幸せの黄色いフンドシ
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■ショートシナリオ
担当:幸護
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 10 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月06日〜09月12日
リプレイ公開日:2004年09月14日
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●オープニング
「これです」
爽やかな笑顔で差し出された桐箱の中に納まっているのは黄色い褌、一枚。
「これが‥‥その?」
「ええ。“守護褌様”です」
いや、そんな爽やかな顔で言われても。
なんつーか、なんつーか‥‥いやいや、堪えろ。気力だ気力!
「なっ? なっ? すッげェだろ! なんたって守護褌だぜェ?」
雁首突っ込んで口を挟んだ少年が、エヘン、とばかりに胸を張り鼻の下を擦る。
桃色頭巾などと名乗る、年の頃十二、三のこの少年が今回の依頼主だ。
如何様に名乗ろうが本人の自由であるし、然して気にもならないのではあるが、問題はその出で立ちだ。
少年が身に着けているのは頭からすっぽり被った桃色の頭巾と褌――のみなのだ。
桃井頭巾曰く、
「あァ?! これが俺様の仕事装束なんでィ」
‥‥秋とは言え、まだまだ暑いからな‥‥。つい、そんな心配をしてしまう。
桃色頭巾こと褌少年は『お助け屋』なる活動を独自に行っているらしい。
ふらふらと町を歩いては騒動や噂を聞きつけ、「俺様にドーンとめっきり任せておけってばよッ!」とか何とか大見得切って強引に依頼を受けてくる。
そして、自身の手に負えず毎度ギルドで同行する冒険者を募るのだ。
大抵の場合は本来の依頼主から報奨金なり礼金が出るもので桃色頭巾の懐が痛む事はないようだ。
そんな訳でギルドではすっかり馴染みの常連なのだが、いらぬ噛み板と言うか、威勢だけが一人前の少々迷惑なお子ちゃまである。
とは言え、一旦引き受けてしまったからには仕事は仕事。思わず逃避したくなる心を強引に引き戻して村人に話の続きを聞く。
「この守護褌が狙われていると?」
「そうです。守護褌様は我が村の守り神。この褌様のお陰で我々は水害などの厄災も受けず平穏に暮らせるのです」
村人の話によると、川を挟んだ隣村では年に一度は川が氾濫し多くの民家が水没する被害に遭っているというのに、反対側のこの村が被害に遭った事はないのだと言う。
「守護褌様のお力です」
(「‥‥いや、それ偶然だと思うけど‥‥」)
偶然と言い捨てるには確かに不思議な話ではあるが、恐らく地形や川の流れなどの問題もあるのだろう。
「この褌様を手に入れようと隣村の者達が善からぬ謀を企てているという噂が流れています」
「へェ、桃色頭巾様に挑戦しようたァ、イイ根性じゃねェか!」
「お前は黙ってろ!」
ポコッ。
話を厄介にするチビの頭に拳骨を一つくれてやって集中、集中。
「隣村が事を起こすなら、恐らく明日から始まる祭りで――」
「祭りがあるのか?」
「普段は桐箱に納めてお祀りし、厳重に警固しておりますが、祭りの二日間は村長が褌様を身に付けるのです。狙ってくるとすれば、恐らくこの時」
「‥‥何の祭りだ?」
「男尻祭りです」
――すっごく嫌な予感。
「この日は村の男衆は皆褌一丁になります。村民でなくとも男は全員褌です。仕来りですので」
にっこりと笑った村人につられ一同思わず笑んだ。
――やばい。
「ただ一つ。守護褌様と同じ、白い褌だけは身に着けてはいけませんのでお気をつけ下さい」
