グランドラ城塞都市攻防戦 城内制圧隊
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■ショートシナリオ
担当:紅白達磨
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月21日〜05月28日
リプレイ公開日:2008年05月29日
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●オープニング
グランドラ領よりグレイバー伯爵のご息女、次女キャロルの護送が完了して数日。
グランドラ城塞都市を完全に陥落させたフロア軍はその勢力範囲を拡大していた。
リアド砦はその圧倒的な戦力に制圧され、伯爵のご息女、長女メロウはその手に落ちた。内部の兵士たちもメロウの嘆願により処刑を間逃れ、捕虜となったとの情報が入っている。
注目すべきは援軍として向かったゴード、ドル領がフロア軍のフロートシップを用いた奇襲により壊滅。ゴード領主は死亡、ドル領主は敵の捕虜となった。残ったチリア領からの援軍がグランドラ領内で昨日領内に到着、しかしその圧倒的な戦力差に為すすべがないのが現状である。
これに受けてベルトラーゼは領主に伏せたまま密かに、アルドバたちに軍の準備を行わせた。
アルドバ率いる歩兵隊がチリア軍と合流後、モナルコス隊と共にグランドラ城塞都市の南門を攻撃。ゴーレムを含む敵主力がそちらへと向いている内に、昔作られた地下坑道を通ってルシーナ、ベガの率いる分隊が都市内部に侵入、都市内部の制圧を行う、これがベルトラーゼの立てた作戦だ。雇った冒険者たちには城内に囚われた伯爵の救出、逃亡手段となるフロートシップがあるゴーレム工房の占拠、モナルコス降下部隊による敵主力の殲滅を頼むことが決定している。
地下坑道の存在はごく一部の者しか知らない極秘事項のため、敵がそれに気づいている可能性はないと推測される。
残る問題は、ベルトラーゼの領主のみであった。
「この馬鹿もの!! 貴様を一体何のためにあそこへ遣ったと思っている!?」
容赦のない足蹴りが、床へと片膝をつくベルトラーゼの顔へと叩きこまれた。
「‥‥グレイバー伯爵のご息女をこちらへ護送するのは、伯爵の誠意とご領主様への敵対の意志がないことの証を示してもらうため。確かに長女であるメロウ様をお連れすることは叶いませんでしたが、キャロル様を護送することは叶いました。これで、伯爵の証にはなったかと‥‥」
「馬鹿か貴様は!? グランドラなど私には関係ないのだ。元より援軍を出すつもりはない!!」
領主はもう一度ベルトラーゼを踏みつけると、いつもの椅子へと深く腰掛けた。
「あのようなジジィが死んだとてどうでもよい。私が欲しかったのは美しいと有名なやつの娘のみ。だからこそ、貴様にその娘を連れてくるよう命を出した。それなのにあのような小娘を連れてきておって!!!」
口元から血が出ている。どうやら口内を切ったようだ。
「聞いておるのか!?」
領主の乱暴な声に、ベルトラーゼが膝をついたまま、向き直る。
予感はしていた。この領主が約束を守る気はなく、メロウ様だけを欲していることには。それ故、口にされたからといって格段驚きはしない。そして、どう説得するかも予め決めていた
「ご領主様、お願いがございます。私にグランドラへの援軍指揮をお命じ下さい」
「なぁにぃ?」
明らかに不機嫌な顔で、凝視する領主。
「先の任務の折、敵軍内を偵察したところ、どうやら領主フロアはグランドラ領を制圧後、北へと侵攻する模様です」
「何!? では我が領内に向かってくると申すか!?」
はっ、とベルトラーゼが頭を垂れる。
