【粛清の冬】このナマモノ腐敗臭につき

■ショートシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 24 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月03日〜12月09日

リプレイ公開日:2006年12月14日

●オープニング

 調査は難航したが、ようやく信頼できるだけの確度のある情報を手に入れることが出来た。以前、グレイベアを箱詰めし月道を通して他国へ持ち出そうとした、手配中の男の行方が掴めたのだ。ここキエフから片道、馬車で2日ほどの位置にある小さな村。そこへ頻繁に商売に行っている商人が男とよく似た人物を見たと教えてくれた。
 調査を行うに当たり、まずその村について私は調べてみた。村の名はノモロイ村。焼き物で少し名の知れた村だという。また、奇怪な物を崇拝しているとの噂も聞くことが出来た。少し前に、冒険者ギルドにノモロイ村に関する仕事も依頼されていた。
 ギルドの報告書によると、村へ向かう道には多くサスカッチが生息しているとのことだった。おそらく、このサスカッチをどうにかするために件の男はノモロイ村へ向かったのだろうと推測される。以前のグレイベアのような事件が、またどこかで起こされるのだろうか。
 否。断じて否。そのような事件などこのイザーク・リヴァノフ、命を散らしてでも阻止してみせよう。全ては王のため、国のため、民のため。
 とはいえ、私にも任せられた仕事がある。キエフを離れるわけにはいかない。他の騎士たちも同様。ならば、冒険者に調査を託すのが最善か。

 ・ ・ ・

 冒険者ギルド。その建物の前に立った瞬間から何やら違和感があったが、依頼は可能な限り早く手配した方が良い。私はギルドへ入った。
「これはこれは、リヴァノフ卿。意外な所でお会いしましたな」
 ラスプーチン。王の信頼厚き王室顧問。あまり得意な人物ではない。
「ラスプーチン様、何ゆえ冒険者ギルドへ?」
「国家への反逆行為の疑いがある男を、捕らえて来てもらおうと。国内に広がる森から凶暴な獣を引き連れ、民を襲わせようとするダニルという商人。噂を聞いたことはおありかな?」
 噂どころではない。よく知っている。何故なら、私がこれから依頼を出し調査しようとしている男の名もまた、ダニルなのだから。
「どうやら、依頼の内容は同じようですな。同じ依頼を二つ出すのも無意味な話、一つにまとめてしまいましょう」
 そう言うと、ラスプーチンはさっさとギルドへの依頼を済ませてしまう。
「依頼主は私の名で出しておきました。リヴァノフ卿のように良い噂だけ広まっている方より、良い噂悪い噂両方が広まっている私の方が、集客は良さそうですからな」
 ただ黙って聞いているだけの私の横を通り過ぎて、ラスプーチンはギルドを出て行く。
「私はまだ幾らか公務が残っておりますから、集まった冒険者諸賢への状況説明などはリヴァノフ卿、お任せしましたぞ」
 は?

●今回の参加者

 eb5617 レドゥーク・ライヴェン(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5624 ミランダ・アリエーテ(45歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb5662 カーシャ・ライヴェン(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb6622 アリアス・アスヴァール(19歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb6674 ユーリィ・ラージン(25歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb9569 魁沼 隆生(42歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「アレは危険だ」
 キエフを出発する前、ユーリィ・ラージン(eb6674)が仲間達に重々しく述べた一言である。
「本当に、危険だ」
 村の焼き物、通称『ノモロイの悪魔』についての言葉である。彼は以前一度依頼で村を訪れたことがあり、その時の記憶と経験に基づいてのこの助言らしい。が。
「でも、特産品と言うくらいですから‥‥」
「値段と質によっては、土産に買って帰るのもいいかもしれませんね」
「そうですね」
 ミランダ・アリエーテ(eb5624)、レドゥーク・ライヴェン(eb5617)、カーシャ・ライヴェン(eb5662)が口々に言う。ダメだ、これは全く伝わっていない。
「それは、どんな焼き物だったの?」
 アリアス・アスヴァール(eb6622)の言葉に、これが危機を伝える最後のチャンスとばかり、地面にガリガリと絵を描いてみせるユーリィ。こう、全体的にぐにゃっとしてて、気持ち悪くて‥‥‥‥あまりの出来の絵に一同大爆笑。
 とにもかくにも、ノモロイ村へ出発する一行。ユーリィ以外は誰も知らない。彼の絵が下手だったんじゃない、その絵に描かれた通りのバケモノが、現実に存在するのだということを。


