砂漠の実験〜モナルコス出動〜

■ショートシナリオ


担当:紅白達磨

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月13日〜04月18日

リプレイ公開日:2008年04月19日

●オープニング

 ストーンゴーレム『モナルコス』。
 全高4.2m、重量1.1t、バガンを元にメイの国が独自に開発された。恐獣との戦闘を前提に設計された重装型でパワー、装甲共にバガンのそれを凌ぐ機体である反面機動性において欠陥が存在、量産型の悲しき性とはいえ能力の限界度も低く、反応速度の鈍さから熟練の操縦者たちから不平不満の声を受けているのも事実である。
 巨人と見紛うその巨体から繰り出される一撃は岩も砕き、あらゆる魔法を無効化するエレメンタルフィールドを持って並みの魔物の前では正しく一騎当千の名を冠するゴーレムであるが、上記に述べたように改善の余地は大きい。
 その歴史の浅さから改良の際に参考となるデータの不足も叫ばれており、平野以外での戦闘データはあまりに微量。特に砂漠での戦闘での被害率は平野戦闘時のそれを遥かに上回る数値を叩き出している。
 この事態を前にしてゴーレム工房の研究者たちは量産機の性能向上、新たなる量産機開発の参考ともすべくゴーレム実戦データの収集を開始した。


 おはようございま〜す、と職員が自分の席についた。請け負った依頼内容を整理、書面の作成が彼女の仕事だが、朝も早いため声の調子には眠気が含まれている。
 早速受注した依頼書を受け取って作成を始める。口寂しさにハーブティーを注ごうと立ち上がると、隣の先輩に睨まれて座り直した。
 ずっと座りっぱなしの仕事だから、腰が痛む。この年でこの痛さということはこの先は恐ろしいことになりそうだ。
 入念に書面を確認、完成を確認して机の左端に。休むことなく右端に積まれた書類を一枚手に取った。
「砂漠での実戦データの入手?」
 国から依頼で、モナルコス8騎を使用しての砂漠での作戦のようだ。
「何々、ナイアド砂漠における敵との戦闘の際、ゴーレムの損害が平野での戦闘に比べて大きい」
 そりゃそうでしょ。あんだけ足場が悪くて暑けりゃ集中もできないでしょうに。
「今後、砂漠で大規模な作戦が展開されないとは限らず、砂漠でのゴーレム実戦データを取るため冒険者を応募する。ふ〜ん」
 場所は地方の街の間に存在する小さな砂漠地帯。魔物も砂漠の一部にしか存在せず、商隊が移動に利用していたが、最近魔物の生息範囲が拡大し、利用していた道にまでモンスターが出没するようになり、討伐の依頼が国に寄せられていた。そこでデータ入手も踏まえてその討伐を行うとのことらしい。
「普通逆でしょ。まあ悪いことじゃないんだけどさ、変な依頼が多いよね〜」
 背中を大きく倒して、天井に向けた書類をぴらぴらと揺らす。
 ゴーレムに乗ることなんて一生ないと思うが、それでもこの依頼を引き受けた人には同情する。あまりの暑さで汗だらけだろうに。
「でも、ダイエットにはいいかもしれないわね〜。最近お腹が気になってるし‥‥」
 まぁ、操縦できないけど。
「腹よりその独り言をするくせのほうを気にした方がいいと思うがな‥‥」
 えっ、と声を出すより早く、隣の先輩の拳骨が脳天に炸裂。頭を抱える女性職員をよそに、先輩職員が立ち上がった。
「さっさと仕事しろ。そんなにお腹が気になるんだったら、頭を動かせ。人間、頭を使うのが一番エネルギーを使うらしいからな」
「‥‥ふぁ〜〜〜い」
 こうして女性のいつもの一日が、また始まるのだった。




