装飾品泥棒の行方
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■ショートシナリオ
担当:香月ショウコ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:09月09日〜09月16日
リプレイ公開日:2006年09月18日
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●オープニング
開拓は国土を広げ農地を増やし、街が広がり人が増える。国力の向上は治安を良くし、民の生活が安定していく。そんな、良い事尽くめのものではない。
森の開拓はそこに住んでいた動物達、縄張りを張っていたモンスターたちとの対立を生み出す。特にモンスター相手では、まともに戦う術を持たない人間などただの餌。順調に開拓を進める人・集落もあれば、モンスターに悩まされ開拓を中断させられたり、人生の終止符を勝手に打たれてしまう者も出てくる。
それに加えて。命を奪われた者に、生活を守られていた者たち。非力な子供。一人立ちし働いて生きていくには幼すぎ、誰かに頼ろうにも手を差し伸べてくれる大人がいない子供。
彼らは飢え苦しんだ挙句死んでいくか、幸運にも少し生き永らえた先に食い扶持を見つけるか、犯罪に手を染め捕まるか。
・ ・ ・
街の中、大きな通り、小さな路地。至る所を、体が通るのならばと走り回る。
「ソフィ、速く、もっと速く!」
「待って、エド‥‥!」
汚い小さな布袋を両手に走るのは二人の子供。エドと呼ばれた少年は、少女ソフィより先行して走り、安全だと思われる道を探しながら逃げる。
何度も撒かれそうになりながらも必死の形相で二人を追いかける、五人の男達。だが路地とも呼べないほど細い道など大人は入ることも出来ず、遠回りしながらひたすら走る。
「エドっ! こっちだ!」
家々の裏を走る二人の進行方向でドアが開き、別の少年が顔を出す。その手招きに応じて二人が中へ駆け込むとドアは閉められ、まだ弾む息を殺して沈黙と不在を装う。
暫らくして、追手の足音や声も聞こえなくなった頃、ようやく三人の緊張が緩んだ。しかしその表情までは緩む事無く。
「‥‥ミレーナは?」
二人を屋内へ招き入れた少年が尋ねる言葉に、ソフィは下を俯いて口を開かず、エドは何とかそれに答えようと。
「はぐれた。多分、捕まった。悪いニール、俺がついていながら」
「謝るな馬鹿ヤロウ、お前のせいじゃない。それに、捕まったなんてまだ決まってない」
動き無く停滞した空気。聞こえるのはただ呼吸の音だけ。
キエフの、とある真夜中のことだった。
・ ・ ・
「ということで、即刻捕らえてきてもらいたい。全く、薄汚いネズミ共め」
冒険者ギルドで依頼をする手続きを終えた男は捨てゼリフを残して去った。彼はキエフから少し離れた地域に住む貴族に仕える執事の一人で、主たる貴族の命を受けてギルドへやって来たらしい。
その貴族の家には、数日前泥棒が入った。三人組のその泥棒は屋敷内の装飾品・宝石類を持てるだけ盗むと逃走を図ったが、彼らの立てる物音に気付いた屋敷の者が発見、使用人たちに命じて追わせた。すばしっこく地理に通じているような泥棒たちに使用人たちは手を焼いたが、結局そのうちの一人を捕らえることに成功する。
貴族は捕らえた一味の一人を尋問し残りの二人がどこへ逃げたのかなど追及したが、答えは得られず。現在も屋敷に監禁し尋問を続けている。
そしてギルドに持ち込まれた依頼。その内容は、泥棒の捕縛と貴族への引渡し。残りの一味の所在は、おそらくキエフの街中だろうという情報だけ。
泥棒は、12歳ほどの少年少女だという。
●リプレイ本文
●調査と報告
依頼を請けてから2日が過ぎ、冒険者たちは酒場の隅のテーブルに集まると各々が集めた情報を話し始めた。
「まずは確認からであるが‥‥犯人の名前はエド、ソフィ。犯人同士が呼び合っていただけであるから本名かどうかは分からぬが。背は年相応で体格はローブをかぶっていたため不明」
クリステ・デラ・クルス(ea8572)が話し始める。続けて、可能性のひとつとして彼女が考えたことについて執事に質問した結果を伝える。
