小さな贈り物
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■ショートシナリオ
担当:幸護
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 1 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月13日〜06月16日
リプレイ公開日:2005年06月23日
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●オープニング
「えぇと‥‥迷子?」
目を丸め、思わず漏らした手代の視線の先で黒髪を靡けて小さな頭が振られる。
「あの‥‥冒険者ぎるどはここですか? お願いを聞いてくれるって聞いて、僕‥‥」
身の丈四尺と少し、おずおずと見上げる童男は慣れぬ雰囲気に負けたのだろうか今にも泣き出しそうな顔で訊ねる。これでは手代に迷子と間違われても無理はない。
「えぇ、そうよ。お使いかしら?」
「そうじゃなくって、お金は少ししかないけど‥‥あ、あの、でもっ、僕お駄賃を使わずに貯めてたから、だから‥‥」
それでもやっぱり少しだけど――最後は消え入りそうな声になる。
眉宇を上げたギルドの手代は肩を竦めて微笑んだ。
「それじゃ、あなたが依頼主なのね。話を聞くからお名前教えてくれるかしら?」
「はい、僕は永智です」
*
「永智くんは都に来たばかり?」
「はい、この間まで江戸に‥‥わかりますか?」
「だって言葉が違うもの。私も江戸から来たのよ」
ぱちくりと瞳を瞬いた童男に笑みを落として手代は筆の穂先を硯に浸して湿らせる。
「で、何をすれば良いのかしら?」
「大切な友達に贈り物をしたいんです‥‥」
少年の家は呉服の商いを生業としているらしい。
本店を京都で構え、江戸にも店を持つ――いわゆる江戸店持ちの京商人というやつである。
少年自身は物心ついた時から江戸で育ち、忙しい両親に代わって下働きの者に育てられたようなもので、故に都言葉ではないようだ。
そんな彼の店の傍にイギリス商人が住んでいたのだと言う。
ジャパンには商いで訪れていたのかどうか、詳しい事は幼い永智の知る由もなかったが、イギリス商人には永智と同じ年頃の息子が居た。
さらさらの金の髪、透き通った碧の瞳、まるで降り注ぐ光りのような異国の少年。
彼はアッシュと名乗った――たぶん。永智はそう呼んでいた。
言葉の通じない二人ではあったが、そこはそれ、子供同士である。心を通わせるのに時間は掛からなかった。
この春先に商人の家族は故国へと帰って行き、永智も両親と共に京都へと戻ったのだそうだ。
「アッシュの国では生まれた日にお祝いをするみたいなんだ」
気になって母に訊ねてみたところ、永智の生まれたのも丁度同じだった。その偶然を嬉しく思ったようで一年経とうとしている今もよく覚えているのだと言う。
水無月の某日、その日はすぐ目前に迫っている。
「僕、アッシュにお祝いの贈り物をしたいんです。だけど、何を贈ったらいいのか‥‥」
「異国の友人への贈り物なのね」
今は遠い海の向こうだけれど、とてもとても大切な友達。
大好きな大好きな友達。
どうしても彼が喜んでくれる物を贈りたいのだ。
月がまん丸になるその日、イギリスへと続く道を渡る人に彼への贈り物を届けて貰えるよう頼んであるのだそうだ。
「冒険者なら色んな事を知ってるって聞いて‥‥僕と一緒にアッシュへの贈り物を考えて欲しいんです」
永智はぺこりと頭を下げた。
●リプレイ本文
●絆(ほだし)の時
