快傑!桃色頭巾

■ショートシナリオ


担当:幸護

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月29日〜07月04日

リプレイ公開日:2004年07月07日

●オープニング

 冒険者達の目の前には見目鮮やかな桃色の頭巾を被った少年が一人。
 背格好からして十二、三といった頃合いか。
 然し、よく焼けた肌や腕の筋肉を見るに小柄なだけで、もう少しばかり上かも知れない。
「‥‥‥‥」
「へェ‥‥冒険者ってェのは一度引き受けるってェ腹に決めたモンを翻す腑抜けの集まりってェワケかィ? そりゃまた恐れ入谷の鬼子母神じゃねェか」
 すっかり言葉を失って無言のまま踵を返そうとした所へ投げ付けられた言葉に足を止めた。
「そんな恰好のお前に言われたくないが」
 余裕の笑みを浮かべて口の端を引き上げている桃色頭巾の少年は、五寸ばかりはあろうか高い足駄を履いた脚を開き、腕組みをして威風堂々と立っている。
 挑むようにジロリと向けられる三白眼には強い気迫‥‥いや、“鬼魄”とでも言おうか、血気盛りな視線は射るようだ。
 ‥‥然し、この少年、身に着けているものと言えば頭からすっぽり被った桃色の頭巾と褌――だけである。
 大きな溜息を一つ。
「‥‥ギルドでは詳しい事は聞いてない。とにかく話を聞こうか」
 腑抜け呼ばわりされて帰ったとあっちゃ冒険者の沽券が下がるというものだ。例え、相手が桃色な頭巾の少年であろうとも。
「そうこなくっちゃ! 俺ァ“桃色頭巾”だ。故あって名は明かせねェが‥‥そうだなァ、“桃ちゃん”とでも呼んでくれや」

「で、本題だがよォ‥‥」
 とある町、呉服を扱う大店『美濃屋』で厄介な事が起きていると言う。
「初めは客として着物を注文しに来たらしぃんだが、出来上がった着物に「質が悪い」だのイチャモン付けやがって美濃屋の旦那が丁重に詫びて金を返したってェのに日毎やってきては金を集りやがるってェんだ」
 迷惑料も含め着物代としては十分すぎる金を渡し落着したかに思われたが、その後も金を要求し、出せないと言えば出すまで店内で暴れるのだと言う。
「美濃屋と言やァ、名の通った老舗で着物の質が悪ィってェのも唯の難癖だ。屁にも糞にもなりゃしねェ、ゴロツキ与太どもさ。そうは言っても町人じゃ手も足も出せやしねェだろ? ソコデ、この桃色頭巾サマの出番ってェこった」
「‥‥お前が解決するなら俺等は必要あるまい?」
「馬鹿抜かしてんじゃねェや! 俺サマ一人でゴロツキ五人を何とか出来るわきゃねェだろーが! よく考えてモノ言いやがれってェんだ、このヘチマ頭! 見くびんじゃねェよ、俺ァガキだぞッ!」
 フンと鼻を鳴らして胸を張るが、つまり一人じゃ手に負えないという事らしい。
「お前‥‥だったら何で引き受けたりするんだよ。無い袖は振れないだろうに」
「あァ?! 旦那よォ、あんた困ってるヤツ見て放っておけるってェのか? 俺ァできねェや。袖がねェなら腕だろうが褌だろうが持ってるモン振ってみりゃいいだろ!」
 美濃屋からの依頼を受けた桃色頭巾が更にそれをギルドに申し入れたようだ。実にややこしい。
「漢が喧嘩するからにはよ、勝たなきゃ意味がねェだろ。まァ、だから、手伝ってくれよ♪」
「やれやれ。威勢はいいが‥‥仕方ないな」

