サルのいる旅路
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■ショートシナリオ
担当:香月ショウコ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月28日〜11月02日
リプレイ公開日:2006年11月04日
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●オープニング
ロシア王国に広がる暗黒の森。そこへ楔を打ち込むかのように開拓し村を作り、営みを広げる開拓民たち。自分たちの住居に使う材木は自分たちで切り出し、食料は自給自足。街の雑踏のような騒がしさは無く静かな生活。
しかし、そんな彼らにも色々な悩みや困難がある。
「大事な商売相手でね、信頼関係に多少のひびも入れたくないのさ」
冒険者ギルドにて、青いバンダナを巻いたギルド員に話しているのは壮年の男性。キエフに比較的近い村々へ物を運び、対価を得たり、或いは代わりに仕入れた物をキエフで売ったりして生計を立てている商人だ。
商人がギルドへ依頼しているのは、荷馬車で片道1日半の小さな開拓村への旅路の護衛だった。その開拓村は、夏が過ぎ動物たちがあまり森の中で見かけられなくなってくると食料に悩む村だった。規模が小さく、冬の蓄えの分まで作っておくことが困難なのだった。商人はこの時期に保存の利く食料をその村へ持って行き、売っていた。これまでは。
今年、例年通りに村へ荷馬車を走らせていると、商人はとある集団から襲撃を受けた。その時は早めに気付いて引き返したおかげで被害は少なかったが、これでは村へ向かうことが出来ない。
「それで、襲撃してきた集団というのは」
ギルド員が詳細を尋ねる。
「白い猿だ、それも相当デカい」
白い巨大な猿といえば、サスカッチだろう。一頭のボスの下数匹の群れで行動し、太い木の枝やその外拾ったものなどで武装していることもある獣。
「村までは片道1日半だが、それは途中で休まずに走り続ければの話だ。途中で馬を休ませたりしていれば2日ちょっとかかる」
道中何らかの対策を講じて突っ走り続けて抜けるか、途中に大猿たちに襲撃の好機を与えるが休憩を挟むか。その選択については冒険者たちに一任するという。
そして。
「一応、護衛は行きと帰り両方頼みたい。帰りの荷物に奴らの欲しそうな物は無いが、そうと知らず襲ってくるかも知れん。行きで全ての大猿を退治できるとも限らんから、念には念を入れたい」
ちなみに荷馬車に詰まれる荷物は、往路は保存食や油など。復路は‥‥
「ジャパンの品の真似をして造ったものらしいが‥‥埴輪とかいう焼き物だ。あんなヘンテコなのが、売れるところには売れるんだよ。不思議なことに」
●リプレイ本文
荷馬車はまっすぐに進み続けていた。並足で人の小走りほどの速さで走る荷馬車の荷台の上は、たまに小さな石を踏みつけたりして不規則にゴトゴトと揺れる。
道中で休憩は取らず、森を一気に突き抜けることになった。依頼人である商人は森の入り口あたりで一度荷馬車を止め馬を休ませると、そこからはノンストップで手綱を握る。
荷馬車にはある程度の人数は乗れるようにとそこそこの余裕が予め用意されていたが、護衛の冒険者は4名、しかも1人は自分の馬に乗っての並走と馬車馬に優しい仕様となっており、荷台の上の冒険者達と馬車馬は想定よりかなり楽な姿勢で仕事が出来ていた。
太陽が空の高いところに浮かんでいる間は、主にイコロ(eb5685)が周囲を見ていた。サスカッチが現れた場合サンレーザーの魔法での迎撃を考えているが、それは太陽が出ているときでなければ使用できないためだ。また猟師としての多少の覚えもある彼女は、大型の動物が潜んでいそうな場所を見つけだし、特に注意して観察していた。
イコロと共に荷馬車の上で起きているのはエファ・ブルームハルト(eb5292)。愛用の弓の手入れをしながら、鼻歌を歌っている。その傍らでは見張りの交代要員としてレイア・アローネ(eb8106)が仮眠をとっている。
