ゴブリン部隊を撃破せよ ルシーナ隊
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■ショートシナリオ担当：紅白達磨 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：4 G 15 C 参加人数：5人 サポート参加人数：-人 冒険期間：03月11日〜03月16日 リプレイ公開日：2008年03月15日 |
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●オープニング
「私一人で‥‥ですか？」「何も貴様一人とは言っておらん。戦力として騎士１０、兵士を１００与えよう」
つい先ほど近隣の警備の者からある報がもたらされた。領内に魔物の集団が現れ、村々を襲っているというのだ。その数およそ２００。点在しているものを含めれば倍にまでのぼると推測されている。
「お言葉ですが、それだけの兵力でこちらの倍以上の敵を掃討するのは困難を極めるかと‥‥」
「ベルトラーゼ卿」
領主の言葉に、上げていた顔を再び下ろすベルトラーゼ。
「はっ」
「奇才と名高いそなたの力をもってすれば、魔物などという愚物の掃除など容易いものであろう」
「‥‥魔物とはいえ一概に全ての魔物が脆弱であるとは言えません。中には熟練のものたちでも苦戦するようなものも多々おります。ましてや今回の敵は普通の魔物とは違い、軍のように統率ができているとのこと、戦いは過酷なものに‥‥」
「おい」
椅子の上に踏ん反り返っていた領主が、見るからに重そうな体をよたよたと引きずるように歩きだし、
ドンッ！！
踏みつけられたベルトラーゼが、紅い絨毯にその額を押し付ける。
「調子に乗るなよ。この私がやれといったらやればいいんだ」
地面に這い蹲る騎士の後頭部を踏みつけたまま領主が言う。甲高い声は男性とも女性ともとれない奇妙な響きだ。
「それとも、私の言うことが聞けないのか？」
騎士にとって主の言葉は絶対である。それに背くことは騎士道に反することとして死よりも恥とされている。
「いえ、そのようなことは」
「だったら早く行け。この愚図！！」
もう一度、思い切り踏みつけて領主は自分の椅子へと戻り、ベルトラーゼも部屋を後にしようとする。
「ああ、そうだ。兵士の数が足りないっていうならさ、そこらへんにいる民間人を少し徴兵していいぞ。１００人ほど好きに連れて行け」
その言葉にぎりりっと歯を食いしばる。額から眉間へと流れてきた紅い血が唇へと触れ、鉄の味が口内へと広がっていく。
「‥‥失礼致します」
早々と部屋を後にしたベルトラーゼは、廊下の壁へと拳を思い切り叩き付けた。
兵士なら他にもいる。わざわざ関係のない、戦闘に関して全くの素人である民間人を連れて行くなど‥‥。
とはいえ、領主の命に背くことはできない。
なんとか与えられた戦力で全ての敵を掃討しなければならないのだ。
「‥‥つらいな」
奇才と歌われ、将来を期待されているベルトラーゼ。先輩である熟練の騎士たちをも凌ぐ剣の腕と、卓越した戦術でゆくゆくは中央の上級騎士になることを夢としている。しかし、それゆえに今の領主からは何かと悪い意味で目をつけられ、あれこれと嫌がらせをうけている。
嫌がらせならいいものの、今回のことは多くの人の命がかかっているのだ。
「‥‥しかし、やらなければ」
なんとしてもやりぬいてみせる。
「よく集まってくれた。私の呼びかけに応えてくれたこと、貴公らの勇気に、まずは感謝を述べよう」
整然と、凛と通る声が広い部屋中に響いた。
一同の前に姿を現したのは、エルフ族の女性、ベルトラーゼの母親も同然と自負しているルシーナである。
部屋には５０人ほどの人影がある。エルフと独特の雰囲気を纏った人間の男女、義賊『鷹の爪』のメンバーである。中にはベガの姿もあった。
「我らは山から森林へと進軍してくる敵本隊をアラドバ率いる前衛軍のいる森林の出口まで誘導することが目的である。また、逃げ遅れた住民たちを本隊とは別の部隊が襲っている可能性がある。彼らの保護も我らの仕事だ。我らが役目を果たさねば、後方に控えている隊が不意をつかれ、全滅することになろう。この一戦、我らの双肩にかかっているといっても過言ではない」
