跡取りとしての教育が行われている小鈴には、ただのジャパン人に洋服を着せたところで通用しないでしょう。
 お姫様、王子様、ついでに悪者。話した物語を再現するには、ただの人でない人達の協力が必要――そんな風に思い至ったセレナお姉さんは、明朝に冒険者ぎるどを訪ねることを決めたのでした。

●今回の参加者

 ea0640 グラディ・アトール(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3668 テラー・アスモレス(37歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb9508 小鳥遊 郭之丞(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec6327 ディアナ・シーレン(22歳・♀・ウィザード・人間・イスパニア王国)

●サポート参加者

シルフィリア・ユピオーク(eb3525)/ ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)/ 天岳 虎叫(ec4516

●リプレイ本文


 小鈴は箒で店先を掃き清めていました。お掃除そのものもそうですが、お客さんがやってくるたびに「いらっしゃいませ」と声をかけるのも、大切なお勉強です。
 今の季節は桜の季節。時折そよぐ風に乗って、素敵な香りときれいな花びらが飛んできます。‥‥きれいなんですが、お店の前に散らばっているのをほったらかしにはできません。小鈴はせっせと箒を動かし、花びらをひとつところにまとめました。でもそこに、今度はひときわ強い風が吹いたから大変です。
「あっ‥‥」
 渦を巻き、それから解けるようにして、花びらが舞い上がっていきます。慌てた小鈴は、とりあえず花びらを追おうと振り向きました。
 振り向いた瞬間、箒を落としてしまいました。
「こちらがスズノヤさんですね。セレナさんはいらっしゃいますか?」
 艶やかな長い銀髪。深い海のような青い目。透ける様に白い肌。ひと目で良質の布を使用しているとわかるドレスで大人の女性らしい体つきを包み、柔らかく品の良い顔立ちには優しい微笑を浮かべています。後ろにはおつきの人らしい人達が三人も控えています。小鈴にはわかりました、この女の人が「お姫様」なのだと。
 お姫様は小鈴が自分をきらきらしたおめめで見つめているのに気がつくと、ドレスの裾が地面に触れるのもかまわず、しゃがんで目線を合わせてくれました。
「こんにちは、わたくしはローザと申します。可愛らしいレディ、あなたのお名前を教えていただけますか?」
「‥‥こっ、小鈴、です‥‥!」
 興奮しすぎてうまく動いてくれない舌を何とか動かして、小鈴はお姫様の質問に答えました。それから、耐えきれなくなったのでしょう、「‥‥セレナおねえちゃん呼んでくる!」と逃げるようにしてお店の中へ飛び込んでいきました。
「‥‥ばれないものだね」
 あっという間に暖簾の内側へと消えていく小さな後姿を見送りながら、羽つきメイドな瀬崎鐶(ec0097)お姉さんが呟きました。ふかふかの帽子を目深にかぶり顔を隠しています。
 その呟きに頷きで反応したのは、板金鎧と兜で全身を隠した小鳥遊郭之丞(eb9508)お姉さんです。寡黙な設定らしく声を出さないのだとか。
「そうですね、鐶さん」
「鐶さんというのはどなた? 彼女はレイチェル、わたくしの世話をしてくれている人です」
 ごく自然に本名を呼んだディアナ・シーレン(ec6327)お姉さんこともう一人の護衛、宮廷魔術師さん。でも、忍者の術でお姫様に扮する御陰桜(eb4757)お姉さんがやんわりと指摘します。
「気を抜いてはいけませんよ。わたくしたちは、姫とその一行なのですから」
「おおせのままに」
 姫の微笑に、礼で応える一同。礼儀作法教室の賜物です。

