我ら虫除け実験隊!

■ショートシナリオ


担当:九ヶ谷志保

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月28日〜09月04日

リプレイ公開日:2006年09月05日

●オープニング

「あのー、すみません。実験に協力して下さる方を探しているんです」
 唐突にパリの冒険者ギルドを訪れたエルフの少女はそう切り出した。

「実験? 何の実験なのかしら?」
 どう見ても十四〜十五歳程度の少女の口からそんな言葉が出るのを見て、気だるい受付係は怪訝さを隠せない。
「‥‥除虫薬の実験です。コレなんですけど」
 少女が示したのは、指ほどの太さのある、特大のお香らしきシロモノ‥‥だった。
 ジャパン系らしい冒険者が「で、でっかいお香ぅ〜!?」と叫ぶ。

「ええ、実を言いますと‥‥」
 ミネッティア・アバディと名乗った少女は、その「除虫薬」について説明し始めた。

 曰く。
 彼女の家は、大きな農園を経営しているが、初夏に虫害でひどい目に遭った。
 その時は、果樹の収穫の手伝いに来てくれていた冒険者の機転と働きで、全滅を免れたのだが。
 秋口には、新しい品種の小麦の収穫を控えているのだが、それに向けて新しい除虫薬を開発し、実験しているのだ。

 除虫効果のあるハーブを香木と共に練り合わせ、火を点けて煙を出す、というもの。
 香りも楽しめないではないが、大量の煙と発散される成分によって害虫を燻り殺す‥‥のが、本来の目的だ。

「しかし、初夏の虫害の後、大急ぎで開発したものですから、自宅の農園だけでは実験しようにも日数も人手も足りません‥‥」
「なるほど。で、冒険者に実験してもらって、結果報告してもらおう、と?」
 受付係の確認に、ミネッティアはこく、と頷いた。
「ご自身のお庭や畑がある方は、そこで実験していただいても構いませんし、それ以外でも、虫が付きそうな場所でしたらどこでも構わないんです。その『お香型の除虫薬』を焚いて、虫が駆除できたか、それとも違う結果になったか、報告していただければ」

 と。
 誰かが口を挟む。
「なあ。わざわざ実験しなきゃならないって事は、何かマズイ副作用があるとか、そういう事じゃーないよな?」

 いやその、とミネッティアが冷や汗をかいた。
「いえ、あまり強烈な副作用は無いはずです。一応、自宅農園で何度か実験して、あんまりマズイのは除外してありますので‥‥」
 そう言ってエルフ少女はざらざらと八種類の「香型除虫薬」を広げて見せた。
「お一人様、一種類ずつお願いします。五日間連続して焚いて、具体的にどうなったのか、報告していただければ良いんです」

 ‥‥ちょっと、待て。
 あんまりマズイものって、具体的にどうマズかったんだよ‥‥。
 誰もが無言でそう突っ込んだ。

 何となく。
 そこはかとなーく、ヤバイ香りがする‥‥が。


「ちょっと‥‥焚いてみようかな‥‥」

●今回の参加者

 ea3338 アストレア・ユラン(28歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6492 李 紅梅(27歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 ea8898 ラファエル・クアルト(30歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ガブリエル・プリメーラ(ea1671)/ アンジェット・デリカ(ea1763

●リプレイ本文

●序章〜そして惨劇へ?〜

○アストレア・ユラン(ea3338)の場合
「ん〜、これ一本で一時間かいな〜」
 アストリアは、うんしょっと特大のお香を持ち上げ、げしげし台座にセットした。
 彼女の場合、実験場所は、自分の棲家。周囲への周知は徹底、「除虫薬実験中につき、煙が出ます。ご協力お願いいたします」という看板まで出してある。手元には、結果を記すための筆記用具一式。
 楽器など、煙に曝してはまずいものは、庭のテントに退避済みである。
 取り敢えず、焚く前に匂いを確認してみる。くんくん。
「何や、葉物野菜沢山切った時のあの匂いに似とるわ‥‥。火ィ点けたら、どないなるんやろ?」
 ぽっと、点火。
 白っぽい煙がむわ〜んと立ち昇り、棲家内部に充満して行く。
 ペットの白猫「にー」が、名前と同じ声で鳴きながら、そそくさと庭に退避した。
「ん〜、何や、森の香りって言うのかいな‥‥結構落ち着く‥‥ん?」