今自分が言ったことは全て嘘だ。正確に言えば、あくまで可能性はある、といったところだろう。
「ゴード、ドル領の援軍は敵の奇襲を受けて壊滅、ゴード領主マハメスの死亡も確認されており、残るチリア領の軍だけではフロア軍を破ることは困難でございます」
「ぬぅ〜‥‥」
「なればこそ、絶好の機会。あのグランドラを陥落させ、モナルコスを率いる援軍を一日で壊滅させたフロア軍の脅威は今や大陸に響いております。それを我々が討つ。そうなればご領主様の名声はメイ中に広がりましょう。陛下よりお言葉をいただけることも夢ではありません。それにここでグランドラに恩を売っておけば、今後有利に交渉することも出来ましょう」
領主の眉がぴくりっと動いた。
確かにそれもそうだ。グランドラはこの領地よりもはるかに広大、土地も豊かで莫大な富が蓄えられている。加えて陛下より勲章をいただけば領主の将来は安泰である。
「‥‥勝てるのか?」
「勝算はございます」
「そんなことは聞いておらん! 確実に勝てるのかと聞いておるのだ!!」
酷い形相で領主がベルトラーゼを睨み付ける。ベルトラーゼが勝利すれば、多大な栄誉が手に入る。しかし負ければ今まで築いてきた地位、富が失われてしまう。
かつてないほどの真剣な問い。中途半端な返事をすれば、領主は許可をしないだろう。
戦に、必ず、という言葉はない。しかし、ベルトラーゼは敢えてこう口にした。
「―――勝てます―――」
数秒後、にやり領主の頬が浮き上がった。
「よかろう。ベルトラーゼ卿! 貴様に私の全兵力を預ける。必ずやフロア軍を破り、グランドラを手に入れて参れ! 失敗は許さぬ!!」
「はっ!!」
領主の部屋を後にし、戦の準備をするべく廊下を歩いていた時だ。
「ベルトラーゼ様!」
「‥‥キャロル様」
廊下の先から駆け寄ってきた、グレイバー伯爵のご令嬢キャロルの姿にベルトラーゼが片膝を付いた。
先の任務の折、グランドラからこの領地まで護送したのだが、会うのはその時以来初めてだ。嫌がる彼女を無理に連れ出し、しかも姉であるメロウを敵の手に渡してしまった。全て自分の責であり、会わせる顔が無かったというのが正直な所だった。
「出陣するのですか?」
「‥‥はっ」
言葉を繋げようとした彼だったが、口が開かない。ただ顔を伏せたまま、じっと自分の足先を見つめる。
だがそれはキャロルも同じようで何かを口にしようとする度に、また目を下げて押し留まっていた。
「‥‥メロウ様のことは、私が必ずお助け致します。ご安心下さい」
我ながら陳腐な言葉だ。勝手な都合でこんな所で連行され、大切な姉とも引き離されたこの少女の痛みはどれ程だろう。しかしそれを慰める言葉すら自分には出てこない。
「‥‥ベルトラーゼ様」
不意に、ベルトラーゼの手にキャロルの手が添えられた。それを感じて、思わず顔を上げる。
「‥‥気をつけて下さいね。もう‥‥誰かがいなくなるのは嫌だから」
「!?」
心臓が大きく跳ねたのがわかった。
憎まれて当然、罵倒されても仕方がないと、そう思っていた。どんな言葉をも受け入れる覚悟は出来ていた。それだけの責任が自分にはある。それでもこの少女は責めるのではなく、心配で堪らない姉や父のことを口にするのではなく、これから戦に赴く自分のことを心配してくれている。
そんな予想外の気遣いに、ベルトラーゼは一度目を瞑り、再び顔を起こした。
「‥‥衣装はお持ちですか?」
「え‥‥?」
「グランドラにご帰還為される際、令嬢である貴方様がその衣装では民たちも顔を曇らせましょう。召使いの中に、その分野に長けたものがおります。彼女と共に、ここでゆっくりとご帰還為さる時の衣装をご懸案為さって下さい」
