模擬戦闘訓練

■ショートシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月20日〜06月23日

リプレイ公開日:2008年07月22日

●オープニング

 近年、急速に普及を始めた『レミエラ』。その力は人々に利益を与えるばかりでなく、悪しき心を持った者や魔物の手にも渡り生活を脅かす。それに加えて、キエフの国内において起きている、ラスプーチンの陰謀。垣間見えるデビルの暗躍。おまけに謎の壁。いつ何がどのような規模で起きるのか、全く不透明な状況。
 そのような状況において、キエフ騎士イザーク・リヴァノフは、かねてより考えていた、若手の騎士達の即戦力化の計画を実行に移す。


「ん? 月道のイザークさん、今日もまたサボリかい?」
「人聞きの悪い事を言わないでください。職務を放棄しているわけではありませんし、そう頻繁でもありません。今日は誰でもいいので、冒険者を数名集めて頂きたくて来たんです」
 冒険者ギルドに入るなりイザークに冗談を投げかけた青いバンダナのギルド員は、薄く笑った表情のまま羊皮紙を取り出し、依頼内容を書き取る準備に入る。
「騎士団の若い者達と、実戦を模した訓練を行ってほしいのです。こちらにも冒険者にも、戦闘経験が積めるという点では利益があります。少しでも力をつけたいという意欲のある方を集めて頂きたいのですが」
「集めるのは腕のいいヤツじゃなくていいのか? 経験のある奴らの方が、色々教えることも出来るだろ」
「いえ、あくまで今回は『指導』ではなく『試合』を行ってほしいのです。自分より圧倒的に強い相手と対峙した時どうするか。互角の相手では。格下の相手の時は。そういった、対峙した相手に合わせた対応法や気持ちの持ち方を、戦いの中で直に感じてほしいのです」
 そんなわけで、新人・中堅・ベテランなど特に基準無く募集がかけられることとなり。
「こちらからは、入団間もない者を数名と、私が見て将来化ける見込みのある者を数名。あと、私も時間に余裕があれば冒険者の皆さんと手合わせをしてみたいと思っています」
「あんたがやる時は、適度に加減してやれ。あんまりうちの奴らをいじめるなよ」
「分かっていますよ。臨機応変に。それでは、よろしくお願いします」

●今回の参加者

 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9740 イリーナ・リピンスキー(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5183 藺 崔那(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5612 キリル・ファミーリヤ(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7693 フォン・イエツェラー(20歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec5109 セレ・クライズ(19歳・♀・レンジャー・エルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●VS新人騎士
「新人だけあって、基本に忠実な戦い方だな」
 目の前で繰り広げられている訓練を見て、イリーナ・リピンスキー(ea9740)が言う。
 イザークの連れてきた騎士達のうち、新人達全員が今キリル・ファミーリヤ(eb5612)と順番に戦っている。
「でも、ちょっと面白味には欠けるかもね。応用が無いとは言わないけど、まっすぐ過ぎるよ」
 藺崔那(eb5183)が指摘するよう、新人達には経験によって身に着ける奇策の類が無かった。一種パターン化された動き。腕前で彼らを上回るキリルは、あえて攻め方守り方を変えながら、新人騎士の限界を引き上げてやろうとしていた。
 ひと通り全員がキリルとの手合わせを終えると、それじゃあとフォン・イエツェラー(eb7693)が立ち上がる。新人相手の訓練とはいえ真剣に本気で取り組まなければ互いのためにならない。少し前までは自分も新人と変わりなかった(今は新人などとはとても呼べないが)その気持ちを大切に。
 始まった戦いでは、当然ながらフォンが圧倒的優位に立った。キリルとの戦いで、基本どおりの戦法だけではすぐ見破られると悟った新人騎士アレクセイは、幾通りか自分で思いつく攻撃を交えてみるが、所詮付け焼刃。大きな隙を作ってしまい、崩れた体勢に手痛い一撃が見舞われる。基本とは、その流派のコンセプト・戦い方のために最適化されたもの。それを生半可な技術知識で崩してみたところで、うまく行かないのは当然だ。
 そんなわけで、生兵法は怪我の元を実践してみせたアレクセイに、キリルのリカバー。


