河童の魚吉−おもかげ抄−
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■ショートシナリオ
担当:幸護
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月03日〜10月08日
リプレイ公開日:2004年10月12日
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●オープニング
「困ったねぇ。一体どうしたもんかねぇ‥‥」
ギルドの女が途方に暮れて頭を抱える。深い深い溜息を一つ落として口元に指をあてがった。
長いぬばたまの黒髪を背に垂らした女の視線の先には竹を編んだ大きな籠だ。
「ナキチ、村かえりたい」
籠の中に捕らえられた河童‥‥恐らくまだ子供であろう。元々河童は小柄であるが他と比べても更に小さい。
その小さな彼――彼と言っていいか分からぬが、本人は『ナキチ』と名乗っている河童は先程からこの言葉を繰り返すばかりだ。
「えぇと‥‥ナキチってのはあんたの名前?」
「ナキチ、なまえ。オンジつけた。ナキチさかなすきだから言った」
内側から籠をばんばんと叩いて蓋を開けるようせがんだ河童は空に水掻きの付いた手で大きく『魚吉』と書く真似をした。
「あら、あんた字が書けるのかい? 魚吉(なきち)ね。いい名だねぇ。‥‥それで、そのオンジってのは誰だい?」
「すごい? ナキチ、なまえかけるすごい? オンジおしえた。オンジ、にんげん。村いた」
籠の中にちょこんと座る魚吉はクリクリの目を何度かしばたたかせて答える。褒められたのが嬉しいようで少し得意気の表情だ。
「ナキチひとり。オンジもひとりぼっち。ナキチ、オンジ畑てつだう。オンジきゅうりくれる。なかよしなった」
「あんたを捕まえてここに連れて来たのは村の人間だよ? オンジは助けてくれなかったのかい?」
「オンジ死んだ。ナキチのくすり、きかなかった。オンジ、ナキチつかまえるダメ言った」
「なるほどねぇ。あんたを助けてくれるオンジはもう居ないんだね」
河童には、どんな怪我もたちどころに治してしまうという秘薬が伝わっているとは噂に聞くが、病や老衰には効かなかったのであろうか。
目の前の河童を哀れに思った女は、本日何度目かの大きな溜息を漏らした。
◆ ◆ ◆
「そんな訳でねぇ‥‥困ってんのさ」
「河童、か」
「いやね、悪戯好きで田畑を荒らしたり人を驚かせて困るってんで処分してくれって連れ込まれたんだけど」
肩をすくめた女が、例の河童の押し込められた籠に視線を向ける。
「ナキチかえるー。村かえりたいー! ナキチ、オンジのとこかえるー」
「‥‥あの調子でねぇ。悪戯も本人にとって悪意がないだけにねぇ」
河童に悪意はなくとも、山間の小さな村で田畑を荒らされては生活に、延いては命に関わる大きな問題である。
「しかし、連れ帰ったところで、また揉めるのは目に見えてるだろう」
一人の冒険者の言葉に女は頷く。
「そうなんだよ。村人にはあの河童を処分するよう頼まれちまってるしね。‥‥でもさ、引き受けたのはいいけど可哀想でねぇ」
「確かに‥‥」
押し黙ってしまった人間達を見上げた魚吉が目を大きくして首を傾げた。
「ここ、おねがいきく? ナキチ、おねがいする」
「おや? あんた、お願いするって言ったって冒険者を雇うにはお金がなきゃ駄目なんだよ」
少し乾いてきた魚吉の頭の皿に水を注いでやりながら女が笑う。
「ナキチ“ぜに”すこしある。オンジくれた。ナキチ、オンジのとこかえりたい。おねがいする!」
