【アスタリアの竜神】メラート防衛

■ショートシナリオ


担当:紅白達磨

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月06日〜04月11日

リプレイ公開日:2009年04月16日

●オープニング

 星々の煌きはいつも不思議だと思う。闇に閉じられた世界に一条の光を差し入れ、掌にも収まってしまいそうな量で大地の全てを人の目に浮かび上がらせる。夜空に溶けずに残っている星を眺める、そんな単純な行動がベルトラーゼは何よりも好きだった。
 口元から出る白い息を掻き分けて城壁の上を歩き出す。鷹の文様が描かれた鎧は嘗て父が使っていたもの。腰に下げられた剣も同じでベク家の党首だけが使うことを許される由緒あるものだ。くべられた篝火の下で齷齪(あくせく)と準備を進めていく兵士たちの中には、見知った顔も数多くある。南方遠征の際、共に戦った西方騎馬隊の戦友たちも隊は異なるが共にメラート防衛作戦に参加することになっている。眠るように目を閉じれば、敏感になった耳に激しい馬の嘶きが届いてくる。戦の空気に高ぶるのは何も人だけではない。馬の野生の本能が戦前の雰囲気を感じ取り興奮することは珍しいことではないが、今夜のそれは異常だった。野生の生き物は嵐などの天災を人より数段早く察知する能力を持つと聞くが、届く嘶きはそれに由来するものだろうか。戦を前に興奮するというよりは、懸命に逃げようとしているかのようだ。
 街中から噴き出す異様な熱気も城壁には届かない。こうして一人歩いていると、身体の芯に根付いて離れない恐怖が薄れていく気がした。明日の夕刻にはあのドラゴンと戦場で見えることになる。そう思うと、鎧の下に着込んだ防寒着にしっとりとした汗が染みこんでいくのが感じられた。ベルトラーゼもこの世界の住人だ。例外なく竜に対する畏敬の念は人並みに抱いている。ここにいるほとんどの者たちが同様だろう。戦場で対峙したとして、怯えることなく戦うことが出来る者がどれだけいるか。メラートに配備された騎体に加え、本国からの援軍もある。ギル工房長を初め、メラートの工房も全面的に協力してくれるとのことだ。かなりの数のゴーレムが集結したはずだが、それらを投入しても尚、有り余る戦力差が竜との間にはある。まず戦いと呼べる状況になることができるか、そこからが問題だ。すでに西方地域の西半分が竜の怒りに呼応した天変地異で崩壊してしまっている。復興するまでには十数年の時が必要になるだろう。リュブリャナたちには残酷だが、最悪竜を説得するのではなく、倒すことも考慮しておかなければならない。それはつまり、竜を『殺す』ということ。
 どくどくと血が全身に通っていく感覚。心臓に呪いでも受けたように、血が全身を駆け巡り身体が熱くなっていく。長い間湯船に浸かった後のような気分だ。
 星の明かりを頼りに歩いていくと、城壁の縁に腰掛ける人影に行き着いた。初対面ではないが、長く話したこともない。避ける理由も見つけられないまま、互いが表情を窺える距離にまで歩み寄った。
「呪(まじな)いの類のものですか?」
「‥‥失礼、見苦しいところをお見せしてしまいました」
 貴婦人にも劣るとも勝らない黒髪が夜の中ではっきりと揺れて、騎士は立ち上がった。
 礼節を重んじた態度というよりは、素っ気無い態度だった。鎧騎士ロニア・ナザックから伝わってくる感情は少なくとも好意とはほど遠い。別段驚く様子も見せず、ベルトラーゼは一礼する。この人物が自分に好意を持っていないことは何も今に始まったことではない。
「ロニア卿も出陣なさるのですか?」
「メラートの防衛が我々ゴーレム小隊の本来の目的です。敵が何者であろうと、逃げ出すわけには参りません」
 例えそれが竜であろうと、強調するように付け加えた言葉には明らかに棘があった。
 ロニアのように、今この状況でベルトラーゼに敵意を抱いているものは少なくはない。冒険者たちがリュブリャナとの接触に成功した後のこと、リュブリャナたちの本格的な交渉が始まった際にスコット領では一つのことで論争が起きた。山岳民「リュブリャナ」と平和的な外交により友好関係を保つか、それとも力で従属させるかである。結局外交という道が選択されたが、それを強く推したのはベルトラーゼだった。アナトリアを表に立てつつも、率先して橋渡しの役目を務め、外交の促進に大きく貢献した。
 リュブリャナの信仰する竜の存在については、外交が始まった当初から問題として浮上していた。あれほどに危険な存在を山岳民に任せていてよいものか、何者かが竜を利用しようとした際、山岳民たちだけでは手に負えないのではないか、それゆえ全てを外交という形で進めるのではなく、武力という棍棒をちらつかせ、竜の安全を確保すべきではないのかという意見も多く出ていた。ロニアもそれを唱える一人だった。冒険者たちを中心にリュブリャナとの交流を進めるのも、元を正せばベルトラーゼが提案したこと。これだけの非常事態を招いてしまった結果だけ見れば、ベルトラーゼの責任は見過ごせるものではない。直接的な批判は責任者であるアナトリアが一身に受けることになるだろうが、これだけの惨状を招いたベルトラーゼと冒険者たちにも、批判の目が向けられることは避けられない。
「‥‥ベルトラーゼ卿、貴方のやり方を批判するわけではありませんが、あえて言わせて頂きたい」
 口にしても意味などない。事態が好転するわけでもない。だが、ロニアの心の中でうねる何かが言葉を走らせた。
「騎士とは国を守護する存在。国を守るのはあくまで我々騎士でなければならない。冒険者たちの中にも真に国を思う者たちもいることは認めます。だが、だからといって市井の者たちに全てを託すような行為は、私には理解できない」
 風が鳴り、揺れた炎の赤が両者の頬に映った。ちらちらと消えては燃える炎の影は、ロニアの内から漏れ出す激情のようだ。
「貴方の功績はこの国が知るところのもの。なればこそ、中央議会も貴方を信じ冒険者たちに依頼を出すことを許可したのでしょう。‥‥私は騎士として、このメイという国に誇りを持っている。その誇りこそが国という形のない存在を守る力となる」
「‥‥冒険者である彼らには、それがないと?」
 沈鬱だったベルトラーゼの表情に、ゆっくりとだが熱が灯っていく。赤い髪が熱情を受けて燃えるようにたなびき蠢いていた。
「依頼の結果さえ見れば、口にせずともお分かりのはずだ。例えどれだけの思いを口で述べようと、何か為すことが出来なければ、そこには何の価値もない。国を守るとはそれだけの重責が伴うことだと、貴方もご存知のはずだ」
 目を逸らしたのはベルトラーゼの方だった。批判に目を背けたのではない。ただ、すまないと。心より謝罪する姿にロニアがようやくわれに返った。こんなことを言うつもりではなかった。この人物を見ていると、昔の自分を見ているようで、言い知れない苛立ちと怒りが込み上げてくるのだ。
 腕に結ばれた糸の輪を一度握り締め、ロニアは逃げるようにベルトラーゼの横を通り過ぎた。
 通り過ぎても尚、頭を垂れたままの赤髪の騎士を、もう一度だけ見て城壁を下りていく。
 すれ違った二人の騎士。
 共に国を思う心は同じ。
 違えたのは、心に誓う信念の差か。
 それとも‥‥。

