想い為すため

■ショートシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月09日〜06月14日

リプレイ公開日:2006年06月15日

●オープニング

 助けてほしい。キャメロットのギルドに駆け込んできたのは、身なりの良いお坊ちゃま風の男。ギルド員がとりあえず落ち着かせて話を聞く。
「私には、将来を誓った女性がいるんです。サミュエラという‥‥ハーフエルフの、とても聡明な女性です」
 クラースと名乗った男は、ギルド員の問いに答える形で一つ一つ順を追って説明していく。
「私の父は規律や世間体に非常に敏感で、私の結婚する相手も家の格だとかを考えて連れてこようと考えていたようです。そんな父ですから、私とサミュエラのことを許してはくれないだろうと、隠れるように交際していたのです」
 そして、出会ってから2年。ついにそのことが父に知られてしまった。
「私はサミュエラに会うことを禁じられ、別荘に閉じ込められました。今は、そこを逃げ出してきたのですが‥‥父は、私を閉じ込めただけでは飽き足らず、サミュエラまでも捕まえてどこかへ閉じ込めてしまったのです。証拠は‥‥僕が別荘を抜け出す手引きをしてくれた執事からそう聞いたというだけですが」
 ふと気付くと、クラースの後ろにはやや距離をおいて一人の男性が立っていた。ギルド員の視線に気付くと一礼をする彼が、クラースを助けた執事なのだろう。
「サミュエラを助け出してほしい。そして、可能であればキャメロットから私たちを逃がしてほしい。それが依頼です」
「サミュエラ様は、屋敷の地下に閉じ込められております。そこへ入れられるのを見たわけではございませんが、何人か見張りが付いておりますのでまず間違いないかと」
 クラースの言葉に、そう執事が続けた。
「これが、屋敷の一階の見取り図です。地下の図は、私は入ったことがないので用意できませんでした」

●今回の参加者

 ea9436 山岡 忠信(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1300 ウィルフィン・シェルアーチェ(23歳・♂・バード・シフール・イギリス王国)
 eb3343 イリーナ・リクス(37歳・♀・ファイター・人間・ロシア王国)
 eb5349 楊 河(33歳・♂・僧兵・河童・華仙教大国)

●サポート参加者

キルト・マーガッヅ(eb1118

●リプレイ本文

 人が皆寝静まった真夜中。3人の男が物陰に集う。
「少し、噂話を聞いてまわって来たでござる。サミュエラ殿について」
 山岡 忠信(ea9436)が、自分の聞いてきた情報を話し始める。
「クラース殿が言っていた通りの女性のようでござる。優しく、聡明で、流れる銀の髪の美しい女性だと。皆が口を揃えて言うのでござる。素晴らしい女性だと。ただ一点を除いて」
「一点、っちゅうんは?」
 楊 河(eb5349)が問う。山岡は目を伏せて、言葉少なに答える。
「ハーフだ、と」
 空気が、一瞬少し冷えたように感じた。冒険者達の中にはハーフエルフの者も多数おり、他の冒険者と何も変わらず生活している。だが、彼ら、そして彼ら以外のハーフエルフは、日常、人々の中で不自由を強いられている。
 人前ではフードで耳を隠す必要がある時もある。
 他の人間やエルフ、デミヒューマンとは別の、低い扱いを受けることもある。
 ただ、ハーフであるというそれだけの理由で、ハーフエルフは差別を受ける。彼ら自身がどのような人格を持った者であっても。
 『その者』として見られない。『生まれ・種族』が先に立つ。本当の自分を見てもらえず、過去に貼られたレッテルでしか見られない。それは、どれほど辛いことなのだろう。
「クラース殿のように、曇り無い眼でその『人』を見られる者もいるのでござるが‥‥」
「お二人とも、お静かに。誰か来ます」
 ウィルフィン・シェルアーチェ(eb1300)が警告を発する。彼の鋭敏な聴覚が一人の足音を捉えたのだ。口を噤み、気配を消す3人。
「‥‥皆様、いらっしゃいますか?」
 足音の主は執事であった。予めどの位置から侵入するかを話しておいたため、気配が無くともここへ顔を出したのだ。
「執事さんやったんか、ビックリしたわ」
「今しがた、ご主人様がお眠りになりました。屋敷の中で起きているのは、夜番の者が5人と、わたくし、そして‥‥メイドが一人でございます」
 執事が妙に含みを持たせて最後の言葉を言う。
「強い家政婦殿が待ってるでござるよ」
 山岡が変装用の布をかぶり、自分の刀の他に剣を持ち。
 3人は、執事の手引きによって屋敷へと入った。