 国より依頼に関する注意点
・参加した冒険者は昼に出撃するα隊と夜に出撃するβ隊に半分ずつ分かれてもらう。参加人数が奇数の場合は任意。
・データ収拾が目的のため、ただ砂漠を横断するだけでなく、できるだけ多くの魔物と戦闘を行うこと。
・昼は高温のためゴーレム内部に大量の熱が溜まるはずである。夜になると視界が悪くなるため、地形に気をつけること。
・小さな砂漠だが歴史は古く、200mを越す砂丘もあり、凶暴なモンスターも確認されているので注意。
・使用可能な武器は短剣、剣、槍、斧、そして素手。できるだけ多くのデータを集めたいので使用する武器は自由だが、使用しない武器が出ないよう話し合い考慮すべし。

●今回の参加者

 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4322 グレナム・ファルゲン(36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7851 アルファ・ベーテフィル(36歳・♂・鎧騎士・パラ・メイの国)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●出撃準備
 砂漠における実験に集まった冒険者たちは出発する街にまで移動する間、艦のブリーフィングルームに集合、クーフス・クディグレフ(eb7992)の希望に従い砂漠に潜む魔物について簡単なレクチャーを受けていた。
「一つ宜しいでしょうか?」
 手を上げたのはベアトリーセ・メーベルト(ec1201)。腕は達人に達しているベテランのゴーレム操縦者だ。
「発言を許可しよう」
「ありがとうございます。今回の実験ですが、新たな量産型ゴーレムを想定したものだと聞いています。そこで今後の量産騎の展望に関して質問があるのです。モナルコスを砂漠使用のも量産するのか、それとも現行の量産に砂漠使用な変更なのでしょうか?」
「現在メイではバの国とカオスの勢力に対抗するためゴーレムの生産が進められているのは知っているな。現在の最優先事項はメイ全土を守れるだけのゴーレム数の確保であり、特定の地域に特化した騎体の製造は困難だ。今回の実験の目的は砂漠で有効兵装等を作るための情報収集が主となる。モナルコスとは異なる新たな量産騎の開発は目途が立っていないのが現状だ」
「っていうことは、この実験のデータが役立つのはもっと先ってことか?」
 布津香哉(eb8378)が言葉を挟むとゴーレム工房から派遣された実験の責任者である男性が頷いた。
「砂漠で最も注意すべき魔物がヒュージアントライオン、巨大蟻地獄だ。直径15mの巨大なすり鉢上の巣を作り、獲物がかかるのを待つ性質を持つ。生身は勿論、ゴーレムであってもその巣から抜け出すことは容易ではない。一部の者たちの要望に応え、落ちた場合を想定して引き上げるためのロープや鎖を準備しておいた。尤もこの実験はデータの収集が目的だ。平地に比べ、砂漠での稼動可能時間の測定、砂地という悪所での対応、武器の種類による機動力の差異、異常な状況下が操縦者に齎す影響など、我々が求めるものは大きい。私が直接上空から諸君の戦いぶりを見学する」
 最後にゴーレム工房職員らしき言葉を残して、講義は終了となった。
「ゴーレムを損傷させることなく、死なぬ程度に奮闘してくれ。以上だ」


●α隊出撃
 天気は実に快晴。
 ぎらぎらと照りつける太陽。
 真夏などという生ぬるい暑さを遥かに超える熱地帯を進むのは四機のモナルコス、搭乗するのはシュバルツ・バルト(eb4155)、スレイン・イルーザ(eb7880)、布津、ベアトリーセだ。
 緊迫した雰囲気のまま誰も話すことなく黙々と進み続けるが、その心境は不安と共に興味もあった。
 平野とどれ程の違いが出るのか、ゴーレム工房の研究者同様、打ち出されるデータは楽しみでもある。


 砂漠を進むこと数分、地面が揺れて近づいてくる響きにベアトリーセが盾を構えて前へと出ると、飛び出たサンドウォームとの戦闘が開始された。
『後ろへ!』
 飛んできた敵の口を盾で弾き返し、仰け反ったその細長い体にシュバルツが斧を、スレインが剣を振り下ろす。
 弾力のある皮膚を易々と貫いて突き刺さった得物から逃れようと身をくねらせて蠢く敵に、布津のモナルコスが距離を詰めて短剣で切り裂く。重傷を負って余計に暴れだすがスレインの止めの一撃によって完全に静止した。
『やったな』
『はい、全員負傷はありません』
 スレイン、シュバルツが念入りに騎体をチェックするが、大きな損傷は見られない。
『砂漠の魔物といっても大したことないわね』
『この調子なら楽にいけそうだ。砂漠といってもそこまで平野と変わらないのかもしれないな』
 四人の中では一番戦闘力に劣る布津だが、先ほどは問題なく敵と応戦できていた。確かに暑く、足場も良いとはいえないが、そこまでの不自由さを感じるほどではない。

