【厳冬の罠】それ行け国王迎撃大作戦

■ショートシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 18 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月16日〜12月22日

リプレイ公開日:2006年12月27日

●オープニング

「ウラジミール王がいらっしゃるんだと!」
「王さんが!? なんでまたこんな村に」
「辺境地帯の視察だそうじゃ」
「辺境とはまた‥‥いや、否定は出来んが」
 それは降って湧いた小さな村の大事件。何と、ロシア王国国王、ウラジミール一世が視察に訪れるというのだ。別に宿泊するとかそういうわけでは無いようだが、それでも何かしらちゃんとした歓迎の準備をしなければならない。
 村人達は、使者により告げられた大事件にどう対処するべきか、口々に話し合った。
「やはり、ご馳走でもお出しするべきじゃろうか?」
「こんな村の食事なんて、口に合わんじゃろう。踊りを披露するとか」
「誰が踊れるんだ、ダンスなんて」
「この村で、何か国王様に見せても恥ずかしくないもの‥‥」
「と言ったら、アレしかないじゃろ」
「そうだな、アレしかない」
「決まりだな。大急ぎで準備をするぞ!」
 小さな貧しい村。村の名を、ノモロイという。

 ・ ・ ・

 ところ変わって、キエフの冒険者ギルド。依頼をしているのはノモロイ村の村人。
「なるほど、王様を歓迎する準備を手伝う人手が欲しい、と」
「そうなんだ。ウチの村は、土の焼き物の人形を特産品にしててね。それを前面に押し出した歓迎をしようと思ってるんだ」
 ほら、こういう焼き物。そう言ってギルドのカウンターにゴトリと置かれた『それ』。
 ブン! ゴワッシャーン!!
「な、何をするんだいきなり!」
「やかましい! んな奇妙なモン持って来るんじゃねぇ!!」
「そんな、ここにもう20個ばかりあるのに‥‥」
「出入り禁止だその焼き物ーっ!!」


 仕切りなおし。
 ノモロイ村特産のその焼き物は、一般には流通していないが、これを知る人々には『ノモロイの悪魔』として知れ渡っている人形である。グニャリと捩れた胴。ぎょろりとした目。人を地獄に引きずり込もうかという手つき。愚かなイキモノを嘲笑っているかのような口。明らかに異質なそれ。
「それを、国王の歓迎に使うのか‥‥?」
「そう、今も村で大量生産中だ。国王様が村に来るまでに、二個大隊揃う」
 二個大隊!? 約400!!
(「この村、潰されるんじゃないのか‥‥」)
「その二個大隊をうまく活かして、村全体での歓迎の準備をするんだ。そのデザインや作業を、冒険者に手伝ってもらいたいんだよ」
「まあ、それはいいが‥‥(やるのは俺じゃなく冒険者だし。)あのバケモノは、国王に気に入ってもらえると思うのか?」
 何気に酷い言い草だがアレを見た後では仕方ない。
「大丈夫。自信はあるよ。あの天使の像は、貴族さん方に人気なんだ」
「そんなバカな」
「例えば、アルドスキーっていう貴族の家の代官見習いさんなんかは、いたく気に入ったらしくて」
 大丈夫かこの国は。

●今回の参加者

 ea7467 ジゼル・キュティレイア(20歳・♀・ジプシー・エルフ・イスパニア王国)
 eb5621 ヴァイス・ザングルフ(23歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5624 ミランダ・アリエーテ(45歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb6674 ユーリィ・ラージン(25歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb7876 マクシーム・ボスホロフ(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 eb8686 シシリー・カンターネル(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb9567 シーリス・サイアード(19歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb9793 トーニャ・ロゾトワ(23歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

