たむける花束どこにある?

■ショートシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月16日〜11月19日

リプレイ公開日:2007年11月27日

●オープニング

 ロシアにまた冬がやってくる。
 草木は徐々に色を失い、次第には空から降ってくる白い雪に全て覆われ、染まっていく。
 その日冒険者ギルドを訪れた行商は、青いバンダナのギルド員にちょっとした相談事を持ちかけていた。

「なあ、今からでも採れる花とか、身近に無いものかね?」
「花か? まだ少し探せば、咲いてるのもあるんじゃないか?」
「いや、そうじゃないんだ。今だけじゃなく、これから‥‥冬の間中、安定して簡単に入手出来る花だ。まあ、俺も今の仕事始めてもう20年ちょっとだ、そんなの無いことくらいは分かってるんだが」
 ロシアの冬は寒く、雪深い。厳しい気候の中、花など。
 イギリスやノルマン、ジャパンの温暖な地域でなら採れる花もあるのかもしれないが、それはお世辞にも入手が容易とは言えない。距離もそう、価格もそう。
「冒険者なら、秘密の場所を知ってますみたいな奴もいるかと思ったんだが‥‥そううまい話は無いよな」
「探せば自分の家で植物の栽培をやってる奴もいるかもしれんがね。しかしどうしたんだ。いきなり花なんて、お前のツラに似合わん話を」
 お前にも似合わねえよ、と行商の男は立派な顎鬚を撫でながら、笑って言う。そして、少し悲しそうな目をして、続ける。
「いやな、ちょっと商売の途中で立ち寄った村で、小さい女の子に聞かれたんだよ。「毎月お花が欲しい」って。何でって聞いたら、それがまた健気な、可哀相な話でさ」
 話の続きを聞く前に、ギルド員はその村の位置を尋ねる。別に聞かずとも会話は出来るが、詳しい状況を知りたがるのは職業病だろうか。
 そして、その村の位置・名前を聞いたギルド員は、表情に驚きと懐かしさを滲ませる。
「確か、今年の頭にその村で事件があったな。墓を掘り起こす不審人物をどうにかしてくれっていう」
「そう、その村だ」
 ギルド員は重ねて驚く。ギルドに出された依頼の結果や関係者の情報などは、そう簡単に口外出来ない。だからギルドに貼り出されたことがある情報だけを掻い摘んで話したのだが。行商の男は、事件のあらましをひと通り知っているようだった。
 キエフから徒歩で1日の距離にある小さな村。そこで起きた不可解な事件。それは冒険者の手によって、病死した少年と人間好きのオーガの、悲しい友情物語だったと判明したのだが。
「マリーナという女の子なんだがね。友達の墓に頻繁に通っては、お祈りをしたり花を供えたりしてるんだ。だが、この時期になって供える花が採れなくなった。だから、色んな所を旅する俺に、冬でも採れる花はないかって聞いてきた」
「なるほど。だから身近で採れる、金のかからん花ね」
 ギルド員は少し考える。が、導き出す答えは。
「俺ならこう解決する。無理だ。諦めよう」
「また夢の無い話を。だから歳より老けて見えるんだ、お前は」
「仕事仲間には若いって言われるんだが」
「若作りって言いたいんだろ」
 そうなのか? と問いかけを乗せた怖い視線を、ギルド員は隣の若いギルド員に向けてみる。彼は「滅相も無い」と首を横に高速で振る。
「あー、そうだ。話が変わって、依頼をしたいんだ」
「おう。報酬はドンと出せ」
「俺は今度、もう一度この村に行く用があってな。その護衛を冒険者に依頼したいんだ。残念ながら報酬はそんなに出せんが、道中の食い物くらいはサービスする。向こうでの宿泊先の手配もする」
 行商の男が言う『この村』とは、先程話題に上った村。ギルド員は口元に小さく笑みを浮かべながら、依頼内容を書きとめていく。
「護衛と言っても、この道のりならそんなに危険は無いだろう? 他に何かあるよな?」
「ああ。折角だから、向こうに滞在する1日の間に、マリーナって子の相談に乗らせてやってくれ」
「必要な対価は多いぞ?」
「払うさ。素敵な女の子の素敵な願いっていう、金額換算不可能なものの欠片でな」