「んあ? 白ォ? だって、こりゃ黄色じゃねェか。白じゃねェじゃん!」
箱の守護褌を指差した桃色頭巾がぱちくりと目をしばたたかせた。
「いえ、白なのですよ、元々は。代々の長の汗などで少々‥‥その、色付いてしまいましたが」
つまり、アレか。洗ってないのか。
汗とか汁とか、何だか知らないが色々染み付いて変色したのか。‥‥そうなのか。
それを守れと言うのか。しかも褌一丁で。
――帰ろう。
そう心に決めて踵を返そうとした時。
「そっかそっか! 安心しやがれ! 俺様達が褌様も守って祭りも盛り上げてやッからよ! なッ!」
威勢だけは一人前の迷惑なお子ちゃま桃色頭巾が胸を叩いた。
その桃色頭巾にガッシリと袖を掴まれて――どうやら逃げられないようだ。
これもそれ、きっと褌様のお導きって事で。
●リプレイ本文
「久し振り〜」
ひらひらと手を振り笑顔を向けた佐上瑞紀(ea2001)を見るなりサッと身構えたのは桃色な頭巾の少年。
「‥‥‥‥なによ、それは?」
一吠えしたら飛びあがって逃げ出しそうな少年に瑞紀が目を眇める。
「だ、だってよォ、あの姉ちゃん危ねェんだってばよォッ!」
白河千里(ea0012)の背中から顔半分だけ覗かせて訴える少年の表情は真剣そのもの。
何があったのかは知らないが桃色頭巾の中で彼女は、すっかりめっきり“危ねェ姉ちゃん”と位置付けられているようだ。
「お祭りだもの。下手な事しやしないわよ」
「ほら、桃。佐上殿もあのように申しておるし、何より女性を疑うは男児として是ではない。そうだろ?」
「うん。そーだよな‥‥」
優しく諭した千里は、桃の頭をぽんぽんと軽く叩いてからくしゃくしゃと髪を乱して掻き撫でた。
「でもさ、でもさァ? アレでも‥‥疑っちゃいけねェのか?」
「お祭りは楽しい方がいいわよね‥‥ふふふ」
桃の指差す先、双眸を不気味に輝かせ、口端を引き上げた瑞紀の含み声が響いている。
「男はつらいな‥‥」
「そっか、男ッてェのはツライんだな千里ちゃん」
「千里ちゃん言うなっ!」
「皆さんようこそおいでくだすっただに」
褌一丁で迎えたのはどうやらこの村の長のようだ。
白髪の髷の先は、縮れ毛が鞠のように大きく丸まっていて随分と摩訶可思議な髪型になっている。
例の褌はやっぱり紛れもなく黄色に染まっていて、村人曰く「神々しいお姿」とは言え、神々しいよりは色んな意味で“香ばしい”そんな感じ。
「今回はお世話になりますだに」
「「「‥‥‥‥」」」
色々ツッコミ所が多すぎて、逆に言葉を失ってしまった冒険者達ではあるのだが――。
「褌様黄色いね‥‥これに頼ろうとしている隣村の人達が可哀想に思えてきたなぁ‥‥」
リゼル・メイアー(ea0380)が守護褌を指差してさらりと言う。
ノルマン王国出身の彼女。良くも悪くも真っ直ぐな包み隠さない物言いはお国柄だろうか。それとも彼女の純粋さからきているのだろうか。
澱みなき無垢な心というのは時としてひどく残酷なものである。
「それにしても、褌はそんなに偉い物だったんだね‥‥? まだまだジャパンについて勉強が足りないなぁ。よく覚えて帰らなくちゃね!」
「‥‥この村を出たらすっぱり忘れた方がいいと思うけど」
両手の拳を握って小さく気合いを入れたリゼルの背後から倉神智華(ea6391)が抑揚のない声で呟いた。
「俺は祭りの催し物について提案があるから村長と話がしたいんだが」
「良いだに。では儂の家で伺いますだに」
範魔馬斗流(ea2081)の申し出に村長が快く頷く。
頷くたびに髷の先の鞠‥‥のような毛がぼよんぼよんと揺れて均衡を崩しふらつく。それを村人に支えられなんとか倒れずに済んではいるが‥‥。
「ねぇ、村長ってみんなあんな風なの?」
