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■ショートシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月15日〜09月20日

リプレイ公開日:2007年09月24日

●オープニング

 その日、冒険者ギルドに貼り出された依頼。それは、とある孤児院と、キエフ商人ギルドに所属する有力な商人からの依頼だった。
「‥‥不用品市?」
「そうです、依頼人の孤児院の方が、商人ギルドの方と提携して寄付を募るんです。不要な品を売って、その収益を寄付してもらおうという。商人ギルドの商人さんが不用品の販売をする他にも、一般から要らないものを集めて売り出しもするそうですよ」
「へぇ。それで、その市から冒険者に、どんな依頼なんだ? 警備か?」
「いえ、冒険者にも店を開いてほしいんだそうですよ。冒険者なら色々珍しい品を持っているかもしれないし、普通の家庭の要らない物とは違った何か妙ちくりんな物が出てくるんじゃないかとか」
「冒険者だって普通の生活もしてるってのに、奇人変人を見てるみたいな依頼だな」
「まぁまぁ」
 口調だけで怒ってみせる冒険者だが、その表情は笑っている。ギルド員も、彼が怒って見せているだけだということ、そしてご期待通り妙ちくりんな品を出品してやろうと思っていることを見抜いて笑う。

 そんなこんなで、要らない物を売ってくれる冒険者募集中。同時に、色んな物を買いに行ってくれてもオッケー、というか推奨。どんどん買っていってください、お願いします。
 お店は出さないけど買い物には行くよ、という方もどんどんいらしてくださいな。

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5967 ラッカー・マーガッヅ(28歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb8120 マイア・アルバトフ(32歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 eb9400 ベアトリス・イアサント(19歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

所所楽 柳(eb2918)/ ユーリィ・マーガッヅ(ec0860

●リプレイ本文

●ある暴走聖女とその取り巻き(ぇ
「あ、お酒はっけーん。やっぱりこれが無くちゃ、日々のストレスと戦ってなんていけないね」
「あー、マイア君、酒の呑み過ぎは良くないと思うのであるぞ? ほどほどが‥‥」
「はいはい、ほどほどね。言われなくても分かってるわよ。だから4本買いたいところを3本で我慢してるんでしょ。‥‥あ、ねえ。何かおまけつけて」
 市に露店を出している商人の一人から、ハーブワインを購入するマイア・アルバトフ(eb8120)。後ろにくっついて止めるユーリィ・マーガッヅの言葉は聞き入れられているようで聞き入れられていない。でもユーリィにとってはそれでもいいのだ。マイアと同じ時を同じ空間で過ごせれば。市のどこかにいる弟のように、『恋人と』『ラブラブで』なくても構わない。と思っている。本人は。‥‥本当に?
「いいじゃない、一度に3本も買ってあげるんだから、おまけの一つくらい。え? 4本買った人もいた? ダメダメ、あたしが4本買ったら5本買った人もいたって言うんでしょ? 騙されないわよー」
「マイア君、騙されないのは良いが首を絞めるのはどうかと思うのである。ほら、彼もああしておまけのカップを差し出しているわけであるし‥‥」
「まだまだよ。これでも教会勤めの端くれ、ハーフエルフの限界くらいは把握してるわ。おらもっと出せー」
「マイア君、それ以上やると冒険者ギルドに依頼が張り出されてしまうのである。白のクレリックが平和を乱してどうするのであるか」
「ありゃ。仕方ない、じゃあおまけはこのカップで我慢しよっか。じゃあねオジサマ、またよろしく」
 二度と来るな。きっとそう思ったに違いない。


「きっとこんなんだから、今も独りモンなのよねー」
 からからと笑いながら話すマイア。それを聞いて、ユーリィは。
「しかし、こんなマイア君をこそ、愛しく想う者も‥‥いると思うのである。きっと、気付かぬだけで‥‥すぐ、そばに‥‥」
 小さく小さく呟いて、ユーリィが隣を見ると。マイアがいたはずの空間には空気だけ。マイアは何かを目掛け一目散に駆けて行き。
「ごめんねユーリィ君、話あとで聞くからっ!!」
「あー、えーと‥‥いってらっしゃい?」

 ・ ・ ・

 見失った? などと呟きながら去っていくマイアを見送って、馬がその頭を外す。中から出てきたのはベアトリス・イアサント(eb9400)。マイアと同僚のクレリックであり、酒飲み仲間(?)。