 ノモロイ村。そこは話に聞いて予想していた以上に小さく、静かな村だった。中央の広場を囲むように数軒の家があり、家々の向こうには立ち上る煙が見える。おそらく『ノモロイの悪魔』の焼き窯だろう。
 他の仲間より数時間早く、流れの美容師として村へ入ったミランダは、逸早く『それ』の洗礼を受けた。笑えないデザイン、などというレベルは既に軽く跳び越えて、あまりの恐怖と愉快さと不気味さにこみ上げてくる笑いを抑えるのが大変だった。しかも、抑え切れない口元の笑いを、焼き物を気に入ったのだと村人に誤解され、買わないかと誘われる始末。遅れて村に入ったカーシャが彼女を呼び、窮地を救う。
「どうですか? まだあまり時間は経っていませんが、何か聞けたことはありましたか?」
 カーシャはレドゥークと実際の夫婦である。それと、レドゥークが領地は小さいとはいえど地方領主であることを活かして、ノモロイ村の方面に来た、妻の両親の仇である熊を探しにやって来たと言って村へ入ったのだ。こんな回りくどいやり方をするのは、『ノモロイの悪魔』の影に隠れて忘れられがちだが、疑惑の商人ダニルに冒険者と知れて警戒されないようにするためである。
 レドゥークは、村に流れの美容師(ミランダ)がいるということを聞き、妻の身の周りを整えてもらおうとカーシャをミランダの元へ向かわせたのだ。もちろん、情報交換のための作戦である。ここまでは、全て計画通り。
「とりあえず、ダニルらしき商人がこの村に来ていることは確かなようです。1週間ほど前から、二人の供を連れて村に滞在していると。‥‥商売の方は、うまく行きませんね。物珍しさから人は寄ってくるんですが、散髪の依頼などはありません」
 キエフなどの大きな街ならば、理美容に従事する者は多く、また仕事を頼むものも多い。だが、地方の村となると話は少し違ってくる。村内にそういった技術を持った者がいないと、その人がいる街や村まで行くか、その人を呼んで用を済ませる。もしくは、技術が無くとも家族や知人に頼んでやってもらう。ノモロイ村は貧しい村、お金のかからない素人床屋に頼むのが慣例となっていたのだ。
「そういえば、レドゥークさんは?」
「レドゥークは、森の方へ。どうやら、本当に熊がこの近くには出るらしくて」
 思わぬ誤算だった。もう少し珍しい動物にすればよかっただろうか? まあそれでも、村の中には姿の見えないダニルを、森の中で見かけることが出来るかもしれない。そういった意味では怪我の功名と言えなくもないだろう。


 アリアスとユーリィは、ライヴェン夫妻の護衛という触れ込みで村へとやって来た。特にユーリィに関しては『以前この村へ来た』『近くに棲むサスカッチと戦った』経験があるので、不審な所は欠片も無い完璧な偽装だった。ただ、焼き物の件もあって必要以上に村へは近づかなかったが(正しい判断である)。
「それにしても酷い物ね、アレは。『ノモロイの悪魔』とはよく言ったものだわ」
 村の散策をしながらダニルについての情報を集めていたアリアスも、やはり例に漏れず焼き物の購入について尋ねられた。護衛任務で割れる危険があるから無理、というなら、今度行商が来た時に頼んで宅配もやると言ってきたのは学習した結果だろう。もう以前と同じ理由ではユーリィは断れない。まあ来春までノモロイ村に行商は来ないのだが。アリアスは「考えさせて」と帰りまで答えを保留にした。よい判断だ。帰りは闇夜に紛れていつの間にか、が理想である。
「天使だ。この村で『悪魔』などと呼んでいるのを聞かれたら、おそらく生きては帰れない」
 それは言い過ぎかもしれないけど、気持ちは分かる。
「アリアスさん、そろそろ行きましょう」
 レドゥークの声に、アリアスは立ち上がって。森の中を探索する。護衛という名目で来たからには、近くにいなければダメだろう。
 村での聞き込みは、ここからはユーリィが担当する。護衛対象のもう一人、カーシャの護衛の傍ら、オカリナを吹いて人の興味を誘い、村のことに興味がある振りをしてダニルの情報を探すのだ。
「幾らただの見回りとは言っても、気をつけて」
「あなたこそ」
 確かに。村は内外に危険が満ちている。