○李紅梅(ea6492)の場合
「よ〜っしゃ、これで虫とは当面オサラバだぜ!」
 自らの道場の真ん中、板張りの床の上に、どん! と陶器の台座に乗せられたお香を置き、紅梅は宣言した。
 暖められた草の地面から立ち上る、あの香りが煙と共に広がって行く。もっとキツイ匂いを想像していた彼女は、案外穏やかな香りにちょっと安心だ。
 自らの棲家で道場を経営しているものの、夏場は窓を開け放つ関係で、どうしても虫に悩まされる。実験ついでに、虫を追い払えればいいや、と軽い気持ちで参加したのだが。
 確かに、煙が立ち昇り広がって行くにつれ、ぷんぷんと飛んでいた小さな影が、かき消すように見えなくなる。
「おお、こりゃ、本当に効果があるんじゃねーか!?」
 何だか妙に嬉しそうな紅梅。
 外から入ってきた虫は勿論、恐らく元からいたのであろう様々なアレやソレが逃げ出して行く。ちょっと爽快だ。
「けほっ‥‥おっと、煙くなって来やがったな‥‥外に出‥‥んん?」


○シェアト・レフロージュ(ea3869)の場合
「うう〜‥‥」
 えぐえぐと泣きながら、シェアトはアンジェット・デリカと共に、クッキーの生地をこねていた。何だか、しょっぱいクッキーができそうである。
「あんたにゃ、ちょっとキツい依頼だねえ‥‥」
 苦笑しつつ、アンジェットが泣きっ放しのシェアトの肩をぽんと叩いた。
 この依頼を引き受けたはいいが、シェアトには、他の冒険者たちには無い大きな障害が存在する。
 彼女は‥‥「虫」が、兎に角苦手なのだ。
 ま、遠くから風景の一部として眺める場合は、構わない。
 が。
 間近で見た場合のアレ‥‥ワサワサ動く足、テラッとした殻。何であんな造形なのか。ああっ、嫌だ‥‥。
「もう受けちまったんだ。覚悟決めな!」
 トドメのように言われ、シェアトはがっくしと頷いたのだった‥‥。


○ラファエル・クアルト(ea8898)の場合
「うるっさいわね! そんなに言うなら、アンタが掃除しなさいよッ!」
 ラファエルの顔のド真ん中に、ガブリエル・プリメーラの投げ付けた彼女の棲家の鍵束が、げしッ! と命中した。
 彼女の、殆ど倉庫としてしか使用されていない棲家を掃除するように忠告したところ、鍵束ごとその役目を投げられたラファエルであった。
 が、しかし。
 これが、彼の狙い目だ。
『ふふふ‥‥人に押し付けようなんて考えたのが運のツキよ‥‥!』
 お香と鍵束を抱え、いそいそとガブリエル宅へ。実験場にする気満々である。
「‥‥うーん、でも、散らかったままっていうのもねェ‥‥」
 と言いつつ、思わず掃除してしまうラファエル。
 ‥‥ラファエル・クアルト、案外、マメな男である。


●煙の中に見える光景〜こんなの聞いてないッ!〜

 ぱたぱた。
 全体が煙で燻され、まるで火事のような見た目の棲家を眺めながら、アストレアは風下の庭木の根っこの上に腰掛けていた。枝の上だと、風向きが変わったら自分が燻されてしまう。
「‥‥あれ? にー? どしたんや?」
 彼女の羽が、驚いたようにぱたぱたぱたっとせわしなく羽ばたいた。彼女のペット、にーが、何やら妙な仕草を見せていたのだ。
 人間で言うなら「千鳥足」といったところか。酩酊状態の時のように、あっちへふらふら、こっちへふらふら。
「ど、どないしたんや、にー!? ちょ‥‥うあぁっ?」
 べろべろべろ‥‥
 突然にーがアストレアに飛び掛り、前脚で押さえ付けるなり、舌でべろべろと舐め回し始めた。
「い、痛ッ! 痛いわ、にー!」
 やすりのような猫の舌で舐められ悲鳴を上げるアストレアに、にーは至福の表情でしがみついている。人間で言うなら、ぐでんぐでんに酔っ払って、絡み酒の最中、といったところか。
 ぶぶぶぶぶっ! と悲鳴のような羽音が響くも、にーは聞く耳(?)持たず。
『ちょっと待って‥‥こ、このお香、まさかキャットニップでも入ってるんか!?』
 それを確かめる前に、飼い猫の魔手から逃れねばなるまい。
「はぅうっ‥‥だ、誰か助けてんかー!」
 猫相手でも生命の危険が生じるシフールの悲鳴と羽音が、冒険者街に響き渡った‥‥。


