モンスター退治の依頼

■ショートシナリオ


担当:紅白達磨

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月28日〜12月03日

リプレイ公開日:2007年12月04日

●オープニング

 街から離れたところにある村があった。
 その生活はお世辞にも豊かであるとは言えないが、その中で人々は平和に暮らしていた。
 今、村の人々の顔は暗い。
 領主の圧政によって税は重く、日々の生活を送るだけでやっと彼らにとって、生活の糧が手に入る近隣の森は大切なものである。しかし、そこにゴブリンやジャイアントラットが住み着いたのだ。力を持たない彼らにとってそれらはとてつもない脅威である。
 このままでは自分たちは飢えて死んでしまう。
 これからどうするか、村中の人々が広場に集まっていた。
「……ギルドにやつらを倒してもらうよう依頼するのはどうだ?」
 一人の青年が神妙な顔で口を開く。その言葉に別の男性が吐き捨てるように言った。
「無理にきまってるだろう。そんな金がどこにあるって言うんだ?」
「‥‥」
 提案した男性が再び黙り込んだ。
 また、別のものが口を開く。
「‥‥でも、このままじゃ俺たち、飢えて死んでしまうぞ」
「‥‥」
 避けようない現実に村人は皆黙り込む。
 結局、それぞれなけなしのお金を出し合い、モンスターの討伐をギルドに依頼することに決まった。また、ギルドに依頼するという提案を出した青年がお金を手にギルドまで行くことになった。
村中を回り、青年が人々からお金を受け取っていく。
 全ての家を回り終えた時、辺りはすっかり暗くなっていた。それでも集まったお金はごく僅か、払える報酬は金貨一枚にも満たない。
 不安を胸に、一縷の望みを託して青年は村を後にしたのだった。

●今回の参加者

 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea9515 コロス・ロフキシモ(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・ロシア王国)
 eb1592 白鳥 麗華(29歳・♀・鎧騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

江 月麗(eb6905

●リプレイ本文

 都市を出発してまる一日。一行は村に到着した。
 わずかな報酬にも関わらず、自分たちの依頼にこたえてくれた彼らを村人たちは歓声と共に出迎える。
 村で一夜を過ごした一行は、さっそく森へと向かうのだった。
 
 村から徒歩で約一時間、今、一行は小高い丘の上にいた。鬱蒼とした巨大な森が彼らの視界の端から端までを覆いつくしている。
「……大きい森ですね」
「ええ、これほど大きい森も珍しいわ」
 シルバー・ストーム(ea3651)のもらした言葉にジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が頷いた。
「これだけ大きいと少々手間がかかりそうです」
「はい。ですが民を守るは騎士の務め、不甲斐なきご領主に代わり討伐は必ず果たさなければなりません」
 そう口にしたリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)、エリーシャ・メロウ(eb4333)の後ろでコロス・ロフキシモ(ea9515)がため息混じりに呟いた。
「なかなか骨が折れそうだ。これだけの報酬では割にあわんな……」
「……コロス殿」
「わかっている。依頼を受けた以上、仕事はきっちりやらせてもらう。それがプロというものだからな」
 見渡す限りの森、視界の向こうに空へとそびえたつ大きな岩壁にまでそれは広がっている。森全体をまわるには相当の時間が要するだろう。村人たちの話では彼らは普段森の奥には行かず、すぐ近くの所で果実や木の実を取っており、めったに奥には行かないらしい。しかし、先日森の奥にいった村人の一人がゴブリンと遭遇し、逃げてきたというのだ。その人物から岩壁の麓には洞窟があるらしく、そこをゴブリンたちが出入りしているのを見たという話を聞くことができた。ジャクリーン、リュドミラ、エリーシャの班とシルバーとコロスの班の二手に分かれた一行は、岩壁の麓で合流するとこを決めた後、それぞれ森の徘徊するモンスターの探索を開始した。

