【決戦・瘴気】作戦補足
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■ショートシナリオ
担当:紅白達磨
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月02日〜05月07日
リプレイ公開日:2009年05月11日
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●オープニング
アスタリアの竜神襲来より、約半月。
多くの避難民と被害を生み出した西方地域だが、中央議会は最低限の物資を送るのみにとどめ、現在も復興作業も半ば放棄された状態が続いている。なぜか。その理由を見るためには、西方地域の西、アスタリア山脈を越えた更に西にある。
メラートに配備されていたゴーレム小隊は半壊し、援軍に向かっていた東方艦隊も半数以上が墜落した。メラートの防衛に成功したスコット領軍だったが、竜神の暴走を未然に防げなかったという点を考えれば、アスタリア問題は成功とは程遠い形で終結したともいえる。そして、このような状況下に追い討ちをかけるかの如く接近してくる巨大な影。それは、数ヶ月前に確認されていた瘴気。およそ五月中旬には隔ての門への到達が予想されており、迎撃予定のほとんどの部隊がすでに隔ての門付近で作戦の準備を行っている。南方地域のクシャル軍に不穏な動きがあるとの報告を受けて、ベイレル・アガ率いる傭兵師団は防衛拠点ラケダイモンでの待機が決定しており、ベイレル隊の作戦参加は見送られてしまっている。
冒険者とマリクの間で進められていた対瘴気作戦は、竜神襲来の一件により中途半端な形で放置されてしまっていた。時間的余裕が既になくなってしまったことから、すでに練られていた案を元にマリクが作戦の概要を決定、すでに準備が開始されている。
大規模な工作を必要とする作業を行うことはもはや不可能である。今回冒険者たちに求められるのは既存の案を元にした対抗手段の作成、及び事前に用意してもらいたい騎体、武器、アイテムなどの提出である。瘴気襲来まで凡そ20日から30日。それを踏まえた上で依頼に望んでもらいたい。
■参戦予定の部隊
・中央のマリク・コラン率いる魔術師中隊(マリク:水魔法・専門6、隊員:水、風魔法・専門1)
・アナトリア・ベグルベキ率いる西方騎馬隊
・ベルトラーゼ率いる鷹の氏族
・西方メラートのゴーレム小隊(モナルコス2、オルトロス1)
・北方地域の天空騎士団(グリフォンを操る騎士と兵卒。凡そ40)
・東方地域の航空艦隊(大型フロートシップ1隻、高速艦ヤーン1隻、グライダー7)
■作戦概要
隔ての門麓に到着した瘴気に対して精霊砲による威嚇射撃、本体を燻りだす
↓
本体が絶壁を登る間に航空隊の投擲・射撃、魔術師隊の水・風魔法、土砂・水流で勢いを削ぐ
↓
瘴気本体が頂上に到達次第、ゴーレム隊が攻撃開始
※魔術師隊、ゴーレム隊、航空隊以外は頂上付近に出現するカオスの魔物の排除に尽力
※ゴーレム隊以外の攻撃は勢いを削ぐことが目的であり、ゴーレム隊による頂上での殲滅が本作戦の目的である。
■瘴気本体に対する主な対抗策
・マリク率いる魔術師中隊
風・水の魔法を使い行動を封じる。クリエイトウォーターとウォーターコントロール、ウェザーコントロールなどを使用予定
・航空隊
グライダー7騎による弓矢・投擲。魔力を帯びた槍や矢で攻撃予定
・水鉄砲
塞き止めた川の水をぶつける。堰の準備は半分近くが完成しており、期日までに間に合う予定。
・土砂
絶壁の一部を精霊砲で破壊し、土砂の雨を瘴気本体に降らす。勢いを削ぐことが目的。効果の有無は不明。
・ゴーレム隊
ブラン製の剣、もしくはレミエラによる魔力付与を行った武器による攻撃。
■その他