 その頃。
 冒険者街の別の一角で、格闘家、李紅梅は‥‥笑っていた。
「はぅっ‥‥何だこりゃ‥‥ぶほっ‥‥あ、は、あははははははははははははは!」
 一体、何が起きたのか自分でも分からない。
 だが。
 煙をまともに吸い込んだ直後‥‥急に、全身がむずがゆいような、力が抜けるような、妙な感覚が走った。
 次の瞬間、異様な可笑しさがこみ上げ、破裂するような勢いで笑い出してしまったのだ。
『ちょっと待てぇ!? 聞いてねーぞ、こんなの!? い、一体、何が入ってたんだよーーー!?』
 内心で叫ぶも、口から漏れるのは笑い声だけだ。
 どうした訳か、何でもないような風景や物音が、異様に面白く感じられるのだ。風に庭の木の葉がひらひらっと翻っているのを見ると可笑しく、小鳥のさえずりが爆笑もの。何でそうなるのか自分でも理解出来ないものの、可笑しいものは、しょーがない。
「あ、あの、どうかしたんですか?」
 笑い声(と言うか爆笑声)を聞きつけた、近隣住人が、庭の外から覗きこんでいるが、紅梅には最早答えられない。
「あ、は‥‥ぶわはははっ‥‥! チックショー‥‥ぶはッ‥‥な、何だってん‥‥あはははははは!!!」
 流石に痛くなり始めた腹をさすり、紅梅は取り敢えず、自宅からの一時撤退を余儀なくされた。
 ‥‥格闘家としては、ちょっと、悔しい。


「ちょっとぉー! 何なのよ、あんたたちッ! ええーい、散れ散れッ!」
 ラファエルは、目の前の光景に対処出来ず、思わずぶんぶんと手を振り回していた。
 彼女であるシェアトにもらった香炉で例の香を焚き、赤みがかった変な色の煙が漂い始めた直後。
 確かに、虫は逃げていった。屋内で御馴染みのあの黒いのは勿論、蛾だの庭のバッタだの、その他色々。
 が、しかし。
 バサバサッという羽音と共に、上空から別なモノが来襲したのだ。

「ラファエルさん、一緒にクッキーでも‥‥え‥‥えぇええ!?」
 聞き覚えのある声の悲鳴が上がった。
 シェアトは、持って来た手作りのハーブクッキーを手にしたまま、思わず固まっていた。

「シェアトちゃんッ! 来ちゃだめ‥‥痛ッ!」
 飛び交う翼の生えた何かが、べしっとラファエルにぶつかった。

 ラファエルが(勝手に)実験場に選んだ友人宅。
 妙な色の煙が漂う中、家の屋根一面、そして庭の樹木の枝に隙間なくビッシリととまっているのは‥‥無数の烏だ。
 およそ、パリ市内や郊外に生息している烏が一通り、といったところだ。
 せいぜい二、三羽だったら仲間で連れ立ってと微笑ましくなるのであろうが、この密度で密集されると、恐怖以外の何者でもない。最早、烏が沢山、と言うより「羽毛とクチバシの巨大なカタマリ」という雰囲気だ。
 鳴き声もカァカァという普通のものではなく、最早ビビィ! ビビィ! ビビィ! という脅迫的なまでの大音声と化している。

「やっ‥‥大丈夫ですか!?」
「だ、駄目だってば、来ちゃ‥‥うげほォッ!」
 走り寄ろうとしたシェアトを押し留めたラファエルの頭上に、大きな烏が降って来た。
「やめろちゅうとんのじゃァこの鳥ーーーーッ!」
 ぶんぶんぶんっ!
 その烏を振り払った途端、今度は別の一塊がどさどさっと彼の肩から上を埋めた。
「ラ、ラファエルさーーーん!」
 さっきの烏が戻って来て、その一塊を追い立てて行った。
 ‥‥が。
 ラファエルはその蹴爪にゲシッと蹴られて、庭の地面にぺっちゃりと伸びていた‥‥。


