愛のカタチ泥棒

■ショートシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 27 C

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月02日〜07月05日

リプレイ公開日:2007年07月10日

●オープニング

『連続宝石窃盗犯、未だ捕まらず』
 そんな話題がキエフのところどころで囁かれ始めたころ。冒険者ギルドに一組のカップルがやって来た。
 それぞれダニール、ライサと名乗った二人は、青いバンダナのギルド員に勧められて椅子に座ると、すぐに依頼について語りだした。
「実は僕たち、結婚するのですが‥‥最近騒がれている、連続宝石窃盗犯というのがいるでしょう。あれがどうやら僕たちを狙っているようなんです」
「あんた達を、か?」
「いえ、正確には指輪をですね。お聞きになったことがあるのでは? 窃盗犯が盗むのは、結婚を目の前に控えたカップルの婚約指輪だと」
 ああ、と思い出す。そういえば、これまでにも二度ほど似たような依頼がギルドにも入っていた。自分の担当でなかったため、記憶から抜けていた。
「話を聞くと、窃盗犯が現れる日や時間はバラバラだそうなの。でも式の前日か、当日か、翌日かに、必ず来るんですって」
「ええ。ですから、冒険者さんにその3日間、前日と翌日は家の、当日は式場の警備をお願いしようと思いまして」
「なるほどな。分かった。じゃあまずは‥‥」
「ちょっと待った!!」
 ギルド員が依頼に必要な事項の書き込みを始めるのとほぼ同時に、ギルドの奥の方から走ってくる女。風体から判断するに冒険者。
「その依頼、あたしに受けさせてもらえない!?」
 ジャパンから遠路はるばる昨年やって来た忍者、浅霧 瑠華。瑠華はギルド員の前に特攻し、カウンターを両手でバン!
「あたし、前にその泥棒の依頼受けてんだ。でも、失敗して逃げられちまって‥‥その汚名を返上したいんだ! 今度こそ、あたしの手で捕まえてやりたいんだ!」
「汚名返上は構わんが、同じ件での失敗経験者は」
「分かってる、不安なんだろ? だからその依頼は、普通に掲示して、募集してもらっていい。それで集まったメンバーに、あたしを加えてほしいんだ。もちろん報酬はあたしには要らない」
 瑠華の言葉に、ギルド員は依頼人達の方を見た。決定権はあくまで依頼人にあり、ギルド員が決めることではない。
「では、お願いしてもいいでしょうか。やはり人数は多いほうが心強いですし‥‥」
 ダニールはすぐに答えを出した。ギルド員は頷いて、書き込みに戻った。

 ・ ・ ・

 ギルド内の一室にて。青バンダナは集まった冒険者に、依頼の詳細について語った。
「目的は、依頼人の婚約指輪を盗ませないことだ。窃盗犯は式とその前後の計3日に必ず現れる」
 そして、隣に座る瑠華に目をやり、続ける。
「こいつは浅霧 瑠華。お前達と同じ冒険者で、忍びの道の者だ。以前に似た依頼を受けて失敗したからリベンジだそうだ。仲良くしてやってくれ。ケンカはしないよーに」
「あたし達は子供か! ‥‥以前の依頼であたしが戦って、いや、戦う前にしてやられたんだけど、それで分かったことは、奴はあたしと同じ忍者だってこと、そして、あたしの里からの抜け忍ってことだ」
 瑠華は自分の紹介も後回しに、窃盗犯について話し出す。
「奴は、里では外人からの依頼をよく受けてた。潜入とか、暗殺とか。得意な術は湖心の術、春花の術、あと‥‥何だったかな‥‥まあ置いとく。で、高い仕事の遂行率からヘイズっていう二つ名で呼ばれてた。奴は仕事中絶対に姿を見せない。もし万が一姿を見ることが出来るとしたら、それはもう奴の仕事が終わった後。前の、事件も‥‥」
 瑠華の表情が沈む。しかし、次の瞬間には吹っ切ったような強い表情で、
「相手はかなりの手練れだ。皆で力を合わせないと解決できないと思う。どうか宜しく頼む!」
 そう言って、深々と頭を下げたのだった。