 ・ ・ ・

「ごめんなさい、新入りじゃ食事の方までは手が出せなかったわ」
 メイド服のイリーナ・リクス(eb3343)がやって来た男3人を出迎える。彼女は執事を通じて、事前に屋敷に潜入していたのだ。食事、というのは、遅効性の眠り薬を食事に混ぜられれば都合が良いのではないかという計画だったのだが、イリーナは掃除などの雑用にしか携わることが出来なかった。
「でも、地下室への道は調べられたわ。こっちよ」
 山岡から自分の剣を受け取ると、イリーナは3人の先に立って歩き出す。

 長い一本の廊下を抜けると、そこにはあまり手入れがなされていないような、錆の浮いた手すりの階段。幸いにも、見張りには遭遇することは無かった。
「そういえば、見張りの配置については調べられませんでしたか?」
 ウィルフィンがイリーナに問う。
「決まった配置は無いみたいなの。何人かが屋敷の中を巡回してる、そんな感じね。地下については分からないけれど」
 地下へ他の3人より先行して降りていくウィルフィン。両手には壁の色に近い色の布。見つかりそうになった時、忍者の如く隠れられるようにという考えだ。
 地下へ降りると、10メートルほどの通路。その先が右へと折れていた。明かりは所々に灯され、決して明るくはないが歩行には不自由は無かった。
 ゆっくりと歩を進める一行。ウィルフィンが角の向こうを覗き、待ったの合図。
「見張りがいます」
 小さな声でウィルフィンが言うと、山岡が忍び足で壁伝いに進む。角に到達したところで、奥から近づいてくる足音。
(「戻ることは間に合わないでござるな‥‥」)
 山岡はすらりと日本刀を抜くと、刃を返す。
 息を潜め待ち構える山岡。息を呑む一行。
「‥‥御免!」
 角から姿を現した男の首筋に、山岡の峰打ち。完全に不意を突かれた男は短い呻き声を上げ、倒れる。
 男の処理をどうしようか迷いつつもとりあえず放置し、一行は曲がり角の向こうを見る。すると、幾つかの牢屋のような部屋が並んでいた。
「こういう部屋が屋敷の中にあるっていうのは、どうなのかしらね」
 ひとつ、ふたつ。並んでいる部屋を覗いていく。使われた様子は見えなかったが、しかしこういった部屋の存在自体が背筋を寒くさせる。
 一番奥の部屋。冷たい鉄柵の向こうに、銀の髪の女性が居た。
「あんさんが、サミュエラさん?」
 楊が声をかける。ゆっくりと顔を上げた女性は、
「そのうち、いらっしゃると思っていました。クラースの依頼ですね?」
 そう答えた。
 女性は、自分がサミュエラで間違いないこと、クラースならきっと無理をしてでも自分を助けに来るだろうと予想していたことなどを話した。
「クラースさんの依頼ですから、あなたをここから連れ出します。構いませんね?」
 ウィルフィンが確認し、頷くサミュエラ。
「そう言えば、この鍵どうやって開けるんや?」
「これ、預かって来てるわ」
 楊の疑問に、イリーナが鍵束を取り出す。事前に執事から渡されていた物だった。
 ガチャガチャと何本かの鍵を鍵穴に入れ、開錠を試みる。そして5本目の鍵で‥‥
 ガチャリ。
「開いた!」
 軋む扉を開け、サミュエラを出してやる一行。食事などはちゃんと与えられていたようで、立ち上がったときに多少ふらついたものの歩く分には大丈夫そうだった。
 あとは脱出するだけ。しかし。
「おいお前ら! 何者だ!?」
 サミュエラの話や開錠に意識が向いていたせいか、別の見張りの接近に気付けなかった。男は武器を構えると、少しずつ近づいてくる。
「この人たちは、新しくお連れした見張りです」
 ダメもとでそう誤魔化そうとしてみるイリーナ。だがしかし、閉じ込めておかなければいけないはずのサミュエラに手を貸すメイドに、イギリスでは珍しい河童、さらに全身布男、加えて空飛ぶ布。誰が相手でも誤魔化せない陣容だった。
 見張りの男は数の不利を悟ると、人を呼びに走り出す。
「人を呼ばれると困ります! ここまでの廊下は一本道です!」
 ウィルフィンの言葉に山岡と楊が見張りを追い、イリーナはサミュエラに手を貸しつつその後を追う。
 イリーナたちが階段を上り終えた時、狭い廊下では山岡が見張りの男と交戦中だった。単純な戦闘力としては山岡が圧倒的に上だが、相手を傷つけず無力化しなければならず、また変装用具を纏っているせいで視界も限られているという不利な状況だ。楊も何とか援護に入りたいが、得物のロングロッドは長過ぎて、廊下では振り回せない。突くにも山岡に隙を作ってしまう恐れがあるため、使えない。
「アグラベイション!」
 時間を稼がれ焦る一行の耳に突如入る呪文の詠唱。ガクリと動きの落ちる見張りの男。
「今のうちに!」
 サミュエラの魔法で大きな隙の出来た見張りに、山岡が一撃を見舞う。倒れる見張り。
「助かったでござる」
「見張りをその辺に隠す時間は無さそうね‥‥一刻も早く脱出しましょう」

