【最速の騎士】ノモロイ聖誕祭
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■ショートシナリオ
担当:香月ショウコ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月30日〜01月04日
リプレイ公開日:2008年01月17日
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●オープニング
大地を白く染めた雪が解けぬ間に新しい雪が降り‥‥深く深く降り積もる。水は凍り、生き物は息を潜める冬がロシア全土を多い尽くした頃に、神の子ジーザスは誕生した。最初のレースはその伝承に倣ったという説がある。三賢人のように、より早く駆けつけることができるように、と。
冬季の開拓は苦難が数倍にもなる。開拓のため伐採樹木の搬送もその要因の1つである。運ぶ代わりに数本の木をロープでしっかりと結びつけ、丘の斜面を滑り落とすのは生活の智慧。それに併走するため、割った丸太をソリ代わりにして皆で滑り降りたのが最初だとも伝えられている。
古くからロシア王国に住む人々が、新年の吉凶を占うために動物を争わせたのが最初だと言う者もいるが──実際のところ、どうして始まったのかなど今となっては知る者はいないのだ。
しかし、現実として、聖夜祭時に様々な雪上レースが行われている。
所持金を増やし聖夜祭を楽しむ金を作るために賭ける、賞金を稼いでより良い年を迎えるために参加する、数少ない娯楽として観覧して酒を飲む、緩い懐を狙って様々なものを売る、そんな様々な目的を孕んだ聖夜祭の楽しみの一つとしてロシア王国の長くは無い歴史にしっかりと根付いた。
そして今年も、走りっぷりで新年を占うと称して数々のレースが執り行われることとなった。
●ノモロイ聖誕祭
何とかこの年は無事に終われるだろうか。ギルド員はそんなことをぼんやり思っていた。
去年は最悪だった。悪魔の騒動や悪魔の村やエトセトラ、エトセトラ。今年は悪魔騒ぎは多いとはいえ、例の事件の方は1度しかギルドでは聞いていない。
このまま、全てフェードアウトして消え去ってくれれば、精神的に平和な日々がやってくるのだが。
そんなことを考えてしまったが最後。噂をすれば影。年の瀬忙しいこの時期に、奴らはやって来た。
「やあ、今年もノモロイ村から愛と平和の使者が来たよ!」
「帰れキサマァァァッ!!!」
もういい加減情け容赦をかけてはいられない。これ以上こいつらを野放しにしておいてはキエフが滅ぼされてしまう。罪を憎んで人を憎まず、像を憎んで人を憎まず。しかし今このポリシーを捨てる! ギルド員は自身の座席の下からショートボウを取り出すと、即座に矢を番え、ノモロイ村の村人に向けて射撃する! いや、さすがに狙ったのは背中の巨大な袋だが。
村人の背負う袋に迫る矢。しかしそれは謎の巨体に阻まれる。矢はその巨体に激突すると、折れて床に落ちる。
「おお、助かったよ僕らの守護天使(注1)」
『ま゛』
「動いてる! 何だその動いてるヤツは!!」
・ ・ ・
謎の護衛出現により話を聞かざるを得なくなったギルド員は、渋々村人に依頼内容を話させる。どうやら、去年の同じ時期にやらされた宣伝レースと同様らしいが。
「今年は販売レースは受けられんぞ。帰って来られなくなった冒険者もいたんだ」
「大丈夫ですよ。今年はソリで天使像を引っ張って、街中を練り歩くだけです。題して『第2回ノモロイ杯 天使運搬レース』!」
むはー、と守護天使が両手を上げ、村人が床に下ろした袋から飛び出したノモロイの天使初期型(注2)3体が飛び跳ねる。‥‥喜んでいるのだろうか?
