新人ゴーレム乗り育成計画(?)砂漠編
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■ショートシナリオ
担当:紅白達磨
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月12日〜09月17日
リプレイ公開日:2008年09月21日
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●オープニング
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ふう、これでよし」
スパーンッ!
と、人が見てたら『大丈夫』って思わず声をかけちゃうくらいの気持ちいい音が室内に響いた。
「いっつ〜〜〜〜〜〜‥‥いきなり何ですか!?」
「それは俺の台詞だ。何だそれは?」
首都メイディア。そしてここは『悩みすっきり夜もすっきり』という格言がある(ビアンカの主観です)冒険者ギルド。
毎度お馴染み、というにはまだ早すぎるが、デスクを前に頭を押さえているのは新人職員ビアンカ・フレーデル、その背後から容赦ない書類束による一撃を加えたのは熟練の男性職員だ。
「‥‥‥‥見てわかりませんか?」
「そういう意味じゃない。俺はそれで何をするつもりなのかと聞いている」
ビアンカのデスク置いてあるのは一本のペンとそれを中心に一定の90度の角度ごとに広げられた四枚の書類。ちなみにペンの尖端には倒れないようにとビアンカの人差し指が置いてある。
「くじにするか、的当てにするか、ペン倒しにするかで迷ったんですけど、これが一番公平でいいかなぁって思って‥‥」
スパーンッ!!
と、先ほどのものに比べて、これまた二倍くらい気持ちいい音が鳴った。
「真面目にやれ」
「真面目です!」
スパーンッ!!!
ビアンカ曰く『今のは三倍くらいの良い音がした(泣)』
「地理や移動距離、それにゴーレム工房の要求などを確認した上で総合的に適切と思われる場所を探せ。前も言ったが資料も見ずに訓練地決めるのは止めろ」
「だってぇ、資料とか見ても何が書いてあるのかさっぱりなんですもん」
「判らないことがあれば調べればいいだろう」
「調べ方がわかりません」
四度振り上げられた書類の束が振り下ろされるよりも数秒早く、ビアンカが防御姿勢を取った。やや残念そうな顔をしながら、先輩職員が腕を下ろす。
「書類関係ならあっちに纏めて有る、配属された時にそう言ったはずだが」
「え、そうでしたっけ?」
漏れた本音が先輩の額に青筋を浮かび上がらせる。
そういえば数日前も言っていたような気が‥‥。気のせい、じゃないよね(たぶん)。
「これで問題は解決だな。しっかり頑張れよ」
「あのぉ、先輩、今回だけでいいから手伝って‥‥」
「頑張れよ」
「手伝って‥‥」
「頑張れよ!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はぁい」
「声が小さい!」
「了解しました。隊長!」
スパーンッ!!!!!!!!!!
最初の10倍くらいの威力とスピードを込めた渾身の一撃がビアンカの脳天に炸裂した。猛烈な痛みに襲われて、デスクの上に頭を乗せてばたばたともがき苦しんでいる様は哀愁を誘ってしまう。
「もう、ちょっとしたお茶目な冗談じゃん。すこしくらいのってくれたっていいのにさぁ」
後ろに目でもあればいいのになぁ。そうすれば、先輩が後ろに来た瞬間に逃げられるのに。いや、それよりも反射神経も鍛えたほうがいいのかな。ん、盾とかを用意していた方が‥‥。
とかなんとか、真面目なのやらふざけているのやら、何とも微妙な思考を繰り広げながらビアンカが上半身を起こして、そこであることに気がついた。
ペンが倒れている。どうやら先ほど頭を抱えて伏せた時の震動で、倒れてしまったらしい。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
右よし、左よし。
もう一回右よし。
「‥‥‥‥‥‥決定〜♪」
こうして新人ゴーレム乗り育成計画(?)第三弾が開始された。
『新人ゴーレム乗り育成計画』の内容
募集対象
・訓練受講者(誰でも可)
(ゴーレム乗り以外は参加不可)
訓練場所
メイディアから西に数十キロの地点に広がる砂漠地帯
訓練内容
1、フロートシップ内でゴーレムに関する質問応答
2、教官騎との模擬戦(一対一、教官騎の武器は剣と盾。訓練は真昼に行う)