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea9508 ブレイン・レオフォード(32歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea9740 イリーナ・リピンスキー(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb2918 所所楽 柳(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec2843 ゼロス・フェンウィック(33歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

グリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299

●リプレイ本文

 1年。短いようで長く、長いようで短い時間。オリガ・アルトゥール(eb5706)ら、かの村に縁のある者達は、村がどうなっているのか思いを巡らせながら荷馬車の護衛を行う。イリーナ・リピンスキー(ea9740)、ルンルン・フレール(eb5885)、ゼロス・フェンウィック(ec2843)の3人は件の村で起きた事件に関わっていないが、各々に思うところがあって依頼を請け、そして今、かつての依頼の参加者から事の顛末や、触れてはいけなそうな話題について話を聞いていた。
「それで、花がいるんですね‥‥ありがとう、やっぱり当事者から直接と人伝に聞いた話とじゃ、心の伝わり方が違うもの」
 花の話、と聞いて飛んできたルンルンだが、これは是が非でも少女の願いを叶えてあげなければ、と決意を新たに。
 ところで。シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)が、自分を乗せてくれている馬を操る所所楽柳(eb2918)に頼んで、馬車の隣へと馬を移動させてもらう。それに気付いたブレイン・レオフォード(ea9508)は、空いた馬車後方に代わりに移動。
「おじ様、村は今どんな様子なんですか? マリーナちゃんは元気ですか?」
 それは本来休憩時間中にしようと思っていた質問だったが、先の休憩時間では、少し危なっかしく馬を操るゼロスが行商とぜひ話したい事があると言っていたために、順番を譲ったのだ。2回目の休憩時間でも良かったが、何となく我慢出来ず。ちなみにゼロスが話していたのは、温泉を見つけ、その温度を利用して冬に花の栽培が出来ないだろうかということ。温泉は掘れば出てくるようなものではないが、既に見つかっているものを利用することは出来るかもしれない。行商は少し考え、自分一人ではどうにもならない規模の話っぽいなと苦笑しながらも、考えてみようと言っていた。
 さて、シシルの質問への行商の答えだが。
「村は、いつもと変わりないな。この前行った時にはもう雪に覆われていて、俺が頻繁に行ける最後の機会ってことでだいぶ商売をしてきたよ。マリーナは、風邪も引かずに元気だ」
「そうですか。良かった」
 シシルだけでなく、その会話が聞こえた柳や他の面々も、一様に表情を緩める。陰謀だ怪物だと暗い話題に触れる機会の多い冒険者達にとって、こうした日常の平和に触れることはかけがえのない癒しになる。
「シシル嬢は、他人の娘より旦那の風邪を心配しなきゃね」
「え、ちょ、柳さーん?!」
「それとも、自分の娘?」
「まだいません!!!」
 顔を真っ赤にするシシルに、からからと笑う柳。
 こういった楽しい話も、かけがえのない癒し‥‥?

●白い村にて
 自分の仕事に向かう行商と別れた一行は、まずはマリーナの家を訪ねた。母親に呼ばれて奥から出てきたマリーナは、知る者が見れば幾分背が伸びていた。1年の成長がよく見える。
 シシルは自宅から持ってきた寒さに強い花を幾つかマリーナに見せると、それを適当な花瓶に入れてもらう。寒空の下でも咲く花がちゃんとあるのだと知ったマリーナは顔をほころばせる。
 花の一つ、ヴィオラを見て、母親は、その花は村の近くでも咲いているらしいと教えてくれた。村の猟師から聞いた話らしいが。
「でも、高い崖の上に咲いていたんだそうです。危なくてこれからの時期取りに行ってもらうわけにもいきませんから、雪解けの時期になったら、何本か取って来てもらって植えたり出来ればと思っていますが」
 もう一つのクリスマスローズについては、母親もマリーナも知らないらしく。ニコルの墓参りを終えたら村の周囲をよく知るであろう猟師達に聞きに行こうと、シシルは決めた。


