●リプレイ本文
●下調べ
「まず、ターゲットはこの屋敷の門を出て街中へ向かう。名はクリスティアナ。なかなか気さくな人物らしい、調べたらすぐ分かった」
と、ルシフェル・クライム(ea0673)が自身の足で調べてきたことを話す。
「お出かけのコースは、この通り。服装やアクセサリーの傾向から、水色が好きな色だと思います。あ、恋人はいないと聞きました」
アクテ・シュラウヴェル(ea4137)は調べてもらった情報を、
「よく来るお店はここだね。紅茶の葉っぱのお店。たくさん買っていくときもあれば、見るだけのときもあるみたい」
エルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638)は自身の魅力(?)を活かして(?)仕入れたらしい情報を報告。
「護衛をどうにかするのに都合の良さそうな場所は、ここと、ここの二箇所だろう。贈り物については‥‥アクテが相談に乗ってやればいいだろうかな」
時折アクテのほうをチラ見しながらセオフィラス・ディラック(ea7528)。
ひとつのテーブルを囲んで、クリスティアナの情報や行動ルート、アプローチ手法について話し合う4人。
「あのー」
「どうしたんです? ブライアンさん」
「何の話し合いですか?」
「お前の依頼だろうがよ!!」
見事に決まる百鬼狩りの必殺跳び蹴り。
●お買い物
「贈り物は、大抵の女性はお花が好きですのでお花は如何?」
プレゼント探しのためにキャメロット市街を歩きながら、路傍の花を見かけたアクテがそう提案する。愛・熱烈な恋を花言葉とする赤い薔薇などがススメどころだが‥‥
「花‥‥こういうのでもいいのかな」
ブライアンがしゃがみ込んで見るのはセイヨウタンポポ。
「セイヨウタンポポの花言葉には、愛の神託というのがありますね。ただ、別離という解釈もありますから」
「別離!!」
ガビーン! と伸ばしかけた手を膠着させるブライアン。その光景を見てアクテは微笑む。
「‥‥‥‥」
さらにその光景を見て表情には出ないが気持ち的に顔が引きつるセオ。ブライアンがクリスティアナお嬢様と話すときの練習になるだろうと口出しをしないが、ブライアンをその辺に弾き飛ばして川に叩き落してでも場所を代わりたい。
「贈り物は‥‥私が、その、想っている人には、髪飾りなどを贈ったな」
いつも堂々と真っ直ぐ前を向いて歩いているルシフェルが、微妙に顔を逸らしつつ場合によっては皆聞き逃してくれていても良いよ的な声量で言う。が、やはりここで聞き逃してくれるほど都合の良い人はその場には一人としておらず、
「髪飾りですか、後に形として残る物も良いですね」
「そうだな、この辺はどうだ?」
アクテの言葉に、セオが手持ちのアイテムの中から幾つか取り出して見せる。
「ブローチとかアクセサリーなど良いかもしれませんね」
ペンダントや髪留めを手に取るアクテ。その様子、視線や表情の動きを窺いながら、セオ。
「アクテも気に入ったのがあればもっていくといい、私が持っていても使い道がないしな」
「いえ、さすがにそれは悪いです。セオさんがいつか贈り物を贈る相手の為に、とっておいてください」
ニッコリ微笑んで、再び贈り物について思案を始めるアクテ。歩いていくその後ろ姿を見送りながら。
「アンタは、アンタはどうやって髪飾りを渡したんだっ!」
ルシフェルの両肩を掴んで前後にシャッフルしながら悲痛な声を上げるセオ。
よくよくチェックしてみよう。ルシフェルの指には誓いの指輪(しかもメッセージ付)、対するセオの指にはプロテクションリング。
こういった苦悩は恋をした者だけの特権である。ゆっくりしっかり、充分に苦しむといいだろう。
●面接対策
「こーゆーコトはエルにおまかせ!」
と他の3人に告げ、ブライアンおにーちゃんを引き連れてどこかに消え去ろうとしたエルだが、何か見えない力に阻まれて失敗に終わった。仕方なく、テーブルを挟んでの講義となる。
「一番大事なのは、何と言っても「相手のコトが大事だ」って気持ちを忘れないコト! 大事な人にはどうあってほしいか、何をしてあげたいか。それさえ忘れなければきっと大丈夫だよ」
「どうあってほしいか‥‥何をしてあげたいか‥‥」
「そうだな、例えば‥‥守ってあげたい、とか」
「守る‥‥防御力は万全そうなんだけど」
ルシフェルの言葉に、ブライアンが思い浮かべるは恐いお兄さんたち。
「守ってあげると一口に言っても、色々あるだろう。物理的な意味での、護衛という意味での『守る』の他にも、心の拠り所になる、いつでも安心して帰ってこられるその人の居場所になってやるとか」
セオの回答に、視線を宙に彷徨わせ考え込むブライアン。まあ、そのあたりについては実際にブライアンがクリスティアナと付き合っていく中で、彼が感じ取って決めていくことでもある。それより先に、まずはもっと基本的なことを。