 やがて、小鈴はセレナお姉さんの手を引いて戻ってきました。
 セレナお姉さんも仕掛け人の一人ですから、お姫様一行の正体を知っています。しかも嘘をつくのが苦手。うまく演技できるかの不安があったのですが、お姫様の前まで来ると、すっと片膝をついて頭を垂れました。
『お久しぶりです、姫』
「この国の言葉でかまいませんよ。せっかく勉強したのですもの、使わせてくださいな」
 故郷の言葉で挨拶したセレナお姉さん。なぜかお姫様と親しそう。小鈴の興奮など全くさめる気配がなく、お姉さんの袖口を引っ張って説明を求めました。
 曰く。セレナお姉さんとは、お姉さんのおうちの商売の都合で知り合った。
 曰く。お姫様はお隣の国の王子様と仲良しなのだけど、王子様がお勉強をしにこの国へ来ているので、会いたくなって来てしまった。
「王子と待ち合わせをしているのですが、宜しければ同席なさいますか?」
 お姫様だけでなく王子様とも会えるのだと聞いて、小鈴は一にも二にもなく超速で頷いたのでした。


 江戸の街案内をしながらの道中は、とても賑やかでした。珍しく小鈴がおしゃべりだったり。お姫様が笑ったり。宮廷魔術師さんが何もないところで転んだり。それはそれは楽しく、素敵な想い出が生まれていました。
 彼らが現れるまでは。
「探したぜ、姫」
 足元に映る影は、鳥にしては大きすぎるものでした。ばさりと翼をはためかせ、行く手を阻むように現れたのは――
「ガイラさん!」
「覚えていてくれたとは光栄だ」
 グリフォンにまたがるガイラと呼ばれたテラー・アスモレス(eb3668)お兄さんは、黒々とした上着に槍を携え、いやらしい笑いを浮かべていました。お姫様が嫌がっているのに無理やり結婚しようとしている悪党だと聞き、小鈴は泣きそうになりました。
 来た道を戻ろうとしてメイドのお姉さんがきびすを返したものの、そこには既に杖を携えたカイ・ローン(ea3054)お兄さんが回りこんでいました。
「このホークアイの魔力をもってすれば姫を探すことなど造作もないことです。さあ、姫‥‥」
 きっと魔術師さんな設定なのでしょう。何に乗っているわけでもないのに、宙に浮いています。
 言うことを聞くわけにもいかないので右を向けば、そこにも傷だらけで人相を悪くした玄間北斗(eb2905)お兄さんが木刀を振り回していました。
「こちらへ!」
 宮廷魔術師さんの声がけで、皆が左の横道に走りこみます。小鈴は歩幅が小さいのでセレナお姉さんに抱えられて。
 細い横道、体の大きなグリフォンでは通れません。ふんと鼻を鳴らした悪党は逃げる獲物を追うことを楽しんでいるようにも見えました。