不安がないわけではない。護送任務時には姿を現すことはなかったが、カオスの魔物と繋がる者たちが城内に潜伏している可能性は非常に高く、罠を仕掛けていることも否定できない。
だが、止まるつもりはない。
これ以上この少女の泣き顔を見たくはないから。
「グランドラにて、お待ちしております」
●リプレイ本文
● 作戦前夜
グランドラ制圧作戦を明日に控えてベルトラーゼ率いる城内制圧を任された小隊員は山の麓で夜を過ごしていた。
主力部隊はグランドラ都市南部に陣を敷いており、明日都市に向けて進行する。敵の目がそちらに向いている隙に山中に隠された、グランドラ都市内部に続く地下坑道を通って都市制圧隊と共に城内に侵入する。
緊迫した表情でベルトラーゼがテントの前で星を見上げていると、自然と小隊員が集まってきた。
「綺麗な空だね〜。あっちの世界の空もいいけど、こっちもなかなかだよね」
ベルトラーゼの隣に歩み寄ったのはクライフ・デニーロ(ea2606)。今回でベルトラーゼと共に戦うのは二度目になる。オーガの軍勢との戦いにおいてルシーナ隊として参軍し、敵上位種の足止めに大いに貢献した経歴を持つ。
上を向いたままそう言う彼の口調は実にのんびりとしたもので、ベルトラーゼの緊張を解そうとしているのが判る。
「キャロルさんに応える為にも、伯爵とメロウさんを助け出しましょう」
イェーガー・ラタイン(ea6382)が弓を持つ手に力を込めた。童顔から実年齢より幼いように見られがちだが、これでも凄腕の弓手だ。護送任務の際、敵グライダー部隊に一泡吹かせたのは彼に他ならない。
その後ろから姿を見せた男性、雀尾煉淡(ec0844)は戦を前にしているとは思えない程非常に落ち着きを払っている。それはトール・ウッド(ea1919)も同じのようだ。
「城内にはカオスの魔物の他に、罠が仕掛けられているだろう。注意を払うに越したことはない」
「それは任せろ、伊達に戦場における工作に長けているわけじゃないぜ」
「期待しています、トールさん」
ベルトラーゼに不敵な笑みを見せるトールに不安の二文字はない。トールはオーガの軍勢以来の付き合いとなる。それ故、ベルトラーゼが彼に寄せる信頼は非常に高い。
「令嬢メロウ‥‥か。前回はなんとか妹さんだけは助けられた。周りのどうしようもない領主が多い中で、まともな人物だし、助けるには十分だな。キャロル嬢の涙も見たくはない」
レインフォルス・フォルナード(ea7641)が、ふっと笑う。白兵戦において高い安定感を見せる彼ならば、並みの敵数人が相手でも切り開くことが出来る。心強い戦力だ。
そして巴渓(ea0167)、シャクティ・シッダールタ(ea5989)に挟まれる形で土御門焔(ec4427)が現れた。
フレイムエリベイションで自らの力を高めた彼女は懐から一つスクロールを取り出すと、魔法を発動させる。
スクロールに込められている魔法は未来を見ることが出来るフォーノリッヂだ。
メロウ、グレイバー伯爵と単語を指定して順次にその未来を見てみる。
「どうだ?」
巴の声にも土御門は答えない。予想外のものが見えたのだ。
「気にすることはありませんわ。聞けばフォーノリッヂとは、私たちが何の努力もしなかった場合の未来が見えると聞いております。少々悪い未来が見えたところでそれが実現するとは限りませんわ」
「いえ、そうではないのです。悪い未来ではなく‥‥」
「?」
シャクティが首を傾げた後、土御門がゆっくりと口を開いた。
「私が見た未来では、お二人とも至って元気な様子で笑っておりました」
「‥‥は?」
巴が間の抜けた声を出す中で、土御門は再び『敵の黒幕』と指定して魔法を唱えたが、失敗してしまう。
