新人ゴーレム乗り育成計画(?)山岳編
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■ショートシナリオ
担当:紅白達磨
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月30日〜09月04日
リプレイ公開日:2008年09月07日
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●オープニング
●ピクニックに行こう♪(違
とある日の朝、いつも通り職場に出勤した新米ギルド職員、ビアンカ・フレーデル。
恒例である「おはようございまーす」の挨拶は「おはようご」で中断させられてしまった。
記念すべき出勤の第一歩目。ギルドの建物へと一歩を踏み出したビアンカに、無造作に突き出されたのは厚さ50cmくらいの書類の束だ。
「‥‥‥何ですか? 藪から棒に」
「ゴーレム工房からお前へのプレゼントだ。ありがたく受け取れ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ってどこへ行く?」
「すみません、体調が悪いので早退させて頂きます」
頭も下げずに帰宅しようとした首元を先輩職員が引っつかむと、そのまま猫でも引き摺るように中へと引っ張りいれた。
「早退もなにも今来たばかりだろうが。クビにするぞこら」
「そんな厄介なもの人に押し付けたくせに、よくそんなこと言えますね!」
「やかましい、どんな理由であれ一度引き受けた仕事は最後までやり通す。それがここの鉄則だろうが」
「そんな鉄則初めて聞いたんですけど!?」
自分のデスクに座らせられて目の前に、どんっと膨大な書類が姿を現した。見ただけでため息が100回くらい出て来そうだ。
背後には先輩職員、正面には書類の束。
‥‥‥‥‥国王様、私何かいけないことしましたか?
「訓練場所として幾つか候補地が挙がっているから、その中から選べとのことだ」
「えっ、私が決めていいんですか?」
「何だその嬉しそうな顔は。言っておくが、お前の采配次第で訓練の内容が大きく変わるんだからな。しっかりやれよ」
「‥‥それって、要するに何か起きたら私が責任取れってことですか」
先輩は無言。ただ、そっとビアンカの肩に手を添えた。
‥‥‥何ですか、その嬉しそうな顔は。
「俺は仕事に戻るからな。くれぐれも慎重に選ぶんだぞ」
去っていく先輩職員の背中をちらりと一瞥する。前回の教訓もあって、曖昧な返事は一切なしだ。
「‥‥‥‥仕事ねぇ」
仕事に戻ると言ったわりには、向かった方向が外に繋がるドアなのは気のせいだろうか。
真面目な先輩のことですから、もしかしたら外に仕事があるのかもしれませんね(あるわけないけど)
改めまして正面に向き直る。早朝といってもここは終始人で一杯だ。国中から依頼を頼みに大勢の人々が集まってくるのだから、それも当然なんだろうが。
耳に聞こえてくる喧騒を他所に、ビアンカは目を閉じる。
一回深呼吸。
それから大きく息を吸い込んだ彼女は‥‥
「えいっ」
っという掛け声と共に、適当に一枚の書類を掴み取った。
「よし、これで候補地決定〜っと♪」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
こうして、新人ゴーレム乗り育成計画第二弾が開始された。
『新人ゴーレム乗り育成計画』の内容
募集対象
1、訓練受講者(誰でも可)
2、教官(ゴーレム操縦技術『達人以上』)
(ゴーレム乗り以外は参加不可)
訓練場所
メイディアの北にある山村と山岳地帯
訓練内容
1、フロートシップ内でゴーレムに関する質問応答
2、土砂崩れによって崩壊した建物の瓦礫、並びに土砂の村外への運搬
3、山岳奥地にいるゴブリン退治
・熟練ゴーレム乗りが教官として5名参加
・質問がある場合は最初の『ゴーレムに関する質問対応』で受け付けるので遠慮なく聞くこと(初歩的内容大歓迎)
・ゴブリンの数は凡そ20。群をなして山岳奥地の洞窟に住み着いているとのこと
・教官5名はモナルコスに搭乗、運搬訓練にはフォローとして参加するが、ゴブリン退治には参加しない。追従もしないで参加者だけで退治すること
●リプレイ本文
●挨拶
