陰謀の囁き 〜死者使い〜

■ショートシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月09日〜12月14日

リプレイ公開日:2006年12月20日

●オープニング

 執務室。引き出しや棚を漁ってみなければこの部屋が現在使用されているのかどうか判別がつきにくいほど片付けられたこの部屋で、二人の男が話していた。
「パーヴェル様。例の危険集団ですが、無事手配いたしました」
「そうか。しかし、あの男は信用できるのか? 出自、能力」
「問題ありません。あの方の紹介でありますので。それに、今回の仕事に関しては不死者だけでは確実性を欠くと、あの方自ら幾つか駒を動かしてくださいました」
「ならば、不安は無いな。‥‥ヴィタリー」
 深く一礼し部屋を出ようとする男を、執務室の主が呼び止めて。
「我が領内に、これまで何度かネズミが入り込んだと聞いたぞ。警備を怠るなよ」
「了解しております。全てはイグルノフ家の繁栄のために‥‥」

 ・ ・ ・

 ガタン、と扉を自らの体で押し開けるようにして入ってきたその男は、傷だらけで全身を朱に染め、ギルドに入るなり床に倒れ伏した。
「おい、大丈夫か!?」
「たす、けてく、れ‥‥」
 一言呻き意識を失いそうになるその男を何とか繋ぎ止め、偶然ギルドにやって来ていた冒険者の1人が神聖魔法を使い傷を治す。しかし、失われた血液はすぐには戻らず、起き上がることは出来ない。
「助けてくれ、仲間が‥‥」
 どこか安静に出来る場所に男を運ぼうとしていたギルド員だったが、この男がギルドへやって来た目的を察知すると、ゆっくり男を運びつつも話を聞いた。
 男が消えそうな声で語るには、彼はこのキエフからだいぶ離れたある街で、領主の施政に抵抗する組織に所属しているのだという。領主である貴族がかなりの暴君であると彼は言うが、それにしても命知らずである。
 その組織の集会中に、領主側からの襲撃を受けたのだという。組織への参加者は数十人もいるらしいが、その集会には幹部クラスの8人だけが集っていた。そこに。
「‥‥ズゥンビ?」
 彼らを襲ったもの。それは動く死者ズゥンビだったという。数は彼らの人数を軽く超えるほど。
「何故、ズゥンビが領主の手のものだと?」
「あいつは、パーヴェルは、そういった術を使う男を、駒として飼っている」
 貴族が、バケモノを操る輩と組んでいる。あまり考えたくはない噂だが‥‥
「今、仲間は集会所に立てこもって、俺が戻るのを待ってる。早く、冒険者を‥‥報酬は、今出せるのはこれくらいだが、うまくいったらもう少し上乗せできる」
 男はギルド員の手に幾らかの金を握らせる。男の手にはまだ殆ど力がこもっていない。
「あんたのその怪我は、ズゥンビにやられたのか?」
「いや、俺は、ズゥンビは何とか無事に切り抜けられたんだ。だけど、逃げてるうちに、何かが後ろから追ってきて‥‥」
「何か?」
「蝙蝠の羽を生やして、矢尻のような長い尻尾をしたやつだ。それが、何匹か」