何度か試した後で、単語が二語であることに気がつき、言葉を変えて『敵黒幕』と単語を指定し直して魔法を発動させるが、やはり失敗してしまう。どうやら難易度が高いようだ。
「‥‥あ」
「見えましたか?」
ベルトラーゼの声に、土御門が青ざめた顔で頷いた。その視線は正面にいるベルトラーゼを真っ直ぐに捉えていた。
「私に関することですか?」
静かに頷いた土御門を、先に促す。
「‥‥‥あなたが血を流して倒れている姿が、見えました」
ぽつりっと言った彼女の言葉は夜の大気に流れて消えていく。
沈黙の中で巴が静かに立ち上がった。
「同じなんだよ。てめぇを信じるから、あいつを信じる。あいつを信じられるから、てめぇを信じられる。同じなんだ、俺んとっちゃ」
突然口にした巴がベルトラーゼに振り返った。
「それがつまり、相棒なんだよ」
死なせないと、その覚悟を示した巴に続き、周りの者たちもベルトラーゼへと視線を送った。
誰もが口にせずとも同じことを伝えている。
皆の信頼に応えるために、ベルトラーゼはゆっくりと頷いた。
● 伯爵救出
城内に侵入した一行は地下牢を目指していた。所在がはっきりしていないメロウよりも、確実に地下牢にいる伯爵を救出することが優先と考えた結果だった。
道中待ち構えていたフロア軍兵士が約30。こちらの約4倍にも至る兵数だが、兵種豊富で個々の実力で勝るこちらに分があった。
だが、何より気になったのは敵の動きだ。城内の地理を活かして待ち伏せもせず、魔法の餌食となるように細長い廊下の正面から突っ込んで来る。クライフのファイアーボムが狭い廊下で炸裂してその戦気を挫き、怯んだ隙に前衛の巴、レインフォルス、トール、ベルトラーゼが一気に距離を詰めて薙ぎ倒した。個々で散発的に押し寄せる敵兵は脅威ではない。弓兵はイェーガーが射止め、余裕があれば土御門のスリープが行動不能にさせる。個人戦で負けることの無く突き進んだ一行は大した障害に出会うこともなく、円滑に作戦通りの歩を進め、地下牢に辿り着いた。
無防備に壁に掛けられている鍵を手に入れて地下牢の一番奥の牢屋、その中に囚われている初老の男性、グレイバー伯爵を救出した。疲労の色が濃く見えるが、目立った外傷もなく、意識もはっきりとしている。カオスの魔物が化けている可能性を危惧して雀尾のデティクトライフフォースと土御門のリヴィールエネミーでチェックしてみるが、伯爵本人であることが判明した。石の蝶にも反応は全くない。城内はカオスの魔物だらけと予想していただけに、ここまで何もないと逆に不気味だ。
「‥‥おかしいですね」
「やっぱりそう思う?」
伯爵の小さな怪我を治療し始めるシャクティの後ろで、イェーガーがクライフに同意した。
「手応えが無さ過ぎます。捕虜という有効な手段があるのにそれを利用しようとしない、カオスの魔物は一匹もいない、組織立った抵抗もない」
「僕も同感だね。幾ら僕たちの急襲で慌てたと言っても、こうもあっけないなんて普通は考えられないね。まぁ、敵の首領であるフロアさんが先に逃げちゃったから、やる気を無くしたって線も考えられるけど」
廊下や階段など然るべきバリケードを張り、罠を作成して組織的に攻撃されたならば、いかに個人の能力が優れた小隊であろうと苦戦を強いられていたはずだ。戦において脅威になるのは個々の能力もそうであるが、それ以上に数がものをいう。
「とはいえ、罠もないとは‥‥。一体どうなっている」
罠に対して万全の準備を整えていたトールの出番は今のところ一度も無かった。有ったことといえば、腰抜け兵士どもをソードボンバーで吹っ飛ばしたくらいだ。
「‥‥まさか俺たちの魔法に反応しない魔物が化けている、ということはないだろうな」