3、砂漠に巣くう魔物との実戦
注意事項
・熟練ゴーレム乗りが教官として5名参加
・質問がある場合は最初の『ゴーレムに関する質問対応』で受け付けるので遠慮なく聞くこと(初歩的内容大歓迎)
・教官5名はモナルコスに搭乗
・魔物退治には参加しない。追従もしないので参加者だけで退治すること
●リプレイ本文
●離陸
暑さも大分収まり、温暖な気候が世界を流れている。
それをしきりに裂く人、人、人。スープのように大地に広がった空気は、何千回と切られてもなくなることはない。当然のことだが。
積み込み作業に追われ、フロートシップ後部に群がる人だかりとは別に、こちらは艦内部。
「結構な数が乗り込むんだなぁ」
自分たちと行き交う作業員を数えていたのだが、これでもう20人目。艦は綺麗に清掃されているようで埃一つたつ気配はない。
感心する伊藤登志樹(eb4077)に、冒険者ギルド代表、『新人ゴーレム乗り育成計画』担当者ビアンカ・フレーデルが発展途上(本人曰く)の胸を得意げに張った。
「このくらいまだまだ序の口ですよ。船員に兵士たちを加えたら100人を超すなんてよくあることなんですから」
「‥‥と先輩方が言っていた、ですか?」
真後ろ、ビアンカの肩から顔だけを覗かせたベアトリーセ・メーベルト(ec1201)がこれまた楽しそうに目を細める。ゴーレム関連のこの任務に携わってまた二ヶ月も経たないビアンカ。経緯はどうあれ担当者である以上、勉強した、もといさせられたのでちょっとばっかしかっこつけたかったのだが、本物には叶わないようで。
「あ、あはは‥‥」
「おいおい、もっと勉強しとけよな‥‥なんて新人の俺が言えるわけないか。お互い精進あるのみだぜ」
ちょっぴり寂しそうに村雨紫狼(ec5159)が言い、通路の示すままに足を勧めていく。
「あ、そういや今回の依頼に関係しそうなやつって、言われてたやつ以外にないのか? あれば到着前に見ときたいんだけど」
何しろ字が読めないからよ、と付け加えビアンカが慌てて手元の資料を弄るが、当然そこに都合の良く彼女の望むものなどあるわけがない。持ってきていないのだから当たり前なのだが。
こういう事態は想定していなかったと、困り果てるビアンカに教官役として参加するシファ・ジェンマ(ec4322)がフォローを入れた。
「砂漠でのゴーレムの使用例はほとんどありませんからね。大規模作戦のものはあるかもしれませんけど、参考になるとはとても思えません」
この訓練が開始されて以来、新人と大して変わらないビアンカのフォローを行ってきたシファ。不本意かもしれないが、すっかり板が付いたものだと感心してしまう。
「しゃーねぇか。俺のキャラじゃねーけど、トップガン目指してガンバろーじゃねーの」
気合一声、改めて大きく一歩を踏み出そうとしたところで不意に足元が揺れた。地震かと眉を顰める村雨の隣でアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)が冷静に答えた。
「出撃のようですね」
「皆さん、奥の会議室へお進みください。到着後すぐに訓練開始となりますので、その時までごゆっくり御寛ぎ下さい」
食事の面は今回から国側が負担してくれることになった。さすがに砂漠ということで、訓練用のドリンクも用意してくれているらしい。逆にいえば、それだけ今回の訓練がハードなものになるということだが。
●模擬戦
『あっっっつぅ〜〜〜〜〜〜〜、何だよこりゃあ くっそ、エアコンが有ればなァ』
『話かけんな新人。余計暑くなる』
『無駄口を叩いている暇があるのか!』
制御胞内に怒りに満ちた教官の声が弾け、教官騎の剣を村雨と伊藤がぎりぎりのところで辛うじて受け止めた。体中から噴き出した滝のような汗に、冷や汗を混じらせると脇に置いてあったドリンクがシートから落ちる音がした。それの意味している所を理解するよりも早く、二人の体をハッチ越しに凄まじい震動が襲った。
『足元に気を配れと何度言ったら分かる。貴様らわざとやっているのではないだろうな?』
『この野郎、好き勝手言ってくれるな』
足元にひっくりかえっているドリンクを拾い上げながら、伊藤がシートに座り直す。生憎負けっぱなしで終われる程繊細な性格はしていない。何度も転ばされてきた恨みを晴らすべく、すぐさま立ち上がると相手の脳天目掛けて斧を振り下ろした。
『ほぅ、やっと慣れてきたか!?』
『無駄口叩いている暇はねぇぜ!!』