※過去の事件の経緯※
1:
 結婚式当日、式場に出現。新郎新婦が式のリハーサルで出払っている時に、周囲を見張っていた冒険者4名、控室近辺にいた冒険者2名を潜り抜け、控室内で冒険者1名と指輪のケースを抱いて座っていた瑠華を殴って倒し、指輪を奪って逃走。

2:
 結婚式前日、新婦宅に出現。家の出入り可能な場所を封鎖していた冒険者5名を通過し、指輪保存場所に詰めていた瑠華達3名の冒険者を気絶させ、指輪を奪い逃走。

3:
 結婚式翌日、冒険者4名を新郎の家に擬装として残し、瑠華を含めた4名が指輪を持って移動した先の空き家に出現。1名が情報交換のため戻った直後に、残った3名が倒され、逃走。

 なお、どの事件においても、冒険者誰もがヘイズを発見することすら出来ず通過され、或いは打ち倒されています。

※今回の依頼の舞台※
 式場は教会です。この日は、指輪は新郎と新婦が持っています。また、式の前日と翌日は警護がしやすいよう、ダニールの家にまとめて置いてあります。ダニールの家は二階建てで、玄関から入ると短い廊下、ダイニングがあり、ダイニングから左へ抜けるとキッチンへ、右へ抜けると二階へ上がる階段があります。二階にはダニールの寝室と客用の部屋があり、真っ直ぐな廊下の真ん中辺りにある扉がダニールの部屋、突き当たりにあるのが客用です。指輪は客用の部屋にあります。

●今回の参加者

 eb6447 香月 睦美(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb9531 星宮 綾葉(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb9547 篁 光夜(29歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

シンザン・タカマガハラ(eb2546)/ レア・クラウス(eb8226)/ ステラ・シンクレア(eb9928

●リプレイ本文

 2例目の事件について。外を固めていた仲間からの連絡は無く、室内にも仲間しかいない状況で、仲間が倒れていった。春花の術と思われる。
 3例目の事件について。室内には仲間しかいない状況で、一人が殴打され(たと思われる)倒れる。周囲を警戒するも、さらに一人、また一人倒される。

 香月睦美(eb6447)と篁光夜(eb9547)は、これまでの事件に関わっていた冒険者に話を聞こうと、冒険者ギルドへとやって来ていた。依頼人宅にはアクエリア・ルティス(eb7789)と瑠華が居残っている。依頼の期間が3日であるため調査に出ているこの時間帯は依頼人宅が手薄になってしまうのだが、そこは依頼人に信用してもらい、睦美と光夜が指輪を持ち出すことで解決とした。犯人は、指輪は依頼人宅にあると思っているだろうから。
 それに、犯人疑惑のある瑠華を、指輪から遠ざけておくという目的もこれにはあった。遠ざけた上で、瑠華をアクアがそれとなく見張っている。

 事件について調べていって分かったのは、ほぼ瑠華から聞いた話の内容と変わらなかった。姿を見せず、いつの間にか全てを終えている。周囲に仲間しかいないと思っても、警戒を緩めてはいけないということくらい。
 睦美は指輪の細工師が何か関連があるのではないかと、盗まれた婚約指輪の細工を行った細工師に共通するものは無いだろうかと考えた。が、それについても2例目の冒険者達が当時調べており、その時調べた限りでは特に法則や関連性は見当たらないということだった。
 犯行に唯一みられる法則とすれば、盗まれるものは婚約指輪だけということ。他の家財や、倒された冒険者の荷物の一つすら盗まれない。ただ狙うは一つ、婚約指輪。エンゲージリングのみ。マリッジリングにも手をつけない。

