●リプレイ本文
●ベストオブペット(BoP)0回戦
BoPの開催される日の朝。だんだんと寒くなる気候。しかしよく晴れた、澄み渡った空は人々を心地よい気分にさせて。この朝も、大きな事件も無く静かに訪れ‥‥
「こら、逃げるな力王っ!」
とても静かな‥‥
「せめてブラッシングくらい‥‥りきおー、りきおぉぉぉ!」
こんな朝が訪れた。
コンテスト会場には既に審査員と幾人かの参加者が集っていた。キーラおばさんは朝食にパンをかじり、溜め息の多いイザークを参加者の一人であるアッシュ・ロシュタイン(eb5690)が何とか盛り上げようと話しかけている。と、そこへ。
「やぁ、おはようイザーク殿。貴殿は動物は好きか?」
やってきた壬生天矢(ea0841)がポンポンとイザークの肩を叩きながら挨拶する。その肩には見事な鷲が一羽。
「私は仕事が溜まっているのですが‥‥」
「そうかそうか、動物は好きか。今日は仕事など忘れ、楽しい一日を過ごすといい」
人の話聞いちゃいねぇ。
一方では参加者同士の会話も。この場に集った、ペットを連れた人は全てライバルなのだ。この瞬間から既にライバル達の間では視線がぶつかり火花が散る。
「それにしても、今日は清々しく良い日和だな、サシャ嬢」
「そっ、そうですね、とっても良い天気‥‥こんな日に京士郎さんと一緒にお散歩できるなんて幸せ‥‥って、わたくしったら何を!」
火花、が‥‥‥‥えーと、真幌葉京士郎(ea3190)とサシャ・ラ・ファイエット(eb5300)の朝の談話です、はい。
熾烈なバトルの物語を書こうと二人の会話を盗み聞きしていたコーヅキ、首ガックシ。その傍らで、サシャの黒猫がにゃーと鳴いた。
●BoP1回戦
ずらりと居並ぶペットとその飼い主達。そのバトルがこれから始まるわけだが‥‥あれ? すいません、飼い主さんのいないペットが。
「ミー達はペットじゃないで御座る!」
磧箭(eb5634)の反論に自分たちのことを言われたのだと王寅(eb7544)もようやっと気付いて。確かに河童はロシアでは珍しいが。
「俺は飼い主だよ! 俺のペットはこの、『虎の子』だよ!」
王が両手に乗せて示したのは卵から孵化したばかりの‥‥何だろう、これ。とりあえずトカゲに見えるので暫定トカゲ。
生まれたばかりの赤ちゃんペットの愛らしさは殺人的なものがある。自分が今どういう状況にいてどうすればいいのか分からないような仕草は心をくすぐる。だが、爬虫類は爬虫類だという時点で受け付けない人もいる。評価は分かれる所なのだろう。
会場は長く長い沈黙に包まれていた。いつ、どんな恐ろしい出来事が起こるのか。それをしかと見届けようと観客は固唾を呑んで見守っている。
真幌葉のペット、小熊の力王。力王は子供らしく真幌葉や散らばっているおもちゃにじゃれついている。
会場は長く長い沈黙に包まれていた。いつ、どんな恐ろしい出来事が起こるのか。それが起こるまで観客はちょっとトイレ休憩。
会場は長く長い沈黙に包まれていた。いつ、どんな恐ろしい出来事が‥‥
「黒猫のらくちゃんです。体重は8.8キロです」
ひとまず小熊は放っておいて、サシャの黒猫らくちゃんの紹介である。
「らくちゃんは無表情ですけれど、実はとっても甘えん坊さんでいい子なんですの」
なるほど、一種のツンデレでありますな?
