【最速の騎士】聖夜祭☆焼き物即売会
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■ショートシナリオ
担当:香月ショウコ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月27日〜01月01日
リプレイ公開日:2007年01月03日
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●オープニング
大地を白く染めた雪が解けぬ間に新しい雪が降り‥‥深く深く降り積もる。水は凍り、生き物は息を潜める冬がロシア全土を多い尽くした頃に、神の子ジーザスは誕生した。最初のレースはその伝承に倣ったという説がある。三賢人のように、より早く駆けつけることができるように、と。
冬季の開拓は苦難が数倍にもなる。開拓のための伐採樹木の搬送もその要因の1つである。運ぶ代わりに数本の木をロープでしっかりと結びつけ、丘の斜面を滑り落とすのは生活の智慧。それに併走するため、割った丸太をソリ代わりにして皆で滑り降りたのが最初だとも伝えられている。
古くからロシア王国に住む人々が、新年の吉凶を占うために動物を争わせたのが最初だと言う者もいるが──実際のところ、どうして始まったのかなど今となっては知る物はいないのだ。
しかし、現実として、聖夜祭時に様々な雪上レースが行われている。
所持金を増やし聖夜祭を楽しむ金を作るために賭ける、賞金を稼いでより良い年を迎えるために参加する、数少ない娯楽として観覧して酒を飲む、緩い懐を狙って様々なものを売る、そんな様々な目的を孕んだ聖夜祭の楽しみの一つとしてロシア王国の長くは無い歴史にしっかりと根付いた。
そして今年も、走りっぷりで新年を占うと称して数々のレースが執り行われることとなった。
・ ・ ・
「で? 何の用だって?」
ものすごくやる気無さそうに、ぶっきらぼうに対応するギルド員。それも仕方ない、目の前にいる依頼人は、彼の天敵だ。依頼人はそう認識していないだろうが、ともかく天敵だ。
ノモロイという村から来たと言うその村人は、某煙突から侵入する赤服白髭のごときデカい袋を床に下ろすと、早速依頼について話しはじめた。
「ちょうど、時期が聖夜祭じゃないか」
「はい次の方」
「ちょっと、ちょっとちょっとー! まだ何も言ってないだろう!」
「嫌な予感がした」
それもどうなんだ。
「ちゃんと聞いてくれよ‥‥で、聖夜祭じゃないか。聖夜祭といえば、執り行われる種々のレースが目玉の一つ。そのレースを、村の主宰でキエフでやりたいんだ。その参加選手を募ろうと思って」
「それは‥‥予算は大丈夫なのか? だいぶ貧しいと聞いたが」
「そこは、かかる費用は全て宣伝費ということで、頑張って村人で折半した」
宣伝費。そう、宣伝費。
「レースのコースは単純で、キエフの街を一周するだけ。選手には、ノモロイ村の特産品であるあの天使の像を宣伝する小さい旗がついた帽子をかぶってもらうんだ」
「‥‥それだけか?」
「え?」
「どうもあんた達が絡むと、そんな平和なレースで事が済むと思えないんだ‥‥」
「お、気付いたかー? 実はこのレース、ゴールするまでに達成しなきゃならないことがあるんだ。この『聖夜の天使』を10個持って走り、そのうち最低3個を道行く人に売ってからゴールするのが決まりだ」
ブン! ガシャン!
「な、何をするんだいきなり!」
「やかましい! 出入り禁止だって言っただろうが!!」
「そんな、冒険者のアドバイスを下に赤く塗って聖夜祭仕様、さらに軽量化・小型化も行ったというのに‥‥この赤い奴、なんと改良によって、通常の3倍量持ち運べるようになった!」
「知らん! 出入り禁止だそれもーっ!!」
「酷い! せっかくノモロイから愛と平和の使者を持ってきたのに!」
仕切りなおし。
ノモロイ村特産のその焼き物は、一般には流通していないが、これを知る人々には『ノモロイの悪魔』として知れ渡っている人形である。グニャリと捩れた胴。ぎょろりとした目。人を地獄に引きずり込もうかという手つき。愚かなイキモノを嘲笑っているかのような口。明らかに異質なそれ。これを機に一般にも広めたいようだが‥‥
「それを売れっていうのか‥‥?」
「そう、最低3個。ゴールまでにかかったタイムに、焼き物をノルマを超えて売った数を加味して最終的な順位を決定する。ちなみに、ちゃんと売ること。自腹で買ったり、人に押し付けたり、悪質商法も、犬小屋に突っ込んでくるのも禁止」
「‥‥それは、レースが終わらんのでは」
「大丈夫。選手は3日以内にゴールすること。それを超えたら失格だ」
失格までの猶予が3日というルールからして桁外れのこのレース。果たして、無事に終了するのか? というか、このレースが終わるまでキエフは無事なのか!?
