【神器争奪戦】天上の系譜

■イベントシナリオ


担当:紅白達磨

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:20人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月08日〜01月08日

リプレイ公開日:2009年01月15日

●オープニング


 ジ・アース、アトランティス。
 異なる次元に存在する二つの世界。
 神と精霊の加護の元、古き時代より続いてきた人の歴史。
 その存在を破壊すべき現れた混沌と地獄からの軍勢。
 震える人々の嘆きは天を衝き、大地を腐らせるが如く、邪悪な者たちの息吹は今この瞬間も二つの世界を飲み込み続けている。
 永久の闇の中に浮かび上がった一縷の光明。
 深き精霊と古の人々の叡智が創りだした、その名は――――




「『マステア』?」
「左様。この金属板にはそのように記述されております」
 精霊と竜が守護せし世界、アトランティス。
 大海に浮かぶアプト大陸、その中央を一文字に両断する山脈に、人はアスタリアという御名を授けた。
 その麓に鬱蒼と広がる古代から存在し続ける『太古の森』。
「『我々の声を絶やすことなかれ。
 舞い降りし災厄を打ち払うために。
 黄昏の闇と血肉の骨から、我らを護り給え。
 古き時代から紡ぎ、我らは叫ぶ。
 あらん限りの悪を為すがいい。今日なる未来を、わがものと言うのみ」
 つらつらと金属板に刻まれた文様を解読していくのは、深いローブを身に纏った女性。名はソウコ・アンティリット。カオスの地に関しては右に出るものがいないと謳われるほどの考古学者である。


 数週間前、カオスの地定期偵察艦よりある報告がなされた。
 それは地方からやがて首都メイディアに伝わり、国王の耳に入ることとなった。
 『古の森に異変有り』、との情報。
 これまで古の森上空は空を飛ぶ恐獣たちに支配され、内部調査はおろか着陸さえもままならない状況であった。かつてスコット領南部の西方地域より派遣された救助隊がそれに唯一成功したものの、卓越した冒険者たちの活躍が大きな割合を占めていたことは否定できない。
 だが数週間前、一部の空域から恐獣の姿が消失し、深い樹々に閉ざされていた樹海の中に小さな遺跡が出現したである。
 カオスの勢力が日に日に勢力を強め、各地に出没するようになった昨今、遺跡調査などに貴重な人手とフロートシップを割く余裕はないとの意見が挙がったが、これを精霊と竜の導き、ジ・アース風に言うならば『天啓』とするお告げが幾つもの教会から齎されるにあたり、メイ王アリオ・ステライド以下重臣たちの命令によって調査隊が編成された。
 調査班のリーダーとして抜擢されたのが地方より招聘された考古学者ソウコ・アンティリット。
 そして今彼女がいるこの場所こそ、古の森に出現した遺跡なのである。


「‥‥つまりどういうことなのだ? ソウコ殿、我々にも分かるように説明して頂きたい」
 全てを読み終えたソウコに、共に首都から派遣されてきた騎士長が詰め寄った。
 遺跡と言っても、出現したのは一つだけ。積み上げられた石によって作られた建物は不安定さを放ちながらも、しっかりと地面の上に聳え立っている。
「これだけの情報では判断しかねる部分が多々ございますので」
 それでも構わない、という言葉に、ソウコ・アンティリットは静かに頷いた。
「これはあくまでわたくしの推論の域を出ませんが、この遺跡は嘗てこのカオスの地に栄えた王国が遺したものと判断致します」
「この地に王国だと‥‥?」
 付き従ってきた騎士たちからも驚きの声が次々と上がっていく。アスタリア山脈以西の地域をカオスの地、即ち『混沌の大地』と呼ぶが、そこに広がるのは恐獣たちの蔓延る荒野と砂漠、そして人を拒む樹海のみ。少なくとも人が住めるような場所はない。王国が存在したなどと、誰が予想しただろうか。
「『黄昏の闇』と記述される外敵の侵入によって、王国は滅亡致しました。この遺跡は我々、後世の人々にメッセージを送ることを目的として作られた物のようでございます」
「ま、待て‥‥外敵?」
 金属板を手に、ソウコが僅かに目を閉じた。
 混沌の勢力の伸張と襲来、それに合わせたかのように出現したこの遺跡。そして『黄昏の闇』。
「それがカオスの勢力を指すか、確かめるにはあまりに情報が不足しております。はっきりしていることは、外敵によって窮地に追い込まれた王国の一部の者たちが、再び世に現れるであろう災厄を打ち払うための力を後世に遺したということです。そして‥‥」
 金属板の下部に光る5つの灯火。指先で触れても熱さは感じない。この金属板同様、未知の技術で精製されているらしい。
「『マステア』。それこそが彼らの残した力の名。王族たちにとって、それはジ・アースでいう神の概念に近い存在を奉り、依代として降臨と恩恵を賜ろうとしていた物、即ち『神器』と呼ばれるものに近いものだったようです」
「5つの力とは!?」
 興奮気味に騎士が促した。
 対してソウコはあくまで淡々と古代文字を読み上げる。