振り返って訊ねたリゼルに、返答に困った仲間らはあさっての方向に視線を逸らす。
ただ一人、智華だけが「‥‥このままでは‥‥彼女のジャパン知識が心配ね」やはり表情のないまま呟いた。
「俺は海岸警固をしよう。隣村の様子を監視できるし、実際に川を見て隣村の氾濫被害を軽減できる策を練ってみたいと思う」
湯田鎖雷(ea0109)が名乗り出て、ユウキ・タカムラ(ea4763)と智華の二人を村長の護衛に残し、他の仲間は村人の顔を覚える為や不審人物発見の為に村を徘徊する事になった。
「その前に皆さん着替えですだに」
「やっぱり褌なんですよね‥‥」
小さく漏らして肩を落とした手塚十威(ea0404)がとぼとぼと皆の後に付き従って歩く。
頑張れ、負けるな少年! たとえ受難体質でも明日はあるさ。
‥‥巡り来る明日にも、やはり受難が待っているかもしれないけど。
◆ ◆ ◆
「へェ、よく似合ってんじゃねェか♪」
村の仕来りに従って、一様に褌一丁になった冒険者達を眺めた桃色頭巾が満足げに頷く。そんな彼は見目鮮やかな桃色の褌姿だ。
「十威ィ、お前ェは水色か。イイじゃねェか。ほら、俺と並んでも映えるしな!」
「‥‥俺は常日頃から褌でいる桃色頭巾さんと違って、公衆の面前で褌一枚なんて恥ずかしいと思う普通の神経なんですよ」
溜息を一つ吐いた十威は羞恥の為か更に弁舌を振る。
「だいたい俺、白いし細っこいし‥‥人前で裸見せるの嫌なんですよ‥‥熊鬼に唇を奪われたり‥‥そんな人生は嫌なんですよ」
後半は既に今回の事に関係ないが、桃色頭巾はけろっとしたもので「俺のことは“桃ちゃん”でイイってばよ」と見当違いな事を言って背中を叩く。
「勿論お仕事として受けた以上は頑張りますけどね〜。ねぇ? も・も・ちゃ〜ん♪」
にっこり笑顔ではあるが桃色頭巾の両頬をむに〜と力一杯引っ張っている辺り、相当の憤りを感じているらしい。
少年達のじゃれ合うこんな様子は微笑ましい。‥‥褌一丁でさえなければ。
祭り一日目は無事に過ぎて、冒険者達は警固を終えて村長の屋敷に集合した。
「今日のところは何事もなく終わったであるな。しかーし! 狙われているのは褌様である。まだまだ油断はできないのである!」
ユウキの言葉に皆は表情を険しくして頷いた。隣村が狙っているのは村長の身に付けている褌様なのだ。
祭りの二日間は村長がずっと褌様を締めているとなれば、寝静まった夜こそ危険ではないか、というのは当然の危惧である。
「であるからして、我輩が添い寝するのである! 子守唄も歌って進ぜよう」
‥‥いや、同衾までする必要があるのだろうか。しかも、そんな暑苦しそうな子守唄は聞きたくない。
「違う意味で安らかに眠れそうだな‥‥」
馬斗流が苦笑した。
村長の屋敷に男女それぞれ一部屋づつ与えられ就寝につく事になったが、ユウキと身辺警護を申し出た鎖雷の二人は村長の部屋だ。
「ある意味怖くて誰も近寄れないと思うわ」
ぬばたまの黒髪を腰まで伸ばし、紫色の布で蝶結びに毛先を纏めている少女――智華が感情の読めない瞳を向けた。
翌日――。
ぴかぴかと肌艶のよいユウキと、昨日より髷の鞠が揺れる様もどことなく弾けている村長が部屋から出てきた。
その後ろにはげっそりとした鎖雷が定まらない虚ろな視線で立っていた。
どうやら、ユウキの子守唄でぐっすり眠った村長と、鞠髷に顔を埋めて眠ったユウキを前に部屋の隅で膝を抱え一晩中えも言われぬ虚脱感に苛まれていたらしい。
部屋には褌様の芳しい香りが充満していたに違いない。ユウキと村長の絶妙な和声(←いびき)は夜通し、時に激しく、時に優しく続いたと言う。
あらゆる意味で責め苦だったろう事は想像に難くない。
◆ ◆ ◆
「今年はこの男尻(だんじり)祭りを盛り上げるために催し物の提案があっただに。実に素晴しい企画だに」
