天使の原石

■ショートシナリオ


担当:九ヶ谷志保

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月27日〜08月01日

リプレイ公開日:2006年08月02日

●オープニング

「‥‥駄目だ! こんな石では‥‥!」
 がしゃあん! と何かを叩き付ける音が、その工房に響き渡った。

 午後の重い日差しが差し込む、その石工工房の中には、石灰質の鉱物特有の匂いが満ちている。
 白々とした、人間程もある石灰石の塊が、黒い影の尾を引いて立ち尽くす。二度とその主によって、命を吹き込まれる事も望めないまま。

「こんな薄汚い『天の御使い』があるものか! やはり、あそこの石でなくては‥‥!」
 エルネスト・アルブランは、左手をバン! とその石灰岩の塊に叩き付けた。
 かんしゃくの発作を起こした師を遠巻きに、オロオロした様子だった弟子たちがはっとする。
「‥‥もういい。私が自分で行って来る」
 彼は大股で工房を出て行こうと――

「いけません!」
 咄嗟に、弟子の中で一番の古株(と言っても、二十代半ば程度だが)が叫んだ。
「お忘れになったのですか!? あの採石場が放棄されたのは、モンスターが出るようになったからです! むざむざ殺されに行かれるおつもりですか!?」
 ギロッ! と師の一睨みを受け、ビクッとする一番弟子。
 だが、工房の出口を自らの体で塞ぐようにしたまま、決して動こうとしなかった。顔は真っ青だったが。

「どうか、冷静になって下さい、師よ」
 一番弟子――シモン・キャスタンは、穏やかな声で呼びかけた。
「もし、あなた様に万が一の事があらば、誰がこの天使の像を造り上げると言うのでしょう? 少なくとも今現在、あなた様以上の天使を作り出せる彫刻家など、このパリに存在しないのですよ?」

 一番弟子にそう言われ、エルネストはかっと昇った血が下りていくのを感じた。
「‥‥ああ‥‥だが‥‥でも‥‥!」
 金茶の髪を、彼は苛立たしげに掻き回す。口元が泣き出しそうに歪む。

「冒険者の方に頼みましょう」
 シモンは静かに提案した。
「こういう時のための冒険者ギルドではありませんか、師よ。冒険者の皆様の中には、ロバや馬を飼っておられる方もおられますから、運搬も何とかなりましょう。こちらから運搬用の荷車と、切り出す為の道具をお貸しすれば、あっという間に望む通りの石を持って来て来て‥‥」

「いや、駄目だ!」
 即座にエルネストが首を振る。
「私の望む石かどうかは、私にしか分からない――私も行くぞ!」

 一度、こういう具合に宣言したら、師は決して言を翻さない。
 シモンは、微かに溜息をついた。


<トイスの採石場跡地にて、彫刻用の石灰岩を探し出して切り出し、パリのアルブラン工房まで運搬して下さる方を募集。
 トイス採石場跡地はパリの南東、徒歩一日。彫刻用の良質の石灰岩が採取出来ますが、コボルトが住み着いており、大変危険な場所です。
 採掘用の道具、そして運搬用の荷車はお貸しいたします。
 なお、条件に適合した石を探すため、私、彫刻家エルネスト・アルブラン本人も同行いたしますので、護衛もお願いいたします。
 パリに相応しい、白く美しい天使像のため、ぜひともご協力の程を>
―――依頼人 彫刻家 エルネスト・アルブラン


「この名前、聞いた事あんな〜」
 誰かの呟きに、受付係は頷いた。
「天使を彫らせたら、右に出る者はいないって言う人もいる彫刻家よ。ほら、最近あの大きな教会の天使像を手掛けたでしょう?」
 受付係が口にした教会の名は、観光地にもなっている、有名な教会のものだった。