●今回の参加者

 ea0625 天螺月 秋樺(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0912 栄神 望霄(30歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea2001 佐上 瑞紀(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2700 里見 夏沙(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2789 レナン・ハルヴァード(31歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3187 山田 菊之助(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3200 アキラ・ミカガミ(34歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3571 焔雷 紅梓朗(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●いざ行かん
「善良な町人にいちゃもんつけて金品巻き上げようとは、悪いヤツもいるよなー! そういうの絶対の絶対の絶っ対に許せないよな! あー、もう腹立つっ! ‥‥浪人が多いとゴロツキも増えるのかな? なぁ、焔の字、どー思う? なーってば」
 握った拳をふるふると震わせたり、大仰に首を捻ってみたりと感情一直線の天螺月秋樺(ea0625)はくるくると秋空のように目紛しく表情を変えた後、顔見知りの焔雷紅梓朗(ea3571)の足下にじゃれ付いた。
「あぁ?! まぁ‥‥よ。とにかく俺らがこうしてわざわざ出向いてやるわけだから二度と悪さなんざする気も起こらねぇようにしてやるまでさ」
 仔犬の様にじゃれ付く秋樺をひょいひょいと躱して涼しい顔の紅梓朗は、矢竹に黒漆を塗り通常より短く拵えられた羅苧に、同じく寸尺短い金無垢地の雁首と吸い口の携帯用煙管でポンポンと軽く秋樺の後頭部を叩(はた)く。
「いってぇー」
 頭を押さえ、恨めしく上目遣いに睨んだ秋樺は志士、素知らぬ顔をしてみせる紅梓朗は浪人である。
 十ほど齢も違えば身の丈も五寸ばかりは違うのだが、懐具合だけはその日暮らしの紅梓朗の方が圧倒的に軽い。
「‥‥にしても、桃‥‥お前かっこわりぃぃ。頭巾なんか脱げよ。褌一丁はいいとしても、顔を隠すのは仕返し怖いみたいでヤじゃん。まあ、身分が高いから‥‥なーんてこともあるかもだけどよー」
「あァ?! 何言ってやがんだ。この桃色頭巾様が仕返しなんぞが怖ェワケねェだろーが! まったく臍茶だぜ、ヘ・ソ・チャ! こりゃァ俺様の仕事装束だからイイんだよ! 漢の心意気ってェヤツさ!」
 威勢だけは一人前の桃色頭巾がイーッと口を横に広げて舌を出すと秋樺も同じく顔を顰めて舌を出す。
「いいからシャキシャキ歩きやがれ」
 あまりに幼い遣り取りに深く嘆息した紅梓朗が頃合良く並んだ頭の鉢に拍子を揃えて煙管の雁首を落す。

 ぽこっ、ぽこん。

 少し間を置いて「いってー」と続けて発せられた声がまるで輪唱のように往来に響く。

 三人から少し遅れて歩いているアキラ・ミカガミ(ea3200)は青い外套を靡かせて、同じく空色の双眸をツイと天へと向けた。
「いい天気だなぁ‥‥」
 左手に白地の布を巻いた短槍を抱えて、右手を翳し瞳を細めて穏やかに独りごちる。
 強い日差しを受けて白く照り返す肌、さらさらと風に泳ぐ髪は銀鏡のように柔らかく輝き、進路を捉える瞳は清流のように濁り無く透き通っている。
「こんな日には、お茶でも飲みながら縁側で将棋でも指したいな‥‥」
 のほほんとした様子はこれからゴロツキ共とまみえるのだとは微塵も感じさせない。

●美濃屋
 到着した冒険者達は梅鉢の紋が染め抜かれた大きな日除け暖簾が目を引く美濃屋の店内へと入って行った。
「冒険者の皆さんが来んさったで。捨吉、ちゃっとお茶のまわししてな、えか。いやぁ、これで“あんき”だなも」
 到着した冒険者達を腰を低く折った店主が笑顔で出迎えた。
「?」
「旦那さんは美濃のお方で、あれはお国言葉です。“まわし”は準備する事で、“あんき”は安心するという意味です。私も最初は分からなかったんですけどね」
 首を傾げた佐上瑞紀(ea2001)らに捨吉と呼ばれた男が茶を出しながらそっと小声で説明した。
 各地から人々が集まる江戸ではお国言葉が飛び交い、意志の疎通に難儀する事も珍しくはない。
「騙くらかされて往生こいとったんだわ。たわけんたぁがござると商売もやにこくて、かなわん。ほな、わっちは呼ばれとるで出掛けるもんで、後はあんばよー頼んだでなも」
「任せてください! この菊之助様が来たからにはもう安心ですからね」
「いってらっしゃいませ」
 頼もしく胸を叩いてみせた山田菊之助(ea3187)をはじめ冒険者達を残して奥の間へと消えていった店主に捨吉が折り目正しくお辞儀する。
 因みに菊之助は、美濃屋に恩を売って新しい振袖を仕立てる時に優遇して貰うというしたたかな算段があったりする。
 と言うより、それが本来の目的であり、ゴロツキ退治の方はその手段に過ぎない訳だが、腹の内はどうであれ双方の利害が一致すれば問題はなかろう。
「丁度夏用の着物が欲しいと思ってたんですよね」
 髪を結い上げて白いうなじを覗かせている栄神望霄(ea0912)が立ち上がって店内の反物を手に取り見てまわる。
 蓮が刺繍された鴇色の着物に萌黄の帯を前で結んで垂らし、白い素足という艶やかな出で立ちであるが‥‥男性である。しかも僧侶。深くは突っ込んではいけない。
 客を装っている菊之助や望霄が熱心に商品を物色している様子は演技を超えた“らしさ”がある。
 ‥‥要するに演じてない訳だけど。

