【レミエラ症候群】迎撃上等鬼ごっこ
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■ショートシナリオ
担当:香月ショウコ
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 36 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月07日〜06月12日
リプレイ公開日:2008年06月23日
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●オープニング
●夢の欠片『レミエラ』
透明度の高い、クリスタルのようなガラス。それ自体が宝石のような品であるが、それが魔物に抗することの出来る魔法の品となれば‥‥まさに人々の夢そのもの。
しかも、素体となるレミエラは庶民でも手の出る金額で販売され、庶民でも入手可能な何らかの品と、庶民でも手の出せる金額で合成すれば──‥‥
ある時は鋤や鍬を軽くすることが出来る魔法の品になり、
ある時は野生動物のような鋭い感覚を身につけることが出来る魔法の品となり、
ある時は冒険者のような素晴らしい剣技を習得することが出来る魔法の品となり、
またある時はデビルやオーガに抗する素晴らしい力を得ることが出来る魔法の品となる。
その金額と利便性故に急速にレミエラが普及しつつある昨今、その品で直に命が左右される冒険者が新たなるレミエラの開発に没頭するのも当然の話であるが──各地の大公や領主、貴族らもまた先を争いレミエラの開発に着手しているのもまた当然の話。
だが、何らかの魔的な力が作用しているようで、レミエラは5つまでしか装備することが出来ない。使用時に胸の前に浮かぶ光点にかかわりがあるという噂もあるが、真偽の程は未だ定かではない。解っていることは──数が限られている以上、少しでも有利なレミエラを開発した方が有利だという厳然たる事実。特に互いに様子を探り陰謀を廻らせ合い、隙あらば足元を掬おうとしている各大公や野心あふれる貴族らにとっては死活問題と言っても過言ではないようである。
──夢の欠片『レミエラ』を真の『夢の結晶』たらしめんために、多くの者が日夜汗を流していた。
●それはとても適当な感じ
「なあ、それはちょっと高いんじゃないか?」
「いいや、相場だ。別に割り引いても構わんが、やる気は減退するぞ。多分」
青いバンダナのギルド員が面倒臭そうな顔で応対している依頼人は、どこぞの商人ギルドっぽい小さい集団に属しているという宝石商の男。何で面倒臭そうな顔をしているかと言うと、さっきからずーっと同じ話を繰り返していて話に進展が無いからだ。
「単なる護衛だぞ? 怪物が出なかったら、往復2日現地滞在3日の旅行みたいなもんじゃないか」
「怪物が出たら単なる旅行じゃ済まないだろ。そういった不確実な要素が含まれることも加味してこの値段が相場だって言ってるんだ」
依頼人の男が言うには、最近非常に宝石の取引が不調なのだそうだ。世間一般の商売の成立具合より、だいぶ拙いらしい。そんなわけで、付加価値のついた宝石のような存在であるレミエラを商って、これまでの損を取り返したいと言うのだが。
「戦わなくてもか?」
「戦わなきゃならんかもしれんだろ」
ギルド員にそろそろこの男を一発殴ってやりたい衝動が生まれてきた頃。
「仕方ない!」
と、いきなり依頼人の方が折れた。
「商人仲間の間で光るオーガが出るようになったっていう噂のルートを無事にレミエラと一緒に通過するには冒険者の護衛が必要だが、ギルド員はふっかけてくる。節約したいのに。だがしかし、背に腹は替えられん。私はこのレミエラを高く売り捌かなければおまんまの食い上げだ。だから涙を呑んで、ぼったくり男の要求を聞こう」
「俺が冒険者の代わりに目的地までぶっ飛ばしてやろうか?」
「その時は治療費を請求しよう。‥‥戦いがあるかもしれない護衛だから、これだけの報酬が相場だと言うんだったな? だったら、絶対戦わない護衛なら、もう少し安くなるだろう?」
「何?」
「オーガが出ても、絶対に戦わないっていう約束で依頼する。冒険者には普通に護衛をしてもらって、オーガが出たら荷馬車を守りつつひたすら一緒に逃げる。どうだ、これなら少しは安くなるだろう?」
