何か生えてきたッ!
|
■ショートシナリオ
担当:九ヶ谷志保
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 81 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月20日〜07月23日
リプレイ公開日:2006年07月26日
|
●オープニング
「にょ! にょーにょにょにょにょにょー!!」
「にゃー! で、でっででで、出たにゃ! 出たんにゃあーーー!」
奇声と共に、シフールの少女と少年が、冒険者ギルドに文字通り飛び込んで来た。
「あー、ハイハイ。どうしたのかにゃー?」
ちょっぴり言葉がうつった受付係が、ぢたばたしているシフールのバ‥‥もとい、ヴァッキャール“お騒がせ”兄妹をナデナデして落ち着かせた。
「にっ、にに、庭に‥‥」
「‥‥庭に?」
「へ、変にゃにょが‥‥」
「‥‥変なのが?」
「 「 生 え て 、 き た ーーーー! 」 」
‥‥要約すると、こうだ。
彼らバ‥‥もとい、ヴァッキャール兄妹の家の庭に、妙な植物が生えて来た。
見た目はでっかい人参みたいだが、何か「見た目が物凄く怖い」のだそうだ。
「何かにゃあ、でろっとした緑色の、人の頭みたいなトコロから、しゅろ〜っとした葉っぱが生えてるにゃー」
と、兄のニャレール‥‥ではなくナレール。
「キモチ悪くて、ひっこ抜いて捨てようとしたにょ。でも、デッカくってど〜してもひっこ抜けないにょ〜‥‥」
と、妹のニョニョ‥‥ではなくモモ。
でっかい人参っぽい。
でろっとした緑色の、人の頭みたいな地上部分。
シフールに抜けないくらいに大きい。
こ れ は ‥‥。
「‥‥マンドラゴラじゃないの、それ!?」
受付係がそう言うと、バ‥‥もといヴァッキャール兄妹は軽そうなアタマを傾げた。
「ミャンドリャゴニャ、って何にょ?」
「さあ! 教えれ! 受付係ッ!」
「マ・ン・ド・ラ・ゴ・ラ! 物凄い高い、薬の原料になる植物にょ‥‥よ」
高い、の一言に、兄妹の目が輝く。
「高い!? 高いにょっ!? 売り飛ばせば大もうけ、にょっ!?」
「おう、じぃざすっ! 早速抜いて売るにゃー! あ、適当な冒険者雇って抜くにゃ。ねーちゃん、依頼書‥‥」
「た・だ・し」
受付係が、がし、と兄妹を捕まえた。
「にょ?」
「にゃ?」
「‥‥マンドラゴラって言うのは、ひっこ抜こうとすると、物凄い悲鳴を上げるの。それを聞いたら、死んでしまうのよ」
真っ白く固まる、シフールたち。
「にょ〜〜〜〜!? 死にゅ〜〜〜?」
「そんなの、聞いてないにゃーーー! 何とかしれ、受付係っ!」
ぢたばたぢたばた。
バ‥‥じゃなくてヴァッキャール兄妹はゴネだした。
「私には何とも出来ないわ。誰か、有能な冒険者でも雇って、上手い手段で抜いてもらうしかないわね‥‥」
くる、とヴァッキャール兄妹が振り向いた。
あっ、マズイ。目が合った‥‥。
「チミ、どうにょ〜? 一度見れば、忘れられないキモチ悪さが、素敵植物にょ〜」
「耳塞げば、きっと大丈夫にゃー。さあ! この愛らしいシフールを助けるにゃ!」
ぐにぐにと、バ‥‥ヴァッキャール兄妹が迫って来る。
どーしよ、こういう場合‥‥。
●リプレイ本文
「いやあ、間違いなくマンドラゴラ! こんな街中に本当に生えてるなんて!」
とホクホク顔で叫んだのは、「王宮御用達商人」ことアンドレ・フレミー。
「やっぱり本物なんだね。普通の家の庭に急に生えて来たって言うから、正直疑っていたんだよねえ」
しげしげマンドラゴラを観察したのはウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)。
以前からの顔見知りであったフレミーに、マンドラゴラが本物かどうかの鑑定を含めて買い取りを依頼したのは彼女だ。
「しっかし‥‥気持ち悪いな〜、コレ」
葉っぱをめくり上げて、人間の頭みたいな地上部を覗き込み、クンネソヤ(eb5005)は思わず喉を鳴らす。生え方は人参にそっくりなのだが、何だか食べたら呪われそうだ。
「私も色々育てておりますが‥‥こんな作物は‥‥ちょっとイヤですねぇ〜」
マンドラゴラのでろーんとした見た目に引き気味の、クリス・タリカーナ(eb5699)。これが畑に並んでいたりしたら、相当イヤだ。