「でも、あんたの“おんじ”はもういないんだろう? それでも帰りたいのかい?」
魚吉は女を真っ直ぐに見上げて、こくんと首を縦に振った。
「オンジかえってくる。ナキチまつ。ナキチ、オンジすき、いっぱいすき」
「って事なんだけど、あの子なんとかしてあげられないかい? 村人から受け取ったお金もあんた達に預けるからさ」
●リプレイ本文
●河童と冒険者
「ここ最近会った河童はとんでもないのばっかりだったけど人にもイロイロ居るように河童にもこんな風に純真な子も居るんだね!」
魚吉を見下ろして明るい声を上げたのは霧生壱加(ea4063)だ。
本人は感心しきりであるが、世の中には、おおよそ忍びらしくない忍びもいる。例えば彼女のように。
つまり、魚吉に代わって言い返すなら「キミに言われたくない」の一言であろう。
「まぁ、村人も切実なんだからナキチ君を追い出してほしいって思うのも無理はないんだろうけど‥‥うーん、難しいね。両方が望むように出来ればそれが一番なんだけど‥‥」
頭を抱えた壱加は低く唸ったまま時を止めて、そのまま黙りこくってしまった。
「うぅっ。ダメだぁ、ぜんっぜん分かんないや」
普段使い慣れないものを無理に使うのは難しいものである。頑張れ炸裂くノ一☆
「私は白河千里と申す。宜しくな、魚吉」
「チサト。おぼえた」
しゅがみ込んで視線の高さを合わせた白河千里(ea0012)が手を差し出すとクリクリの眼をしばたたかせた小さな河童がそこに水掻きの手を重ねた。
重ねられた手は、肌の感触こそ違えど伝わるぬくもりは同じだ。
「良い子だな♪」
皿の乗った頭には触れず、そっと肩を叩いてやった千里が懐から取り出した胡瓜を半分に割って渡す。
青く瑞々しい匂いが鼻腔に触れた。
「ナキチ、きゅうりすき」
魚吉は躊躇いがちに受け取った胡瓜を両の手で大事そうに握り締める。彼の小さな手に収まると、折られた半分の胡瓜もずいぶん立派に見えた。
眦を下げた千里が小さく頷いてやると嘴を大きく開いて嬉しそうに頬張る。
「それにしてもナキチさんすごいね〜☆ 自分の名前を漢字で書けるなんて」
「ナキチ、すごい?」
「すごいよ! 私も教えて貰いたいな♪ ナキチさん、仲良くしようね♪」
「うん。なかよしする。字かく、おしえる」
リゼル・メイアー(ea0380)に褒められた魚吉はてらいもなく破顔した。
こんな様子はやはり“子供”であり、人間だの河童だのそういったものは一切関係なく思わせる。通っているのは“心”だ。
(「違う種族は仲良く暮らせないのかな‥‥同じ時を生きているのに悲しいな‥‥」)
リゼルは仲間に悟られないように細い息を吐いた。
彼女はエルフである。
容貌は人間とさほど差異はなく、身体全体の線が細く耳が尖っているのが特徴であるが、大きな違いといえば寿命であろう。
「‥‥ナキチさんに悪戯を止めてと言うのは、エルフに寿命を縮めてと言うのと変わりないことなのかな。‥‥それはとっても無理だね」
無意識のうちに口をついた彼女の言葉は誰に向けられたものでもなく、消え入りそうに細かったが、そんな彼女の言葉が聞こえたのかどうか高槻笙(ea2751)はただ無言のままに空を仰いだ。
天と地はいつも変わらずそこに在って、分け隔てなく森羅万象を支え包んでいる。時に厳しく、時に優しく。
命あるもの全てが“生”を、その上での“幸福”を望むのは思想や理屈ではなく理だ。
魚が水中で暮らすのも、エルフの寿命が長いのも、それら全てが彼らにとっては必然な事。それは人間も河童も同じ。
「未来は、村で暮らす彼らが定め、踏み固めて行く事‥‥」