 盛夏の昼下がり。
 生ぬるい風が埃を攫って吹き抜ける中、泥臭く真っ黒に日焼けした如何にもゴロツキといった風体の男が五人、我が物顔で往来を闊歩してくる。
 悪罵を浴びせるなど傍若無人な振る舞いの彼等を避けるように町の人々はそそくさと逃げてゆく。
 その様子にゴロツキ達は顎をしゃくり鼻でせせら笑う。見るからに性根の腐った奴等である。
 いつもの様に美濃屋に入ろうとするゴロツキ達に店の前に立っていた男が静かに声を掛けた。
「美濃屋さんにご用ですか? 気を付けた方がいいですよ。美濃屋さんは冒険者を雇ったって話だから‥‥」
「あぁん? 何だテメェ!」
 熱り立つゴロツキ達が吠え掛かるのを穏やかな笑みで受け流した男はゆっくりと歩み寄りゴロツキの一人の腕を掴み、後ろに捻り上げた。
「イテテテテッ」
「ですから、気を付けてと言ったでしょう? ‥‥おかしいなぁ。僕のジャパン語通じませんか?」
 ゴロツキを捻り上げた右手に更に力を加えて、けれど表情は相変わらず穏やかなままのアキラが首を傾げる。
「っざけんな! 何者だ貴様こんの野郎ッ!」
 殴り掛かって来たゴロツキ其の二の腕を短槍で弾いて脛を蹴り飛ばしたアキラは矢張りにっこりと笑んだまま。
「これは失礼。挨拶が遅れちゃいましたね。僕がその雇われた冒険者の一人ですよ」
「ナンだと〜!!!」
「あぁ、良かった。言葉通じてますね」
「てんめぇ‥‥」
 騒音を聞きつけた冒険者達が店内から出てきて、ギリギリと歯噛みするゴロツキ達と対峙した。

●ゴロツキ退治
「ちょっといいかしら? 話があるんだけど‥‥此処じゃなんだから向こうの広場でどうかしら?」
 サラシを巻いた妖艶な姿の瑞紀が紅を乗せた形の好い唇を動かし視線を流す。
「七面倒くせぇ! ここで十分だ!」
「あら。せっかちな男は嫌われるわよ?」
 言うなり急所に見事な蹴りをお見舞いしたのは、さもお見事。慣れた手付き‥‥いや足付きである。しかも情け容赦一切無し。
「これで聞く気になったでしょ?」
 声も無く蹲ったゴロツキに口の端を引き上げて笑ってみせる瑞紀だったが、
「あらら、効き過ぎちゃったみたい。‥‥すぐには無理かしら」
 患部を押さえて転げまわるのを見下ろしてくすくすと笑いながらの一言。

 アンタ鬼だ。

 此れ、その場に居た野郎共の心の声。
 敵味方関係なく、その痛みは男のみぞ知る。ってな訳でうっかり連帯感みたいなものが生まれようとしていたが、そこはゴロツキと冒険者。
 急所の痛みには激しく同情すれど立場も思想も相容れないのである。

 そんな具合で、熱くなったゴロツキを近くの広場に誘導するのは事も無かった。
「この木っ端侍が! 菊之助様御用達の呉服屋に仇なそうとは不届き千万! 皆の衆、やっておしまい!!」
 広場に着くなりビシリと指差した菊之助は言い終えると満足したように一歩下がった。
「怪我しても回復してあげますから、頑張ってくださいね」
 に〜っこり笑う望霄は初めから傍観する気満々。
「いけいけ! ヤッちまえ!! 俺様がついてンだから心配すンじゃねェぞ!」
 望霄の背後から顔だけ出して威勢のいい桃色頭巾は勿論、声援だけ。
 君達‥‥ヤル気ある?