行きの行程も3分の1ほどが過ぎ、日が沈もうかという頃。それまで何事も無く進んでいた馬車の旅を一瞬の緊張が襲った。
少しの身動ぎをして、眠っていたレイアが目を開けた。その瞳には緊張の色が薄く入って。同時に、イコロとエファも不自然な木の枝葉の動きに気付く。
ガサリ、ガサガサ、と木の枝の揺れが大きくなり、頭上から何か大きなものが幾つか降ってきた。その音は自らの馬を駆り荷馬車の先導をしていたユーリィ・ラージン(eb6674)の耳にもさすがに届き、ユーリィは自分の馬の速度を落とし荷馬車に並ぶと、速度を上げるように商人に言う。
樹上から降ってきたのはやはり、白い体毛の大猿、サスカッチだった。狙っていた荷台への強襲は荷馬車が速度を上げたことによって間一髪で失敗し、3体のサスカッチは地面を走り追いかけてくる。
エファが矢を番え1体に狙いを定めている間、イコロは印を結び呪文の詠唱に入る。が、しかし。太陽は既に沈みサンレーザーの魔法は発動しない。
「もーう、何で肝心なときにっ!」
少しずつ近寄ってくるサスカッチ。しかし近づいてくれば近づいてくるほど、的は大きくなる。
「当たって!」
先頭のサスカッチに向け、エファの放った矢が奔る。それは狙い過たずサスカッチの右肩を捉え、4本の脚で走っていたサスカッチはバランスを崩し転倒する。それにぶつかってさらに後方の1体が転倒。巻き込まれまいと横に回避した1体は荷馬車との距離がどんどん開いていく。残った1体は数の上では圧倒的不利と見たか、徐々にスピードを落とし荷馬車の上の視界からは見えなくなる。
過ぎ去った襲撃の緊張が解けたか、レイアが小さく欠伸をした。
・ ・ ・
開拓村の入り口に荷馬車が現れたのは冒険者達が出発してからほぼ1日半、サスカッチの襲撃を受けてから大体1日後のことだった。ここまで不眠不休に近かった冒険者達は村の宿で泥のように眠り、商人はそれから数時間商談をした後、同じく宿へ来たらしい。
翌日、冒険者達が目を覚ましたのは昼の少し前だった。手早く食事を済ませ商人の荷馬車のもとへ行くと、丁度荷台へ荷物を積み込んでいるところだった。荷台には幾つかの木箱が置かれ、その中は同じく木の板で碁盤状に細かく仕切られている。そしてそのひとつひとつに『それ』は入っていた。
グニャリと捩れた胴。ぎょろりとした目。人を地獄に引きずり込もうかという手つき。愚かなイキモノを嘲笑っているかのような口。『それ』は明らかに異質だった。呪われそうだった。というかこれ絶対呪物だって。
一行が言葉も無しに全く同じ感想を胸に抱いていると、昨日冒険者達を出迎えた村の老人がにこやかな笑みと共に話しかけてきた。
「どうですか、我が村の特産品は。この絶妙な胴のライン、つぶらな瞳、人を優しく包み込む手、全ての罪を許す微笑み。これはこの世界を守る神と、その神に仕える天使をイメージして作られたものなのです」
絶対に天罰が下る。『それ』を神とか天使とか言って惚れ込めるのは一種の才能だろう。もしくは、この老人は既に呪われている。
「そ、そうだね、いい物だと‥‥思うなぁ‥‥」
イコロのお人好し。
「そうでしょう! 冒険者の皆さんも、記念に一つずつ如何ですか?」
「いえ! 私達は護衛の仕事の最中なので、もし戦いがあれば割れてしまう恐れがある。いつか仕事でなく寄らせて頂いた時に、頂ければと思う」
と、丁寧な騎士然としたユーリィの言葉に、そうですかと少し残念そうな顔をしながらも老人は引き下がった。村を出発したあと彼が英雄扱いされたのは言うまでもない。
保存食料などの荷物を全て降ろし終え、代わりに呪いの焼き物一団体を積み込むと、荷馬車は出発の時を迎えた。冬も間近の夕暮れは早く、荷馬車を先導するユーリィの馬には明かりの入ったランタンが吊るされる。
冒険者達を乗せた荷馬車は呪いの焼き物の村人たちから見送りを受けながら、ゴトゴトと動き出す。
・ ・ ・
こんなにも破壊力のあるシロモノだとは思わなかった。村を出発すると、どんどんと夜の帳は下りすぐに辺りは闇に包まれた。光はユーリィの馬のランタンと、商人の傍らにある小さな灯りだけ。そんな中、荷台に乗る3人の女性達はすぐそばの『それ』が気になってしょうがなかった。
