ゴーレム素材の運搬護衛

■ショートシナリオ


担当:紅白達磨

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2007年12月09日

●オープニング

 メイの国には危機が迫りつつあった。
 数十年前のバの国の侵攻以来、カオスの勢力とバの国はメイの国の敵となり、国境付近では小競り合いが繰り返されている。それらがいつまた大規模な戦闘に発展するかはわからない。
 この危機に備え、現在メイの国では、伝説の竜戦士『ペンドラゴン』の血を引く賢人王アリオ・ステライドの元、カオスの勢力やバの国の進行を防ぐため、ゴーレム兵器の導入が急ピッチで進められていた。主に製造されているのは、ウィルの国が開発した初の実戦用人型ゴーレム、バガンを独自に改良した重装甲型のストーンゴーレム、モナルコス。機動力には欠けるものの、そのパワーは成人男性の10倍以上とも言われている。
 そもそもゴーレムはウィルの国で開発された兵器であり、その製造には莫大な費用がかかる。しかしそれ以上に欠かすことができないものがある。それはゴーレムの体となる素材だ。金属系のゴーレムであればその金属が必要になるし、ストーンゴーレムを作るためには大量の石が必要となる。もちろん、モナルコスの製造にも大量の石が必要である。そのため、最近ギルドでは国からの依頼として、地方から都市への石の輸送、もしくはその護衛が現れるようになった。
 今回の依頼もその一つ、ゴーレム製造に必要な石を都市に運んで欲しいというものである。
 

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4532 フラガ・ラック(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

 整備され、敷き詰められた石畳の道は都市まで続き、その上を三頭の馬の蹄が叩き鳴らしながら進んでいた。馬たちの後ろには優に3メートルは超す巨大な石が積まれた大型の馬車、そしてその運搬護衛を引き受けたものたちが馬車を囲むようにのんびりとした足取りで歩いている。
「ふわぁ〜、暇だね〜」
 ペットのユニコーン、パフェに乗ったレフェツィア・セヴェナ(ea0356)が身体を伸ばした。
「レフェツィアさん、気を抜いてはいけませんよ」
「だって〜‥‥」
「まぁ、娘の言うことも一理あろう。こう何もすることがなくては護衛という仕事すら忘れてしまいそうだ」
 後方でペットのライディングホース、ドンキーの手綱を引きながらクライフ・デニーロ(ea2606)が優しい口調でたしなめる。その隣で同じくペットのドンキーを側に連れながらローシュ・フラーム(ea3446)が頷いた。
「‥‥まだ街に着かないのか。退屈で死にそうだ」
 馬車の前方を歩いているレインフォルス・フォルナード(ea7641)が地平線の向こうにまで伸びる街道をぼんやりと見つめている。伊藤登志樹(eb4077)が馬を動かしている従者から預かった地図を広げた。目的地である都市まではまだ距離があるが、休憩所であり、今夜宿泊する予定の街は後半日もかからない距離にあった。
「この先にある沼地を越えたらすぐだ。今日はゆっくり眠れそうだな」
 退屈に思っているのは登志樹も一緒だった。街道を進み、すでに3日。道中、宿泊できる街などひとつもなかったため、一行はずっとテントをはり、野宿をしてきたのだった。久しぶりにやわらかいベッドで眠れる、そう思うと嬉しくてたまらなかった。
「それじゃあ、急ごうよ。レッツゴ〜〜!!」
 街がもうすぐと聞くやいなや、満面の笑みを浮かべたレフェツィアがユニコーンを走らせた。それに遅れないようにと慌てて他のものも走りだす。
「‥‥一雨きそうですね」
 フラガ・ラック(eb4532)が視線を空へと向けた。前方の街道の上に雨雲が浮かんでいる。何か嫌な予感を胸に感じながら、フラガは街道を駆けていくのだった。


 一行が沼地に入ってすぐに雨が降り出した。鬱蒼と茂る木々、地面の沼地。ただでさえ暗いのに、頭上を覆う木々によって雲間から差し込む僅かな光も中には届かない。しかも、強烈な雨によって沼地の足場は更に悪くなっている。荷物を運ぶべく一行は降り注ぐ雨の元、沼地を進んでいった。