●今回の参加者

 ea9563 チルレル・セゼル(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb5076 シャリオラ・ハイアット(27歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb5621 ヴァイス・ザングルフ(23歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5624 ミランダ・アリエーテ(45歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5807 ティート・アブドミナル(45歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb7760 リン・シュトラウス(28歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●蠢く使者、飛び交う悪魔
「人気は無いな‥‥怪物が出てるんだから当然か?」
「でも、怪物をどうにかしなければならないはずの騎士すらいないのはおかしいですわ」
 ヴァイス・ザングルフ(eb5621)の言葉に、ミランダ・アリエーテ(eb5624)が異を唱える。確かにその通り、治安を守るべき騎士や兵士すらあたりにいないというのは不自然である。
「やはり、背後には貴族が絡んでいるということなのだろうか‥‥?」
 レイア・アローネ(eb8106)の推測。だが、その証拠となるものはまだ何も無い。この状況だけでは、何も断定は出来ない。
「陰謀、謎の存在、お家騒動!? 何だかワクワクしますね」
 キエフ出発時から何かとウキウキなリン・シュトラウス(eb7760)だが、事態はおそらく楽しめるレベルではない。襲われている者たちの中には、もう死者が出ているかもしれないのだ。依頼人が集会所を抜け出してから既に4日。最悪全滅した後である。
「集会所ってのはあれかねえ?」
 チルレル・セゼル(ea9563)の指差す先には2階建ての大きめの建物。その周囲には、幾つかゆらりと蠢く影。ズゥンビ。
「まだ不死者がいるということは、中に無事な人が残っているということでしょう。死者を操る魔法なんかでも、たいした命令は出せないはず。命令を遂行し続けようとしてるのよ」
 自身も魔法で死者を操ることの出来る、シャリオラ・ハイアット(eb5076)の予測。それに加えて、もう一つの可能性。
「もしくは、次の命令を受けて俺達を待ち受けているか、だな。ニョロスケ、もう出てもいいぞ」
 ヴァイスの馬、ウォーシンザンの背に乗っていた巨大な麻袋から、にょろりと出てくるジャイアントパイソン。とても人の行き交う街中では見せられないシロモノだが、ここは誰もいないので問題無し。
「ブレスセンサーでは、すぐ近くには伏兵はいなそうなのね。でも、集会所の中に3つ、呼吸があるのね」
 自称猫耳ウィザード、アナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)の報告。ズゥンビは死体なので呼吸は当然しないとして、屋内の3つは一体何か。生存者か。『何か』か。
「数は5‥‥今出てきたのも合わせると8体か。前衛3人と1頭と1匹では少し辛いか?」
「もう一頭、私のイゴールも囮に参加させられます」
「それでも、実質戦闘力は変わらないねえ。戦闘突入前にあたしが一発お見舞いするよ。乱戦になると出番が無いんでね」
 それぞれ武器を構えるヴァイス、ミランダ、レイアの後ろで、チルレルが詠唱を開始する。放つはファイヤーボムの魔法。出来るだけ全ての敵に効果が及ぶよう着弾点を選んで、撃つ!
 着弾、爆発、巻き起こる粉塵。魔法の効果範囲の中心点に近かったズゥンビはそこらの地面に吹き飛び倒れ、ダメージの浅かった4体が傷に構わず向かってくる。
「それでは、『あっち』の方はお願いしますわね」

 ・ ・ ・

 『あっち』は、新たな敵が出現したことを知るとすぐにやって来た。蝙蝠の羽を生やして、矢尻のような長い尻尾をしたやつ。インプが5体。
 再度、アナスタシアがブレスセンサーを使用する。デビルはブレスセンサーで発見できるものなのかどうか。‥‥反応は、無い。
「でも、集会所の反応はそのままなのね。生き残りがいるって事なのね!」
「では、ズゥンビの相手は彼女らに任せて、迅速に確実にぶっ飛ばしましょう」
 シャリオラがブラックホーリーの詠唱を始める。レイアから、『何か』が会話可能そうな相手だった場合背後関係に関する情報を聞きだしたいと言っていたが、そのためにまず、こちらに圧倒的有利な状況を作り出さなければ。
「あたしはファイヤーボムで‥‥ダメだね。全く、小回りが利かない魔法ってのは‥‥」
 悔しがるチルレルをよそに、ブラックホーリーがインプを襲う。邪悪なものには100%の効果を発揮するこの魔法、しかし一発では到底撃ち落すだけの威力は無く。
「こいつを喰らうのね!」
 アナスタシアのかざす手から放たれるは雷光。一直線に飛ぶ稲妻が、狙った一体だけでなくその後ろのもう一体にも被害を与える。
(「一番近い尻尾の生えてる‥‥細かいですね、一番近くのデビルに!」)
 リン御指名の最寄のインプに、薄い月光の矢が放たれる。矢は狙い過たずインプにヒットするが、しかし、まだインプは平気そうな顔をしているまま。
「前衛の方々に、ズゥンビへの囮を頼んでしまいましたから‥‥こちらの打撃力が不足しているようですね」
 シャリオラのその言葉が、現状とこれからの自分達の状況を指し示していた。3体のインプを相手にするのに、チルレルのファイヤーボムは使えず、前衛がいないためにシャリオラとリンの魔法は詠唱を完了するチャンスが殆どやってこない。唯一、アナスタシアの高速ライトニングサンダーボルトだけが武器となっているが、それもいつまでも保つものではない。
 インプたちを先に始末し、それから残るズゥンビを殲滅する作戦。だが状況は逆転、ズゥンビへ向かった前衛組がこちらに手を出せる状況になるまで、何とか持ちこたえなければならない。

