お嬢様(?)シャルロット救出隊
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■ショートシナリオ
担当:紅白達磨
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月03日〜04月08日
リプレイ公開日:2008年04月09日
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●オープニング
男性があくびをかみ殺し、目を擦った。体を潰す朝特有の眠気を抱えつつ、いつも仕事場へと向かう。天気は快晴、今日も平和に一日になりそうだ。
この屋敷に仕えてから半年。毎朝食事を出し、朝の散歩に付き添う。
それで済めばいいが、あの我侭お嬢様のこと。あれやこれやと出してくる注文には笑顔で応えなければならない。
貴族に仕えるとは己を殺すこと。今は亡き父親の言っていた台詞が今更ながらに後光がさして聞こえる。
沈む気持ちを奮い立たせ、入り口をノックして歩みを進め、立ち止まった。
手から零れ落ちた飲み物が床の上に広がっていく。それは男の中に広がる動揺を暗示しているかのようだ。
男は走った。
目の前に起こっている事態が夢であることを願いつつ、周囲へ、外へと目を走らせる。
夢ではないのだと、はっきりと自覚するまでにかなりの時間をかけて、
消えたお嬢様の無事をただ祈りながら男の膝が地面へと崩れ落ちた。
昨夜、ナイアドから西に数十キロの地点に多数の恐獣が確認された。
恐獣は村々を破壊、カオスニアンも略奪の限りを尽くしているという。
この報を受けて、ただちにモナルコス2騎を中心とす部隊が出撃した。
「大丈夫ですか」
ギルド職員の言葉も遠い。
「‥‥私のせいなのです」
呆然と腰をかけたままぴくりともしない男の顔は暗い。
男はさる貴族に仕える召使いでその屋敷のご令嬢のお世話をしていたらしい。
職務に従い、話を促すギルド職員の顔も翳りを帯びている。
「お嬢様のお名前はシャルロットと申します。私がいつものように朝食をお持ちになった時にはすでに姿を消しておりました」
「‥‥何か心当たりはないのですか?」
無言の男。
「何でも構いません。些細なことでよいのです」
「‥‥そういえば」
何かに思いあったように顔を上げる。
「昨夜、一人の騎士がお嬢様と親しく話しておりました」
「騎士?」
男の話によれば、騎士の名はロニア。その剣の腕もさることながら、女性を扱う術に長けているという。
「もしかするとその騎士がお嬢様をたぶらかしたのやも」
「その騎士は今どこに?」
「昨夜もたらされた恐獣襲来の報を受け、その討伐軍に参加しているはず。お嬢様もきっとそこに!」
「お、落ち着いて下さい。どのような者であれ、女性を戦地に連れて行くという行為は考えにくい。まずはその騎士の屋敷を調査するべきでは」
「いえ、あの者とお嬢様の性格を考えれば、違いありません! お嬢様は好奇心も強く、足も速い。軍に追従するなど造作もないことです」
「‥‥は、はぁ」
興奮する男とは反対に、職員が気のない息を吐いた。
普通貴族のご令嬢は運動などしない。室内で行動するのが当然であり、常識的に考えて鍛えられた軍についていくのは困難だろう。
足が速いお嬢様、ねぇ。まぁいないことはないが。
「それに力もあります。お嬢様にかかれば、人の一人や二人、乗せて走ることも可能です!」
「え、ええぇ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
いや、確かに力があるご令嬢もいないことはない。武術を好み、下手をすればそこらの騎士より腕のたつご令嬢がいるとの話も耳にしたことがある。だが、百歩譲って騎士がご令嬢を抱えて走ることは想像できても、その反対はにわかに難しい。しかも、二人って‥‥。
「‥‥」
「‥‥」
何だろう、この違和感は。
互いの間に、何か根本的なものがずれている。
「あの‥‥そのお嬢様ってもしかして‥‥」
まさか、と思って半信半疑で口にしてみると、答えはビンゴだった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥馬?」
「はい、勿論です」
力が抜けてがっくりと項垂れた職員が、深いため息をついた。
「それならそうと言ってくださいよ。私はてっきり人間だと考えていました」
「あ、あぁ。すみません」
