続・グランドラ城塞都市攻防戦 航空隊
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■ショートシナリオ担当：紅白達磨 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：普通 成功報酬：4 G 98 C 参加人数：8人 サポート参加人数：-人 冒険期間：07月24日〜07月29日 リプレイ公開日：2008年07月31日 |
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●オープニング
バの進軍は止まるところを知らなかった。突如ロウエル港に出現したバの侵攻軍はフロートシップ３隻からのゴーレム降下作戦で瞬く間に港を制圧。その後、襲来の報が広がるよりも早く内陸部へと侵攻を開始、侵略の手は天を焦がす炎の如く、止まることなく広がっていった。
式典出席による領主不在の状態では各領は組織立った抵抗をすることも叶わず、領民たちは土地を捨てて逃げるしかなかった。現在までに制圧された領地の数は９つ、陥落した砦は１３にも及ぶ。
ベルトラーゼ・ベクもカオスの勢力との激闘を経てトールキンから脱出、反撃の機会窺いつつもグランドラ領までの撤退を強いられた。城主を失い、カオスの攻撃によって半壊したトールキンで敵軍を防ぐことは困難であり、彼にとってそれは苦渋の選択だった。
侵攻軍を率いるのは猛将と謳われるドスロワ・グランカッツァ。その戦法は強引かつ単純と取れるが、それ故に僅かな期間での９つの領地制圧を可能とし、メイ側もグランドラ内陸部にまで引くことを余儀なくされたのだった。
グランドラは他の領地と違い、一つの役割を持つ。城塞都市という名の通り、そこは正しく敵軍の侵攻を押し止める役割を持つのであり、簡潔に言い換えるならば、後方に控える無数の領地の盾なのである。ここを失うことは他の領地を制圧されることとほぼ同意義と言っても差し支えない。
グランドラに、今再び戦乱の火が迫ろうとしていた。
猛将『ドスロワ・グランカッツァ』率いるバの侵攻の報を受けて、メイは総勢１４騎のゴーレムをグランドラへ投入した。中には対カオスゴーレム用としてシルバーゴーレム『ヴァルキュリア』と射撃特化騎体『アルメリア』も含まれており、この戦いに対する危機感がどれ程のものかが感じられる。
特に、今回バがゴーレムによる降下作戦を重視していることからも判る通り、地上ではなく空への手段を強めている。フロートシップ３隻、グライダー５騎を用いた航空部隊を編成していることからもそれは明らかだ。
いかに強固な城壁を持とうとも上空からの攻撃を防ぐことは出来ず、フロートシップからの艦砲射撃を止める手段がなければ、城壁はいつか破壊される。ゴーレムの誕生から幾ばくの時間が過ぎ、技術は今もまだ発展し続けている。カオスゴーレムやドラグーンを筆頭に、強大になり続けるそれらはフロートシップの生産を以前より遥かに容易にさせている。
アトランティスの戦場は地上のみならず、本格的に空にまで広がったことを、この戦は示していた。
『グランドラ上空の制空権を守るべく動く航空隊、その旗艦（といっても１隻しかないのだが）となるのは攻撃型高速巡洋艦ヤーン。艦首に精霊砲を持ち、両側面には大弩弓を５門ずつ装備したこの船は通常のフロートシップを上回る機動性を持ち、小型故搭載量こそ少ないものの、小回りが利き、空中戦において抜群の攻撃力を誇る。
