《江戸納涼夏祭》花嫁修業はエンヤコラ♪
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■ショートシナリオ
担当:幸護
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月26日〜08月31日
リプレイ公開日:2004年09月03日
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●オープニング
今年の夏は殊更に暑かった。寝苦しい熱帯夜が幾日続いたことだろう。
お天道様が西に沈めば幾らかは涼しくなるが、他の季節より長く天に留まった朱(あけ)の熱がいつまでも残る感じだ。
てな訳で昼夜問わず暑い暑い暑い。おまけにもう一発、むしろ熱い!
そんな茹だるような時節に、過ぎ逝く夏を惜しむかのような祭り囃子に笑い声――ごった返した人いきれ。
寄り集まる人々の体温で更に熱気を上げて迎え熱‥‥ってのがジャパン流。
逃げも隠れもしない。暑さも寒さも来るなら来やがれ、こんちきしょう!
夏なら夏らしく、冬なら冬らしく、季節を愉しむも、いとをかし。
納涼夏祭りとはそんな感じ(?)
さて、祭りで賑わうお江戸の町で、普段から人の出入りの絶えない冒険者ギルドも一層賑わっていた。
仕事を求める冒険者に、働き手の欲しい町人が引っ切り無しに訪れる。
なんせ祭りと言えば、それこそ猫の手も借りたい程人手がいるものだ。
祭りの日は普段の五割増し。ついでに色気は三割増し。いや、だって浴衣とか。
‥‥こほん。まぁ、そんな感じで普段と様子が違うと言えば、どことなく浮き足立った雰囲気だろう。
中には、浮かれてなんかいられない御仁もいるようではあるが――。
□■
「失礼する」
「あら? 映(はゆ)さん、こんにちは。先日の花嫁修業は如何でした?」
駆け込んできた映に気付いたギルドの女がにこりと微笑む。
映は先日このギルドに仕事を依頼した女性である。
男勝りな性分で、「嫁の貰い手がない」と嘆いた母親がその筋で有名な『遣り手婆』のところへ花嫁修業に行けと言いだしたので困っているとの事だった。
「あぁ。紹介頂いた者達と見事料理を習得した。やってみれば料理とやらも面白いもんだな。皆、実に素晴しい腕前だった。また鍋など投げたいもんだ」
「鍋を? ‥‥兎も角、楽しまれたご様子で宜しかったですわ」
映の言葉に一瞬眉根を寄せた女が再び笑顔に戻る。
「っと、和んでおる場合ではないのだ。此度、遣り手婆から挑戦状が届いた故、また共に参ってくれる者を頼みたいのだ」
「挑戦状‥‥ですか?」
首肯した映が懐から文を取り出して広げて見せた。
「遣り手婆が祭りで茶屋を出すらしく、その手伝いをしろと言う事らしい。客人を持て成すのも女子の務めだと言いおってな」
「あら、宜しいではありませんか。挑戦状などと仰るから何事かと思いましたわ。何か問題でも?」
「大有りだ! 浴衣で来いと書いてある。浴衣だぞ、浴衣! しかも客の相手など‥‥」
ギリギリと歯噛みする映は先日と同じ袴姿である。恐らく普段からこのような出で立ちばかりなのであろう。
「たまには良いじゃないですか、せっかくのお祭りですし。きっとお似合いですよ」
「冗談じゃない」
吐き捨てて頭を掻く映に、女はくすくすと笑った。
●リプレイ本文
●小町茶屋
「先回は失態を演じましたけど今回はそうはいきまへん。うちの実力、篤と目に焼き付けなはれ遣り手婆! もとい物の怪小町!」