村長が挨拶をして、その新企画を発表する。
「その名も『男尻美人選』だに」
男尻美人選とは守護褌様を男らしく着こなす猛者を募集し、容姿だけでなく逞しさや知力、時の運や審査員の気紛れなんかも含んだりなんかして、栄誉ある『男尻美人』を選考するという男達の壮絶な戦いだ。
「我輩も参加するのである!」
力強くユウキが立ち姿を決めて、馬斗流も同じく参加を表明する。もちろん否応なしに千里と十威も参加だ。
もう一人の男性、鎖雷はと言えば、参加したい気持ちを押さえつつ、至って真面目に昨日に引き続きの河岸警固である。‥‥赤褌姿で。
男尻美人選は男尻祭りを村外の人にも広く知ってもらい、楽しく参加してもらう事を目的にしており、参加資格は村民以外の男子である。
表向きはそうなのであるが、実際は隣村から褌様を狙ってきた者を見付け出すのが目的‥‥のはず。多分。なんだかノリノリの人もいるけれど。
「噂だから本当に盗人さんが来るかは謎なんだね〜。まぁ、来なくても企画おもしろそうだよね♪」
「そうね、楽しくなりそうね。ふふふ」
「‥‥やっぱりお祭りは‥‥楽しくないと」
ってのは、実害のない女性陣の有難いお言葉。視覚的には間違いなく有害だと思われるのではあるが。
参加受付を買って出た女性陣の元に、揃い柄の手拭いで頬っ被りした三人組の男が現れた。
「あの‥‥俺らも参加したいっぺ。いいっぺか?」
「村人じゃないわよね? 村人は参加できないわよ」
「おっ、俺らこの村のモンじゃねぇっぺ。べ、べべべ、別に隣の村のモンでもねぇっぺよ!」
「んだんだ! 俺ら隣村からなんか来てねぇっぺ!」
聞いてもないのに慌てる三人組に瑞紀がにっこりと笑む。
「そう。‥‥どう見ても隣村の人じゃないわよね。ね、リゼルさん、智華さん」
ちなみに、彼女がこんな風に笑うと恐らく碌な事はない。
「そ、そうだよね〜、隣村なんかこれっぽっちも関係ないって感じだよね。うん」
「そうね‥‥聞いてもいないのに自ら違うって言ってるけど‥‥全然怪しくなんかないわね」
苦笑したリゼルと、相変わらず感情のない声の智華も話を合わせる。監視する目標は定まった。
「競技の前にお茶をどうぞ」
緊張の為か、瑞紀に手渡された胡椒のたっぷり入った茶を一気に飲み干した三人組は、数泊後、勢いよく吹き出してその場で悶絶した。
「これ位の事に耐えられない様だと褌様に選ばれる様な男じゃないわよねぇ」
さらりと言い放った瑞紀に、智華が無言のまま首肯する。褌様って何者なんだ?
*
鎖雷から借りた子面を着用し、自ら草木で染めた茜色の褌姿で登場した千里はぶつぶつと言い訳をしていた。
「褌姿が嫌だと言うのではない! 美人戦‥‥そんな事が母や姉に知れたら今まで以上に玩具だ」
しかし、自作で上手く染まらず斑になった褌はまだいいとして、この出で立ちに子面は逆に目を引く。
子面には防具としての効果もあるが、本来は舞踊に使用する面で、女性の顔を模したものである。怪しいと言うより、はっきり言って妖しい。
「妖しいとか言うな! 敬え! 温かい目で応援しろ!」
生暖かい視線ならもう十分集めてますが。
さて、男尻美人選の選考方法は――。
まずは男尻自慢障害物競走だ。
障害物競走の終盤にはお立ち台があり、そこでの魅力によって得点が与えられる――どんな魅力かは、まぁ、それぞれだ。
競走での順位の得点と、この魅力点を合わせて総合順位が決まる。
審査委員長は村長で、特別審査員として桃色頭巾、それに選ばれた数人の村人によって決定される事となった。
優勝者は守護褌を身に着け、『守護褌御輿』なるものに乗って村を練り歩く‥‥と、まぁ、そんな餌をぶら下げた訳である。
ドーン!