「要はものではなく、気持ちですから。あなたがニコルを想ってあげる事が一番の供養なんです。‥‥きっと、彼も喜んでいますよ。友達がこんなに想ってくれているんだから。これからも、その気持ちを忘れないでくださいね」
 ニコルのお墓へと向かう道すがら。オリガがマリーナに語りかける。墓参りには供え物が必須なわけではない。大事なのは想い。その想いを示す一つの形が供え物であるだけだ。
「花を供えるにしても、生花の他に造花、木彫り、桂冠、何でもありますしね」
 到着した墓地。これまでに何度も掘り返されたりしていたニコルの墓は、今は静かにそこに在った。墓前には風で飛ばないように石が乗せられている枯れた花が一輪。墓は、他の墓に比べて雪の積もっている量が少なく、全体的に小奇麗だった。
「マリーナちゃんが、お掃除をしてるの?」
「うん、毎日じゃないけど、外に出られる日は毎朝」
 何も特別なことではないかのように話すマリーナに、尋ねたルンルンは驚かされる。ギルドの報告書に触れるより、直接関わった者達に聞く話の方がずっと心を打たれた。そしてそれらよりもずっと、この純粋な少女の一言が、想いの強さを感じさせた。
 少女の想いが真っ直ぐニコルにだけ向いているのは、あの事件に悪者がいなかったためなのかもしれない。大事な友達を奪ったのが不運の病ではなくあのオーガだったならば、悲しみの多くは憎しみに変わってオーガに突き刺さり、彼が退治されることで消え去っただろう。だが、向かい所の無い悲しみは、ただ一所、ほぼ毎日の墓参という行動に集約された。
 墓の前に並び、皆がひと通り祈り終えると、ブレインとイリーナは『お化け岩』に向かうとその場を去り、オリガもそれについて行った。シシルとゼロスは村の猟師の所へ話を聞きに行き、柳とルンルンはマリーナと共にそこで。
「マリーナ嬢、花の歌とか、ニコル君が好きだった歌とか、どういったものはないかな? 出来たらニコル君のために、君と一緒に歌いたいなって思うのだけど、お願いしていいかな?」
「うん、いいよ!」
 柳の求めに応じて、歌を二人に教えるマリーナ。それは子供向けで単純な歌だったが、単純である故に、ストレートに歌詞の思いが伝わる歌だった。
 ニコルの墓前で響く歌声。それは1年前の魂送りの歌に続いて、死後のニコルのためだけに贈られた二つ目の歌。

 ・ ・ ・

 お化け岩は、相変わらずだった。
 ニコルの墓に備えるための、石彫りの花を作る石を探しに来たブレインは、イリーナに手伝ってもらいながら材質や大きさが手頃なものを探す。あの墓に供えるならば、オーガが棲家としていたこの近くの石が良いだろうと考えたのだった。
 一方でオリガはお化け岩の中へ。ここにはかつてニコルのお願い帳も置いてあったが、そちらはオリガの娘が拾い、悩んだ結果ニコルの母親に渡している。
(「あちらで仲良くしていますか? あちらはモンスターも何もないんでしょうね、きっと」)
 そんなことを心の中で語りかけ。ふと思い出す。かつて自身を救った陽の精霊のこと。
「‥‥‥‥」
 つまらない陰謀や欲望に起因した事件事故で命を失った全ての者達に幸せが与えられ、救われていれば良いと思う。そうでなければ世界は不公平に過ぎる。
「オリガさん。こっちは用が済んだよ」
 声に振り返ると、そこには両手一杯に石を持ったブレインとイリーナ。腰から下げる小さな袋も一杯になっているところを見ると、相当な数を集めたようだ。