「でも、マンドラゴラって普通のお宅の庭に生えてきたりするんですねぇ‥‥」
マンドラゴラは絞首刑台の下に生える、という伝説を思い出し、ここの庭ってもしや‥‥と薄寒い気分になってしまう、シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)であった。
「ところで、本当にその貴族というのは、相場の三倍で買い取ってくれるのであろうな〜? やはりオークションに掛けた方が良くはないか?」
疑問を呈したのは、巴堂円陣(ea8043)。
「いやいや。オークションは必ずしも良い事ばかりではありませんよ。その点、その貴族の方ならちゃんとした信用出来る方ですし」
前金ももらっておりますから、と付け足すと、円陣は目を輝かせた。
「おっ、じゃあ報酬上乗せ‥‥」
「こにゃー! 冒険者ッ!」
「依頼人に挨拶もにょこにょこに、ミャンドニャゴニャに群がるな、にょっ!」
空中で、赤いのと青いの、二名のシフールがぢたばたしている。もしかしたら怒っているのかも知れない。
取り敢えず、依頼人のバ‥‥ヴァッキャール兄妹だ。
「これは失礼。マンドラゴラの迫力に引き込まれてしまったよ。でも、相変わらず元気そうだね」
最近、兄妹の家出騒動に巻き込まれたジュネイ・ラングフォルド(ea9480)が挨拶した――の、だが。
「え〜っにょ‥‥」
「アンタ誰にゃー?」
思わず、肩がっくりのジュネイであった。
「‥‥君らの記憶力に期待した俺が馬鹿だったよ‥‥」
一応、気を遣って耳を見せないようにフードも被って来たのも、ちょっぴり空しい‥‥。
「あら、ピッタリですわ♪」
あくまでにこやかに、メイユ・ブリッド(eb5422)が兄妹を捕まえ、持っていた箱にかぽ、かぽ、と収めた。
何故か蓋には、十字架と兄妹の名前が記されている。
「にょ?」
「何にゃ、これ?」
「あら。だって、マンドラゴラの悲鳴でお亡くなりになるかも知れませんもの。ちゃーんと棺を用意いたしましたのよ♪」
わたくしクレリックですので、お葬式もご心配無く♪ と親切に(?)付け加えてみたりしつつ、その辺の縄で括ってそのまま放置。にゃー、にゅーと騒ぐも、無論冒険者たちは無視、フレミーまで見ないフリをしている。
「さて、静かになりましたわ。さっさとマンドラゴラを抜いてしまいましょう♪」
というメイユも加わり、冒険者たちは作戦を練り始めた。
「取り敢えず、抜く前に周りを耕して、土を柔らかくしておくんですの〜」
キララ・マーガッヅ(eb5708)は、愛用の鍬を構えてやる気満々だ。
「あっ、キララさん、耕すのは止めた方が良いですよ!」
慌ててクリスが制止した。
「何でですの、カタリーナ様〜?」
きょとんとするキララ。
「マンドラゴラは、厳密に言えば『引っこ抜いた時』ではなく、周囲に生えている『ひげ根が切れた時』に悲鳴を上げるそうです。ですから、もし掘り返してひげ根に当たったりすれば‥‥」
「え‥‥えぇ〜!?」
「しょうがないよね。悲鳴を聞かないようにして、力ずくで引っこ抜く‥‥しかないよね」
とウィルフレッド。
「伝統的なやり方では‥‥犬とマンドラゴラを紐で縛り付けて、犬に引かせる、なんて非道なのがあるが、ね」
ジュネイの言葉に、思わずペットのクンネニシを抱き締めて庇ってしまう、クンネソヤであった。
「ま、うんと近くで聞かなければ、死ぬ心配はありません。マンドラゴラに悲鳴を上げさせないような魔法を、どなたかお持ちなら助かるのですが‥‥」
フレミーがそう言って、一同を見回す。
結局、あれこれ打ち合わせた結果。
まず「これから抜く」等の合図を決めておく。
全員で周囲の人払い。最低でも、15m範囲に他人が入らないようにする。
マンドラゴラが傷付かないよう、布で縛り、それを丈夫なロープで近くの樹木に結ぶ。
ウィルフレッドがサイレンスの魔法を、メイユがコアギュレイトの魔法をマンドラゴラにかける。
フレミー提供の耳栓を全員が装着、キララを除き、15m以上離れる。
一人だけ少し前に出たキララが、プラントコントロールを使用してひっこ抜く。
これなら、まず失敗すまい、と思われた、のだが。
「う〜ん。冒険者街に近かったのがマズかったみたいだね〜」