●今回の参加者

 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)

●サポート参加者

木下 茜(eb5817)/ 導 蛍石(eb9949

●リプレイ本文

●出陣の前に
「‥‥スノードロップ」
 イリア・アドミナル(ea2564)が言ったのは、清書された花の絵を見てすぐのことだった。
「それがこの花の名前なのですか?」
 半信半疑で確認する導に対する答えはしっかりとしたものだ。
「間違いありません。絶滅しつつある危急種で高山にしか咲かない種類だと昔本で読んだことがあります」
 聞きなれない花の名に、作業をしていたクリシュナ・パラハ(ea1850)とグランも手を止めて聞き返した。
「何だか美味しそうな名前っすねぇ」
「雪の雫‥‥竜の名にしては随分と可愛らしいものだ」
 同意してしまうのは工房員たちに指示を飛ばしていたシファ・ジェンマ(ec4322)も同じ。信仰竜ガリュナがここメラートに襲来するまで既に一時間をきっており、言い知れない緊張感が満ちていく雰囲気に対して判明した竜の名はあまりに不似合いだった。
「イリアさんの知識を疑うわけじゃありませんが‥‥」
「竜に名を与えたのは幼い少女だったと聞いている。ありえない話ではない」
 腕を組んだまま、褐色の肌を惜しみなく晒しているのはリュブリャナの戦士長アアザム。周囲には数人の若者の姿もあり、布に花を描いている工房員たちにあれこれと助言を行っている。布の大きさはゴーレム一騎をすっぽり包めてしまいそうなもので、その表面に描写途中の絵こそイリアの言うスノードロップという花に他ならない。
 都市や郊外から集まった避難民は数千にも達し、ほとんどがこのメラート工房に安全を求めてやってきていた。当然収容しきれなかった多くが周辺でテントを張り、ただ恐怖が過ぎ去るのを待っている。そんな中、冒険者たちは無理を言って整備庫の一角を借りて作業を進めていた。
「確かにこれならば竜の目にも映るだろうが、時間が足りなさ過ぎる。ただでさえ資材と人手が不足しているんだ。完成にはあと数時間がかかる」
「残りの作業は?」
「大まかな内容は終了しているが、色付けと細かい描写は私たちだけでは不可能だ。悪いが‥‥そうだな、グラン。お前には最後の仕上げを頼みたい」
 絵の技量と旗に対する意気込み、その他諸々を含めた結果、グランが一番適切であるとリンドは判断を下し、そう言われてはグランも断るわけにはいかなった。否応なしに出撃が遅れることになるが、この旗にはそれほどの価値がある。冒険者たちは竜にとって巫女との思い出である花を描いたこの旗を見せることで竜を確実に正気に戻そうと作戦を立てていた。これが無ければ、全てが水の泡と化す危険性もある。
 これは剣無き戦い。しかし決して負けられない戦いだ。