 夜が訪れていた。雨も上がり、頭上を覆う木々の間からは月の光が流れ込んでいる。
 夜になる前まで、一行は沼地を抜けようと進んでいた。しかし、かなりの重量の巨大な石を積んでいる馬車だ。ゆるくなった地面の土に馬車の車輪は簡単に沈み込んだ。その度にローシュの主導の下、スコップやロープを使って馬車を泥濘から出し、そしてあらかじめ馬車に積んでいた長い木の板をレール代わりとしその上を通過させていったのだが、あまりに沼地の土がゆるんでいたため、一向に進む速度は上がらなかった。疲労ばかりが蓄積していき、このままでは埒が明かないので地面が安定するのを待ったほうがいいと判断した一行は一晩をここで過ごすことになったのだった。
 今、レインフォルスとクライフが見張りをし、他のものたちはテントの中で睡眠をとっている。周囲にはローシュの戦場工作によるトラップやカモフラージュが施されており、木と木の間に張られた糸に触れるとトラップが発動する仕組みになっている。出発する前にあらかじめ決めた夜営のローテーションにより、夕方はレフェツィアとローシュ、夜はレインフォルスとクライフ、朝は登志樹とフラガが夜警をすることになっていた。
 レインフォルスが思わずこみ上げてきたあくびを噛みころした。どれくらいの時間が過ぎただろう。テントの設置後、十分な休憩を取る間もなく、すぐに夜警を始めたため、疲労がたまり、また雨のせいで冷えた空気がそれに拍車をかけていた。
 突然、レインフォルスの足に何か冷たいものが触れた。その感触に何かを感じたものの、疲労がピークに達しようとしていたこともあり、特に気にかけず警戒を続ける。更に数秒後、左腕に何か細長い、冷たい感触に疲れた眼で視線をむけた。レインフォルスが息をのんだ。すぐ目と鼻の先に待ち構えていたのは自分の頭を丸ごと飲み込んでしまいそうなほど巨大な口を開けた蛇だった。腰にさしたロングソードを抜こうと右手を動かすがそれより早く蛇の大口が襲いかかった。
 鮮血が舞い、湿った地面が赤く染まった。正面にはフラガが立っており、その足元には首の辺りから切断された蛇の頭が落ちている。フラガのダブルアタックとポイントアタックEXが蛇の身体を二つに切り裂いたのだ。
「上です!!」
 フラガの叫びにレインフォルスが視線を上げる。
「ちっ‥‥モンスターだ!!」
 その声にテントの中にいたレフェツィアたちが外へと飛び出した。彼女たちを待っていたのは木々の上から自分たちを凝視する、いくつもの赤い双眸だった。テントから出た彼女たちの姿をみとめた途端に木々の上からモンスターたちが飛び降り一斉に襲いかかってきた。
 突然の攻撃に一行は防戦を強いられていた。疲労に加え、これだけの暗闇だ。木々の間から漏れ入る光以外に周囲を照らすものがないため、相手の動きどころか動きすら捉えることができない。
「登志樹さん!」
 駆け寄ってきたクライフの意図に気付き、ホーリーメイスを振り回す登志樹がローシュの後ろに下がり、インフラビジョンを唱えた。魔法の効果によって暗闇の中、攻撃してくるモンスターの姿が露わになる。白く長い毛皮に包まれた巨大な猿で棍棒のようなものをもっている。サスカッチだ。
 それを知らされたクライフがスクロールを広げた。この暗闇では満足に戦えない。今は倒すことよりもこの場を乗り切ることが第一だ。
「ライトニングサンダーボルト!」
 唱えたクライフの腕から伸びた一筋の雷光が闇を切り裂き、あたりが一瞬目を焼くような光に包まれる。それと共に耳を突きぬけ、頭を貫通するような甲高い音が夜の静寂を破り壊す。
 当然の光と音にサスカッチたちが怯えるように森の奥へと消えていった。
「‥‥助かりましたね。サスカッチのようなモンスターには激しい音や光が効果的かと思ってやったのですが、どうやら成功したようです」
「‥‥借りができたな」
 フラガの隣でレインフォルスがロングソードを収めた。それにこたえたフラガが地面に落ちた蛇の死骸へと視線を下ろす。
「キングコブラですね、かまれれば命はなかったでしょう。無事でよかったです」
「皆、ちょっと来て!」
 レフェツィアの叫び声に全員が駆けつけた。彼女の足元には馬車を運んでいた馬がぴくりともせずに横たわっている。ローシュが腰をおろし、馬の首元を抱える。
「咬まれた跡があるな。どうやらさっきの蛇にやられたらしい」
 