往来に声を響かせて西園寺更紗(ea4734)がピシリと指差し宣戦布告する。
淡い天色に薄紫の藤の描かれた浴衣は涼しげだが、本人は燃える気合い十分。
「物の怪ではないわ! 小町ちゃんじゃ、こ・ま・ち・ちゃん!」
婆の扇子が風を切って飛ぶ。
「‥‥然し、よくぞ申した。主らのお手前この小町が確と拝見致そうぞ」
白地に藍で流水模様を染めた‥‥やはり婆も浴衣らしい。別に見たくはなかったのだが。
(「客入りが悪くなったらどうしてくれるんだ‥‥」)
なんて心の呟きも一つや二つや‥‥八つあったかもしれないが、それはさて置き。
今日も今日とて花嫁修業。
祭りの為に特別に用意された茶屋の少々活気のあり過ぎる一日はこうして始まった。
「先日の修行は大変有意義だった。また物の怪小町殿と手合わせ出来るかと思うと‥‥腕が鳴る」
無表情のまま言ってのけたニライ・カナイ(ea2775)は蒼地に白菊の清しい浴衣姿。
腕が鳴るのもどうかと思うが、胸じゃなくて良かった。心から。
胸が高鳴ったら紛れもなく末期である。
「無事に生きていたか? 物の怪小町殿」
「他に言葉はないのかのぅ。‥‥主らのような門人を抱えておっては死ぬに死ねんと言うに」
本人にしてみれば一般的な「お元気ですか」と同等の挨拶らしいニライの言葉に婆が目を眇め、さめざめと首を振る。
長生きできて良かったじゃないか。そもそも元から簡単に逝きそうもない。むしろこの中の誰よりも長生きしそうで怖い。
「映さん、またご一緒できて嬉しいです。小町さんも、変わらずご健勝のようで‥‥今日はまた宜しくお願いしますね。俺、負けませんから!」
ぐぐっと拳を握った橘由良(ea1883)は小町にとって初の男性門人である。
悲しいかな、数いる門人の中で一番真剣に花嫁を目指しているのが彼だ。うん‥‥男性なんだけど。
「小町茶屋‥‥この屋号もっとどうにかならなかったんですかね」
露草を水で溶いたような色の八重桜が目正月な浴衣に身を包んだ栄神望霄(ea0912)が息嘯を漏らす。
「何じゃ? 良い名じゃろう?」
「まぁ‥‥別に(どうでも)いいですけど。それより映さん駄目ですよ、女性なんだからもっとお洒落しなきゃv」
「なっ?! 離せっ」
藍地に白い菖蒲柄の‥‥質朴な趣があると言えばそうなのだろうが、若い女子としては少々味気ない浴衣に身を包んだ映に視線を向けると手を引き、裏へと連れていく。
化粧(けわ)う事もなく、髪も普段のままの映を頭の先から足の先まで眺めて、ふむ、と頷いた。
「遣り甲斐がありそうですね」
実に楽しそうな望霄は荷物を広げてあれやこれやと支度を始める。
「望霄殿、俺はこのままで一向に構わぬのだが‥‥」
化粧箱から次々に登場する道具を所在無く見ていた映の全身が汗ばんでいく。
「まぁまぁ、そう言わずに。お祭りですし、ね♪」
「‥‥そういうものか?」
望霄の有無を言わさぬ笑顔(という名の威圧)の前に観念するより他なかったようだ。
笑顔で人を制する事が出来るのだと知った夏。映は一つ大人になった‥‥かもしれない。
程無くして化粧を施し、髪を結い上げた映と望霄が表に出ると丁度仕事分担をしている所だったようだ。
「あ! 来たです☆ 望霄さんと映さんはどうするです?」
羽根妖精のベル・ベル(ea0946)が二人の頭上をひらひらと舞って訊ねた。
「俺は接客ですね。任せてください‥‥本職ですから♪」
「どのようになっているのだ? 俺は手薄の所で構わぬが」
二人の返答を受けて、ひらりと映の肩に降りたベルが指を折って首を傾げた。羽根妖精の彼女の目方は二斤(1200g)より軽く、肩に乗られても苦にならない。