 お姫様一行が辿り着いたのは街外れの空き地でした。小鈴やセレナお姉さんにとっては少し前に雪遊びをしたばかりの場所でしたが、今はその記憶に浸る余裕はありません。
 恐怖に震えてその場に座り込んでしまったメイドのお姉さんをお姫様がなだめます。小鈴ももっと怖くなってしまい、目尻に涙を浮かべながらセレナお姉さんに抱きつきました。
 けれどすぐにまた、羽ばたきが聞こえてきて。鎧の従者さんと宮廷魔術師さんが皆の前に躍り出ます。
「ここは我らにお任せください」
 ゆっくりと近づいてくるのは、魔術師のお兄さんと人相の悪いお兄さん。宮廷魔術師さんが指先で印を組み、呪文を唱えると、人相の悪いお兄さんの目の前で激しい爆発が起こりました。
「な、何だこの術は――うわああああっ!!」
 お兄さんの体は悲鳴とともに見事に吹っ飛び、爆発の余韻が収まる頃にはすっかり見えなくなっていました。
「所詮はただの雇われ者ですか」
 魔術師のお兄さんが冷たく言い捨てるその隙をつき、宮廷魔術師さんが二回目の詠唱を完成させます。
「私の魔力の前ではその程度の魔力は‥‥っ!?」
 手を伸ばし、恐らくは結界を張った魔術師のお兄さん。けれど爆発は結界をものともせず、お兄さんを包み込んでいきました。
 沸き立つお姫様一行でしたが、粉塵がおさまってもお兄さんは吹っ飛ばされることもなく、ぴんぴんしていました。
「そんなぬるい炎、効くかよ。――油断したな、ホークアイ」
「‥‥申し訳ありません」
 どうやら悪党の術のおかげのようです。
 屈辱を受けたことに苦い表情を浮かべながら、魔術師のお兄さんはようやく地面に降り立ちました。杖を持ち直す様子に宮廷魔術師さんは次の呪文を唱え始め、鎧の従者さんが詠唱完了までの時間を稼ごうと前に出ました。
 ですが、従者さんたちの前に先に到着したのは魔術師のお兄さんではなく、グリフォンを操る悪党でした。悪党は、剣で受け流そうとする鎧の従者さんの、その剣を叩き落したのです。
 剣を拾おうとして視線を悪党からはずした鎧の従者さん。無防備になった首の後ろ側に、無慈悲にも槍が振り下ろされました。
「きゃああっ!」
 姫の悲鳴が空き地に響きます。打ち所が悪かったのか、鎧の従者さんはぱたりと倒れて動かなくなってしまいました。しかし悪党は何とも思わないのか、槍の穂先で鎧の従者さんの兜の目の部分をこじ開けると、にやりと邪悪に笑ったのです。
「ほほぅ、割と可愛いツラしてやがる。喜べ、後で姫と一緒に可愛がってやるぜ」
 動かない従者さんに告げられた言葉は、お姫様から血の気を奪うには十分でした。けれどそれすらも楽しんでいるような様子の悪党は、グリフォンの向きを変え、ホークアイお兄さんの様子の確認へと移りました。
「私をあなたのような魔法だけの者と思わないでください」
「く‥‥姫、お逃げくださ‥‥」
 詠唱の時間を稼げなかったため、宮廷魔術師さんの魔法が発動するより先に、魔術師のお兄さんが杖を宮廷魔術師さんの首もとに食い込ませていたのです。宮廷魔術師さんはぜいぜいと苦しげな声でお姫様を案じてから、風でろうそくの火が消えるようにふっと、気を失いました。
「ご苦労」
 ねぎらいを述べる悪党でしたが、彼のために頑張った部下に向けられたのは冷たい視線でした。
 もはや邪魔する者はいないとふんで、悪党は今度こそ、お姫様に的を絞ります。
「どうしてこんな事を‥‥」
 根っからの悪人はいないと信じているお姫様には、とてもではないですが信じられない光景だったのでしょう。悲しそうな瞳で見つめることで、精一杯の抵抗の意を表していました。
 もちろん、悪党には痛くも痒くもありません。グリフォンをお姫様の横へつけると、槍を持つ手とは反対の腕で強引にお姫様を抱き寄せたのです。 
「助けて‥‥王子‥‥」
 これから一体何をされるというのでしょう。全身を固くし、目を閉じて、それでもお姫様が呼ぶのは愛しい王子様でした。
「おうじさまああああああ!!」
 泣きじゃくり、飛び出さないようセレナお姉さんに引き止められながらも、小鈴は喉の奥の奥から声を搾り出して叫びました。王子様ならきっと何とかしてくれる、お姫様を救うのは王子様の役目だから――心の底から信じているのです。
「そこまでだ!  姫へのこれ以上の無礼、この私が許さん!!」
 陽の光が遮られ、全員が空を見上げました。そこには、ああ、天が小鈴の願いを聞き届けてくれたのです、翼のある気高い白馬を駆り、頭上に王冠を戴く王子様の姿がありました。
「ちっ。来たな、ジュリアン王子!」
 悪党はそれでもお姫様を離しません。代わりに魔術師のお兄さんがグラディ・アトール(ea0640)こと王子様に対峙します。
 魔術師のお兄さんはすぐに何かの魔法を放ったようでしたが、王子様には効果を発揮しなかったみたいです。すかさず急降下してきた王子様が剣を抜いて斬りつけます。初撃は何とか受け止めた魔術師のお兄さん。でも素敵に強い王子様には勝てません。王子様の呼吸が全く乱れぬまま、魔術師のお兄さんは打ちのめされました。
 一瞬、王子様とお姫様の視線が交わりました。それにやきもちを焼いたのか悪党が勢いよく突き放したので、お姫様は転んでしまいます。抱き起こそうと近寄ろうとした王子様。その途中、何かを察知してペガサスの足を止めさせると、刃が鼻先をかすめ、金色の髪が数本舞い散りました。
 歯を食いしばって睨みつける王子様と、敵意をむき出しにする悪党。二人はそろって空に飛び立ちました。
 ぎぃん、ぎぃん、と何度も何度も刃のぶつかる嫌な音が耳に届きます。互角、のようでした。ぶつかっては離れ、離れてはぶつかって、時に刃を噛み合わせての力比べとなり、地面で見守る皆をはらはらさせてなりません。
「頑張ってください、王子!」
「おうじさまーっ!」
 声援は果たして届いたのでしょうか。今までで一番離れた二人は、今までで一番長く息を整え‥‥正面から突撃しました。すれ違う時には、何も音はしませんでした。刃と刃は打ち合わなかった、つまりどちらかの、もしくは両方の、刃が相手を捕らえたということです。
 つばを飲み込まずにはいられないほどの緊張の中、体が傾いたのは悪党でした。
「姫は私がお守りすると誓ったのだ」
 王子様が剣を鞘に収めるのと同時に、悪党はグリフォンの背から崩れ落ちていきました。グリフォンがすぐに気づき頑張ったので悪党が地面に激突することにはなりませんでしたが、勝敗は誰が見ても明らかでした。
 さすがに怖くて遠巻きに眺める、お姫様や小鈴たち。利き腕を抑えて痛そうにする悪党の体を、自分も顔をしかめた魔術師のお兄さんが駆け寄って支えます。
 悪党はお姫様へ手を伸ばそうとしました。諦めきれないのです。それでも命には代えられないのか、天馬が降りてくる前に逃げていきました。