 その晩。
「ううっ‥‥怖いよ〜‥‥」
「大丈夫よ‥‥多分」
 ちょっと泣きそうなシェアトを、ラファエルが肩を叩いてやって落ち着かせた。
 昼間の自分の事もある。シェアトに何かあったらと、ラファエルは彼女の実験に付き合う事にしたようだ。

 日が暮れ、いよいよシェアトの実験の順番が巡って来た。
 場所はセーヌの川岸の一角。
 事前に張っておいたテントの、少し離れた所にランタンを設置(油は依頼人から差し入れられたのだが)。
 その側で、例の除虫効果の香を焚く事になる。
 虫がテントに入って来ないよう、ムーンフィールドまで張って、テントの中でラファエルにも手伝ってもらって観察だ。
 もしこんな依頼でなかったら、ちょっとしたデート気分も味わえるのだが‥‥この状況では「虫ッ!」というのが彼女の脳裏にこびりついて離れず、到底心底は楽しめない。それでも、側にいてくれるだけで、大分気分的に楽ではある。

 シェアトは、お香の煙が漂い始めてすぐ、一斉に虫が周囲からいなくなったのに気付いた。ランタンを点火するなり群がった蛾だの何だのが、煙に巻かれた途端にポロポロ落ちる。
「うう〜、でも、死骸は沢山残ってるんだろうなぁ〜‥‥」
 虫のアレやコレが沢山、の映像を思い描いてしまい、ちょっと泣きそうなシェアトであった。
「私が見てくるからさ。シェアトちゃんはここで待ってなさいよ」
「うう、すみませ〜ん」
 ラファエルに礼を言い、ぎゅっとペットの猫「イチゴ」を抱き締めて、お香が燃え尽きるのを待つ。

「あ、消えた、かな‥‥あ、こら」
 香の煙が薄れ、消えた途端に、イチゴがにゃあ、と鳴いて、シェアトの腕から抜け出し、外の草叢へ走って行った。間も無く戻って来た、のだが。
「イッ、イチゴ!?」
 思わずぎょっとするシェアトの見たものは、イチゴがくわえて持って来た、結構な大きさのトカゲ。
 ふと周囲を見た彼女は、ひいっと息を呑んで固まった。

 ムーンフィールド、及び漏れるランタンの灯りの中に、何かが動いていた。目をこらすと、地面を覆うほどにビッシリと‥‥
 何かが、つるつるっと、シェアトの足元を這った。

「!! やっ‥‥へびヘビ蛇へび、へーーびーーーーッ!」

 シェアト、絶叫。
 そこにわんさか集まっていたのは‥‥恐らくこの一帯全部揃ったと思われるような蛇とトカゲ、何やらいっぱい。
 まあ、虫よりは苦手でないかも知れないが‥‥それでも、この数に集まられると‥‥。

 結局。
 蛇とトカゲを持って来た箒でげしげし掃き捨て、シェアトたちはダッシュで河岸から逃げたのであった‥‥。


●そして報告書〜冒険者よりの一言〜

「皆様、お疲れ様でした‥‥あ、あの、大丈夫でしたか?」
 依頼人、エルフの少女ミネッティア・アバディは、冒険者それぞれから受け取った報告書をまとめ、冒険者たちをねぎらった。
 ‥‥何だか、冒険者たちが一様にげっそりしているのは気のせいか。

「なあ、あんた。ちょっと聞きてぇんだが‥‥」
「はい?」
 何だかちょっとやつれて見える李紅梅に問われ、ミネッティアが首を傾げる。
「あの香、さ。マジで、あんたン家で使うのか? 農園だよな?」
「作ってはるの、食べ物やろ?」
 いつもより、余分にくるくるぱたぱた、ついでにふらふらしている、アストレア。
「あ、はい、今回ご報告下さった事を踏まえてですね‥‥」


「「「「 是 非 、 止 め と け ‥‥ 」」」」


「‥‥はっ‥‥?」
 まだ報告書を読んでいないため、意味が分からずにぽかんとするミネッティアをその場に残し。
 冒険者たちは、ふらふらと、それぞれの場所へと帰って行ったのであった。

●ピンナップ

アストレア・ユラン(ea3338


PCシングルピンナップ
Illusted by めんたまん