オルドと遊ぼう〜湖へ小旅行!〜

■ショートシナリオ


担当:九ヶ谷志保

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月28日〜10月05日

リプレイ公開日:2006年10月14日

●オープニング

「ねえ、オルド。君はよく頑張ってる。でも、最近、ちょっとだけ、無理しすぎだね?」
 尊敬するドニ・セリデ神父にそう言われ、ジャイアントの少年オルド・イガエスは少しきょとんとしていた。
 最近、勉強が面白く思えてきたせいか、ちょっと頑張りすぎて睡眠時間を削ってしまっているようだ。目の下に、うっすらとだがクマが出来ている。

 顔だけ見ると、実際の年齢――十七歳だ――より子供っぽい表情だが、オルドはジャイアント族の中でも、かなり巨躯の部類に入る。
 冒険者ギルドなどに用事で行くと、そこにいる他のジャイアントに「でかいな、お前!」と驚かれることもしばしばだ。

 体力的には平均をはるかに上回るが、それでもこういう不摂生の仕方は良くはない。本来、ジャイアント族とは、峻厳なる山岳地帯で、活動的な生活を送る種族。
 ドニ神父は、教会にこもりきりの生活が、オルドの心身を損ねないか心配だった。


 彼は、窓の外に目をやった。

 午後の日差しは、一頃に比べ大分穏やかだ。
 窓から吹き込む風はひんやり涼しく、秋の香りがした。

 オルドは一つの季節を、ここで越した。
 少し休んでも良い頃だと――ドニ神父はそう思った。


「オルド。奴隷商人の所から逃げて来た君を、初めて保護してくれた、子爵様を覚えているかな?」
 オルドは大きく頷いた。
「覚えて、ます。お礼、言いに、行きたいです」

 ジャイアントの少年、オルド・イガエスは、ほんの数ヶ月前まで、剣奴として、とある奴隷商人に飼われていた「商品」だった。

 しかし、親友であった、やはり剣奴のゼロスという少年と無理矢理戦わされ、彼を殺害してしまった事がきっかけで、必死に奴隷商人の下を逃げ出したのだ。
 身を隠しながらの逃亡劇の末、辿り着いたのがシャルパンティエ子爵が滞在していた別荘のすぐ側。
 彼はそこで、子爵によって保護され、次いで、パリのこの教会に送られたのだ。

「実は、シャルパンティエ子爵様が、是非君に別荘に遊びに来て欲しいと仰っているんだよ」
 オルドの顔が、ぱっと輝いた。
「パリからそう離れていない所に、オリヴァール湖という、綺麗な湖があるんだ。そこのほとりに子爵様の別荘があるんだが、そこに泊りがけで遊びに来ないか、とお誘いがあったんだ」
「あ、そび‥‥あそんでも、いい、ですか‥‥?」
 ちょっとどぎまぎしてるようなオルドであった。
 彼はまだ「言われた事をする」という奴隷時代のクセが抜け切らない。積極的に「楽しむ」「遊ぶ」事がいささか罪悪感を伴うようだ。

「オルド。人には、息抜きしたり、遊んだりする時間も必要なんだよ。でなければ、人の心はどんどん貧しく痩せ細り、干上がってしまうだろうからね」
 ドニ神父はぽんぽん、とオルドの肩を叩く。
「子爵様ご自身は、今お仕事が忙しくておいでになれないそうだ。代わりに、お友達を沢山連れて来て欲しいと仰っていたよ。冒険者ギルドに依頼書を出してみなさい」
 嬉しそうに、オルドは頷いた。
 早速覚えたての字で依頼内容を羊皮紙にしたためようとした‥‥のだが。


<私、オルド・イガエスの『小旅行』に同伴して下さる冒険者の皆様を募集いたします。
 私オルドの種族はジャイアント、年齢は十七歳です。

 小旅行の行き先は、シャルパンティエ子爵領、オリヴァール湖畔の子爵様の別荘です。
 沢山の冒険者の皆様とお会い出来るのを、楽しみにしております>

―――依頼人 神聖騎士志望 オルド・イガエス(代筆:神父見習いアドリアン・ビヨール・デルフュ)


 ‥‥という事になった。
 やはり、まだ、まとめた文章を書くのは難しいようだ。

 が。
 今は、書物を開く時ではなく‥‥芳しい大気を吸って遊ぶ時だ。

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea1987 ベイン・ヴァル(38歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea8086 アリーン・アグラム(19歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb7115 エクサロット・トラチャ(20歳・♂・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 eb7242 ジャクリーン・ルシル(16歳・♀・バード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ヴィグ・カノス(ea0294)/ シルフィリア・カノス(eb2823