「盗賊が人助け、か。まっ、あたしたち義賊にとっちゃ、普段とやってることと変わりゃしないけどね」
そう言ったベガが仲間たちと笑い合う。
「そこ、私語は慎め！」
「はいはい、いいから続けなよ」
「くっ‥‥おほんっ、概要は今述べた通りであるが、やつらは通常のゴブリンとは違い、集団で統率を取りながら攻撃してくる。敵に捕まろうものなら、まず命はない。あくまで誘導が目的であるとはいえ、戦闘は避けられないはずだ。こちらも小隊単位で動く必要性が出てくるだろう。故に雇った冒険者一人にずつに３名を与えて小隊を組み、各個に敵を撃破してもらう‥‥って貴公、聞いているのか！？」
「聞いてるよ、要するにあれだろ、いつも通り向かってくる敵は斬って逃げてくるやつらを助ければいいんだろ。まどろっこしいことはいいじゃないかい」
やる気のなさそうにあくびをするベガの姿に、ルシーナが歯軋りをする。
「誘導が完了次第、我らもアラドバの隊と合流、もしくは体制を整え敵の側面、背後を突く。過酷な戦いになると予想されるので、やる気のないものは来るな！ よいな！！！」
激昂したルシーナが肩を震わせながら、部屋を後にする。
「やれやれ、もうちょっと気が長けりゃ気も合いそうなのにさぁ」
ぽつりとそう呟いたベガは、ぽりぽりとこめかみをかくのだった。
偵察隊及びルシーナからの報告
・敵本隊より先に周囲の小隊が森林に侵入してくると予想される。また、それと同時に逃げ遅れた民間人も逃げてくると推測。民間人の数はおよそ２０人。負傷しているものが多いと考えられる。
・雇った冒険者たちにはルシーナ率いるエルフ隊、もしくはベガ率いる義賊から３名選び、４人の小隊を組んでもらい、各個に動いてもらう。他の冒険者と組み、小隊の規模を拡大してもよい。
・森の奥で道が整備されていないため、馬車は使用不可。馬術に優れたものなら、馬で移動することは可能。
・誘導地点までの距離は数キロ、徒歩で３０分ほど、戦闘しながらの後退なら１時間はかかる。
・誘導完了後は、民間人の非難が終了次第、敵の背後もしくは側面を突く予定。
・現地到着後の２日目の昼に敵小隊が森林に侵入してくると予想される。敵本隊を破った後は残党の掃討を行う。
●今回の参加者
ea0827 シャルグ・ザーン（52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国）ea2606 クライフ・デニーロ（30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国）
eb4155 シュバルツ・バルト（27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb7851 アルファ・ベーテフィル（36歳・♂・鎧騎士・パラ・メイの国）
eb9949 導 蛍石（29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国）
●リプレイ本文
●決戦前夜現地到着後の一日目の夜。森林付近に設けられた本陣、あちこちには兵士たちが休息を取るためのテントが立ち並んでいる。中央テントで会議を終えた誘導部隊隊長ルシーナが中から現れる。
「お疲れ様です。会議はいかがでしたか？」
冒険者アルファ・ベーテフィル（eb7851）が出迎える。
「偵察隊の話によると敵本隊は山岳部奥にて待機しているとのこと。決戦は明日だ」
アルファと並んで歩き出し、ベガの待つ誘導隊の陣へと向かう。テント内には明日、各小隊を指揮してもらうことになる小隊長たちが地図を前に腰かけていた。右から順番にシャルグ・ザーン（ea0827）、クライフ・デニーロ（ea2606）、シュバルツ・バルト（eb4155）、導蛍石（eb9949）。皆アルファと同じく、ベルトラーゼの呼びかけに応えてくれた冒険者たちである。
「待たせた。我々の予想通り敵本隊はここより北の山岳部奥にて待機、明日の正午ごろが戦の始まりとなろう」
ルシーナの隣にアルファが腰掛ける。
