どんど焼き
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■ショートシナリオ
担当:幸護
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月17日〜01月22日
リプレイ公開日:2007年02月01日
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●オープニング
御所より丑寅の方角。
きょろきょろと頭を振りながら意気衝天と徒歩を進める女の童が一人。
屈強極まれり荒くれ者共が犇めく通りを、なんら怯む事なく押し通る表情には鬼気迫るものがある。
ずんっずんずんっ。
尺のたりぬ足を繰って一路目指すは“冒険者ギルド”
「たのもー!」
大きく息を吸い込んで、むんっと胸を張った。
*
「じゃから何度も言うておろうに、“どんど焼き”を手伝うて欲しいのじゃ」
「どんど焼き言うたら小正月の左義長どすな?」
なんじゃ爺、おぬし耄碌しておるのか? ――小さな身体で大仰な溜息を吐いて、女の童はギルドの手代を見上げた。
「年寄り共は話にならん。災厄が続いたゆえ今年は村のどんど焼きをせんと言うのじゃ! まったく、痴れた事を申すものじゃ」
左義長は火祭りである。
新しい記憶では長州の決起の際にも都のあちらこちらで火柱が上がったが、戦とは係わりの無い市井の民にとって最も恐ろしいのは、瞬く間に何もかもを焼き尽くす火災であろう。
故に、大火の後や飢饉や災厄が重なった時など、これまでにも度々、左義長を差止められてきたのだが――
「火の神がお怒りじゃと言うが、さればこそお祀りお慰めせねばならんと思わんか?」
「‥‥そうどすなぁ」
言葉を濁す手代に詰め寄った女の童は、袂から取り出した嚢を番台にずしりと置いて再び顔を上げた。
「じゃから今年はわしら子供がどんど焼きを行うことにしたのじゃ。ほれ、報酬も用意してある」
「そや言うても‥‥村の衆が反対してはんのやったら上手い事あらへんのやないどすか?」
「‥‥心配はいらん。責任は村長の孫娘のこのミツがとるよって。‥‥せっかく書初めが上手い事書けたんじゃ、もっと字が良うなるようお祈りして今年こそ小太郎に文を出すのじゃっ!」
ぐぐぐぐぐ、拳を握るミツはどうやらそれが本懐のようである。
●リプレイ本文
●壱
春の穏やかさを孕んだ陽射しが降り注ぐ中、吹き抜ける風の冷たさは未だ厳しい。
閑寂な村に足を踏み入れた冒険者達はぐるりと周囲を見晴るかし、わらわらと駆け寄る小さな影に目見を緩めた。
乾枯の景色に甲高く上がる声が鮮やかな色を添え、漂零する鎮めの音色も冴え冴えと野を渡る。
土塊の下で、流水の中で、そよ揺れる木末の先で、命は貪欲に躍動しているのだ。
ただ静かに、けれど決して留まる事無く時は移ろいでいた――
「あ、来たよー!」
「わーい、お兄さん達どんど焼き手伝いに来てくれたんでしょ?」
「そうアルよ〜♪ オゥ、プリティーロリータいっぱいアルね〜♪」
にっかりと笑むサントス・ティラナ(eb0764)の白く輝く歯が爽やかだったか否かは其々の判断に任せるとして、小さな依頼主はぺこりと頭を垂れた。
「此度は宜しく頼むのじゃ」
「任せてください〜♪」
その身のこなしと等しく軽やかに発した神楽出流(eb1780)が破顔すれば、見上げる小さな童子等も同じ表情になる。
「そうして笑っていらっしゃると子供たちと区別がつきませんわね‥‥あら‥‥その、変な意味ではありませんわよ?」
「褒め言葉‥‥ってことで受け取っておくね♪」
朝霧霞(eb5862)の言葉にきょとりと淡い瞳を向けた出流は再び屈託無く笑み曲ぐ。その笑顔は矢張り童子等のそれと同化した。
「先ずは左義長の準備ですね」
ですが――愛染色の瞳をついと上げて、佐紀野緋緒(eb2245)が頤を撫でる。
「力仕事は私とティラナ殿‥‥でしょうか。女性が多いですし」
「了解アル、セニョール佐紀野。ドンド・フィーバー盛り上げる為に人肌ぬくぬく‥‥オゥ、間違えたアル‥‥一肌脱ぐアルね♪」