道を決めるのは飽く迄も当人達でなければならない。幸福は自分以外の誰にも決める事など出来ないから。
険しく困難な道も、平坦でゆるやかな道も、先に何が待っているのかを含めて、歩むも止まるも他人が決めるべき事ではないのだ。
「私に出来る事は決して大きなものではありませんが」
それでも何か手助けになれば‥‥そう願わずにはいられない。それとも、これは独り善がりであろうか。
笙は胸に苦いものが降りてくるのを感じた。
「はら、いたい?」
「え?」
袴の裾を引き、見上げる魚吉に問われて笙は思わず己の顔に手を当てた。気付かぬうちに苦患が表情に浮かんでいたのであろうか。
澄んだ水面に己の心の奥底を映し出された様でどきりとした。
「いたい、がまんするダメ」
「いいえ、腹もどこも痛みませんよ」
抱いた当惑を俄かに懐に仕舞いこんだ笙が笑顔を向けると魚吉は安堵して頷いた。
「ほら。魚吉君、お水をどうぞ。お皿が乾いてしまっては苦しいでしょう?」
橘由良(ea1883)が徳利から頭の皿に水を注いでやると目を閉じて肩を窄める。その仕草が愛らしく冒険者達の顔に笑みが零れた。
由良は魚吉の為に水のたっぷり入った徳利を用意していたのだ。
「それでは参りましょうか」
手塚十威(ea0404)が手を引いてやると魚吉は満面の笑顔を浮かべる。裏腹に冒険者達は口を結び表情を硬くした。
●おんじと魚吉
「坊、すまぬが一つ訊ねても良いかな?」
「いいよ。おじちゃん」
「おじちゃんじゃないんだがな‥‥と、この村で最近亡くなった老翁はおるかな?」
「それやったら貫太郎おんじや。あすこの丘に墓があるよ」
「そうか。有難うな」
村の入り口で子供を捕まえた千里は“おんじ”こと貫太郎の墓の場所を聞き出し、まずはそちらに足を向けた。
「遺す想い‥‥何とかしてみせるから見護っててやってくれ」
小さく土を盛られただけの墓前で手を合わせる。
真新しい黒い土饅頭を撫でた風がただ静かに通り過ぎた。
長閑な村に広がっているのは一面の田畑だ。
時折子供らが甲高い声を上げて畦道を駆けていく以外はひっそりとまるで時が止まっているかのようにも感じられる。
青や黄金に稲が揺れている頃はまた景色も違ったであろうが、質朴な風情は一年を通して変わらぬのであろう。
それでも、束ねてはさ木に乾された稲が風に乾いた音を立てれば、遠く百舌(もず)の啼き声が刺さるように落ちてくる。
秋空は悠々と淡く澄んで高い。
「一人息子‥‥?」
訊き返した菊川響(ea0639)に、恰幅のよい村の女が深く頷く。
「早くに奥さんを亡くしなさってね、一人息子を男手一つで育ててそれは可愛がっていなさったんだよ。これがよく出来た働き者の孝行息子でねぇ‥‥」
「自慢の倅だったのだな」
「貫太郎おんじの人が変わったのは息子が家を出ていってからなんだよ」
女の言葉に響とイリス・ファングオール(ea4889)が視線を合わせた。
「息子さんは何故家を?」
イリスの問いに村の女は深い溜息を落としてから続けた。
「村にね、身寄りをなくした娘がいてね‥‥この娘と恋仲になったのさ。気立てのよい娘だったんだけど身体が弱く病がちでねぇ‥‥早くに奥さんを亡くした貫太郎おんじは、息子には同じ思いをさせたくなかったんだろうよ‥‥二人の結婚を頑として許さなかったのさ」
「なるほど。それで‥‥駆け落ちか」
凛々しい眉をひそめた響は思い当たったように訊ねた。
「オンジ殿の人が変わったというのは?」
「誰とも口をきかなくなったのさ。息子からは時々文が届いてたようだけど返事は終(つい)ぞ出さず仕舞いだったんじゃないかねぇ。噂では孫が生まれたって聞いたよ。‥‥それでね、あたしらは貫太郎おんじが河童を庇うのは抱いてやれない孫のかわりだろうって言ってたものさ」