「巨斧『ドヴェルグ』

 宝剣『イーヴァルディ』

 光弓『ヘイムダム』

 炎槍『スルト』」

 灯火の隣に刻まれた文字を読んでいくが、最後の文字だけが掠れて読むことが出来ない。どうやら、何者かの手によっては故意に削られてしまっているようだ。
「―――――――――――っ」
 ソウコが言葉を終えると同時に、悲鳴にも近い歓声が遺跡に響き渡った。混沌の勢力を相手に劣勢に立たされている現状を打開するための力があるというのだ。敵の圧倒的な力の前に、自分たちの無力さを嘆き悲しんでいた者たちにとって、これらの神器は暗黒を切り裂く一縷の希望と見えたことだろう。
 幸運にも金属板には神器が保管されている、古の王国首都の場所も記されていた。これを創った人物には感謝してもしきれない。
「これらの武器が混沌の勢力に対抗するための武器となるか、それは定かではございません。‥‥ですが、その可能性もまたゼロではございませぬ。一刻も早い捜索隊の編成と派遣を国王様にお願い申し上げるのが最良かと存じます」
「お、おお、その通りだ! すぐに出立の準備を致せ。重要と思われる品物は全て回収し、フロートシップへ搬入せよ! ソウコ殿、貴方には是非とも捜索隊に加わっていただきたい」
 詰め寄ってきた騎士長に向けて、ソウコは重ねた手を前に、恭しく礼を取る。
 十年以上に渡り、地方で細々と研究してきた自分の知識が役に立つ時がきた。
 だがそれ以上に、この世界を護る為、この世界の一員として自分に出来ることがある。
 これほど光栄なことはない。
「その申し出ありがたくお受けいたします。微小ではございますが、わたくしの持てる全ての力を尽くすことをここにお約束致しましょう」

●今回の参加者

アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ アリオス・エルスリード(ea0439)/ ローラン・グリム(ea0602)/ シャルグ・ザーン(ea0827)/ 風 烈(ea1587)/ アマツ・オオトリ(ea1842)/ クリシュナ・パラハ(ea1850)/ ルイス・マリスカル(ea3063)/ オラース・カノーヴァ(ea3486)/ グラン・バク(ea5229)/ ファング・ダイモス(ea7482)/ レインフォルス・フォルナード(ea7641)/ エイジス・レーヴァティン(ea9907)/ 月下部 有里(eb4494)/ フラガ・ラック(eb4532)/ 門見 雨霧(eb4637)/ フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)/ 導 蛍石(eb9949)/ ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)/ メリル・スカルラッティ(ec2869

●リプレイ本文

●ベースキャンプ作成
 首都メイディアからフロートシップで約半日。標高二千mを越える山々が連なるアスタリア山脈を越えた所にそれはある。カオスの地と呼ばれる大地だ。
 極細の安全航路を慎重に進んでようやく着陸。広大な樹海の中に埋もれながらも、切り拓かれた平野は確かにその面影を残している。周辺が木々に覆われているにも関わらず、そこには鬱蒼と生い茂る緑がほとんどない。あるのは人工物の残骸、嘗ては多くの人間たちが暮らしていた住居の骸が見渡す限りに広がっていた。
 
「古の森に古代遺跡があったとはね〜」
 いやぁ、びっくりびっくりと口の割りにはそれほど驚いた様子を見せないのは門見雨霧(eb4637)。相変わらずの猫背は遠めでみても彼だと判断できる目印である。
『おーい、さぼってねぇで誘導してくれ』
「ごめんごめん。ついつい見とれちゃって」
 地面が揺れる度に身体が上下に震動し、地面に置いてあった瓦礫やら薪やらが微妙に位置を変えていく。
城下の一角に設営されたばかりベースキャンプの傍らで門見が声を張り上げる中、フロートシップに積んできたモナルコスを使いったオラース・カノーヴァ(ea3486)とフラガ・ラック(eb4532)の両名が伐採した木材で補強していく。
 一方ルイス・マリスカル(ea3063)とファング・ダイモス(ea7482)は戦場技能を駆使して周囲に罠を張っている最中。よほどの知能を持つ魔物でない限り、これらの巧妙な罠を掻い潜ってここまでくることは無理に近い。加えて周辺には瓦礫を利用して簡易の防壁まで作ってある。とどめとして中にいるのは歴戦の猛者。ここまでくれば、並の兵士たち数百人に護られるよりも心強いだろう。
 ベースキャンプの中では、罠設置の手伝いを終えたメリル・スカルラッティ(ec2869)が考古学者のソウコから金属板を見せてもらっていた。
「やっぱり‥‥杖はないみたいだね」
「斧、剣、弓、槍、どれも戦士たちが扱う武具のようでございますから、期待は薄いかと存じます。城内に神器とは別の物がある可能性も捨てきれませんが、それを見つけられるかは皆様の腕次第でございましょう」
「お城に向かった人たちに任せるしかないかぁ。なんだか悔しいな〜」
 外に出たメリルの目に映ったのは瓦礫に覆われながら果てしなく広がる城下跡と、視界の向こう側に一つ抜き出た巨大な建造物。城内捜索班が向かった場所であった。