人という要素で構成された二つの波が通りの上で交わっている。余りの多さに時折人と人がぶつかって、それでも目的地目指して歩く。肩が当たった所が痛い。わざとじゃないとはいえ、ちゃんと謝るのが礼儀。世界が違うからって関係ないだろう。
痛覚のない建物は、そんなこと知ったこっちゃない。今後も経験することはないのも確実だが。
ふらふらとした足取りでやっとギルドに到着したシファ・ジェンマ(ec4322)は、扉を開け、ロビーを進む。
「さあて、目指せエース! ‥‥のまえに訓練くんれんっと。えーとすまん、俺はこの通りロボ、じゃねェゴーレム訓練がマジしてェんだ。今回も先輩パイロットの技術を目の当たりにしながら、たっぷりテクを盗ませてもらうぜ!」
元気溌剌の村雨紫狼(ec5159)が大きく上半身を回して、シファを見た。最初は人が多くて判らなかったが、彼女の存在に気付いた伊藤登志樹(eb4077)が腰を上げた。
「よう、何日ぶりだ?」
「元気そうで何よりです、伊藤さん」
「白金銀と申します。宜しく」
握手を交わしている二人に、白金銀(eb8388)が礼儀正しく頭を下げた。
白金とも柔らかな握手を交わし、挨拶を終える。
「そちらの方は?」
「布津という。人型のゴーレムに乗るのは砂漠の実験以来だな。乗ると乗らないのでは感覚が違いすぎるからな。今回は生徒として参加して、いろいろ確認させてもらう。貴方も同じ訓練生か?」
「私は教官として参加させて頂くつもりです。何かありましたらフォローさせていただきます」
そりゃあ、ありがたい、と布津香哉(eb8378)が腰に手を当てて頬を緩めた。軽い口調だが、その表情は見る人に好感を与える。
互いに軽い挨拶をしてから四人が受付所の方に足を運ぶと、そこにいたのは。鷹栖冴子(ec5196)。
「いや〜ビアンカ! あんた見どころあるじゃないかい。 さっそく、あたいの提案どうりの訓練を仕立ててくれるとはね! まだまだゴーレムって奴の挙動のクセに慣れちゃいなが、こりゃあ手は抜けないねェ」
受け付け越しにビアンカと陽気な会話をしている。ざわざわと騒がしいロビー内でもわかる、それくらいに耳に届く。
彼らか見て左側の椅子、依頼受講者の集合を待っていた龍堂光太(eb4257)が隣の椅子に掛けていた上着を手に取り、肩にかけた。お互いに依頼参加者であることを確認し、訓練生と教官どちらかと尋ねられると、龍堂は教官側だと答える。
「人型ゴーレムに乗るのは随分と久しぶりのような気がする。空を自由に飛ぶのも気持ちいいけれど、しっかりと大地を踏みしめる安心感もまた捨てがたい。将来の進路として教導隊も考えているから、教官としての経験を積んでいくつもりだ」
彼とは反対側にいたのは茶色の髪の女性。おっとりとした雰囲気はその和やかな色と相成って空気を撫でる。
「宜しくお願いしますね。私は教官役として参加予定です」
微笑みつつ手を差し出すベアトリーセ・メーベルト(ec1201)。春を思わせる和やかな仕草だった。
●質問応答
訓練受講者が集まったのを確認して、冒険者たちはビアンカに連れられてメイディアの兵舎に設けられた会議室に移動した。二列に並べられた椅子に座ると、その後ろに5人の屈強な男たちが並ぶ。この訓練の教官たちだ。
「えっと、それじゃあこれから質問時間にします。質問がある方は挙手を‥‥」
ビアンカが言うなり、訓練生たちの手が勢いよく上げられ、口々に質問内容を発し始めた。前回もそうだったが、予想以上の質問の多さで、それに慣れてしまっている自分がなんだか可笑しかった。
「えっとですね、そう、案の定質問が多いので、まとめて受け答えさせて頂きまっす」
Q:ゴーレムの感覚器はどうなっているかということ。つまり何処の部分で見たり聞いたりしているか。裏を返せば何処を潰せばいいのか、ということになるんだけど
A:ゴーレムの目の位置をもとに、人間と同じ視界が制御胞全面に映し出されることになります。よって、頭(目)を潰すと、ハッチを開けた状態にしなくては周辺の目視が出来ません。この状態は搭乗者が外から見えるため大変危険であると同時に、視界が狭まるので側面からの攻撃への対処が遅れます。
音は風信器を通した会話以外は、旅客馬車や部屋と同じでなんとなく聞こえるレベルです。
Q:ゴーレムへの装備は弓矢ではなく、短剣や槍を装備して投擲による攻撃で戦ってみたいと思います。投擲攻撃を主体としたいので短剣は複数本装備。動きが邪魔にならないように且つ多く装備するには盾の裏や腰周りに装備するのはどうであろうか?