とはいえ、事の重大さは変わらない。
ロニアという騎士が連れていったのは、本物のご令嬢が目にかけて可愛がっている馬であり、この男はその馬の世話を任されていたらしい。馬が勝手に持ち出されたことは、騎士は勿論だがその世話を任されていたこの男にも責任はある。もしも戦地で『シャルロットご令嬢』が死亡することにでもなれば、責任は重大、最悪の場合解雇では済まされず、縛り首である。
幸い軍が出撃したのは昨夜、まだ一日と経過していない。戦いが終わる前に現地に着くはずだ。
「どうか、お嬢様をお助け下さい!」
●リプレイ本文
● お嬢様救出隊出陣
フロートシップによって現地付近へと移動。戦場より西方3kmの地点、ゴーレムパイロット、ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)の乗るモナルコスが艦のハッチより姿を現した。
『こちらベアトリーセ・メーベルト。どうやら戦闘は既に開始されているようね』
戦闘開始が為されていなければ、冒険者たちが恐獣の足止めをして騎士ロニアごと『シャルロット嬢』をフロートシップに避難させる作戦だったがどうやらそうもいかないらしい。
握りこぶし程の白雲の下、広がる平野の上で大きな土煙がたっている。時折見える大きな人影は先行したモナルコスの部隊だろう。対して向かって右に生い茂る森林からは戦の喚声が耳に飛んでくる。どうやらロニア率いる歩兵隊はそこのようだ。
「こちらも確認しました。モナルコス隊がアロサウルスと戦闘中のようですから、私たちが彼らの援護をします。ネフリティスさん、準備は良いですか?」
「はい、問題有りません」
搬送されてきたグライダーに跨るシルビア・オルテーンシア(eb8174)。今回は上空からアロサウルスの注意を引き、モナルコス隊の援護を行う予定である。
そしてグライダーの後ろに乗るのはネフリティス・イーペイロス(ec4440)だ。シルビアと同じように上空から得意の魔法で敵の動きを鈍らせる役目を担うことになっている。
「なんとも厄介なことだな。それに無責任な騎士だ。どうなるのかという責任能力はないのか」
レインフォルス・フォルナード(ea7641)が戦場へと向かうモナルコスの横に追従する。ゴーレムが叩き鳴らす足音はまるで地響きだ。
「あの‥‥申し訳御座いません。シルビア様」
「気になさらないで下さい。それよりも敵の足止め、期待していますわ」
保存食を忘れてシルビアから分けてもらい、少し前まで落ち込んでいたネフリティスだったが、今では持ち前の前向きな性格ですっかり気分を持ち直している。
「‥‥はい、参りましょう!」
笑顔を受け取ったシルビアがグライダーを一気に加速させる。
鳥のように軌跡を伸ばし、二人を乗せた機体は広がる大空を切り裂くように真っ直ぐに駆けていった。
● 護衛戦開始
大地を揺るがす喧騒、振るわれる斧、蔓延る木々を蹴散らして、ゴーレムの巨体が吹き飛ばされる。
「くそっ、なんて力だ!」
アロサウルスの尾をまともに胴体に受けて地面に横たわる一騎のモナルコス。その操縦者が唇を噛んだ。
敵の数は2、こちらの騎数は3。数でこそ勝っているがそれでも苦戦は免れない。
ゴーレムをニ騎まとめて吹き飛ばす威力を持つ尾、頑強に作られたはずの腕を容易くもぎ取る顎、通常の魔物とは桁が違う。
他の二騎が相手をしている間に、操縦者が倒れたモナルコスを起き上がらせようと操作する。
「‥‥何だ?」
上空を向く視界に映ったのは、無限に広がる大空を縦一直線に切り裂く物体。それがグライダーと気づくまでには数秒を要した。
「ネフリティスさん、しっかり捕まっていてください!」
「‥‥はい!」
後方のネフリティスの腕が自分の体にしっかりと抱きついたのを確認して、シルビアのグライダーが加速、空へと伸びる恐獣の首元を潜るようにすり抜ける。倒すことが目的ではない、敵の注意を引き付けてモナルコスの部隊を援護できればいいのだ。
通りざまに首目掛けて矢を放ち、恐獣の巨体の表面を滑るように駆け上げっては離れていく物体。それに恐獣たちの矛先が向かないわけがない。だが同様に注意が逸れた相手の隙を見逃すモナルコスたちではなく、得物を手に攻撃を開始する。
シルビアたちの援護により攻勢に出たモナルコス部隊。
それとは別働隊である歩兵隊が展開する森林でレインフォルス、ベアトリーセもやや遅れて戦闘を開始した。