●城内探索班〜幽霊とは〜
 総勢11名からなる城内捜索班。彼らが進んでいるのは城の庭園跡地を抜け、これから本格的な調査を開始するところだ。
 いずれも熟練の冒険者たちであるが、先陣を切るのはアリオス・エルスリード(ea0439)。遺跡発掘、廃城探検、まさに冒険者の王道とも言える任務である。自然と志気も昂揚するというものだ。
「リヴィールマジックに反応する物とかないんですか?」
「残念ながら今のところはないかな。まぁ、気長にいくしかないんじゃない?」
 手回しライト片手に、同じく先頭を歩くアシュレー・ウォルサム(ea0244)。その返事に、ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)がため息を吐きながらがっくりと肩を落とす。
「冒険者なんですから、宝探しをしたくなっちゃうのは私たちの性ってやつですよ」
「確かにそうだな」
 同意するのは当然アリオス。冒険者としての性格が強いもの同士、気が合うらしい。
「むぅ、しかし神か。アトランティスにそのような概念が存在したとはな」
 隊列の真ん中で、頭一つ飛び出ているのはシャルグ・ザーン(ea0827)。どうやらこの城、巨人族を前提設計されていないようで、場所によっては少々歩きづらい。
「アスタリア山脈を隔てていたせいで、メイの国とはまた別の文明が発達したと、ソウコさんが仰っていました。神といっても色々な捉え方がありますから、こればかりは確かめようがありませんね」
 唯一の神聖魔法を扱う導蛍石(eb9949)はカオスの勢力がいないか確認を続けている。その隣には貴重な回復役である月下部有里(eb4494)が肩を並べて歩いていた。
「斧、剣、弓、槍‥‥なら次に来る武具は盾かな。刀って可能性も捨てきれないけど」
 エイジス・レーヴァティン(ea9907)が手にするのは霊刀「ヨミ」。死者の恨みを吸ったとされる一品、妖刀とも呼べる代物だが、その力は正邪と問わず真っ二つにする威力を持つ。だが、もし第五の神器がエイジスの言う通り刀であるならば、それはこの霊刀をも凌ぐものであることは間違いない。
 その隣で長剣を手にかけたまま、グラン・バク(ea5229)が進む。
「ただどのような力であれ、その力をどう使いこなすのは人次第だ。汝、溺れるなかれという感じかな」
「しかり。されど何よりも闇のモノに渡らぬことが肝要」
 アマツ・オオトリ(ea1842)がそう呟くと、石の中の蝶を確認する。カオスの勢力が発見した武具に関しては国家管理とすべきと具申したところ、ソウコもそれに同意し、首都へとその旨書状を送ってくれた。次の依頼にはその結果がわかるだろう。
「うっはぁ〜、キレ〜ッスねぇ〜」
「すご〜い」
 しゃがみこんだクリシュナ・パラハ(ea1850)と同じく、フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が文献や壁画のメモ用にと手にしていた羊皮紙を思わず引っ込めてしまう。
 廊下の片隅に何気に落ちていた小さなガラス片。普通ならば、どうということはないのだが、二人が注目したのはその質だ。
「ここまで透明なのは、初めて見るッスねぇ。ほら、向こう側がほとんど見えるなんて凄い」
 ガラスは文明のレベルを測る上での目安ともいえる。古びて歪み、褐色色が目立っているが、現在のメイでもこれほどの純度のものはなかなか作れない。このガラス片を見るだけでもこの王国が並のものではなかったことが窺えた。そしてそれは床にも顕著に戦いによって傷つき削られ、長い時が表面を朽ちさせているものの、床一面に敷き詰められた光沢の精度は、大理石ともさして変わらない。崩壊前はさぞかし優雅だったことだろう。
「幽霊にでも会えたら、作り方を教えてもらえたかもしれないのにね」
「ふむっ、まぁ不可能だろうがな」
 月下部にグランが鷹揚に頷くと、後ろから疑問の声が上がった。
「幽霊?」
「簡単にいえば、死んだ人の魂ってところかしらね」
「えーっと、魂??」
 更に疑問の声を上げたのは同じくアトランティス出身のフィオレンティナ。
「何ていうのかしらね。死んだ人の人格、いえ残留思念、といったら分かりやすいのかしら」
「死んだ人の意志が肉体を離れて生前と同じように行動するということです。食べたり、物質に触れたりということは難しいでしょうが、生きていた頃のように話したり、考えたりすることはできる。そういう存在のことです」
 僧侶である導の説明に、ベアトリーセが加わって合計三人がふ〜んと感嘆の声をあげた。
 どういう経緯でこうなったのか微妙だが、しばし盛り上がった幽霊談義も、アリオスによって引き締められて終了。捜索班は奥へ奥へと進んでいった。
 