 エリーシャの愛犬エドの鼻を頼りにジャクリーンたちは森を進み続けていた。歩くこと一時間、彼女たちの行く手に二匹のゴブリンが姿を現した。まだゴブリンたちはこちらに気付いていない。
 各々が身を伏せ、武器を手に取る。そのままゴブリンたちが近づいてくるのを待つ。
 そして我が物顔で森を徘徊するゴブリンたちへと一斉に奇襲を仕掛けた。本来ならば騎士である彼女たちにとって奇襲は騎士のモットーである正々堂々に反するものであるが、何の罪もない村人たちを苦しめるモンスターが相手ならば、話は別だ。
 エリーシャが聖者の槍を前に突き出し、前に立つゴブリンへと突進した。突然の攻撃にゴブリンたちが慌てて得物を手に取る。しかし、エリーシャの援護として放たれたジャクリーンとリュドミラの矢が前のゴブリンに突き刺さる。怯んだ一体のゴブリンの胸をエリーシャの槍が深々と貫き、ゴブリンが絶命した。後ろに控えていたゴブリンが斧をエリーシャ目がけて振り上げるが、その腹や胸にジャクリーンとリュドミラの放った矢が突き刺さり、先ほどのゴブリンと同じようにエリーシャの槍によってゴブリンは動かなくなったのだった。

「……遅かったな」
 ジャクリーンたちが岩壁の麓に到着すると、そこにはすでにコロスが腰を下ろして待っていた。
「こちらはゴブリンが一匹を始末した」
「私たちは二匹です。シルバー殿は?」
「やつならあそこだ」
 コロスの指した方に目を向ければ、洞窟の入り口らしき場所でシルバーがスクロールを広げていた。ブレスセンサーの魔法を使用し、洞窟の中を探っているのだ。
 ジャクリーンが弓を手に歩み寄る。
「どう?」
「……中にモンスターはいないようです」
「ということは、森に徘徊していたモンスターで全てということになるのかしら?」
「これだけの広い森にゴブリン三匹だけですか?」
「元々モンスターはいない森だったのかも知れないわね。今回ゴブリンたちはどこかから迷い込んできただけなのかも……」
「じゃあ、ここにはもう用はないな。さっさと引き上げよう」
 コロスが右手の槍を地面に突き立て、立ち上げる。
 念のため、残りのモンスターがいないかを確認しながら行きましょうというリュドミラの提案に従い、警戒しながら出口へ進んでいったが、結局モンスターたちと会うことはなく、一行は帰路についたのだった。


「……おかしいですね」
 血のついたダガーを片手にシルバーが呟いた。地面には1匹のゴブリンの死体が横たわっている。
 村に到着してから3日目。昨日と同じように、二手に分かれた一行は森を探索した。モンスターなどいないだろうという予想と反対に、コロスとシルバーの班は今すでに3匹のゴブリンを葬っていた。
 その後、岩壁でジャクリーンたちと合流したシルバーたちは彼女たちも3匹のゴブリンを倒したことを知らされる。昨日あれだけ探して3匹だったのに、今日はその倍である6匹。普通ならありえないことだ。
 シルバーが洞窟の入り口である大穴の前で、昨日と同じようにブレスセンサーの魔法を使用する。
「どうですか?」
「……十匹ほどのモンスターがいるようです。おそらくゴブリンでしょう」
「そんなに……!?」
「どうします?この数は少々やっかいです。この洞窟に何があるかわかりませんし、何より昨日あれだけしかしなかったモンスターがここまで増えるなど普通ならありえないことです。このまま洞窟に突入するのは危険かもしれません。一度都市に戻るという手も考えるべきかと」
 シルバーの問いに沈黙が降りる。
 しばらくして、右手に聖者の槍を握り締めたエリーシャが厳しい顔で口を開いた。
「行きましょう」
「……正気ですか?」
「はい。モンスターを一日放っておけば、一日村人たちが苦しめられることになります。ここで逃げ出すような行動は騎士として承知しかねます」
「……そうね、このまま放っておいたほうが危険かもしれないわね」
 エリーシャの言葉にジャクリーンが賛同する。
「割には合わんが一度引き受けた以上、最後まできっちりやらないとな」
「賛成です。困っている人がいるのでしたら、報酬なしの依頼でも私は動きます」
 コロス、リュドミラも次々に頷く。
「……わかりました。行きましょう」
 仲間たちに向かってシルバーはしっかりと頷くと、一行は洞窟の中へと入っていった。