 購入した被り物でマイアをやり過ごしたトリスは、中断していた買い物を続ける。どこかのおっさんが販売するすごい匂いのする保存食はきっと腐ってなんかいない。なんてったって保存食だし。
「やれやれ、マイアに見つかったらこいつを何て言われるか」
 トリスがその手に持っているのはハーブワイン、その数4本。先ほどマイアがワインを買った露店で『4本買った客』というのはトリスのことだった。教会でのお勤めを抜け出して酒を買っていたなどということになれば、マイアの長いお説教が待っている。まあ説教はしても本格的に告発とか大事にはしないでくれるのはありがたいが、その代償も大きく。
「お。面白そうなもん見っけ」
「あ! トリス君見っけ!!」

●ラブラブだけど一人ずつ
 多くの人が行き交う不用品市。その中をシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)は一人で歩いていた。はじめから一人で来たわけではなく、恋人のラッカー・マーガッヅ(eb5967)と一緒だったが、彼はついさっき一人でどこかへ行ってしまい。
「せっかくのデート、なんだけどなぁ‥‥」
 いつもはそれぞれに依頼を受けていたりしてまとまった二人の時間が取れなかったから、今日は良い機会だと思っていたのに。一人で調理器具のセット販売など見ていても、そんなに面白くない。
(「これ全部うちに揃えたら、ラクさんうちで料理作ってくれるかな‥‥?」)
(「この道具でラクさんがごはん作って、私がこっちのトレイでテーブルに運んで、そこに待っているのは子供達で‥‥」)
(「たまに子供達にラクさんが料理教えてあげて、それ私もやってみたらヘタクソで、「お母さんダメだなー」とか」)
(「ん? お母さん? ママの方がいいかな? そしたらラクさんはパパで‥‥っていうかなんてゆーか、色々まだだし! 早いし!」)
(「子供の名前はどんなのがいいかなー。男の子‥‥女の子‥‥」)
「ごめん待たせたねー。ってシシルさん、それ何?」
「え? あ、私いつの間に‥‥」
 ラクの声で正気に戻ったシシルの手にあるのは、調理器具セットの乗った銀のトレイ。まいどあり。

 ・ ・ ・

「そういえば、ラクさん何か欲しいものとかあるんですか?」
「え? あぁ、いやー‥‥俺はこうして一緒に歩けるだけで満足だよー」
「でもさっきは、一人でどこかに‥‥」
「あー、えぇと‥‥あれはね、ちょっと絵を描く道具を売ってるお店があって‥‥」
 ラクがそう答えると、シシルはそうだったんですかと笑顔で喜ぶ。以前ラクから貰った誕生日プレゼントのお返しを考えていた彼女にとって、絵描き道具がいいかなと目星をつけていたその読みが的中していたことは嬉しいことだ。そのお店では結局何も買わなかったと言うから、これから何か探しても道具がダブる危険もない。
「あ、ちょっとあのお店を覗いてみようかー」
「そうですね♪」

●残念賞は商品なし
「まったく、似た人がいると思ったら本人だったなんて。サボってお酒を飲むとか、若いクレリックとして‥‥」
「悪かったよ、今度は事前に誘うからさ」
「そーいう問題じゃないでしょ! とにかくお酒は没収。後であたしが飲むわ」
「結局は飲みたいだけなんじゃ」
「何か言った赤鼻?!」
「いーえ」
 マイアに見つかった瞬間咄嗟にトリスが変装として身に着けた真っ赤な付け鼻をマイアは指で軽く弾くと、トリスの荷物に入っているハーブワインを1本自分の荷物に移す。ちなみにトリス、予め他の3本は別のところに隠したためそちらはセーフで一安心。
「そもそもね、クレリックの勤めというのは世の平和を願い、人々の平穏な生活を祈るという大切なもので‥‥」

 ・ ・ ・

「さっき他人の首絞めてた人の言葉じゃあないよなぁ‥‥」
 遠くで『監視者』所所楽 柳が呟いた。

 ・ ・ ・

「そんな若い身空で酒ばっかり飲んでるとね」
(「こんな姐さんになっちまうのか。怖ぇ怖ぇ」)
「もう今日はお酒が買えないように、あたしが監視しててあげるわよ」
「監視ってまた暇人のやりそうなことを‥‥元は何をしに来てたんだ? 自分の用事はいいのか」
 延々と続くマイアの説教を聞き流しつつも辟易としていたトリスは、突破口を見つけるや否や状況の打開を図る。そして、それは案外簡単に成功する。
「あたしはね、買い物とこれの処分に来たのよ。あたしが持ってても仕方のないものだし。あ、買い物はもう終わったわ」
「何買ったんだ? いや答えるな。酒だろ?」
 正解。
「まーそれはともかくとして‥‥うまくその辺に船乗りさんとかいないかな? この竪琴、水難に遭わないって言い伝えのあるものだから、その筋の人に渡そうかなって思ってたんだけど」
「それ金だろ? そんなの買いたいって申し出て来るほど金持ちの船乗りなんてそうはいねーと思うんだけど」
「別に釣り合わなくてもいいわ。有り金出してくれれば」