天使運搬レースは、コースは昨年と同じく冒険者ギルド前を出発、エチゴヤまで走り、闘技場の前を通過し、酒場を横目に、ギルドまで戻ってくる。これを1周。参加者は2人1組となって、ノモロイの天使1体、聖夜の天使(注3)13体を積んだソリを引っ張り、像を壊さずに可能な限り早くゴールすることを目指す。また今回はエチゴヤ・闘技場・酒場の3箇所にチェックポイントが設けられ、参加者は各チェックポイントに1体ずつ、出走者のマークをつけた聖夜の天使を置いて来なければならないというルールが追加されている。
「あと、このレースでは途中3箇所、障害を用意してあるんだ。エチゴヤと闘技場の間ではこの僕らの守護天使4体が、酒場からゴールまでの間ではこっちのノモロイの天使20体が、ソリの上の荷物を狙って襲ってくる。闘技場と酒場の間には、ソリのバランスを崩すために小さい穴とか段差を準備するんだ。ああもちろん、穴も段差も通行人の邪魔にならないように抑える」
「何だか、去年のよりだいぶ普通のレースらしくなったな。何か悪いもんでも食ったか?」
「やだなぁ、そんな。実は、今回のレースにはスポンサーがついてね。そのスポンサーの意向もちょっとだけ取り入れて、こういう形になったんだよ」
「スポンサー? そういえば、去年はこいつらは動いていなかったが‥‥」
「そう、よくお気づきになりました! 紹介しましょう、こちらが我らの頼もしいスポンサー、エレオノーラ・イロフスキー広報顧問であります!!」
じゃじゃーん、と村人が紹介の言葉を高らかに宣言すると、どーんとギルドの扉を開けて登場するマント姿の女性。
「そう、あたしがニコラエフ家魔術顧問兼ノモロイの天使広報顧問兼キーラ様親衛隊長、エレオノーラ・イロフスキーだっ!」
超大声の名乗りに、ギルド内の人々の注目を集めるエレオノーラ。それを見て、ギルド員は頭を抱える。あーあ、何だかまた濃いのが出て来ちゃったよ。
そういえば、エレオノーラが言ったニコラエフ家といえば、以前悪魔騒動のあったイグルノフ家の領地を引き継いだ、無名の地方貴族だったとギルド員は記憶しているが。一体何の関係があるのか。
いや、多分無い。
・ ・ ・
注1:身長1m、重さ28kgの巨大焼物人形。体型はボン・ボン・ボン。
注2:ノモロイ村で生産される焼物で最初期のもの。一部に天使のようだと形容されるが、呪物という声が根強い。
注3:全身を赤く塗装、軽量化・小型化も行い通常の3倍量持ち運べるよう改良された聖夜祭仕様の像。
●リプレイ本文
「噂には聞いたことあるけど、ノモロイの悪魔もとい天使って、どんなんやろう〜」
「知らん方が幸せだと思うぞ」
クレー・ブラト(ea6282)の、依頼を受けてその集合場所に来てからの今さらの疑問に、マクシーム・ボスホロフ(eb7876)がそう説く。マクシームは、しっかりとノモロイ像がどんなものか、その恐怖を知っている。‥‥なら何で依頼受けたんだ? あんたも好きねえ。
「このノモロイの天使のポイントはね、このちょこちょこっと出た手の角度でね‥‥聖夜の天使になると手の角度が変わっちゃって少し残念なんだけど、代わりにほら、この首のうなじが‥‥」
天使ってどんなのとか口走ったから、エレオノーラにとっ捕まるクレー。マクシームは巻き込まれたくないのでクレーを見捨て、クレーはこれから延々レース開始まで自由を奪われるのだろうかと若干の不安を覚える。
そこに、助け舟。
「エレオノーラ、ノモロイの像には何か新作は出たのか?」
1年前のレース出場者にして優勝者、『ノモロイ販売委員長』イリーナ・リピンスキー(ea9740)。別にクレーを救うことが目的ではなかったが、ちょうどそんな質問を考えていたために尋ねてみる。
「よく聞いてくれました! まだ正式発表には早いんだけど、ここだけで発表しちゃう! 何とその名も‥‥『塵も積もれば天使』!!」
何だそりゃ。
「小さな善行も積み重ねていけば大きな幸せに繋がるってことを教えてくれる、素敵な像だよ。今回の『塵も積もれば天使』は今までのシリーズには無かった全くの新機能として、四角錐状に積み上げやすい形状をしてるのよ」