「瑠華殿は、どのような人物なんだ? ‥‥いや、共に仕事をするにあたって、互いのことをよく知っておくのは重要だと思ってな。特に、こういう相手の子細も分からない仕事の時は」
 2例目、3例目の冒険者どちらにも聞いたこと。それは瑠華がどういう人物かということ。事件の多くに関わり、一人だけ犯人のことを知っているというのは怪しい。故にアクアが今見張っているのだが、犯人を知っているからこそ進んで事件の多くに関わっているのかもしれないし、何かしらの形で犯人に利用されているだけかもしれない。疑わしきは罰せず。まだ断定はしない。判断するための材料を集めるだけ。
 騙されていたり、利用されていたりするかもと、出発前に瑠華本人にも「偽指輪を用意した時、誰かに話をしたか」と聞いてみたが、答えは「決してそんな事はない」というものだった。まあ、依頼を請けたからには当然のことではあるが。
「瑠華は‥‥良い子だと思うよ? 元気で、一生懸命で。目も良いし、罠を張るのもうまい。準備の時とか、かなり助かった」
 冒険者達から聞く限りではこんな感じで、悪い話は聞かない。ああ、ひとつ悪い点を挙げるなら『落ち着きが無い』くらい。それはギルドで会った時から皆知っていた。
「そういえば、何かに使うとかで金が必要だって言ってたよ。冒険者になった理由を聞いた時」
「金が要る‥‥?」
 睦美はふとひっかかった疑問を、視線だけで光夜に送る。
「報酬は要らない、と言っていたな。事情とプライドを天秤にかけた結果か、或いは‥‥」

 ・ ・ ・

 という経過の調査だった。その後戻って警戒をしたが、依頼初日と二日目は事件が起きることはなかった。となれば、事件は三日目である今日起きるだろう。
 準備は初日、二日目と変わらず万全。睦美は瑠華と手分けして家中の必要な場所に鳴子を仕掛け、窓は外から内の様子が見えないように封鎖。防衛する客間の指輪をアクアが偽物とすり替え、偽物は引き出しの中に、本物はアクアのポケットに。依頼人夫妻(もう式は終わったのでこう呼んでおく)にはライサ宅へ避難しておいてもらい、荒事に対する備えも完了。あとは皆で客間に待機し、常に警戒する者、座って休憩する者、眠る者、食べ物を持ってきたりトイレに行ったりする者と交代しながら見張りを行う。

「ちょっとごめん‥‥一瞬抜けるね」
 夕方。外の明るさでは時間が計れない閉じきった室内に夕日が差し込む。瑠華がトイレに立つ。
 少しして。
 響く鳴子の音。
「‥‥‥‥!」
「来た?」
 室内の3人は臨戦態勢に。考えられる可能性は幾つもあるが、どれが可能性が高いか。凄腕の忍者というヘイズが鳴子に引っかかるのか? 別の、単なる物取りか? 犬や猫その他の動物? ヘイズによる陽動かもしれない。
「‥‥開けるぞ」
 そっと扉の傍へ移動した睦美が、皆に注意を促してからそっと扉を開ける。すると、そこには‥‥
「あ、あの‥‥すいません、邪魔してしまって‥‥あれ、私が引っかかってしまいました‥‥」
「ライサさん‥‥あなたの家へ避難していてもらったはずですが」
「すいません、どうしても必要なものを、忘れてしまって‥‥い、いえ、それは今はいいんです‥‥! あの、さっき入ってきた時、外に誰かがいるのが見えて」
「外に?」
 それはあまりに自然な、流れるような動作だった。そっと扉の向こうを睦美が窺った瞬間に、ライサの拳が鋭く睦美の後頭部を打つ。一瞬の不穏な空気の流れに睦美は反応したが、避けきることは出来ず、少しずつ遠ざかる意識を必死で繋ぎ止める。
 直後、室内に巻き起こる煙。同時に、それまで室内にはなかった不自然な香り。アクアが膝をつき、眠気に耐え切った光夜がライサを警戒しつつ彼女を揺さぶる。睦美は消えそうな意識と襲ってくる眠気を、ナイフを腕に立てることで必死に耐える。
 ライサもどきは立ち直りかけのアクアを狙う。懐から取り出した短刀を1挙動で投げ放つが、それは前に立ち塞がった光夜の攻撃を避けるために狙いがずれ、壁に突き刺さる。光夜は1歩さらに踏み込み腕の鉤爪を振るうが、速度はヘイズが上。一撃はすぐさま後退したヘイズの前を空振り、体勢が崩れたところに踏み込まれる。
「いつまでも、負けっぱなしではないぞ」
 光夜を狙うヘイズを、立ち直った睦美が刃を返した法城寺正弘を横薙ぎに振るって飛び退かせる。ヘイズとローズ・ダガーを構え防御体制のアクアの間に割って入るように立つ光夜と睦美。さすがにこうも守られては形勢不利と感じたか、ヘイズは扉の方へ駆け。
 逃げるつもりかと間合いを詰めた2人の目の前でヘイズは地を蹴り、扉を蹴り、アクアに接近しようとする。さらに、その身からはまたも煙が巻き起こる。