・スコット軍が展開している隔ての門周辺に多数のカオスの魔物(死人や下級魔物)が確認されている。作戦決行時は妨害が入るものと予想される。
・以前成された条約に従い、中央議会はクシャル軍に援軍を要請したが未だ返答はなされていない。
●リプレイ本文
●戦の波紋
その変化は、都市全体に現れていた。
情報などどこから漏れるかわかったものではない。だからこそ本当に秘匿とされる情報は誰の耳に届くことなく、持ち主の頭の中に閉じ込められる。存在すら気づかれることなく、大海の底に没する船と同じだ。外部との行き来が頻繁な冒険者たちがこうして表立って招かれる段階にあるのだ。瘴気襲来の報が城下に漏れていたとしても何ら不思議はなかった。
「‥‥‥‥何人くらいかなぁ」
「何がです?」
中央都市レディンに門を潜り、城に続く大通りを歩いていたときだ。門見雨霧(eb4637)がさながら猫の如く、人より頭一つ低い視点から左右の市場を眺めている。
「この街に住んでいる人の数」
「スコット領南部の中で一番大きい都市なんでしょ。五千はいるんじゃないかしら」
「こういう都市は出稼ぎの人や商人とかの出入りが大きいですからね。一概にどうとはいえませんよ」
天界出身の門見に説明しながらも、クライフ・デニーロ(ea2606)とベアトリーセ・メーベルト(ec1201)の視線は同じ方向に向いていた。あれだけ陽気に賑わっていた市場が見る影もない。買い手と売り手の双方で溢れていた場所は、今やこの都市から逃げ出そうとする人々の姿で満ちていた。
「逃げられる手段があるだけましなんだろうけどね」
「ん〜?」
男性+馴染みということでクライフの口調も丁寧なものから砕けたものに変わっていた。
「瘴気がやってくるまでもう一月もないんだから、歩いて逃げられる距離はたかが知れている。徒歩で下手に逃げるより、城壁に守られたここで大人しく震えていた方が良いって普通思うでしょ。今逃げ支度している人は何も考えずに行動している人か、それとも馬とかフロートシップに乗れるだけの財力やコネがあるとか、要するに富裕層の人たちだよ」
「へぇ〜、なるほどねぇ」
隔ての門に到達するのが五月中旬か下旬。仮に隔ての門での迎撃が失敗した場合、瘴気がスコット領南部を飲み込むまでに一月も掛からないだろう。そうなれば、一番に犠牲になるのは逃げる術を持たない農民たちだ。
「そうならないために、私はここに来たんだもの。頑張りましょ♪」
レディン城を目前に捉えて、ベアトリーセが頬を紅潮させる。ありきたりな言葉だが、出来ることは確かに砕いていえば『頑張る』ことだけなのだ。
●作戦会議
レディン城に入った三人は、すぐさまマリクの個室に通された。待たされること一時間近く、見るからに疲弊したマリクの登場に全員は目を丸くした。先ほどまで議員たちと瘴気を議題とする会議をしていたらしいが、何てことはない。簡単にいえば、マリクが無断でスコット領南部のほぼ全戦力を動かしていることに腹を立て文句を言われていたのだそうだ。当たり前のことだが、隔ての門に結集している騎士や兵卒たち全てがマリクの統治する北方地域の者たちではない。半数以上が各地域に属する者たちであり、それは突き詰めれば、中央議会の議員たちの統治する領地の兵たちでもある。彼らの上司である四貴族やグレンゲン侯爵が承諾しているとはいえ、マリクの独断で半ば強引に兵を回収されたことが気に食わないのだろう。ある意味当然の反応ともいえるが‥‥。
「こんな時にも外聞が大切かぁ。瘴気が来ちゃえばそれどころじゃないのにねぇ」
門見の言葉とそれに頷く二人の反応ももっともであった。
本当の対瘴気会議が始まったのはすぐのこと。
まずマリクから作戦概要の説明があり、結集する戦力が述べられた。そして冒険者たちがマリクの案を、どのように作戦を補完していくかが進められていく