●リプレイ本文
●悪魔促販計画(磧箭(eb5634)の場合)
レースについて語るのに、一発目から3日目のことを語るのはどうなのだろうか。まあ、とにかく。
「どうにか、どうにか正攻法で3つは売り切らねば‥‥うう、世の無常さが身に沁みるで御座るよ‥‥」
マッチ売りの少女よろしくキエフの街中をさ迷い歩く磧。彼の背負い袋では未だ10個の『赤い悪魔』が笑っている。そろそろ期限の3日目の日没が来てしまう。この華国の河童殿が冬空を延々と歩き回っているのには、なんとも悲しい理由がある。
・ ・ ・
見た目のあり得なさに、どのように売ったらいいのか『ノモロイの悪魔』。このレースに勝つにはいかに速く走るか、いかに他人を出し抜くか考えるよりも、どうやってノルマを達成するのか考えなければならない。
普通に売ろうとしたところで売れるはずがない。その考えのもとに磧は、『赤い悪魔』のヤバい外見を利用した販売法を考案した。叩き割ることを前提とする。
「ジャパンで行われている風習に、節分というのがあるで御座る。それに似た風習として、これを地面に投げつけて割ることで魔除けになる、と宣伝したいので御座るよ」
確かにこの方法で売るなら、大量に売れるということはなくとも、信じてくれた人には毎年買ってもらえるだろう。『赤い悪魔』の風貌なら叩き割ることに躊躇するものもいるまい。
だが。磧は判断を間違った。
叩き割ることを前提、として売るということは、売れた『赤い悪魔』は当然割られるということである。製造者であるノモロイ村の人々の心情を慮って、彼は主催者にそれでも良いかと確認しに行ったのだ。
‥‥そのまま黙って売ってりゃ何とかなったのに。
「という触れ込みで、売っても良いで御座ろうか?」
「なっ、なんということを! ダメだっ、こんな美しい天使像を、叩き割るだって!? 罰が当たることこそあっても、魔除けになどなるものかっ!!」
そう、失念してはいけない。この『ノモロイの悪魔』シリーズはノモロイ村の人々や一部の愛好家にとっては『天使の像』なのだ。それを割るということは、神への反抗・冒涜に近い行為と認識されてしまうのだ。
まあ、磧の気持ちもよく分かる。こんな焼き物、割らない方が罰が当たる。でも、郷に入れば郷に従え、である。
・ ・ ・
キエフの地平に沈む赤い夕日。タイムリミットを示しているそれが徐々に見えなくなっていくのを見ながら、磧は一人、立ち尽すのだった。
何てひどい年末だ。
●天使像、生まれも育ちもノモロイで(マクシーム・ボスホロフ(eb7876)の場合)
マクシームはスタートの合図と同時に走り出し、キエフの美術商を何人か尋ねてまわっていた。売りに行くわけではない。美術商の、変人探査センサーを頼りに行くのだ。
「ちょっとすまない。これなんだが」
「なっ‥‥ウチでは扱えないよ、別の所に」
「いや、買ってほしいってワケじゃない。こんなイカレた焼き物を欲しがりそうな奴がキエフにいないか、知らないか?」
賢いやり方だ。一般人の審美眼ではワケの分からない物体でも、芸術家を気取る金持ちや目利きを自称する貴族などにかかればゴミもお宝。あまりにもひどい『ノモロイの悪魔』シリーズだが、街中探せば一人くらい「いい仕事してますねー」とかのたまってくれる変人もいるに違いない。
「キエフに、か‥‥うーん、どうだろう‥‥キエフの外だったら何人か知ってるんだけどね‥‥」
「3日以内に帰って来れるならそこでもいい。教えてくれないか」
「いや、往復で4日なんだ。3日じゃとても‥‥いや、待てよ」
「心当たりがあるのか?」
「心当たりじゃないが、来年俺その人のところに行く用があってな。俺がそれ買わせてもらって、代わりに売って来るってことが出来るな」
販売価格の1Gで商談成立。マクシーム選手、ここでまず一個販売完了。この美術商が年末年始夢の中でうなされ続けたことは、彼には知る由も無く。