「明るい間に森林を探索しておきました。道らしき道はほとんどなく、敵本隊が進軍してくると思われる地点は特に草が高く、伏せれば姿を容易に隠すことができましょう。木々もあるため姿を隠しつつ射撃するにはもってこいの場所です。それと非常に簡単ものですが、罠をしかけておきました。草で輪を作って足首をすくうという、子供でも思いつきそうなものですが、足元への視界が悪いあの地点では十分でしょう」」
続いてシャグルが口を開く。ジャイアントである彼には少々この椅子は小さそうだ。
「我輩は馬術に長けたものを連れて弓隊援護の元敵小隊長を狙い討つ。民間人の保護はルシーナ隊に一任する」
「間違ってエルフ隊の矢に当たらないようにしなよ」
入り口に現れたのはシャグルと互角の体格を持つベガ。
「何の、矢の一本や二本でくたばる様な柔な体は持ち合わせておらぬ」
その剛毅な言葉に嘘偽りは感じられない。さすがは歴戦の猛者、と言ったところか。
「私が率いるエルフ隊は、前衛を任すベガ隊、シャルグ隊、シュバルツ隊、アルファ隊を後方より弓矢で援護する。クライフ隊は我が隊と同様後方からの援護、導にはペガサスにて民間人の探索、及びその保護を任せる。戦闘当初は互いの位置は確認できようが、乱戦になるにつれそれも難しくなろう。原則我が隊を中心として動くよう。我が隊が後退すればそれに合わせて後退、付いて来ぬ隊は自然孤立する。必ず我が隊の位置と方角だけは見失わぬよう確認しておけ」
一同の前でルシーナが立ち上がる。
「クライフ、魔法の罠のタイミングは任した。打ち合わせ通り致せ」
「はい。申していました弓隊、魔法兵はお預けいただけますか？」
「貴公の希望通りの者を用意した」
クライフが頭を下げて礼を述べる。
「殿はシュバルツ。本隊が接近すればオーガ上位種も現れよう。もちろん他の隊も援護はするが期待はするな」
「任せて下さい。上手にあしらってきますから」
余裕の表情で微笑むシュバルツ。
「導、貴公には可能な限りで構わぬから、上空から各小隊と逃げてくる民間人の位置を確認し、私に伝えてもらいたい。突出しすぎている隊がいた場合は叱ってやってくれ。場合によっては民間人保護のために敵小隊のど真ん中に進んでもらう可能性がある。その際は各隊が全力でバックアップするが、長くは持たぬ。危険な任だが、頼んだぞ」
「了解です。戦場の緊迫感は嫌いではありませんからね。生還できるよう努力しますよ」
各自の役割を確認し、会議は終了となる。
各自がそれぞれのテントに戻り、中にはルシーナとベガだけが残される。
「もう年なんだ。あんま無茶すんじゃないよ。腰抜かしても戦場じゃおぶってあげられないからね」
「そちらこそ、調子に乗って出過ぎぬよう注意されよ。貴公の屍を運ぶのは少々手がかかりそうであるからな」
見合って一笑。
風もない夜だった。
●作戦開始
火蓋は切って落とされた。
始まったのは翌日の昼過ぎ。予定よりやや遅いが、この程度の誤差なら計算内だ。
敵本隊の周辺に点在していた幾つも小隊が次々と森林に侵入してくる。アルファが罠を仕掛けていた地点と全く同じである。近づいてくる敵小隊。各小隊が身を伏せる中、ルシーナ隊、クライフ隊が弓矢と魔法の準備を行う。
「敵小隊の距離、およそ３０！」
上空から敵との距離を伝える導の声に、ルシーナが刀を抜く。
草を掻き分け、進んでくるモンスターの足音。
そしてその距離が２０をきった瞬間、刀を握るルシーナの手が前方へと突き出された。
「放てぇーーー！！！」
一斉に身を起こして放たれる矢の雨が迫ったゴブリンたちを骸へと変える。
伏兵に動揺する敵小隊に重ねるようにファイアーボムが炸裂、弾けた爆音が敵の動揺を更に煽った。
敵の出鼻を挫いた隙を見逃すことなく喚声を上げながらベガ隊、シャグル隊、シュバルツ隊、アルファ隊が突撃する。
「どけぃ！！」
３騎を連れて木々の間を猛進するシャグルが、止まることなく敵を斬り倒す。小隊の指揮をとるホブゴブリンを狙い一直線に突撃、馬上からとどめを刺すと即座に後退。そしてまた隙を狙っては敵小隊長を狙い攻撃していく様は鮮やかでゴブリンたちを圧倒させていく。
個々の能力で勝るルシーナたちだが、次から次へと押し寄せてくるモンスターたちに徐々に後退、やがては分断されていく。予想通りルシーナ隊の位置を頼りに各小隊が各個に応戦することになった。
「ここが正念場だ。気を抜くなよ！！」