 洞窟の中は非常に入り組んでいた。あたりは暗く、ランタンの光だけが頼りだ。
 先頭はコロス、次にヘッドランプで前方を照らすシルバーが続き、その後ろにランタンを持つリュドミラとジャクリーン、そして殿をエリーシャがつとめていた。ジャクリーンとエリーシャの側にはそれぞれボーダーコリーのエリヴィレイトと愛犬エドもいる。洞窟内は高さ2メートル、幅4メートル前後と決して狭くはないが、ジャイアントであるコロスにとってはやや窮屈だ。シルバーのヘッドランプが前方を、リュドミラのランタンが後方をメインに周囲を照らし、眼のある剣を構えたエリーシャが後方からの不意打ちを警戒していた。眼のある剣によって感覚が研ぎ澄まされ、エリーシャの五感は周囲の全てのものを感じ取っていた。
 入ってすぐに2匹のゴブリンと遭遇した。彼らの顔を見るなり飛び掛ってきたが、先頭のコロスがなんなく盾や武器で受け止め、引き付けている間に後ろのものたちが矢やダガーを放ち、容易に撃退した。
 しかし、その後一行がどんなに進めどモンスターに出会うことはなかった。
「また行き止まりか」
 苦虫をかみつぶしたような表情で先頭のコロスが横の岩壁を叩いた。
 リュドミラのランタンの火が消えようとしている。それはすでに洞窟に入って3時間程が経過していること示していた。空気は澱み、しかも不自然なほど上り坂が多いため、それぞれ疲労が蓄積してきている。
「そろそろ何かあると思うのですが……」
 分岐点では壁に傷をつけ、二度同じ場所は通らないよう目印をつけてきた。また、リュドミラがスクロールに内部の地図を書き込んでいる。今までに出来上がった地図によれば、ここ以外に道はない。
 ランタンが消える前にと、エリーシャがバックパックからたいまつを取り出す。
 ランタンの火が消え、周囲が暗闇に包まれようとした瞬間、再び灯ったたいまつの火が岩壁を炎色に染めた。
「あれは……?」
 ジャクリーンが声をあげた。指差したのは突き当たりの壁のちょうど側面。そこには一回り小さな穴がこちらから隠れるようにあった。岩壁をくりぬかれたように作られたその穴は明らかに人為的なものだ。
 それぞれが顔を見合い、武器を持つ手に力を込める。
 穴は小さく見渡しが悪いため、コロスに代わり、たいまつをもつエリーシャが先頭を進んでいく。
 進み始めて五分。暗闇の洞窟のはずが、通路の先に目を向ければ微かな光がこちらに差し込んでいる。
 狭い通路を抜けて、上体を起こしたエリーシャはしばし茫然と立ちすくんだ。
 ここは洞窟の内部はずだ。それなのに太陽の光が差す外のように明るい。今までの通路に比べて天井は高く、壁にはレンガのようなものが埋め込まれ、壊れているが小さな調度品らしきものさえ見ることができる。
「ここは一体……」
「エリーシャさん!!」
 背後からのシルバーの叫び声にエリーシャがとっさに剣を横に構えた。瞬間、ゴブリンの振り下ろした斧が剣にぶちあたる。
 突然の不意打ちに正気に返り、周りを見渡せば、前方に先ほど攻撃をしかけてきたゴブリンを初め7匹のゴブリンがこちらを持ち構えていた。さらに先ほど来た通路からは3匹のゴブリンたちが湧き出、退路を塞いでいる。
「ご無事ですか?」
「ええ……助かりました」
 周囲をかこまれ、一行は円陣を作るようにかたまった。
「挟み撃ちとは、ゴブリンにしては味なまねをしてくれますね。どうします?」
 新たなスクロールを広げ、アイスコフィンを作り出したシルバーが背中あわせのエリーシャに冷静な口調で話しかける。
「決まっています」
「そうね、やるしかないわね」
 厳しい顔でエリーシャが言い、右手でバックパックから矢を取り出したジャクリーンがその矢を左手の弓に備える。
「後方は私とコロスさんが。他の方は前方の敵を頼みます」
「狭いところには飽き飽きしていたところだ。やっと暴れられる」
 リュドミラが三本の矢を構え、コロスがリュドミラを守るようにその前に立ち、ランスで肩をとんとんっと打った。
 二人の矢が放たれると同時に、戦闘は開始された。
 前方のゴブリンたちにエリーシャが突っ込み、シルバーが中距離からアイスコフィンで、その後ろからジャクリーンが弓を放つ。エリーシャは回避を重視に行動し、間合いをとり囲まれないよう動いていった。その鮮麗された動きにゴブリンたちはまったく付いていくことができず、互いにぶつかり、転び倒れあう。その隙を狙ったシルバーとジャクリーンの攻撃がゴブリンたちを襲い、なす術もなくモンスターたちは次々と倒れていった。また、余裕ができるとエリーシャもカウンターアタックで敵の動きにあわせ、切り裂いていった。
 一方、後方ではその長さ3メートルはあるランスを手に、コロスが走りよってくるゴブリンたちを獣のような目で見つめていた。
「一匹残らず殺してやろう‥‥」
 コロスが喜々とした顔でランスを振り上げる。そして、迫ってきたものの内、一番先頭のゴブリンへとその巨大な槍を一直線に振り下ろした。
「ムンオオオオオオオッ!!」
 鉄槌のごとき槍の刃がゴブリンの身体に突き刺さり、それにとどまらず、そのあまりの力にゴブリンが床へと叩きつけられた。コロスのスマッシュを受け、瀕死のゴブリンの体が床の上で、つぶされた蛙のようにぴくぴくと跳ねている。その身体を乗り越えて、隙の生じたコロスの体へと2匹のゴブリンが斧を振り下ろす。しかし身を守るプレートメールに弾かれ、かすり傷ひとつ負わせることができない。逆に、弾かれた隙をつかれ、接近していたリュドミラのダブルシューティングEXが一匹のゴブリンの身体を貫いた。
 かくして戦闘は30分も経たないうちに終了した。最後にはゴブリンたちの躯で床は埋め尽くされたのだった。