「‥‥えぇ、宜しくお願いします」
緋緒が行動前から微妙に疲れを滲ませているのは、これからの労働を思っての事ではない。現に“憑かれ”ているからである。何に――かは訊いてやらぬのが思いやりというもの。多分‥‥泣いちゃうから。
「僕はミツさん達に手伝って貰って御餅を用意しようと思ってますよ〜」
「家事は苦手だけれど私も手伝うわね」
「それでは、わたくしもお手伝いします」
「私も手伝いますね!」
出流、霞、リスティア・レノン(eb9226)に続き土守玲雅(eb8830)も。
「お餅作るの? 嬉しい♪」
「ねぇねぇ、お団子も作っていい?」
「ええ良いですわよ。‥‥あら、けれど御餅やお団子の材料を用意していませんわね‥‥」
飛び上がって喜ぶ童子等を微笑ましく眺めていた霞がはたと気付いて呟くとリスティアと玲雅も顔を見合わせる。
「うっかりしてましたね〜」
今回の依頼は子供達からのものであり、村では中止と決定したどんど焼きの用意はされていない。
或いは村人に協力を願い出るなり説得してみるなりすれば、その結果が如何であったかは知れぬが、冒険者達にはその心積りは無かった。
「んー‥‥でも折角ですから、この子達の親御さんにお願いしてみましょうか? だって御餅がなかったら寂しいですよね。それにどんど焼きの火で焼いた御餅を食べると無病息災なんですって‥‥まさか子供の息災を願わない親は居ないでしょう?」
「ええ、そう思います。子供達が楽しみにしているお祭りですが、なにも意地悪で中止にした訳ではないのでしょうし」
出流の意見に首肯して、トウカ・アルブレヒト(eb6967)はひっそりと並ぶ家々に視線を送る。質朴な風情の中に漂う温かな情がどうか思い違いではないように――と小さな祈りを捧げ。
「それではそちらは神楽様達にお任せして、私は佐紀野様達をお手伝い致します。非力なものですから余りお役に立てないかもしれませんが‥‥ヤマトと一緒に運搬などのお手伝いをさせて頂きますね」
「それは助かります」
トウカが首筋を撫でてやると幾度かぱたぱたと耳を動かした愛馬ヤマトがぶるると鼻を鳴らした。
「菓子とタンゴは京都の華アル♪ ミー達がヘルプするからエンジョイしてホスィアルね〜♪」
「端午? 丹後?」
「ノンノン! タンゴ知らないアルか? 後でじっくり堪能させてあげるアル〜。ムーフーフーフー」
それは本当に堪能出来るのであろうか――まぁ、あれだ‥‥とりあえず準備だ!
午の刻を過ぎて暫し、田圃の真ん中に用意された櫓を見上げサントスはご満悦の表情。
「此方の準備はこれで終了ですね」
憑かれた(←誤字に非ず)表情なのは緋緒さん。
「ティラナ様、佐紀野様、お疲れ様です。ヤマトも有難う」
トウカは空を見上げ「お天気が好くて良かったですね」と微笑んだ。
おーい、と叫ぶ声に顔を向ければ出流が手を振っている。どうやらあちらの作業も終わったようだった。
●弐
「お次は“カキゾメ”でしたか‥‥どんど焼きで燃やすのにも使うそうですね」
「どんど焼きで書初めを燃やすと字が上手くなるって言われてるんです♪」
馴染まぬ風習に興味を抱くトウカに半紙を渡した出流は墨を擦り始めていた。
「火の神を送り、五穀豊穣と鎮火を祈願する祭事なんです。どんど焼きの火で体を暖めて御餅を焼いて食べると無病息災で、その年は健康で過ごせるんですって」
それなのに、何で中止になっちゃったのかな――首を傾げる出流の横で大きな声が上がった。
「書けたアル〜♪」
『子宝天国 サントス・ティラナ』
「今年こそは娘にプリティシスターをプレゼントするアルね〜♪」
サントスの決意は固いようだ。
「僕は‥‥『邯鄲の夢』ですよ」
「オゥ、ケセラセラ〜アルね♪」
伸びやかに優美に認められた筆致を覗き込んだサントスがパンと手を打ち鳴らす。
「霞先生、玲雅先生、これでいいのかな?」
「私も書けたよ〜」
「俺も、俺も書いた!」
書初め指南役を請け負った霞と玲雅の周囲では童子等が賑々しい声を上げながらも真剣な表情である。
「抱負ですか‥‥すぐには思いつきませんが折角ですものね」
