●リプレイ本文
●Q1 自分は何で寒空の下でこんな事をしているのでしょうか? A1 運命(サダメ)です。
「い、良い天気ですね」
「そうですか? 雪降ってきそうですよ」
イオタ・ファーレンハイト(ec2055)は隣に長身の恋人を連れ街中を歩いていた。恋人の名はフォン・イエツェラー(eb7693)。イオタと同じく騎士で、イオタと同じく男性である。残念ながら男装の麗人ではない。
買い物デートで街中を練り歩く彼ら2人を、周囲の人たちが微妙な視線で見つめる。時にはこっそり指差してヒソヒソ話。フォンは身長以外素晴らしい女装をしているのに何故バレたのか。いやその前に、そもそも何故こんな状態に彼らがなっているのかというと。
話は少しだけ、昔に遡る。
●Q2 どうして囮役への援護は間に合わないのですか? A2 仕様です。オイシイと思ってるくせに。
「報告によれば、17〜28歳の細身、やや筋肉のついた男性、一般的にはイケメンが狙われるらしいぞ?」
冒険者ギルド内、とある相談場所。変態サンタ捕縛作戦案として囮捜査が話題となった時。馬若飛(ec3237)がニヤニヤしながらそう告げた。そう、その条件に当てはまるのがイオタしかいなかったからだ。
焦るイオタ。この仕事、単なる囮で済むはずがない。本能がそう叫んでいた。
「誘き寄せる先はイオタ氏の自宅をお借りするとして‥‥助けに入るタイミングはどうしますか?」
「即座に! すぐ! 一瞬で!!」
ゼロス・フェンウィック(ec2843)にイオタは心から願い奉るが、しかしゼロス以外は邪悪な笑みのまま‥‥いやいや、気のせいかな?
一応、これは仕事なのだ。これ以上被害者を増やさない目的で出された依頼なのだから、皆は今は笑っていても変事にはすぐ行動してくれる。そう思う。信じている。が、しかしこういう時、大抵の場合早い段階での救助はあり得ないという神のいたずらの存在、イオタ自身承知している。
「で、相方の恋人役はどうすんだ? 年齢的には睦美が自然か‥‥」
「あら、別にわたしだって不自然ではないでしょ?」
ニコリと200%笑顔を向けるマイア・アルバトフ(eb8120)に、黙り込んでしまう若飛。別に彼は何も悪いことを言っていないと思うのだがこのプレッシャー。ほら、年上過ぎとか老けてるとかおばさんとか言ったら仕方ないとは思‥‥ぐえっ!!
「恋人役なのだが。ここはイオタ殿×フォン殿というカップリングを成立させれば、サンタが網にかかる確率も高まると思うのだが、どうだろうか?」
「「ぶふっ!」」
降って沸いた香月睦美(eb6447)の爆弾発言に、当事者2人が咳き込む。
「ちょっ、それ、もしバレたら俺がキエフにいられなくなりますよっ!」
「サンタは男女のカップルを壊したいんじゃないんですか‥‥!?」
「いえ‥‥依頼内容をよく確認してください。よく読み込んでみると、サンタが女性を尾行するのは、男のところへ案内させることを目的としているようにも思えます。そう考えれば、男女のカップルである必要性はありません。女性への被害は無いわけですから、襲われた男性が襲われたことを黙っていれば、2人の関係に変わりはありません」
ハロルド・ブックマン(ec3272)の指摘に、依頼内容の書かれた羊皮紙を食い入るように見つめるイオタ。確かに、そうとも読める。
「でも、だったら恋人役は順当に女性を当てはめても大丈夫なのではないですか?」
「あら、イオタ君があまりにタイプ過ぎて、暴走して道端で襲ってくるかもしれないわよ。女性も巻き添えを食うかも。2人は女性にそんな役目を押し付けていいのかなー?」
