【街角冒険者】男の子でも漢は漢

■ショートシナリオ


担当:言の羽

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月09日〜07月14日

リプレイ公開日:2009年07月22日

●オープニング

 江戸の街の一角に、老舗の呉服屋さんがあります。
 呉服屋さんの名前は『鈴乃屋』といいます。おかげさまで繁盛しています。切り盛りしている若旦那とその奥様は毎日が大忙しです。
 一人娘である小鈴は、一時は酷く寂しい思いをしたものですが、近所に住んでいる同じ年頃の男の子や女の子と親しくなり、毎日お勉強と遊びとで大人顔負けの忙しさとなっていました。
 忙しいのは大変だけど、忙しいのが嬉しい。そういうこともあるんだなぁと、小鈴は日々感じていました。

 ◆

「ああ、いたいた。小鈴ー!」
 ある日、いつものように街外れの空き地で皆と遊んでいた小鈴を、誰かが呼びました。ちょうど受け止めたばかりの手まりを持って振り向くと、空き地の入り口のところに、ひとりのお兄さんが立っていました。
 八歳の小鈴よりも二つか三つほど年上の感じで、日焼けした肌と硬そうな黒髪に、無駄なお肉のないすらりとした手足。屈託のない笑顔。他の皆はいぶかしげな顔をしていましたが、小鈴だけは花が咲いたように一瞬で驚きと喜びの表情となり、そのお兄さんのところへ駆けていきました。
「‥‥っ、太助お兄ちゃん!!」
「ちゃんとメシ食ってんのか? 前より小さくなってるだろ」
「それは、太助お兄ちゃんが大きくなってるから‥‥っ」
 太助お兄さんは旅芸人一座で生まれ育った、小刀投げを得意とする優しい人です。以前に江戸を訪れた際に小鈴と知り合い、また江戸を離れるまでしばらく遊んでくれていました。その頃小鈴には友達が全くと言っていいほどいなかったこともあり、小鈴にとって太助お兄さんはとても大きな存在となったのです。
 簡単に言えば、初恋の人。
「見ろよ、小鈴のあの顔。あんな顔すんの、親や住み込みのお姉さんに対してだけだと思ってたけどな」
「なあ正太郎。あれってやばいんじゃね?」
「やばいも何も、負けが決まってる勝負だろこれは」
「うっせーぞ、お前ら!!」
 小鈴が太助お兄さんに近況報告をしている間、男の子達はガキ大将を囲んでひそひそと囁きを交わしていました。が、当のガキ大将、正太郎は自分を囲みながらひそひそしている子分達に我慢できず、大声を出しました。
「大体、負けるってなんだよ。俺がいつ何に負けるっていうんだっ」
「‥‥だってねぇ」
「ねえ」
「バレバレ?」
「だから何がだ!!」
 男の子が騒いでいれば気になるのが女の子というものです。小鈴経由で太助お兄さんと仲良くなろうとしていた彼女達ですが、男の子達の様子に眉をひそめたり首を傾げたり。「やーねぇ」とこちらでもひそひそ会話が始まります。
 そんな混沌とした雰囲気のなか、渦中の人である太助お兄さんが颯爽と前に出ました。正太郎に歩み寄り、右手を差し出したのです。
「お前のおかげで小鈴に友達ができたんだってな。オレは太助ってんだ」
 男同士仲良くしようぜ。
 多分そんな意味での握手だったのでしょう。
「‥‥俺は左利きだ」
 でも正太郎は素直に手を出しませんでした。嘘までついたのは、太助お兄さんの左腕に小鈴がしがみついていたからでしょう。
 そしてその意図は太助お兄さんにも伝わったようで‥‥ニッ、と好戦的に唇を上向かせました。
「かまわないさ。オレは両利きだ」
 離れるよう小鈴に告げ、改めて左手を差し出すお兄さん。なんと紳士的なのでしょう。
 一方、正太郎はというと、太助お兄さんの手を左手で握った途端、ぎゅうううううううっと握り締めたのです。
 周囲で驚く仲間達。ところが悲しいかな、左利きが嘘だった正太郎では左手に渾身の力をこめることができません。対して、太助お兄さんの言葉は真実だったものだから――正太郎玉砕、太助お兄さん圧勝。