「生まれし日の祝い‥‥か」
月草を水で溶いたような秀真傳(ea4128)の淡い双眸が風待月の一碧に吸い込まれる。
陽光に目を眇め、漏らした言の葉はわななく南風(はえ)に乗り畦にころころと上がる蛙声と混和した。
天映す水鏡となった綺羅の玉滴石の程近く、僅かに魚尾を下げた風の志士に、地の志士――橘蒼司(ea8526)が問うた。
「秀真殿、如何致した?」
「先日じゃが、故あって離れ育った双子の兄者と揃うて同様の祝いをして貰うたばかりなのじゃよ。そこな紗雪殿、紗弓殿も参じてくれ‥‥年甲斐もなく嬉しゅうての」
花名残月の消え入りぬ残滓を再び胸に起こし、貌が自然綻ぶ。
「成る程、それは嬉しいものだろう」
白髪の訥朴な男は瞑目したまま一つ頷いた。夏風がそよ吹いて髪を揺らせば光の雫を受けて銀に輝く。その佇まいすら静謐である。
「そうなのじゃ。じゃからおぬしの想い、アッシュ殿はとても嬉しかろう。わしもそうじゃったから間違いない」
アッシュもこんな風に喜んでくれるだろうか――微笑む傳を仰いで永智はおぼめく。
「永智殿も何を贈るか悩んでおられるようだが、贈り物は相手に喜んでもらえる事もだが贈る者の気持ちが籠もっている事が重要だと思う」
蒼司のしづの声音が矩(かね)と伸び心に届く。
「‥‥その点は心配しなくてもしっかりと伝わりそうだな」
「うん、僕も! 僕もそう思うよ。永智くんが考えて贈ったものなら、どんな物でもアッシュくんは喜んでくれると思うんだ」
ね? にっこり笑んだ浅葉由月(eb2216)の大きな瞳に覗き込まれ、緊張の糸が切れたのか永智は初めて目見を緩めた。
「国を越えたお友達かぁ〜‥‥お友達は、大切にしないとね」
「羨ましいものだね。果たして私にそう思える友が居たか‥‥おや、昔日に思いを馳せてる間に時が過ぎてしまうね。このような私だが、キミの手伝いに加わっても良いかい?」
「はい。宜しくご教授お願いします」
「そんなに畏まらないでおくれ。女性への贈り物ならば吾子女からお刀自まで幅広く潮染んでいるけれど‥‥今回は少々趣が違うからね」
嫋やかに笑みを落とした久世沙紅良(eb1861)御年二十六歳。九十九髪まで守備の内とは堂に入っているものである。
「あ、あの‥時間もあまりないですし‥そろそろ‥‥」
おずおずと口を開いた小都葵(ea7055)は先の言葉を呑み込んで眼差しを揺らした。華奢な肩を流れた黒髪がするりと落ちて一層果敢なく映る。
「そうですね、ではまず永智様に江戸で遊んだ日々のお話を伺いませんか?」
「思い出の場所などがあれば聞かせて欲しいが、どうだろう」
柔らかに言葉を紡ぐ綾都紗雪(ea4687)と簡潔に言葉を選る高遠紗弓(ea5194)、呼応する二つの声は反するようで似通った地合いを感じさせる。
袈裟の内には強靭な意志が。紅碧の眸奥には柔軟な光が。しなう柳枝の如きしたたかさと柔さ。纏うのは潔癖とも言える清冽な気である。
「草木に思い出がおありでしたら合わせてお聞きしたいです。アッシュさんも見知った花が近くにあればジャパンでの思い出も鮮明になりましょうから」
小さな峰谷八里(eb2517)はちょうど目線の高さが永智と同じ位である。柔らかな茶の瞳は懐古の色。故に永智は少なからず親しみを覚えた。
「大丈夫ですよ。お二人の秘密の場所までは聞いたりしません。それはアッシュ様と永智様、お二人の宝ですものね」
笑んだ紗雪の表情は悪戯っ子のそれ。時の流れは思うまに止める事も進める事も出来ぬけれど、思いを馳せる事は出来る。
子供は時を経ずに大人には成れぬが、大人の心はいつでも子供に立ち戻れるのだ。