「待ってたぞ! なぁ、お前らバカだろ? いかにも退治して下さい候って言わんばかりのアホやりやがって。っとに世話の焼けるアホ共だぜ」
 広場とは細い道を挟んだ対面の民家の屋根の上で腕組みをした里見夏沙(ea2700)が「やれやれ」と言わんばかりに頭を振る。
 皆が来るまでここで待機していたのだから‥‥他人の事は言えた義理じゃないような気がするのは見逃すべきか。
 評価するならば炎天下の中、長時間屋根の上で待ち続ける根性は見上げたものだ。とは言え下手すれば霍乱(日射病)になりかねないのだから、ちょっぴり迂闊者である。
 実は頭巾を被ってみたかったのだがヘソ曲がり故に桃色頭巾の二番煎じに甘んじるのが嫌だったようだ。大人しく被ってりゃ霍乱の心配はなかったのだが。
 屋根に上がる前に件の家の者に事情説明と共に丁寧に菓子折りを渡し挨拶していたりするので、気の利く迂闊者のようだ。
 それが正しい気の遣いようかどうかは不明だが愛すべき迂闊者って事で――どうだ?(聞くな)
 暫しの間を置いて、術の炎を身に纏った夏沙が屋根からゴロツキ目掛けて飛行する。
「はっはっはっ、驚いたか! 俺は“ぶらっく”だからな。必殺技的な叫びはやらないぞ! どうだ“ぶらっく”だろ?」
 ――そうか? 
 皆の疑問はとりあえず置いといて。

 ドカーン! ドカーン!

 
 体当たりを受けたゴロツキ達が地面に転がる。
 まぁ、不意打ちの方が効果があったのは結果論。ぶらっくかどうかは別問題。
「おいおい、テメェら‥‥まさかそんで終いじゃねぇだろうな? ちったぁ根性見せやがれ。俺の愛刀「黒焔舞」の出番がねぇじゃねぇかよ」
「僕もまだ槍を出してもいないんですけどねぇ」
 紅梓朗とアキラが転がったゴロツキを見下ろし踏みつける。
「ちょっと、ソードボンバー使えないじゃないの」
「ってか、そりゃ元からやめとけっつーの! 無差別攻撃かます気だったのか! 危ねェ姉ちゃんだな、おい」
 残念そうにぼやいた瑞紀に桃色頭巾が叫ぶ。
「はいはい、わかったわよ。あー、ソードボンバー‥‥使いたかったのに」

 げしげしげし。

 ゴロツキを蹴りまくる瑞紀にやはり容赦はない。恐らく八つ当たりも含まれている。
「まるで弱い者ミジメみたいだな‥‥ん? ミジメ‥‥違うか? イジメ?」
「あー、大丈夫。それで間違ってないよ! 弱い者みじめ♪ ぷぷっ」
 顎に手を当てて眉根を寄せたレナン・ハルヴァード(ea2789)の背中を秋樺がバシバシと笑いながら叩いた。
「そうか‥‥。弱い者みじめ、よし」
 碧の瞳を輝かせ照れたように笑ったレナン。いや、それ‥‥違う。
 随分和やかな雰囲気であるが実情は袋叩き真っ最中。
 ゴロツキ共も当然ながら応戦はしているが、まるで子供と大人の喧嘩のような状態である。

「さて、こんな所か」
 最後の一撃を鳩尾に叩き込んだレナンが土下座して詫びるゴロツキ達の武器を取り上げ褌一丁に剥く。
「俺ロープ持ってるぞ!」
 秋樺のロープで五人を縛り上げ、背中に「もう悪さはしません。反省してます」の張り紙を貼りつけて往来に転がした。
 かなり恥かしい。これじゃ二度とここらは歩けやしないだろう。
「‥‥ところで桃の字よ。おめぇもしかして美濃屋のせがれか?」
 くるりと振り返った紅梓朗の問いに「はァ?」と一瞬ぽかりを口をぽかんと開けた桃色頭巾が腹を抱えて笑う。
「こんな見目鮮やかな絹の頭巾なんぞ、そんじょそこらで手に入るもんじゃぁなかろうがよ? ‥‥っとま、違ったらカンベンな」
「へェ‥‥ふゥン? なァ、旦那‥‥アンタ本当にただの素浪人か?」
「さぁて‥‥な」
「まァ、いいや。素性なんざ互いにどうでもいいじゃねェか。っても俺ァ、美濃屋の倅じゃァねェけどな。あンのオッサンの言ってるこたァ半分もわかりゃしねェよ」
「確かに、ありゃ俺もわかんねぇな」
 声を上げて笑う二人の間に背後から夏沙が割り込んだ。
「ほらほら、あんた達も来いよ。飯できたぞ。握り飯と味噌汁、お新香もあるからな」
「飯? ってェかお前さ‥‥あの後ずっとこれ作ってたのか?」
「いや、だって、仕事の後は腹減るだろ?」
 澄まして答える夏沙の後ろから走りこんできた秋樺がガバッと抱きつく。
「そーだよな夏沙ーっ! 俺もう腹へってさぁぁ」
 傍観と応援に徹してたり戦闘中に食事の用意してたり‥‥そんな冒険者達に完敗したゴロツキはやっぱり『弱い者みじめ』で正しいのかも。