 ・ ・ ・

 深夜。宿は無いがそこそこ明るく温かいだろうと、村人の勧めにより焼き窯の近くにテントを張った一行は、調査1日目の情報の交換を行った。
「森の中には、やはり相当数の『何か』はいるようです。サスカッチなのか、他の小動物も紛れているのかはわかりませんが、どれも遠巻きにこちらを観察しているだけでしたね」
 レドゥークの報告である。冬、起きているサスカッチは食料も無く飢えていると思われる。にも拘らず、歩いている者がレドゥークとアリアス、村から案内でついた猟師のたった3人を襲ってこない。寧ろ、おびえているようにも感じられたという。
「グレイベアを箱詰めにしたというダニルですから、何かやらかして恐怖の目で見られているのかもしれませんね」
 アリアスは、村の出入り口をダニルらしき人物が通らないか見張ったり、パッドルワードの魔法で水溜りから情報を聞きだそうとしたが。
「もうこの時期、あるのは水溜りより雪溜りね。軽く雪かきをしておけば、明日の昼頃には‥‥って思ったけど、それじゃ遅過ぎるわね」
 ただ、ダニルの人相や服装、共にいるという二人の特徴などもうまく聞きだすことは出来た。見れば大体分かるだろう。
「何より、間違いようのない特徴を聞くことが出来ましたよ」
 言うのはミランダ。カーシャも一緒にいたので、彼女も知っているだろう。
「ダニルは、この村に滞在することを怪しまれないために、ここに買い付けで来たって村人には話してるらしいです」
「その買っている品っていうのが‥‥」
「『ノモロイの悪魔』なのか‥‥」
 信じられない気持ちも混じった、ユーリィの溜め息。とりあえず、『ノモロイの悪魔』を大量に持っている3人組が、ダニル一行ということで間違いは無さそうだ。
「ダニル達は、朝早く森へ出ては、夜遅くに村へ戻って来るんだそうだ。だから、明日の早朝から見張りについて、それの後を着いて行くのがいいだろう」
 ユーリィが得た情報で、翌日の作戦は決まった。あとは、うまくダニルを捕らえられるか。心配はそれだけである。
 いや。
 一行のテントの隣で煌々と燃える窯の炎。その中で今も悪魔が生産されていると思うと、何だかその視線を感じるようで寝苦しかった。
 翌朝、皆は口を揃えて見た悪夢を語った。押し寄せてくる『あれ』。
 統一見解。ダニルを捕縛する。そして、さっさとこの村からキエフに帰る!!