 旗の作成が行われる一方、整備庫の奥の方からは怒声とも罵声とも取れる叫び声が上がっていた。
 ギル・バッカートという男がいる以上、格段珍しいことではないのだが、今回のそれが人目を引き付けるにはそれなりの理由があった。
「出来るわけがなかろう! 頭を冷やして来い小僧!」
「んなもんやってみなきゃわかんねぇだろうが!」
 口論の片方は当然ギル、もう片方は冒険者の一人、伊藤登志樹(eb4077)だった。
 ことは推進力発生装置、通称『ランドセル』を搭載した騎体を伊藤が使用させて欲しいと申し出たことに端を発する。
「シファならばともかくお主のような未経験者に大事な騎体を使わせるわけにはいかん! あの装置の恐ろしさを知らんのか!?」
 ランドセルの恐ろしさは新型ゴーレム製造に関する報告書を見れば簡単に理解できる。依頼参加者のうち、唯一の訓練生であるシファでさえ装置の扱いにはまだ手を焼いている。訓練開始当初は垂直に上昇することさえ難しく、現在でも実戦使用は非常に困難といわれている。初心者の伊藤が使えば、どうなるかは誰の目にも明らかだった。
「こういう機会も利用して開発も一気に進めんだぅぁよっ!」
「お主が死ぬといっておるんじゃ!」
「はいはい、二人ともちょっと落ち着いて。深呼吸だよ深呼吸」
 掴み合い殴りあいに発展しかねない一触即発の状況を見かねた門見雨霧(eb4637)が間に入り、両者を制した。それを皮切りに傍で見ていたロニアや工房員たちが割ってはいることで事態は沈静化し一応の搭乗許可が下りたが、やはり死は覚悟しておけとの忠告が残された。
「‥‥助かりました」
「なんていうか、ロニアさんも大変だねぇ」
「いえ、それにしても‥‥」
 ちらりっとロニアの目が向いたのは伊藤の方向。
「‥‥あの兵器を何の訓練もなしに使うなど、正気の沙汰とは思えません」
「んー、伊藤さんなりに考えがあってのことだと思うけど。それに何事もやってみないとわからないし、何もやらなかったら本当に何もできなくなっちゃう。騎士も冒険者も、気持ちは一緒なんだし、生きてゴーレムを工房に返せる様にしましょう」
 門見のいつもとは違う物言いに、心の内を見抜かれた気がしてロニアは目を合わせることができなかった。一言でいうなら、迷いがある。この都市を守り抜くことに対してではなく、自分自身に対して。
 にへらっと崩れた笑みを向けて、門見。
「その為には、工房をメラートを守った上で、生き抜かないと」
 ‥‥なんかギルさんが墓場まで取立に来そうだしね〜と付け加えた表情はいつものものでロニアに幾分の安心を与えてくれた。
「さて、みんな〜、ミリーのためにも裏方の底力を見せましょ〜」
 怒号の如き返事が返ってくるまでに掛かった時間は余裕で一秒を切っていた。この極限の状況下でも効果を発揮するとは本当に恐るべしである。