イェール・キャスター(eb0815)/ 月下 真鶴(eb3843

●リプレイ本文

●悪魔の儀式・下準備編
 真冬のロシアは当然寒い。その寒い中でも、外でせっせと働くこの若者の額には玉の汗が浮かぶ。
 ヴァイス・ザングルフ(eb5621)は雪かきをしていた。国王を案内するルートに沿って、普段雪かきされていない所を重点的に、ひたすら雪かき雪かき。
 村の中はひたすら慌しかった。村人達は国王歓待の準備のために自分の家の外観を多少綺麗にしてみたり、最低限自分の家の前の雪かきだけはきっちりやってみたり。そして、村の広場に完成し次第運び込まれてくる『それら』。
「‥‥知らない。そんなもの俺は知らない」
 雪かき。とにかく雪かき。村人達が何を運んでいるのか知らないが、とにかく雪かき。‥‥村人が何かを運んでる? いや、運んでなんかない。運んでなんかないぞ。
 相棒のウォーシンザンに引かせるソリに、次々雪を搭載するヴァイス。処理した雪は村の広場や窯の方に運んでいって、壇を作る材料とするのだ。天使を飾る壇だ。
「天使‥‥天使ねぇ‥‥天使かぁ‥‥天使‥‥」
 ひたすら、ひたすらに雪かきを続けるヴァイス。きっとこれだけ力仕事を続けていれば、自身の鍛錬にもなるだろう。そうだ、自分のためにレッツ雪かき!
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「なぁ。お前も、辛いと思うよな?」
「‥‥‥‥」
 隣で一緒に雪かきをしているシシリー・カンターネル(eb8686)のゴーレム、アマーンに語りかける。無論反応など無いのだが、しかし一心不乱に雪かきを続けるその背中に哀愁を感じたのは気のせいではないだろう。
「人の感性にも色々あるものですね‥‥個々人の嗜好に、口出しなど出来るはずもないですし‥‥」
 アマーンの傍で、広場に運ばれてきた『それ』の一つを突きながら、シシリーが言う。
 ヴァイスとシシリーの溜め息に合わせて、ウォーシンザンがブシッと鼻を鳴らした。

 ・ ・ ・

「下手なモンスターよりよっぽど強敵だな、アレは‥‥」
 窯の辺りの飾り付けから一旦休憩に抜けてきたマクシーム・ボスホロフ(eb7876)は、出発前の仲間の異変の原因にようやっと気付いていた。
 天使の像、いや通称『ノモロイの悪魔』。見た者の元気をあっという間に根こそぎ奪い去っていくそれ。実は呪いの込められたマジックアイテムでしたと言われたら即座に信じてしまいそうだ。出来ることなら見たくないあんなもの。
 悪魔の産地ノモロイ村において、あの『ノモロイの悪魔』を見ずに済む場所は実は一箇所だけある。村の入り口に、広場を背にして立っていればいい。
「入り口にこんなもの置いといたら、警戒して誰も入ってきませんよ」
 というシーリス・サイアード(eb9567)の言葉により、冒険者達が村人をうまく誘導したのだ。
 ちなみに、危険地帯も何箇所か存在する。次々に悪魔の生産される『地獄の窯』(マクシーム命名)の傍や、村人の家の中だ。特に家の中は、密閉された空間内にビッシリと並べられたどギツイ奴らが待っている。絶対入りたくない。
 しかし、入らざるを得ない者たちも数名。国王を迎える村人の代表を集めてもらった村長の家へ行き礼儀作法を教えたり身なりを整えたりする者たち、そして保存食を忘れた人たち。行きの分だけは余分に持っていたジゼル・キュティレイア(ea7467)に分けてもらったが、ユーリィ・ラージン(eb6674)、トーニャ・ロゾトワ(eb9793)、シーリスは帰りの分を村で購入するなどして用意しなくてはならない。事前に準備はしっかりと。