「望霄さんが接客だから‥‥映さんは厨(くりや)でいいですか? 厨は映さん入れて三人です☆」
「承知致した。料理は先日修得したし丁度良い」
「厨は人が少ないみたいだけど‥‥それって逆に言えば好き勝手しやすいって事よねぇ。ふふっ」
「が、頑張りましょうね‥‥はぁ‥‥」
くくく、と邪計が滲み出た笑みを浮かべる佐上瑞紀(ea2001)と、料理の何たるかを穿き違えている映に挟まれ由良が不安な表情を見せる。
厨担当はこの三人で決定した。本日一日、由良の胃がもつか心配だ。
「折角のお祭りなのだから楽しく過ごしましょう」
「そうなのだ★ ジャパンの祭りは面白いのだ。祭りは皆で楽しむのだ★」
静月千歳(ea0063)にユーリィ・アウスレーゼ(ea3547)が首肯する。
「主ら‥‥遊びではないぞ」
婆の眼光が射るが、糠に釘。豆腐に鎹。のれんに腕押し。要するに無意味。
「しかし、動き辛いな‥‥」
「映殿、そう浴衣を嫌わずとも良いじゃないか。私はジャパンの服は初めてだが‥‥袖に武器を隠す所があって便利だと思うが?」
着慣れぬ浴衣の裾を気にして漏らした映にニライが小首を傾げる。
「なるほど。異国人の意見は面白い。確かにそうだな、これならば不意も衝けよう」
映は瞠目して感心しきりであるが、そんなのは恐らくニライだけの意見だ。浴衣で不意を衝くな。
映の行く末を案じて修行に出した母がこの姿を見れば喜ぶであろうが、残念ながら悪化していると思われる。
って言うか、それ以前に誰も婆の話なんざ聞いちゃいねぇ。
「時にお主。‥‥随分と身の丈が高いが‥‥女子‥‥か?」
「オイラなのだ? オイラゆーりぃなのだ★」
会話すら噛み合っちゃいない。
<接客>
静月・千歳
栄神・望霄
ベル・ベル
ニライ・カナイ
ユーリィ・アウスレーゼ
西園寺・更紗
<厨>
橘・由良
佐上・瑞紀
秋篠・映
そんな訳で分担も決まり、いよいよ営業開始であるが――激しく不安である。
この顔触れで平穏無事に済むわきゃあない。負けるな頑張れ‥‥客!(←そっちか)
●神様仏様お財布様
「皆さんいいですか? お客様をおこらせちゃ駄目ですからね」
戦闘準備に入る前に望霄が言い含める。
「何があってもにっこり笑顔で対処ですよ」
「承知した」
手本としてにっこり笑ってみせた望霄を前にニライが深く頷くが、やはり無表情のままだ。
‥‥本当に分かっているのだろうか。
「来る人は全て、俺たちのお財布だと思えば結構嫌な事も我慢できますよ」
「みんなお財布なのですね☆」
ふわふわと浮かぶベルがぱちくりと瞳を瞬かせた。‥‥何か違うが、まぁいいだろう。
徐に息を吸い込んだニライが声を張り上げた。
「らっしゃい! らっしゃい! そこの道行く色男の兄さん。イキの良いのが揃ってるよ、どうだい寄ってかないか? 損はさせないよ」
魚河岸ばりに威勢は良いが抑揚がなく完全なる棒読み。その前にここは茶屋。
「なーにをやっとるかっ!! 虚けが!」
婆の投げた盆を表情のないままひょいとかわすが、続けて投げられた布巾が頭に乗った。
「卑怯な‥‥」
相変わらずの無表情のまま抗議する。
「以前、蛙料理屋の看板娘として働いた折に教えられた通りに言っただけだぞ? 拙かったならば手本を見せてくれ」
「ふぉふぉふぉ。これでも若い時分は引く手数多で袖なすのに苦労した小町ちゃんじゃ。見ておれ」
言うが早いか、婆が道筋に出て笑顔を振りまく。
「‥‥小町殿、今ので客足が一気に遠のいたのは気の所為か?」