「しっかし、いくら何でも、この人、彫刻の材料の石まで自分で採りに行くの?」
 ちょっと凝りすぎ、と、誰かが言う。
 普通、業者に頼むものではなかろうか?
「やっぱり、材料の石の質は出来にも大きく関わるみたいよ――素人にはよく分からないけどね。今までそのトイスってところの石を使ってたんだけど、依頼書にある通り、モンスターが出るようになって、結局普通の人が近付けなくなってね」
 受付係が説明する。
 トイスで採掘される、輝くばかりに白くきめ細かく、しかも硬度があって均一な質の石が、他の採石場ではなかなか採れない。
 大理石の輸入、という手もあるが、パリの白い石灰岩の建造物に相応しい石は、やはりパリ近郊の石灰岩、という、パリッ子の意地とこだわりが、依頼人にはあるようだ。


 この彫刻家、気難しい、という話だが。
 パリを飾る、美しい天使のためになら。

「協力しても、良い‥‥かな」

●今回の参加者

 ea1787 ウェルス・サルヴィウス(33歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5324 ウィルフレッド・オゥコナー(35歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5698 三笠 流(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5699 クリス・タリカーナ(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「サイス採石場の記録は、教会で容易に手に入れる事が出来ました」
 そう言ったのは、クレリックのウェルス・サルヴィウス(ea1787)だ。
「産出する石灰石の純白の美しさが評価され、一時はパリの教会建築や彫刻の材料の大部分を占める勢いだったらしいですが‥‥」

「でも、コボルトが集団で住み着いてしまって結局閉鎖‥‥という訳なのだね?」
 確認したのはウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)。
 彼女の脳裏に、先程通り過ぎてきた、廃棄されてさほど時間が経っていなさそうな廃村が思い起こされた。恐らく採石場の閉鎖と共に、そこに住み着いていた住人たちも去っていったのだろう。
 ブレスセンサーで探知したところ、コボルトたちは縄張りからはあまり外に出たがらないらしく、採石場の外にいれば、直接的に攻撃される事は無いようだ。無論、絶対的な保証は無いのだが。

「あ、流さん。どうでした?」
 白い岩の連なる丘を身軽に飛び降りてきた三笠流(eb5698)に、クリス・タリカーナ(eb5699)が呼びかけた。

「‥‥思いの他、ウジャウジャいるな。各個撃破は、あまりいい手ではないかも知れん」
 哨戒から戻った流は、やや楕円に近いすり鉢状になった採石場跡を見下ろし、そう言った。
 露天掘りの採石場の所々には、まるで池に浮かぶ小さな島のような突出部があり、場所によって複雑な地形を形作っている。まともに突っ込めば、数に勝るコボルトどもに挟み撃ち、などという事態も有り得るだろう。
 特に今回は護衛すべき彫刻家と、荷車を繋いだロバたちを連れている。冒険者たちだけ無事なら良い、というものでもない。

「うーん‥‥どこかに追い込むなりして、まとめてあたしの魔法でまとめて薙ぎ倒せればいいんだけどね」
 このメンバーの中では複数を攻撃出来る魔法を持つウィルフレッドが思案し始める。


 採石場跡地を見下ろせる高台で、冒険者たちは作戦の打ち合わせを始めた。
 クリスは護衛対象の彫刻家、エルネスト・アルブランの話し相手――と言うより、話の聞き役に徹している。
 内容は主に天使に関する薀蓄と芸術談義だが、クリスのような品の良い感じの若い女性にうんうんと話を聞いてもらい、彼としても悪い気はしないらしい。

「‥‥丁度、入口からそんなに離れていない場所に、さほど幅の無い直線の通路があるな」
 コボルトたちをほぼ一直線に密集させられる場所はここくらいだろう、と流。
「どのくらい誘い込めるのでしょうか? タイミングを間違えれば、流さんは勿論、ウィルフレッドさんも危険です」
 流なら何とか耐えられる傷も、彼女には命に関わるかも知れない、とウェルスは憂慮しているようだ。
「私もホーリーフィールドで援護させていただきますが、攻撃されれば長くは持ちません。それに、エルネストさんとクリスさんをあまり長い事外で待機させる訳にも」