周りの義賊たちと共に懸命に応戦するアルファ隊。交戦していた敵小隊をようやく撃破し、息をつこうと思っていた矢先だ。
「アルファさん！ 前方距離２０、女性を確認しました！」
敵に混じって逃げてくる民間人の多いこと。数分前に男性を保護し、避難させたばかりだ。
「くそっ休む暇もないのかよ。行くぞ！」
仲間を引き連れて敵より先に女性を保護、二名を女性の護衛につかせて後方に送り、一名を連れて敵をおびき寄せる。
この辺りは昨日罠をしかけていた付近だ。案の定、まだ残っている罠を見つけ、その後ろへと回り込む。
「来れるもんならここまで来て見ろ！」
言葉が通じたかどうかは不明だが、アルファたちが２人なのに対し、敵の数は５。弱いものをいたぶるのを好む性質をもつゴブリンたちが迫り、アルファの計画通りひっくり返る。怒り狂う敵を更に挑発しながら、後退し、戻ってきた仲間と共に再び敵を迎え撃ち殲滅する。これを何度も繰り返し、アルファ隊は確実に敵を撃破していく。
一方後退しながらもルシーナは部隊を率いて近寄る敵に片っ端から矢を浴びせて敵小隊を殲滅していった。自然ルシーナ目掛けて敵が集まってくる。
タイミングの悪いことに敵への応戦で手一杯のところに、一人の子供が敵の合間を縫うようにこちらへと逃げてくるのを確認した。それに気づいた導がルシーナ隊の援護を背に敵の中へと突入、襲いかかろうとしていたゴブリンをなぎ払う。
「少林寺流、蛇絡！」
敵の足を払い、バランスを崩した敵の急所へと拳を突き立てるという流れ技。周りにいたゴブリンたちはあっという間に気絶した。すぐさま主の命を受け、ペガサス黄昏がホーリーフィールドを展開し、恐怖に泣きじゃくる子供へとリカバー、メンタルリカバーを施し、治療を行う。
「おらぁああああ！！！」
大剣の刃が導の背後へと振るわれ、鮮血が飛び散った。背後を襲おうとしていたゴブリンの体がそれを受けて真っ二つになる。
怯むことなくベガへと押し寄せるゴブリン。その間に割って入ったシュバルツがベガと同じように敵の体を両断した。
「ひゅ〜♪ やるね〜あんた。シュバルツ‥‥だったかい？」
「ええ。さっさと退くつもりだったんだけど、思わず、ね」
そうこう言っている間に二人を敵モンスターたちが取り囲む。
「ベガ！ シュバルツ！ 何をしている！！ さっさと後退しろ！！」
ルシーナ隊の一斉射が降り注いだ。
「それじゃ逃げますかい」
「りょ〜かい♪」
すでに後退した導を追って、二人も後方へと下がる。背中を襲ってくる敵を吹き飛ばしたのはクライフのファイアーボムだ。
「ありがと。助かったわ」
「いえいえ、とんでもございません」
シュバルツの声にクライフが笑顔で答えた。
誘導は順調に進んでいた。森林の出口まで後１０分もかからない距離まで来ている。
こちら目掛けて飛んでくる矢の雨。木々に身を隠したまま、応戦するルシーナが叫ぶ。
「クライフ！！ フォレストラビリンスの準備は！？」
「完了しました！ プラントコントロールによる障害もＯＫです！」
クライフの言葉通り、後方には木の枝や草がわざと見えるように盛り上がり壁や障害となっていた。ゴブリンたちはこれを避けると思うが、上位種のミノタウロスやトロルはこれ見よがしに立ち塞がるこれらを破壊すべく直進してくるだろう。この障害はおびき寄せるためのエサ、障害のすぐ先はフォレストラビリンスの範囲であり、そのまま迷宮に閉じ込められることになる。十分な時間稼ぎになるはずだ。
会話している間にも飛んでくる矢に応戦するが、数が違いすぎる。敵本隊が近づいているため、敵小隊間の統率が強まっているのだ。
「敵本隊、現れました！！」
エルフ隊の一人が叫び、それを聞いたルシーナが周囲に叫んだ。
「全員後退！！ 負傷者に手を貸し、速やかに森林より脱出しろ！！ ここまでくれば敵はアルドバ隊にいる出口に向かう！」
指示を受けて各小隊が一斉に後方へと退いていく。導もペガサスを使い速やかに負傷兵を運んでいく。導、ペガサスも小さい出血の積み重なりでの疲労の限界が近づいていたが、そこはリカバーポーションで補う。
声を張り上げるルシーナの元にアルファが息をきらせて飛び込んできた。
「ルシーナ隊長！ ベガ隊、シュバルツ隊が未だに森林奥で戦闘中！ 殿の際取り残された模様です！」
「あの‥‥大ばか者！！」