A:ゴーレム用の投擲可能な短剣が準備されていないと、投擲攻撃そのものが実行困難です。基本装備では、投擲用短剣はありません。現物があれば、盾の裏につけたり、腰周りに剣帯を追加することで装備は可能です。
Q:ゴーレム用のスコップやつるはし、もっこや背負子等がないか?
A:スコップ、つるはしに似たものはあるでしょうが、もっこや背負子はありません。
Q:ゴーレム用スコップやつるはし、鉄球は出来るが具体的な費用や日数はどの程度か? 併せて、ゴーレムが背中に背負う事の出来る運搬用カゴも作りたい。
A:ゴーレム用のハンマーが50〜60Gくらいのようです。スコップ、つるはしも同額から2割増しくらい。鉄球は大きさによりますが、100Gはかかる見込みです。
日程はスコップ、つるはしは材料が揃っていて、鍛冶師がいれば5日前後。鉄球は最低2週間くらい見たほうがいいでしょう。大きいものほど日数が掛かります。
モーニングスターはメイの工房には存在します。
かごは素材を何にするかで、素材集めが必要か、工房に材料があるかと状況が変わるので使用目的によりけりです。
いずれも頼めば無条件で作ってくれるとは限りません。
Q:F5型輸送艦の輸送部分を改良して、金属ゴーレムやグライダー、チャリオットや人馬を積める様に出来ませんか?
A:日数をかければ可能です。
ただし輸送専門船であっても人馬、特に馬とゴーレムを一緒の船体で運ぶようにするのは、輸送数がかなり限られます。それぞれ専門で運ぶ船体を二隻用意したほうが間違いありません。
Q:製造過程でゴーレム魔法が付与されているので、素手での攻撃は魔法の武器と同じ扱い?
A:殴る蹴る等のゴーレムの直接攻撃は魔法の武器同様に、そうしたものしか効果がない相手にも有効です。
Q:フロートシップを小型化した飛行機関を作ることが出来るか?
A:理論上は可能。小型化すれば速度が上がるというものでもないので、何を目的にする機体か定めないとそれに適した形での作成が出来ません。小型船より大型船での輸送量増加が必要だったので、各国ゴーレム工房では大型化に力が注がれる流れになったらしいです。
Q:ゴーレムでのオフシフトは可能でしょうか?
A:可能です。
COでゴーレムで使用出来ないものはないようですが、COによっては効果的ではない可能性があります。
Q:ゴーレム同士の場合、ホールドやスタンアタックはどこを狙っているの?
A:ホールドは人体に準じます。
スタンアタックは本来ゴーレムには効果がありませんが、操縦者を狙うことが出来れば効果があるかもしれません。もちろんこれには相応の技能とCOも必要になります。
ゴーレム搭乗者の腕が良く、COを的確に使えれば、ゴーレムの動きがいつも以上に良く見えることがあるそうです。
●土砂の運搬
『力を入れ過ぎず』
『‥‥い、入れすぎず』
『抜きすぎず』
『抜きすぎず‥‥』
『精神を集中して、自分がゴーレムと一体化している、そういうイメージを保って下さい』
『イ、イメージな。‥‥‥‥‥‥‥よし!!!』
ガシャンッ、ゴロゴロゴロゴロッ‥‥‥‥
土砂によって倒壊した建物の瓦礫。その一つが悲しくも地面の上を転がっていく。
『‥‥‥‥‥くっそぉ、運搬作業なんて嫌いだちくしょー』
『ゴーレムの操縦とはいかに騎体と自分の動きをなじませるのか、それが第一です。作業自体は単純ですから、実践あるのみ。さぁ、頑張って下さい』
3、4mの大きな瓦礫を運んで、その数はもう10個にもなるが、それでもなんだかうまくいかない。それくらい物を運ぶという作業は難しい。
『なぁ、龍堂そろそろ休憩しないか。もうかれこれ2時間近くぶっ続けで作業しっぱなしだ』
『戦場では矢も尽き、刃も折れ、騎体がボロボロになってしまいます。きついからと言って、そこで止めえるのは実戦ではないから。現に嘗て戦場で、同じ隊に所属していた一騎の鎧騎士が一瞬の隙を衝かれ恐獣に食べられてしまったということが‥‥』
『だぁ〜〜!! わかったわかったよ! やるからそういう怖い話はやめてくれ!』
『口よりも手を動かす! 気絶まで頑張りましょう!』
『い、いや、それはちょっと‥‥』
『手を動かす!』
