オーガの山を越えて

■ショートシナリオ


担当:紅白達磨

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月30日〜12月05日

リプレイ公開日:2007年12月05日

●オープニング

 ようやく収穫した農産物を馬車に積み終わり、一人の女性がほっと息をついた。
 ウィルは収穫の季節を迎えていた。
 今、各農村では収穫に追われた村人たちが汗を流しながら働いている。この女性がいる農村も例外ではない。
 女性は収穫した農産物を積んだ馬車を伴って、村の広場へと足を向かう。
 広場にはすでに、自分と同じように畑で取れた麦や野菜、果物を馬車に積んだ人々で溢れかえっている。
 女性は馬から降りると、いつものように都市へ収穫物を運ぶための手続きをしようと広場の中央へと移動した。
 畑で採れた農産物は自分たちが生活するために必要な分以外は、全て馬車をつかって都市へと運ばれ、都市で売られることになる。そうして、自分たちのつくったものが都市の人々の食卓に並ぶことになるのだ。
 ここで一つ問題があった。この農村と都市の間には、大きな山が一つ存在している。今までは自分たちだけでその山を越え、都市で直接売っていたのだが、最近その山にある廃村にオーガが住み着いたらしいのだ。襲われればひとたまりもない。
 そのため、皆で話しあった結果、ギルドに収穫物を乗せた馬車の護衛を頼むことになったのだ。
 昔はこんな風ではなかった。最近は重税に、モンスターの増加など悪いことが絶えない。
 こんな状況がいつまで続くのだろう‥‥。
 女性は思わず、ため息をつくのだった。

●今回の参加者

 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3866 七刻 双武(65歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9142 マリー・ミション(22歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 一つの馬車が山道を進んでいる。周りを見渡すと、崖崩れでも起こったのだろうか、大きな岩がいくつか転がっていた。道は荒れ、乾燥し、雑草すら生えていない。
 荷台を引く馬に乗った深螺藤咲(ea8218)が緊張感のない表情で笑顔を浮かべている。
「あたりの様子はどうですか?」
「今のところ、モンスターの姿はないようじゃ」
 七刻双武(ea3866)がブレスセンサーのスクロールを閉じた。
「では、急いで進みましょう。こちらは4人‥‥。 極力戦闘は避けるべきです」
「そうね。目的は作物の無事な搬送だから、戦闘は避けるべきだわ」
 馬車の側面を警戒していたアトス・ラフェール(ea2179)、マリー・ミション(ea9142)が先へと歩き出す。それに続いて馬車も再び動き出した。荷台が揺れ、落ちそうになった作物を荷台に乗っていた中年の女性が慌てて押さえた。それに気付いた七刻が駆け寄る。
 すみません、と痩せこけた顔で女性が頭を下げた。その表情は暗く、生気が感じられない。
 依頼をよこした村に到着したのは昼前。そこで依頼内容を確認し、すぐに出発することになったのだが、都市で作物を売ることまでギルドに頼むわけにはいかないということで、村人であるこの中年の女性が四人と共に都市まで同行することになったのだった。誰かが都市まで行かなければいけないとはいえ、その役を進んで引き受けるものはまずいないだろう。おそらく、この女性も何らかの事情で否応無しに引き受けたにちがいない。
「そう心配なさいますな。必ず拙者が無事にお届けいたす。ご婦人は荷台でどっしりと構えていてくだされ」
 七刻が恵比須顔でにこにこと笑い、少しでも女性を安心させようとする。
 その言葉にも女性は気のない返事を返すだけだ。いつオーガが襲ってくるのかという恐怖でそれどころではないのだろう。
 七刻がぴょんっと荷台に飛び乗った。
「ほう〜見事な野菜ですなぁ。拙者、農業には多少心得があるですが、これ程見事なものは久方ぶりですじゃ」
 そう言って七刻は女性と話し出した。女性も畑を耕すものだ。農業については関心があり、次第に打ち解け、二人の会話を弾んでいく。それに馬に乗る深螺も混じり、話題の幅を広げていく。少しでも女性の精神的疲労を和らげようという配慮である。
 それからしばらくして、やや先を進んでいたマリーが立ち止まった。上空から周囲を警戒させていたペットの鷹、メリーヴェの姿を確認したからだ。
 飼い主の下に降りてきたメリーヴェの様子をマリーが確かめる。
「七刻さん、ブレスセンサーで周囲を確認してもらえるかしら?」
 メリーヴェは何か異常を感じていた。七刻がその指示に従い、ブレスセンサーを使用する。
「……6体のオーガがこちらに向かってきておるようじゃ」
 その言葉に女性の表情が固まる。
「あそこに隠れましょう。まだ間に合います」
 アトスに従い、一行は道の外れにある大きな岩陰目指して砂利だらけの坂道を下っていく。
「しっかり掴まっていてください。大丈夫ですよ、安心してください」
 勾配の急な、しかも滑りやすい砂利道を移動しながらも深螺が余裕の表情で荷台の女性へと振り向き、声をかけている。さすがは志士、馬術の達人だ。
 戦えるものは4人。オーガを6人も相手にできる戦力はない。戦えば、まず全滅だろう。最悪、誰かを犠牲にしてでも、馬車と女性だけは守らなくては‥‥。
 やがて、予想通りオーガたちが先ほど自分たちがいた辺りに現れた。オーガたちは自分たちのテリトリーを持ち、そこに入ったものには容赦なく襲い掛かる。自分たちも例外ではない。
 一行は息を殺して、岩陰からオーガたちの様子を伺う。
 それから30分程して、オーガたちはその場を去っていった。
 ほっと息をつく一行。すぐに安心するのもつかの間、坂の下の小道に一匹のオーガが見えた。緊張が解けてすぐということもあった。物音を立てずにいれば気付かれなかっただろう。だが、ただでさえ自分の身を守る術を持たない女性が息を殺し続けるのも限界だった。
 オーガに気付いた女性が思わず、悲鳴を上げた。声に気付き、自分たちに目をとめたオーガが一直線に坂道を登り、襲ってくる。
「下がって!」
 それにいち早く気付いたアトスがノーマルソードを構え、向かっていった。深螺が脇差を抜き、馬上で身構える。女性を守るためにもここを離れるわけにはいかない。
 時間がない。早くしとめなければ他のオーガたちが寄ってくる可能性がある。それだけは避けなければならない。
 アトスの後ろから七刻、マリーが高速詠唱によってすぐにライトニングサンダーボルト、ホーリーを撃ち出した。波打つ雷がオーガの身体を焦がし、次にホーリーの白い光がその身体を包み込む。二つの魔法にオーガの動きが止まる。その隙を狙い、走った勢いのままアトスのノーマルソードがオーガの身体に切り裂いた。その攻撃によろめきながらもオーガは倒れることなく、その右手にもつ金棒を振り上げるとアトスに向かって振り下ろすが、体勢を立て直したアトスがそれを紙一重で回避した。続けて力まかせに振ってくる金棒を、間合いをとりながら避けていく。ノーマルソードを構えるその後ろから二度目のライトニングサンダーボルトがオーガの身体を襲った。それに続いてマリーのホーリーが襲い掛かる。
「アトス! 今よ!」
 度重なる攻撃に膝をつくオーガへとアトスは一気につめより、その首元へとノーマルソードを突き立てる。
 小さなうめき声を出した後、オーガはゆっくり地面に倒れたのだった。