「私なら大丈夫です。何か襲って来ても、数さえ多くなければ」
 魔法で対処出来ますから、とクリス。
 ちなみに、エルネストも一応ながら護身用の剣を腰に下げているのだが、戦力に数える訳にはいくまい。


 作戦は決まった。

 まず、エルネストと護衛(兼お守り?)のクリスは、ロバたちを繋いだ荷車と共に採石場の外で待機。
 流、ウィルフレッド、ウェルスがコボルトに対処。
 流があちこちに散らばるコボルトを挑発、採石場入口東側の、ほぼ直線の通路に誘い込む。
 ウェルスの結界に守られ、尚且つ幸運の力を付与された状態のウィルフレッドが、通路反対側に待機。直線状に連なって押し寄せるコボルトを、雷撃の魔法で一掃、という手筈。

 ウィルフレッドのブレスセンサーで、大体の数と配置の検討を付けた後、流が単身コボルトをおびき寄せる。
 装備しているスリングで軽く攻撃したり、わざと姿を見せて逃げるなどして、巧みに一箇所に誘導した。
 数がまとまってくると気が強くなったのか、コボルトの群れは凶暴な野犬の群れのように流を追いかけ始めた。手にしているのは、幾つもの棘のような刃を持つ、棍棒のような武器。妙な色に光って見えるのは、毒でも塗ってあるのか。

「おい! 来たぞ、準備を!」
 あまり引き離し過ぎないように巧みな距離を保ちつつ、流は出口にウィルフレッドが待ち構えている直線の通路に駆け込んだ。流石に息が上がっている。
 その少し後を、本物の犬のように舌を垂らしたコボルトの群れが追走する。

 ウェルスが聖なる結界を張ると同時に、ウィルフレッドが雷撃呪文の詠唱に入る。
 新たな敵を見付けたコボルトが、吠えながら殺到し。
 ウィルフレッドの横を、流が風を巻いて走り抜けた。

 一瞬の後。
 ウィルフレッドが最大出力で放ったライトニングサンダーボルトが、谷間を走りぬけ、輝かせた。
 悲鳴、何かが焼け焦げる匂い、そしてもうもうと立ち昇る獣臭。
 まだ動ける生き残りが、動かなくなった仲間を踏み越えて前進しようとした矢先、容赦ない二撃目が、その息の根を止めた。


「ふむ。これは‥‥素晴らしい」
 恐らく採石場跡地のコボルトを八割方始末したであろう後、ようやく冒険者たちはエルネストを採石場内部に連れて来た。
 冒険者には、確かに白くて綺麗な石灰岩だ、としか思わなかったトイスの石灰岩だが、彫刻家である依頼人の目から見ると、大層な品質のようだ。
 が、しかし。
「だが‥‥今ひとつ足りない。トイスの最上の石は、こんなものではないはずだ!」
 冒険者たちにとっては、何がどう違うのか良く分からない理由でその石に不満を述べ、依頼人は無造作な足取りで更に採石場の奥へと進んだ。護衛が必要なモンスターの巣である事などどこ吹く風。


「エルネストさん。どうかご自重ください」
 ウェルスは、まるで自分の身の安全など考慮しないかのようなエルネストにとうとう苦言を呈した。
「万が一あなたにもしもの事があれば、工房であなたをお待ちのお弟子方、そしてあなたの天使像を心待ちにしている方々に、何と言えば良いのでしょう?」
「天使像を待つ者たちのために、石を選んでいるのだ、私は」
 いささかうるさそうな表情を浮かべた彫刻家だが、聖職者であるウェルスのあまりに真剣な表情に、強い拒絶の言葉を吐けないようだ。
「‥‥私は、セーラ様に仕える者です。あの素晴らしい天使像を造り上げたあなたに、万が一があったなら、我が主に何と申し上げれば良いのでしょう?」

