このナマモノ危険物につき

■ショートシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月11日〜10月16日

リプレイ公開日:2006年10月21日

●オープニング

「ということで、依頼自体は私から引き続きお願いしたいと思います。少々、内容に追加もありますが」
 ギルド員に依頼について話しているのはキエフ月道管理のイザーク・リヴァノフ。彼がこのギルドを訪れることは滅多に無いのだが、この日は珍しく姿を現した。
 イザークがギルドへ掲示を頼んだ依頼というのは、本当は別の依頼者がいた依頼だった。内容はグレイベアの退治。グレイベアといえば縄張りを荒した物には容赦なく襲い掛かる非常に凶暴な大型の熊である。爪の鋭さも脅威であるが問題は何よりその馬鹿力。その腕力は腕で思い切りぶん殴られるより爪で裂かれた方がまだマシと言えるほど。そのグレイベアがある商人の屋敷の中で暴れているから退治してくれというのが元の依頼。
 何故、森の中に縄張りを持つグレイベアが街中、それも家の中で暴れているのか。
 その原因は屋敷の持ち主である商人にあった。その商人は暗黒の森からモンスターを生け捕りにしてきては好事家に売るということをしていたのだ。グレイベアなど買う奴がいるのかどうかは不明だが、この商人が仕入れたのだから買い手はいるのだろう。で、グレイベアを捕まえてきたまではよかったが管理に不手際大脱走、屋敷内で大暴れ。手に負えないと判断した商人の部下がギルドに依頼を持ち込んだ。
 そして、イザークがこの依頼を引き継いだ理由というのが。
「このグレイベアの買い手が国外にいるというのですから問題です。これをただの積荷と言い張って月道を通ろうと考えていたのですからね」
 そう。さすがに凶暴な生き物を国外輸出して向こうで大暴れ、などとなったら大問題である。そうでなくてもそんなもの月道を通さない。だが現にそれを実行しようとしたということは。
「過去にやった経験がある可能性があるってことですね」
「そうです。ですから、関係者にはしっかりと事情を聞かなければいけません」
 ギルドに依頼を持ち込んだ男は既にしょっ引かれた。が、それでグレイベアが大人しくなることは無い。
「依頼内容はまずグレイベアの退治です。何が何でも屋敷から出してはなりません。加えて関係者の確保も頼みたいですが、顔も特徴も分かりませんので、道中や退治中に不審な人物がいたらその連絡だけ頂ければ結構です」

●今回の参加者

 ea9563 チルレル・セゼル(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb5624 ミランダ・アリエーテ(45歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb5646 リョウ・アスカ(33歳・♂・エル・レオン・ジャイアント・ロシア王国)
 eb5874 リディア・ヴィクトーリヤ(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb6622 アリアス・アスヴァール(19歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb6842 ルル・ルフェ(20歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb7677 ウツロ・カタナシ(19歳・♂・レンジャー・シフール・エジプト)
 eb7693 フォン・イエツェラー(20歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7723 ブラッディ・マリー(31歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