「はい」
気負いが消え浹洽した永智もまた照れたように破顔した。
●光の庭に吾子ありて
アッシュはきっととても寂しがり屋だったんだ。だって、僕が勇気を出して話し掛けるまで彼は膝を抱えて毎日一人で泣いていた。
その瞳がまるで未草みたいだと思ったんだ。
――笑ったらきっと綺麗な花が咲くに違いない。
僕はどうしても彼に笑って欲しくなったんだ。
未草はお日様の下で咲くでしょう? だから――
「こんな風にお天気の好い日はアッシュの髪がきらきら光ってまるでお日様のようで‥‥」
框に手を付いて中庭へ視線を送った永智が見詰めているのは、まあるい光の彼方。
「言葉が通じなくて、それでも僕は毎日話し掛けたんです。話す事は何だって良かった」
今日は天気が好いね。あ、ほら猫だよ。あいつはこの辺りの親分だけど人に悪さはしないんだ。
あれは乾物屋の小夜さん、夫婦喧嘩する度にうちに来るんだ。でもね、旦那さんの又八さんが迎えに来ると「遅いじゃないさ」とか言っちゃって仲良く帰っていくんだよ。
お駒さんの話だと「夫婦喧嘩は犬も食わない」って言うんだって。あ、お駒さんっていうのは僕の家で奉公してる人なんだ。
反物屋の喜助さんはいつもにこにこ笑ってる。ご隠居の弥太郎さんは「あいつぁ商売っ気が無くっていけねぇや」って言ってるけど僕は喜助さんが好きなんだ。
――毎日、毎日、沢山の話をしたんだ。
僕がアッシュの隣りで話をするようになって何日経ったか分からない。ある日、アッシュは僕を指差した。何て言ったかは解らなかったけど‥‥僕は嬉しくなって思わず大きな声で叫んだ。
『永智っ。僕は、え・い・じ』
『エージ‥‥。アッシュ』
『君はアッシュって名前なんだね?』
やっぱり僕の思った通り、花が咲いた。だけどそれは僕が思ってたよりもずっとずっと綺麗な花だったんだ。
「アッシュは駆けっこが得意なんです。うんと足が速くて僕はなかなか捕まえられない、そのうちにアッシュとどんどん離れてしまって‥‥だけど、そうするとアッシュは決まって足を止めて僕が追いつくのを待っててくれるんです」
「本当に仲が良かったのだな」
「お二人の野を駆ける姿が目に浮かびますね」
語る永智に耳を傾けて紗雪と紗弓は弛緩の表情をつくる。
「木登りもしました。川に小石を投げたり、草笛を吹いたり、大きな石を引っ繰り返して虫を探したり」
雨が降ったら大きな木の下で雨宿り。虹も夕焼けも一緒に見たんだ。
「成る程」
頤に指を宛がった紗弓は得心して頷いた。
「私は共に過ごした思い出の場所を絵に描いて贈ってはどうかと思っていた――永智が今もその地を大切に思っていると知れば、アッシュも遠い異国に思いを馳せ、また、その場所でいつか再び逢える事も考えるかもしれないと思ったのだが‥‥」
「‥‥お二人にとって大切なのは場所ではなかったようですね」
紗弓の言葉を継いで紗雪が四角く切り取られた空を仰ぐ。夏雲が白くむくむくと浮いていた。
「お二人の駆け回った野は、まるで光の庭‥‥永智様にとってアッシュ様こそが陽光だったのですね」
何処で過ごしたかではなく誰と過ごしたか、が大切だったのだ。
「二人の姿を描こう」
「僕とアッシュの絵?」
「大丈夫。これでも私の生業は絵師だ。アッシュの容姿を詳しく教えて貰えるだろうか?」
紗弓の眸には煌く二人の笑顔が見えていたのだろう。
「私は育つ心と毎年変わらず咲く想いを伝える、花の種は如何かと」
そして今は山法師が花盛り、大陸では『四照花』と呼ぶそうです。
廂の下を抜けて吹き込んだ風が紗雪のぬばたまの髪を撫でる。