一方、敵の主力艦と思しきものは鹵獲艦メリーランド。他の国での略奪を目的とした艦であり、ヤーンに及ばないものの、中々の機動力を持つ。加えて艦首には新たに精霊砲が設置されており、攻撃力はこちらに劣ることはないだろう。他に２隻のフロートシップが確認されているが、側面にいくつかの大弩弓が設置されているだけで、機動力も並み程度。ゴーレム運搬を主目的としたものであり、戦闘において要注意となるのはメリーランドのみある。
本来フロートシップは攻撃ではなく、ゴーレムを含む物資の運搬が主な目的として建造された。艦は頑丈であるが、木造の物がほとんどであり、グライダーからの攻撃も十分に通用する（砲丸ならば敵艦の装甲を打ち抜き、内部を攻撃することも可能だし、貴婦人の踵でも当てることが出来れば、効果は期待出来る）。しかし、フロートシップとグライダーは両者の大きさからも判るように、その攻撃力と耐久力の差は歴然で余程の集中攻撃を浴びせなければ、グライダーで敵艦を撃沈させることは難しい。となると、やはりフロートシップでの精霊砲や大弩弓による攻撃が、主な攻撃手段となる。
だが、フロートシップ戦でもう一つ重要な点がある。それは甲板の戦力である。森林や大岩を吹き飛ばす火力を持つ存在、強力な魔法を扱う者ならば、精霊砲に勝るとも劣らない戦力となり、大弩弓を持たずとも熟練の弓使いがいるならば、敵グライダーを打ち落とすことも可能となる。いうなれば、空中戦において鍵となるのはフロートシップの性能だけではなく、甲板にいくつの『大砲』を設置できるかということなのである（グライダー後部座席に乗って攻撃も可能だが、騎体が打ち落とされた場合、かなりの確率で死亡する危険性があることは言うまでもない）。
尤も危険性は高い。少し想像すれば検討はつくと思うが、ストーンゴーレムの装甲をも貫くあの大弩弓の矛先が甲板にいる生身の人間に向けられるのだ。耐久性のない魔術師ならば、一撃を受けただけで瀕死、悪ければ『即死』である。回避力が高いものたちでも甲板という限られた空間では避けるにも限度がある。それ故、甲板には負傷兵を敵の攻撃が届かない艦内部まで速やかに運び、治療する優秀な治療班が必要不可欠となる。戦闘が終わるまで地上に着陸することはまず無理であり、乗組員が地上に降りることは出来ない。人員の補給も負傷兵を後方へ運ぶことも不可能である以上、艦内部に限られた兵員たちを最大限に活かし得る能力を持つ救護班がいることが絶対条件になるである。
大砲となる『魔法使い』と『弓使い』（遠距離戦闘員）、並びに負傷者を速やかに回収、救急出来る救護班、そしてグライダーに搭乗して敵グライダー隊の攻撃を退けながら、敵艦へと勇敢に突撃出来るゴーレム（グライダー）乗りたちが、本作戦に参加してくれることを望む、以上』
【ヤーン艦長 フリゲート・ロード】
●今回の参加者
ea2564 イリア・アドミナル（21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国）ea6382 イェーガー・ラタイン（29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国）
ea8594 ルメリア・アドミナル（38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国）
ea9907 エイジス・レーヴァティン（33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国）
eb4322 グレナム・ファルゲン（36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4494 月下部 有里（34歳・♀・天界人・人間・天界（地球））
eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン（35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
ec4873 サイクザエラ・マイ（42歳・♂・天界人・人間・天界（地球））
●リプレイ本文
●戦の前に闇を終えつつある薄明かりが雲一つない広大な空に顔を出している。夜明けまでにはまだまだ時間があるが、都市内部では最終調整が行われている最中だ。
グランドラ防衛作戦に参加した者たちが兵舎に集結していたのもそれに起因する。
総勢２４名。呼掛けに応えた勇士たちが囲むテーブルでベルトラーゼが作戦概要を確認していた。
「‥‥では、高速艦『ヤーン』はまず大型艦を狙ってください。上手くいけば降下前にゴーレムの数を減らせます」
「宜しいですか？」
挙手したのはイェーガー・ラタイン（ea6382）。命を預けることになるフリゲート艦長に挨拶、発言を許可されると意見を提出した。
「敵艦は木造ですから、火矢が有効です。任務開始時までその作成を行いたいと思います。また、盾代わりになる遮蔽物や命綱の設置もお願いしたいです」
「艦長」
「良い考えでしょう。この国に航空戦を経験したものはほとんどおりません。万全を期すに越したことはない」
彼と同じく甲板で遠距離戦闘を行うのはイリア・アドミナル（ea2564）とルメリア・アドミナル（ea8594）。共に強力な魔法を扱う頼もしい魔法使いだ。
「甲板には魔法使いを多く置いてもらえるかしら」
進み出たのは月下部有里（eb4494）。救急班のリーダー的存在となるに相応しい、天界の技術を所持している女性だ。
「私の技量では囮をやれるのがいいところだろう。自分にできることはわきまえているつもりだ」
そう言うのはサイクザエラ・マイ（ec4873）。実戦の経験は少ないが、危険な飛行任務を買って出た勇敢な男である。
「今回は敵の数の方が多いし敵の方が優勢だ。個々の力で勝てないならチームプレーもやむを得んだろうよ」
「如何です、良ければ私とペアを組みませんか？」
リュドミラ・エルフェンバイン（eb7689）が提案したのは『機織り』戦法というもので２機がペアを組み、機織り機の横糸と縦糸が交錯するような機動で１機が格闘戦に敵機を引きこみ、もう１機が横撃して倒していくグライダー戦法だ。グレナム・ファルゲン（eb4322）の二騎で行動するべきだという意見もあり、結局二人はペアを組み、グレナムが隊長として飛行隊の指揮を行うことが決定した。
「敵艦の甲板にも多数の敵が配置されているはずです。接近は困難でしょうが、無茶はなさらぬよう」
「はいはい、ベルトラーゼさんも気をつけてね〜」
エイジス・レーヴァティン（ea9907）独特の陽気な声を最後として航空隊の会議は終了となった。
●空の始まり
『機関全速！ 同時にグライダー部隊発進準備、精霊砲発射体勢！』
敵接近の報を受けた高速艦ヤーンが上空に展開して数分、最初に見えたのは敵艦メリーランド級の影だった。遥か後方に追従するような形で小型、大型フロートシップ一隻ずつ。火力に乏しい他二艦の安全を確保するための当然の行為と言えるだろう。
『艦首上げ、目標敵鹵獲艦！ 精霊砲発射後、作戦に従い後方大型フロートシップを討つ！』
緊張感が船員全員に漲った。甲板に控える冒険者たちも例外ではない。
『精霊砲、撃て――――――――ぃ！！！』
空に散った炎の精霊の雄叫びを合図に、グランドラ戦の火蓋は切って落とされた。
『後方から敵艦接近！ 間も無く敵精霊砲の射程内入ります！ 敵飛行部隊の展開も確認！』
大型艦の横っ腹に一撃、その後も精霊砲を連射しつつ大型艦の側面についたヤーン。
『グライダー隊出撃！ 接近を許すな！』