「まあ、こんな街中に生えて来たのなら、こういう事は想定せねばならないのですが‥‥困りました」
呆れたように唸るウィルフレッドとフレミーの視線の先には、追い払われてもちらちら姿を見せる、横取り目当てらしい野次馬たち。冒険者街に近接しているせいもあってか、なかなか手強そうな見た目の者も少なくない。力ずくで摘み出す、という訳には行かない相手の方が多かろう。
「きりがねえな。追っ払う先から戻って来やがって」
クンネソヤがぼやきながら戻って来た。
「何か強烈な脅しでもしないと‥‥無理ですかね」
とクリスが溜息をつく。
「仕方無い。あんまり好きな手段じゃないが‥‥」
遅れて戻ったジュネイが、フレミーに何事か囁いた。フレミーは一瞬考え込み――次いで、頷いた。
数分の後。
周囲に林の向こうにチラチラ姿を見せていた野次馬たちが、きれいに消えていた。
「凄いですの〜。どうやったんですの?」
キララは人気の無くなった林を見回した。
「マンドラゴラの特性の悪い方を、うんと誇張して伝えたんです。絶叫を耳にすると、距離に関係なく死ぬ場合があるとか」
しれっとした表情のクリス。
「このマンドラゴラは『売却済み』だと触れ回ったのさ。勝手に横取ったりすると、お前らは買い上げるはずだった貴族の怒りを買って、お尋ね者だぞ、という具合にね」
あながち嘘でもあるまい? とジュネイ。
「この土地は特別に呪われた曰く付きの土地だから、ちゃんと浄化の魔術掛けないと呪いがうつりますよ〜とも言ってみました」
えへへへ、と笑うシシルフィアリス。
かくして、いよいよ本番。
マンドラゴラに布が巻き付けられ、それに紐が結ばれた。
一番近い木の枝に紐が結び付けられる。
ウィルフレッドがサイレンスを、続いてメイユがコアギュレイトを掛ける。
全員が耳栓を詰め込み、安全圏へと退避。
キララが数歩前に進み、「抜くぞ」の合図と共に術を使った。
絶叫は‥‥無かった。
ただ、木の枝がぐぐん、と反り返った様子が一瞬伺えただけ。
キララが、成功、の合図を送る。
「案外、あっさりしてつまらなかったですの〜」
その手がぶら下げているものは‥‥
見るからに呪われてそうな見た目の、でろーんな人参。
「おお! これは上物ですよ!」
フレミーが喜びの声を上げる。
「ああ、そうだ、皆さん。もしよろしければ、お買い上げ下さる貴族様の元へ運ぶのを護衛下さいませんか? 途中で横取りに遭いかねませんし」
「その分、報酬は上乗せか?」
円陣がすかさず突っ込む。
「ええ。護衛までして下さったら、皆さんに1Gずつお払いしますよ」
そう言われれば、断る理由も無い。
冒険者たちは、マンドラゴラを布でくるみ、フレミーのロバに積んで、買い取るという貴族の元へ。
最初の脅しが効いたのか、案外何の妨害も無く、その貴族の屋敷というのに到着した‥‥のだが。
『え‥‥えぇーーー! コレ!? コレの煎じた汁を飲めと!? い、いやだーーー!』
『気持ち悪がっている場合ではございません! いつまで経っても治りませんよ、奥様!』
どたどた、ばたばた。
そこの屋敷の使用人頭だという人物に、マンドラゴラを手渡して間も無く、二階から悲鳴と言うか絶叫が聞こえてきた。
「‥‥何か、モメてるみたいだよね‥‥」
気持ちはちょっと分かるけど、とウィルフレッド。
「アレの煎じ汁飲まなきゃならない人、ちょっと同情するぜ‥‥」
俺ならちょっと嫌だな〜と呟くクンネソヤ。
「ま、まあ、代金はいただいた事ですし‥‥。取り込んでいるご様子なので、これで失礼を」
珍しくフレミーの笑いが乾いている。
挨拶もそこそこに、冒険者たちは、その貴族の屋敷を後にした。
「‥‥なあ。何か忘れている気がせんか?」
円陣が首を捻る。
「そうだな‥‥ええと‥‥」
首を捻るジュネイ。
「あっ!」
フレミーが思わず叫んだ。
「そうだ、ヴァッキャールご兄妹様は? どこにおられるのでしょうか!?」
全員顔を見合わせる。
「ええと‥‥最後に見たの誰?」
「確か、メイユさんが箱に入れたんじゃ?」
名指しされたメイユが記憶を辿り。
あ、と声を上げた。
「棺に入れたまま‥‥あの庭に置いて参りましたわ、わたくし」
慌ててヴァッキャール家に戻った冒険者たちが、庭の片隅で見付けたもの。
棺に入れられたまま忘れられ、マンドラゴラの悲鳴で気絶したまま、ピクピクしている兄妹であった‥‥。