「このまま黙って引き下がれるか! 絶対にぎゃふんと言わせてやるっ!!」
「そうだよねー、とられたままだもんね、小鈴」
「あいつは関係ないってさっきからっ」
「はいはい、色々負けちゃったから悔しいだけだよね? 色々とー」
「お前らああああ!!!」
「そんなあなたに冒険者ギルド♪ ――冒険者に鍛えてもらってから、再戦を申し込めば?」

 ◆

 そんなわけで漢の意地(と小鈴)をかけた戦いの火蓋が切って落とされてしまったので、手伝ってあげてください。

●今回の参加者

 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3668 テラー・アスモレス(37歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5094 コンルレラ(24歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb9508 小鳥遊 郭之丞(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 和泉 みなも(eb3834

●リプレイ本文

●大樹の足元で
「でけえ!!!!」
 あんぐりと口を開け、正太郎や取り巻き少年達は、首が痛くなるほどそれを見上げました。ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)お兄さんのおうちで飼われて(?)いる、トレントのヂェーリヴァです。長屋の狭い庭から広い空き地に移されたことでのびのびと枝葉を風にそよがせるヂェリーヴァは、ジェシュファお兄さんが言うには喜んでいるのだそうです。
「‥‥よ、よかった、でござる‥‥それだけでも‥‥はこん、だ‥‥かいが‥‥」
「僕もうダメ‥‥腕が‥‥腰が‥‥足が‥‥」
「白王‥‥碧王‥‥大丈夫、か‥‥」
 男の子達の興奮し大騒ぎする横で、うめきながら横たわる三名と二頭は、さながら死屍累々といった様子。神殿騎士としての鍛錬を積んでいるテラー・アスモレス(eb3668)お兄さんはまだ口角を上向ける余裕が残っているようですが、テラーお兄さんほど力のないコンルレラ(eb5094)お兄さんはもはや息も絶え絶え。群雲龍之介(ea0988)お兄さんも愛馬を気にかけて手を伸ばすものの、その愛馬は当然ぐったり。特に荷運びのための種ではない碧王が可哀想なことに。
 鈴乃屋に無理を言って荷車を借りてきたまではよかったのですが、ヂェリーヴァの重さがみんなの予想をはるか遠くまで突き抜けるくらいに上回っていたのでした。荷車も後で修理が必要かもしれません。
「で、これが何か関係あんのか?」
 ひとしきり盛り上がって気が済んだら、ようやく本題の始まりです。正太郎が尋ねると、ジェシュファお兄さんはあっけらかんとした笑顔で「もちろん♪」と答えました。
「といっても、必ずとは限らないけどね」
「おいら達がいくつか勝負の方法の案を出すから、その中から三つをくじで選んで、二本先取したほうの勝ちなのだー」
 玄間北斗(eb2905)お兄さんものほほんとした口調と表情で、ジェシュファお兄さんの言葉につけたしをします。
 でも‥‥くじで選ぶということはつまり、何で勝負をするのか、いざその時が来るまでは誰にもわからないということ。
 自分が勝てる算段をたててくれるのだと思っていた正太郎は反発しました。短期間の訓練で年上に勝たなくてはいけないのに、なぜそんな勝率が下がるようなことをしなければならないのか、と。そもそも喧嘩に自信のある正太郎ですから、自分の腕に冒険者が実践でも通用する武術を教えてくれたなら怖いものなし、と踏んでいたのです。
「ふむ‥‥勝てれば何でも良いと言うのは少々感心せんな‥‥」
 こちらも何とかひと心地のついた龍之介お兄さんが片眉を上げました。
「誰も卑怯なことするとは言ってないだろ」
「いや、自分だけが万全を期すというのはどうかという話でござるよ」
 テラーお兄さんも渋い顔。一応「正面からの」戦いをするのだからいいじゃないか、と言う正太郎には困ったものです。色々と負けてしまっている悔しさからか、物事を正確に判断できなくなっているのかもしれません。子供らしいと言えば子供らしいのですが‥‥。
「『気に入らない奴に突っかかるなら自分の得意なものじゃ駄目だ。相手の得意なもので真正面から打ち負かしてやるのが最高に気持ちがいいんだよ』」
 ぶすっと頬を膨らませていた正太郎ですが、ジェシュファお兄さんの言葉に、はじかれたようにお兄さんの目を見ました。
「‥‥これはね、僕の幼馴染がよく言ってたことなんだ。僕が15〜6歳頃のガキ大将の人なんだけどさ」
「そっか、自信持ってることで負けたほうがきついもんな‥‥。よし、それイタダキだ」
 なんというたきつけ。なんという単純思考。
 周囲で見守る冒険者だけでなく、取り巻き少年達ですら自分達の大将に一抹の不安を抱きましたが、そこもひっくるめて正太郎のよさでもあるわけです。しょうがないなぁと顔を見合わせ、肩をすくめたのでした。