「お気をつけて！」「無事のご帰還を！」
「任せられよ」「ありがとう」「無用の心配だな」
艦整備員たちの声援を受けてカタパルトから出撃したグライダー部隊が艦後部に展開する。
既に都市上空には何騎かの敵グライダーが展開し内部へと攻撃を仕掛けている。同時に敵小型艦がゴーレムを降下させているのも確認出来たが、甲板の守備を怠るわけにはいかない。
「二騎一組で行動しつつ、甲板班を守備する。散開！」
●未知の空戦
「ちょっと‥‥これ無理‥‥！」
「また随分揺れるね〜」
「‥‥何て風圧」
甲板班を襲う風圧の凄まじいこと。目標に接近するための最高速から緩まったにも関わらず、予想以上の風圧が一行を襲っていた。更に足場を揺らす敵精霊砲が障害となり魔法成功率が格段に低下。個々のアイテムを使い成功率を上げたイリアとルメリアだったが、超越魔法の発動が悉く失敗、弓隊も同様で相当の腕を持つイェーガーでさえ狙いが定まらずにいた。
敵飛行隊は隊長騎らしきグライダーを先頭として両脇に展開するという鳥のような陣を敷いていた。
隊長騎にグレナムのペアが、右にリュドミラとサイクザエラのペアが目標を定め加速する。
先頭のグレナム騎に交叉の瞬間敵の矢が放たれ、それをぎりぎりで回避した。
「‥‥やるな」
相当の訓練を積んでいるようで後部座席に乗る弓兵との連携が見事なまでに完成していた。
「私が囮になる。頼んだぞ」
「了解、無理はしないで下さい」
『後部船底被弾！』
「背後に付かれたままではどうにもならんか‥‥」
大型艦の耐久力は予想以上だった。ゴーレムの降下は阻止しているものの、撃沈するには相当の時間が掛かるだろう。
艦長が甲板に繋がる伝令菅を掴み取った。
『甲板班、対艦戦闘準備！ 背後につく敵艦の側面に可能な限り接近する！』
聞くや否や月下部の号令が甲板に響き渡った。
「対艦戦闘の準備を！」
盾を持った兵士たちが甲板の外縁に並び、その後ろに遠距離戦闘員が配置した。
サイクザエラ騎の後方に、まんまと引き付けられた敵騎をリュドミラのランスによる横撃が破壊した。
機織り戦法によって敵機を撃破した二人が苦戦する左方の援護に向かっていく。
一方、グレナムが訝しげに顔をしかめた。
「‥‥なぜ仕掛けてこない？」
かなりの腕を持ちながら、敵隊長騎はさっきから逃げてばかりだった。二騎を相手に不利ということもあるが、まるで時間稼ぎでもしているようだ。
‥‥時間稼ぎ？
「分隊か‥‥！」
●甲板総力戦
魔法の効果を少し低めに切り替えたルメリアの雷が敵甲板に撃ち込まれ、遠距離魔法の応戦、大弩弓の撃ち合いへと続き、接触ギリギリの距離を保ったまま、双方甲板班の本格的な戦闘が開始されていた。
「負傷兵は船内に移動させて！」
僅かな時間で双方には甚大な被害が出ていた。魔術師隊のファイアーボムや大弩弓は盾を構える兵士たちの壁を簡単に粉砕した。加えて都市上空に展開していた敵グライダー隊が隙を狙って艦上空に展開、火炎瓶や火球を頭上から放たれ、耐久力の劣る魔法部隊は陣形を崩され混乱していた。
このような状況で最も戦功をあげたのはイェーガーだ。
「こ、の‥‥！！」
矢などに対し真っ向から勝負出来ない者たちと違い、事前に用意した遮蔽物を盾に持ち前の回避力と射撃力で的確にグライダー操手を仕留めていく。
イリアのミストフィールドは遥か後方にとり残されていた。高速飛行する艦と違い、霧は動くことが出来ないため、あっという間に置いてけぼりを食らってしまったのだ。
「う、ああああ！！」
後ろを見せた瞬間に敵隊長騎は攻撃に転じ、味方が一騎撃ち落とされた。
「リュドミラ殿、サイクザエラ殿、艦周辺はお任せする！ 一騎、私と共に隊長騎を撃つ！」
「了解です！」「了解だ！」