「寒い季節には先にベッドに入って暖めてくれるんですの」
それは、『飼い主のために先にベッドに入って暖める』のか『飼い主より先にベッドに入って暖まる』のかいったいどちらか。
「それから朝までずーっと一緒に眠るんですの。幸せですわ」
まぁ、飼い主がそう思っているのならそれは他人の突っ込む所ではあるまい。
「お集りの皆様にご覧に入れますは、遥か彼方異国の地より舞い降りた、勇猛果敢にして秀麗。彼女の持つ魅力は主の危機にはその身を賭して守り抜く従順さ。何者をも近づけさせぬ純真なる気高さ」
言葉と共に壬生の腕がすっと上げられる。その腕には大きな鷲が。
「彼女を語るに多くの言葉はいらぬ。この姿を、この瞳を、この声を聞けば全てを知る。愛しの彼女の名は‥‥『華』!」
翼を大きく広げ甲高く一声鳴く華。その眼差しは強く、ただ一点を見つめている。その視線の先には。
「ちょっと待てちょっと待て! セレネは獲物じゃないっ!!」
出番を今か今かと待ちわびていたアッシュは、突然向けられたハンターの視線から狐のセレネを守ろうと立ち塞がる。大丈夫、華はしっかり訓練されているから飼い主の指示無しでは狩りは始めない。指示がなければ、ね(ぇ
「つまり、そういうことだ」
第一競技も終わり、第二競技に移ろうとコーヅキが言おうとしたところに割り込んでくる声。そうだ、そういえばいた。小熊の力王。
「多くを語ると失われる魅力もある、今皆の前で見せた自然体のこいつの愛らしい姿、それが俺の語りたい全てだ」
きっとその半分以上を誰も見てなかったけど。
●BoP2回戦
第一競技終了後、もうせっかくなのでそのまま真幌葉の力王から第二競技に突入する。
「今だリキオー、死んだふり!」
その掛け声と共にごろりと地面に転がり身動きをしなくなる力王。ざわめく観客に向かい真幌葉が言う。
「昔から言うだろ、熊に会ったら死んだ振りをすると」
森で出会う熊が皆そうしてくれたらとっても助かるが、さすがにそこまでサービス精神旺盛ではないだろう。
「いずれ大きくなったら、力王も相撲を取ったり、白い貝殻のイヤリングを配達出来るようになるだろう」
力王の頭を優しく撫でながら、空を仰いで言う真幌葉。何も知らない女の子が見たら惚れるほどめちゃ良い顔してるんですがちょっとばかりズレている。無念。
惚れているといえば、そう、この人。
「らくちゃん♪ らくちゃん♪ らくだんす!」
らくちゃんの両脇の下を持って右へ左へ。サシャのコントロールに不承不承従うらくちゃんダンスである。
「らくだんす〜〜〜! ん〜良く出来ましちたねぇ、可愛いでちゅね〜」
とりあえず放っておきます。彼女の世界は彼女の自由です。
「なんと訓練のされたペット達で御座ろうか! ミー達も負けていられないで御座る」
力王はともかく、らくちゃんは訓練したのか? ともかく、磧のペット、犬の犬登場である。‥‥えーと、『犬』という名の犬である。ハスキー。
「ロシアの犬ぞりでNo1になること、それは世界一の犬の証で御座るっ!」
磧の取り付けた何かを引っ張って、走り回る犬。そう、それは恐怖の犬ぞり犬養成器具『重いコンダラ』である! この『重いコンダラ』を装着して『試練の道』を走ると、あっという間にキエフの星への道筋が見えてくる! ってそーゆーモンなのか?
訓練といっても多種多様。磧の犬が体力アップ訓練なら、こちらは知力アップ訓練。
「さて、先程こいつは賢いと言ったのは皆覚えていると思うが」
言ったっけ? そうそう、鷲騒ぎで皆忘れてたんだね。
「何と、こいつは計算が出来る!」
へー、とリアクション薄い観客。疑惑の目。どーせ何か合図するんでしょとか。
「別に特に裏は無いんだが、とりあえずやって見せよう。まずは小手調べ‥‥1+1の札を見せてみる」
と、2回鳴くセレネ。観客からは疎らな拍手。
「次は2−1」
すると今度は一回だけセレネは鳴く。最初よりは多めの拍手。合図らしい仕草をしていないのが分かってきたからだろうか。
「他の計算も出来るぜ。掛け算と割り算は無理だがな。一桁の足し算と引き算なら何でも来いだ!」
何度か別の計算もして見せ、観客からちゃんとした拍手を受けるアッシュとセレネ。しかしアッシュの手には物凄い汗が。
(「うまくいった‥‥必死に覚えさしたが、失敗したらどうしようと思った」)