 夜が明け、馬を失った一行はクライフのペットであるドンキー、駿馬とローシュのドンキーに馬車を引かせ、再び進行を開始した。雨は止んだものの、雨水を含み、湿った土が車輪を飲み込み、行く手を阻む。板をレール代わりに敷くだけではなく、時にクライフのアイスコフィンによって地面を凍らせ、道を作っていく。それでも、進む速度は一行に上がらず、未だに沼地を抜けるとこのないまま、とうとう昼を迎えた。
 休憩を取りながら、今後どうするかを一行は話し合った。このペースでは今日中に沼地を抜けることはできない。それに昨晩のサスカッチがいつまた襲ってくるかわからない。そこでローシュの提案により、安全なルートの確保、サスカッチたちに先手を打つために誰かが斥候として先に行くことになり、登志樹とレインフォルスがそれをすることになった。また登志樹の案で『水蜘蛛』と呼ばれるものを作り、それを足に装着する。なんでも天界の忍者が水や沼地の上でも自由に動けるようにと使用するものらしい。そして昼食を早めに取り終えた二人は、馬車を残して先へと進んでいった。
 少ししてから、残った四人は少しでも先に進もうと重たい腰を上げると突然、獣の唸り声が周囲に響き渡った。その声に上を見上げれば、何十匹というサスカッチの群れが頭上を覆っていた。二人が離れ、まだ一時間も経過していない。このタイミングに襲ってきたということは、おそらくサスカッチたちは昨晩から、ずっと近くで一行を見張っていたのだ。そして戦力が分散したこの好機を逃すことなく、一気に押し寄せたのだった。
 一匹のサスカッチが吠えた。それを合図にサスカッチたちが次々と樹を飛び降り、襲い掛かる。馬に跨るクライフ目がけて、2匹のサスカッチが突進し、その間にフラガが滑り込み攻撃を受け止めた。クライフの援護を受けながらフラガが戦闘を開始する中、馬車の側面ではユニコーンに乗ったレフェツィアへと3匹のサスカッチが襲い掛かった。とっさに身構えるレフェツィアをかばい、左腕のライトシールドで棍棒を受け止めつつ右腕のハンマーを振るうが泥に足をとられ、なんなく避けられてしまう。それはフラガも同じのようで、地面が泥だらけでここまで足場が悪いと思うように行動することができない。逆にサスカッチたちは隙をみては樹に登り、頭上から死角をついて側面や背後に回りこみ攻撃してくる。この状況では自分たちが圧倒的に不利だ。
「ええい、ちょこざいな!!」
 レフェツィアたちが馬車に背中を預け防戦する中、ローシュが馬車に積まれた荷物の上によじ登った。積まれた石の広さは四角で幅が5メートルはある。ゴーレムの体の素材となるというだけあって頑丈で、その上で少々暴れてもびくっともしない。ハンマーを片手に中心でどっしりと構えたローシュが吼えるように叫んだ。
「来い! 猿ども!!!」
 あえて身体をさらしたローシュへとサスカッチたちが木々から飛び降り群がった。怯むことなく振るわれるハンマーがその一匹一匹を殴り飛ばしていく。
「ローシュさん、あんまり無理しな‥‥」
 馬車の手すりに足を乗せ、顔だけを出したレフェツィアの目の前に殴り飛ばされた一匹のサスカッチが迫り、思わず顔をひっこめる。
「ケガをしたくないなら、頭をさげておれ!」
 馬車の周囲をサスカッチが囲み、このまま降りるのは危険と感じたレフェツィアが身体を伏せたまま、ローシュの足元に移動する。
 次々と断続的に襲い掛かってくるサスカッチの動きをレフェツィアのコアギュレイトが封じ、それをローシュが叩き伏せる。押し寄せるものを全てなぎ払っていくがその数は減ることはない。
「きりがないですね」
 肩で息をするフラガ。その背後でクライフが樹の上にいるひとまわり大きなサスカッチに目をむけた。この群れのボスだ。
「あれを倒さない限り、この戦いは終わりません」
 サスカッチは群れで行動するモンスターで、その群れには必ずボスが一匹存在する。それを倒せば、統率を失った群れは散り散りに逃げていく。しかし、足元は泥と沼地、相手は樹の上。接近することはもちろん、こう攻撃を受けては魔法で狙うこともできない。
 戦いは続き、四人の疲労が表に出始めていた。それを見たボスであるサスカッチがとどめと言わんばかりに吠えた。それに従って、周りのサスカッチたちも一斉に吠え、四人の頭上から襲い掛かろうと飛び降りる。
「ファイヤーボム!!」
 ボスのサスカッチがいた樹が爆発した。爆風に飛ばされた木の葉が火を乗せ、空中を舞い踊る。
「大丈夫か!?」
 ファイヤーボムの放たれた方を見ると、登志樹とレインフォルスの姿があった。
「いつまでたってもモンスターが出ないからこっちに戻ってみれば、こんなことになってるなんてな!」
 続いて2発目のファイヤーボムが地面に落ちたボスのサスカッチへ飛んだ。体の毛を火に焼かれ、怒りに燃えるサスカッチが登志樹のほうを睨みつける。
 上げたその顔面に、水蜘蛛によりすばやく間合いをつめたレインフォルスがロングソードを振り下ろした。顔面を切り裂かれ、悲鳴とともに後退しようとするとその足元をクライフのアイスコフィンが凍らせ、動きを止まらせる。下半身を凍らされ、もがくその胸をフラガの竜羽の剣が貫き、そのままサスカッチは息絶えた。
 ボスを失い、統率をなくした群れは我先にとその場を逃げていくのだった。


 かくして沼地を無事に抜けた一行は、宿泊予定だった街に到着すると夕方にも関わらず、すぐにやわらかいベッドに入り、睡眠をとった。そして、休息をとり回復した一行は輸送を再開、目的地の都市に確かに荷物を運び入れることに成功したのだった。