●城下探索
 天候は晴れ、時刻は正午近く。冒険者の方針に従って戦闘能力に乏しいソウコはベースキャンプでお留守番、昼間の警護担当であるルイスとフラガと共に城下探索班の帰りを待っている。
 先頭はファングが務め、周囲への警戒を一切怠っていない。世界中に訪れている災厄に対して、ひときわ強い危機感を抱いている証拠だろう。近接戦闘には弱い門見とメリルを挟むように、後方にはオラースが待機している。この二人に掛かれば、ゴーレムの一体や二体程度ならばどうということはない。応急手当キットを持って来た門見だが、どうやらそれの出番はなさそうだ。
 比較的瓦礫の少ない、石畳で舗装された街路を歩いていく5人。右を見ても左を見ても、同じような風景しか広がっていない。
「殺風景だな。首都の名残なんて全く残っていない」
 風烈(ea1587)が漏らした言葉に、他の者たちも同意する。真っ白の瓦礫に覆われて大地の土くれが殆ど顔を見せていない。城下の建築物の多くは木材を骨組みに、石かレンガを積み重ね、何か白い塗装で外装を整えるつくりだったらしく、破壊し尽くされた現在ではその破片が散らばり大地を白色に染めていた。
「うん‥‥うん、ありがとう」
 メリルがステインエアーワードを使って懸命に遺跡から情報を得ようとしたが、有益な情報を手に入ってはいなかった。
「やっぱり外敵、カオスの魔物なのかな、化物が突然ここにやってきた、くらいしかわからないよ」
 がっくりと肩を落とす彼女に、風が振り向いた。
「他の場所でもう一度試してみてはどうだ?」
「それはもっともなんだけど‥‥」
「‥‥あー、うん、そうだね」
 最後まで言わないでも意図に気付いた門見が猫背に拍車をかける。
 メリルと一緒にこの遺跡の大まかな地図の作成に成功していたので、改めて覗きこんで見たのだが‥‥。
この遺跡結構‥‥というか、かなりでかい。
 城を中心に円形状に広がる城下。東西南北の四つの区画に分けられるが、その一つ一つが何と広いこと。ほとんどが瓦解していて遮蔽物がないので余計広く感じてしまう。並の人間なら、全ての区画を回るだけで数時間。かすかに残っている建築物全てをチェックしていては一日では絶対に足りない。こんな馬鹿でかい場所に片っ端から魔法を試していては、それこそソルフの実が数百個必要になるだろう。



●祭壇
 三日目の夕方前。
 ようやく城の八割を把握した城内捜索班。早めに切り上げてきた彼らは、城内部を記した地図を参考に、ポイントとなりそうな場所を割り出そうと試みた。
「そうだな。彼らにとっての最後の希望と伝えるべき言葉。仮に残すとしたら‥‥」
 グランが指さしたのは地図のほぼ中央。そしてそれが見事に的中した。
 城内に一風変わった場所があるという報告を受けて、ソウコはベースキャンプから件の場所へと移動する。それには彼女の身を案じるグラン、オラース、そして第五の神器の手掛かりを求めるエイジスが追従した。
 暗い廊下の先に浮かび上がったのは四角い光の枠。そこを抜ければ、報告通りこれまでとは異質な風景が広がっていた。
 人工物に他ならないドーム状の天井。半壊し、抜けた穴からは眩むような光の束が内部を照らしている。照明代わりにオラースが持ってきた鬼火の照明もここでは意味を持たないほどだ。頭上を覆う網の目の骨組みが朽ちているのとは対照的に、間に作られた無数のひし形の空間には硝子の破片が粉雪のようにしがみつき、遥か昔から変わらぬ彩色を保ったまま、彩りの色彩と幻想的な光景を生み出している。
 荘厳満ちるこの空間こそ、古の王族たちが祭壇の間と呼んでいた場所である。
 磨かれた石畳の中央にある何かへと進み出たソウコの進路を、オラースの手で遮った。
「カオスの魔物どもだな」
 隠れるわけでもなく、惜しみなく姿を晒す小鬼の姿をした下級の魔物たち。その数8。
 数で勝る魔物たちが現れるや否や攻撃を仕掛けてくるのに対し、グランとオラースがソウコの両脇に控え、鉄壁の防御陣を作り出す。それとは反対にエイジスが本能に従い切り込んでいく。
 数分もすれば、呆気ないほどに戦いは終結していた。地面に横たわる混沌の魔物たちは既に霧の如く消え去ろうとしている。冒険者たちに傷は一つもない。当然ソウコにも。圧倒的な勝利だった。
「ふっ、ソウコ無事か‥‥ってあれ?」
 勝利の笑みを浮かべたオラースが振り返っても、そこに目的の人物の姿はない。
 グランの視線を追えば、すでに一人中央に設けられた何かにのめりこんでいるソウコの姿が‥‥。
「‥‥何かわかったか?」
「‥‥」
「‥‥あの、ちょっと」
 無視‥‥のつもりはないのだろうが、集中状態に入った今の彼女に干渉することは不可能。
 仕方なく手持ち無沙汰で見守ること数分、沈思黙考していたソウコの顔がようやく上がったところでオラースが改めて質問する。
「‥‥どうだ?」
「祭壇のようでございます。何に使用していたのか、表面に刻まれた文様や文字の解読を試みていたのですが、金属板に書かれていたものとも異なるもの。おそらく王族かそれに連なる高貴な者たちが使用していた特殊な文字でございましょう。一度ベースキャンプに戻り、そこで改めて解読を行いたいと存じます」
 そこまでいって彼女が三人に突き出したのは一枚ずつのスクロール。差し出された方はわけがわからず、首をひねるばかり。
「ベースキャンプで解読するに当たり、祭壇に刻まれた全ての文様を書き写す必要がございます。量が少々ございますので、お手伝いをお願いできますでしょうか?」
 本当なら得意分野ではないので断るところだが、拒否を許さぬきっぱりとした口調を前に、そんなことが言えるはずがない。
 結局、カオスの魔物は数分で撃退できたものの、思わぬ敵に30分以上の手間を掛けることになった三人であった。