「‥‥死に‥‥た‥‥な‥‥」
「大丈夫、助かるわ。絶対助けてあげるから安心して」
大弩弓の矢を胸に受けた兵士に、あくまで平静を保った月下部が適切かつ迅速に処置を行っていく。その手際は見事としか言い様がない。イェーガーのペガサス『ふう』のリカバーもあって致命傷を負っていた兵士も徐々に生気を取り戻していった。
「何してるの、負傷兵を早く連れてきて。急いでね」
「は、はっ！」
普通なら絶対に助からない負傷者を迅速に処置、安定させていく月下部。思わず見とれていた救急班が我に返って動き出す。
「宜しくね、リュドミラさん」
「敵甲板の勢いが弱まり次第、一気に仕掛けます。‥‥かなりの速度の中での乗り移りになりますから、勝負は一瞬です。気をつけてくださいね」
「はいは〜い」
エイジスを乗せたリュドミラ騎が再び甲板から離陸、その上では敵隊長騎を仕留めたグレナムを中心に飛行隊が密集した。
「隊列を組み、敵甲板に突撃する！ 遅れを取るな！！」
敵グライダー隊が壊滅したことで戦況はこちらに傾いた。飛行隊が油壺を浴びせたところに魔法や火矢が引火させて敵艦を炎に染め上げていった。
「ゲホッ、ゴホッ！ イリアさん、ルメリアさん、無事ですか？」
「‥‥な、何とかね」
「敵艦は退いたのですか？」
炎の魔法によって甲板は炎上し黒煙に塗れて碌な視界が確保出来ない。口に入り込む燃煙が喉に激痛を齎している。
「甲板班の半数が重傷、戦闘不能の状態だわ。艦の状況はどうかしら？」
「第二機関部損傷大。前船底の第一機関部のみが状態を維持している。航行は可能だが、敵が退却してくれたのは僥倖‥‥」
『艦長、南西の方向に敵影。接近してきますわ！』
テレスコープによって周囲を警戒していたルメリアの声が、甲板から伝令菅を通じてブリッジに響いた。
敵艦が黒煙を上げながら、こちらと同方向の進路を維持しつつ段々と近づいてくるのが見える。
‥‥しかも一向に速度を緩める気配がない。
「まずい‥‥面舵一杯！！ 回避ぃ！！」
「駄目です、間に合いません！！」
伝令菅を口元に引き寄せた艦長の怒号が艦全体に響き渡った。
『総員対衝撃体勢！！ 何かに掴まれぇ！！！！』
●接舷
火力で勝ち目がないと悟った敵艦が取った行動はヤーン側面への体当たり。強行接舷による艦内部の直接占拠だった。
接触した艦の舷同士が盛り上がり、繋がった甲板は接触面を頂上とした山なりの形と成っていた。
「艦長、急いで離れ‥‥」
「駄目だ、下手に動けば甲板班が落下する」
接舷と同時に打ち込まれた大弩弓の矢は鉤爪のような特殊な形状を有し、尾に取り付けられた太いロープが船体同士を繋げていた。これでは敵艦を離すことは難しい。しかも敵艦は今、火に包まれているのだ。
『消化活動急げ！ 甲板班、打ち込まれた矢のロープを切断しろ！ このままではこちらまで丸焼けになるぞ！』
突然の出来事に対応出来ず甲板班の三分の一が落下、イェーガーが事前に命綱の設置を提案していなければ、半数以上が犠牲になっていただろう。
敵制圧部隊の数凡そ３０。バの歩兵とカオスニアンの混合部隊だ。
「これ以上は‥‥！」
『風の精霊よ我が手に集い敵を討ちぬけ、ライトニングサンダーボルト』
途絶えることのないイェーガーの連射と、扇状に広がったルメリアの雷が突撃してくる敵部隊を撃ち落とした。
「イリア‥‥、イリアは！？」
「‥‥おば、さま‥‥」
傾斜約４０度、傾いた甲板の端にイリアはいた。床の木目に捕まっているが、非力な彼女では自分の体重を支えるのが精一杯で自分で上る力はない。ましてこんな状況だ。
「イリアさんは航空隊に任せて今は敵を！ ルメリアさんが欠ければ敵に侵入されます！」
「‥‥くっ！」
「イリアさん、捕まって！」