響いた大太鼓の音が始まりの合図。
一斉に走り出した男達は、組んず解れつの言うなれば肉団子。
「‥‥何故かしら、ちっとも爽やかじゃないわね」
智華の言葉が侘しく秋空に上る。
隣村の三人組を勝たせる為に、千里、十威、馬斗流が他の参加者に足を掛けたり耳元で囁いたりとさり気なく妨害を加える。
ユウキは椿の簪を銜えて真っ先に駆け抜けていってしまった。既に仕事の事は頭にないのかもしれない。
しかし、冒険者の妨害がありながらも、例の三人組は驚くほど足が遅かった。かなり鈍臭い。
先に到着してしまった冒険者が次々とお立ち台で魅力を見せ付ける。
まずは千里――。
「私の美尻に酔いしれるんだな!」
子面で顔は隠しているものの、余念なく尻を磨いてきたらしい。いざ勝負となったら負けられないのが男というもの。
「頭隠して尻ぴかぴか。八点!」
よく分からないが、桃色頭巾が得点を出した。
「次は俺ですか‥‥」
台に上がって恥らう、女子のような愛らしい顔の十威をからかうように男たちが手を伸ばし身体に触れた。
べたべたべた。
「さっ、触らないで下さいっ!」
強烈な回し蹴りが炸裂。十威の心に深く残った心的外傷は未だ癒えていないようだ。
「受難体質。七点!」
相変わらず意味不明な得点が出た。
「褌さいこ〜! 燃える男はやっぱり赤フンだろ」
次いで台に乗った馬斗流は褌に火をつけて踊っている。踊っているというより、熱いのだろう。その動きは機敏で滑稽だった。
「燃〜える〜男の〜あ〜かい褌〜♪ 七点!」
「次は我輩であるな。我輩の妙技を見せてやるである!」
ユウキは手頃な男を捕まえて台に上げると、その男の尻にプスリと花を刺した。
「男とて美を愛でる心は大事である」
――美、なのか?
「逝け花。八点!」
こうして次々と魅力点が出されていき――最後に例の三人組みが台に上がった。
「あ、あの‥‥俺達‥‥何をしたらいいっぺか‥‥」
顔を見合わせ困惑している三人組の気持ちも分からないでもない。何しろあんなものを見せられた後にどうしろと言うのか。
「十点、十点、十点、十点! 優勝!」
「は、はい? 俺達が優勝したっぺ?」
そりゃそうだ。元からその算段なんだから。
その後、偽物の褌様を渡されるやいなや逃走した隣村の三人組は、呆気なく冒険者に捕獲されぐるりと周囲を囲まれた。
覚えたての手裏剣を使ったリゼルは上手く命中した事に歓喜した。
「うまくいった♪」
「‥‥じゃない! 私に当たっただろうが!」
千里に命中していたのだけど。
桃色頭巾はと言えば、派手にソードボンバーを放とうとしていた瑞紀を必死で取り押さえている。
「ちょっと‥‥また邪魔するの?」
瑞紀が舌打ちをした。
「まぁ、それは兎も角だ。いいか、お前達、このべこ先生がいい事を教えてやろう。まず川の堤防沿いに石を積むか葦や樹を植えろ。氾濫を見越して水を逃がすための空き地を確保しろ。川の曲より少し上流に居住地を移せ!」
般若面を被った『べこ先生』と名乗る男が三人を縄で縛り正座させ、その弟『かわず君』を名乗る子面の‥‥先程からずっと居た人物ではあるが、そのかわず君がズッシリと重い小型大仏を三人組の腿の上に乗せる。
これは拷問ではなく身体で覚えさせる授業風景なのだとか。
「よほど、切羽詰ってたのね‥‥でもね、褌様、ずーーっと洗ってないの」
最後の駄目押しにリゼルがにっこりと微笑んで、十威が隣村同士互いに協力したら良いのではないかと提案した。
隣村の三人組は素直に反省し、村長も隣村の水害に協力する事を約束した。
「さーて、一件落着。後は祭りを楽しみましょ。ね、鎖雷さん」
「いや、俺はべこ先生であって鎖雷ではないぞ。断じてっ」
隣村からも大勢の村人が訪れて、宴会は朝まで続いた。
朝日が昇る頃、酔い潰れた多くの屍に視線を落とした智華は鈴のような音で「‥‥くすっ」と小さく笑った。