「まず水魔法を扱う魔術師隊を三分割、風魔法の部隊を二分割します。その後専門ランクの水の塊を5つ生成して皮膜状に変形しつつ以下のように待機させます
壁壁壁壁壁
ーーーーー
◆ーー◆ー
◆ーー◆ー
AーーB◆
風魔法の2部隊がストームで進行方向を補正して水壁A・Bの間に追い立てて貰い、場合によってはグライダーでの陽動を願います。その後は私の水塊で後方を塞ぎ、ストームの支援を受けつつ伸ばせる限り皮膜を上方に伸ばしていくというわけです」
クライフの発言が途切れるのを待って、マリクが視線を上げた。
「瘴気の進路と行動を水壁によって補正するというわけですか。崖の下に部隊が待機していれば、瘴気に呑まれて息絶えてしまいますから身を守る術さえあれば、あるいは‥‥」
「具体的にはどのような方法が考えられますか?」
「生身の身体を水壁で守りつつ、同時に進路を形成する水壁を維持しなければなりません。風魔法で瘴気の全てを退けることは難しいでしょうから。防御壁である水壁と進路補正の水壁、隊をこのどちらの担当にするか割り振りした方が効率も上がるでしょう。瘴気本体が壁を登り始める前に魔術師隊が攻撃される危険性もあります。そして一番の問題点は‥‥門見さんが仰ったようにヒト型本体を土砂で埋めてしまい、精霊砲や魔法などで飽和攻撃を行う際に出てきます。つまり、壁の上から土砂を落とした際、魔術師隊が瘴気と一緒に押し潰されてしまうかもしれないということです。また先ほども申し上げたように部隊を壁の下側で活動させるためには水壁のような瘴気から身を守るための術が絶対的に必要となる。当然隊の規模が多ければ多いほど水壁の大きさも増してしまう。魔術師中隊で操れる水量では50名程度の人間を包み込める球状の水壁を作るのが限界ですから、それは十分ご留意願います」
「んー、難しいねぇ」
自らを守る球状の水膜を維持しつつ、瘴気の進路と行動を補正する水壁をも操る。この二つが出来なければ、クライフの案は成立しない。
「瘴気の規模は膨大です。それこそ大地を埋め尽くしてしまうほどの‥‥例えるなら陸を覆う海のようなもの。その行動を数十人の水壁で制御するには限界がありますから、狙いをヒト型本体に絞った方が無難かもしれませんね」
「対瘴気用の武器に関してだけど、生身で接近するのは危険すぎると思うんだよね。出来るだけ距離をとって攻撃した方が犠牲も少なくなると思うんだけど」
「門見さんの言う通り、なるべく遠距離攻撃が可能な武器を準備いたしましょう。やはりそうなると‥‥弓になりますか。フロートシップや壁上からの大弩弓が一番良いでしょう。私も犠牲は最小限に留めたい。蓄積した水流は本体出現後に壁上から放出するよう致します。用途はお任せ致しますが、ベアトリーセさんの意見に従うならば、出現したヒト型本体を土砂で埋めた後、脱出しようとしている最中に水鉄砲で攻撃する、というのが最良かもしれません。ただ、この場合必然的に壁下に展開する部隊も水鉄砲を受けることになりますから、何かしらの対応策が必要になるでしょう」
マリクの立てた案では『隔ての門』の麓ではなく、頂上での迎撃が目的とされている。その理由は麓に部隊を展開させれば、上記したように土砂や水の被害を受けることになってしまうからだ。大地を埋め尽くすほどの規模は例えるなら津波のようなもの。隔ての門到達時の絶壁頂上からの光景はさぞかし圧巻だろう。何しろ、森林と荒野の色であるはずの大地が、見渡す限り瘴気の紫で染まってしまうのだから。
「瘴気が絶壁を登ってしまえば、頂上付近で展開する歩兵隊にも被害が出るわ。壁を登っている間に仕留めるのがベストなんじゃないかしら?」
「確かに、それが理想ではあります」
ベアトリーセの言葉にマリクは逆らわない。
「私が危惧している点として皆さんが仰るように、本当に瘴気が壁を登るのかとところにあります」