ぎりぎりにまで接近したリュドミラ騎が必死に手を伸ばした。
「！？ 後ろ！！」
隙だらけになったその後方に一騎の敵グライダーが襲いかかる。だが、その真下をサイクザエラのランスが貫いた。敵の動きに察知して、とっさに機織り戦法を仕掛けたのだ。
「ぐっぁあ！？」
「うおぁ！！」
「きさ、がはっ！！」
一斉に崩れ落ちたのは味方ではなく、バの制圧部隊。
接舷頂上、その真ん中に空から颯爽と現れたのは巨剣片手に、陽気な笑みを浮かべるハーフエルフ。
「エイジスさん‥‥助かりました」
「ごめんね〜、船が速すぎて着地のタイミングが掴めなかったんだ。月下部さんがロープを切ってだってさ。ルメリアさんたちはそっちを頼めるかな？」
「貴方は？」
不気味な微笑を見せるエイジス。狂化が既に始まっているのもあるが、それには何か、新しい遊びを見つけた子供のような、無邪気な喜びが混じっていた。
「前から、一度フロートシップってやつを落してみたかったんだよね」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥え？」
「そっち宜しくね〜。僕は僕で勝手に脱出するから気にしないで」
高度数百メートルの上空で、襲い掛かってくる敵歩兵部隊をものともせずにエイジスが敵艦へと突貫した。完全武装したエイジスに歩兵隊の矢や剣は一切通用せず、超越級から繰り出される無慈悲な大剣は甲板を血に染めていった。
「大丈夫ですか、イリアさん？」
「はい、何とか命拾いしました‥‥。よっくもやってくれたねぇ」
速度も一定し、地盤も不安定だが固定されている。
敵甲板に敵しかいないのを確認して、イリアの超越魔法がやっとのことで発動した！
『氷の女王、その全てを凍て付かせる息吹にて、敵を抱け。 アイスブリザード 』
いつもよりも数段私情と気合の入った吹雪の波が敵艦隊の表面を覆い尽くした。その隙を衝いたイェーガーの矢が大弩弓の弦とロープを破壊した。
『艦長、ロープ切断完了しました』
「離脱する！ 甲板班に振り落とされないよう伝えろ！」
『皆、何かに捕まって！』
「艦首上げ！ 精霊砲発射準備！ さっきの礼だ、思いっきりぶっぱなせ！」
「艦長、敵艦に異変が‥‥！」
発射の号令をかけようとした艦長が眉を顰めた。敵艦船底、機関部らしき部位が爆発している。
「何だ、一体どうした！？」
●終結
「何だ、一体何事だ！？」
敵艦メリーランド級。奇しくもフリゲート艦長と同等の台詞を放って機関室に入ってきた敵機関長。
彼の目に入ったのは、無残に破壊された船の動力源である精霊力機関、そしてそれを行った張本人であるエイジス。
「遅かったね〜。これで機関部は全部かな？」
「こうも簡単に敵の侵入を許すとは‥‥。伝令！ 機関部に敵兵１、他に敵兵がいるはずだ、探せ！」
「ああ、それなら気にしないでいいよ。僕一人だから」
「‥‥な、に？」
艦内には数十の歩兵部隊が待機していたはず、それを一人で‥‥？
「信じられん‥‥」
「どうぞご自由に」
驚愕する機関長とは反対に生易しい笑みを浮かべるエイジス。一通り戦闘が終了し時間が経っているため狂化もやや収まっている。
「だが、ここは空だということ忘れていたようだな。貴様に逃げ場は‥‥」
ズガァン！！
渾身の一撃が機関室の壁を粉砕し、外への出口を無理矢理作り出した。
「じゃあ僕は帰るから。あ、もうすぐこの船墜落すると思うから、気をつけてね〜」
敵に言われるまでもない。万全の準備をしていたエイジスがフライングブルームによって空へと脱出した。
そして彼が言った通り、精霊機関部を破壊された敵艦は最早制御を失っており、
「た〜ま〜や〜♪」
数分後地上へと墜落、空の戦はメイに軍配が上がり幕を閉じたのだった。
