●リプレイ本文
「縛られるのは御免でね、組織ってのにはとんと興味がないけどさ――宴会部ってのは魅力的だねぇ」
「新撰組精鋭・宴会部! 景気のイイ話じゃねーの」
御堂鼎(ea2454)と鷹波穂狼(ea4141)、強さ・潔さ・度胸どれをとっても実にヲトコマエ(賛辞ですってば)な御両人は共に肝っ玉太し女傑である。
「こりゃあ頼もしい顔触れが揃ったな」
宴会部長こと十番隊組長・原田左之助が満足気に笑み曲ぐ。
「一番隊隊士保留の身の上だけど飲み仲間な分には構わねぇよなっ?」
「あぁ、勿論だ。酒の徳孤ならず必ず隣あり‥‥ってな。要は楽しく飲めりゃイイのよ」
「ん、噂通り懐が広くて気風の良いイイオトコだね」
酒は肴、肴は気取り――相通じる褐色の肌を真秀に向かわせ文字通り酒々落々な快男児に穂狼は目許をひらき口端を上げた。
「‥‥霜消しなどと申しますが、時には仕事を忘れ酒に心をやすめる事も必要なので御座いましょうね」
凍てつくのは山や野辺に限らず――面鎧に覆われた神楽龍影(ea4236)の表情は窺い知る事が出来なかったが、左之助はその肩口を叩いて呵々と歯を覗かせる。
「何しろいつおっ死ぬか分かりゃしねぇご時世だからな。むしろ宴会は毎晩でも好いくれぇだ。な? お前ぇもそう思うだろ?」
「は? そ、そうで御座いますなぁ‥‥いえ、毎晩は些か無理が有りましょうや‥‥またそれはそれで身が持ちそうにありませぬ」
同意求められ戸惑いがちに応ずる龍影(生真面目さん)の脇からぬっと雁首突っ込んだ御厨雪乃(eb1529)が徐に耳を引けば巨躯が傾いて崩れる。
「左之さ、飲まねぇうちから絡みなさんな」
「イテテテ」
「騒いで憂さが晴れるっちゅーのはあるじゃろし、そんでまた身ぃ入れて働けるんなら悪くもないけんど」
「放せ耳、耳っ!」
「あ。忘れとったべ」
「原田先生は女性には滅法弱いなのです」
伍長並・森寅吉の言葉に左之助が頭を掻けば一同から吃々と笑声が漏れた。
「笑う門には福来る、ですね」
明け六つを過ぎて山の端から耿々たる旭光が天地を染め、同じく片東沖すみれ(eb0871)の穏やかな貌に梔子色の光りが射す。
「高槻さんの姿が見られませんが如何されたのでしょう?」
「場所取りをして下さるそうなのです。買出しの足でそのまま河岸へ向かうと仰ってましたですよぅ」
小首を傾げた神哭月凛にのほほん答えた寅吉、ふと天に視線を投じて一人頷く。
「犬吉ごちょー、どうしたですかー?」
うんしょっと爪先立った堀田小鉄(ea8968)が寅吉の鼻先でたなごころ広げ左右に振った。
「お天気が好くて良かったと思ったなのです」
「皆さんの日頃の行いがいいからですねー。それに僕、てるてる坊主作ったですよー。『にょろすけくん』とー『どんちゃん』にも一緒にお祈りしてもらったですから天に届いたですねー」
無邪気に笑う小鉄の横、耳をぱたぱた振る『どんちゃん』と、その背で見事にとぐろ巻いた『にょろすけくん』大層ご機嫌麗しいようだが、どちらかと言えば雨乞いを頼んだ方が効果ありそでなさそで、うっふんニョロ。
「なんだ? 溜息なんざついて」
マコト・ヴァンフェート(ea6419)が晴天の瞳を伏せて吐息漏らすのを認めて左之助は訝しんで目を眇めた。
「私もジャパンのお着物着れたらイイナって‥‥」
「着物ぉ? そんな事か」
「そんなコトじゃないデス! 女の子はいつだってキレイでいたいのよ。特に‥」
言葉尻呑み込んだマコトがちらり視線流す先を追って、緋髪の男は肩を竦める。
「おい、九良。お前ぇマコトに着物買ってやれ」