揃って首を捻る三人。
「外部から攻撃を受けるまで本体であるヒト型は出現致しません。ですが、以前の戦闘によりヒト型も物質ではなく、気体に近い存在だということが判明しています。つまり人間や獣のように壁を『登る』必要はなく、言い方はおかしくなりますが鳥のように『飛び越える』ことが出来るのではないか、ということです。勿論隔ての門の高度から言ってそれにも相当の時間が掛かるでしょう。周辺に飛散する気体を麓に凝縮させて徐々に頂上との高度差をなくしていく。そして頂上に到達した時点でヒト型として具現化する」
「絶壁を登っている途中に攻撃すれば、本体は出てくるんでしょう? それならその段階で少しでも弱らせておくべきよ」
「ヒト型の能力にはまだまだ不明な点があると考えられます。人間のように壁にしがみ付き、手足を使ってよじ登るのではなく、鳥やグライダーのように空中を自由に動ける可能性もあります。そうなれば、余程の対策を立てていない限りこちらが不利となります。お気をつけ下さい」
●願うものは
門見の提案にしたがって会議も一先ず休止。
「良い案は、適度の緊張と適宜な休憩から生まれる」
門見が持参したインスタントコーヒーでちょっとした休憩タイムが取られていた。
議員に呼び出されたマリクが部屋を後にし、そこには冒険者3人と途中から会議に出席していたロニアが残された。
いつもなら世間話に近い話題に華を咲かせるはずの会話も、今日は作戦に関するものばかりが取り上げられていた。これでも当然といえるのだが、冒険者たちとロニアとの間に一線が引かれているのは双方ともに感じていた。原因はわかっている。前回の別れ際に、ロニアが見せたあの表情だった。
瘴気が頂上に到着してからでは歩兵隊に被害が出ることは必定。壁下で瘴気を撃退するのが理想だが、最低でも壁を登っている段階で撃破したい。そのためにはドラグーンの力を借りなければならない。危険な役目だ。
「森の伐採はどんな感じなの?」
「‥‥三分の一も終了しておりません。絶壁から約1km内は伐採し終えているとの連絡は受けていますが、それほどの効果が期待できるとは思えません」
事務的な応答を終えて何となく気まずい雰囲気が流れしまい、沈黙が広がる。
すると、ベアトリーセからおもむろに差し出されたのは二つのバレンタインカップだった。
「どうせ貴方のことだからホワイトデーとか何もしてないんでしょ。これ持って帰って」
やや強引に押し付けられたそれをロニアが手に取れば、胸元に引かれる代わりに彼女の手が逆方向へと押し出される。
「‥‥私の分も。手作りケーキ渡したんだけど憶えてる? 丁度こんな感じで髪‥‥思いだした?」
口付けでも出来そうな距離に近づいたベアトリーセの顔を見て、思い出す。そういえばバレンタインデーの日もこんな感じだった。あの時はメラート工房総出でどんちゃん騒ぎをやったから忘れていたが、確かあの時もこんな風にせまられてたんだった。
「まあこういう緊急事態だからこそ、そういうことはしっかりしておかないとねぇ」
と努めて軽い調子で切り出したのは門見。
「ワーズさんたちが出撃できない以上、俺たちが頑張るしかないだし。そうなるとロニアさんがゴーレム隊の指揮を執らなきゃいけないんでしょ。隊長さんがそんな暗い顔してたら瘴気と戦う前に負けが決まっちゃうよ」
「そうそう、皆で無事に帰ってまたあんな風に酒場で一騒ぎしたいわね」
「そのときは、僕もご一緒させてもらいますか?」
完全に立ち直ったわけではないだろう。未だ暗い表情は相変わらずだが、それでも少しだけ活力が戻ったのは気のせいではないはず。
瘴気襲来まで残り僅か。
新型ゴーレムの投入も期待され、わずかばかりの光が生まれ始めている。
残るは、『人』と呼ばれる者たちの絆がどこまで通用するか。それだけだ。