●空の戦、地上戦へ
 竜の目から都市全体を隠しきるまでに要したミストフィールドの回数は十回以上。クリシュナの補助があったとはいえ、それを無事に終えることができたのはイリアの実力といわざるを得ないが、問題はその後であった。
 ガリュナ襲来の報を受けて冒険者たちは二部隊に分かれて行動を開始した。彼らが立てた作戦は都市を霧で隠しつつ、フロートシップを初めとする囮の部隊がガリュナをあるポイントまで誘導する。そこで予め待機している伏兵部隊が包囲、徐々にダメージを与えて竜を正気に戻そうというものであった。
 作戦はドラグーンの投入によって一先ずの成功を見たが、被害は大きいものだった。ランドセルを使用して囮を試みた伊藤とシファは誘導の途中でガリュナに追いつかれ、それぞれ半壊してしまっている。初めての操作で扱えるほど容易な装置でなかったこと、そしてシファにとっても訓練の途中段階であることと囮部隊の、特に空の援護が少なかったことが災いした。完全に破壊される寸前でスニアが牽制してくれたおかげで難を逃れたが、現在両騎体とも工房に戻されて修復活動が行われているところだ。
 戦場は地上へと移り、そこでも冒険者たちは苦戦を強いられていた。
 三十メートル近い竜を包囲する人間たち。例えるならばそれは天に聳える山に小さな石飛礫がぶつかるようなもの。ゴーレム小隊二つを合わせれば、十数騎の騎体が集まっていることになる。空には高速艦ヤーン一隻と大型フロートシップが三隻、地上では西方騎馬隊が一撃離脱の援護攻撃を行ってくれる。だが、竜の発する地震は冒険者たちの行動をキャンセルさせ、攻撃段階にある身体を震わせ大きく命中率を削いでしまう。このような状況ではいかなる技量も発揮できるわけがなかった。それでも四方八方からの攻撃によって竜の行動力を削いでいったのは彼らの底力というものなのだろう。空中を駆けるファングが隙を狙って得物を振るい、ゴーレムたちが力任せに武器を叩きつける。振り回された尾が大地ごと騎馬隊を吹き飛ばし、それでも繰り返し突撃しては冒険者のために隙を作り出す。地上と空、両方からの攻撃によってガリュナの注意は目に見えるものにのみ捕らわれているように見えた。
「お願い、早く正気に戻って!」
 戦乙女の名を冠する『ヴァルキュリア』を操ってフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が大きく騎体の腕を振り上げた。そこから放たれるのは大木すらも真っ二つにする威力を持つ真空の刃。合わせて空から放たれた精霊砲の連射がガリュナの視界を煙に染めるのを確認して、高速艦ヤーンのカタパルトからベアトリーセの操るドラグーンが飛び出した。
 全ての攻撃は囮。竜の鱗を貫くともなれば、それ相応の一撃が必要となる。それを確実に当てるためには、ぎりぎりまで引き付ける必要がある、そう考えてガリュナの目が届かない艦内に待機していたのだ。
 槍を突き出したドラグーンが煙を貫き、雷の如く地上へと落下した。





●竜神の力
 あらゆる音が、消えていた。
「やった‥‥のかな?」
 制御胞からじっと見つめる門見にワーズから風信器を通じて連絡が入った。
『確認できるか?』
『煙が酷くて難しいね‥‥。スニアさんから見えない?』
 首を振るスニアは弓の構えを解くことはなかった。それを見習うように周囲にいる弓兵たちもじっと身構えている。
 数キロ先にいようとも感じていた竜独特の気配が消えていた。まるで最初からいなかったように。スニアが矢を番えると煙の奥をにらみつけた。そんなはずはない。だがこれほどまでに微塵も気配を感じさせないことは熟練の戦士でさえできるかどうか。
「これは‥‥」
 門見の頭に浮かんだ一つの魔法。もしそれを竜が使ったと仮定した場合、狙うのは‥‥。
『みんな、散開し―――』
 突如出現した山のような巨体にあちこちから悲鳴が吹き上がった。スニアが後ろを振り返れば、そこにいたのは竜神ガリュナ。アースダイブによって地面に潜り、門見の真下に出現した竜は騎体の胴体に齧り付き、そのまま高度数十メートルまで持ち上げていた。
「門見さん、‥‥くっ!?」
 救出しようとスニアが矢を放つよりも早く、尾によって弾き飛ばされたモナルコスが飛来してきて回避行動を余儀なくされる。そうこうしている間にも逆に竜は距離を詰め、巨大な爪を振り下ろしてきた。
 地面ごと抉り取る巨大な爪。モナルコスの装甲さえ易々と引き裂くその切れ味は人間の身体など簡単に両断することが出来る。一撃でも食らえば重傷は間逃れない。
 更に一撃。攻撃に転じる暇がなかった。その巨体からは考えられないほどの行動力で竜がスニアへと尾と爪を振るい続けていく。高い回避力を誇るスニアもリーチの長さとその攻撃回数に防戦一方だった。
 足元を揺るがした地震により動きが止まった一瞬を狙い竜が鋭利な爪を振り下ろす。最早避けきれないと覚悟したスニアを助けたのはワーズのオルトロスであった。
『ドルス、バルパー、盾を構えろ! ドロシー、第二小隊に連絡を取れ、早くしないと全滅‥‥ちぃ、言わんこっちゃない!!』
『スニア、下がって!!』
 フィオレンティナが刃を振るう。しかし鋼の鱗に加えて硬い石の鎧を纏った竜の防御力はゴーレムのそれを凌ぐ。彼女の真空刃でさえ竜に手傷を負わせることが難しい。
 ガリュナを包囲していたということは、言い換えれば円状に密集していたということ。中心から脱出されれば、見事なまでの密集陣形を取っていることになる。この状況で重力のブレスを放たれれば、その効果は地上部隊全員に及んでしまう。そうなれば被害は甚大。
 咆哮と地震、その二つの後にやってくるのはドラゴンのブレス。地震の規模に比例してその威力も大体の予測がつく。辛うじて間に合ったロニア、ワーズの二小隊が盾を前に地上部隊を庇うよう横一列で壁を作ったのは、ブレスが飛んでくる数秒前。


―――――――――――――――――――!!!