「近頃の殿方は美しい女子に近付く事も出来ぬとは意気地がないのぅ」
確かに意気地なしかも知れないが、違う方向だ。時の流れは残酷である。
祭り日和の今日は日差しが燦々と降り注いで地面を焼いている。
「砂埃が舞ってはいけないです」
野天に腰掛を並べただけの特設茶屋という事もあり、気遣った千歳が打ち水をする。
ビシャ――
「す、すみません。どうぞ乾くまでこちらに。‥‥一名様ご案内」
通行人に水をかけてしまい、すかさず店へ通す。その手際の良さが天晴れだ。
水をかけられた男が文句の一つでも言ってやろうと口を開きかけたが、黒地に菊模様の浴衣から伸びた雪のような白い手で申し訳無さそうに濡れた着物を拭く千歳に暫し見惚れて言葉が出ない。
「ご注文はどうされますか?」
この時点で既にかなり強引な流れになっているのではあるが、当の男は人形のように愛らしい千歳に微笑まれて舞い上がってしまっているようだ。
「そ、そ、それじゃあ、団子と茶を‥‥」
「はーい。お待ち下さい」
すっかり千歳の術中にはまった。恐るべし千歳。
「ようこそおいでやす」
柔らかな更紗の言葉は客を和ませる。
「ご注文お決まりやしたら言うとくれやす」
祭り気分と酔った勢いで不埒な事を働こうとする客も当然ながらいるわけだが、そんな時はどこからともなくハリセンを取り出してやんわりと突っ込む。
「おいたはあきまへん、うちらはみなはんを接客するのが仕事やよってに。それはお仕事が違いますえ」
笑みを絶やさず危なげなく客を捌いている。婆も目を細めてその様子を見ていた――のだが。
客に勧められた酒を断りきれず飲んだのが拙かった。
「お客はん〜、うちにもそれ食べさせて〜」
男女の差別なく、潤んだ目でしなだれかかり甘えた声を出す。浴衣の胸元も緩んで目のやり場に困るような状況だ。
「誰か、あやつを裏へ‥‥」
更紗を客から引き剥がすと婆はこめかみを押さえて溜息を吐いた。
「オイラ、ジャパンで花嫁さんになる事が夢なのだ! ジャパンの花嫁さんは、『白ムック』を着て結婚式を挙げるらしいのだ! オイラも白ムックを着てみたいのだ‥‥」
うっとりと目を細めるユーリィ。‥‥白ムックっていうのは恐らく毛むくじゃらではない。
白ムックが白無垢なのか違う物体なのかは謎だが、ユーリィの夢は現時点ではちょっぴり遠い。
「だから、オイラ、小町チャンのとこで花嫁修業を頑張ってするのだ〜★」
「それは構わんが‥‥」
小町ちゃんと呼ばれ悪い気はしないようで、あっさり入門許可が出た。
何故かユーリィの夢が更に遠くなった‥‥ような気がする。
「やった〜なのだ。頑張るのだ。いらっしゃいませ〜なのだ。何名様ですか〜なのだ★」
喜び勇む彼に真実を告げてくれる者は残念ながらこの場には居ない。
ニライが歌を歌い、千歳が巧妙に客を引き込み、いつしか小町茶屋は大賑わい。
「お待たせしましたです〜☆」
ベルは注文を取ったり、運んだりと忙しく飛びまわっている。
客を喜ばせる為に、途中で空中を一回転してみせたり踊るように飛んでみたりと妙技を披露する。
その度に歓声が上がり、通りの通行人も足を止めて気付けば茶屋の前は人だかり。
小さく愛らしい羽根妖精は瞬く間に人気者になった。
「お姉ちゃん可愛いねえ」
酔っ払った客の一人が手を伸ばし、丁度掴み易かったのだろうかベルの刈安色の帯に指をかけた。
「ひゃっ?!」
「はいはい、おさわりは厳禁ですからね〜」
望霄がにっこり笑顔で、しかし、キッパリと放つ。