沸き起こる悲鳴と喚声を頼りに足を進めていき、終に兵達を指揮している騎士へと行き着いた。
「貴様がロニアか?」
「そうだが、貴公は?」
無愛想な口調のレインフォルスにも関わらず、騎士は戦場でも礼儀を怠ることなく兜の仮面を外す。
すると中から現れたのは女性と見紛う程の美男子だ。整った顔立ちに、真っ直ぐな瞳、内に秘めた誠実さが表へと現れている。
騎士の下では白銀の鬣を持つ立派な白馬がその瞳をレインフォルスへと向けている。戦闘馬のような鬼気迫る圧迫感というよりは、着飾った婦人のような印象だ。
美形の騎士に、優雅な騎馬、そこだけが戦場から切り離された一つの絵のように美しい風景として成り立っていた。
見た限りでは怪我をしている様子はない。
「‥‥これは失礼致した」
「何?」
美形には弱いレインフォルス。くだらないことをした馬鹿な騎士に文句の一言でも言ってやろうと思っていた彼だが、相手が美形であれば怒りも幾分かは収まる。それにこの誠実さの塊とも見える騎士が、ご令嬢の馬を勝手に連れて行くものなのという疑問が彼の中で生じた。
再びレインフォルスが口を開こうとすると、人間にしては甲高い鳴き声が向こうから響き、段々と近づいてくる。
『話は後にしましょう。まずはシャルロット様の安全確保を最優先に』
「了解した」
「待て、貴公らは一体‥‥」
「御託は後だ。来るぞ」
木々の間から突進してくるのはヴェロキラプトル。その数3匹。
ロニアたち歩兵隊を庇うようにベアトリーセのモナルコスが木々を押しのけながら前へと進み出て、地面へと斧を振り下ろす。
小型で速度も速い恐獣だ。二匹が木々の後ろに隠れるように突き進み、ゴーレム股座を潜りぬけてロニアたちを一直線に目指す。そして残りの一匹はそのままゴーレムの足をよじ登ろうと体に引っ付いてきた。
『くっ‥‥、反応が鈍い!』
必死に振り払おうと腕を動かすが悉くかわされてしまう。ベアトリーセの操作が鈍いわけではない。モナルコスの性能が彼女の技量に全くついて来ていないのだ。噛まれようが痛みを感じるわけではないが、邪魔であることに変わりはなく、引き離すように体を半回転、大木に叩きつけられた恐獣へと続け様に斧の一撃を放ち、止めを刺した。
「速いな‥‥だが‥‥!」
兇暴な牙をむき出しにして正面から駆けて来るヴェロキラプトルの姿に『シャルロット嬢』を初め、兵達もすっかり怖気付いている中、冷静なレインフォルスが前に躍り出ると手にした槍を突き出した。
ゴーレムの攻撃同様避けきれると甘く見ていた恐獣の腹へと深々と槍の矛が突き刺さる。
痛みに狂うヴェロキラプトルの爪で頬を切り裂かれながらも、喉元へと切っ先を突き出して傷を負わせる。 攻撃、回避において達人の領域に達したレインフォルスでもこの恐獣相手に無傷は無理なようだ。
二匹を前に一歩も引かない彼の姿に鼓舞された兵士たち十数人が我に返って援護に入る。いかに強い恐獣であろうとこの数には叶わなかった。
頬に伝う紅い血を拭っていると、別方向から新手のヴェロキラプトルが押し寄せて来ているのが見えた。しかし、レインフォルスがそれに向かうよりも早く、ベアトリーセのモナルコスが大またでロニアたちを飛び越えると斧を地面と垂直になぎ払い、木々ごと敵を吹き飛ばした。重さ数トンのレベルから繰り出される衝撃に揺れる恐獣たちは二人が手を下す必要はなく、兵士たちの手によって息絶えた。
こちらはアロサウルスと交戦中のモナルコス部隊。
グライダーから雨のように降り注ぐ矢は恐獣の体に突き刺さり、すでに恐獣の首元から紅い血の線が模様の様に伸びている。参加人数が少ない分、フロートシップの内部に積まれていた矢をしこたま貰い受けていたシルビアの手からすでに幾本もの矢が放たれた後だ。
一騎のモナルコスが振り下ろした大斧の刃が恐獣の懐にめり込み、絶命させる。
「やりました! 残りはもう一匹」
上空へと伸び上がったシルビアがグライダーの頭を下へと傾けて降下する。
『もらった!』
鎧騎士が普通の数倍ある剣を振り上げて走り出すが、仲間をやられた恨みなど欠片も感じず、麻薬によって暴走したもう一匹の巨大な尾が、剣ごとその右腕を体から弾き飛ばした。
腕を失って地面に倒れたゴーレムの懐へと、止めを刺そうとアロサウルスがその足を掲げる。
「させません、アグラベイション!」
恐獣の巨大さ故にその効力こそ低下するものの、他の二騎が間に入る時間を作り出すには十分であった。
体当たり気味にアロサウルスを地面へと押し倒してモナルコスの部隊が押し寄せる。