 それはまるで嵐だった。耳鳴りと震動、見えない衝撃波が衣服を後方へとはためかせ、手にした武器を剥ぎ取ろうと吹き荒れる。足元の地面が一定しないことに加えてゴーレム隊の隙間から押し入ってくる衝撃の残滓が生きているはずの身体を恐怖というもので凍えさせていく。
『スニア殿! ブレスの直後を狙って竜を牽制し‥‥』
 背中に隠れたスニアへ必死の指示を送ったワーズの目が大きく見開かれた。
 ブレスを放った直後の竜がもう次のブレスへの準備段階に入っている。足元がゆれ、大気が竜の激情に大きく震えていく。
 矢筒に手をかけたまま、スニアも時間が止まったように立ち尽くしていた。
 竜の一番の脅威といえば、山をも吹き飛ばすほどの威力を持つブレスに他ならない。その一撃は大地を抉り、メイが誇るゴーレムでさえ吹き飛ばす。だが、最も驚嘆すべきはその威力ではなく、
 ――――何故、続けざまに放てるのか。

「――――――――――――――――!!!!!!!」


 声を上げる時間もなく、陣形を敷いていたゴーレム小隊が前線のヴァルキュリア共々、重力の波に呑み込まれた。






●炎の中で
 地上部隊の崩壊に伴い、戦場は空へ移行していた。
 空には大型艦三隻と高速艦ヤーン一隻が待機していたが、攻撃力が不足した空軍になす術はなかった。最初に犠牲になったのは竜の真上にいたヤーン。船底をぶち抜かれ、機関部を破壊されたヤーンは墜落し、魔術師たちが乗る大型船の一番艦もまたゼロ距離からのブレスを受けて内部から崩壊し、その残骸を地面に横たえている。
 精霊砲の暴発が残骸の木片に炎を宿し、濛々と黒煙を上げている。その中で立ち上がった二人の影はクリシュナとイリア。ポーションによって体力を回復するが、精神的なショックは大きい。空を見上げれば、唯一浮かんでいる大型艦とドラグーンが竜と戦闘を繰り広げている。精霊砲が火を吹き、大弩弓が次々と発射されるが竜はものともしていない。
 周辺に炎を纏ったままひっくり返っているのは先ほどまで共に戦っていた乗員たち。墜落の際にそのほとんどが死亡しており、二人が生き残ったのは単なる運によるものだ。
 援護しようにも空に向かう手段はない。二人の魔法もあの上空までは届かなかった。
 やがて大型艦が墜落し、数分遅れてドラグーンが地上に叩きつけられた。そしてその上に竜の巨体が圧し掛かり、数十トンにも達する体重が強固な装甲を押し潰していく。
 搭乗者のベアトリーセを救出しようとファング、スニア、導、フィオレンティナ、門見がガリュナに向かっていくが、負傷した身体、しかもたった5人で敵うはずもなかった。しかも竜はドラグーンを人質として、有る時は盾として扱い巧みに攻撃を凌いでいく。暴走しながらも高い知能を保っていることが冒険者たちを更に窮地に陥らせていた。
 二人が負傷した身体に鞭打って援護に向かおうとした時だった。木が焦げ、人間の焼ける異臭漂う炎の中からかすかな人の声が聞こえてくる。最初は生存者かと思った二人だったが、声が聞こえてくるのは人影すらない場所から。焼け焦げた風信器からだった。
『――――ます―――を』
「この声は‥‥」
「クライフさんっス!」
 声の主は巴と共にヤーンに搭乗していたクライフからのものだった。半壊した風信器では声が不明瞭で雑音が酷く、何かを必死に伝えようとしていることはわかったが、肝心の内容が理解できなかった。
「クライフさん、よかった! 生きてたんスね、こっちはイリアさん共々無事っス。そっちはどうっすか!?」
『――――セさんを救出―――――、――――精霊砲を――、――――――取りますから――――』
「何ですか? 何を言っているかよく聞こえません。もう一度」