嫌な想像をした雀尾が、介抱される伯爵を注意深く観察するが、やはり怪しいところはない。
一通りの治療を受けた伯爵が覚束無い足取りでゆっくりと立ち上がった。それを認めてベルトラーゼが膝をつき、周りの者たちもそれに倣う。
「そなたたちは‥‥?」
疲労困憊で立ち上がることさえ億劫であるにも関わらず、その姿はこのグランドラを統べる領主としての威厳を一分も失ってはいなかった。
「他領より参りました、ベルトラーゼ・ベクと申します。ここにいる者たちは伯爵様をお助けするべく参った私の協力者たちに御座います。既に我が軍勢の一部が都市内部に侵入しており、領主フロアを捕縛するのも時間の問題。残るはメロウ様の救出のみに御座います」
「では‥‥そなたがキャロルを救出した者か?」
「はっ。キャロル様は我が領内にて万全の警備の下、保護しております。ご安心下さい」
それを聞いた途端に緊迫していた伯爵の表情が和らいだ。領主としてではなく、一人の父親として娘の安否を気遣う表情だ。
「今はまだ戦の最中、一刻も早く伯爵様のご令嬢、メロウ様の救出を行いたく存じます。城内の敵はほぼ一掃致しました。メロウ様救出に当たり、何か手掛かりが御座いましたらお教え下さい」
ここに来る途中、兵士の一人を捕縛して土御門のリシーブメモリーでメロウの居場所や黒幕を突き止めようとしたのだが、兵士たちは何の情報も持っていなかった。また、彼女のテレパシーでも不可能だった。面識のない者をテレパシーで指定する場合には自らの目で確認できていなければならないのだ。
「失礼致しますね」
不満も漏らさずに快く承知した伯爵をシャクティが背中に抱えて、ベルトラーゼたちは地下牢を後にした。
● 狂信者
伯爵の指示に従って二階廊下の隠し扉を抜けて階段を降りると、空と接する小さな広場に辿り着いた。城の中心部だろうか、四方を高い壁に囲まれて城内からも外部からも見えないように設計されている。グライダーのような空からの視野が無ければ判らない場所だ。正面に見える扉と先ほど潜った入り口以外にそれらしきものは見えない。あの隠し扉を通らない限り来ることが出来ないということだ。
正面にある隠し部屋の扉、中にいるだろうメロウへの道を阻むのは五人の剣士たち。
「どうやらここで間違いなさそうですわね」
伯爵を抱えるシャクティがそう言うや否や、剣士たちは何の前振りもなくこちらに迫ってきた。それを迎え撃つべく前衛組が前に出る。
フレイムエリベイションによって身体を強化していたイェーガーが素早く反応し、放たれた矢が一人の足を貫いて転倒させる。クライフも援護としてファイアーボムを発動しようとしたが中断した。こうも狭くては味方も巻き込みかねない。
雀尾が後衛に控えるシャクティごと伯爵を、高速詠唱のホーリーフィールドで包み込んだ。これで伯爵は無事のはずだ。
向かって来た剣士の刃を避けて、レインフォルスの顔が一瞬で厳しいものに変化した。これまでの兵士よりも数段速い斬撃、避けられないものではないが、油断出来ないと直感する。
しばしの攻防を経て巴とトールは少しずつ傷を負っていった。回避力よりも格闘術が勝る二人は敵に攻撃を当てることは出来るものの、同時に敵の攻撃を受けざるを得ない。
昨夜のフォーノリッヂ通り、敵の攻撃は明らかにベルトラーゼに集中していた。隙あらば刃を向けようと五人全員がその機会を窺っている。
「な、なん‥‥がっ!?」
不意に動きの止まった巴の懐に刃が突き刺さった。
跪いた巴に止めを刺そうと剣士が剣を振り上げた瞬間、その腕をイェーガーが撃ち抜くが、剣士はそれに痛みを感じていないかのように、直にまた剣を振り上げる。
ガキィィンンッ!!