「‥‥ま、まあ‥‥ほんの少しは」
「戦ってもらっても構わない。が、その時は戦い分は無報酬だぞ。明記しておいてくれ」
●リプレイ本文
●鬼さんあちら、手の鳴る方には来るんじゃねぇ
「このままの調子で目的地に着ければいいんだが‥‥」
御者役を仰せつかったセリアス・ラフィーリング(ec4811)が呟く。
護衛の旅は今のところ長閑の一言。出発前に陽小明(ec3096)が調べたところによると、道中出くわす可能性があるというオーガとは一部武装したものを含む4体、金棒とレミエラの光1つ以外に特に印象に残るものはなかったという。その出没地域はまだ先であり、商人は鼻歌など歌いつつ気楽なもの。そんな準日常のような時間の中で、冒険者達は警戒を続けていた。
馬車の上から辺りを見渡しているクリスティン・バルツァー(eb7780)。彼女の挙動には先ほどから変化無く、状況に異変無いことを伝える。彼女の注意は主に側面と後方に向いていて、前方はたまに森と空の境目を見るだけ。それは先行している彼女の親友(もしくはパシリか)ヴィクトール・ロマノフスキー(ec4660)の偵察の結果を、同様に先行しているナーザディン・ウル・メレク(ec3875)の動きから把握出来るためだ。信頼出来る彼らの担当エリアに関しては、必要以上の警戒は無用というものだ。
クリスティンのやや下の方で、商人によってかなり簡単にいい加減に描かれた地図を見ていたユリヤ・エフセエフ(ec4830)は、若干速度を落とした馬車に顔を上げ。
「ここは右の道です、セリアスさん。合ってますよね?」
「ああ、問題無いよ。まっすぐ行っても辿り着けるが、少し遠回りなんだ。‥‥時には別のルートを進んだ方が、オーガに会わずに済むのかも知れんのだけど」
商人が最後に付け足した相変わらずの言葉に、ユリヤは少し頬を緩める。何が何でも戦うな、という方針の商人の意見に、彼女を始め一同は同意していた。予算がケチられた故かここにいる冒険者達は皆まだベテランと言えるほどではなく、相手はレミエラを持ったオーガだ。小明が心配しているよう、オーガの後ろには何か別の存在があるのかもしれない。分かっている情報のみでも不利と分かり、かつ分かっていない情報も数多い。「命が惜しければその分の金額は出せ」とはナーザディンの言だが、全くその通りである。彼のそんな商人への説教はまだ炸裂していないが、襲撃があった後にでも言ってやればきっと効果覿面だろう。今では言ったところで、これほど何も起きないなら節約して正解だったとか商人はのたまって考えを変えないだろう。
そうは言っても襲ってほしいわけではなく、この日のように何も起きず往復を果たせられればそれが一番なのだが。
●追って来るのはリアル鬼
昼下がりも朝方と同じように先行していたヴィクトルは、地面にくっきりと残るものを見て状況を悟った。巨大な足跡が一組。見たところ新しいものであるそれは、馬車の進行方向右側の茂みへと消えていた。
同じ頃。ナーザディンは馬車の進行方向左側から馬車の通る道の方へやってくる武装オーガ(レミエラを所持しているようには見えないが)を発見した。馬車へと連絡に戻る前に、ヴィクトールを孤立させないため戻る旨伝えに行くと。ヴィクトールもまた、連絡のためナーザディンを目で追っていた。
「挟み撃ちのつもりか?」
馬の足を速めながら、セリアスが言った。二台ではユリヤが、うまくオーガを振り切ることの出来るルートを考えていた。
「大丈夫なのか!? 本当に逃げ切れるんだろうな!?」
ナーザディンが持ち帰った情報にさっきから騒いでいる商人。こちらの現在地を知らせてしまうことになるかもしれないからと、小明が何とか宥めている。
「こら商人よ」
引っ叩くような言葉で注意を引くクリスティン。
「戦うなということだったが、戦いを避けるためにぶちかますのは問題あるか?」
「いや、全く問題ない! それで逃げ切れるなら好きにやってくれ!」
馬車がナーザディンの情報の場所に到達し、両サイドから飛び出してくる2体のオーガ。そのタイミングよりやや早く、間を馬車は駆け抜けていく。
「おい、出たぞ! オーガだ!」
「出たのは分かってるからそんなに叫ぶな! あんたの声で馬がびびってるだろう!」