●礼拝堂
 城下、北地区。
「ん〜、高さ15m‥‥ってとこかな。とてもだけど、昔作られたとは思えないね〜」
 影からおよその高さを計算した門見が、背筋を伸ばしながら顔を上げてみると、第一印象は礼拝堂。空を突き刺すように全体が細長く設計されており、これで表に十字架でも掲げてあったら、それこそ間違いないと断言できる。
 礼拝堂に似た建物を見つけたということで、祭壇と城内捜索班を除く全ての者たちがここに集まっている。ベースキャンプには威嚇としてゴーレムを置いてきたから、問題はないはずだ。
 風が壊れた扉をゆっくりと押し開け、ファングが流れるように侵入する。
「敵らしき姿はありませんね」
 念のためメリルがブレスセンターも発動させるが、敵らしき存在は確認できない。
「当てが外れましたか?」
「そう判断するのはまだ早計でしょう。色々と調べてみなくては」
 ルイス、ファングが奥へと進み、風が門見とメリルの護衛として待機して帰りを待つことになった。


 こちらは奥に進んだルイスとファング。あれこれ探してみるが、神器の手掛かりとなりそうなものはない。
「こうも破壊されているとは‥‥想像以上に厳しいですね」
 書物どころか椅子すら原型を止めていない。大昔の都なのだから、それも当然といえば当然ではあるのだが。
 頷こうとしたルイスが、ふっと顔を上げた。何だ、この音は?
「‥‥蠅?」
 格段珍しいことではない。昨日の昼間ベースキャンプの警備をしている時にも、似たような蠅が数匹、周辺をうろついていた。水吟刀で水を発生させ、飲料水として利用していたのだが、さすがに蠅が降りた水など使いたくはないので追い払ったことを思い出す。そういえば、ここに来てかなり経つが、恐獣や魔物の襲来が一度もないのも気にかかる。設置した罠に魔物が掛かったということも確認されていない。
 異様にまとわり付いてくる蠅を追い払おうと、剣に手を掛けたが、さすがにこんな蠅相手にこれを使いたくはない。落ちてあった木片で思い切り、はたいてやると蠅は力なく床に倒れ落ちた。

 ブ、ブブッ‥‥

「ん?」
「はは、蠅にも手加減をなさるとは、お優しいですね」
「‥‥あ、ああ、いえ」
 潰れたと思っていた蠅は、まるで何事もなかったかのように再び空中に飛び上がると壊れた壁の穴から外へと逃げていく。その軌道を目で追いながら、ルイスは首をひねった。
(手加減‥‥?)
 無益な殺生は好まないが、手加減したつもりはない。達人を越えるルイスの腕ならば、ただの木片だろうが一種の凶器と化す。蠅はおろか、ゴブリン程度なら一撃で倒せてしまうだろう。
(気にしすぎましたか)
 その場を後にした二人は元の場所へと戻っていく。
 しばらくした後、その場に再び耳につく羽音が鳴り響いたのを、彼らは知らない。