平野とは違い、摩擦の少ない砂地では重量数トンを誇るゴーレムは容易にバランスを崩してしまう。そうならないためには、高い操縦技術が必須となる。それに見合う技術を携えた伊藤が、教官を押さえ込むのにそれほどの時間は掛からなかった。
人生でも一、二を争うたんこぶを脳天に感じながら、村雨が伊藤から数分送れてやっと操縦席に到着した。人に見られていたなら、笑われること必至の格好も、ゴーレム内に居たから幸運にも他人の目を逃れていた。
他の訓練生たちは順調に砂漠戦の経験を積んでいっている。
こちらが一向に上達しないのに、だ。
左の砂丘頂上ではベアトリーセ騎が模擬戦を展開していた。伊藤同様、慣れない地盤に困惑していた彼女だったが、高い操縦技術と以前の依頼経験も重なって高い順応力を見せ、今では教官騎3騎を同時に相手にするまでになっていた。
『村雨さん、次は私がお相手しましょう』
『お、おうよ。嬉しい限りだぜ‥‥』
『私はほとんど攻撃しません。好きに打ち込んできてください』
『好きに、いいのか?』
『体力や戦闘可能時間の計算も訓練の内ですから。それに一朝一夕で上達するほど、ゴーレムの操縦は簡単ではありません。ましてやこんな砂漠地帯では当然です。まずはこの緩い砂地になれることから始めましょう』
平地でのゴーレム稼働時間は平均で一時間半から二時間。訓練が開始されてまだ一時間も経過していないのに、村雨の息は上がっていた。灼熱の熱気が制御胞内部に篭って体力を異常にすり減らしている。足元の悪さがそれを更に悪化させている。
『‥‥それは分かってるんだけどよぉ』
子供のように拗ねた目線がついっと横に向けられると、お手本のような動きを見せるゴーレムが目の中に入ってくる。
教官も砂漠を完全に制覇しているわけではない。騎体の反射速度を計算しつつ、最小限の動作で攻撃を回避していく姿は本来モナルコスでは有り得ないもの。距離を狭めてくる騎体は槍で弾き飛ばし、あくまで防御や反撃を重視することで肉体への負担を削減させていた。
模擬戦とはいえ、3騎で負けてしまっては国の威信に関わる。訓練も忘れて本気で仕掛けてくる教官たちを前に、ベアトリーセは互角以上の戦いを見せる。肩口目掛けて放たれた刃を、槍で母体を吹き飛ばして回避、両側から突撃してきた剣は体を屈めてやり過ごすと上半身を旋回、風車のように回転した槍の柄は二つのゴーレムを砂丘の麓へと叩き落したのだった。
『ありえねーだろ、あの動き。オリンピックでも優勝するんじゃねぇか』
『えっと‥‥おりんぴっくとかはよく判りませんけど、彼女も血の滲むような努力をしてあれほどの力を獲得したんです。村雨さんも努力あるのみですよ』
『ああ‥‥やるっきゃねぇか!』
それから数分後、日差しを防げる簡易避難(?)テントで休憩。
茹だるような猛暑に頭から水をぶちまけるが、あまりの熱に実際は水じゃなくてお湯になっていたりする。地獄に仏と思っていたものまで自分を苦しめる存在になっていたことに、更に大きなため息が出た。
地盤が悪いことから、フロートシップは砂漠付近の街で待機している。勿論ゴーレムを置いていくわけにはいかないから、訓練終了後は街まで操縦して持っていかなくてはならない。そう考えるとここが本当の地獄ではないのかと思えてならなかった。
シファが持参したドリンクを各自に配っていく。腰を下ろしていた伊藤が教官の顎下を眺めた。
「なぁ、何でそんなにぴんぴんしてるんだ?」
「純粋に体力の差だ。操縦技術ではお前に劣るかもしれんが、日々激しい訓練をこなしている我々の方が肉体的にタフである、それだけの話だ」
「なるほどな」
「休憩終了だ。もう一時間ほど訓練を行った後、街に帰還する。気絶したやつは砂漠に埋めていくから、そのつもりでいろ」
「‥‥鬼だな」
「いっそのこと気絶した方が楽に思えますね」
砂にくっついて離れようとしないお尻を無理矢理引き剥がして立ち上がる。そんな中、いつまで立っても立ち上がらない村雨を、シファが覗き込んだ
「村雨さん?」
「‥‥‥‥‥‥気絶してるな」
「‥‥埋めていきます?」
「‥‥」
にんまりと笑うベアトリーセに、教官は無表情しか浮かべることが出来なかった。
●魔物退治
十分な休息を取った後、冒険者たちは教官たちの見送りを受けながら、街を出発した。
時は夜。
目指すは砂漠地帯中心部。
狙うはそこに巣くう凶悪な魔物たちだ。
模擬戦は昼間、夜間に砂漠での魔物退治という冒険者達の案が取り入れられていた。
‥‥いたのだが。
『新米ぃ〜! とにかく確実に攻撃を叩き込む事に集中しろ。援護・フォローは、こっちで引き受ける! デカ虫野郎をブッチめろぉぉぉ!!』