商人同様にセリアスも叫んでいるわけだが、そこは問題が少ない。馬は人が思う以上に、言葉の裏の感情を汲み取っている。恐怖に怯えた声を聞けば共に怯え、力強い声を聞けば奮い立つ。
「このまま道なりに! 馬車の速さで十分逃げ切れます!」
後は森を抜けるまで一本道。地図を置いたユリヤは、いざという時に備え魔法の準備だけはしておく。高速の詠唱でのホーリーフィールドは成功率が怪しいとはいえ、緊急となればそうはいかない。最後まで油断は禁物だ。
「前方!!」
セリアスが叫ぶ。その視線の先には、金属製の鎧で武装しレミエラの光を宿したオーガ戦士。1体のオーガを横に連れている。この連れの方には肩や脚に矢が刺さっており、ヴィクトールが放ったものだろうと思われた。
これら敵の姿を確認するのとほぼ同時に、皆の身体が重くなる。
「これは‥‥レミエラの効果か?」
ナーザディンの言葉には誰も答えなかったが、思うことは同じだった。
「どうする? 道を塞がれてるぞ」
「押し通るぞ。ヴィー! 巻き込まれるなよ!」
言うと、クリスティンは迷わず呪文を詠唱する。放つは巨大な火球。
「後で回収をよろしく頼む」
その炎を後を追って、馬車を飛び降りた小明が続く。脅威と思われるレミエラを使うオーガ戦士に、火球の爆裂直後一撃を叩き込みにいく。
「せぇいっ!!」
火球の直撃でよろめいたところを狙い、脚払いをかける。丸太を蹴るような重い手応え。さらに1、2歩後退させることは出来たが、転倒まではさせられない。
「セリアス殿、もう1体のオーガは私が何とかする。このまま突っ切られよ!」
さっきまでヴィクトールに気を取られていたらしいオーガは、向かってくる馬車に狙いを移していた。大きな金棒を構え待ち受けるそいつを、ナーザディンの放った魔法の光が包んだ。見事に、その動きを拘束。
「怯えるな、信じろ。行けるぞ!!」
セリアスが一喝し、馬を走らせる。ユリヤはどれだけ効果があるかは分からなかったがホーリーフィールドを展開し、フィールドに激突したオーガ戦士を少しだけたじろがせる。その隙に、馬車はオーガたちの間を走り抜け距離を広げていく。
「ヴィー、もういいぞ! そのまままっすぐ帰って来い!」
クリスティンが叫ぶが、返事は無い。オーガたちも別の何かを気にする様子無くこちらを追ってくることから、おそらくとっくに離脱したのだろう。
「やれやれ、何とか振り切りましたね‥‥」
荷台の一番後ろにぎりぎりのタイミングで飛び乗った小明が、深く息をついた。
●鬼の代わりに追ってきたもの
無事に村に到着して、商人が荷物を検めて一言感嘆の声。その声が、馬車を預かったセリアスが心配していた『荷物壊れる・怒られる・報酬無し』が無いことを教えてくれた。ユリヤにはそこまで手放しで喜ぶほどの価値が荷物の一つひとつにあるのかと改めて驚いたわけだが。
「私は報酬云々を言っているのではない。商いをする者なら、品物の相場以外にも命の相場も少しは考えてみると良かろう」
ナーザディンがこう色々と言ってくれているのだが、前述のように商人はさっさと無事に運び込めたレミエラで商売を始めたくて仕方ない。はいはい分かった分かったと適当な相槌で、さっさとどこかへ行ってしまう。
「‥‥まったく」
「まあ、事情も裏には色々あるのでしょう。無理を通してでも節約しなければならないという」
道中とは変わって、今度は商人ではなくナーザディンを宥める小明。
ひとまず、これで依頼の半分以上は達成出来た。後は、帰り道の護衛が残るばかり。
だが。
「おい、せめて森を出た辺りで待っていてくれても良かったんじゃないのか‥‥?」
少しして、幽鬼の如く表情で村へやってきたのはヴィクトール。そういえば、とクリスティンすらも彼を忘れていた。
「半ば無理やり引っ張り出しておきながら、酷い待遇だな」
「あぁ、帰ったら美味い酒を奢ってやる。それで勘弁しろ」
「俺は節約は許さないぞ?」
・ ・ ・
ちなみに、帰り道はルートを変えてみたところ、オーガ達と遭遇することは無かった。始めから、時々はこちらのルートで襲撃してみようか、などという工夫を行っていたような痕跡も無く、そこは所詮オーガか。
しかし、人を襲撃するために、人の動きを抑える効果のあるレミエラをわざわざ探し、使用するオーガ。小明の思うよう、やはり矛盾しないか。