 ・ ・ ・

 村を出て行くダニル一行は、簡単に見つけられた。防寒服に帽子の普通の格好の男と、黒いローブを羽織った人物、そしてその二人の後をついて行くもう一人の男。聞いていた特徴とも合致する。彼らは村の外に停めていた、幾つか木箱の乗った荷馬車を引きつれ森の中へ。
 ダニル一行が止まった所は、森のだいぶ奥深くだった。そこには倒れ伏したサスカッチが数体と、その数体の周りをうろうろする別のサスカッチと。そのサスカッチ達も、ダニルでも黒ローブの人物でもないもう一人が何やら魔法を発動すると、1体1体ばたばたと倒れていく。眠りの魔法だろうと推測できた。あれを、木箱に投入して持ち帰るのだろうか?
「そこまでです! 商人ダニル、国家への反逆の疑いで捕縛します。言い訳はキエフですることとし、この場では大人しく縄につきなさい!」
 レドゥークが大きな声で宣言する。驚いてダニルと思われる人物がこちらを振り向き、その後黒いローブの人物の言葉に反応する。そして、ダニルやもう一人の男が何やら縋るのを振り払い、黒いローブの人物だけがその場を後にする。
「逃げる? 手っ取り早く二人を捕らえて、あいつも追いましょう!」
 駆け出すミランダに、ユーリィとレドゥークも続く。アリアスはサスカッチや敵の仲間が現れないか周囲を警戒し、カーシャは弓に矢を番えるも敵味方が同一射線上、諦めて周囲の警戒に加わる。アリアスとカーシャは魔法が使えるが、それでは手加減が出来ないと撃ち控えをしているのだ。
「くっ‥‥こ、この、あいつらをさっさと止めるんだ!」
 ダニルの言葉に従い、男が印を結ぶ。魔法行使の準備だ。幸い高速での詠唱は出来ないようだが、それでも彼我の距離はそこそこ離れている。間合いに入る前に一発はもらうことになるだろう。
 あと3歩ほどで間合いという所で、敵の詠唱が完了した。放たれたのは先程サスカッチ相手に使っていたスリープの魔法。対象は先頭を走っていたミランダ。遠のく意識、どうしようもない眠気。気持ちで必死に抵抗するも、ミランダは眠りに落ちる。
 直後。
「失礼!」
 ユーリィがミランダの横を駆け抜けざま、スピアの柄の先で強めに肩を突いていく。いかに魔法の力による眠りとはいえ、起こされれば起きる。
「依頼はダニルの捕縛ですが‥‥一応彼も連れて帰りましょうか」
 レドゥークが剣を抜く。サスカッチとの戦いを想定して持ってきたアニマルスレイヤーであるが、今はただの剣。ただの剣だが、それがレドゥークの手にあれば。
 ギン!
 スリープの男が咄嗟に懐から取り出したナイフが宙を舞う。レドゥークの振るった剣がナイフを弾き飛ばし、男の攻撃手段を奪い去った。そのままレドゥークが飛び掛り、暴れる男を拘束する。
 もう一人、ダニルは慌てて大騒ぎするだけで、武器を取るわけでも逃げるわけでもなく。‥‥こいつが、本当に国家反逆の罪を?
「ま、仕事だからな。取り押さえないわけにはいかないか」
 拍子抜けしてしまったが、ダニルの肩の関節を極め、あっさりと無力化。ダニルは足をじたばたさせるだけ。
「この、お前たち、もし私を捕まえてみろ、あの方の怒りをその身に受けることになるぞ!」
「あの方? さっきの黒いローブの人ですか?」
 レドゥークが抑えていた男を気絶させてから、ミランダがやって来る。
「ナタリア嬢か? まさか。あいつですら所詮下っ端に過ぎん、もっと恐ろしい、あの方は‥‥って、貴様ら誘導尋問とはっ!!」
 誰もしてねえよ。この男、1時間ほど放っておいたら何でも全部話してしまいそうである。
「じゃ、続きはキエフでお願いしますね。イザーク様が待ってますよ」
 ゴツン、と一撃。

 ・ ・ ・

「それにしても、気になることがたくさんあった事件だったわね」
 帰り道の一行。ダニルたちが使っていた荷馬車をそのまま流用し、積まれていた空の木箱には戦利品二人が入っている。
 アリアスの言葉に、カーシャが答える。
「そうですね。あの黒いローブの人物に、ダニルの言っていた『あの方』、そしてサスカッチ‥‥」
 あの場所にいたサスカッチたちは、半数は眠っており半数は死んでいた。魔法で眠らせて運び、街で暴れさせるのが手口だったはずだが、死体では。
「もう一つ、気になることが」
 とユーリィ。
「村人達が、私達に焼き物を買えと迫ってこなかった。アレは一体‥‥」
 ユーリィは知らない。アリアスがうまいこと断った事を。
『これじゃ、女の子が持つには大きすぎるわね、手のひらサイズの小さなものなら、女の子は好きよ☆』
 他にも、レドゥークが赤い色を好きだということをどこからか耳にしたらしい村人が、「着色だ! 着色だ!」と騒いでいたのも、アリアスは聞いている。

 この時点では、誰一人として迫る恐怖に気付いている者はいなかった。『女の子へのプレゼント』『アクセサリー的サイズ』『赤』。
 まさに、季節はピッタリである。
「新型の開発だ!」
「「「おぉぉーっ!!!」」」