●リプレイ本文

「オルドさーん! ひっさしぶりー、元気にしてた?」
「わぁい、オルドさーん!」
 今回の依頼人にあたるオルドの住む教会の前で、それは華やかな歓声が二つ上がった。シフールのアリーン・アグラム(ea8086)と小柄なエルフのラテリカ・ラートベル(ea1641)。どちらからも飛ぶように抱き付かれても、小揺るぎもしないオルドを見て、ミカエル・テルセーロ(ea1674)が。
「うわぁ、大きいなぁ。あ、僕は前にお手紙のやり取りをしたミカエルです。分かりますか?」
「私も改めてはじめましてね。ユリゼ・ファルアートよ。アーモンドも連れてきたわ」
 ミカエルと同じ依頼で手紙を出したユリゼ・ファルアート(ea3502)は、愛猫をつれていた。ペットや馬などの動物は、ユリア・ミフィーラル(ea6337)が別荘へとシフール便を出して、つれてきても良いと許可をもらってくれている。
「この子はヴァッサー、今は馬だけど、本当はね」
 オルドに色々話し掛けているユリアだが、あいにくとヴァッサーの説明をオルドに飲み込んでもらうことはできなかった。ざっくばらんに『後ろ足が魚になる』と説明してしまう、大雑把なところが良くなかったのかもしれない。
 それは湖についたら直に確かめてもらうことにして、オルドと面識のあるジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)が、初対面になるエーディット・ブラウン(eb1460)とエクサロット・トラチャ(eb7115)の二人と彼を引き合わせた。エーディットは湖畔の貴族の別荘に泊まれると楽しみにしている様子がうかがえるが、エクサロットはいささか緊張気味だ。だが。
「息抜きですから、皆さんで楽しみましょうね」
「実は依頼を受けるの、初めてで。何をどうしたらいいかよく分からなくて」
「じゃあ、葡萄摘みの時には高いところをお願いしますねー」
 ジュヌヴィエーヴに微笑まれ、エクサロットは少し緊張を解いたようだ。エーディットに早々に役目も与えられて、後は出発するばかり。
「それで、オルド。おまえは大丈夫か?」
「え? 俺、元気」
 まだ幾らかたどたどしい物言いのオルドの片手にはラテリカが、肩の上にはアリーンがくっついたままだ。ベイン・ヴァル(ea1987)はそれで移動できるのかと問いかけたのだが、オルドは小さな二人くらいは抱えて運ぶかもしれない。
 さすがにラテリカは自分の足で歩いたが、アリーンとエクサロットはその限りではない。そしてオルドも、それを嫌がりはしなかった。
 ユリアの友人達に見送られて、一行ののんびりとした歌声が移動して、湖に到着したのは途中でゆっくり休憩も挟んだので昼も幾らか回ってからだった。

 到着して、まずは別荘の管理人に皆で挨拶をして、ジュヌヴィエーヴが先頭に立って全員の部屋の割り振りをする。その際、エクサロットが同室になってミカエルがしばし口をぽかんと開けてしまう出来事があったが、それは実はお互い様。オルドはこの両名と同室で至極満足していた。ベインも含めて、男性は一部屋である。
「どうせ俺達は寝るだけの部屋だからな。豪勢に広い部屋じゃ、かえって落ち着かない」
 ミカエルとエクサロットはともかく、ベインとオルドが同じ部屋では狭くないかと女性達は心配したが、ベインが屋根の下で眠れて文句のあるはずもなければ、オルドは人と一緒で喜んでいる。エクサロットは初依頼で一人きりのほうが心配なようだし、ミカエルはそんな様子を見捨てて置ける性格ではない。
 よって女性は三人ずつ一部屋に入り、持ってきた荷物を置いた。大半は荷解きの必要もないのだが、ラテリカはよいしょと『ノルマン王国博物誌』を取り出した。
「ヴァッサーが見たーい」
「そうですね〜。珍しいですから、オルドさんも喜ぶでしょうし〜」
 アリーンとエーディットがそう提案し、ユリアはじめ全員が賛成したので、まずは別荘周囲の散策に。皆の愛犬、愛猫も広い場所に連れてこられて、のびのびとしているようだ。
 そして、ユリアに馬同様につけられていた手綱を解かれたヴァッサーは。
「頭が良いから、咬んだりはしないよ。触ってみる?」
 一旦水に潜って、再び姿を現すと、オルドを彫像のように固めてしまった。それほどの反応ではなくても、馬の下半身がイルカのように変化したのだから、そういうものだと頭で分かっていても皆驚いた。続いて、これは珍しいものを見せてもらったと喜んでいる。
 当然最初はこわごわ、そのうちに大胆に皆で撫で始め、しまいにはヴァッサーが泳いで逃げ出す一幕もあった。
 ヒポカンプスが逃げる場所に困らない湖の周囲には、葡萄畑とワインの醸造所があり、他は少し人の手が入った気配のする森が広がっていた。