 ・ ・ ・

「このっ‥‥後ろがヤバそうなんだが、こいつら無駄に体力だけはありやがる」
 一発目のファイヤーボム以降、一つの援護も無い状況でのズゥンビとの戦闘。8体のズゥンビのうち既に半数はただの腐った肉塊となったが、それでも残り半数。
「ミランダ、私とヴァイスではデビルにダメージを与えられない。おまえが後ろに戻って戦えないか?」
 シールドで敵の打撃を受け止め、それを押し返しながら、レイアが言う。彼女の言うとおり、ミランダだけがコヴァスの剣という業物を持ち合わせている。レイアが押し返し地面に倒れたズゥンビを、ニョロスケが強烈な力で締め上げる。ぐしゃぐしゃ、バラバラになっていくズゥンビ。
「分かりましたわ。どうかお気をつけて」
 敵を貫いた剣を抜き、進路に敵のいないことを確認すると、後衛の元へ走るミランダ。残るズゥンビは3体、こちらは2人と2頭と1匹。
「こっちもさっさと片付けて、向こうの援護にまわるっ‥‥ぞ!」
 ヴァイスのスープレックスに、グシャリ! とその頭部を潰されるズゥンビ。何故かは分からないが、このズゥンビたちは通常話に聞くズゥンビよりだいぶ腐って潰しやすいように感じる。歩みも遅いし、こちらを殴ろうと振るった腕が遠心力で勝手に飛び道具になるほどだ。
「こいつら、鮮度が悪いな‥‥生きてる時に不摂生でもしてたんじゃないのか?」
「もしこれが貴族の手の者なのだとしたら、一体どこでこんな死体を集めてくるのか‥‥」
 レイアの振るう剣が易々と腕を切り落とし、胴を半分ほどまで切断する。素早く剣を抜き、もう一撃、反対側から袈裟に斬りつける。ズゥンビは腹の辺りで上下に分かれ、地に崩れた。その頭を、ウォーシンザンが踏み潰して止めを刺す。
 最後に残った、シャリオラのペットのイゴールが延々と相手をしていたズゥンビも、イゴールを追い掛け回している間にかなり崩壊していた。素早く背後に現れたヴァイスが思い切り蹴り飛ばすと、肉を踏みつける嫌な感触と共にズゥンビは前のめりに吹っ飛び、起き上がるよりも早く頭部を潰され、その動きを止める。

 ・ ・ ・

 後衛に合流したミランダは、まず最もダメージを負っているように見えたインプに狙いを澄まし、思い切り斬りつけた。一撃必殺とはいかなかったが地に落ちたインプにアナスタシアの稲妻が直撃、一体の始末を完了。
 突如割り込んできた邪魔者にインプたちは一旦距離をとったが、再び爪を構えて飛び掛ってくる。一体はミランダが何とか相手をし、もう一体の攻撃は皆ひたすら回避する。
 後衛対インプの4対3の状況は、今は4対1となっていた。依然落ち着いて詠唱は出来ないが、それでも魔法の行使は不可能ではない。チルレルのファイヤーボムはやはり使うには二の足を踏む魔法だが、ブラックホーリーが、ムーンアローが、ライトニングサンダーボルトが、徐々にインプの体力を削り落としていく。
 ミランダが相手にしていたインプを叩き落すのとほぼ同時に、後衛組もインプの撃退に成功した。切り込まれ乱戦となった場合の魔法使いが、どれだけ苦しい戦いを強いられるかが身に沁みて分かった一戦となった。

●路地裏の野良猫
 集会場には、生き残りが3人いた。扉や窓に厳重にバリケードを組んで、疲弊しながらも、何とか生き延びていた。
 デニスというジャイアントの男は、どうやら領主に抵抗する組織『路地裏の野良猫』の幹部の中でも、トップの男であるらしかった。彼は語気荒く領主である貴族を罵ると、もう二人を連れてどこかへと姿を消した。アルセニーと名乗る細身の男が、ここに長く留まるとおそらく貴族の手の者が来るから、隠れ家へと逃げるのだと教えてくれた。

 ・ ・ ・

 冒険者の内何人かは、『個人的な好奇心に従って』街へ観光に繰り出した。
 だがしかし。街は、観光がどうのと言えるレベルではなかった。
 酒を飲みに酒場へ入ったチルレルは、ワケの分からないくらい高い酒の値段に驚いた。酒だけではない。ちょっとした料理さえも、キエフの何倍というレベルだった。酒場には他に客はおらず、カウンターでマスターと話をしてみても、領主に関連する話になると彼は口をつぐんだ。
 ペットのボルゾイ、ショコラと一緒に街を歩くリンは、これぞひそかに動く陰謀の証拠、と言えるようなものを目撃した。とある民家から、若い男が引きずり出される。一人のその男に対し4人の兵士が、力ずくでどこかへと連れて行く。男が抵抗するや、腹に蹴りが入り、頬に痣ができた。
 街の墓地はあり得ない惨状だった。祈るのも忘れて、シャリオラはその光景を見る。
 整然と整備された普通の墓地。その中央に、埋められて然るべき者たちが山のように、ただ捨てられていた。