「貴族が子供たちにわざと金品を強奪させ、落胤を呼び寄せて‥‥という可能性も考えたが、そういうことは無いらしい。執事殿に激怒されてしまった」
クリステがこの際だからまとめて、とサンワードを使っての調査結果についても報告するが、ぱっとした成果は無い。犯人たちが分かれて行動しているのか、何度か尋ねたが『分からない』としか回答は返ってこなかった。
続いて、情報収集についてデュラン・ハイアット(ea0042)が話し出す。盗品は換金するだろうという予測のもと盗品や他ヤバい物を売り捌いている者を探し出し、『どこぞの貴族が盗まれた宝石』をどこかで買えないだろうかと尋ねた。
結果は外れ。これは王城から盗み出された物、これはある古い貴族の家からと、懐から次々に大小真贋様々の宝石が出てくる。こういった手合いの輩は安物を掴ませて高い金を取るためにはどんな嘘も吐く。紹介料を払うから紹介してくれと言ったところで売人の仲間が出てくるだけなのは分かりきったことなので、残念ながら中断した。
同様に、クラム・グランマリア(eb6643)の調査も失敗に終わった。犯人と思しき宝石売りが見つからなかっただけでなく、珍しい宝石なら言い値で買うと言った育ちの良さそうな顔立ちの青年は怪しい宝石売りと強盗窃盗目的のごろつきを大量に引き連れて歩き回る羽目になった。
「‥‥」
デュランとクラムの報告を聞いて下を向く大男。リョウ・アスカ(eb5646)は『当たり』であると思える相手に袖の下を握らせるという戦法をとったが、出し渋れば金が出ると理解した相手がひたすら情報を小出しにし、最後には人を紹介するという盥回し作戦に出られたため断念。もしかしたらゴールにたどり着く可能性もあったのかもしれないが、それまでにどれだけの金が必要になるのか皆目見当もつかなかった。
上手かったのは磧箭(eb5634)。下手をすると犯人とグルである可能性のある人達に聞くのではなく、被害にあっている可能性のある側、もしくは第3者的立場でありそうな側である食料品店を訪ねた。
「最近、子供がやって来て買い出しをしたことがあったそうで御座るよ。よく来る客層とは違っていたから覚えていたようで御座る」
磧がその話を聞いた店では、ほとんど盗難の被害に遭ったことはないとのこと。買い出しに来た子供も礼儀正しく笑顔でパンなどを買い込んでいったという。
パーストの魔法で犯人たちの足取りを追ったヴェロニカ・クラーリア(ea9345)は、疲れた表情で経過を語る。貴族の屋敷から来た追っ手たちの言葉等から日にちと大体の時間、場所を割り出して探ってみたが、何度も角を曲がりすぐに視界から消え、細い路地裏などを時間差を利用しながら逃げていた犯人たちを追っているとすぐに魔力の限界がやってきた。だがそれでも、あと数日も続ければ隠れ家を見つけるのも不可能ではなさそうだった。数日の後にもその隠れ家にいるかどうかは分からないが。
そして、貴族の屋敷へ出向いていた小丹(eb2235)の報告。執事から調査用の証明書を貰いはしたものの屋敷内の警備状況などまでは教えてもらえず、仕方がないので使用人たちに隠れての調査も行った。結果、人為的に突破を容易にしていた・抜け道があるなどの仕掛けは見つからなかった。
「じゃから、あとはヴェロニカ嬢ちゃんの状況次第なんじゃが‥‥」
一同の視線がヴェロニカに集まる。彼女には小が連れてきた、貴族の屋敷に捕らえられていた犯人の一人から情報をリシーブメモリーで聞き出すという仕事もあった。パーストについてもそうだが、こういった仕事をし易くするスキルを持っている者が少ないと負担が大きくなり、効率はあまり良くない。他に方法も無いのだが。
「聞き出せたのは、『二人の犯人の特徴』がエドは銀色で少し長い髪、ソフィが黒髪を後ろで束ねてる、といったところだ。『あの貴族を狙った理由』は偶然、としか分からなかったが、狙う相手を決めたのが彼女でなかったなら、狙った理由を知らされていないのなら、別の可能性もあり得る」
犯人の名前に関しては今回は省略した、と最後に付け足して。彼女は既に魔法の発動に使える魔力を殆ど残していない。