荷馬車が揺れるたび、木箱の中でゴト、ゴト。決してあの焼き物が動き出すことなど無いと分かっていても、やはり気持ち悪いものは気持ち悪い。どう誤魔化しても美化しても。あえて言おう。キモいと。
そんな「何だか木箱の中から視線を感じる気がするよ」という状況も東の空が白み始めると薄れていき、ランタンの灯りが必要なくなる頃にはすっかり普段どおりに戻っていた。少し疲れた表情をしているのは強行軍での移動だからだと思っておこう。
(「そろそろ、往路で襲撃を受けた場所だな」)
ユーリィがほんの少し馬足を速め、状況を偵察しに行く。あたりに不審な物音などは聞こえなかったが、代わりに不審な物を見つけた。
追いついてくる荷馬車に片手を挙げて止まらせるユーリィ。荷馬車が走ろうとしていた道のど真ん中には、太い木の枝が何本も放置されていた。どかそうとして、ふと思い当たる。
「サスカッチだ!」
動きの止まった荷馬車の周囲に、サスカッチたちが現れる。樹上から現れたもの2、茂みから現れたもの2、木の上で様子を見ているもの1。
レイアは荷台から飛び降りると、手近にいたサスカッチにロングソードを振るう。一歩身を引かれ深い傷は与えられなかったが、基本的な戦闘力で比較すればそれほど怖い相手ではないと判断できた。その証拠に、サスカッチの振り回す木の棒など眠っていても避けられそうだった。
レイアが荷馬車に最も近い2体を相手にしている間、エファは残りの2体と向かい合うユーリィの援護に入った。ユーリィもレイアと同じくサスカッチ程度に遅れは取らない腕の持ち主だが、襲ってくるサスカッチが今いる奴らだけでは無い可能性もある。早めに片付けて出発したい。
ユーリィのスピアが周囲に当たり前に満ちる空気の膜を貫いて奔る。何の奇跡か一発目をかわせたサスカッチだが、次の瞬間棒を振り下ろそうとした腕にずぶりと突き刺さる金属の感触。突きが外れたと見るやすぐさま手元へ引き戻し放たれた、ユーリィの疾風の二発目だった。痛みと出血による感覚の喪失で得物を取り落としたサスカッチを放り出し、次の相手に向き合うユーリィ。背後では手負いの猿が、脳天に突き刺さった矢によって地に伏した。
レイアが2体のサスカッチを捌いている間、イコロはサンレーザーでの固定砲台となっていた。群れのボスだろうと当たりをつけた樹上のサスカッチを目掛けて放ったり、レイアの援護に動いたり。さすがに一方的に撃たれ続けるのは苦痛か、群れのボスも近くの地面へと降りてくる。荷馬車へと向かってくるボスの前には既に残りも片付けたユーリィが立ち塞がって。エファの弓は今度はレイアの援護に向かっている。
いきり立って吼え襲い掛かってくるボスに、ユーリィの頭部を狙った突きが繰り出される。そこはボスたる所以か、強く地面を蹴って回避するボス。そこに、さらに一歩踏み出したユーリィの突きが連続で追い討ちをかける。
ヒュン、と飛んできた矢が、ボスの頭部を掠めていく。エファの矢のその狙いは、ユーリィの作戦を了解したが故の一撃。
「そこだっ!」
自分の頭部に向かってくる槍と矢の先端を必死で頭を庇うことでやり過ごしていたボスに、ユーリィがさらに間合いを狭める。全身の力を込めて突き降ろす槍、狙いはガードの無くなった胸部。2人の意識誘導によって腕の上がっていたボスはそれを防ぐことも、視界に捉えて回避することも出来ず、大量の血液を噴き出させて絶命した。
・ ・ ・
無事にキエフへ帰り着き、依頼を完遂した冒険者達。と、イコロが依頼人の商人に一つ尋ねた。
「そういえば、何であのお猿さん達は襲ってくるようになったのかな?」
その問いに商人は、簡単だよと前置きしてから答えた。
「生きているものは全て食べなきゃ生きていけん。あの辺りは拓かれていない森が多いから、人が作る作物も多くは望めない。自然にある木の実なんかも、この時期にはだいぶ食べ尽されてる。自分たちが生きるためにやってるんだよ」
まぁ、そりゃ俺たちにも同じことが言えるけどな。そう言って、最後に礼を述べて、商人は街の雑踏へ消えていった。呪いの焼き物一団体がこれからどこへ行くのか、それは誰も知らない。