 その頃シシルとゼロスは、村の猟師宅にて温かいお茶をご馳走になっていた。そんなに上等な品じゃないがと言いながら出してくれたそれは二人の身体を内側から温め、香りは気持ちを和らげてくれた。
 シシルが尋ねたのは、クリスマスローズが育つことの出来る条件の揃った場所が村の近くに無いかということ。それがあれば、どこかから少し花を持ってきてそこで育て、増やすことが出来る。始めの花は自分の花でも良いだろう。
 だが、残念ながら条件が二つ以上揃いそうな場所は近辺には無く、幾つかの条件を満たす場所は猟師も時々しか行かない森の奥の方にしか無いようで。どうやら、ヴィオラの栽培方法を教えて、来年以降の糧にしてもらう他なさそうだ。
 続いてゼロスが尋ねるのは、付近に温泉の出る場所が無いかというもの。それがあれば、先に行商に話したように冬でも花を栽培出来るかもしれない。公には知られていなくても、知る人ぞ知る自然の湯が無いものかと期待していたのだが。
「そんなもんがあったら、わしは家財を持って引っ越すわい。あまり薪をくべずとも暖かく暮らせそうじゃしな」
 とのこと。お言葉、至極もっとも。まあ、そう都合よく見つかるものではないことはゼロスも承知の上なので、それほど落ち込みはしない。


 マリーナの家に帰ってきたマリーナと柳、ルンルンは、他の皆が帰ってくる前にマリーナの相談に乗ることにした。如何にして、冬の間も安定して花を手に入れるか。
「ジャパンで見た事があるんだけどね、お花の形をした食べ物を作って持っていってあげるのはどうかな?」
 ルンルンが提案する花のお菓子案は、貴重な食べ物を消費するというデメリットがあるが、しかし食べられなくなる前に回収してきて食べれば大丈夫という考えから。夏場だったらすぐに腐るし虫も寄るかも知れないが、冬ならばその心配は少ない。
 駄菓子菓子。もとい、だがしかし。冬といえば雪。一晩降っただけで花菓子は雪玉になってしまう。その雪が溶けたり凍りついた花菓子が溶けたりする時に出る水がお菓子をぐしゃぐしゃにしてしまうかもしれない。ニコルにも美味しいものを食べてもらいたいという願いはよく分かるが、ちょっとばかり現実的ではない。予めお供え物専用として作って供えておくなら、問題は無いのだが。
「3人とも戻って来てるな。こっちは大漁だったよ」
 煮詰まりかけの所に帰ってきたブレインとイリーナ。同行していたオリガはニコルの母親に会うために途中から別行動だ。
 ブレインが床に布を敷いてから広げるのは、大小様々な石。そしてどっかりと座り込むと、バックパックの中から錐や鑿などの工具。興味津々に覗き込むマリーナを前に、ブレインは適当な石の造形を始める。
「冬になって寒くなると、殆どの花は枯れてしまうけど‥‥こうやって作る石の花だったらずっと枯れない。僕は頻繁にここに来ることは出来ないから、長い時間楽しむことが出来る花を作って供えようと思うんだ」
 始めは大まかに砕き、少しずつ削って花を形成していく。イリーナはブレインの作業に合わせて、次に使う道具を用意しておいたり、造形についてアドバイスをしたり。柳はさらにその手伝いをしたいがどうしたらいいのか分からず中腰で立ったまま傍観している。
「これ、どうやったら出来るの?」
 マリーナが自分もやってみたいと言い出すと、イリーナが比較的材質の柔らかい石を選んで彼女に渡し、手を切らないよう注意をしながらやらせてみる。が、さすがに少女の力ではろくに削ることは出来ず。仕方がないと、イリーナは代わりに布で作る造花の製作方法を教えにかかる。
 一方で柳はようやくブレインの隣のポジションを獲得したが、やっぱりやるべきことが分からない。ゼロスとシシルが帰ってきて、ゼロスがイリーナに代わり木彫りの花の作り方を教え始めてイリーナがブレインの補助に戻ると、どうにも足手纏いだ。シシルがマリーナの母親に花の栽培法を教え、ルンルンがそれを興味深く聞いているところを見るとそちらの邪魔も出来ず、こうなったら村の様子をあまり見てないブレインの目となり耳となるために、村を見て回ってくるしか無いかという結論に至る。残念だが、帰り道での話題は増やせるだろう。