ナイトには騎士道という決め事というか何というかが。それを突いたマイアの脅迫はあまりに強烈で。
「く‥‥わ、分かりましたよ。フォンさん、腹括って頑張りましょうか」
「何!? イオタ、お前やっぱりそっちの気が?!」
「違います、女性を危険な目に遭わせるわけには行かないので止むを得ずです! ちゃんと会話の流れ追ってきてください若飛さん!」
「妙な気性の持ち主が多いのは、英国のお国柄だと思っていたのだが」
「違いますって!」
エムシ(eb5180)の言葉に、そろそろ泣きたいイオタ。
「変態とは、変態性欲の略。また、その傾向のある人」
呟くハロルド。何故かイオタを見ながら。
「ヒトとして、変人とは呼ばれても変態とは呼ばれたくないものです」
「これはアレですよね、イジメですよね‥‥」
こうやって男性陣が遊んでいる一方で、女性陣と女性の仲間入りをすることになった男性は仕事に移った。睦美は囮へのサンタの食いつき確率を少しでも上げるため、イオタにはフォンという彼女が出来たというような内容の噂を広めに出発。これが後々フォンを知る冒険者に伝わってフォンは『彼女』ではなく『彼』という真実が広まり、冒頭の微妙な視線へ繋がっていく。イオタの『守るべき一線』、もう既に伏兵によって側面からぶち破られているような気がしないでもない。
フォンはといえば、どうやら女装が決まったらしいのでマイアに服装選びなどを手伝ってもらうことになった。早速フォンの身体中のサイズを測るマイアはとても楽しそうに。
「うーん、クラースヌイなんか似合いそうよねー」
「でもそれ貴族用の服なんですよね。ちょっと今回のには合わないと思います」
「じゃ、これかぶって目立ってみる? スターキャップ」
「お星様は別の意味で目立ちますよ。もうちょっと普通の女性服で‥‥」
「もう、文句が多いわね‥‥エチゴヤまみれにするわよ?」
「すいません」
結局、普通の女性用冬服に落ち着いたわけだけれど。しかしメイクもばっちり、肌も綺麗で、十人中十人が、フォンのことを女性だと見間違えるだろう出来に。
ま、睦美がしっかり噂を流しているので、十人中十人が女装騎士だと事実を把握してくれるのだが。
さて、そんな囮達の涙ぐましい努力によって、獲物は‥‥
●Q3 もし彼女を家に連れ込んだらどうなりますか? A3 面白くなります(色んな意味で)。
陽が傾き、その日のデート終了時間。イオタとフォンは2人でイオタの家の方へ向かい、家のすぐ手前で別れる。フォンがイオタに見送られて姿を消し、イオタが家の中へ入ると。
程近い茂みの中で、影が動いた。
「奴は?」
「あそこだ。あの茂みから家の中を窺ってるな」
サンタが潜むのとは別の茂みの裏で、若飛が合流したフォンに伝える。同じ場所に隠れていたハロルドがフォンに剣を渡し、麗しき女装騎士、戦闘準備完了。
と、茂みに動きがあった。サンタはその場で2、3度屈伸運動をした後、しゃがみ込んだのだ。姿が茂みの中に完全に隠れてしまう。
しかし心配は無いはずだ。その茂みはイオタの家の近くまで繋がっていないし、街の方へも続いていない。攻めるにも退くにも、必ず1度は姿を見せる。3人は油断無く監視を続けた。
屋内の警備は厳重だ。イオタは一番広い部屋で剣を握り締めて待機。隣室にはマイアと睦美が控え、窓から時々外の様子を窺いつつ、異変には即対応出来るよう気を張っていた。
さらに、イオタのいる部屋の奥には置物に擬態したゼロスのゴーレムが、そしてそのすぐ足元にはパラのマントを被ったエムシも待機中。屋根の上ではゼロスが投網を持って待っているという鉄壁の布陣だ。
しかし、残念ながら誰も注意していない抜け穴が存在していた。それは‥‥