 肩透かしを食らった感覚を否めないまま、進んでいくα隊。
 しかし、砂漠の恐ろしさはここからが始まりであった。

 最初のサンドウォームを倒してから数十分が経過。
 丁度半分の距離を終えたポイントで、四人は休息を取っていた。
 歩みを止めるスレインのすぐ近くには息絶えたサンドウォームがニ匹、砂の上に転がっている。
『‥‥これで、はぁ、はぁ、何匹目だ?』
『4匹目ですね‥‥‥もう、あっつい!!!』
 肌着一枚を残して脱ぎ捨てた服を操縦席の後ろへとシュバルツが放り投げた。
 流れ出る汗から魔法瓶に入れていた水を喉へと流し込む。まだ冷たさを残す水が体へと流れ込む感覚がなんともいえない快感だ。
『前言撤回だな。砂漠での戦闘か‥‥予想以上だ』
 特別に用意してもらった外套を身に着けたモナルコスの中で、布津の体が暑さに悲鳴を上げていた。
 砂漠の熱は中盤以降四人の体を本格的に蝕み始めた。3匹目のサンドウォームを倒した頃から、突然体が重くなった。戦闘の運動量とゴーレム内に溜まった熱が発汗量を急激に増大させて体力を低下させたのだ。同時に奪われた集中力は足元への注意を散漫にさせて砂地の悪影響を顕在化させる。戦闘に意識を集中させればさせるほど熱量は増大し、体力を削られ、最終的に集中力も低下する。正に悪循環だ。
『砂漠での戦いか、地形や気候など今までのものとは違うな』
 改めてそのこと実感したスレインが手にした剣を持ち上げて先頭として進み出す。
『急ごう、まだ道は半分残っているんだからな』
『そうか‥‥まだ半分もあったんだっけな』
 水分を補給しようと布津が水袋を手に取った。篭った熱によりお世辞にも冷たいと言えなくなっているが、ないよりはマシだ。


 会話する元気もなく死体のように出口を目指して進軍していくα隊。
 出発からまだ一時間も経過していないが、熟練と言ってもいいゴーレム乗りたちが荒い息を吐いている。通常のゴーレム乗りの庭訓稼動時間は一時間半。まだその時間にもなっていないのだが、砂漠の熱は稼動時間を大幅に短縮すると見ていいようだ。
 体力の限界も近いことから、途中にあったヒュージアントライオンの巣を回避して進行。
 ベアトリーセのソーラー腕時計が音を奏でた。アラーム機能でセットにしていたから出発から丁度50分が経過したことになる。それはもうすぐ出口であることも示していた。
 残った力を振り絞って走り出す四人。
 そして、その前に立ちはだかった一匹のジャイアントスコーピオン。おそらくこれが最後の魔物だ。
 尻尾についた針を突き出す魔物の攻撃をスレインが受け止め、ベアトリーセが尾を目掛けて矛先を突き出してすぐに距離を取る。あくまで自分の役目は敵の攻撃を引き付けて補助をすること、そう考えた彼女の判断だ。
 接近し過ぎず離れ過ぎず、絶妙の距離から槍の攻撃を繰り出すベアトリーセに魔物の攻撃が集中する。
 斧を持ち上げたシュバルツの騎体が不意に横へと流れた。砂地という接地摩擦の低さと武器の中で最大の重量を誇る斧によるものだ。
 傾く騎体を何とか持ち直し、背後に回りこんだシュバルツの斧が燃える大地を叩き割った。
 渾身の力を込めた刃が敵の甲殻を突き破ってその肉に切り裂く。その痛みに体を回転させてシュバルツのモナルコスを弾き飛ばすが、彼女は怯むことなく斧無しで魔物に飛び掛った。
 素手でジャイアントスコーピオンの足を掴み取り、間接とは逆の方向に込めて力で圧し折ろうとするが上手くいかない。モナルコスでは手先が上手に操れないということか。
 苦戦している内にシュバルツへと狙いを定めた魔物が攻撃をしようとするが、そうはいかないと他の三人が 得物を手に三方向から敵の巨体を攻撃、どうにか撃破することに成功したのだった。