●それ行け迎撃阻止大作戦
 ミランダ・アリエーテ(eb5624)が村長卓の、国王に座ってもらう予定の椅子の後ろの壁に、持参した肖像画を配置している傍で、ニヤニヤ笑っている『それ』が数体。肖像画で叩き割ってしまいたい所だが、そこは我慢である。
 実際に命が宿ってなどはいないのだが、妙に視線を感じる落ち着かない環境の中で、この村に来るのが3度目というユーリィは村人達に礼儀作法を仕込んでいる。3度目っていったい何の罰ゲームですか?
 ユーリィの前には、5人の村の男達が並んで立っている。選び抜かれた村の猛者(?)達である。村人全員で群がって歓待するのではなく選んだ数人の案内人を介して迎えることで、国王に事件が起きる危険性というのを国王一行が考えずに済むようにしようという計画だ。万が一、一斉に集まってくる村人の中に賊が紛れていないとも限らない。その心配をさせぬようにこうするのだという説得を、村人達は感心して受け入れた。
 実際は、村人が国王に『ノモロイの悪魔』のセールスをしないようにする、という目的が先に立っていたが。
「まず第一に押さえておかなければならないことだが、陛下は美というものにうるさい。芸術的な意味での美ではなく、人の振る舞いの中に自然に垣間見える美、それを尊しとしている!」
 人の振る舞いの中に見える美、と聞いて、何人かの男は服の襟元を少し開いてみたり。違う、その美じゃない、チラリズムじゃないっ!
 トーニャはバックパックから鉄鉱石を取り出して投げつけたい衝動に駆られたが、そこは元貴族の娘、衝動を表情にも出さず必死で押さえ込む。そして優しく間違いを正す。
「さて、誤解が解けたところで話を続けるが‥‥村の特産の天変地異」
「(ボソッ)天使です」
「てっ、天使の像だが、これを見せて自信満々に天使だと主張するのは美しくない。謙虚に、神々しさをもって魔を払う『魔除け』だと説明するのが良いだろう。他の行動においても同様に謙虚に振る舞い、陛下のお心を汲み、適切な配慮を伴った行動・言動をとることが、良民として陛下の好意を得られるだろう。まず大事なのは、謙虚さだ」
「「「分かりました!」」」

 ・ ・ ・

 一人ずつ、手際よく調髪を進めるミランダ。国王を案内する5人と、村長宅にて歓迎の宴に同席するもう2人の髪型を小奇麗なものに整えていく。貴族などが茶会に出席するわけではないのでそこまで凝ったものにはしていないが、それでもやはりやるとやらないでは見た目の印象が大きく違う。さすがは美容師である。その他簡単な装飾品をつけて村人の個性に合わせてコーディネートしようとも思っていたが、村にある物を使ってそれらを準備しようとしたら『ノモロイの悪魔』グッズしかなく、あえなく断念。
「そういえば、ギルドの方から聞いたのですが、アルドスキー家というと‥‥」
「そう、ユーリー様だ。大変この村の像を気に入って頂いて」
 名前が滅茶苦茶似ててユーリィがビックリしたのは内緒。
「‥‥ええと、国王様とのお話では、ユーリー様のお名前は出さない方がいいと思いますよ?」
「‥‥? それはまた、どうしてだい?」
「それは、ですね‥‥(アルドスキー家の名誉のためとか言えないですよ‥‥)それは、ほら、もしも国王陛下がユーリー様のことをお好きでなかったら、機嫌を悪くするかもしれませんから‥‥」
「ふぅむ‥‥」
「もしも、あくまでもしもですが、万が一を考えておくというのは大事なことだと思いますよ?」
「そうですね。では、そうしましょう」
 ほっと胸を撫で下ろすミランダ。ここにアルドスキー家の名誉は護られた‥‥のか?
「そういえば、ダンスという案が出ていたそうですが」
 調髪を終えた村人に、ジゼルが尋ねる。陛下に楽しんでもらうための余興としてのダンス。
「そう、我々の中にダンスを習ったことのある者など一人もおりませんでな。ちょっくら自分達で考えてみようではないかとなりまして」
「は?」
 見てもらえますかな、と言って、一人踊りだすその村人。この踊りは‥‥ちょっとマテ。
「何を召喚する儀式ですか?」
「はい? 何と?」
「いえ、何でもありません。‥‥この家の中にたくさん人が入って、テーブルも椅子も並ぶとなると、少し踊るには狭いですね。外でやるにも、ご覧になる陛下もお寒いでしょうから‥‥ダンスは今回は諦めた方が良いかもしれません」
「そうですか‥‥分かりました! いつか陛下が夏にこの村を訪れてくださった時に披露出来るよう、今回は諦め稽古を続けましょう!」

 ・ ・ ・

 村長宅を出て、何とか一息。生きた心地のしない空間だった。
「何と言うか‥‥私達はここに国王陛下の歓待準備に来たはずなのに、虐待を受けているような気がしてならないぞ‥‥」
 ユーリィの言葉と全く同じ思いを、そこにいる皆も共有していた。