『りょ、りょうかい!!』
村雨騎の獲物が風を切り裂き、甲殻を打ち砕く。その後魔物の悲鳴が聞けたのは数秒のみ。
『う』
それはつまり‥‥。
『わぁ〜〜〜〜〜!!!!』
『し、新入り!?』
『シファさん!!』
『了解です!』
ベアトリーセ騎が反動を受けたゴムのようにジャイアントスコーピオンへと襲い掛かり、動きを封じにかかる。その間にシファ吹き飛ばされた村雨の救助へと向かった。
『大丈夫ですか? 村雨さん』
『いや、あんまり大丈夫じゃないかも』
情けない声を聞いてシファがほっと胸を撫で下ろした。これだけ無駄口を叩ければ、大丈夫だろう。
体を支えられながら、ようやく村雨が騎体を持ち上げたころには、既に戦闘は終結していた。だがこれでやっと魔物はニ匹目。残るのはジャイアントスコーピオン1匹とサンドウォームが1匹だ。
魔物退治は順調に進んでいなかった。砂漠というなれない場所での戦闘、視野の悪さ、予想以上の砂漠の広さ、極寒という天然の障害。あらゆるマイナス要素が複雑に絡み合い、魔物退治を遅らせている。結構な時間が経過し、冒険者たちの体力が限界に近づいていたにも関わらず、だ。
『さ、さすがにもう限界だな。もう帰るしかないんじゃないか?』
『‥‥そうですね』
不本意ですが、とシファが制御胞の中で肩を落とした。口から漏れる冷たい息が体力の現象を自覚させる。氷のように冷えた指先は硬く、騎体を動かす度に痺れにも似た痛みが走っていた。
『仕方、ありませんね。村雨さん、動けますか?』
『こ、これ、くらい。なんでも、ないっ、ぜ』
それぞれに寒さ対策を練っては来たが、時間が経てばそれも効果は薄れていく。昼間の灼熱同様に、極寒という劣悪な気候は冒険者たちの集中力を奪い取り、稼動時間を大幅に減少させている。新人の村雨の場合、それが顕著に現れていた。
話し合った結果、任務では4匹の魔物の撃破が目標だったが、これ以上は危険と判断して一行は帰路に着く。村雨だけではない、他のものたちも体力の限界だったからだ。
唯一の幸運、といえるかは甚だ疑わしいが、帰路途中、ゴーレムの足音に引かれてサンドウォームがやってきたこと。
伊藤、ベアトリーセ、シファが村雨を庇うようにそれぞれに牽制。地中という真下から攻撃を仕掛けてくるサンドウォームに、少しずつダメージを仕掛けいき、最後は村雨の攻撃で止めを刺した。
「――――――――――――――――――――!!!」
耳に聞き取れない声が聞こえてきた気がした。
ぼこぼこと地面の砂が浮き上がるのは見える。
盾を構えたシファへと、真正面から飛び込んできた魔物の攻撃をあえて受け止めて体ごと動きを封じ込める。もがき苦しむサンドウォームへと伊藤が斧を一撃叩き込み、それを合図に魔物がシファを強引に引き離して大地の上へと転がった。
『もらった!!!』
反応していたサンドウォームが体勢を整えて、細長い胴体で攻撃してくる。
しかしベアトリーセのフェイントアタックがそこで炸裂。その動きに惑わされた魔物は一瞬だけ隙が生じ、止まってしまう。
『村雨さん!!』
『い、いよっしゃ!!』
胴体の半ばをベアトリーセの槍が貫き、村雨の得物が魔物の頭を打ち砕く。息絶えたサンドウォームの体が、虚しくも極寒の砂漠の上へと零れ落ちたのだった。
「‥‥‥‥‥さっきのは」
ベアトリーセが一人ゆっくりと指先を動かした。
訓練一日目に質問応答があり、その際彼女の質問は行ったのだが、工房の守秘義務に反するとのことで十分な回答は得られなかった。
だが、今のフェイントアタックは通常のモナルコスの性能を超えて確実に動いていたように思う。今までにもモナルコスを動かしてきたことがあったが、それよりも遥かに良い動きを見せた。自分が疑問に抱いていたことは、正しかったのだと実感する。
かくして訓練は終了した。
魔物退治は完了することは出来なかったが、それも砂漠に脅威さを知ることが出来たと思えば安いものかもしれない。砂漠においてゴーレムで行動することはそう簡単なことではないということだ。しかし当然だが、得られたものもある。これを教訓として活かしていくことが重要なのだ。
「お疲れ様でした。次は‥‥」
そこまで言ってビアンカは言葉を濁した。
これも当然だが、次の訓練地がどこかはわからない。それもそのはず。彼女がどのように訓練地を選んでいるのかを思い出してもらいたい。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥次は、どこでしょうね」
それこそまさに『神のみぞ知る』だ。