 記録係注:『有り金出せ』=『提示できる金額で』

「へー、意外と太っ腹‥‥睨むな睨むな、その腹じゃねぇよ。けっこう気前がいいんだな」
「一応これでもあたしはクレリックよ? 奉仕の気持ちは心の片隅にちゃんとあるわ」
 片隅かい。
 まあそんなこんなで、声を上げてみたところ竪琴は船乗りではないがお金の無い吟遊詩人が欲しいと所望したため、彼に激安で提供することになった。
「さ、そろそろ帰るわよ。いいトリス君、もう仕事サボってお酒のみに出たりしちゃダメ。次はさすがに教会の方にも言っちゃうからね」
「はいはい」
「返事は一回」
「はい」
 日が暮れ始め影が長く伸びる市の中を、二人は帰路につく。
 話を後で聞くと言われ待っているユーリィのことは、きっともう忘れ去られているのだろう。

●市の中心で愛を叫びはしないけど囁いてみる
「お揃いの食器でも探しませんかー? やっぱり一緒に食事をするからには、一緒のお皿やカップが使いたいですしー」
 というラクの提案で食器を出品している店を二人で探していると、聞こえてきたのは自分の商品を宣伝する商人の声。「10代前の国王が使っていた皿」だの「天使にお願いを聞いてもらえる本」だのものすごく偽物くさい売り文句ばかりだが、しかしその文句の一つに、ふと意識を引かれた。
「こいつはね、ただのスプーンじゃないんだ。持っている人に幸せを呼んでくれるスプーンだ。アンタにとっての幸せってなんだい? 金? 収穫? なんだっていい。このスプーンは、きっと良い未来を運んできてくれる」
 周りで見ていた客からは「スプーンのくせに高い」とか言われているが、商人は幸せの効果は置いても銀製で大振り、仕方ないだろと反論する。
「あれ買いましょうか? 持っている人にとっての幸せを運んできてくれるそうですよー」
「スプーンなんか無くても、幸せは幾らでも‥‥もっと来るんですかね?」
 あー、甘い甘い。会話が甘い。見ていられないよまったく。
「スプーンでなくても、アクセサリーとかプレゼントしようかなって思ったんだけどねー」
「プレゼントはダメです。前にラクさんに誕生日プレゼント貰ったままでお返ししてないんですから。貰うのはせめてお返しをしてからです。ということで、はい!」
 結局スプーンをお揃いでラクがまとめ買いし、プレゼントするよと言いはしたものの拒否され割り勘。そしてシシルから渡されるもの。
「うきゅ? これは‥‥ペンですねー」
「こないだのお返しです。ホントだったらうんと悩んで、こっそり準備して、いきなり渡してビックリさせたかったんだけど‥‥依頼があって出来なかったから‥‥さっきラクさんがいなくなった時に、見つけて買っておいたんです。ラクさん絵描きさんだから、そーいう物がいいのかなって思ったけど‥‥何を持ってて何が足りないかとかすぐには分からなかったから、描いた絵にサインとか出来るように、ペンにしました。‥‥もしかして、他に何か、もっと欲しいものとか‥‥?」
「ううんっ、そんなことないですー! とても嬉しいですよーっ!」
「良かった! あ、そうだラクさん、せっかくですしお食事とかもしていきません? その、滅多にないデートなんですし! ごはんはラクさんのごはんが一番好きですけど、たまには‥‥」
「俺は、‥‥‥‥‥‥‥だけどー」
「え? 今ちょっとしか聞こえなかったですよ?」
「あ、いやー、外食はたまにするから美味しいんだーって話ですよーっ」
「そ、そーですね、ごはんの話ですよね! ごはんの‥‥」

 正しくは。
 俺は、シシルさんのことがずっと一番好きですけどー。
 ごはんに取って代わられずに、正式にしっかりとなされるのはいつになるのか。実はけっこう、近い話なのかもしれない。

 ・ ・ ・

「創作意欲は掻き立てられるけど‥‥ちょっと必要以上に甘ったるい気もするね」
 知人の恋模様を観察していた柳は、くすくす笑いながら、食事処へ去っていく二人の背を見送った。これ以上見ていては甘み成分に侵食されてしまう。
「彼は、いつあれを渡すつもりなのか‥‥そのタイミングに出くわすことが出来たら、相当楽しいことになりそうだね」
 柳の言う『あれ』。時間をずーっと撒き戻し、ラクとシシルのデート開始直後。姿を消したラクが、露店の一つで見つけたもの。一対の同じデザインのリング。あいにく『誓い』によく使われそうなものとは少し違うが、それはそれでお洒落かもしれない。
 ぜひ、式の日取りが決まったら教えて頂きたいものである。