 先行するウィルフィンが、耳を活かして人の接近を感知する。曲がり角で待ち伏せ、顔を出したところにイリーナが襲い掛かる。とっさの判断で武器を構えた男だが、イリーナの剣は男の剣を粉砕する。
 メイドさんに武器をクラッシュされた男は呆然と。そして例のごとく山岡から夢の世界への招待券を受け取る。
 玄関のホールに出ると、楊の出番となった。待ち構えていた2人の男を長いリーチで牽制しつつ、仲間の逃げ道を作る。最後には男達を転倒させて、自分も仲間の後を追う。

 ・ ・ ・

「サミュエラ! 大丈夫か!?」
「クラース!」
 屋敷の表門までも強行突破で突っ切った一行に、近くで待機していたクラースが合流する。
「涙の再会も感動的やけど、今は逃げるんに集中した方が良さそうやで!」
 楊の言葉に一行が門のほうを見ると、十数人の武器を持った男たちが走ってくるのが見えた。夜番以外の見張りや使用人も動員した感じだ。1人は馬上の人だ。
「急ぎましょう。あの人数を相手にするのは、さすがに無茶です」
 ウィルフィンは空が飛べるということで波止場へ直行、山岡が手配した船の準備に。他はひたすらに走り続ける。
 走る冒険者達。追いついてくる馬の蹄の音。逃げ切ることは出来ない、応戦をと振り返ると、馬に乗ってやってきたのは執事だった。
「坊ちゃま、これをお持ち下さい」
 執事は馬から下りると、クラースに一本の豪華な装飾のなされた槍と、布袋を手渡す。
「家宝の槍と、しばらく生活できるだけのお金でございます。どうか、元気でお暮らしになって下さい」
「ジェイル、お前は一緒に来てくれる気はないのか?」
「わたくしはご主人様の傍にいなければなりません。‥‥それに、坊ちゃまにはサミュエラ様がついております」
 執事はサミュエラに向き直ると、
「サミュエラ様、坊ちゃまをよろしくお願いいたします」
 と、深々と頭を下げた。

 波止場では、船の準備が整っていた。乗り込む二人に、山岡が問う。
「本当に良いのでござるか? 家を捨て、生きてゆく事‥‥」
「はい。その覚悟をしていたからこそ、私は皆さんに依頼したのです」
「私も、クラースとならどこででも生きていけます」
 波止場には波の音だけが静かに満ちて。ウィルフィンが耳を澄ませど、それ以外の音は全く聞こえてこない。別れのあと執事が追っ手を逆方向へ誘導したと皆が知るのは、少し後の話。
「元気でな、ぎょうさん幸せになるんやで」
 嬉し涙に咽びながら、楊が船に手を振る。船上の二人も、その姿が見えなくなるまで手を振り続け。
「この恋の話で、また新しい歌を紡ぐことができそうですね」
 小さな羽の歌い手が、新たな歌を頭に浮かべたとき、
 朝日が、世界を照らした。