・ ・ ・
ところ変わって。
「この近くはグラナート通りのセルゲイ商店という老舗の古美術商が、驚く無かれ60Gという税金で投げ出した由緒正しき逸品」
路上販売にて最低限ノルマ達成のためあと2つを売りたいマクシーム。
「本来なら、こんなにお安いお値段でお願いできる代物じゃありません。皆さんの家一軒建ってしまうかもしれない貴重な品ですが、しかしこちらにも差し迫った事情がございます」
聞く人が聞けばすぐ分かるだろう啖呵切り。大したことの無い商品をいかにも高級品であるかのように見せかけて売る。一応断っておくが、彼のとっている方法は犯罪である。これをやってた有名な人もそう。催眠商法の一種だ。
「噂に聞くジャパンの侍じゃないけど腹切ったつもり! 7Gでどう!? ‥‥いない? まだ高い? なら5G、5Gでどうだ!?」
パターンならこの辺でもう一人が出てきて「お、こりゃすごい品じゃないか。5Gなんて安過ぎる!」と言って買って帰る『サクラ』がいるのだが、生憎マクシームは今回スタンドプレイで勝負。
「3G! 3Gでもダメ? どうも今日は貧乏人の行列だ。よし1G、タダみたいなもんだ!」
タダって言うかそれが元の販売価格。もしもう少し高く売れてたら、差額はどうするつもりだったんだろう? ネコババはダメよ。
まあ、物が物だった。幾ら煽っても売れないものは売れない。何とか2個売ってノルマを達成したところで諦めることにした。
「しかし‥‥またお前か」
客が去るのを見届けて、袋から一体を取り出して見てみるマクシーム。やっぱりこんな物体はあり得ない。不気味すぎる。
「‥‥まあ、ノルマは達成したし」
ブン! ガッシャーン!!
・ ・ ・
「あれ? 売った数と残ってる数が合ってないな」
「すまんな。途中で転んで一個割ってしまった」
●セレブに変身♪(ジゼル・キュティレイア(ea7467)の場合)
「遂に、一般人にまで『ノモロイの悪魔』の恐怖が襲い掛かる日が‥‥」
などと言いながら、自身も恐怖を配り歩く手伝いをしている共犯者ジゼル。君にその自覚はあるのか!?
まず『赤い悪魔』の入った袋から全てを取り出して丁寧に並べた彼女は、ひとつひとつにプレゼント用のリボンを結ぶ。『赤い悪魔』は聖夜祭仕様で作られたものだと聞いた。ならば白と緑のリボンを結ぶことでクリスマスカラーにすることで、もう少し可愛く見えるようになるはず。
「‥‥ちょっと、考えが甘かったみたいですね」
『赤い悪魔』はその名の通り、全身が真っ赤に塗られている。その上から鮮やかな白や緑のリボンが結ばれたことによって、余計に赤が不気味に目立つようになってしまった。これではまるで、血みどろの像である。
「‥‥まあ、目元は少し隠れてますし、幾らかマシでしょう」
リボンを結んだそれらを再び袋に詰め、歩き出すジゼル。像を割らないように、かつ3日以内にゴール出来るようにと最低限の速度での移動だが、今回のレースのコースは歩いてまわっても一周に1日あれば充分過ぎる。
とりあえずあまり商売の邪魔にならぬようエチゴヤの前は通過するにとどめ、酒場の前で売り始める。酒場は仲間と年末の一日を過ごそうという者たちをはじめ人が途絶えず、客には困らなそうである。酔って出てきた客などはカモだ。
「この『聖夜の天使』は、ノモロイという村名産の、貴族に人気の像の聖夜祭バージョンなんです。この焼き物の第1弾『ノモロイの悪魔』は、なんと国王陛下の歓迎にも使われたんです」
「ウラジミール王の? そりゃ本当かい!?」
「ええ。その準備を私も手伝いましたから、実際にこの目で見て来ていますよ」
国王にウケたのかどうかはまったくもって不明だが。嘘は言っていない。
「いかがです? 貴族の方々も買っているこの像、改良によって値段もグンと抑えられていますよ?」