 その頃もう一方で始まったのは、セレ・クライズ(ec5109)と新人騎士ロジオンの戦い。セレの手にあるのは弓、ロジオンには槍。武器の間合いの違いから、勝負は両者の間の距離が縮まるまでに絞られる。もし駆け寄るロジオンの立場に以心伝助(ea4744)がいたなら、ほぼ問答無用でセレは間合いを詰められ窮地に陥るだろう。
 イザークの「はじめ」の合図。それとほぼ同時にセレは彼女にとって非常に重い弓を抱え、矢を番える。ロジオンはその間に少しでも間を詰めようと駆け出す、かと思いきや。
「‥‥オーラ!?」
 静止したまま念じるロジオンの姿に一瞬驚きつつ、セレは矢の狙いを定める。と、ロジオンはセレに掌を向け、オーラショットを放つ。遠距離攻撃同士の撃ち合いが始まり、互いに一発では致命傷を与えることなく、消耗戦の様相を呈してくる。
 撃ち合いが始まってしばらく。元々重量物を扱い身動きの取れないセレに、ダメージの蓄積が追い討ちをかける。ここまでくれば白兵戦を始めた方が有利なはずなのに、ロジオンは相変わらず遠くからオーラショットを放ってくる。こだわりなのか、これで始めたからにはという意地なのか。まあどちらにしろ、最終的にはセレが力尽き勝敗は決した。が、ロジオンもまたオーラの使い過ぎで訓練終了と同時に疲労で膝をついた。


 続いて行なわれるイリーナ参戦の模擬戦においては、残念なことに長い黒髪をなびかせながら戦う彼女の姿は見られなかった。髪は複数の団子へと変化し、上からウィンブルでカバーがされている。
 ロングソードを両手で持つ新人騎士のマルクは、イリーナが選んだ武器に息を呑む。チェーンウィップは、剣や槍と違い軌道が曲線も描く。回避し難く受け難い。マルクも新人ながらそのくらいは理解していて。
 初めに踏み込んだのはマルクだった。好機を見たか痺れを切らしたか、剣を構えて一気に駆けてくる。間合いが詰まればウィップも威力を大きく削がれるが。
 剣の間合いに入ってすぐ、ウィップを勢いよく振るうための腕を振るうスペースが圧迫されていく。イリーナは軽く数歩下がりながら、手首の返しでウィップを自在に操り、マルクの眼前を流しては攻撃態勢に入れないよう牽制を繰り返していた。傍から見れば防戦一方のイリーナ。分はマルクにあるように見える。しかし、その状況はすぐにひっくり返される。
 それまで繰り出されていた牽制が、一時止まった。今こそチャンスとマルクは剣を振るい、イリーナを袈裟に打ち抜こうとする。その無意識に大振りになった一撃をイリーナはするりと後ろにかわし、また軽くウィップを振るう。狙うは剣のつばの部分。それほど威力や速度を乗せられなかったウィップはマルクの剣にぶつかると、くるくると巻き付いて止まる。態勢を戻し始めたマルクがそれに気づいた時には、既に剣は自らの手から離れていこうとしていた。
「戦う者として、これからは自分の武器を手放さないよう気をつけることだ」
 イリーナの言葉が、決着がついたことを告げた。


 マルクが戦ったのが素早く動くウィップなら、新人騎士アラムが相手取っているのは素早く動く人間本体だった。
 マルクの剣がその辺にすっ飛んでいった頃、アラムの様子を見続けていた伝助は本格的に攻め始めた。アラムはこれまでの新人騎士達よりも、徹底的に基本に忠実な戦法を取る騎士だった。隙は少ないにしろ読みやすい剣筋を、伝助は紙一重で避けながら攻撃を繰り出していく。その攻撃を、アラムは可能な限り避けようとはするが、1発受け、1発喰らい。そもそもの技量が違い過ぎる。
 結局のところ、アラムは良いところを見せられずに伝助に完敗することになる。まあそれも当然で仕方ない。これまでに踏んだ経験の数も質も、伝助の方がずっと上なのだから。