いかにもすごいものを表現するように言ってのけるエレオノーラだが、積み上げたからといって別に恩恵があるわけでは無いだろう。威圧感が増すだけで。
「ちなみに、色は全12色」
知らん。
「要らない?」
要らん。
「その新作、ユーリーという男性から予約は入っているか?」
「あれ? 知り合い? もちろん! 優良顧客だよ」
そんなバカな、と思うのは記録係だけではなくマルフィ・ストール(ec4337)も。ノモロイ像に免疫が無いだけではなく冒険者としての事件事故への接触経験も浅い彼には、こんな日常に入り込んで来る天変地異など直視出来ない。その天変地異を笑顔で運んで来るノモロイ村の村人やエレオノーラなどはこの上なく怪しい超危険要注意人物なのだが、しかしこれは認識を改めねばならない。怪しいのは村人やエレオノーラだけでなく、ユーリーとかいう人もだ。これを予約注文など。
「ふむ‥‥レース後に私も1つそれを頂いていいかな? 正式発表前だから遠慮してくれというなら、引き下がるが」
「いーや、大丈夫だよ。もう正式発表は半月後だし、ユーリーさんの知り合いみたいだし」
さらにマルフィのブラックリスト更新。イリーナも追加。
「すまないが、レース中に像を守るための梱包材はどの程度まで認められるんだ?」
ゼロス・フェンウィック(ec2843)が村人に問い合わせるのを聞いて、さらにさらにマルフィは驚く&リスト更新。ノモロイ像ってそんなもの使うほど大事なものなのか!? いやまぁ、ゼロスが梱包材を求めているのはレースでの減点防止策なんだが。しかしもうそんなことを考えていられるほど心に余裕は無い。普段ならこんなことはないが、今現在この周辺はノモロイフィールドによって包まれているのだ。正気を失っても仕方ない(のか?)。
ちなみに、梱包材については村の方で既に用意していた。それをどのように使うも参加者の自由。
何だかもうマルフィには、クレーとマクシーム以外全員が怪しく思えてきた。
「挫けるな、少年」
「そうだよ。洗脳されない程度にレースを楽しまなね」
そんなマルフィの思いを感じ取ったか、マクシームとクレーがそう励ます。が。
「え、クレーさんその服何ですか?」
「ほら、襲ってくる天使像を壊すんやから、自分らは悪魔かーて思って。まるごとこあくま。‥‥べ、別に着たかったわけやないよ? ノモロイ村の人のショックを少しでも和らげよー思って‥‥」
ふーん。着たかったんだ、ふーん。
ところで。改めてイリーナが名乗った自身の称号にエレオノーラは大喜び。ついさっき新作1体買っていいよという話になっていたのを、じゃあ新作1体無料サービスでとニコニコ笑顔のサービス宣言。まあ、手間は多少かかってるだろうが原材料費は村の近くの粘土だからゼロだし。
「なあ。エレオノーラさんはイグルノフ家の所領を引き継がれた方に仕えておられると聞いたんだが、最近の街の様子はどうなんだ? あの街には以前訪れたことがあってね」
やって来て尋ねたのはマクシーム。デビルから今度はノモロイの恐怖に侵された街の様子が気になるのだった。イリーナも、その地方に関連した依頼に関わったことがあって聞く体勢。
「んー、今のところはデビルがどうこうってことは無くなったかな。キーラ様も聡明な方だし、これから生活は安定していくと思うわ。ただ悩みの種は『路地裏の野良猫』っていう集団かな。前の領主の悪政に反発って主義から、今はニコラエフ領の政治の主導権を民衆に寄越せって言ってきてる」
何とも、微妙な状態。火種は消えていないように感じられる。特にもマクシームには色々思うところがあるのだが、しかし。
そう、ここは既にノモロイフィールド。シリアスな方面へ話は進まない。
さて、組分けは完了、レースは3組で争われることとなった。それぞれに準備に余念の無い、その様子を簡単にリポートしよう。