 翌日、ユリアが腕を振るった朝食を食べ、昼食用の包みを持って、一同は元気に森の中へ出掛けていった。荷物が随分と多いのは、そのまま今夜は夜営をするからだ。テントに毛布に夕飯の食材その他諸々。先を急ぐ依頼と違って身軽にする必要もないので、特に食材はたくさんある。大半はオルドが籠に入れて背負っていた。
「蔓草をつかって、リースも素敵かもしれません。子爵様にも差し上げたら、きっと喜ばれますよ」
 ユリゼがご機嫌にオルドが一度世話になってお茶会の主催者の結婚祝いや、子爵への贈り物にカードやリースを作るように勧めていた。以前の手紙のやり取りで、そうしたものは相手の手元に残るのだと知っているオルドはどうやったらいいのだろうかと考え込んでいる。
「蔓草なら何でもむしっていいわけじゃないのよ。どれがいいかしらね」
 不用意に森を傷付けるのは良くないのだと言いながら、エクサロットがあたりを見渡している。ここには植物に詳しいものが多いので、数人があちこちに目をやって、一本の木に絡みついた蔓を見付けた。椎の木が枯れないように、払ったほうがいい蔓だが、それをするのはベインである。
「生木は燃えにくいから、普段は枯れ木を探して薪にするんだ。あちこちの枝を折ったりして、木を傷めないようにな」
 蔓を引き剥がす時には手伝ったオルドに、ベインからもそんな言葉が添えられた。後は蔓のやわらかいところを選んで丸く編み、そこに差し込む花や草を集めることに。
まずは夜営に向いた場所を決めて、荷物を降ろしたオルドをユリゼやアリーン、エクサロットが先導し、手をしっかりと握ったラテリカが横に、後ろはエーディットやミカエルがついて、森の中をあちこち巡る。
「あのぅ、皆が一緒にいるですからね」
「うん‥‥大丈夫。‥‥もう一つ、作る」
 オルドと何度か会っているラテリカは、彼が追われていたときのことを現場に近い森の中で思い出すのではないかと考えていたが、オルドが思い起こしているのは別のことのようだ。リースをもう一つ作りたいと、皆にどこに花が咲いていそうかと尋ねだした。
「結婚式なら、おめでたい花言葉の花を探しましょうね〜。子爵様には何がいいでしょう〜」
「もう一つは、どなたにあげるのかな? 相手の喜ぶものが良いよね」
 エーディットはオルドが目に留めた植物の名前と花言葉を教え、ミカエルは相手によってリースを少し変えてみたらと提案する。それは良いとユリアやユリゼも声を揃えたのだが。
「友達‥‥お墓、ないから‥‥教会に飾る」
「‥‥あ〜、それなら、高いところはあたしに任せてね。綺麗な葉っぱとかも集めるから」
 オルドの辛い過去を思い出したアリーンが拳を握って宣言し、よくは知らないエクサロットも頷いた。ラテリカは泣き笑いのような表情になって、皆で集めた草木や花の名前を博物誌で見付けては、オルドにも分かりやすく印をつけている。
 彼らが森の中でリースやカードの材料と森の恵みを集めて歩いている間、ベインとジュヌヴィエーヴは夜営場所に決めたところで荷物番と地ならしをしていた。もちろんオルドが帰ってきてから、本格的に準備をするのだが、多少の準備はしておかないと日が暮れてしまう。多少は薪も集めておいたほうが、急に冷え込んだ時に重宝するだろう。
 そんなことをしていて、ふいとジュヌヴィエーヴが。
「葡萄畑があるのですから、収穫のお手伝いもさせていただきたいところですね。そういえば、ぜひ食べてみたいと言っていた人もいましたし」
 収穫したばかりの葡萄はきっと美味しいでしょうと表情を綻ばせたジュヌヴィエーヴに、珍しくベインも笑みを浮かべたが、いささか皮肉な雰囲気のものだった。理由は。
「ワイン用は酸味も強いからな。そのまま食べるための葡萄も作っているといいが」
 それなら不用意に口に入れないように注意しておかなければとジュヌヴィエーヴはしっかり記憶し、戻ってきてこの話を聞いた何人かは、それはそれは残念そうな顔をした。
 だが、畑に行ってから確かめてみればよいと思う人もいて、ここではベインの指導の下に、野営の準備が進められた。とはいえ、大半はこれまでの依頼で一度ならずそうした経験があるから、もっぱらオルドとエクサロットがベインの生徒だ。熱心な二人に、ベインも大分機嫌が良いようだった。
 もちろん、美味しい食事に、それぞれの特技も飛び出して、野営そのものは楽しい一夜でおおむね終わるのだが。
 自分も夜間の見張りをと名乗りを上げたオルドは、教会で身に付いた習慣で早々に寝てしまい、結局ジュヌヴィエーヴとベインに明け方からの見張りにと起こされる羽目になっていた。
 ベインが野営跡を綺麗に片付けて、まるで何もなかったかのように整える作業を教えている間、オルド以外の何人かも少しばかり眠そうだった。夜更かししての話が弾んだのだろう。