 風信器が完全に途絶え、二人が大きく息を吐いた。何かを伝えたかったらしいが、交信が途絶えた今、それを確認する手段はない。
「どういうことでしょう?」
「ん、んーと、聞こえた単語は、救出と精霊砲‥‥」
 この極限状態でそれを閃くことができたのは二人が共に鋭い知力を有していたからに違いない。ほぼ同時に顔を上げた二人は何とも言わずに瓦礫を押しのけながら、炎翻る艦内に入っていった。
 向かったのは、精霊砲のある船首。
『門見さん、聞こえますか!?』
 竜との戦闘中である門見へ突然入った連絡は、船首に到着したイリアからのもの。他方フィオレンティナの方にもクライフからの連絡が入っていた。
『クリシュナさんたちが精霊砲を使って竜の視界を塞ぎます。その隙を狙ってドラグーンを救出して下さい。フィオレンティナさんのヴァルキュリアなら出来るはずです』
『りょ、了解だよ!』
「スニアさん、竜の動きを一瞬で構いません、止めてください! そうすれば煙幕に紛れて俺とゴーレムで一気にドラグーンを引きずり出します!」
「簡単に言ってくれますね‥‥」
 ファングとヴァルキュリアが前線で竜の攻撃を凌ぎ、導が空からストーンなどの竜の魔法を解除し、門見とスニアが後方から弓で援護する。適材適所で防御に徹しているからこそ、戦線を保つことができているのだ。前線の二人が攻撃に転じれば、一気に全滅する危険性もある。だからといってこのままではジリ貧であることはスニアも理解できた。
 数秒の思案。狙うべきはどこか。闇雲に撃っても竜の鱗どころか岩の装甲を突き破ることすら出来ない。確実に動きを止めるためには、鱗と岩が薄く、尚且つ急所でなければならない。
 腰に下げた矢筒から一本を掴み取り、弦に番えてから放つまでに掛かった時間は二十秒近く。
「―――――そこ!!」
 耐えに耐えて放たれた矢が向かったのは、口内。威嚇を込めて両顎が開くタイミングを読んだ一撃。
 だが、そんなスニアの意図さえ見透かしていた竜は、逆に彼女の動きが止まったのを見て矢ごとブレスによって片を付けようとした。すでに動作に入っていたスニアに止める術は、ない。
(止まらな‥‥)
『グゥアアアアアア!!!!』
 それはブレスを吐いた咆哮ではなく、痛みの悲鳴。
 竜のわき腹に突き刺さっていたのは、ドラグーンの槍。
『‥‥私を踏みつけて‥‥おいて、ただで済むなんて‥‥思わないでよね!』
 激痛に竜が一瞬停止した瞬間その側面に精霊砲の火の玉が爆発した。煙に紛れて接近したファングたちがドラグーンを救出し一気に離脱する。
『ベアトリーセ、大丈夫!?』
『この‥‥くらい、何ともない‥‥ですよ』
 姿こそ見えないが、やせ我慢であることはすぐにわかった。あの竜に踏み潰されていたのだ。ドラグーンでなければ、とっくの昔に圧死していただろう。
 救出に成功して息を吐いたのも束の間、突如大規模な地震が生じた。その凄まじい規模はこれまでの比ではない。
 気がつけば、巨大な咆哮を上げた竜の矛先がこちらへと向いている。
 重力のブレスが放たれるのと同時に、散開して回避に成功する6人。しかしその狙いが自分たちではなかったことに気づいたのはフロートシップの残骸吹き飛んだ後のことだった。
「イリアさん!」「クリシュナさん!」
「‥‥まずい!!」
 巨大な竜のブレスが霧を吹き飛ばしてしまい、メラートがその姿を余すことなく晒しだしている。
 攻撃目標がメラートに移ってしまった。その事を証明するかのように、頭を天空に上げた竜が初めて見る人工物を静かに凝視している。数秒の沈黙が竜に何を思い至らせたのかは容易に想像がつく。
 メラートに向けて直進するガリュナとの、最後の攻防が開始された。