ふと、感じる寒気。イオタの背後に立つ、謎の影。
段々と暗闇が広がる中、外の茂みから警戒している3人は首を傾げた。まだサンタは顔を出さない。ふと、フォンがイオタの家の方を見ると、イオタのいる部屋の窓から漏れる光が見えた。まだ室内で明かりをつけるほどの暗さではないが、戦闘に支障の出ないよう早めにつけてもらっているそれ。暗闇をきっかけに狂化するフォンは、まだ事件が起きないのであれば、裏に回りこんで室内に入らなければ。
‥‥一応言っとく。夜這いではない。
と、その窓が急に大きく揺れた。何かがぶつかった衝撃で一度全開になった窓から見えたのは、イオタの背中と彼の前に立つサンタ。
「中です! 奴はもう中に!」
フォンの言葉に若飛は茂みから飛び出し、同時にマイアと睦美に気付けと手振り。フォンとハロルドも彼に続いて駆け出す。
が、しかし。
「きゃあっ、変態!?」
薄暗がりの中いきなり目の前に飛び出してこられたもんだから、そう叫んでしまう女性。イオタを助けに行くのと自分達への誤解を解消するのと、どちらを優先すべきか。
隣の部屋から一度物音が聞こえたが、それほど大きい音でもなく、またそれに続く声や物音も無いことから、睦美はドアを開けようと出した手を引っ込める。窓際ではマイアが、手を振ってきた若飛に手を振り返していた。
変態サンタはとても慎重な性質なのか、未だやって来ない。
屋根の上で防寒対策完璧に待っていたゼロスは、茂みを飛び出してきたハロルド達3人を見、異変を察知した。この家に近付く者はいなかったが、あの様子を見ると既に侵入を許してしまったようだ。考えられる侵入経路は地中。アースダイブの魔法か。
網を上から落として動きを封じるつもりだったが、もう中では戦いが始まっているだろう。家を破壊しすぎぬよう、早急に片付けねば。
ゼロスは投網だけを持って屋根から下りようとして、そして。
「君。キエフには家を建てられる土地がほとんど残っていないからって、他人の家の上に住んじゃ駄目だよ」
憲兵に声をかけられた。
サンタの侵入に最も早く気付いたのはエムシだった。すぐさまイオタと協力して叩きのめしたいが。
(「隙が、ほとんど無い‥‥」)
斬りかかる前に気付かれ、避けられた挙句反撃される。それならまだマシだ。しかし目の前にいる男からは、斬りかかるために立ち上がった瞬間、先制攻撃を加えられそうな気配があった。姿格好はふざけているが、かなりの使い手と見える。イオタには申し訳ないが、今はまだ動けない。せめて誰かがサンタの注意を引いてくれなければ、この距離では立ち上がれない。
「やらないか」
(「はぁ!?」)
よく分からない言語を話すというサンタ。その口から出た言葉を、しかしエムシは確かに聞いた。
すると、イオタが構えた剣が素手のサンタによって弾かれ、窓の方まで飛ばされる。ジリジリと追い詰められていくイオタ。まだ彼は、動きを奪うという魔法を掛けられていない。助けを呼ぶことは出来る。だが、これだけの技量を持つ敵を前にして、下手に隣室の2人を呼ぶことは出来ない。睦美はまだしもマイアは接近戦に不向き過ぎる。女性を危険に晒せないナイトとしての立場がある。かと言って、このまま加勢がなければ色々危険だ。これは迷いどころ。
直後。エムシの隣にいたゴーレムが動き出す。侵入者は撃退するというコマンドを与えられたゴーレムはサンタに向かおうとし、それに気付いたサンタの注意がゴーレムに向けて大きく割かれた。
(「今なら、動ける」)
機会は逃さない。立ち上がるエムシ。自分では太刀打ち出来ずとも、回避に徹して仲間達が集まるまでの時間を稼ぐことは出来る。そう思ったが、しかし彼は直後に床へ手をついた。マントの端を、ゴーレムに踏まれていた。