視線行き着いた先、伍長・片山九良太にびしり指さして。
「脈絡なく何を言い出す」
「折角の花も綺麗に咲いてこそだ。組長命令だかんな!」
組長が理不尽なのは今に始まったこっちゃない。長い息を吐き出した後、無言のまま踵を返した九良太は振り返ると淡々と発した。
「‥‥見立ては出来ん。期待するな。行くぞ」
「良かったじゃねぇか」
ヒサメ・アルナイルに背を押され、黙々と足を繰る九良太を追って跳ねる様に小さくなってゆくマコトを見届けた一同が行動を開始しようかという時――。
「む、財布を持ってきてしもうた‥‥」
ごそごそと懐を探った龍影、紐で括った財嚢を取り出し一思案の後、自身で持っているのはどうにも不安だからと左之助に預けた。
「神楽殿、大丈夫でしょうか?」
耳打った安里真由に慈愛の笑みを返したすみれ、物言わず語る。慈しみ深き笑顔読み解くに――大丈夫なわきゃねぇだろ。
一同同意。
*
「巡る季節を堪能しつつ、目で味わい肴とする。これまた一興ですね」
買出しを済ませた高槻笙(ea2751)と綾都紗雪は天鳥都に案内されて鴨川河川敷へと足を向けていた。ここは夏に十番隊が納涼の宴を行った場所である。
「皆様がお見えになるまで出し物の練習を致しましょう」
「そうですね」
管構え運指繰り返す紗雪の姿に笙と都が微笑む。
「梅枝を頂いてきましたが、無用だったかもしれませんね。このように美しい花に囲まれていては梅も目に入らなくなるというものです」
「まあ、笙様‥‥」
桜唇を手で覆う紗雪と都が目を丸めたのは、衣着せぬ賛に驚いたからではなく。
「笙サマったら囀りも滑らかで随分楽しそうじゃねぇの。羨ましいこった」
笙の首根っこ掴まえ後脳にぐりぐり拳を当てる左之助の目はマジそのものだったり。
「いえいえ。春麗らの空の下、紗雪さんと都さんと共に和やかに過ごしましたが、これも場所取りという重要な任務ですから」
この上なく笑顔で返してるし。
「(かっちーん)‥‥ははははは!」
ぐりぐり攻撃が加速した所で、ちょっぴり涙目の益荒男(一応これでも新撰組の組長なんだけど)は鼎姐さんに回収されて上座という名の下に体よく隔離される。
さても真天に陽鎮座して宴が始る。
「マコトからもらった西洋の酒だけど、さっそく皆に振る舞うよ。酒は愉しく呑んでこそ価値があるもだからねぇ。集めて悦にひたる趣味はないさね」
「俺からも差し入れだ。出掛けに見てみたら思いの外酒が転がっててな‥‥我ながら謎なんだが。酒もどうせなら楽しく飲んで貰いてぇだろうさ。ま、そんな訳で遠慮なく飲んでくれよな! 刺身は氷で封じてあるから鮮度が自慢だぜ!」
「私は御田を用意させて頂きました。沢山召し上がってください」
「はーい、異国の料理を作りました。え? ホントに食べ物かって? ダイジョブ、ダイジョーブ。異国料理だから見慣れないだけデス(言い切った)」
酒や料理が並び隊士達の顔が一斉に綻ぶ‥‥まあ一部非常に怪しげな物もあったとかなかったとか異国情緒溢れてたとか下手物情緒溢れてたとか。
「わしは色々料理こさえてきたけ、重に詰めてきただよ。魚の焼き漬けに‥‥」
「五平餅ですっ」
「寅さ、五平餅好きだべか?」
「ええ、ええ。それはもう‥‥郷里の味なのです」
「郷里ですか。森さんのご出身はどちらなのでしょう?」
瞳しばたたいて小首傾げたすみれの問いに姿勢を正した寅吉は尤もらしく咳を払った。
「僕は美濃は加納の生まれなのですが育ったのは大垣なのです。組長が伊予松山で片山さんは紀伊藩の出なのです。新撰組は局長、副長はじめ東国の方が多いなので珍しいかもしれないですねぇ」