●八歳児の訓練
「よいか、正太郎。おぬしが己を鍛えたいという志を持ったのは嬉しいが、強さとは日々弛まず精進に励み‥‥」
「そんなのんびりしてたら、あいつがまた江戸を離れちまうだろうが。俺は今勝ちたいんだよ、今!!」
 正太郎とは既に見知った仲である小鳥遊郭之丞(eb9508)お姉さんが諭しても、やっぱりと言うか何と言うか、正太郎は聞く耳を持ちません。いいから早く教えろ、の一点張りです。郭之丞お姉さんのおでこに青筋が浮かぶのも仕方ありません。
 でもそこはお姉さんですから、叱り飛ばしたくなるのをぐっとこらえて、用意してきた木刀を正太郎に渡します。
「真剣ほどではないが、手に重みを感じるだろう。これから教える型を乱すことなくその重みを扱えるようになれたなら、相手に強力な一撃をくらわせることができよう」
「ふーん? けど、言うほどの重さでもないぜ?」
 木刀を持てたことが嬉しいのか素振りを始める正太郎。とにかく思い切り振り下ろすその様子に、郭之丞お姉さんは型を教えるのをちょっと待ってみました。
 ――しばらくして。
「どうした。肩で息をしているようだが」
「‥‥う、うる‥‥さいっ‥‥」
 正太郎はまるで杖のように木刀の先を地面につけ、ぜいぜいと辛そうな呼吸音を漏らすようになっていました。
「わかっただろう。ただ力任せに動いても己の体力を無駄に消費するだけだ。格下を相手取るならそれでもよいかも知れぬが、此度はそうではないからな」
 ぎり、と正太郎が奥歯を噛み締めているらしいことは、郭之丞お姉さんにも伝わりました。厳しいことを言った自覚もあるけれど、それを消化しうるだけの器は持っているはず‥‥そう考えたお姉さんは、場を和ませるのもよかろうと、咳払いをひとつしました。
「正太郎はいつも私の事を『おまえ』や『あんた』などと呼ぶがな。仮にも師事を請う事になったのだから、せめて‥‥か、郭之丞お姉さんとかだな」
「‥‥は?」
「い、いや、剣の道とは礼に入って礼に終るもの故、目上の者に対する礼儀というか‥‥そう呼ばれてみたいわけではないが!」
「おーい、食事を持ってきたぞー!」
 龍之介お兄さんがコンルレラお兄さんに手伝ってもらいながらお鍋やおひつを運んできました。栄養管理のためにと龍之介お兄さんが腕によりをかけて作ってくれたものです。
 食いしん坊の正太郎は一目散にご飯のもとへ。広げられた茣蓙に場所を確保し、大盛りを要求しています。耳まで真っ赤にしながらそれでも声に出してみた郭之丞お姉さんでしたが、悲しいかな、ご飯に負けたのです。
「‥‥どんまい‥‥」
 お友達である瀬崎鐶(ec0097)に肩を叩かれ、切なさと悔しさと恥ずかしさでうなだれる郭之丞お姉さんでありました。