「とりあえず、犯人たちの動機はともかくとして、貴族自身は白ってことでしょうか?」
仕事の依頼人である貴族が怪しいような気がしていたリョウが問う。
「今までに集まった情報から判断すれば、貴族が仕組んだ事件という可能性は低いだろうな」
デュランが思考を巡らせながら答える。
「そういえば、香月さんはどうしたろうか。今日はまだ顔を見ていないが」
クラムがそう呟いた瞬間、酒場に入ってくる女性が一名。噂をすれば何とやら。香月睦美(eb6447)だった。
「皆、すぐに出られるか? 犯人の関係者と思しき子供と接触した。待っているように言ったから、すぐに来てほしい」
一斉に席を立つその音が、問いへの答えだった。
●接触、そして捕縛
(「逃げてきちゃったけど‥‥間違った選択じゃないはず」)
香月が街中で聞き込みをする少し前、クリステが流した噂が一部の人々の間には流れていた。『貴族の屋敷に入った盗人の少女が役人に引き渡される』『少女は拷問を受けている』などと。そんな中ソフィアに声をかけ、自分たちの名を話す香月は彼女たちにとって最大の危険人物だった。
だが、話が進むに連れて認識が少し変わっていった。ずいぶんと一生懸命な物腰で「子供の命がかかっている」と情報提供を頼み込む香月は、敵ではなく寧ろ味方なのではないかと。
そうにも関わらず、ソフィアはここで待つように言って去った香月を待たず逃げた。それは、希望と共に心に浮かんだ疑問。
冒険者が動いているのなら、誰かが依頼をしたはず。‥‥誰が?
エドやニールであるはない。依頼のためのお金が無いし、第一犯罪者が自分の仲間を取り返しに行くと言って受理されるはずがない。
ミレーヌの大事な知り合いの、そこそこに生活をしているらしい最近キエフに来たという若い夫婦。その線も無い。そもそもここ数日会ってない。二人は現状を知らない。
罠かもしれない。その危険性が頭を過ぎり、エドやニールと相談するため、ソフィアは逃げた。
・ ・ ・
クリステのサンワードでの探知を数回行うと、一軒の古い民家に行き当たった。今となっては家の中にいるのか対象にしているソフィアの行方について答えは得られないが、おそらくこの中だろうと中の様子を探る。
と、その時。
「隠れろ!」
小さくも鋭い声でデュランが言った。皆が一斉に物陰などに身を隠すと同時に開かれる民家の扉。小走りで出て行く灰色の髪の少年。
「犯人の仲間か?」
「いや、特徴は合致しないな‥‥」
「寧ろ好都合では御座らぬか? 犯人だけを相手に捕り物が出来るで御座る」
まずは家をぐるり見て回り、出入り口や窓の位置を確認して逃げられない追い詰め方を決定する。そして音を立てぬよう細心の注意を払いながら扉を開け内部へと。
その民家は民家としては一般的な、普通の部屋ばかりだった。キッチンにリビング、ベッドルーム等々。ただ一般的なものと違うのは、キッチン付近には殆ど調理器具も食材も無く、ベッドルームにはベッドの代わりに毛布が数枚畳まれていただけということ。
中にいるであろう犯人を捜して、覗いていない最後の部屋にやってきた磧。突入の合図をして扉を勢いよく開けて中へ踏み込むと同時に、ついて来ていたクラムが扉のあった位置に立ち塞がり逃げ道を無くす。
と。
「‥‥‥‥いない?」
「ということは‥‥」
「二人とも。犯人だと思われる子供が帰ってきた」
磧とクラムが顔を見合わせて考えていたところに、リョウが来て伝えた。他の仲間たちは見つからないよう隠れつつ、逃亡を防ぐためのポイントにいる。
部屋の中に潜み、息を殺して待つ3人。近づいてくる足音。そして、扉が開けられた。
中へ入ってくる人影、それを捕らえようと扉のすぐ傍に控えていた磧が飛び掛ると、人影は驚くべき反応速度でそれを回避した。クラムやリョウも捕まえようとは思うものの、無闇に追掛けまわすだけでは隙が出来ると間合いをとりつつ少年を囲む。
「‥‥エド君、だね? 君たちが盗んだ宝石、あるだけ返してくれないか? そうすれば、もうひとりの捕まった子は僕達が助けてあげるよ」
クラムの言葉に、エドワルドは周囲への警戒を緩めずに聞いた。
「俺たちはいいのか?」
「大丈夫、貴族の人と約束しているのは『宝石を取り返す』ことだけだから、君たちを捕まえたりはしないよ」