 事前に予想していたよりも対面は早かった。
 屋敷の正面玄関から突入した冒険者一行は、玄関ホールにて一頭目のグレイベアと遭遇した。先立ってのウツロ・カタナシ(eb7677)の屋敷周囲からの偵察で厨房に一頭を確認、リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)のインフラビジョンでリビングにいるもう一頭も確認できていたが、冒険者たちが情報を共有し準備をしてから突入するまでの間にどちらかの一頭が移動したようだ。なお、リディアがグレイベアの位置に加え探していたグレイベア以外の熱源の存在については確認されなかった。密輸入の容疑者などは屋敷内にはいないようだった。
「さすがにでかいな‥‥」
 部屋の対角にいながらにその巨体でこちらを威嚇するグレイベア。それを見てリョウ・アスカ(eb5646)が言う。ジャイアントである彼の上にシフールのウツロを乗せても足りないくらいの大きさ。目立つという意味だけでの大きさならリディアも相当なのだが。色んな意味で。
「前衛の方々はもうちょっと待っててくれるかな? 一緒に焼肉にしちゃうよ」
 チルレル・セゼル(ea9563)が前列に出て呪文の詠唱を開始する。炎の精霊魔法、ファイヤーボム。爆発力が大きく巻き添えを食う可能性のあるこの魔法は保存食を餌に狭い部屋からホールへとおびき出してからと考えていたが、始めからいてくれるなら手間がかからなくて大いに結構。
 突き出した掌から撃ち出される火球。それは狙い過たずグレイベアを捉えると、その姿を炎と煙、砂埃の中に消し去った。しかし。
 少しして薄くなった煙の中に殆ど姿勢を変えず居るグレイベア。その目が完全にチルレルたちを敵として認識しギラリと光る。すぐさま魔術師たちの前に飛び出るミランダ・アリエーテ(eb5624)とフォン・イエツェラー(eb7693)。リョウを加えた三人がグレイベアと真っ向から打ち合う前衛組。
 巨体からは想像もつかない速さで接近してくるグレイベア。それが目の前へと到達する前にフォンの横を高速で何かが通過していく。アリアス・アスヴァール(eb6622)の放ったウォーターボムの魔法だ。高速の水球はグレイベアの顔面に直撃するが、しかしグレイベアは止まらない。
 ぐおん、という音が聞こえそうなほどの勢いで振り下ろされる腕。まともに受けては衝撃で潰されかねないとミランダは思い切り屈んでそれをかわし、出来た隙にフォンが横腹に一撃を見舞う。人間とは比べ物にならないほど硬い皮膚に阻まれながらも、剣はベアの毛皮の奥から血液を噴き出させる。
 ミランダに振り下ろしたのとは別の腕を振り回し、自らの敵を遠ざけようとするグレイベア。生まれた死角に潜む凶器。
「聞かせてやろう地獄の子守唄‥‥なんちて」
 軽口を叩きながらも表情に油断は無く、リョウの全力でのスマッシュがグレイベアを襲う。名剣と呼ばれる彼の剣はグレイベアの胴体は逃したものの片腕を一撃で斬り飛ばす。肩口から大量の血液を噴き出させながらよろめくグレイベアは、2、3歩そのままの体勢で後退りした後、向きを変えて逃走体勢に入る。
 道中でバッタリ会っただけの相手ならここで終わりだが、依頼内容上見逃すわけにはいかない。グレイベアとしては無理矢理にここに連れてこられ大怪我をさせられているだけ、罪など欠片も無いのだが、そこは仕事である。
 出血の状況からそのまま放っておいても勝手に倒れそうなグレイベアだったが、小走り数歩で追いついたリョウの一撃で止めがさされた。
 ルル・ルフェ(eb6842)が倒れたグレイベアの傍らに片膝をつき冥福を祈ろうとしたが、それを周囲を警戒していたアリアスが止めた。依頼を完遂するのが先決、祈るのはそれからでいい。
 ホールで突然遭遇したこのグレイベアは、何故襲い掛かるより先に威嚇という動作をとったのだろう。突如現れた相手が敵かどうか、確かめようとしたのではなかろうか。怪我をして逃げようとしたのは、自分を害しようとした相手に怯えていたのではないだろうか。グレイベアの生態は多少は分かっても心のうちまで知ることは出来ない、ルルは心を痛めつつも一度その場を離れる。