●邪悪の祭壇
 シーリスの提案に従って像の配置が決定され、ウォーシンザンやアマーンが運んできた雪を集めて像を置く場所に壇を作っていく。大作業のため村人達も総動員である。
「あんまり見栄とか張らずに、普段通りの姿を見せたほうが良いと思うんだが‥‥っと、そっちの壇はもう完成だ。それ以上窯に近づけると熱で溶けるぞ」
 地獄の窯への道の両サイドに作られた壇。それは3段に組まれており、その1段1段にビッシリと『ノモロイの悪魔』が並ぶ。
「『ノモロイの悪魔』か‥‥聞いたことが無いな」
「どうしました?」
「いや、この‥‥天使像、私は名を聞いたことがなくてね。どれだけ出回っているんだ?」
「主に、貴族の方々に気に入ってもらえていますね。この村に来る行商を通じて、キエフや他の大きな街に屋敷を構える貴族さん方に買って頂いてます。ほとんどが常連さんですけど、最近イグルノフっていう貴族の家に1個、買って貰えましたね。新規のお客さんが増えるのは、喜ばしいことです」
 最近、様々な事件が起きている。国家の敵を粛清するというラスプーチンからの依頼も幾つか出ていた現在の情勢だが、事件が多発するのも仕方ないのかもしれない。
(「これを買う金があるなら、もっと別のことに金を使え‥‥」)
 どんどん運ばれてくる焼き物。窯で焼き上がった直後のものは冷ますためにその辺に置いてあり、ジゼルやシシリー、村人達に持って来られるのは冷まし終え、布をかぶせられた悪魔達。
「この布は?」
「国王陛下をお迎えするのに使う像に傷がつかないように、その対策です。あとは、雪をかぶらないように。‥‥(ヒソヒソ)こうすれば、直視しないで済みますから」
「‥‥なるほど」

 ・ ・ ・

 一通りの準備を終え、集合した冒険者達。しかし‥‥
「そういえば、ヴァイスさんの姿をお見かけしませんね」
 気付いたミランダが言う。確かに、雪かき終了後その姿を見ない。


「左を向いてもノモローイ。右を向いてもノモローイ。上を見ても、下を見ても、至るところにのもろーい」
 悪魔像が並んでいく光景を見たくないと駆け込んだとある家でヴァイスが見たもの。それはずらりと並んで彼に微笑みかける焼き物たち。無防備に危険地帯に踏み込んだ彼が救出されたのは、この30分後のことである。

●勇者達の帰還
 帰り道、冒険者達は周囲の自然の優しさに包まれながら歩いていた。冬のロシアは厳しい。だが、あの村の厳しさと比べればずっと自然の方が優しいことがわかる。冒険者達はまだ残念がっているシーリスを怒りながら歩き続ける。
 ‥‥何があったかって、シーリス、何を思ったか記念品にと『ノモロイの悪魔』を欲しがったのだ。皆如何にして像を押しつけられずに帰ろうかを考えていたというのに!
 ただ残念ながら、というか幸いにも、国王の歓迎が終わるまでは像を持ち帰れないのだ。希望があれば後で(と言っても行商が再びやって来る春になるが)送ると言ってきたのを断固としてお断りしてシーリスを引きずって、村を出てきたのだ。ちょっと残念そうな村人に、マクシームが釘を刺しておいた。決して国王に像を押し付けないこと! 移動に邪魔だし、その前に要らんし。絶対。


 村を出て少し。道の先から数人の兵が駆け寄ってきた。冒険者達が武器を持っていることから、賊かもしれないと見に来たのだろう。事情を説明すると、対応は普通に戻った。ただやはり、国王一行と話をするとかそういったことは出来なかったが。ただ、遠目にしろ国王を生で見られたシーリスは感激。像のことはこの時だけは忘れてくれたようで非常に幸い。
「‥‥国王の一行ですから警備の者が多いのは分かりますが、それにしても割合として見れば多過ぎませんか?」
 没落してしまった自分の家を再興したいトーニャは貴族との良い人脈を作れないかと思っていたが、どうにもそれらしい人が殆ど見当たらない。国王に、付き人たち、御者に、警備の兵。
 自分達と入れ違いにノモロイ村へ入っていく国王一行。国王が正気を保ったままキエフに帰ってくることを、彼らは心から祈るばかりだった。