クレーとマルフィの組は、まるごとこあくまと完全武装で戦闘の準備は万端。幾らでもノモロイ像を破壊出来る。マクシームとゼロスの組はソリが雪道に填まった場合の対策に大きい石とスコップを積んだり、像を梱包しつつ宣伝用に顔は出し、また視線を沿道に向けて精神的負担を軽減。イリーナはエレオノーラから文句を言われつつも像を完全梱包し、これで道中壊れる危険はほとんど無い。ちなみにエレオノーラに使える魔法を聞いたところ、クリエイトゴーレム・アグラベイション・グラビティキャノン・ローリンググラビティとのことで。
「ねーねー、ところでさ。この像達に魔法かけて一緒に頑張るってのは?」
「結構だ。要らない」
壊れたら減点だしねぇ。
・ ・ ・
とりあえず、無事にレースは始まった。それぞれ牽引はクレー、ゼロス、イリーナ。マルフィ、マクシーム、エレオノーラはソリを後ろから押す。ギルド前を出発した3組はほぼ併走状態で最初のチェックポイント、エチゴヤ前に到達した。
レース開始前の村人やノモロイ愛好家らの予想では、体力のありそうなクレーやイリーナが牽引役を担っている2組がやや強いかと見られていたが、しかしクレーはエチゴヤ通過後の襲撃に備えて1度デティクトアンデットを使用している間に追いつかれ、イリーナは「ひひひー、待ってー!」とか言ってそのへんでコケてるエレオノーラを待ったこともあってまともに走れない。それでもまあ、まだ互角。
各チーム、自分達の名前やいたずら書きを書いた聖夜の天使をエチゴヤ前に置き、客の冒険者にすさまじく嫌がられながらも次のチェックポイント、闘技場を目指す。
「そろそろ‥‥かな?」
ソリを一度止めると、クレーは意識を集中させて再びデティクトアンデットを唱える。ノモロイ像達が現れる方向を予め把握し、対応を容易にするためなのだが‥‥
(「頼むから、かかってー!」)
とかクレーが願っているのは、もしこの魔法での探知に僕らの守護天使がかからなかったら、ノモロイ像が生物であるという疑惑が生まれるからだった。もしあれが生物だったら、自己再生・自己増殖・自己進化‥‥想像なんかしたくない。
と。
「かかった、向こうや注意して!」
後ろのマルフィに注意を促しつつ、危険ゾーンへ踏み込む。それと同時に物陰から現れるヤツ。
『ま゛』
出現しゆっくり接近して来る僕らの守護天使に、マルフィは立ち止まって詠唱、グラビティーキャノンを放つ。魔法の重力波を額に直撃された守護天使は微妙に砕けながらすっ転び、空いた安全なスペースをクレーが懸命にソリを引いて駆け抜ける。
他の守護天使3体のうち、2体はイリーナとエレオノーラのソリに向かっていったのを思いっきりチェーンウィップで殴られた。蚯蚓腫れならぬ蚯蚓割れでわたわたしているところに2発目を入れられ、完全に怯んだところをソリが抜ける。エレオノーラ涙目。
ラストの1体はマクシームとゼロスのソリを追っていたが、ここぞとばかりにマクシームが思い切りソリを押しまくり、逃げた。道は既にマルフィやイリーナが開けてくれていたので、割かなきゃならない労力はゼロ。漁夫の利というやつだ。
僕らの守護天使達はその鈍足で精一杯闘技場までは追ってきたが、ある程度まで近づくとその場で停止した。どうやら守備範囲を決められているようだ。
闘技場から酒場へ向けてのコースには、イリーナとエレオノーラのソリがトップで突入した。いけいけゴーゴーと号令だけは元気なエレオノーラがイリーナを急き立て、コースのデコボコから受ける被害を最小限に済ませられる道筋を見極めつつ、駆け抜ける。がっちり梱包されたノモロイ像達にダメージは無い。
2番手で直後に飛び込んできたのはクレーとマルフィ。道行く人々から声援ならぬ笑い声が飛んでくるのはきっとこあくま君のせい。時折ほんのたまに純粋な歓声と悲鳴が上がるのは、地面の小さな穴に引っかかった時に落として割った2個の聖夜の天使ゆえ。
少し前に守護天使との戦いをスルーしてきたマクシームとゼロスは3番手でこのエリアに。1位、2位とは少し差があるものの、急げば充分追いつける。