魚吉がこの村を訪れるようになったのは一年ばかり前だと言う。
初めは猪か狸の仕業だと思われていたが、それにしては随分と器用な悪戯で困り果てた村人は寝ずの番をして犯人をようやく捕まえた。
がたいのよい村の男衆に囲まれて涙目で震えているのを見た貫太郎が逃がしてやってくれと頼んだそうだ。村人が貫太郎の声を聞いたのは随分久しぶりの事だったと言う。
それ以来、河童が貫太郎の畑仕事を手伝っているのがしばしば目撃されている。
しかし、魚吉の悪戯が止む事はなく、田畑に無数の石が投げ込まれていたり、繋いだ牛や馬を放してしまったりそんな日が続いたそうだ。
水を張った田の中で駆け回り、多くの苗を駄目にしてしまったのも一度や二度ではないとの事だ。
被害は貫太郎の田畑にも及んだが貫太郎は「やれやれ」と笑っていたと言う。
だが、他の村人は貫太郎のように笑って済ましてやる事など出来ない。それでも貫太郎が存命の頃は頭を下げ嘆願されて何とか見逃すより他なかったようだ。
「‥‥おそらくオンジ殿は残していく魚吉殿が心配だったのだろう。オンジ殿が魚吉殿へ渡した銭は、魚吉殿を助けるための依頼料ではないかな?」
「ええ。そうですね‥‥とても可愛がっていたようですし」
村長の屋敷へと向かう響とイリスの足取りは重い。
「もしかしたらオンジ殿は長い間ずっと息子殿の結婚を反対した事を悔やんでいたのではないだろうか‥‥子の幸せを願わぬ親はいないよなぁ」
「ナキチ君を可愛がっていたのは罪滅ぼしもあったのかもしれないです‥‥」
村長の屋敷前では千里と由良が待っていた。
彼らはまず村人からの依頼料を丁重に返した後、決して依頼を断るわけではないと伝えた。
その上で、魚吉からの依頼を受けた事も話し、何とか折り合いがつかないものかと持ちかける。
村長は激昂する事こそなかったが不快な表情を露にして、切々とこれまでの経緯と魚吉により受けた被害を語り始めた。
冒険者達は真剣な表情で何度も頷いてそれらを聞き、同時に両者の埋められない溝を感じ取っていた。
「わしらも河童だからアカンと言っておるのではないのじゃ」
未然に悪戯を防ぐ方法がないか模索してはどうだろうと考えていた由良も、まずは種族を越えて情を持って接してみてはどうかと考えた千里も言葉が出なくなってしまった。
「私が魚吉君の出した被害の分はお金を出しますので彼の悪戯を大目に見てやって頂く事は出来ませんでしょうか?」
「申し出は有り難い事じゃと思う。貫太郎おんじや貴方がたがそこまであの河童を庇うのにも、それなりに理由があるのじゃろうな‥‥じゃが、わしらは金が欲しいわけじゃないんじゃ。田畑を耕すのがわしらの仕事じゃ。それが出来んでは困るんじゃ」
村長の静かな言葉に、由良は頭を下げた。
「‥‥それならば、せめて魚吉殿が墓参りだけでも出来るように考慮頂けないだろうか」
響と共にイリス、由良、千里も深く頭を下げた。
●魚吉とおんじの墓
川縁に座っているのは魚吉と壱加とリゼル、そして十威と笙だ。
「そっかぁ‥‥ナキチ君、その時おんじに助けてもらったんだね」
「ナキチ、オンジすき」
「うんうん。ナキチ君はおんじの事が大好きだったんだね」
壱加が言うと魚吉は首を傾げた。
「すきとだいすき、ちがう?」
「大好きはね、いっぱいいっぱい好きって事だよ」
リゼルが答えると魚吉は大きく頷いて笑う。
「だいすき、おぼえた。いっぱいいっぱいすき。ナキチ、オンジだいすき」
「大好きな人に出会えた事はとても幸せな事ですね」