 その後魔物と遭遇することなく砂漠を抜けたα隊は指示通り先にある街に向かい、モナルコスから降りた。
 すでに限界に達していた布津はその場で崩れおち、他の者たちも疲労困憊で立っているのがやっとであった。
 失った水分を補給した四人は用意された部屋に即座に移動、そして部屋からは数分もしない内に四つの寝息が聞こえてきたのだった。


●β隊出撃
 夜が訪れた。
 それと共に灼熱の大地は終わりを告げ、現れたのは極寒という言葉相応しい夜の砂漠。
 雲もなく、生物もおらず、植物さえもが失われた大地。
 静か過ぎる砂の上に浮かぶのは異様なほどに輝きを放つお月様。
 その光に照らされながら歩き進むのは三騎のモナルコス。夜の横断に挑むのはβ隊、グレナム・ファルゲン(eb4322)、アルファ・ベーテフィル(eb7851)、クーフスの三名だ。
『‥‥静かですね』
 アルファの声が砂漠に響く。その言葉は緊張に満ちている。
 それもそのはず、出撃前にゴーレム工房の担当者からα隊の報告を聞かせてもらったのだが、内容は予想を彼らの上回るものだった。
 ゴーレムの操縦においては達人の域に達しているα隊でさえ、およそ一時間の行動が限界であるなど悪い冗談である。勿論その時その時で差異は出るだろうから、立て続けの戦闘が無ければ稼動時間はもっと延びるかもしれないが、それでもこの依頼がこちらの予想以上のものであることを認識させるには十分な報告であった。
 先頭を走るのはクーフス。砂漠の土地感を持つことから彼が先頭の任を務めている。
 ゴーレムサイズの松明を用意できないかと希望を出したが、今回は不可能という報告をゴーレム工房から受けている。今後検討してみるとの言葉をもらっただけでも十分意義のあることだろう。幸い今宵は月の光が強いことから、周囲がよく見える。優良視力を持つ彼であれば、遠くの敵を確認することも可能である。
『それにしてもあの男、随分と無茶を言いよる』
 グレナムに他の二人が同意する。何でもα隊が唯一ヒュージアントライオンのみと戦闘しなかったことから、その魔物との戦闘を優先して行うようにとの命令を受けていた。あの魔物と戦闘するのであれば、相手をまずは巣から引っ張り出す必要がある。それを実行するためには巣の大きさが15mであることから考えてもすり鉢の中に入らなければならない。全く無茶な注文を言ってくれる。

 夜のおかげなのか、α隊が魔物を殆どの魔物を始末してくれたのかは定かではないが、β隊はサンドウォーム一匹と戦闘を行っただけで順調に砂漠を横断していく。だが勿論楽な進行ではない。防寒具を着ても尚内部に侵食してくる氷点下の冷気。時間が経つにつれて内部の空間が冷えていくのがわかる。道の半分を超える頃には指が感覚を失い、吐く息は真っ白になって視界に現れる。
 体が震える中でも三人は砂漠を走り進み、やがてヒュージアントライオンがその前に姿を見せた。


『準備はよろしいか?』
『こちらは大丈夫だ』
『俺もだ。グレナム殿、十分注意してくれ』
 グレナムの乗る騎体の懐に幾重にも繋がれているのは事前に持ってきていたロープや鉄製の鎖。誰かが巣に入り、魔物を引きずり出さなければならないことから槍を持つグレナムがその役目をすることになった。
『参る!!』
 砂を飲み込んでいくすり鉢上の巣にグレナムが一歩を踏み出した。大地の奥底へと引きずる流砂に足が触れた途端に、磁石にでも引っ張られるように巣の中心に沈んでいく。

