大事な物を取り戻しに。
|
■ショートシナリオ
担当:香月ショウコ
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月22日〜08月29日
リプレイ公開日:2006年09月01日
|
●オープニング
「お願いしたい仕事があるんですが」
キエフの冒険者ギルドにやって来た青年は、今にも泣きそうな表情でそう言った。
「はい、それでは冒険者へ依頼をするのに必要なことをこれから聞いていきますので、出来るだけで構いませんから教えてください」
ギルド員の女性はまず青年を落ち着かせるように優しく言うと、依頼の詳細について尋ね始めた。
「まず、おおまかにどんな依頼ですか?」
「昨日、この街で売るためのキノコを採りに、僕の住んでいる村の近くにある洞窟に行ったんです。その洞窟の入り口近くでいつも通りにキノコを採っていたら、洞窟の中からゴブリンが出てきて‥‥」
「そのゴブリンの退治ですか?」
「退治までしてもらえたら嬉しいんだけど、違うんだ。‥‥ゴブリンに襲われた拍子に、大事なネックレスを落としたんだ。それを取ってきてもらいたくて」
そこまで言うと、青年はそのネックレスの大体の形を話し始める。銀色で、チェーンと人差し指くらいの大きさの剣の形の飾りのネックレスだ、と。
「ゴブリンの数は分かりますか?」
「慌てて逃げたから、よく分からないんだ。でも4、5体だと思う」
青年の話を、ギルド員が丁寧に書き取っていく。そして。
「分かりました。これで依頼受付は完了です」
「洞窟までの道案内はします。どうか、よろしくお願いします。あのネックレスは、僕の婚約者からもらった大事な物なんです」
●リプレイ本文
●ファーストミッション
「あそこが、僕がネックレスを落とした洞窟です」
依頼人の青年が指さす方向。そこには森の木々の間にぽっかりと口を開けた洞窟。入り口はそこそこ大きくジャイアントでも屈まずに入れそうだが、奥の方になるとどうなっているかは離れたところから眺めるだけではわからない。
「思い出の品ってホントに大切だよね。絶対取り返さなきゃね」
高千穂永耶(eb5972)がまたも涙ぐみながら青年に言う。ここへ到着するまでの道すがら青年やその彼女の話を聞いていた高千穂、初仕事に自身の憧れを投影して強く意気込んでいた。
「はい、よろしくお願いします」
「何としても取り戻してさし上げます。元気を出してください」
青年を励ますのはサシャ・ラ・ファイエット(eb5300)。彼女と高千穂の二人は今回の仕事が冒険者としての初仕事、いわば駆け出し冒険者だ。
「このまま無くしたまんまっていうのも面白そうなんだけど、仕事だししょうがないか」
「だが、仕事の選択権は我々にあるのだ。あの依頼人の依頼を請けたということは、そういうことではないのか?」
青年を囲んで話している新人冒険者を見ながら話すローザ・ウラージェロ(eb5900)とアデム・レオ(eb5623)。ローザはギルドでの仕事、アデムは武道大会への出場という経験を積んだ『先輩』である。
年長のアデムが言うのは、ローザが本当に青年を放っておくのがいいと思っているのならこの依頼をそもそも請けないだろうということだ。それでも請けたということは、それは内側に隠した優しさがあるからではないだろうか?
「私は退屈が嫌いなの。見ていて面白いものはそのまま眺めて笑ってるわ」
「口では何とでも言えるのであるよ。ナイアド殿、様子はどうであろうか」
上を見上げて尋ねるアデム。すると、ゆっくりと降りてくるナイアド・アンフェルネ(eb6049)。
「大丈夫、洞窟の周りにはゴブリンは出てきてないみたいだよ。近づくには今が好機、だねっ。行くよ、3人とも〜」
ナイアドの呼びかけに駆けてくる青年と2人の新人。よいしょと気を入れて立ち上がるアデム。
「やれやれ、年であるな」
・ ・ ・
ぼう、と火の入ったランタンが周囲を照らす。日が沈み暗くなったあたりの様子に、洞窟へ入るのは翌日にしようと決めた冒険者達は野営の準備を行う。洞窟の入り口付近には青年が今まで採っていたというキノコが所々生え所々毟られたようになっていた。洞窟の中に住みついたゴブリンが時々採っては食べているのだろうと推測されるため、入り口のすぐ傍では危険があると少し離れた場所に火をおこす。
一行は日のある内、ゴブリンがネックレスに気付かず付近に落ちている可能性を考え洞窟の周辺を探索した。だが、入り口の近くに加え青年がゴブリンから逃げたルートを辿って探しもしたがネックレスは見つからず、結果、やはりゴブリンが持ち去ったのだろうという結論に達した。
夜間の見張りは夜目の利くサシャや徹夜に慣れた高千穂を中心に、交替で行われた。