 直後。爆発。

 爆風に巻き込まれた3人は3人とも壁際に飛ばされ、小さな傷を負う。手探りで急ぎ窓を開け、粉塵を飛ばすと、そこには既にヘイズの姿は無かった。アクアの持っていたはずの、指輪も。
 同時に。
「何だっ? うわ待ておい! 痛えっ!!」
 部屋の外で声。めちゃくちゃの室内は置いておいて廊下を見ると、瑠華が頭を抑え蹲りながら階段の方を睨んでいた。戻ってきたところ、何者かと衝突したと。そしてこの状況で登場する不審人物とすれば、ヘイズしかありえないだろうと。
「ねぇ、瑠華‥‥ほんとに申し訳ないんだけど、一度ボディチェックをさせてもらえないかしら。あなたが犯人だというつもりはないけど、さっき入ってきたヘイズはライサさんに化けていたのよ。あなたが瑠華に化けたヘイズじゃないって、断定できないのよ」
 そう言って、アクアが瑠華の傍にしゃがみ込む。そして、指輪を隠しておけそうなところをひとつずつ探っていくと‥‥ボン、と巻き起こる今日3度目で見慣れた煙。そしてアクアが探っていた瑠華の身体が椅子になる。
「うーん、やっぱりバレるよねぇ‥‥ちょっとあからさまにやり過ぎたかな」
 煙が治まった視界の向こう、1階へ降りる階段の近くでは、瑠華がやれやれ残念といった表情で立っていた。
「睦美さんが一発で落ちてくれてたら、引き出しを狙ったあとでアクアさんを狙ったのに。光夜さんも意外と反応速度速かったし、相手と運が悪かったね。ま、指輪はもらったから」
「ニセのな」
「へ? あ? お、おーいっ!!」
 瑠華がアクアから奪った指輪を見ると、それは明らかにガラクタ。鍛冶師が余った鉄くずを溶かして材料とせず、遊びで輪にしただけのような無骨なもの。
「本物はこっちだ。二重のすり替えをしておいて正解だったな」
 懐から光夜が取り出す本物の婚約指輪。引き出しのを偽物と替えてアクアが本物を持った後、さらに瑠華に秘密でアクア所持のを偽物とすり替え、光夜が本物を持つ。見事な罠だった。
「怪しいとは思っていたが、まさか本当に犯人だったとはな」
「どうして婚約指輪を盗むの!?」
「あたしにはあたしの目的があるんだ。そのために、金が要る。あの夫婦達には結婚指輪があるから、別に婚約指輪は必要じゃないだろう? そいつをもらって、今後のために役立ててやるんだ」
「今後?」
「‥‥将来自分の親に捨てられるかもしれない子どものための保険だと思っておきなよ」
 それだけ言い残し、階段の向こうへ姿を消す瑠華。急いで後を追ったが、その姿を見つけることは出来なかった。
 結局、指輪を盗ませないという依頼の目的は完遂できたが、犯人を捕らえることまでは出来ず。今後も、似たような事件がまだ起きるのだろうか。