 その鐶お姉さんに誘われて、食後は水辺の砂地までひとっ走り。到着したら、あっちからこっちまでを数往復。
 整備された道と砂浜とでは走りやすさが段違いだったため、程なくして正太郎は脇腹を押さえながら走るようになっていました。ですが鐶お姉さんから休憩するように言われても聞きません。同じ時間にお昼を食べて同じ距離を走っている鐶お姉さんは辛そうにしていないからです。
「‥‥無理に続けても、体によくないよ」
「時間が、ないんだから‥‥やるしかないだろ‥‥」
「‥‥‥‥そう、時間がない。体調を崩したり、怪我したりしても‥‥また調子を整えるだけの、余裕はないかもしれない‥‥」
 正太郎が転びました。そしてすぐに咳き込んだので、鐶お姉さんが背中をさすってあげます。まだまだ小さい、子供の背中です。汗で体中に張り付いた砂も落としてあげました。目尻に涙が浮かんでいるような気がしましたが、鐶お姉さんも他の皆も、気づかない振りを貫きました。

 夕方。揺れる水面を、膝を抱えて眺める正太郎がいました。誰が行くかとお兄さんお姉さん達が視線で会話をするなか、さっさと近づいていったのは御陰桜(eb4757)お姉さんでした。
「正太郎ちゃんは、どうして勝負シたいって思ったの?」
 残念ながら正太郎は桜お姉さんに目もくれませんでしたが、桜お姉さんは全然気にしません。
「太助ちゃんが小鈴ちゃんと仲良くお話シてたから、ヤキモチ妬いちゃったってコトよね?」
「‥‥違ぇっつってんだろ。どいつもこいつも‥‥」
 痛い所を突かれたら反応してしまうのも、桜お姉さんには可愛く思えるくらいでした。
 有無を言わせず隣に座って、同じ姿勢をとってから、正太郎の頭をなでなで。いつもの正太郎ならすぐに手を跳ね除けたでしょうけど、この時は大人しく、されるがままになっていました。
「頑張ってるのはちゃんと伝わるものだから、あたしは、勝ち負けよりも全力を出せたかって方が大事だと思うわよ?」
 お姉さんはゆっくり、何度も、撫でました。正太郎が再び口を閉ざしても、暗くなっておうちに帰る頃合になるまで、ずぅっと。

 次の日からも走り込みをしましたが、正太郎が無茶な走りをすることはありませんでした。
 走りこみの後は、砂地であることを利用して、お相撲の稽古です。龍之介お兄さんやテラーお兄さんとがっぷり組み合い、足腰や力の入れどころを学びます。稽古の始まりと終わりにはきちんと礼もします。
 でも結局、正太郎が一番精を出したのは、剣術の稽古でした。無駄に木刀を振ることも回を重ねるごとに少なくなり、折角の攻撃を郭之丞お姉さんにいなされた後も足元をすくわれなくなっていきました。相撲のおかげでしっかり踏ん張れるようになったのと、コンルレラお兄さんが教えてくれた回避術でお姉さんの動きに体が追いつくようになったのが、とても大きいようでした。
 訓練のできる最終日にもなると、長時間打ち合っていてもなかなか息が上がらないようにまでなりました。様子を見に来た取り巻き達が思わずため息を漏らすほど、綺麗な動きになっていたのです。文句や軽口を言うこともありません。皆が教えてくれるすべてのことを、少しも漏らさずに吸収しようとしていました。
 だからといって勝てるかどうかは、わかりません。何せくじ引きですし。
 とはいえ――
「いよっしゃああ! 郭之丞に土つけたーっ!」
 純粋に成長している少年の姿に、例え勝てなかったとしても自分達が伝えたかったことはきっと彼の助けになると、誰もが信じていました。
「こう動いたときに一瞬だけ、ここに隙ができるんだよな」
「‥‥手加減とは難しいものだな」
 慣れない手加減をしたせいだと言う郭之丞お姉さんですが、そういうのを抜きにしても、八歳児が手練れ相手に土をつけたのだからたいしたものです。
「のほほん大福のおかげだな。あの訓練、マジで日向ぼっこしてるだけかと思ったけど、流れがわかるっていうかさ」
「大福じゃないのだー‥‥。でも、役に立ったのなら嬉しいのだ」
 心を穏やかに保ちながら、周囲に気を配り、動きを予測する。と言うとなんかすごそうですが、一見すると縁側であぐらをかきながら寝ないようにしていただけだったり。けれどやっぱり難しいんです、緩みながら張り詰めなくてはならないんですから。