 む、と唸ったきり、エルネストが黙り込む。

「エルネストさん。どうか、モンスターと戦う間だけでも、私どもの指示が無い限り、動かないで下さい」
 クリスが最後に一押しすると、彫刻家は、根負けしたかのように頷いた。


 同族が大量に始末されたのに恐れをなしてか、コボルトたちの襲撃は散発的なものであり、生き残りがまとまって冒険者たちを襲う、という事は無かった。
 むしろ、本能的な危険を感じて、採石場から逃げ出して行くらしいコボルトも、何匹かウィルフレッドのブレスセンサーに引っ掛かる。

 しかし。

「西側に、何だか殆ど動かないヤツがいるんだよねぇ‥‥」
 ウィルフレッドが、再び石を検分し始めたエルネストの邪魔にならないようにしながら、再度ブレスセンサー。
 薄闇に沈み始めた白い谷底で、どうも他と様子の違うコボルトらしい存在を感じ取り、何か悪い予感を覚えた。


 結局、初日は依頼人を納得させる石は見付からず終わった。
 採石場の一角、元は採掘の道具の置き場や石切職人の休憩場所であったらしい岩穴で、冒険者たちと依頼人は休むことにした。
 ウェルスの提案で、岩穴の入口にロープを巡らせ、そこに廃村で拾った木片を二つ一組にしてぶら下げた。

 果たして夜間、二匹程のコボルトが引っ掛かる。
 クリスのウィンドスラッシュをぶつけられ、本物の犬のようにキャインと鳴いて逃げて行った。


 翌日。

 流の忍者刀に脚の腱を切り付けられたコボルトが、続いて放たれたクリスの風の刃で吹っ飛び、血を撒き散らした。
 その背後にいたもう一匹は、ギャンギャンと喚きながら逃げて行く。

「‥‥まだ、見付かりそうもありませんね」
 彫刻家の目から惨状を隠すように、さり気なく移動しながら、ウェルスが呟く。
 もっとも、そうするまでもなく彼は石探しに夢中だ。

「あと、探していない場所は‥‥」
 ふと、ウィルフレッドが首を巡らせた。
「あの西側、だね‥‥」


 翌日にも収穫は無く、冒険者たちは不平を並べる依頼人を宥めすかしながら、その日の探索を終えた。

「‥‥あれ、いなくなってるね」
 哨戒に赴く流に、ウィルフレッドがそう告げた。
「いなくなって?」
「初日からいたはずの、西側の動かないコボルトがいなくなってるんだよね」

 逃げたのだろうか。
 ちょっと引っ掛かりを感じはしたが、ブレスセンサーの探知結果をそのまま告げる。
 最後に残った未探索部分――採石場西側の、外周の一角を掘り広げた場所が、最後の行く先だ。

 ややあって哨戒から戻って来た流は、西側の外周部にコボルトがいた形跡があると告げた。
「つい最近、逃げたような感じだな。もう殆ど残っていないし、親玉がとうとう立ち去ったのかも知れない」
 この場所を危険と判断し、「巣」として見切りを付けたなら有り得る事だ。

 冒険者たちとエルネストは、共にその窪みに足を踏み入れた。

「おお! これだ、素晴らしい!」
 恐らく、本当にコボルトどもが巣の一つとして使っていたのだろう。
 その坑道にはむっとする獣臭い臭いが満ちていたが、エルネストはそんな事など全く気付きもしないようだ。

 万が一の事を考えて、流が側の高台で警戒に当たり、ウィルフレッドも窪みの外で見張りに立つ。
 クリスとウォルスが、荷車に積んであった切り出しの道具を駆使して、エルネストと共に石の切り出しに当たった。
 意外と(?)エルネスト本人も体力があり、切り出し作業そのものは順調だった‥‥のだが。