●守護者の背中
 メラート工房には避難民の他に、リンドと数名の工房員、リュブリャナの戦士たちと共に旗の仕上げに入るグラン、そして作戦初期で破損した、ランドセル搭載のモナルコス搭乗者である伊藤とシファの姿があった。
「少しでいいから修理しろってんだよ! 動くだけでいいんだっつの!」
 胸倉を掴んだ伊藤に対し、ギルの怒声が飛ぶ。だがそれでも伊藤の勢いは寸分も衰えなかった。
「馬鹿もん、一度痛めにあっておきながら、まだ行くというのか!? お主じゃこいつは扱えん!」
「だぁから、まっすぐ飛ぶ、っつか真っ直ぐ突撃っきゃねぇしな、加減もへったくれもねぇ! 体当たりして竜に一泡吹かせてやる!」
「経験者のシファですらあの有様じゃぞ! 死ににいくようなもんじゃ!」
「ギル工房長、私からもお願い致します。出撃の許可を頂けませんか?」
「お主まで。正気か?」
 頭に巻いた包帯を血に滲ませたまま、シファがゆっくりと頷いた。
「空の援護もない。ゴーレム小隊は半壊し、騎馬隊も瓦解している。私たち二人で出撃するのは無謀だと承知しております。ですが今行かなければ、私たちがここに来た意味がなくなってしまいます」
 ランドセル自体が実験段階の装置である。しかもそれを完全に扱うことに成功したものは一人もいない。経験者のシファでさえ、まだ実戦での使用とはほど遠い段階にある。それを承知して作戦で使用した結果が頭の包帯だ。
「だがのぅ‥‥」
「あぁ〜ごちゃごちゃうるせーな!」
 叫んだ伊藤が指差したのは、外にまで溢れかえる避難民たち。
「こいつらは俺たちが助けてくれるって思ってここに来てんだ! それなのにその俺たちがびびって引っ込んでちゃ格好がつかねーだろうがよ!」
「私たちの命でこの街が守れるならば、やすいものでございます。簡単な修理だけで構わないのです。どうかお願い致します」
 恭しく礼を取ったシファ。全く対照的な態度を取る二人だが、その奥に漲る思いは同じ。
 眉を顰めること数分、岩みたいな顔がより一層険しくなって、漏れたのは諦めとは違うため息。
「‥‥‥‥‥完了しておる」
「‥‥あん?」
「修理はもう完了しとると言ったんじゃ! さっさと行って来い、小童ども!」
「工房長‥‥」
「やかましいわい!! わしにはやることが腐るほどあるんじゃ、さっさと消えんか!」
 分厚い背中を見せたまま、どしどしと工房の奥に消えていくギルの姿を見て少しだけ笑みをもらす二人。
 互いに顔を見合わせたのは、この街に命を賭ける覚悟からだろうか。
 二騎のモナルコスが工房を飛び出していったのはそれから数分後のこと。
 数千の人々の願いを受けながら、遠のいていくゴーレムの背中は『メイの楯』と呼ばれるに相応しいものだった。



●流星
 メラートの城壁を目前に控えて冒険者と竜との戦いは激化を極めていた。
 絶えず鳴り響く地震は冒険者たちの行動力をそぎ落とし、連発可能なブレスは高い回避力を誇る戦士たちでさえ防戦一方に陥らせる。翼をもがれたドラグーンでは飛ぶこと叶わず、ヴァルキュリアと共に戦線を支えるものの、竜の強固な防御力を貫くには決め手を欠いていた。
『あぶない!』
『‥‥!』
 屈むことで尾を回避したフィオレンティナと違い、反応できなかった門見の騎体が大きく弾き飛ばされた。モナルコスの胴体ほどある尾が装甲を凹ませ、制御胞にいた門見の右半身を押しつぶす。ゴーレムという入れ物の中に入っているからこそこの程度で済んだが、生身ならば間違いなく絶命していた。
「無事ですか!?」
『これは無事って‥‥げほっ、言えるのかな。弓も‥‥落としちゃったし』
 半壊した制御胞から門見を引っ張りだすべく、スニアがハッチに駆け寄ると再び大地が震えた。竜がブレスの準備動作に入り、その矛先は冒険者の誰かではなく、メラートに向いている。導がペガサスを駆るが、あまりに距離がありすぎる。ファングの剣風が唸りを上げて竜の胴体を切り裂くが、岩の鎧が邪魔をして攻撃を阻止するまでには至らない。
『――――――――――――!!!』
『―――――させないよ!!』
 四肢を大地にしがみ付かせ、まるで大砲のように頭をまっすぐに突き出した竜の眼前の飛び出したのは、フィオレンティナ。
 ほぼゼロ距離から放たれる竜の吐息を、戦乙女が己を犠牲にして受け止める。ブレスは竜の口から飛散して目標物を破壊する。直線軌道とはいえ膨らみを見せる以上、距離があればあるほどその威力は当然衰える。逆に発射口でそれを受け止めることは発生する重力の吐息全てを受けるということを意味していた。
 まるで超越のファイアーボムが炸裂したようだった。ブレスの圧力に耐え切れなかったヴァルキュリアは胴体を境に真っ二つに砕け、内部から崩壊した。
「フィ―――――――――」
 呼んだ名は形を持つことがなかった。捨て身の行動にも完全に止まらなかったブレスは、完成した旗を持って城門をくぐったばかりのグランに向かっていく。ワーズの乗るオルトロスが庇ったおかげで旗は無事だが、代わりにその騎体は腕と盾を残して消滅した。
 地震が再びやってきた。規模は最大級。狙うはメラート。ブレスが放たれるまでにもう数秒と掛からない。
 誰もがその阻止に動くが、あまりの震動が身体を束縛する。
 一瞬の静止の後、天を仰いでいた竜の頭が地面に下ろされようとした刹那、それは生まれた。
 時間にすれば、一秒あったかわからない。霧の残滓の中から重力に反し、大地とほぼ平行の軌道を描いて突出してきた塊。突き破った霧の線を軌道に残して、終わりつつある夕暮れの地平を貫いたそれは‥‥、