「うーん‥‥でも、ウチのお財布は妻に握られてるからなぁ」
「プレゼントに買って帰って、奥様にプレゼントしては如何ですか? サプライズで貴族の奥様方も持っている焼き物をプレゼント、気分だけでもセレブになってみるというのは」
「じゃあ、一体だけ」
ジゼルがニッコリ笑顔でオススメすると、ついに売れる一体。女の子の笑顔ってズルい。涙と並んで強烈な武器である。
「皆さんも如何ですか? これを買って、皆さんもセレブな気分に!」
すごいなぁ。嘘を言わず事実だけでここまで売れるなんて。買った貴族達が何に使っているかっていう先の部分には全く触れてない。
奥様方のために『赤い悪魔』を買って帰った男達が新年を無事に迎えられたか。それは誰も知らない。
●身代わり天使(イリーナ・リピンスキー(ea9740)の場合)
イリーナの販売活動は熱心だった。子供を連れた親を主に狙い、一組ずつ丁寧に話していく。
彼女が一生懸命にセールスを行っているのには、理由が一つある。それは、レース主催者であるノモロイ村の村人と交わした約束である。
(「このレースで一位になったら、あの像を一体譲ってもらえる」)
事情を知らぬ者がこれだけを聞いたらイリーナは悪魔に魅入られたとか思うだろうが、彼女がこう思うれっきとした理由がある。彼女の友人に、『ノモロイの悪魔』シリーズの収集家がおり、その人に贈りたいらしい。
そのことを話したところ、村人は『聖夜の天使』をただで譲る交換条件として、レースでの1位を要求したのだ。ちなみに10個全部売り切ると『ノモロイの天使』も一緒についてくる! ‥‥要らんがな。
「天児(あまがつ)という風習がジャパンにあるのはご存知か? 天児というのは、幼児の代わりになって降りかかる災厄をその身に受け壊れる人形(ヒトガタ)を指すのです。この『ノモロイの守護天使』はその逸話を元に製作された、言わばロシア版天児というべきもの」
あれ、そーだっけ?
「人の世に起こる災厄の全ては、天より来たりて天の許へ帰依するものだと、わたくしは考える。勿論災厄はタロン信仰における試練とも呼称されるもの。だが、もしも自分達の子供に災厄が降りかかり、それがあまりに厳しいものだった場合‥‥親として、苦しむこの姿を見て放っておくことが出来ますか? それは試練なのだ、一人で乗り越えよ、と。‥‥この『ノモロイの守護天使』は、子等の身に余る災厄を受け子の代わりに壊れ、父なる天の御許へと災厄を持ち帰る」
一通りハッタリだが、しかし製作理念との大きなズレは無い。さすがというか、何というか。
このアピールで8つを売り上げ、ゴールを目指したイリーナ。10個売り切っても良かったが、ゴールするのが遅ければ負けてしまう可能性もある。そこそこに売って、そこそこの速さでゴールするのが一番だ。
ゴールが一番早かったのはジゼル。その次にイリーナがゴールし、3番目がマクシーム。磧はついぞ現れることは無く。
マクシームの売り上げが3個で到着も3位だったため3位が確定。ジゼルが5個、イリーナが8個売ったためここで順位がひっくり返り、1位イリーナ、2位ジゼルという結果になった。
無事1位になったイリーナにはノモロイ村より『ノモロイ販売委員長』の称号が与えられることとなった。これが賞品代わりである。要らんがな。
・ ・ ・
「それで、焼き物なんだが」
「ああ、約束だからちゃんとあげるよ。‥‥ところで、贈りたい人ってもしかしてアルドスキーさんのところかい?」
確か‥‥とゴソゴソ取り出した羊皮紙を見る村人。
「ユーリーさんにだったら、何体か注文が入ってるからそれと一緒に送っておくよ。勿論、ちゃんとあんたからの贈り物だってつけてな」
かくして、ノモロイ村主宰『第1回天使販売レース』は幕を閉じた。年末年始、悪魔の恐怖と一生懸命戦ってくれたまえキエフ住民!
‥‥って、『第1回』ってことは次があるのかっ!?