「白い四つの萼が小さな花を支える様は、お二人の両腕が一つの心‥優しい記憶を包んでいるかの様で‥‥友情の証ですね」
「友情の証‥‥」
瞳をしばたたいた永智は小首を傾げて、白いその花の記憶を呼び起こしているようだった。
「秋に熟す赤く丸い実も甘くて美味しいですね。紗弓様、山法師の花も描いて頂けませんか?」
「了解した」
紗弓と紗雪の作業が開始された。二人が紡ぐ友情の証は過日の光の庭。
●青き翼は空になって
「ちりめん細工の根付が良いかなと思うのです。もしかしたら永智さんの御家に丁度良い端布があるかもしれません」
「永智殿の生家は呉服屋ゆえに私も反物に類する物を贈れば永智殿やジャパンの事を思い出してくれるのでは無いだろうかと思っていた」
葵と蒼司の思考は奇しくも重なった。早速、親御へと打診する。
「端布やったら好きなん使こうて貰て構しまへん」
二人は深々と頭を下げて布地を選る。
「見立ては任せたいと思うのだが、どうだ永智殿? アッシュ殿がジャパンで興味があった物が柄になった物等にすると良いかもしれぬ」
「ええと‥‥」
暫く逡巡した永智は桜の散った花扇を手に取った。
「アッシュは桜が気に入ったみたいでした。綺麗だって喜んでいたから」
「それは良い。そうだな‥‥巾着にしてはどうだろう? 大切な物を仕舞っておけるし良いのではないか?」
アッシュはその巾着の中に何を入れるのだろう――そう考えただけで永智の心は弾んだ。
「私も選びました」
胸元に勿忘草色を抱えて、葵の柳眉が下がる。
「根付は小さなものですし、それ程時間も掛からないと思いますので‥‥宜しければ巾着も一緒にお縫いしましょうか?」
「それは有り難い。永智殿も裁縫は出来ぬだろうし」
作業は同じ事ですから。
ふうわりと笑う葵の瞳はアッシュのそれと同じ色。春の色だ――と永智は思った。
「永智さんにアッシュさんへ一言書いて頂いて良いでしょうか」
「はい。分かりました」
書き付けた後、部屋を辞す蒼司と永智の背を見送って、葵はほぅと息をつく。
(「永智さんにも内緒にしたかったので丁度良かったです」)
戻った二人の目の前で小さな青い鳥が揺れる。
葵は選んだ勿忘草色の縮緬で小さな鳥の縫い包みを拵えていた。
「聞いた話なのですけど、海を渡った異国には綺麗な、とても珍しい青い鳥がいて、一緒に居る事が出来れば幸運を呼んでくれるのだそうです」
先程、一寸四方の小さな紙に永智は「また会おうね」と綴っていた。その小さな小さな願いは羽ばたいて空を翔るだろうか。
「実は同じものを二つ作ったのです。こちらは永智さんへ」
また、いつか巡り会えるように、願いを込めて。
「諦めなければ、きっと、会えると思います」
「ありがとう」
微笑んだ葵の瞳はやっぱりアッシュと同じ色で、永智の手にはいつか羽ばたく小さな青い鳥。
舞桜の巾着に羽根を休めるもう一羽の鳥は、あと僅かで遠く月の道を渡る。
●野に咲く花は
「愛らしいお嬢さんをエスコート出来るのは嬉しいね」
「えすこーと‥‥とは何で御座いましょう?」
小首を傾げた八里に沙紅良は目を丸める。
「花は己の美しきを存ぜぬ――かな。キミのような愛らしい方と共に過ごせて果報者だと思ってね」
「えーと‥‥あの‥‥」
八里は返答に窮して耳まで染める。この調子ではいつか心の臓が壊れてしまうのではないか。早鐘はそんな不安を抱かせたりもしたが。
夏の野辺は力強い輝きを放っていた。
「色々考えたのですが、周囲にある野草の種を贈り物にしてはと思います」
蜜の吸える仏の座や、笛になる雀の鉄砲、引っ張り相撲をする車前草。きっとお二人も遊んだに違いありません。
「彼の国は土壌が違いましょうが‥‥野草は土の変化や寒さに強いものも多いですし」