 ・ ・ ・

 香ばしい匂いがしていた。
 一頭目のグレイベアに放ったファイヤーボム、その炎が燃え移ったカーテンを利用してチルレルやリディアの持ってきた保存食を軽く炙っているのだ。味を良くするよりも、食べ物の匂いを放たせることが目的。これを使ってもう一頭のグレイベアを誘導する作戦である。ちなみに、もう一頭は現在リビングにいることをリディアが確認している。
 事前に屋敷についての情報を多く仕入れていたアリアスは、ファイヤーボムでの自爆を避けるのなら玄関ホールか南側の庭しかないと皆に伝えている。グレイベアの血の臭い漂う玄関ホールにのこのこやって来るとは考えにくいため、南側の庭へ誘導することに決定した。
 厨房から外に出ると、迎撃態勢を整え。リビングから外に出るための順路をルルから確認したウツロが保存食を配置しつつ、自分も一つだけ抱えて飛んでいく。
 暫らくして。厨房の小さな扉に体当たりをするような形でグレイベアが飛び出してくる。肩口などに2本ウツロの投げたダーツが刺さってはいるが、効いている様子は無い。ウツロ自身は厨房の別の窓から脱出する。
 充分な広さのある屋外。容赦はいらなかった。ベアが冒険者たちを視界に捕らえると同時に、飛来する二つの炎弾。チルレルとリディアのファイヤーボム。着弾後、アリアスのウォーターボムが直撃する。時間と余裕があれば燃え移った炎での多少の追加ダメージを期待したいところだが、生憎彼我の距離がたいして離れていない現状、水弾での消火は見逃さなければならない。
 怒り狂い走り寄ってくるグレイベアに、再度の魔法攻撃が加えられる。だがそれも突撃の勢いを緩めることは出来ず。思い切り勢いの乗ったグレイベアの攻撃を、リョウが盾で受ける。強烈な衝撃。さらに。もう一撃、残った片方の腕の攻撃がリョウを襲う。その一撃はリョウの背後に回る。
 ベアハッグ。グレイベアに抱え込まれたような状態。両の腕の強烈な締め付けがリョウを襲う。
 メキリ、と全身の骨が軋む。武器を握る手に力が入らず、自身の全力を体の外側に向けて圧し折られないようにするので精一杯だった。味方の怪我には即座に、早めに回復しようとルルは考えていたが、今の状態ではリョウに近寄ることが出来ない。同様に、魔術師たちも魔法での援護・攻撃が出来ない。ウツロのダーツも、比較的防御力の低そうな部位を狙って放っても何とか刺さる程度。リョウを助ける手段にはなりそうに無い。
 ミランダとフォンは、万一の間違いも無いようにグレイベアの背後に回ると攻撃を仕掛ける。ベアがリョウを抱え込んでいるうちは他の攻撃に対しては無防備だ。リョウが自らの力で脱出できるよう、肩部などを狙って攻撃を続ける。
 次第に、流れ出る血液が芝を染めていく。弱まった圧力にリョウは残っていた全力で腕から脱出すると、転がるようにベアから離れる。グレイベアへの警戒は緩めずに、ルルが走り寄って詠唱を始める。
 グレイベアは勝ち目が無いと判断したのか、周囲をぐるり見渡すと庭の一辺へ向かって駆け出す。庭は簡素な塀で囲まれてはいたが、グレイベアの力を持ってすれば簡単に破壊出来そうなものだった。そして塀の向こう側にはすぐ一般市民の歩く街道がある。人払いがされているとはいえ、万一の危険はある。
 何とかして止めなければ、とフォンが走り、ついでミランダも追いかける。炎の魔術師たちは攻撃をしてはベア逃亡の手助けになってしまう可能性があるため手を出せず、アリアスのウォーターボムが数発、風を切り裂いてベアの背部に撃ち込まれる。背後からの衝撃に地に倒れるグレイベア。追いつく二人。
 既に満身創痍のグレイベアの攻撃は狙いが定まらず、二人の剣士の敵ではなかった。追い縋ってきた敵の対処に戦闘意志を見せたものの再び逃走を選んだグレイベアは、最終的にその巨体で塀を押し倒すようにして倒れその命を散らした。

 ・ ・ ・

 グレイベアの死体の始末や壊れた塀、屋敷内の調査など、後の始末はイザークが請け負った。怪我の治療や排除終了の報告をしている間、アリアスやウツロなどが屋敷の中に事件解決の手がかりとなるものが無いか探してみたが、目ぼしい物は見つけられなかった。あとはこういった仕事のプロに任せるしかない。
 これだけの事件を起こした犯人、きっとどこかで見ているはず。とルルは屋敷の付近をざっと捜してみたが、やはり簡単に見つかるはずも無く。ふんづかまえてギュー! は実現しなかった。代わりに可哀想なベアに対する不適切発言としてこの熊はマズそう発言のリョウがギューされることに。
「しかし、このような危険な生き物をどのような目的で購入するのでしょう?」
 フォンの疑問に、好事家が同じ嗜好を持った者などに見せびらかすために買ったりするのでしょう、とイザークが答えた。
(「あるいは‥‥」)
 何か、こういった生物を使って事を起こしたい者がいるか。
 この事件に関しては、判明している関係各所への調査を中心にこれからも捜査が続けられる。