「‥‥人?」
「どうかしたのか?」
 護衛役の風が予想外の言葉を発したメリルに、詰め寄った。
 帰りを待つ間に、メリルがステインエアーワードを発動させたのだが、気になる言葉が耳に届いてくる。
「うん、この礼拝堂? みたいな建物を壊したのは、魔物じゃなくて人だって言ってるの」
「んー‥‥内乱でも起きたってことかな?」
「それはわからないけど‥‥パーストを試してみるから、もう少し待ってもらえるかな」
 期待を込めてスクロールを取り出したメリルが精神を集中させて魔法を発動させた。望むのはここで何が起こったのか、それ一つ。
「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥んん、ごめん。駄目みたい」
 扱える魔法と違い、パーストはスクロール。初級の魔法では目的のものを的確に見ることは困難を極めるらしい。
 結局、それから魔力が続く限り、何度も試してみたが、十分な成果はなかった。
 ベースキャンプを長々と空けるわけにもいかず、出口に向かい歩き始めた5人。

『――――――て―――』

「‥‥?」
 微かに響いた言葉。
 メリルが立ち止まり、もう一度耳を澄ませてみるが、風の吹きぬける音以外ここにはない。
「どうかしたの〜?」
「もうすぐ夜になります。早く帰りましょう」
「あ、うん!」
 待ってくれている四人の元に、小柄な体を弾ませてメリルが駆け寄っていく・
(空耳だったのかな?)
 最後にもう一度耳を傾けてみるが、やっぱり何も聞こえない。
 胸に引っ掛かった少しの疑問を抱えたまま、彼女はベースキャンプへと引き返すのだった。





●守護者
 それを見つけたのは偶然だった。
「ん、狭いわね」
「同感です。ペガサスを置いてきたのは正解でした」
 丁度、ソウコたちが祭壇の書き取り作業に励んでいた頃。ソーラー時計で時間を確認し、日が暮れる前に戻るべきかと考え始めていた時だ。アシュレーが持ち上げた腕の向こう側にある壁に違和感を持ったのは。
 クレバスセンサーやエックスレイビジョンで感知できなかったことから推測するに、魔法の効果を遮る障壁が張ってあるのか、ある一定レベル以上の魔法でない限り、効果が無効化されてしまう、というのが妥当だろう。
「魔法の障壁ねぇ、そんなもの初めて聞いたよ」
「大昔に襲ってきた連中から判らないように作ったんですよね。だったら、それくらいの仕掛けを作っておかないと駄目だったんじゃないッスかね?」
「それも頷けよう。あれだけの瓦礫が圧し掛かっていれば、重みに耐え切れず崩落するのが普通であるが、あの床はびくりともしなかった。石であることに間違いないが、我が輩たちが知らぬ特別な精製法で作ったのか、はたまた特別な術式がかけられているのか」
 ペガサスほどではないが、巨人族特有の巨体を窮屈そうに屈めながら、シャルグが細く狭い地下への道を進んでいく。先頭を進むレンジャーの二人からは不用意に壁に触れないようにとの指示が来ていたが、簡単な事ではない。
 かなりの時間地下へと潜り続け、魔法の灯りによって照らし出された大広間らしき場所に到着した。
 一番に立ち止まったのは月下部。
「‥‥何、これ‥‥」
「どうしたの?」
 フィオレンティナの言葉に、青ざめた顔を浮かべ続けている月下部が声を返すよりも早く、大気が震えた。

『―――――――何用だ?』

 地下とは思えないほどの巨大な空間、あちらこちらに建てられた石柱は城の大広間を連想させる。ただ、普通の大広間と違う点が幾つか見られた。例えば、ゆうに数十mにも達する高い高い天井や、入り口の反対側にその重厚を異常なまでに醸し出している、高さ数mの巨大な門。
 そして、その前に門番の如く居座る魔物の姿。
『もう一度問う。何用だ? 何ゆえここに参った?』
 外見は蛇。背中に生えた翼は鳥の如く、とぐろを巻いた状態からゆっくりと昇って行った蛇の頭は遥か上からこちらを見下ろしている。軽く見積もって全長20mはくだらない。
 当然このような化物と対峙して武器を取らない冒険者ではない。戦闘態勢に入った一行を見るなり、魔物の声が一瞬にして黒く冷たいものを孕んでいく。それ即ち、殺気だ。
『武器を構えたということは我に敵意ありと判断する。遺跡を荒らす愚か者ども、覚悟はよいな』

 ブォンッ!!!