「そうだね、可憐な花も良いけれど素朴な草花もまた趣きのあるものだね」
どちらも愛しいと思うよ。艶やかに笑んだ沙紅良の視線の先で、矢張り八里は頬を上気させる。
「集めた種は、其々似合いの反物の端切で可愛らしく風呂敷包みして結んではどうかな? 私は花も探してみるつもりだが、こちらは蕾を柔らかな布で包み、茎には水を含ませた綿を巻いて箱に収めれば、月道を越える間くらいは保つのではないかと思うのだよ」
「よい案ですね」
●時と花に寄せし
「わしは、何れ二人が再会した折に開封する『未来の二人への手紙』を贈るは如何じゃろうかと思うておるのじゃ」
「未来‥‥ですか?」
そうじゃ、と頷いて傳は拉いだ瞳を薄く開く。
「共に過ごした日々が美しき思い出になったように、離れて過ごす今も、二人にとって美しい思い出となるやもしれぬ」
そこに輝く未来が在ればこそ。
「己自身の誓いともなろうかのう‥‥」
先は誰にも分らぬが、歩むのは己の足でしかない。
「そうじゃな‥‥開封する努力をする為の、一種の戒めともなろうかの」
傳は独り言のように呟いた。
「僕、書いてみます」
「焦らずゆるりと、おぬしの気持ちを込め書くが良いぞ」
散々に時を費やし、反故紙を積んで、やっと書き上げた永智が顔を上げると傳もまた文机に向かい何か認めているらしかった。
イギリス語を嗜む沙紅良の手解きを受け『二人が再会する日に開封するように』と面に説明書きを付け加え、未来への手紙が完成した。
「永智くん、外に絵を描きにいかない?」
誘ったのは永智と余り年の端の変わらぬ由月だった。
僅かばかり由月の方が年高で、身の丈も高かったが、大きな瞳とくるくるよく変わる表情の所為か逆に見える。
「あのね、僕ね、永智くんが描いた、永智くんとアッシュくんの似顔絵や江戸の絵を描いた物とかいいかな〜って思うんだ‥‥あっ」
飛び跳ねるように細路を進んでいた由月は、そこで盛大に転ぶ。
「たたた、また転んじゃった‥‥僕よく転んじゃうんだ。恥ずかしいから皆には内緒だよ?」
膝を付いて立ち上がろうとして由月は瞳を閉じた。
「永智くん、ほら、お天道様の匂いがする」
土と草の匂いに交じって晴れた空の匂いがする。
「本当だ。ねえ由月くんは雨の日の匂いわかる?」
「うん、分るよ。雨が降るぞ〜しとしと〜って匂いがするよね」
「あはは、そんな匂いだよね。アッシュは分からないみたいなんだ。イギリスとジャパンでは匂いも違うのかな?」
「うーん、そうなのかなぁ。いつか永智くんもアッシュくんの過ごしたイギリスに行けるといいね」
「うん。アッシュの国にはどんなものがあるのか、とっても楽しみなんだ」
「じゃあ、永智くんの好きなものも沢山描こうよ。そうしたらアッシュくんもまたジャパンに来るのが楽しみになると思うんだ」
――猫の欠伸。鍋からあがる湯気。お風呂。川辺の蛍。朝顔の雫。みかんの肉球。
由月と永智は口々に好きなものを言い合って笑う。
気付けば紙には隙間もなく、大好きな物で溢れていた。真ん中には一等大きなアッシュの笑顔。
「これは僕から永智くんへ」
由月から手渡されたのは絵を描く永智を描いたもの。
「喜んで貰いたいから。僕も」
アッシュくんの顔も永智くんの顔も笑ってるね。そう言った由月の顔も描かれた二人に負けない笑顔だった。
●双樹の想い
永智の元に残ったのは冒険者達の優しい想いと未来への希望だった。
永智を驚かせる訪問者が門戸を叩いたのは、その僅か後の事。
金の髪、翡翠の瞳の人形。半分に割られた銅貨の首飾り。花の種や似顔絵。
――アッシュ、僕達はきっとまた会えるね