●VS若手騎士
 これまで見学と自主トレばかりだった若手騎士達が戦いの舞台へと出てくると、訓練の雰囲気は一変した。最初の模擬戦で射撃戦を繰り広げたセレは、爆走してくる若手騎士ミロンに1発矢を放ち終えたところで距離を完全に詰められ、防戦もままならずKOとなった。
 確かに雰囲気の違いはあったが、果たして実力も随分と違う。自分が相手することになる2本のショートソードを持った騎士オレーグを前に、イリーナは思った。
(「少し試させてもらおうか」)
 武器のリーチは若干イリーナの方が長い。攻撃がぎりぎり届く所まで踏み込んで、牽制のつもりの一撃。
 しかし。
 オレーグはイリーナの踏み込みから一瞬遅れて、自らも踏み込んできた。イリーナの攻撃をオレーグは右で受け、左の剣を振るってくる。それをやや苦しい姿勢で、左の篭手で受けるイリーナ。ウィップは剣に緩く巻きつき、間合いを離さなければ外せそうもない。場の硬直。
 次の瞬間、オレーグは両の武器が封じられたまま、蹴りを放ってきた。軽く身体を引いて、浅い一撃を喰らってやるイリーナ。続けて、再び蹴り。今度は足が浮いた瞬間にウィップを強く引いてやり、相手の体勢を崩す。その隙に一旦距離を取り、仕切り直し。
 イリーナは再び同じ間合いから同じ踏み込み、今度は横薙ぎの一閃。予備動作で軌道を読まれたか初撃は相手からの踏み込みが浅く当たらず、続く脚を狙う攻撃も、うまく後ろへ下がったオレーグには届かない。
 連撃のラスト、顔面を狙ったものにオレーグは反応した。先と同じように大きく踏み込んだ同じようなイリーナの攻撃を、利き手を温存し左で受ける。だが。
「もらった!」
 先と違い全力を込めたイリーナの一撃は、軽く受けておこうという程度でどうにかなるものではなかった。オレーグは左の剣を弾き落とされ、さらに左肩を強打。生まれた隙は逃さない。すかさずイリーナはさらに肉薄し、左の篭手で顔にパンチを見舞う。大きくよろめいたオレーグ。片方だけになった武器を構え直すも既に遅く。


 ようやっと出番がやってきた。これまで見てばかりだった崔那は、今までの者達とは違った武装のヴァレリーとの戦いに気持ちを湧き立たせていた。ヴァレリーはジャイアントソードに皮の胸当てという装備。防御より攻撃を重視するスタイルと踏んで、崔那は速攻、懐目掛けて駆けた。
 崔那を迎え撃つ形で、ヴァレリーは巨大剣を振るった。一撃で決めたかったかやや大振りのそれを、崔那は進行方向とは直角に跳んでかわし、攻撃直後のヴァレリーの隙を突く。ように見せて。
 崔那はその場で踏みとどまり、後ろに一歩下がる。すると、眼前を流れていく剣先。ヴァレリーはわざと大振りの一撃を『見せ』、誘われた相手をバックステップ程度では逃れられない間合いで仕留めようとしていた。が、崔那には見えていた。不自然な足の向きと置き方に。
 今度こそ生まれた隙に、崔那は踏み込む。剣の間合いから拳の間合いへ。ヴァレリーも急ぎ剣を引き戻し柄で殴りかかってくるが、遅い。緩い。軌道を避けてしゃがみこみ、足払いを放つ。見事にすっ転んだヴァレリーにもはや反撃の目はなく、勝敗は決した。開始から決着まで、ものの数瞬の電撃戦であった。
「結果はこうなったけど、なかなかいい動きしてたよ。自信持って頑張って」
 模擬戦後、起き上がったヴァレリーの肩をぽんと叩いて、崔那は微笑んだ。


 その頃、新人騎士達は2班に分かれ、交替で休憩を兼ねた観戦と、キリルと彼に回復してもらったセレとの訓練を行っていた。
 キリルが彼らに対して思っているのと同じ、自分達はこれからこの国を守っていくべき存在だという自覚が、彼らを絶え間ない訓練に取り組ませていた。


 ルスランという騎士は新人騎士達と同じような騎士らしい出で立ちをしていたが、佇む雰囲気は明らかに新人達とは異なっている。
「それじゃ、初めから全力でいくっすよ」
 疾走の術を自身に付与し、元々のスピードをさらに引き上げる伝助。対するルスランは、同様に自身にオーラパワーを付与し、伝助を待ち受ける。
 駆け出した伝助に、ルスランは剣を構える。が、その時には既に伝助は彼の横を通過しようとしている。スピードに関しては段違い、兎と亀だ。ルスランの意識が自分の横を通った伝助に追いついた時には、伝助は背後に回り、得物を振るう。
 だがしかし。ルスランは死角から放たれた伝助の一撃を、左に持つ盾で裏拳を放つようにして防いだ。伝助は一瞬驚いて感心し、そしてまた速度を上げる。
 幾度も2人の姿が交差する。ルスランが振るう剣は、伝助には全く届かない。他方、周囲を走り回り様々な角度から伝助が放つ攻撃も、ルスランは避け、防ぎ続ける。
 しかしいつまでも戦いが先へ進まないわけではなかった。伝助が2発、3発と続けざまに放つ攻撃を、ルスランが捌ききれない場面が増えてきた。ダブルアタックは2度に1発、トリプルでは常に1発以上がヒットするようになり、その度に小さなダメージがどんどん蓄積していく。元々ルスランは自身の能力の限界で伝助を追っていた。そこに、怪我による体力の低下と疲労による集中力の低下が加わっては、辿り着く結末は見えていた。世界最強の呼び名に偽り無し、か?