「―――――――――――流星?」


 槍を前に騎馬の突撃(チャージ)のように突貫するのは伊藤の乗ったモナルコス。ランドセルの最大出力で飛翔する速度は騎馬のそれではない。
 後のことは他のやつらが何とかしてくれる。そんな覚悟で装置に全精力を費やす。
 初心者である伊藤がランドセルを扱うことができたのは奇跡に近い。しかしそこには明白な理由があった。彼が天界人であったこと。この世界が千年以上後に得るであろう、地球で得た僅かな知識。それがこの装置の制御において優位に働いたのだ。
 狙う場所は竜の頭。
 速度がつきすぎていることで身体が千切れそうになっている。このまま衝突すれば槍はおろか、騎体が木っ端微塵になることも予想がつく。
 それでも、衝突のその瞬間まで伊藤が取った行動は装置を加速させることだった。


「ぶちかまっ―――――――!!」


 隕石の如き衝撃によって大きくよろめいた竜が大地にひれ伏した。多くの者たちが愕然とする一方、空にはもう一つの輝きがあった。グランと共に参戦したリュブリャナの戦士たちがグリフォンから槍を投げつける中、シファ騎が上空へと舞い上がる。
『早く、今のうちに!!』
 ランドセルによって背中に飛び乗ると巨大な鎖を使って竜の翼を絡めとり、胴体や首にまで鎖を巻きつけて行動を縛っていく。雄叫びを上げながら攻撃を開始する冒険者たち。それはまるで一条の流星に導かれるかのようだった。
 強引に振り落とされたシファ騎が竜に踏みつけられて砕け散る。制御胞が砕け、中にいた彼女が助からないだろうことは誰の目にも明らかだった。だがそれでも冒険者たちは止まらない。彼らがいますべきは悲しむことではなく、竜を止めること。心同じくした彼らの気迫は、圧倒的な有利にあるはずの竜を脅かしていた。
 岩の鎧を砕き、竜の鱗をそぎ落とす。動けば動くほどに絡み付いていく鎖を利用して死角に回り、戦を有利に進めていく冒険者たち。最後は導が命を犠牲にして囮となり、ファングが脳天に一撃を与える。そしてグランの剣風が竜の身体に大きな傷跡を作って戦は終結した。





●目覚め、眠る門
「おはよう、大き者。といっても今は夕方だが」
 隆起し陥没し、崩壊した大地は長い時間を経てようやく静まっていた。
 多くの犠牲を出して手傷を負わせた冒険者たちとは全く異なり、竜は平然とそこに立っていた。
 頭に伝わってきたのは竜からの思念だ。
「グラン・バクという。名を呼んでも構わないか?」
(‥‥わが名を知る者か?)
「スノードロップ。それが貴方の名だろう?」
 返ってきた返事は、否。
(我が名は『木漏れ日に咲く雪花(シャーリア)』。汝が唱えし名は我が人間の巫女に授けし名前。後方に描かれし花は我が名の源に過ぎぬ)
 花の名前が竜の名と思った冒険者たちだったが、正確にはそれを愛した少女が花になぞらえて作ったものが竜の名。族長から伝承の全てを聞いたわけではなかった彼らが間違えしまうのも仕方のないことだったが、竜を正気に戻す前に名前を知るには、竜との戦闘中に何かしらの方法で呼びかけ聞き出すしかなかったのだ。
「ではシャーリア、私はこちらと、そちらの花を繋げに来た。‥‥ん、意味が判らないか‥‥では、こういったほうがいいか」
 グランは後方に旗を翻しながら、言う。
「貴殿と友達になりに来たんだ」
 荒れ果てた大地の真ん中でグランが静かに微笑んだ。




 この後、正気に戻った竜神ガリュナは一人山脈へと戻っていった。
 罪なき人間の命を奪ってしまったことに対する懺悔の念が竜にあったのかはわからない。はっきりいえることは争いを好まないこの竜が再び安息の時を求めていたということだけである。
 生き残ったリュブリャナの民は山脈が落ち着きを取り戻すまでメラートで生活することになった。ゴーレム二小隊の被害は甚大で、隊員の半数が重傷、残りの半数が第一小隊長ワーズ・アンドラスと同じ瀕死の怪我を負い、長期の療養に入ることになっている。

『大地に混沌の力が満ち始めている。いずれ西の果てより異界のものどもがやってこよう。汝らの土地に眠る門を開かせることなかれ』

 最後に竜神が残した警告は予言ともいえるもの。
 これによりアスタリア問題は終結を迎える。メラートの防衛に成功したスコット軍であるが、それによってそがれた戦力は計り知れない。
 今後やってくる脅威に対抗する力は、果たして‥‥。