目を細めて紡いだ笙の言葉に再び魚吉が首を傾げた。
「あう、しあわせ?」
「ええ。オンジとの出会いは貴方にとって宝物でしょう」
「みんなすき、ナキチあった。これ、たからもの? みんなもオンジあう。なかよしなる、しあわせ?」
魚吉の問いにどう答えるべきかと言葉を選んでみるが笙の言葉は途切れたまま続かない。
丁度その時、村長の所へ向かっていた仲間が戻ってきた。
「オンジ殿の墓参りだけは許可が出た」
響の言葉を受けた十威は魚吉の手を引いて墓へと向かう。
小さく盛られた土に手を合わせる十威を魚吉は不思議そうに見上げていた。
十威は屈んで魚吉の手を握ると真っ直ぐに瞳を見詰めてゆっくりと言葉を紡いだ。
「あのね、魚吉さん‥‥おんじさんはもう帰ってこられないんです。死、というのは‥例えば魚吉さんの好きな魚は水から上げると動かなくなってしまうでしょう? そして2度と‥動く事はない‥‥。それが死ぬっていう事なんです。この世に生きるものは皆、いつかは死を迎えます。俺も魚吉さんも。それは避けようのない事で‥そして取り返しがつかない。どんなに望んでも‥死んだものが帰る事はないんです」
「オンジかえってこない? どこいった?」
「おんじさんはここに眠っていらっしゃいます」
魚吉は十威の視線の先を目で追って、盛られた土を見ると頭を振った。
「ここ、オンジいない」
「では、これでどうでしょう。オンジはとても遠くに行ってしまわれました。大切な大切な用事です。ここには帰ってこられませんがオンジは今もずっと歩き続けていますから魚吉が止まってしまっては二度と会えなくなってしまいます。ですから、魚吉も歩き続けなくてはならない‥‥いつかずっとずっと先に再び出会う為に」
十威と笙の顔に交互に視線を向けた魚吉は俯いて暫くじっと墓を見詰める。
「ここ、オンジいる。でも、オンジとおくあるく。だから、あえない。でもナキチあるく、いつかあえる」
「ええ。会えなくなっても貴方の中におんじさんから貰ったあっかいものがいっぱい詰まってる。それを忘れずにずっと持っていて下さい。そうすれば、寂しくても歩いていけますね?」
十威の手をぎゅっと握った魚吉は小さく頷いた。
「オンジ死んだ。かえってこない。でもナキチあるく。ナキチもいつかとおくいく。オンジにあう」
「ここは‥‥墓はおんじが生きていたというシルシだ。時折訪れて爺さんが好きだったものを供えてやるといい」
「どんなに離れていても心まで離れてしまう事はありません」
野で摘んだ花を手向けた千里が言うと、由良は徳利から魚吉の皿に水を注いでやり、同じように貫太郎の墓にも注いだ。
「魚吉、これはお前の金で村人から買った瓢箪だ。お前が買ったお前のものだぞ。ここに来た時はこれで爺さんにとびきり綺麗な水を汲んでやってくれ」
「ありがとう。ナキチ、オンジに水あげる。きゅうりあげる。いっぱいいっぱいあげる。ゼニいる。冒険者おねがいきいてゼニもらう。ナキチ冒険者なってゼニもらう」
千里から瓢箪を受け取った魚吉は真剣な表情だった。
「魚吉君‥‥冒険者って、本気ですか? そんな簡単ではないですよ?」
「ナキチほんき。冒険者なる! オンジにきゅうりかう。ナキチもきゅうりかってたべる」
由良が目を丸くして聞き返したが魚吉はだんだんと足を踏んで答える。
「冒険者‥‥見習いの見習いくらいにはなりますでしょうか?」
「やったー! ナキチ君、それじゃ一緒に帰ろ〜♪」
リゼルが走り出すと壱加とイリスも駆け出して、魚吉もその後を追う。
彼女らの笑い声や歌声は高らかに響き、帰還の足を速めた。
小さな河童の冒険はこれから始まる――のか?