「まずは礼儀正しく振舞うことが大事だろうな。これは女性と話すときだけとは限らないが」
ルシフェルのアドバイスに、セオが付け加える。
「あと、それに加えて話したい要件はまとめてから、要領よく話せ。聞いているほうがイライラしてしまう」
「礼儀正しく、要領よく‥‥」
「話すときには、話す言葉は気持ちゆっくりめで相手にきちんと伝わるように考えて話すことです。話し上手は聞き上手とも言うように、自分の話ばかり一方的にするのではなく、相手の話を聞いて、それに関心を持って考えて返事をして」
「言葉はゆっくりめ、よく考えて‥‥話し上手は聞き上手‥‥」
言われたことを口に出して反復し、暗記しようとするブライアン。自然とそういう振る舞いが出来るようになるのが最も望ましいが、それには時間がかかる。
「で、その他の細かいコトは、実戦も兼ねてエルが手取り足取り‥‥」
「「「それはもういいの!!」」」
周囲のツッコミに「えー」と不満そうなエル。まあそれは置いといて。
「でも、まずは最初に愛の告白をきちんと言うのが大事ですわね」
「愛の告白!?」
ガビーン! とブライアン。お前は一体何のためにギルドに依頼したのだ。
「とりあえず、何を言うかしっかり頭の中でシミュレートしておくといい」
ルシフェルがそうその場を締めて。
●お膳立て
「来た。恐い顔のお兄さんは5人いる」
セオがアクテとエルに告げる。護衛をどうにかするための襲撃ポイントその1である。セオの合図を受けて2人は所定の物陰へ。
「そこのあなた、ジーザスの教えについてお聞きになりませんか」
まず、襲撃(と言っては失礼なのか?)第1弾。ルシフェルが『敬虔なジーザス教徒』として教義を伝えたいと恐いお兄さんの一人を呼び止める。ひとりがとっ捕まったのに気づかず、お嬢様はお買い物のための移動を続ける。
「おい、さっさと来い」
ルシフェルに捕まったひとりを呼び戻そうと、もう一人の男がやってくる。が。
「あなたも、ありがたい教えについてお聞きになってください。ジーザスの教えの元に、清らかな世界を作り上げましょう」
逃げ道を塞ぎつつ、ひたすらに教義を語り続けるルシフェル。逃げようにも説き伏せようにも太刀打ちできぬお兄さん、非常に可哀想ではある。
(「これで2人‥‥あと3人」)
護衛の残りの3人も、仲間が2人もいなくなればさすがに気付く。後ろの方などを振り向いたり仲間の行方を捜す。そんな中。
「お嬢様!?」
一人の護衛の男が前を向き直った時見えたのは、人並みに飲み込まれるクリスティアナの姿。すぐさま追いかけようとするが、何故か自分の目の前にはジャパンにあると聞く『除夜の鐘』を突くための丸太。それが自分の顔面目掛け飛んでくる!
という、幻影。
スクロールのイリュージョンで護衛のひとりを無効化したのはアクテ。強烈に痛い幻影を見せられた男はその場に気を失って倒れる。
そんな事件に、残りの2人の護衛は気付かない。いや、もっと別の事に気を取られている。物陰から聞こえてくる魅惑の歌。
恋焦がれるは私の事?
ならばこちらにおいでなさいな
誰も知らない秘密の場所で
思うまま愛し合いましょう
エルのチャームの魔法で警戒が解かれた2人は、エメロディーの魔法に引き寄せられる。そしてそのままエルに導かれどこかへ消える。彼らが再び発見されるのは、クリスティアナの屋敷に深夜になってから戻ってくるその時。それまで彼らがどうなっていたのかは、見ていないので記録係は知りません。
「よし、今だ。行って来い」
自分が手を出すと荒事になってしまうと今回は手を出さなかったセオが、ブライアンに言う。彼が手を出さなかった本当の理由は、恐い顔のお兄さんにどこかで親近感を覚えたからとかそうでないとか。
「あ、えっと、えっと‥‥」
「早く行け! ぐずぐずしてると後ろから蹴飛ばすぞ」
「はっ、はいぃ!」
走っていくブライアン。蹴飛ばすぞと言った時にはもう蹴飛ばした後のセオは、溜め息を吐きながらその姿を見送る。
ブライアンが、クリスティアナに話しかける。贈り物は赤い薔薇の花。この後うまく行けば、ゆっくり会話出来るカフェに誘う予定になっている。
依頼は『話す機会を作る』ところまで。これ以上口出しするのは野暮というものだろう。ブライアンが帰ってくるまで、ギルドで待とう。
こっそり覗きに行った者がいるとかいないとかいう話は、見ていないので記録係は知りません。
「覗きに行ったのお前だろ」
あう。
●草葉の陰から
覗きに行ったがばれたので、追記として結果報告を。
ブライアンはどうやら、薔薇を渡しカフェに誘うところまでは成功した様子。それからしばらくの間談笑していたが、その会話の内容までは捕捉できず。
会話の後、ブライアンはクリスティアナを屋敷まで送り届け、無事に帰還。とりあえずお友達から、ということで、2日後にある彼女の屋敷でのお茶会に誘われたとのこと。
ジューンブライドの季節の突撃作戦は、何とか成功に終わったようだった。