敵本隊の接近に伴い、敵の指揮系統が強まると同時に上位種であるミノタウロスやトロルが現れていた。
「はあっ！！」
トロルの棍棒を紙一重で避け、丸太のような太股を渾身の力でシュバルツが突き刺した。すぐに再生するが足止めには十分だ。シュバルツの周りにいるのはベガと義賊が数名、全員逃げ遅れたというより、他の者が無事逃げられるよう殿を務めているのだ。
「さっき逃がした男でちょうど２２人目。どうやら民間人は全員助けられたみたいだねぇ」
「それはいいんだけど、私たちもそろそろ帰らない？ あなたもそろそろ限界でしょ」
「まぁ、逃げたいのはやまやまなんだけどねぇ」
戦の中で意気投合し、一緒に戦っている内に仲間意識が芽生えた二人だが、どうにも戦いすぎたようだ。周りは敵だらけ。
そんな中、包囲網を突き破り、現れたのはシャグル。
「のけぃ！！！」
機動力に長け、その戦闘力を信用されルシーナが救助隊として派遣したのだ。
持ち前の太刀に渾身の力を乗せて切り払い、敵を次々となぎ払う。その凄まじい気迫にモンスターたちの間に恐怖感が走った。その隙を見逃すベガとシュバルツではない。
「今の内に、脱出を！！」
「あいよ。いくかい」
「は〜いよ、りょ〜かい♪」
進路を防ぐモンスターを払いのけ、無事敵中を突破したベガたちはそのまま森林の出口へと向かった。
何とか追っ手を振り切り、無事役目を果たした一行はそのままアルドバ隊の後方の陣に集合、導のリカバーを初め、各自負傷者の手当てを行った。
クライフが脱出間際に唱えたクリエイトウォーターは敵の進軍を遅らせ、出入り口に設置したフォレストラビリンスは敵上位種の行動を封じ込めるには十分の役割を果たすことができ、後の戦闘を有利に運ぶ要因となった。
誘導後アルドバ隊と敵本隊との戦闘を経て、ベルトラーゼ本隊が敵本隊へと突撃。
空を翔る鷲のごとき速度、まさしく疾風のような速さと切れ味を持ったその攻撃に敵陣形は脆くも崩壊、それを機に背後からルシーナ隊と正面からのアルドバ隊が総攻撃を行い、こちらの大勝利でこの戦は幕を閉じた。
●戦の後に
散開した敵残党の掃討も順調に進み、いよいよお別れになった時、参加した冒険者たちはベルトラーゼの屋敷へと通された。
決して大きくはないが、小さくもない。中流階級の騎士たちがもつ屋敷だ。
中央の居間に案内される一堂、そこには他の隊に参加していた冒険者たちも揃っていた。
やがて鎧を包んだまま、ベルトラーゼが一同の前に姿を現す。
「今回の戦、本当にご苦労でした。皆の働きがなければ、勝つことが出来ませんでした。今頃は地面の上に骸を晒していたと思います」
一人苦笑するベルトラーゼは、改めて顔を上げる。
「本来なら、皆の戦功に対して相応に報いたいのですが、あいにく私は自分の身を養うことすら手一杯の身。申し訳ありません」
申し訳なさそうにベルトラーゼは頭を下げた。平静を保っているが、拳は握られ、震えている。報いることができないことの悔しさ、苦渋を強いられているからこそ、その悔しさはより強いものとなる。
「せめてもの報いとして、皆に一つの称号を授けさせていただきます。受け取った後はそれをどうするかは自由です。称号の名は『鷹の氏族（トゥグリル・クラン）』」
「トゥグリル？？」
「私の父は、『トゥグリル』つまり『鷹』という異名を持つほどの騎士でした。一時は上級騎士として王宮に仕えていましたが、ある事件で騎士として不名誉の烙印を押されてそのまま果てました。不名誉の烙印は子である私にも引き継がれ、いつこの烙印が晴れるかはわかりません。故にこの称号は不名誉の騎士から与えられた称号。そんなものを受け取っても、迷惑かもしれませんが、不甲斐ない私からのせめてもの贈り物とお考え下さい」
涙を堪えて、ベルトラーゼは再び冒険者たちに向き直る。
「氏族とは本来血のつながりを重視した集団のこと。私は血ではなく、共に戦い、共に血を流したものたちこそが本当の仲間と考えています。その称号は、私と貴方が血よりも深い絆で結ばれた戦友の証」
鷹をモチーフとした紋章が胸元へと刻まれた鎧、ベルトラーゼの亡き父が愛用し、今またベルトラーゼが用いている。
精巧に彫られた鷹の瞳がまっすぐに一同を捉えた。
「願わくは、皆とまた会えることを。武運を祈ります」