「きっと、助けに来てくれると信じていました」
 すべてが終わった後で、お姫様は王子様にお礼を言いました。王子様ははにかむお姫様に対し微笑んだかと思うと、お姫様の手を取って口付けを落としました。お姫様のほっぺたに薔薇の花が咲いたようになりました。
「小鈴さん、巻き込んでしまってごめんなさいね。本当ならばお詫びをしなければいけないのですが」
 申し訳なさそうなお姫様の後ろで、メイドのお姉さんが鎧の従者さんと宮廷魔術師さんを起こしています。鎧の従者さんはすぐに起きたのですが、宮廷魔術師さんからは気持ちよさそうな寝息が聞こえてきました。
「‥‥彼女も疲れているようですし、わたくしたちはもう行かなければなりません」
 内心はひどくあせっているお姫様に対し、小鈴はオトナな対応をしました。笑顔でさようならを言ったのです。涙と鼻水で見れたものではないお顔になっていたのですが、眩しいくらいのきれいな笑顔でした。
 王子様がお姫様を抱っこして天馬にまたがります。メイドのお姉さん、鎧の従者さん、鎧の従者さんに担がれる宮廷魔術師さん。皆にお別れの挨拶をして。
 お互いにいつまでもいつまでも、手を振り合っていたのでした。

 ◆

 小鈴とセレナお姉さんは、帰り道で和菓子屋さんに寄りました。小鈴のお財布からお金を出して、お菓子をお姫様たちに贈ろうというのです。
 見知った和菓子屋さんですから、セレナお姉さんは多めに包んでくれるようにこそっと頼みました。頑張ってくれた悪党さんたちにも、お礼の気持ちを贈るつもりで。