ベアトリーセのモナルコスが到着する時には、すでに戦闘は終結。
モナルコス一騎が負傷、他に然したる犠牲は出ず、歩兵隊の被害も最小限に抑えられた。件の『シャルロット嬢』にも掠り傷一つ確認できない。護送の任も何事もなく完了し、依頼は無事終了した。
● 『ご令嬢』の真意
都市に到着後、騎士ロニアと共に『シャルロット嬢』を依頼主である男性の待つ屋敷へと連れて行っている時だ。
「お嬢様〜〜〜!!」
屋敷の方角から、その男性がこちらに走ってくる姿が見えた。
冒険者たちが依頼に成功したとの報を受けるや否や、心配で気が気でなかった男性の方からこちらにやって来たのだった。
「ロニア、『シャルロット様』をあのような危険な戦場に連れて行くとは貴様気でもふれたか!? 今回の件、お嬢様に報告し、然るべき罰を受けてもらうぞ!」
本来なら召使いである彼よりも騎士であるロニアの方が身分は上であり、男性の方が敬語を使うべきなのだが、事が重大だけに彼自身も正気ではいられなかった。
「女たらしであることは知っていたが、まさか馬にまで手を出すとは‥‥この鬼畜が!!」
戦で疲弊したロニアの胸倉を掴んで、大きく揺さぶる男性。騎士が何か言おうとしているのに気づいたレインフォルスがそれを止めさせる。
「お、落ち着いてください。貴方は何か勘違いしています」
「勘違いだと!? 貴様のせいで私の首が飛ぶところだったんだぞ!」
「それはありません。私はお嬢様の命を受けて『シャルロット様』を戦場にお連れしたのです。決して無断で連れて行ったわけではない」
「‥‥‥‥‥‥な、何?」
「どういうことですか?」
シルビアが眉を顰めてロニアに詰め寄る。すると女性に免疫がないのか、ロニアは恥ずかしそうに頬を少しだけ朱色に染めながら口を開いた。
「お嬢様が、箱庭娘である『シャルロット様』に、逞しさというものをお与えになりたいと申して戦場に連れて行くよう命じられたのです。私もお止めになるよう進言したのですが、何事も経験である、と仰って聞いてくださらず‥‥」
「‥‥それじゃあ、もしかして今回の依頼って」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥無駄骨?
冒険者たちの顔に同じ色をしたものが浮かぶ。
まあ、苦戦していた部隊の援護になったから結果オーライとも言えるが、それにしても恐獣の潜む戦場を命を賭けて走り回った苦労が何だったのかと思うとやや悲しくなる。
「そ、そうであるなら、出撃の際、世話係である私に一言あっても良いではないですか!? 元々ロニア様が普段から紛らわしい真似を為さっているから」
すっかり気弱になった男性が口調を改めた。先ほどまでの食って掛かる覇気は微塵もない。
「紛らわしい真似?」
「だ、だからその、女性を普段からはべらかして‥‥」
男性の声を受けてぼっと火が付いたようにロニアの顔が赤くなった。
人間と馬とは全く違うのだから男性の意見が可笑しなことであることは一先ず置いておき。
恥ずかしがり屋の子供みたいに赤くなったロニアの顔を見て、『あっ可愛い』と心の中で呟いてネフリティスが不意に口を開く。
「もしかするとなのですが、実は女性の方から言い寄ってくるだけであってロニア様が女性好きというのは目も歯もない噂、ということでしょうか?」
「も、もちろんです。女性を口説くなど、その私には‥‥」
真っ赤になって言いよどむロニア。この茹蛸みたいな顔から判断するに彼の言葉に嘘はないようだ。
「俺が思うに、ロニア殿は出撃の準備等で忙しく、それ故お前に報告出来なかったのだろう。召使いであるお前が依頼の前に屋敷のご令嬢か、主人に一言確認する必要があったのではないか?」
「‥‥まぁ、一理ありますね。何も言わずに依頼をなさったお気持ちも分かりますが」
レオンフォルスに加えベアトリーセがロニアの肩を持ち、最後には一人孤立した召使いの男性。
依頼の代金は平民である彼にとって莫大なもの、様々な事情があったとはいえ、自分にも責があったことは事実であり、誰を責めるに責められない。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「‥‥さて、帰るか」
ちょっぴり可哀想な男性の絶叫が木霊する中、冒険者たちは静かに背中を向けてその場を後にしたのだった。
※ 今回の教訓『早とちりはいけません。何事もまずは確認しましょう』