実は事前に隊士達の好みや出身地を聞きだしていた雪乃、紀伊のめはり寿司、伊予のつみかん――と郷土の味を用意する心配り。
それから暫くそれぞれの郷里の話に花が咲く。
「あー、そうだ。龍影ーこれ返す。ありがとな♪」
左之助投げし物、ぽーんと高く弧を描き龍影の膝元へぽとり。なんか布――ぺらぺら。
「おや? 何で御座いましょう? 見覚えのある‥‥こ、これはもしや」
木の葉の如し軽さのそれ、龍影のみならず一同とっても見覚えがあったりする訳――思い返す事、三刻ほど前――であるが変わり果てた姿が涙を誘う。
「‥‥‥‥まぁ、呑みな」
「矢張り、ですね」
鼎すかさず酒を酌み、真由はただただ哀れみの眼差しを送る。
「‥‥すまん。後で隊費から返済する」
皆の様子から事情察した九良太はキッと上役睨めつけ龍影に詫びる。伍長のお役目はなかなかに大変らしい。
「そんな事より、さっきからちびっ子の姿が見えねぇな」←ちっとも懲りてない
首を巡らせ――そう言えば‥‥と皆がまながる背後から「うらめしやーなのでーす」元気ハツラツな声と共にお化けな小鉄登場。
故意も二度目なら〜♪
って事で、二度目ともなればお化け変装も板に付いたもの。溢れんばかりの生気と笑顔がお化けとは一線を隔するけれども、狩りで仕留めた獲物を手にしていたのは効果的だったかもしれない。
「イーーーーーーヤーーーーーー!(白目)」
「あれ? 原田くみちょーどこ行くですかー?」
克服できちゃいねぇ。
「いいかー、復唱しろよ? 十番隊宴会部部訓、其の壱・お化け禁止ッ!」
「「「十番隊宴会部部訓、其の壱・お化け禁止」」」
んで、くだらん部訓なんぞ出来たりして。
「鉄、ちょっと来い」
「何ですかー?」
膝の上に乗せられた小鉄はくどくどと左之助の言い訳を聞く羽目に。
その内容、要約するに――『俺様は別にお化けが怖いんじゃねぇ。ちっと驚いただけだ』――言えば言うほど逆効果な事に気付いていないのは恐らく本人だけである。
「おでんの大根くださいでーす」
んで肝心の小鉄は既に聞いてないし。
*
「原田さんへ(色んな意味で)応援歌を捧げます」
すみれの奏でる土笛に耳を傾ける左之助のもとへ酒を手にした笙が訪れる。
「原田さんには改めてお礼を述べたいと思っておりました。大吾君の事、私達冒険者を信じ委ねて下さり有難うございました」
「私も同じくお礼を‥‥本当に有難うございました」
「礼だなんてよせよせ! 坊も元気でやってるようで何よりじゃねぇか」
「心の傷は消えずとも、いつか癒され強さに変わるでしょう」
「‥‥そうだな。人ってのは存外強ぇもんだ、こうして腹掻っ捌いても永らえて酒呑んでる俺が言うんだ。お前の信じてるように坊は強くなる、強くなるさ」
でなきゃ、辛い思いをして生き残った甲斐がねぇ。
「ええ、そうですね」
「じゃ、お次は俺がいくぜ。まぁ、見てなって」
手拭いを被った穂狼は竹魚篭を腰に付け、竹笊を手に中央へ躍り出た。剽軽な表情や動きに笑いが起こる。
「得意なんだぜ、どじょうすくい。何せ本職だからな」
楽器を持つ者は穂狼の陽気な動きに合わせて音を奏で、またその他の者は手拍子を打って盛り上がった。場が賑やかになり酒も進む。
凛が桃の節句の舞を披露すればその雅な美しさに心奪われ、笙、紗雪、都の語り物に目を閉じ聞き入る。
「ここらで飲み比べなんてのはどうだい? うちは酒ならいくらでもいけるクチでねぇ、蟒蛇の鼎って二つ名が伊達かどうか確かめてやろうって御仁はいないかい?」
どんっ!