間一髪でレインフォルスがその刃を受け止めるが、その心境は普段の冷静なものではない。
(何だ、この目は‥‥)
巴との戦闘で負傷し、そして矢を腕に受けながらも剣士は全く怯む気配がない。何よりも異様なのはその目。恐怖も焦りも何も感じていないそれは余りに異常だ。
剣を弾き返そうとしてレインフォルスが異変を感じる。身体が全く動かない。
巴の不可解な停止から、これが敵の何らかの魔法によるものであると直感する。
「雀尾!!」
「やらせない!!」
「そこ!!」
ベルトーゼの剣が相手の剣を弾き飛ばし、雀尾がこの状況下でも冷静にニュートラマジックを高速詠唱で発動、解除されたレインフォルスが止めを刺す。加えて、最初にイェーガーが転倒させた男が魔法を使っていることに気づき、イェーガーの稲妻の矢が今度こそ息の根を止めた。
残る敵は3人、いや2人になった。
一進一退の攻防を繰り広げていたトールが、覚悟を決めてわざと敵の刃を自らの肩で受け止めた。傷を負う代わりにダメージを最小限に抑え、同時に動きが止まった敵にカウンターをお見舞いする。
ゴーレムの四肢をも分断する凄まじき一撃、スマッシュEXを乗せたその攻撃に敵は耐えられるはずもなく、脆くも崩れ落ちた。
その後多勢に無勢となった敵が追い詰められる番となり、能力的にも劣る剣士たちに状況を逆転させるだけの力はなく、その骸を地面に晒すことになった。
「まだ息があるな」
地面に倒れた剣士たちの中にまだ息がある者を見つけ、トールが雀尾と土御門を呼んだ。見る限りこいつらはフロアの私兵ではない。その正体が何であるかを二人に調べてもらおうと考えたのだ。
だが、トールが視線を逸らしたその一瞬を衝いて剣士は転がっていた剣を取ると、自らの心臓にそれを突き立てた。
「自決‥‥ですか」
完全に事切れた男の顔をイェーガーが覗き込むと、そこにあったのは恐怖でもなく、喜びでもない、空虚な表情。
剣士たちを倒して、一行はそれぞれに負った傷の治療を開始した。巴は懐に受けた傷が深く、シャクティのリカバーと持参のポーションで回復する。敵を打ちのめしたトールも敵の攻撃によって受けた傷を自ら回復した。
「‥‥この剣士が使った魔法、あれは紛れもなく以前に私がカオスの魔物から受けたものです」
「それが確かならば、この剣士たちはカオスの魔物と関係があるということになりますね」
クライフの指摘を受けてベルトラーゼが静かに頷く。
「はい、これで大丈夫ですわ」
「すまねぇな、シャクティ」
塞がった懐の傷を眺めながら、巴が勢い良く立ち上がる。
「何はともあれ敵は倒したんだ。さっさとお嬢様を助けに行こうぜ」
拭えぬ蟠りを心に負ったまま、他の者たちもすっと立ち上るとメロウの待つ部屋に向かうのだった。
● 終わらぬ戦
数時間にも渡るグランドラ制圧作戦は終結した。
領主フロアは無事捕縛され、その主力もゴーレム隊の奮闘により敵主力も壊滅、グレイバー伯爵と令嬢メロウも疲弊が見えるが、命に別状はないとのことだ。
しかし、この内乱が刻んだ傷跡は余りに深かった。グランドラ城壁は崩壊、市街地の被害も大きく、復興には半年以上の時間が必要となるだろう。加えて、この内乱によってモナルコス13騎が大破、16騎のグライダーが失われ、民間人を含め、千人近くの人々が犠牲となった。このようなことが立て続けに起きれば、噂されるバの再侵略が為される前にメイの国が自ら崩壊することは必定である。
都市制圧隊の尋問(脅し)により手に入った領主フロアの証言によれば、ペテロ山に現れた金髪の男が黒幕であること、そしてこの騒乱がそれの企む計画の布石でしかないことも判明した。
任務を完了して帰路に付く冒険者たち。彼らはベルトラーゼからの報告を受けて同じ事を確信していた。
この戦は、まだ終わっていないのだと‥‥。