 戦闘が終わり、息も絶え絶えにそれぞれが額の汗を拭った。ゴブリンが相手だったとはいえ、自分たちの倍の数を相手にするのはさすがに容易ではなかった。
「……どうやら終わりのようですね」
「それにしても、ここは一体……?」
 周囲にはモンスターたちの屍とは別に調度品、椅子やテーブル、そして食器の残骸らしきものが床の上に散ばっている。
「山賊たちのアジトだったとも考えられるわね」
 天井を見上げれば、木の根が張り巡らされている。洞窟内に随分と上り坂が多かったが、どうやらすぐ上は外のようだ。
 天井に沿って視線を走らせる。この部屋に来た通路の真正面の方向に大きな穴が見えた。そこから太陽の光が流れ込み、部屋全体を照らしていた。
 出口であるその大穴へとつながる上り坂を全員が足を進めていく。
 外に出た一行を目も眩むような激しい光が襲った。暗闇に慣れた目にはその光はあまりに強烈過ぎる。
 徐々に慣れていく視界。
 そして一行は目の前に広がる光景に目を奪われた。
 全身に打ち付けられる風。地平線の向こうまで続く森。右手には自分たちに依頼をよこした村が小さく目に映った。ここは洞窟があった岩壁の上なのだとそこで始めて気付いた。巨大な岩壁の上に存在するこの森に人の気配は感じられない。下の森も大きいが、この森はその数倍、いやそれ以上かもしれない。それほど、この森は大きかった。
「未開の地……」
 誰かが思わずその言葉を呟いた。
 ゴーレムの完成以来、ウィルは大規模なモンスターの掃討、それに伴う未開の地の開拓が行われている。ウィルの国には、以前多くの未開の地が残っており、この森もその一つだろう。開拓はウィルの国を豊かにする。しかし、その陰では土地を追われ、逃げ延びたモンスターたちが各地方に出没するという事態が発生している。今回のゴブリンたちもその一部なのだろう。ウィルの現国王、エーガン王の政策が間違っているとは思わない。しかし、その強引な政策により今回のようにモンスターに苦しむ人々がいるのも、また事実だろう。

 一行はその後、岩壁を下り、洞窟の入り口を破壊した。これで入り口は塞いだため、以後この洞窟からモンスターが出てくることはなくなるだろう。
「これで村人たちは安全ですね」
「あの村は……ね」
 リュドミラの言葉にジャクリーンが小さく呟いた。
 ここの村人たちは救われた。しかし、同じように助けを求める人々がこの国には多くいるに違いない。そう思うと心が重かった。
「とりあえず、これで村人たちはまた平和に暮らせるはずです」
「依頼は果たした。戻るか」
 シルバーの隣でコロスが歩き出す。それにエリーシャも従った。
「ええ。帰りましょう」
 各々の思いを胸に、一行はその場を後にするのだった。