『何かおかしいよね‥‥あっさりし過ぎているって言うか、ね‥‥』
 ウィルフレッドが、再度呼気を感知する魔法を使ったところ。

「みんな! コボルト!」

 思わず、彼女は叫んだ。
 思いがけず近くに、コボルトの呼吸を感じたのだ。
 目の前の、大きな岩の下部の大きな裂け目で、何かの影が動いていた。

 盲点だった――とウィルフレッドは内心歯噛みした。
 コボルトたちは、地下の穴に隠れていたのだ。
 地の精霊の力が強い地中では、風の精霊の力を借りるブレスセンサーが働かない。


 ボロとは言え革鎧を着け、大きな反りのある片刃の武器を持ったコボルトが、唸りながら姿を現した。
 その手下なのか、やや小柄なコボルトが棘棍棒を持って後に続く。

 咄嗟に放った流のスリング弾が、戦士風のコボルトに命中する。
 荒々しく唸りながら、戦士コボルトが剣を振り回した。それは毒を塗られてぬるりと光っている。

 二匹のコボルトが、穴から完全に抜けたところで、ウィルフレッドの手から一直線に雷撃が放たれた。
 丁度一列に並んだ形だった二匹が、まとめて直撃を受けて絶叫を上げる。
 背後に飛び降りて来た流が、抜き放った忍者刀で棍棒コボルトに斬り付けた。脇腹を斬られ、それは内臓をこぼれさせながら血の海に転がった。

 作業を中断して飛び出して来たクリスが、ウィンドスラッシュで戦士コボルトを押し返した。
 革鎧が裂けたが、通ったダメージそのものは低かったようだ。

 剣を振り上げたコボルトがウィルフレッドの目前に迫った時、淡く光る障壁が、その前進を阻んだ。
 ウェルスのホーリーフィールドが、間一髪間に合ったのだ。

 悔しげに唸るコボルトの背中に、再度忍者刀の一撃。
 図らずも、忍者と魔法使い・僧侶組の挟み撃ちのような形になった。
 怒りに我を忘れて、戦士コボルトが背後を振り向きざま、横殴りに武器を振った。回避を得意とする流は余裕を持って避け、がら空きの脇に一撃入れる。血が噴出し、白い石の表面を塗らした。

 流が目顔で合図する。
 クリスの風の刃が絶妙のタイミングでコボルトの毛皮を裂き、体勢を崩した。
 ほぼ同時に、流の忍者刀がコボルトを逆袈裟に切り裂く。
 よろめいたところに、ウィルフレッドの雷撃が命中し、コボルトは完全に動きを止めた。


「お帰りなさいませ。いかがでしたか?」
 ようやく切り出した、人間大の石灰岩を引いて、冒険者たち、そして依頼人のエルネスト・アルブランは、パリの工房に帰った。
 出迎えたのは、エルネストの一番弟子、シモン・キャスタンだ。
 ここまで運んで来たウィルフレッドのロバ、ティアと、クリスのロバ、バロは、ようやく荷車の引き具を外してもらってほっとした様子だ。
 手馴れた様子で、他の弟子たちが石灰岩をアトリエに運び込む。

 傷付かないように、携帯用の毛布を掛けられた石からそれが取り外されると、眩い程白い石が現れる。
 弟子たちの間から、おお、という嘆声が漏れた。

「師匠、これは?」
 天使の彫刻用の石と共に、板状の石を数枚見付けたシモンが、師匠に尋ねた。
「ああ――それだった」
 エルネストはそれを手に、冒険者たちを振り返った。

「君たち。すまないが、名前を教えてくれないかね。正確に」

 唐突にそんな事を言われ、四人は顔を見合わせた。
「‥‥どういう事ですか?」

「決まっているじゃないか」
 そんな事も分からないのか? と言いたげな態度で、彫刻家は一同を見回した。

「‥‥天使像の台座の裏に、な。君らの名前を刻むんだよ」