「―――――――!!」

 罠にかかった獲物に気づき、ヒュージアントライオンの頭が砂上に飛び出した。それを確認して滑り落ちながらも構え出された槍の穂先が砂の下に眠る魔物の懐に狙いを定めて、一直線に突き出された。
『モナルコス、一本釣り。槍の穂先に掛かった以上、汝の命運、これまでと知れ』
 痛みに悶える魔物が槍を突き出すグレナムの騎体にしがみ付くとその頑強な顎で肩に噛み付いてくる。実際に自分の肩を噛まれているわけではないから痛みは感じないが、それでも全長5mとモナルコスとほぼ同じ大きさの魔物が自分の乗る騎体に絡み付いているのを想像すると悪寒が走る。
『はぁあああ!!』
 握る槍に力を込めてグレナムが槍を敵の体の奥へと突き刺していく。
 それと同時に巣の外ではアルファとクーフスが引きずり込まれまいと握るロープと鎖に力を込める。
 モナルコスとヒュージアントライオン、合わせて1トンを越す重みだ。ゴーレムであろうと気を緩めれば自分たちまで巣に引きずり込まれてしまう。
『ちっ‥‥!』
 砂地では踏ん張りが効かない。滑っていく騎体を何とか止めようとクーフスが片手を砂の中へと叩きこんだ。
『モナルコスのパワーは、伊達じゃない!!』
 アルファの騎体もそれに習って左手を砂下に押し込むと少しでも早く引きずり出そうと力を込める。
 綱引きのように一回ずつ手繰り寄せて槍に突き刺した魔物をグレナムごと巣の外へと引きずり出していく。
 やがて巣の外に引っ張り出された魔物がグレナムのゴーレムを押し倒すと、苦しそうに身を蠢かし、襲い掛かってきた。
 頑強な顎を構えて突進してくる攻撃は巨体とは似つかわしくないほどに早く、強烈なものだった。
 避けきれず盾で受け止めたクーフスが斧をその側面に叩きこみ、相手を吹き飛ばした。
 だがすぐさま体勢を整えて押し寄せる攻撃は盾で防ぐことが出来ずに首元へと噛み付かれた。
 頑強なはずのゴーレムがみしみしと音を立てていく。かなりの力だ。
 アルファのモナルコスがその胴体へと拳を叩きこむが、ダメージは少ない。しかも打ち込む度に拳が形を変えていく。敵の外殻とゴーレムの力に拳の装甲が追いついていないのだ。
『これ以上はやらせん!!』
 右肩を魔物の顎で粉砕されたグレナムが魔物の体に突き刺さっていた槍を引き抜き、再度突き込んだ。
『素手でも、後ろを取れば、これ位は出来る』
 敵の背後に回りこんだアルファが敵の体をクーフスから引き剥がして地面へと叩き付けた。
 悶える魔物の体を押さえ込み、全力が込められたグレナムの槍がその懐へと垂直に突き立てられる。
 その後も激しく暴れるヒュージアントライオンであったが、クーフスの斧によって体を裂かれ、心臓を抉り出されては動くことは叶わず、夜の砂漠に息絶えたのだった。


●最後の任務
 過酷な任務を終えて、フロートシップの仮眠室でゆっくりと休む冒険者たち‥‥というのが彼らの理想であったが、現実はそんなに甘くはなかった。β隊の合流後すぐさまフロートシップにゴーレムを詰み、後は元の街まで帰るだけだと安心していた冒険者たちに、ゴーレム工房担当者の男が与えたのは、報告書という名の最後の試練だった。各自が今回の戦闘において感じたこと、意見、質問などを長々と書かされていく。結局それを書き終えたのはそれから1時間後。β隊は全くの休みなしであったことから、終わると同時にその場で寝息を立て始め、少しの仮眠で完全に体力を回復できなかったα隊も部屋に戻ってゆっくり休むことになった。
 彼らが目覚めたのはフロートシップが元の街に着いた時。
 感謝の言葉と共に、『今後も(実験協力を)宜しく頼む』という言葉を渡されて、参加者たちは一考する。
 次の実験に参加するかしないかは彼ら次第だ。