「ちっ」「のわっ!」「ぬぅ!」「きゃっ!」
 それぞれが思い思いの声を上げた数瞬後、地鳴りのような音響が空間に木霊した。
 鞭のようにしなった蛇の胴体が、大地に根を張る木々を薙ぎ倒す津波の如く、地面の上を一薙ぎして石柱を一撃で粉砕、反射的に屈んだことで難を逃れた冒険者たちもその破壊力に顔を強張らせている。
「ちょっとちょっと、冗談じゃないんだけど!」
「さしずめ門番ってところかな。‥‥どうしようか」
 半ばから圧し折られ倒壊した柱の残骸に、悲鳴を上げるベアトリーセ。逆にこれでもかというくらいに冷静なアシュレー。
「ぬぅ、あれ程に巨大な尾を受けてはさすがに我輩も耐えられぬな」
「丸太三つ分、いやそれより太いかも?」
「臆していては何も始まらぬ。あの門の先に神器があることは最早明白、退くわけにはゆかぬ!」
 日本刀を正面に突き出したアマツが立ち上がると剣を構えた。
「ゴーレムの武器かもしれんだもん。私も続くよ!」
「月下部さんは俺と一緒に居て下さい。結界を張って敵の攻撃を凌ぎます」
「了解よ」
 回復役の二人が下がり、代わりに得物を構えた戦士たちが前へと進み出る。
 対峙するは、天を飲み込む巨大な蛇。
「参る!!」
 アマツの放った剣風を合図に、戦いの幕が開けられた。


●罠、そして開門
「はああっ!!」
「てぇぇぇい!!」
 鎧騎士の女性が上体を屈ませると、頭一つ上を突き抜けていた尻尾を剣で切り裂いた。そのままの勢いに乗った二人は接近を試み、遠距離からはアシュレーが得意の弓で援護を行う。
「ぬぅん!!」「疾風斬!」「ファイアーボ〜〜ム!!」
 戻り終えぬ尻尾へとシャルグの強烈な一撃が叩き込まれ、敵の胸で剣風と炎が爆発する。
 途絶えぬ連続攻撃に魔物がよろめいた隙を狙い、一気に攻め寄る冒険者たち。

 グォオオオン!!

 その身体に鞭というには大きすぎる尾が叩き込まれた。大きく伸び上がった身体は背中の羽によって一瞬浮き上がったかと思うと、細長い尾を竜巻のように回転させたのだ。周辺の物質を容赦なく薙ぎ払われ、回避に成功したものたちも、その強烈な風圧に吹き飛ばされて風へと叩きつけられてしまう。
「だめだ、触れるな!」
「「‥‥え?」」
 アリオスの警告に、フィオレンティナとクリシュナが声を漏らす。地面に付いた掌に視線をやれば、そこには掌サイズの小型の魔法陣が描かれてあり、
「――――――っ!?」
 陣から吹き出した炎が、二人の身体を包んだ。
 回復役の二人が慌てて駆け寄ろうとするのを見て、再び静止を試みたアリオスだが、時に既に遅し。
 カチッと音が二人の足元から鳴ったかと思うと、月下部の視界に動くものが出現する。
「ガーゴイルよ、皆、気をつけて!」
 入り口の丁度真上、侵入者からすれば全くの死角の位置に嵌め込まれてあった石像たちの瞳に灯りがともり、牙を剥いて襲い掛かってきた。
「月下部殿、数は!?」
「1、2、3、4、‥‥だめ、どんどん増えてるわ!」
「うーん、どうする?」
「罠というものは無理に解除する必要はない。発動させないよう進むのが最良なんだが、こんな状況じゃそれも無理だな」
 トラップ解除組みであるアシュレーとアリオスがあくまで冷静に状況の把握にかかる。よく目を凝らせば分かるのだが、この広間のあちこちに先ほどの魔法陣が仕掛けてある。これが平時ならば、素人でも見抜くことができるのだろうが。
 巨大な蛇とはシャルグがオーラシールドを使って真っ向から対峙し、他の者たちは治療の邪魔をさせないようガーゴイルの対処に当たっている。これなら先にガーゴイルを片付けてしまえば‥‥。
 治療に当たっていた導がホーリーフィールドの中で何かを感じとり、顔を上げた。
 デティクトアンデッドに反応する気配がある。他の者たちの石の中の蝶には反応していないことから考えて、距離は100m前後。
 耳の奥をすりつぶすような音に、戦闘が一瞬だけ停止した。
 蛇の後ろに聳えていた巨大な門が開いている。その麓には小さな、遠くからでは判断しかねるが、人影らしきものが見えた。
「アシュレーさん! フィオレンティナさん!」
「りょ〜かいっ」「うん!」
 魔法陣の位置を的確に把握できているのはアリオスとアシュレーの二人のみ。だが、アリオスは周囲の者たちへトラップの場所を伝えることに専念している分、余裕がない。その結果、自然とアシュレーが門までの経路を見つけ出すしかない。
「行けぃ!!」
 猛然と振るわれた巨大な尾を、シャルグがオーラシールドで受け止め、道を抉じ開けた。
 走り出したアシュレー、そして敵の正体を第一と考えていたフィオレンティナがそれに続く。
 戦いの喧騒を背中を受けながら、二人は遂に門へと突入した。