ちゃんと餌を食べるように躾けるのもまた訓練と言える(こじつけじゃねぇの?)。王の虎の子(紛らわしい!)がチロチロと舌を出してミルクを飲む姿はなかなかに見ている者を癒させる。ただ、直前にやった、自分の口で餌を噛み砕いて口移しであげる行為には「えっ?」と思った人がそこそこいたことも付け加えておく。確かに、ペットへの愛情は感じるんだけどね。
子育ては命がけ。そう言いながらミルクを飲ませている王。それもそのはず、王は自分の頭の皿にミルクを入れて飲ませている。画になるかもとやっているが、河童について多少知識のある人は戦々恐々である。いつ王がぶっ倒れるか分かったものじゃない。全く、こんなどうでも良さげなコンテストで死者が出てもらっては困る。
死者といえば。
「そらっ! キャッチしろ、華!」
壬生は思いっきり空へリンゴをブン投げると、それに向かって華を飛び立たせる。華は空中で見事にリンゴを掴むと、今度は壬生が示した場所へピンポイントでリンゴを落とさせる。これには観客からも驚きの声があがり。
「華、二個目だ!」
もう一度空へリンゴを投げ上げる。華はそれもまたキャッチして。
(「あとはこのままイザークの手元に落とせば点数アップ‥‥か?」)
壬生の企みを知っているのか、華は審査員席にリンゴを放つ。
「うぐほァ!?」
瞬間的に回避したイザークの代わりに、やはりというか何と言うか被弾するコーヅキ。落下してくる物は高い所から落ちてくれば落ちてくるほど速度と威力が増す。
キーラおばさん、冥福を祈るのはまだ早いです。
●BoP3回戦
3回戦は他人のペット褒め勝負だが、飼い主達は皆困った。他の参加者達が連れてきたペット全てが素晴らしく甲乙付け難かったからだ。確かに、ちょっと癖のあり過ぎる飼い主達と比べればペット達は出来過ぎな子達だった。
「この艶のある黒い毛並み、しなやかな躍動感、宝石の様に澄んだ瞳、まさに生きた芸術品と呼んで過言はないだろう。飼い主の愛情の深さがわかるというものだ」
「まあ、ありがとうございます京士郎さん。リキオーくんもこんなに立派になって‥‥」
「磧箭の犬、カッコいいな。この丸い瞳とか‥‥」
「全くだ、この精悍な顔つき」
「いやぁ、褒めてもらって光栄で御座る。ユーの狐も素晴らしいで御座るよ。この金色に流れる体毛‥‥ユーも、黄色い嘴に陽光に輝く皿」
「だから俺じゃなくてこっち!」
「ほら、この艶やかな毛並みにしなやかな体躯、品の良さ」
「これこれ! 翼を広げたこの瞬間がカッコよくて」
「柔らかな肉球、毛並み。それに隠された爪、牙、凶暴性が何とも言えない‥‥」
「愛嬌のある顔だよなぁ。虎の子って事は、虎になるのか?」
えとせとら、えとせとら。
「ま、まあ、皆さん動物への愛情がたっぷりってことで宜しいんじゃないですの? おほほほほ‥‥」
審査員と観客置き去り。
いつからこの会場は動物ふれあいランドになったのだろう。
●BoP決定!
「さて、それでは色々ありましたが、ここでキエフベストオブペットを発表したいと思います! まずは準優勝を、キーラおばさん発表をお願いします!」
「発表いたします。ベストオブペット、準優勝は‥‥壬生 天矢さんの華ですわ!」
巻き上がる拍手の音。華は第一競技での大量得点をはじめ第二、第三競技でも安定した得点を稼ぎ出した。賞品としてペットになりきれる『駿馬の被り物』が贈られた。
「そして、栄えある優勝は‥‥審査委員長イザークさんお願いします」
「いつの間に委員長になったのか分かりませんが‥‥ええと、ベストオブペット優勝はアッシュ・ロシュタインさんのセレネです」
歓声と共に拍手の嵐。当人は予想していなかったのか一瞬驚いた顔をしながらも、素直に喜びの表情を見せた。第二競技で得票率トップ、第一、第三競技でもトップではないにしろどちらでも高い得点を獲得した。賞品は、つけると可愛い『子猫のミトン』。残念ながら女の子向けの賞品だったかもしれないが、しかしそれも気持ちの持ちよう。これから寒くなるキエフで、これをつけて歩けばヒーローだ!?
「そして、最後に参加賞の発表ですが、私コーヅキが発表します。貰って嬉しい参加賞、それは何と。エチゴヤ謹製保存食5コ‥‥あぁっ、痛い、物を投げないでっ! ごめんなさい、次はもっと良い参加賞用意しますからぁっ! 魔法撃たないで、矢も射らないでぇっ!!」