 ・ ・ ・

 ニコルの母親は、時間の流れもあってか一年前に別れた時よりは元気そうだった。今日は在宅していたニコルの父親が、母親とオリガに温かいお茶を運んで来る。両親でいつもと仕事が逆転しているのは、母親のお腹が大きくなり始めているからだろう。
「無事に産まれてきてくれると良いですね。産まれて、少し大きくなったら、ぜひキエフの方にも遊びに来てください。いつでも歓迎しますよ」
「ええ、ありがとうございます。本当はすぐにお礼に伺おうかとも思ったんですけれど、色々と用事が重なりまして。夏ごろからは、こんなお腹ですし」
 笑って、良いんですよとオリガ。互いに茶を一口飲んで。
「悪者じゃなかったんですよね」
 母親が言う。それはきっと、あのオーガのことだろう。村人達は皆あのオーガを怪物だと話し、オリガの娘から真相を聞いていた両親はその風潮に沈黙して耐えた。ニコルの死とオーガの関連について知らないマリーナは、あの通りだが。
「ええ。それは、間違いありません」


「あれ? オリガさん、用は済んだんですか?」
「はい。あなたはどうしてここに?」
 村を散策していた柳がオリガに声をかけると、そう問いが返ってきて。ブレインの隣にいられないのがつまらないから出てきたと言うわけにもいかず、散歩とだけ答える。
「人々は、分かりやすい構図を求めるのですね。私達と怪物」
「村の人は皆、僕達のことを怪物退治の英雄扱いですからね」
 人は皆、自分の物差しでしか物事を見られない。二極化された世界に例外を認めるには、その例外に自分で直接出会わなければならない。きっと、あのオーガはこの村では永久に悪者なのだろう。例外に直接出会った数名を除いて。
 少し歩くと、マリーナの家に戻ってきた。と、柳もオリガも、同時に家の異変に気付く。
「何ですか、あの騒ぎようは」


 二人が家の中へ入ると、そこには多くの大人や子供が集まっていた。ある者はブレインの石細工を見学し、ある者はゼロスの木彫り講座を聞いて製作を始めている。どうやら、何かしら楽しそうなことをやっていることを聞きつけた村人達が集まってきたようだ。
 木彫りの花を作るのも大変なマリーナの隣で、大人達はそこそこ短時間に、花に見える何かを作っていく。それを見てマリーナも負けじとスピードアップしようとして、でもやっぱりうまくいかない。
「花を作るのは大人に頼んで、作ってもらったのを持って行くのはどうだ?」
 ゼロスはそう提案してみるも、マリーナは意地でも自分で作りたいらしく。ならば、その辺の筋のいい大人に作り方をしっかり仕込み教師の代わりに仕立て上げておこう。
「墓に花を供えるのも良いが、それに拘る必要はない。ニコルが生前望んだこと、叶えられなかったことを代行し、それを報告するのも喜ばれると思う。何より大切なのは、貴女を想っていた一人の友達がいたことを忘れずに、彼の分まで幸福に生きることだ」
 マリーナの傍に座って、イリーナが話す。その言葉に、マリーナは深く頷いて。

●帰途
「だから、報酬は不要だ」
 村の様子を見られた。食事も貰った。宿泊先も手配してもらった。だから報酬は要らないと言う柳の言葉を、行商は喜んで承諾した。
 そしてキエフに帰り着いた柳は、いつの間にかバックパックにねじ込まれていた報酬に驚くのだった。いつの間にかの早業。これぞ年の功?