夜は何事も無く開け、洞窟へと潜入する時がやって来た。
●闇の中遭遇するモノ
洞窟の中は、奥に行けば行くほど横幅が広くなっていた。先頭の高千穂が足音を殺して慎重に進み、ナイアドが優れた聴覚を持って異変が無いか警戒する。ランタンはローザが持ち、アデムがしんがりを務める。外からの明かりが無くなり、ランタンの明かりだけが視認の頼りとなる闇の中、幾つかの分かれ道、行き止まりにぶつかりながらも、サシャの丁寧なマッピングで構造を把握しつつ冒険者達は進んだ。
「水溜りが無いですね」
ゴブリンと戦闘になった場合、ウォーターコントロールの魔法でその辺の水を操り行動を阻害しようと考えていたサシャだが、あいにく洞窟内には水溜りは無かった。
「空気は澱んでないし、少し風があるし‥‥どこかに風の通る穴でもあるのでしょうかね」
言うのはローザ。ランタンの炎は勢い変わらず。と、突然にナイアドが口を開いた。
「しっ‥‥何かの足音が近づいてくる」
その言葉に、一行の間に緊張が走る。
薄暗がりの向こうに、近づいてくる足音。次第に見えてくる姿は貧相な子どものよう。だが、凶悪な牙に、片手に武器を持ったそれは明らかに彼らに害為す者。ゴブリン。
ナイアドがすぐさま呪文の詠唱を始め、高千穂が武器を構える。他の面々もそれぞれに呪文の詠唱を始める。
ゴブリンもこちらの存在に気付き近づいてくる。単なる弱い獲物だと思っているのか警戒した様子はない。数は3体。
いち早く発動したのはナイアドのホーリーフィールドの呪文。何も知らずに近づいてきたゴブリンたちは突如出現した見えない壁に衝突する。
サシャはクリエイトウォーターの魔法でゴブリンの足元に水場を生成した。そしてさらに続けて呪文の詠唱に入る。
ローザは見えない壁を壊そうとするゴブリンに向かってウインドスラッシュを放ち、攻撃する。後方からの襲撃の様子が無いことを確認したアデムも利き腕にデビルハンドの呪文をかけ、戦線に加わった。
アデムの青白く光る手に触れられたゴブリンは全身の力が抜けたようにぐらりとよろけ、その視線が焦点を結ばなくなる。無防備な状態のゴブリンを掴むと、アデムは容赦なく岩の地面に叩きつけた。残り2体。
暗く不利な視界の中、ゴブリンの攻撃を片端から弾いていく高千穂。そこに、サシャが詠唱していた2つ目の呪文、ウォーターコントロールが完成する。ゴブリンの足元から浮かび上がる水玉、それがいきなり眼前に現れ慌てるゴブリン。その隙を逃さず、高千穂が鋭い一閃を放つ。傷口から体液を噴き出させ倒れるゴブリン。残り1体。
最後に残ったゴブリンは、ようやく相手が単なる獲物ではなく強力な狩人だと気付いたか、仲間のことも気にせず一目散に逃亡を始める。が、背後から高速で追いすがる風の刃からは逃れられず、絶命。遭遇したゴブリンとの戦闘は終了した。新人冒険者達が冒険者としての初戦闘をどう感じたのかは分からないが、どうにか誰一人の怪我人も出ずに終えることが出来たのは幸いだっただろう。
と、そこに。
「げ」
とだけローザの声。ネックレスを持っていないか、持っていなくても金目の物を持っていないかとゴブリンの懐を探っていた彼女が手に持って取り出したのは、ゴブリンの食べかけらしい何か。
「ネックレスはこっちであるな」
逃走を試みたゴブリンの所持品からアデムが取り出した、銀色で、チェーンと人差し指くらいの大きさの剣の形の飾りのネックレス。依頼人の青年が話していたものと特徴は一致していた。
「良かった。依頼はネックレスを探すことでしたから、外に出ることにしましょう」
ネックレスを丁寧に大事に持つと、サシャ達は作られたマップを元に迷う事無く洞窟を後にした。
●ネックレスというカタチの『証』
「無事、見つかりましたよ。どうぞ」
銀のネックレスは待っていた持ち主の青年の手に。洞窟からの脱出後、サシャが聖水で清めた美しく光るネックレス。
「結婚式には呼んでください」
とニヤニヤしながら言うローザ。その裏側に秘められた野望を知ることの無い青年は照れながらも承諾する。その幸せそうな表情に、高千穂はまるで我が事のように嬉しそうな表情を浮かべながら、内側ではラブラブ妄想モードに入っている。
別れ際サシャが青年に尋ねた綺麗な花の咲く場所。その答えは、今回冒険者達が入った洞窟の向こう側だという。洞窟は出入り口が2つあり、風が流れる。どこかから流れてきたゴブリンが水の無いあの洞窟に住み着いたのは、向こう側に川があったから。
冒険者としての仕事には様々なものがあるが、悩みや苦しみなどはどんな仕事にでも付きまとう。戦うことは苦しいことだ。人の為を思う時には悩むものだ。だが、そこで労を厭わず努力すれば、必ず暗い洞窟を抜けることが出来る。その先には、きっと求めた綺麗な花があるだろう。