が、しかし。ここで2人はスピードを若干落とした。積荷の像は多少包んであるとはいえ落ちる危険性はある。減点を防ぐために、速度を落とすことで道の選定をより確実にし、またもし穴に填まってもダメージを和らげるのだ。おかげでこあくま達が像を落としたレベルの段差や穴も難なく通り過ぎる。
(「思ったよりも窪みが浅いな。この分ならこいつらは要らないか?」)
と、マクシームはソリを押す手を一瞬休め、積んでいた石を放り捨てる。幾分かの軽量化を行ったソリは、酒場にて聖夜の天使1個とスコップを置いてさらに軽量化。ゴールの冒険者ギルドを目指し、1位と2位を追いかける。
ラストの酒場〜冒険者ギルド間は地獄の様相を呈していた。クレーが探知の魔法をかけるまでもなくわらわらと出てきたノモロイの天使達は、適度に分散していてマルフィに魔法の的を絞らせない。単品を、1個ずつ剣と弓矢で撃退していく。
「くたばれ〜、ノモロイのあ‥‥天使め〜!」
「そんなおイタをしちゃダメ〜!!」
クレーとマルフィのソリの横の方から聞こえる声。ソリを押すのも忘れ悲鳴をあげるエレオノーラ。おかげで大迷惑のイリーナ。
「ソリを押さないならせめて、魔法で援護でもしてくれ」
チェーンウィップで天使を1個破壊しつつ、イリーナが注文するが。
「でもこの子達壊したくないし‥‥」
隙を見て、天使2個が荷台に乗る。微妙に重くなるソリ。瞬時に鞭に叩き落され、約1名涙目。
「アグラベイションが使えるのだろう?」
「この子達動かすのに魔法は使い切っちゃって」
てへ。
何で今になって言うか。ていうか回復しといて。
そこに、後方から高速で追い上げて来るソリが。ウインドスラッシュを放ちながら思いっきりソリを引っ張って来るゼロスと、メイスをぶん回しながら自分も牽引役に加わったマクシーム。ここまで体力を温存し、敵の排除も他ペアに押し付けてきたためエネルギーは充分。クレーやマルフィは対ノモロイ像に体力を消費し、イリーナは相方の役立たず度合いに足引っ張られまくり。エレオノーラは言わずもがな。
ギルド入り口前のゴール直前で2位と3位が入れ替わり、1位と2位は僅差でゴール。後はその他判定によって、最終結果が決定される。
・ ・ ・
「それでは、優勝者のお二人には栄光の称号をお贈りします!」
ゴール後、積荷の確認が行われた。イリーナ、エレオノーラ組とマクシーム、ゼロス組は被害無し、クレー、マルフィ組は2個損失。よって着順のまま順位は確定するかと思われたが。
「イリーナさん、ダメですよこの包み方じゃ。道行く人が像を見られません」
と、販売委員長と広報顧問にしては痛恨のミスが発覚。
対して。
「マクシームさんとゼロスさんのは、ちゃんと保護しつつ顔は見えてますし、目は沿道を向いていてアピールも充分ですね。いいです」
とか。
そんなわけで。
(「これでようやくヒラに戻れるのか‥‥」)
沈んだ表情で村人やノモロイ像、ノモロイ愛好家達の拍手に包まれているマクシームとゼロスを見ながら、イリーナはそんなことを思ったが。
「お二人にはこれから、『ノモロイ運搬委員長』『ノモロイ運搬副委員長』として頑張って頂きます! 他の皆さんも、販売委員長のイリーナさんも、次回は是非優勝を狙ってください!」
「は?」
そんなバカな。レースで優勝してないどころか、像の宣伝もしなかったイリーナが、なぜ委員長のままなのか。罷免じゃないのか。
「ほらあれですよ。ちょっとした力不足とか失敗とかは、任期一杯まで一生懸命務めて職責を全うすることで取り返しますっていう。あ、ちなみに委員長その他は余程のことがない限り終身栄誉職ですよ」
突然告げられた真実。終身。つまり、そう簡単にゃ消えない称号。
「頑張ってー」
「元気出してな〜」
言いながら他人事のように拍手を贈るマルフィとクレーはいつの間にか微妙に遠ざかっていて。
まあとにかく、どうかお三方には挫けずに頑張って頂きたい。ずっと。
ちなみに、ノモロイの毒気に中てられたか、レース後に記録係が発熱や腹痛に襲われたとかそうでないとか。恐るべしノモロイ伝説。