「望霄さんありがとうなのです☆ 危なかったです。『あーれー』ってなっちゃうとこだったです☆ 本当にあるですねっ」
パタパタと羽ばたいて逃れ、望霄の背に隠れた(と言っても首の辺り)ベルが安堵の息を吐き出した。‥‥なんかちょっぴり誤解も生んだようだけど。
●厨奇話
「あの‥‥これは‥‥」
山と積まれた山葵と胡椒を目の当たりにして由良が恐る恐る口を開いた。
下げられてきた器を洗うのが彼の仕事なのだが、視界に入るソレを見逃せなかったようだ。
「使うに決まってるじゃないの。だって、ただ真面目にやったって面白くないじゃない」
瑞紀が事も無げに答える。
「そうか。祭りであったしな。趣向を凝らした品の方が喜ばれるやもしれん」
映は大いに納得したようだが由良は頭を抱えた。
「いえ、きっとそんな事は望まれていないと思います‥‥」
が、言ったところで二人が聞く訳もなく。
「ちゃんと普通にも作るわよ」
いや、その『普通』にも十分問題がある訳なのだが。前回の修行を思い出してみるに‥‥駄目だ、胃が痛くなってきた。
もう考えちゃいけない気がする。
由良がふるふると頭を振った。
「瑞紀殿、山葵は団子の中へ入れるのか?」
「ええ、そう。たっぷりね。お茶にもいけるわよ、きっと」
にやりと不穏に笑う瑞紀と映の手によって恐ろしい料理が生み出されていく。
(「ごめんなさい。俺には止められません‥‥ああぁぁ」)
主に気紛れで時折混ぜられる危険物質が次々と客に運ばれていくのを見送って、
「あれよね。当たった人は不運だったってことで」
心の底から楽しそうな瑞紀の笑顔を見ながら由良は気を失いそうになるのを必死で堪えていた。
「なァんじゃこりゃ〜ぁぁ!」
大当たり。
‥‥ではなく、山葵たっぷりの団子を口にした客が大絶叫する。
「好き嫌いは駄目ですよ。はい、あ〜ん♪」
「‥‥あーん」
「御代わりしますか?」
「お、お願いします」
茶屋が一瞬静まり返るが、すかさず駆けつけた千歳が横に座りにっこり微笑んで強引に取り成す。それどころか追加注文まで取り付けてしまった。
後に「お手間賃別途頂きます」とこれまたにっこり微笑んで客を青くさせるのではあるが。
「辛ッ! おいっ、待て!」
怒った客に腕を掴まれたユーリィがふと、ある事を思い出した。
(「そうなのだ! 聞いた噂によれば、ジャパンの人は『浴衣でうなじで悩殺』に弱いらしいのだ」)
「ごめんなさいなのだ。浴衣でうなじで悩殺パンチなのだ★ これで許して欲しいのだ」
結った髪を持ち上げてうなじ全開。
「ぶっ」
悩殺されたかどうかは分からないが怒る気力は失せたらしい。
「うっ!! ぐぐぐっ!」
喉を押さえ形相を変えた客に、ニライが片膝をつき騎士らしく謝罪すれば割れた浴衣の裾から白い足がちらりと覗き‥‥。
「お客殿、鼻血が出ているようだが大丈夫か?」
「らっ‥‥らんれもらいれふ(何でもないです)」
と、まぁ、こんな具合に事無きを得ていたのである。
空が黄昏に染まる頃、茶屋の長い一日が終わろうとしていた。
「沢山余っちゃったのよね。勿体無いから打ち上げも兼ねてみんなで処分‥‥かしら?」
処分対象は勿論、危険な物体の混ざった団子やら餅やらだ。
瑞紀の提案で早速打ち上げが開始されたのだが‥‥その後、冒険者達がどうなったかは定かではない。
ただ、翌日の早朝に通り掛かった者の話によれば、茶屋の前で地べたに一列に並んで正座している者達がいたと言う。
その横では小さな婆さんが延々と説教をしており、『客人の前でお酒は飲みません』『料理では遊びません』と声を揃えて繰り返させられていたとか。