「太助君は射撃が得意なんだってね」
 旅芸人一座のテントがある場所はすぐにわかりました。コンルレラお兄さんはひとりで太助お兄さんに会いに行ったのです。
 ちょうど小刀投げの練習中で、コンルレラお兄さんが顔を出した直後に、数本の小刀が的へ一斉に着弾。お兄さんは思わず拍手していました。
「本当に上手なんだねえ。僕も今、弓だけど鍛錬しているところなんだよ」
「えーと‥‥何か用?」
 コンルレラお兄さんはまだ喋りたかったのですが、太助お兄さんのお仕事の邪魔をしてはいけません。用事を済ませることにしました。
「‥‥果たし状!?」
「来てあげてね。正太郎君、真剣なんだよ」
 邪魔をしてはいけないとそのまま帰ってしまったので、返事を聞くのを忘れてしまったのでした。断らないだろうと予測がついていたのかもしれません。

●そして
「木登り勝負、太助の勝ち!」
 審判をしている龍之介お兄さんの声が高らかに響きます。軽快な動きでヂェーリヴァから降りてきた太助お兄さんとは反対に、正太郎は半ばほどで枝に助けられていました。焦って上ろうとして滑り落ちたのです。格好悪い姿で、子供なら笑うだろう状況でしたが、応援に来ている子供たちの誰一人として正太郎を笑いはしませんでした。
「‥‥心配しなくても、大丈夫だよ」
 桜お姉さんに連れてこられた小鈴が眉を八の字にしているのを見て、鐶お姉さんが微笑みかけてくれました。
 小鈴は太助お兄さんと正太郎をどきどきしながら見守っていましたが、そのどきどきがどういう意味を持つのかがまだわからず、「二人にどう思われるか気にならない?」という桜お姉さんの問いも意味がわかりません。初恋は経験してもそれが初恋かどうか自覚できるのは、大抵しばらく経ってからだったりするのです。
「旗とり勝負、正太郎の勝ち!」
 身軽さでは太助お兄さんのほうが上でしたが、足腰は重点的に鍛えたこともあって、正太郎のほうが上でした。
「痛くないのか?」
「ん?」
 正太郎が取り巻き少年の示した先を見ると、旗に飛びつく際に擦ったのか、膝に血が滲んでいました。
 双方を応援してあげてほしいと言われながらどちらも応援できずにいた小鈴も、この時ばかりは手ぬぐいを取り出して、手際よく正太郎の膝に巻いてあげました。
 嫌がるか盛大に照れるかと思われた正太郎ですが、「ありがとな」とお礼だけ告げると、最後の勝負に向かったのです。

 最後の勝負‥‥それは、石投げです。水辺に移動し、適当な大きさの石を見繕っての、一投のみ。どう考えても太助お兄さんの得意分野なのに、正太郎は楽しそうに笑っていました。太助お兄さんも、笑っていました。
 ふたりは同時に石を投げました。石は水面に輪を作りながら跳ねていく――と思いきや。正太郎の投げた石に太助お兄さんの投げた石がぶつかったのです。二人は十分に離れてから投げたはずなので、太助お兄さんが狙ったのでしょう。
 数日前の正太郎が投げた石なら容易くはじかれてしまい、太助お兄さんの総合勝利が確定していたところですが、訓練をこなした正太郎の投げた石には根性がありました。太助お兄さんの石をはじき返したのです。
 勢いがそがれたので飛距離は伸びなかったものの、正太郎の勝ちは勝ち。子供達は年上に見事勝利をおさめた大将に歓声をあげました。しかし、一番喜んで騒ぎそうな正太郎は、笑ったまま、右手を太助お兄さんに差し出しました。太助お兄さんもそれに応えて右手を出し、笑って握手を交わしたのです。
「(‥‥男の子って馬鹿だよね)」
 こういうのは嫌いじゃないけど、と心中で呟く鐶お姉さん。他のお兄さんお姉さんも同じ気持ちかもしれません。
 一方、小鈴だけは理解が追いつかない様子でした。でも北斗お兄さんが「もう大丈夫なのだ」と教えてあげると、ほにゃっと笑って、頭を下げました。