一升徳利を手に鼎がゆっくり視線を移動させ花唇を上げる。
「こうして宴会を楽しめば、色々な確執も消えましょうにね‥‥平山殿もお呼び出来れば良かったのですが‥‥っな、何で御座いましょう?」
座の隅でちびりちびり飲んでいた龍影は訳も分からず担ぎ出され目を白黒させて慌てる。
「さあ、皆はどっちが勝つか賭けとくれ。勝った者には褒美なんてどうだい?」
「え? 飲み比べ‥‥酒は余り強くありませぬゆえっ」
なんて龍影の言葉が聞き入れられよう筈も無く。
四半刻後――龍影撃沈。
次いで挑んだ笙も潰され、勝者から左之助との口付けを命じられる。誰も見たくはなかったが、とりあえず大盛り上がり。
気付けば隊士も冒険者も(一部除き)ぐでんぐでんのへべれけ祭り。
猫と化しじゃれる龍影に、誰彼構わず脱がせ始めるすみれ。立ち直れない笙は柱の代わりに木と向かい合い一人膝を抱えて落涙の哀愁を漂わせ、穂狼はそんな仲間達をやんやと囃し立てて笑い上戸。
「きゃはははー、楽しいでーす」
鈴を転がすような声を上げ、ころころ本人も転げまわっちゃった小鉄、「よいではないかー、よいではないかー」のご乱心。
しゅるるるるる。
必殺褌脱がせ人の名に恥じぬ脱がせっぷり。
「あたりが出たらもう一本でーす」
え? 褌って当たりなんてあるの? それ以上深く聞いちゃダメ、です♪
「はいはーい! 最後は私、マコト逝きマース!」
太鼓を寅吉に(無理矢理)押し付けたマコトはヒサメから借りた『駿馬の被り物』を装着すると舞い始めたが、酒を飲んだ状態で動けば酔いも更にまわるというもの。
すっかり目の据わったマコトお空に向かって乙女の主張。
「江戸越後屋の保存食売切れろ!」
「寺田屋お登勢サンの京言葉ヘン! 誰かツッコメ!」
「九良太サン嫁にしなサイ!」←どさくさ
ドーーーーーン♪
放たれる雷も実に清々しく豪快で。
「こりゃー片付けが大変だべな」
「‥‥‥‥いつもの事だ」
「九良さはあんま飲んでねぇべか? ‥‥寝ちまった人らこのままじゃ風邪引くべな、何ぞ掛けようかね」
「どうせ暫くは起きん。御厨も今のうちに休んでおけ」
そうだべな、九良太の横に腰を据えた雪乃はきらきら反射して輝く川の流れを楽しむ。
「あーズルイー! 私も九良太サンの横がいいデース‥‥むにゃむにゃ‥‥」
両手に花。マコトは寝てるけど。
目の前で繰り広げられる光景(主に「ららら♪」=「裸裸裸♪」)にただ怯える記録係の肩を叩いて鼎が艶やかに笑んで曰く。
「一人だけ呑まないなんて野暮は言いやしないよねぇ?」
「ひっ!」
十番隊宴会部がその後どうなったのかは記録に残っていない。