 その後一行は、新たなオーガの来襲を避けるためにその場を移動し、夜を過ごす。
 夜が明けると一行はすぐに行動を開始した。戦闘を極力避けるため七刻のブレスセンサーを多用し、深螺の提案により風の向き、臭いが流れる方向を考慮した上で、馬車を隠すのに適した場所を確保しながら進んでいく。同時に深螺は優良視力と殺気感知を利用し、オーガ達の接近を警戒、更にマリーの鷹、メリーヴェによって上空からも警戒した。
 時には迂回し、道なき道を進み、確実に山を越えていく。そして村を出発して3日目、山道も終わろうとしていた。


 廃村の近くで一行は立ち止まっている。
「‥‥オーガが5匹、坂の上で待ち伏せをしておるようじゃ」
「他に道はないのですか?」
「山を抜けるにはこの道しか‥‥」
 女性の言葉に四人が口を閉ざす。
「‥‥他に道がないのでしたら、仕方ありません。一気に駆け抜けましょう」
 アトスが重い口を開き、それぞれが準備を始める。
 青い顔をする女性に深螺がにこやかな笑顔を浮かべていった。
「我々が必ずオーガ達から貴方を守ります。安心してください」
「前も言ったように、ご婦人はそこで安心して構えていてくだされ」
「準備できたわよ」
「こちらもです。‥‥いきましょう」
 覚悟を決めた一行が、一斉に山道を下っていく。数分もしないうちに、上空からマリーのペットのメリーヴェの激しく鋭い鳴声が辺りに響き渡った。
「出た! 皆、注意して!」
 マリーの言葉通り、左方の上り坂の上に5匹のオーガが姿を現した。自分たち目がけて坂道を下ってくるが、一行はそれに目もくれずに全速力で山道を突っ走る。予め予想していたこともあり、数秒の差でオーガたちが進路を防ぐよりも早く下り坂を抜けることに成功した。
 これならいける、そう誰もが思い、成功を確信した瞬間だった。馬車の前方へと一匹のオーガが現れ、立ち塞がった。そしてそれと同時に巨大な金棒を深螺へと横なぎに振り払った。馬をやられるわけにはいかない。深螺が得意の馬術で馬を庇うように身を捻ると、その懐へ容赦なくオーガの金棒が叩きつけられた。
 「――――――!!」
 馬上から地面へと落下し、地面に叩きつけられた衝撃が深螺の全身を突き抜ける。あまりの衝撃に感覚が麻痺し身動きができない。そうこうしている間にも後ろからは6匹のオーガが一行へと近づいてきていた。その中へアトスが一人突進する。
「アトス!?」
「やつらは私が食い止める! 最悪馬車さえ無事なら構わない。依頼は成功させなければ!」
「‥‥承知した!」
 アトスに七刻が頷き、太刀を抜いた。後ろを振り返ると目の前には不意打ちをしかけたオーガが金棒を振り上げていた。一撃を間一髪で避ける。しかし、予想以上の切り替えしの速さに二撃目をさけることは出来ず、ライトシールドで受け止めた。オーガの怪力に耐えることができず、七刻の体が弾き飛ばされる。
「‥‥あ‥‥あ」
 オーガが次の目標を馬車へと向けた。荷台の中で恐怖に身をすくませる女性が震えながら、近寄ってくるオーガを見つめている。オーガの前に馬車を守ろうとマリーが立ちはだかる。
 そのすぐ近くで深螺が立ち上がった。わき腹を押さえる手のひらには自分の血が付いている。目をつぶり、痛みに耐えながら高速詠唱でフレイムエリベイションを発動させ、その身体を赤い淡い光が包み込んだ。これでしばらくの間、ケガの分をフォローできるはずだ。
 大脇差「一文字」を手に深螺は神経を研ぎ澄ます。
『我々が必ずオーガ達から貴方を守ります。安心してください』
 約束したのだ。必ず女性を守ると。