●おまけ? VSイザーク
 イリーナや伝助など、強く観戦を希望していた者達の準備も整って。今回の依頼の趣旨としてはおまけ、しかし冒険者達にとってはメインイベントのような戦闘訓練が始まる。
 自分より強い相手と戦うことで、自分の心の弱さを払拭する。フォンがイザークとの戦いに見出すその目的は、新人・若手騎士達が冒険者達に望んでいたこととほぼ同一であった。騎士達はその目的を見事叶えたわけだが、フォンは。
 果たして期待通り、イザークは強かった。剣を打ち合わせるだけならついていけたが、いざ攻撃を当てようと思ってもイザークの身体までは届かない。そもそも、自分から攻撃を仕掛ける機会自体がなかなか巡ってこない。逆にイザークが繰り出す攻撃はフォンのガードを潜り抜け幾度となく迫る。剣技のみで争えば、防御に徹すればしばらく持ちこたえられるというくらいの力量の差。加えてイザークはオーラについてもなかなかの使い手らしく、総合力では完全に負けている。
 しかし、決して諦めない。この眼前の強大な相手と正面から向き合い戦い続ける。フォンは、それが自分にとって最大の収穫を与えてくれると知っている。
 純粋な決闘に近い形を希望したキリルは、開始直後からイザークの剣技に圧倒された。はじめから実力に差があると悟ってはいたが、キリル自身、それなりに打ち合えていることを不思議に感じていた。別に、イザークに手加減している様子は無いが。
「キリルさんはフォンさんと比べると剣の扱いは若干負けてるっすけど、勘が冴えてるっすね。使ってる剣も、キリルさんの剣の方が守るには適してるっす」
「イザーク殿が大きく出て隙が出来れば、力のある一撃を加えることも出来る。それも抑止力の一つになっているな」
 伝助とイリーナが、セレや新人達に解説する。そのことを、キリルはどこまではっきり把握しているだろう。
 予想通りではあったが、2戦とも勝負はイザークに軍配が上がった。同じエンペランという流派を学んでいても、戦い方や実力はだいぶ違うもの。自分よりも力のある者との手合わせは、きっと2人の体にさらに成長するための種を植え付けてくれただろう。


 軽装の崔那を前に、イザークは盾を置いた。攻めてくる。崔那はそう推測した。
 自分の力を知りたいからと、崔那は全力での戦いをイザークに望んだ。イザークは了承したものの、彼は崔那が手を抜ける相手の範疇を超えていると睨んでいた。
 開始の合図と共にカウンター狙いの受身態勢でいた崔那。そこに、イザークはオーラショットを打ち込んできた。崔那がいかに腕利きの冒険者だといっても、オーラにカウンターを仕掛けることは出来ない。前へ出る、崔那はそう決めた。自身のオーラとはケタ違いの威力、そう何度も喰らってはいられない。
 前へ出る。一気に距離を縮め、自分から攻撃を仕掛ける。イザークは大きく一歩下がって回避すると、上下に軸を変えた連撃。崔那が上段を身を反らしてかわすと、残った脚への一撃が飛んでくる。幸い直前にイザークが下がっていたため間合いが開いて、右足に薄い血の筋がついただけ。
 ここからが本番とばかりに、崔那は踏み込んだ。イザークの懐に飛び込み軽く拳を振るいながら、不自然でない程度に隙を混ぜる。そして、食いついてきたところに。
(「この技で、決める‥‥!」)
 イザークの攻撃に合わせ、カウンターの激龍波を叩き込む。崔那自身予想していなかったその直撃に、イザークは大きくぶっ飛ぶ。だが、全てが崔那の思った筋書き通りには進まない。イザークは再び立ち上がり、剣を構え直す。
 結論として、激龍波の後イザークに2発ほど手傷を負わされたが崔那は勝利した。しかし素直には喜べない。1対1の白兵戦では勝ったが、複数対複数の戦場ではどうか。また、傷を治療し休憩も取った後とはいえ、フォン、キリルとの戦いの後の自分である。
 若い騎士達のための今回の訓練、相手役の冒険者達にも、引率のイザークにも、実り多きものとなったようである。