どうやら、ゴーレム以外の救助はすぐにはやって来ないようだ。既に剣を失い壁際に追い詰められ、絶体絶命。もう女性陣を呼ぶしかない。
「‥‥‥‥!」
声を発しようとした瞬間に、目の前のサンタが茶色く発光した。身体が酷く重くなる。床からもぞりと出てきたことも考え合わせると、今の魔法は地の精霊魔法アグラベイションで間違いは無い。
舌なめずりしながら近付いて来るサンタ。その手がゆっくりと差し伸べられ、ぬらりと首筋を撫でる。イオタの服の襟首からその手が侵入し、鎖骨の辺りへ達しようとした、その瞬間。
「大丈夫、イオタ君!?」
「援護するぞ!!」
茂みを飛び出した3人の意図に気付き、しかし獲物が餌に深く食いつくまで待っていたマイアと睦美が飛び込んでくる。
そして。
「喰らえ変態!!」
ゴーレムが足をどかし自由になったエムシが、狙い済ました一撃でサンタの赤フンドーシを切り裂く。実はノルマン製の特注フンドーシであった、その破片がひらひらと舞い落ちて、露わになる下半身。硬直する女性陣。
サンタはエムシを現状最も手強い敵と認識したか(またはプロファイリング外だがエムシの方が好みだったか)、彼に向き直り突撃して来る。その隙にイオタは自分の剣を回収し、エムシと2人で挟撃出来る位置へ向かう。
エムシがサンタの腕を狙って繰り出した攻撃は悉く避けられ、イオタが踏み込もうとするとすぐ攻撃を中断して防御姿勢に入られる。2対1となっても、サンタは強敵だった。
そこに2つの援護が入る。
エムシに向け伸ばされた手を遮るように、一筋の風が舞い込んでゴーレムに突き刺さる。若飛が開いている窓を通して放った矢だ。そうして動きの止まった所に、気を持ち直したマイアが悪霊退散とばかりにホーリーを放つ。
さすがに形勢も不利になってきたかと、サンタは入り口の扉を確認する。が、そこには先に睦美が回りこみ、簡単には逃がしてくれそうも‥‥
「イオタさん、まだ無事ですか!?」
と、入り口から勢いよく入って来たフォンが睦美に激突。サンタはそこを突こうと駆け出し‥‥捕獲される。ゼロスの放った網がサンタに絡まり、自由を奪った。ここに勝負は決したか。
しかし、サンタの奥の手アースダイブが一瞬にして発動。来た時と同じように沈み込もうとする。だがそれも想定内。ゼロスはすぐさまゴーレムに命令を飛ばし、サンタが沈みきる前に引っ張り出させ、ハロルドがアイスコフィンで冷凍処理。
脅威の変態バトルは、これにて一応終わった‥‥?
「あの、何してるんです? さっさと運び出してしまいません?」
「いやな、イオタ。ちとこれデカ過ぎて入り口から出せねえんだ。ここの置物にするのと入り口壊すのと、どっちがいい?」
結局少し壊しました。
ちなみに、運び出し作業中は女性陣お休み。もう色んなところ大開放のまま凍ったもんだから。
●Q4 結局サンタって何だったんですか? A4 分年 三太。ゲルマン語は話せません。
こうしてノルマン製フンドーシ装備のジャパン産イギリス風変態サンタがキエフでお縄となり、後始末の段。イオタとフォンの汚名を晴らすため、噂の出所、睦美が走る。
「イオタ殿は男色ではない。変態目的でフォン殿を棲家に連れ込もうとしただけだ」
え?
「間違った、訂正する。変態が欲しくて連れ込んだのだ」
ええ!?
・ ・ ・
「サンタが捕まったか‥‥我ら四天王の名を汚しおって」
「しかし奴は我々の中でも一番の小物。いずれこうなる運命だったのだろう」
「いずれこの落とし前はつけてみせる、冒険者」
‥‥おおっと。