 瞑っていた目をかっと見開いた深螺がオーガに向けて一直線に走り出した。
 邪魔をするマリーへとオーガが金棒を振り上げ、それをなんとか受け止めようと捨て身のマリーが目をつぶる。その金棒が振り下ろされようとした瞬間、深螺がオーガへと走り、跳んだ。空中で抜き放たれた刀の残光。金棒をもつオーガの腕が肘の辺りから斬りおとされ、地面に転がった。深螺のスマッシュ・EXによって腕を斬り落とされ、苦痛の声をあげるオーガへと至近距離からのマリーのホーリーが炸裂する。よろめくオーガが怒りに任せ、残った左腕をマリーに突き出すが、それを横から割り込んだ七刻が盾で受け流す。そしてその動きに合わせ、右手の太刀「三条宗近」を下から上へと斬り上げた。七刻のカウンターアタックとシュライクに跪いたオーガへと更に、マリーのホーリーと深螺の攻撃が重ねられ、オーガは絶命した。
 オーガを仕留めた三人は息をつく間も無く、後方のアトスの方に目を向けた。そこではアトスが一人、オフシフトを使用し度重なる攻撃を避け続けていた。今のところ直撃は受けていないが、その額には棍棒がかすったのだろう、一滴の血が顔を流れている。
「くっ! きついがこの条件でも切り抜けて見せる。依頼達成してこその冒険者です!」
 アトスを援護すべく、マリーが馬車の近くからホーリーを放った。威力を弱め、専門のホーリーではなく、初級のホーリーで一発ではなく、何度も重ねていく。
「いつまでやってるの! 逃げるわよ!」
 倒すとまではいかないが、マリーの援護によりオーガの動きが鈍っていった。
「こういうときの無駄撃ちは結構効果的なのよね。どんどん行くわよ! ホーリー!」
「皆さん、早く乗って!!」
 馬上から深螺が叫ぶ。
 マリーの援護を受け、隙を見てアトスが馬車の方へと走り出す。
「早く! 山さえ抜ければ何とかなるわ!」
 マリーが何度もホーリーを撃ち出していく。しかし、もうそう長くは続かない。
 アトスの後を追ってオーガがこちらに走り寄ってくる。その前に七刻が立ちはだかった。
「ストーム!!」
 暴風が生まれ、追ってきたオーガたちの動きが阻まれ、あるものは倒れ、あるものは倒れないものの足を止められた。
 その隙をついて、マリー、アトス、七刻が次々に馬車へと乗り込むと同時に深螺が馬の腹を蹴った。馬が嘶きを伴って坂道をかけていく。何匹かのオーガがこちらを追うために走ってくるが、さすがに追いつけないようだ。
 遠ざかっていくオーガたちを見つめながら一行は安堵の息をつくのだった。
「‥‥なんとか助かったようね」
「危なかったですねぇ」
 ホーリーの撃ちすぎですっかり疲弊したマリーが荷台の上で仰向けに横になっている。わき腹の血を押さえながらも笑顔の深螺が馬上でわずかに振り返った。
「なぁに、あの程度拙者にとっては軽い軽い」
 七刻が笑い、それに深螺が楽しそうに笑った。
 二人の様子にマリーがため息をつく。その隣で女性が深螺に声をかけた。
「あの‥‥傷のほうは‥‥?」
「だいじょ〜ぶです。これくらいどうってことありませんよ」
 女性を安心させようとしているのか、もともとそういう性格なのか、もしくはその両方なのか、深螺がにんまりと笑顔で答える。アトスが助かったことに息をつき、そしてため息混じりの声を出した。
「途中で止まって下さい。深螺さんの傷の手当てをします」


 山の途中、アトスのリカバーで深螺の傷を回復した後、一行は無事山を抜け、都市へと到着した。お礼を何度も言う女性と別れの言葉を交わして四人は女性を別れた。
 こうして依頼は無事終了したのだった。