もちろん、無事に捕らえるための嘘である。エドワルドは言葉の真偽を確かめるかのように、クラムの目をじっと見る。そして肩の力を抜くと、扉の前にいる磧に向かっていきなり駆け出す。
「‥‥!?」
それと同時に、磧は急激な眠気に襲われた。こういった不自然に急激な変化の原因は‥‥眠りの魔法。
「エド、こっち!」
部屋に入らずに様子を見ていたソフィアが、エドワルドを招き寄せる。小さなミスがそのまま終わりを意味する環境で生活してきた彼らの勘の良さや対人鑑識力はそうそう甘くなかった。
だが、冒険者たちも甘くない。そして容赦ない。
「子供だからって甘く見るなと思ってたんだろうが、君らも大人を舐めちゃいけないな」
家財道具などを巻き込んで、屋内で突如巻き起こる突風。デュランのストームの魔法がエドワルドとソフィアを捉え、動きを封じた。
家の方々から冒険者たちが顔を出し、捕り物はチェックメイトとなった。
●装飾品泥棒の行方
エドワルドはほとんど話さず、ソフィアが小さな声で事情について問われるままに話す。
彼女らはキエフから2日ほど離れた開拓村で暮らしていたが、その村が怪物に襲われ彼女たちを残して全滅。キエフに辿り着くも親類知人引き取り手も無く、餓えて死ぬことの無い程度に繁盛していそうな店から食料などを拝借しては生きてきたという。そんな彼女たちが小さな窃盗を止め宝石などを狙うようになったのは、ニールという少年にこの街で会ってから。ニールは自身も孤児でありながら、自分よりもずっと幼い子供たちを多く守っていた。その光景を見てから助け合っていこうと生活を共にするようになるのに時間はかからなかった。
「貴族の側に落ち度は無い、しかし咎めるには少し酷‥‥難しいものじゃな」
小らが話している間に、馬車の音が近づいてきて。依頼人の男が降りる。
「よく捕まえてくれた。このネズミ共め、ふざけた真似をすればどうなるか、思い知らせてくれる」
後ろ手に縛られたエドワルドとソフィアを、執事の男は汚れ物を見るかのような目で見下ろして。
「罪に対し罰し傷つけるのは簡単だ。だがそれに救いの手を差し伸べ、反省の機会を与えることも、将来を見据える者として必要ではないか?」
「事情が事情だ。盗品も大部分が返ってきたのだし、今回の事は不問にしてはやれないか。そうすれば、慈悲深いという名声も得られるだろう」
ヴェロニカと香月が、執事に訴える。だが、反論は思わぬところからやって来た。
「目的のためには手段も選ばない、嘘だって平気で吐くようなあんた達が、他人にお説教なんて出来る立場かよ」
とエドワルド。家の中でのクラムの言葉を指しているのだろう。ソフィアも香月を一時は味方だと思ったことを思い出してか、暗い表情で俯く。
実際はクリステの流した噂の方が偽物で、子供たちのことを考えた香月の言葉の方は本物である。だが、そんなことを彼らは知るはずもなくまた本当のことを話されても信じようとはしないだろう。
「ガキの戯言はともかく‥‥こいつらには事に見合った罰を受けてもらう。事情が事情だからと見逃したのでは、『困っていたからやった』という『事情』を盾にする輩が増えるからな」
そう言うと、執事はエドワルドの後ろへまわった。そしておもむろに腕の肘から先の辺りを蹴りつける。エドワルドの手と服の袖の中から道へ落ちる小さなナイフ。流れる血。
「油断も隙もあったものではないな。更生の余地など無さそうだ」
やれやれといった風に言い捨てると、エドワルドの腕の怪我などまるで見えないかのように馬車へ二人を放り込む。
「さて、荷物運びは部下に任せて、私は皆さんから捜索の仕方などお聞かせ願いましょうか。部下たちにしっかりと指導しなければなりませんからね。酒場にでも、行きましょうか?」
走り去っていく馬車に、釘を刺されたデュランなどは歯噛みしつつ。
結果はともかく、後味の悪い仕事であった。
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廃墟と化した家の中で灰色の髪のニールは立ち尽くし。
「エド‥‥ソフィ‥‥ミレーヌ‥‥これだから、これだから冒険者なんてのは信用できないんだっ!」