眼前の和やかな様子に微笑を落とし、暫し思考に耽ったトウカは『精進』の文字を記す。
「この祭事は火の神様に捧げるものだと伺いましたので‥‥火の精霊と契約をかわせし身ですから、僅かでも霊なるものと己の立ち位置が近まるよう願いをこめて」
「素敵ですね」
玲雅が大きく頷いた。
さて、そんな和やかな皆とは一線を隔して、鬼気迫る表情で文机に向かっているのは緋緒である。
親の仇を討つような形相で一心不乱に筆を執っている。
『憑 物 祓』
「これを越える願いは今のところありませんが、何か?」
何かもう目も据わっているワケ。
――うん、だからアレだってば。訊いてやるな。
「それでは点火致しますわね」
火の精霊に祈りを捧げたトウカの手が灼熱と化し、彼女が触れた櫓から炎が上がった。
「わぁっ!」
子供達の歓声が、ぱちぱちと弾ける音と重なって響く。
「どんど焼きは竹の爆ぜる音がドンドンと聞こえるから、どんど焼きなんですよ〜。さぁ、去年の達磨さんとお札と〜お正月のお飾りも一緒にくべましょうね。僕の達磨さんは願いが叶ったからお目目がちゃんと二つあるんですよ〜♪」
「それは羨ましい事じゃ」
出流の抱える達磨をひたと見詰めたミツが溜息を吐く。その細く長い息が途切れるよりも少し早く、大きな手が彼女の肩を叩いた。
「ミーがセニョリータ・ミツのキュッキュッキュ〜ピッドになるアルね〜♪ ムーフーフーフー」
「まことか?!」
恋する童子(と書いても「乙女」と読め)は藁にもサントスにも縋りたいようで、常から大きな黒曜の瞳をうんと見開いて手を打ち鳴らした。
「ミーはプリティーロリータに嘘はつかないアル」
「ぷり手ろり太? わしはミツという名じゃが」
既に噛み合ってない。
「心配ないアル〜。ミーに任せるアルね♪ まずは得意のタンゴを披露するネ〜♪ 皆も一緒に踊るアル」
何故か褌一丁で踊り出したサントスは子供等を誘う。
「あれは放っておいて良いのでしょうか‥‥」
リスティアの心配は尤もなのではあるが――
「子供達も楽しそうだから良いのではないかしら?」
サントスと春画展の警固を共にした事のある霞は免疫があるらしい。
彼女の言うように子供達の表情は明るくとても楽しそうだった。
対照的に、酷く悲愴な風情の人物が一人。
「何故私の書初めは燃えずに戻ってくるのでしょうか‥‥」
緋緒の呟きがただ虚しく漂う。
その後、トウカが炎を操り様々な姿を作り出すと、皆から拍手が起こった。
「すごいすごーい!」
子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥――
次々に生み出される炎の姿を子供達はただ夢中で見詰めている。
「はい、次は御餅を焼いて食べるよ。火傷しないように気をつけてね。火に近付けすぎても御餅が焦げちゃうからね」
出流の注意を受けて子供達は一度緩んだ表情を引き締める。
「良い年になる様に、八百万の神々の祝福があると良いわ」
竹の爆ぜる音に掻き消された願いも、炎や煙に乗って高天原へ届いた事だろう。
●おまけ
「ところで、セニョール・コタローはどこに居るアル〜?」
「小太郎なら、ほれ‥‥あの家じゃ。きっと草履を編んでおるじゃろう」
サントスはミツの指差す家へと褌一丁姿で踊りながら向かう。
「キュッキュッキュ〜ピッド惨状(←誤字じゃないってば)アル〜! セニョール・コタロー! ユーのハートを串刺しするネ〜♪」
バーン!
つかね、そんな姿の見ず知らずの男が乗り込んできたら怖い。かなり怖い。
「っ?!!!!」
家の中はあんぐりと口を開けたまま硬直している四十絡みの男以外に姿は無い。
「セニョール・コタローはどこアル〜?」
「だ、誰ですかアンタ‥‥小太郎はわしですが‥‥」
「オゥ、セニョリータ・ミツ‥‥セニョール・コタローはカモメ住まいアルか?」
「‥‥カモメではないが鰥夫(やもめ)じゃのぅ」
「予想外アルッ!」
そんな頃、他の仲間は子供等と共に餅を食べ、無病息災、家内安全、大願成就の祈りを込めた出流の神楽舞を楽しんでいた。
ただ一人、大いなる意思により燃えぬ書初めと格闘を続ける男を除いては――