『‥‥‥‥‥‥龍堂のやつ、見かけによらずスパルタだなぁ』
南無‥‥と伊藤の意識に反応したゴーレムが村雨に向かって合掌した。
『辛い経験をした方が精神面が鍛えられますし、実戦でも役に立てます。そういう意味では龍堂さんのやり方が一番効率的なのかもしれませんねぇ』
『‥‥まっ、そうだろうけど』
俺は絶対勘弁だな、ベアトリーセにだけ聞こえるよう呟くと彼女は無言。でも、否定もしなかったも事実だ。
『鷹栖さん、いきますよ。いいですか?』
『あ〜、ちょっと待ってくれるかい』
ゴーレム土木作業用の兵器ではない。地球のような便利な代用物もない。
『(クレーンやショベルカーなんてものがあればねぇ)』
取っ手を外し、その上に土砂を乗せた大盾を挟んで跪くのは白金と鷹栖。ろくな運搬道具が無かったので、仕方なく大盾を代用品として使用しているのだ。
『いずれ土木作業専門で使いたいさね。人足や馬を使ったほうが早いのは理屈さね。でも、5mの人型重機だと考えれば圧倒的に作業もし易くなる。人足や馬じゃ、5mの高みから物を運んだり吊り下げたり出来ないだろ。 だからあたいたちの世界じゃ、クレーンやショベルカーなんてものが考案されたんだ。設計出来る人間と鍛冶屋、軍資金さえ回してもらえれば、あたいが木工細工ででっちあげてもいいさね』
『ゴーレムの平和利用ですか』
『いつか土木作業専門ゴーレムとかが出来ればねぇ』
バの猛烈な侵攻の真っ最中である現在、鷹栖のような考えを持つのは非常に少ない。それが現実だ。だが、このような考えが、いつか人々の間で受けいれられ、それが当然であると思える日が訪れる。そう願うのは人として決しておかしなことではないはずだ。
●ゴブリン退治
訓練の最後は山岳地帯に住み着いたゴブリン退治だったが、こちらは問題なく進んでいた。
「山岳地帯で戦う場合ですが、山地を行軍する時は谷沿いに進み、 視界の開けた高所に布陣して相手を攻撃する、というのが経験上での戦法です」
シファの言葉を倣い、訓練受講者たちは山岳奥地へと進軍。一部の助言に従い、特別に歩兵隊が編成されてゴーレム班が撃ち漏らしたゴブリンを討伐することになった。
大きな鉛色の光沢が昼間の日差しに反射して輝く。大地に突き立てても割れることはほとんどないが、鉄や鋼など多く含む鉱山付近の地盤ならば話は別だ。尤も、この山岳地帯でそんなことはないが。
『そっちにいったぞ!!』
伊藤の叫び声に反応して、ベアトリーセと白金の二騎が俊敏に行動する。
木々という遮蔽物の多い山では、ゴーレムの動きは制限される。布津が短剣を投げつけるものの、巨大なゴーレムでは木々が邪魔になって満足な動きが出来ない。腕を大きく回そうとしても木々に当たるのがその良い例で、他のものたちも非常に苦戦していた。白金やベアトリーセのような手斧や小剣が有効だが、それでも平地に比べれば、やりにくいと言わざるをえない。
『成程、山岳地帯を選んだのはこれが目的か』
『ああ、やりにくいことこの上ない‥‥ってな!』
棍棒系を希望していた伊藤だったが、持ってきていた武器の中にそれがなかったため、渋々槍を使っている。しかし、こうも長いと邪魔で仕方がない。
ゴブリンという小柄な敵を相手に、ゴーレム班の戦いは約1時間に渡って続けられた。教官である冒険者たちも協力して撃破に成功したものの、平地以外での行動がこうも厄介とは正直恐れ入る。
何匹が洞穴の中に逃げていったのを確認して、龍堂が入り口を粉砕した。これで山村が襲われることはないだろう。
『リバス砦奪還でも苦労しましたが、やはりこういう地形では苦労しますね』
『リバス砦?』
『ティラノサウルス・レックスと対決したことがあるんですよ。かなりの強敵で苦労したものですよ』
その言葉には他のものたちも耳を疑った。ディラノサウルス・レックスといえば、恐獣の中でも最強の部類に属する最悪のもの。あれと戦ったことがあるものは、そう多くはないだろう。
『‥‥‥いつか俺も、そういうのと戦ってみたいなぁ』
『そのためには訓練あるのみです』
『‥‥‥ははっ、そうだな』
熟練のゴーレム乗りである龍堂の言葉に、村雨は半笑いしか浮かべることが出来なかった。