●不和と争いを好む使者
 門の向こうは予想以上に小さかった。短距離の廊下を経て更に奥の扉を抜けると、小高い壇上が二人を真正面から出迎えた。
 その上でこちらを見下ろす、混沌の存在。
『これはこれは。あの門番を抜けるとは、中々の方々とお見受け致します』
 若年の外見はどこか空虚な、そう例えるなら中身が空っぽの作り物のような感覚をうけた。黒髪と同色の修道服に、紅の紋様がだぶだぶの袖に飾られており、これが白ならどこの教会にでも居そうな司教さんやらと間違えそうなものだが、その存在はあまりに異質。
『申し遅れました。わたくしの名はブラズニル。主より頂いた御名でございます。以後、お見知りおきを』
 実に優雅に、柳のように腰を曲げて挨拶をする、それ。背中に生えた翼はまるで天使の如く、悪趣味な異端の修道服と相成って不気味な雰囲気を醸し出している。
 地下のかび臭ささに混じって甘い香りが運ばれてきた。このような場所では香水もただの異臭に過ぎない。
『貴方がたと違い、私は五感というものが非常に疎い。そこらにあった屍から適当な服や香りを見繕ってみたのですが、やはり失敗でしたか』
 門の向こう側から戦いの雄叫びが聞こえてくる中、アシュレーは弓を握る手に力を込めた。一目見ただけで対峙する存在が只者ではないこと直感的に悟り、いつでも攻撃できるよう隙を窺っている。
「どうやら手遅れだったみたいだね」
『おや、貴方がたの探し物もこちらだったのですか? それは大変失礼致しました』
 地面に転がっている白磁のような欠片。目を凝らせば、大斧の刃や柄の形をしているのがわかった。
「私たち以外にも神器を狙ってるやつがいたんだね」
 ぬけぬけと口にしたブラズニルへと、フィオレンティナが怒りの矛先を向けるが、相手は実に涼しい顔を浮かべている。
『それよりも、そのようにゆっくりなさっていてよろしいのですか?』
「門番なら、外にいるみんなだけで十分に倒せるはずだよ。あんたこそ、自分の心配をしたどうかな?」
 相手まで約20m。この距離なら、絶対に外さない。
『フィオレンティナさん、でよろしかったでしょうか』
「‥‥?」
 突然名前を呼ばれたことに、疑問符を浮かべるフィオレンティナ。油断はできない。相手はカオス、気を緩めれば、いつ厄介な魔法を掛けられるかもしれない。
『そちらの方のご活躍は私も拝見させて頂いておりました。実に見事な働きぶり、そう言う他ありません‥‥が』
 頬を浮かび上がらせて、口元を押さえるカオス。
『おかしくとは思いませんでしたか? はじめて見るはずの魔法陣をああも的確に見つけ出し、魔法を無効化する隠し扉を発見した。いかに優れている方とはいえ、ただの人間があれほどの活躍をできるものなのでしょうか?』
「何がいいたいの?」
 焦燥を募らせる彼女に対し、ブラズニルは愉快そうに口元を緩めた。
『例えばの話です。そちらのアシュレーという方は既に死んでおり、私の眷属がすり替わっているとしたら‥‥説明はつきませんか?』
「‥‥!?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
『本当にそう言い切れますか? そちらの方の先導に従って貴方がたはここまで来た。そして門の外では苦戦を強いられ、神器も壊されてしまった。結果的だけ見れば、どうでしょう?』
 フィオレンティナが思わず身構えてしまう。剣を向けられたアシュレーが一歩退こうとするが、それでは相手の思う壺だ。
 言い知れない緊張感が二人の中に漂う中、一室にくぐもった笑い声が響いた。
『くくっ、冗談ですよ』
 満足そうな笑みを再度浮かべて、その身体が静かに浮かび上がる。
『人間というものは実におもしろい。些細な嘘で困惑し、疑い、やがて自滅する。くくっ、本当に楽しませてくれます』
「――――っ!」
 逃がすものと、アシュレーが素早く弦を引き、放たれた矢がブラズニルの胸目掛けて突き進む。
 だが、片手のみ、正確には指二本。人差し指と中指に挟み込まれる形で受け止めたカオスは何事もなかったかのように宙へと浮かび上がっていく。
『それでは、御機嫌よう』
 最後にそう言い残して、ブラズニルと名乗った魔物は二人の前から完全に姿を消してしまうのだった。






 その後二人は、門番である魔物の撃破した成功した他の者たちと合流後、ベースキャンプへと戻った。
 祭壇に刻まれていた文字列の解読には少々時間が掛かるというソウコの意見もあり、依頼は一端終了となる。
 神器『ドヴェルグ』はカオスの魔物と思われる存在によって破壊されてしまい、門番『コゥアトル』も実は平和的なクリーチャーであり、敵意さえ示さなければ迷宮内の道標となってくれる魔物であることを知るのは数日後のことである。
 残す神器は四つ。
 それを手に入れることが出来るかは、浮かび上がった謎をどう紐解いていくかに掛かっている。