 この次の日から、一同は葡萄の収穫に向かった。
 垣根のように続く葡萄の木が、遠めに見たときよりもよほど多いのを見て、あまり体力に自信がない向きは少々顔を強張らせたが‥‥反対にオルドは畑で働いている人々に頼りになりそうだと言われて、すっかり何日でも働く気になっている。
「甘酸っぱくて、美味しいよ」
 アリーンはちゃっかり一粒味見をさせてもらって、ベインに訴えた。どれと一緒になって味見をした何人かが、悪くはないと思っていると。
「そりゃあ、手を掛けてますからね。美味しいですよ」
 この後頑張ってくれたら、別のものも味見させてあげましょうと、畑の世話役に言われた。夕飯用や土産に買い求めたいという希望も、両方食べて好きなほうをと請け負ってくれる。
 結局、あまりに皆が忙しそうなのと、オルドが自分の力が頼りにされ、役に立っているのを喜ぶので、彼らは一日中葡萄畑での収穫や、選り分けを手伝った。途中、愛犬、愛猫に葡萄を差し出してそっぽを向かれたものが何人か。
 途中からユリアとジュヌヴィエーヴが料理に抜け出し、ヴァッサーがマスを加えて湖から飛び出してきたのを見た畑の人々が、慌ててオルドやベインの背後に回ろうとする一幕もあったが、ミカエルが近付いて怖くない生き物だと示してやると何とか落ち着いた。その後のマス料理で、すっかり意識が変わったようだが、それはそれ。
 ラテリカやアリーンが収穫中も歌を披露し、休憩にはエクサロットが踊りで加わる。まるで祭りが先んじてきたようだと、笑顔が満ちた。オルドもこれほどの人数の中に長くいたことはしばらくなかっただろうが、緊張する様子もなくにこにことしている。
 そうしてこの日の夕方に、少し離れた畑の葡萄をもがせてもらった一同は。
「甘くて美味しい」
 と声を揃えた。

 残る数日のうちのほとんどを葡萄畑に費やし、一度は皆にもっとマスを食べさせてあげようと有志で湖に向かったところ、オルドが腰程度の深さのところで転んで溺れかけるという珍妙な出来事に見舞われた。水に潜ったことがないので、慌てているうちに沈んでしまうものらしい。さすがに泳ぐのに適した季節でもないし、水泳の練習はいずれ機会があれば、だ。
 夕方はリースやカード作りをして、夜は疲れているから早く寝る。
 なんとものんびりとした何日かの締めくくりは。
「アーモンドは駄目。私はやるけど」
「踏めないから、景気付けに歌うね」
「これも楽しみにしてましたのよ〜」
 ユリゼとアリーン、エーディットが賑やかに準備をしているのは、ワインを作るための葡萄踏みだった。もちろんテラリカやユリア、ミカエルも人手として見込まれているし、
「私も初めてなんですの。オルドさんも手伝っていただけませんか」
 ジュヌヴィエーヴに誘われたオルドも、こわごわ葡萄を満たした大きな樽の中に足を踏み入れた。ベインは自分が入ったら他の誰かが零れ落ちると、葡萄を運んでくる担当だ。
 途中、雨が来るのではないかと思うような風が吹いたが、エクサロットが。
「これが終わるまでなら、何とかなるかしら」
 ウェザーコントロールで空に集まり始めていた雲をしばらく追いやってくれたので、無事に葡萄踏みのお手伝いも終了した。

 最後の夜。
 随分働かせてしまったからと、別荘の管理人と畑の世話役が皆を歓待してくれて、宴会のようなことになった。料理は持ち寄り、ワインはちょっと酸っぱくなってきた古めの樽だが、その心遣いが暖かい。皆異国や依頼での珍しい話をしたり、歌や踊りも飛び出していた。
 そんな中でほろ酔い気分のようにも見えるオルドの両脇に、ラテリカとジュヌヴィエーヴがいた。別の依頼で見た神聖騎士の姿がオルドに似ていたので、彼が名前に覚えがないかなどを確かめていたのだが。
「司祭様に、聞いた」
 彼が知っているのは、二人が知っているのとほぼ同じ内容のことで、別の心当たりがあるわけではないらしい。何か縁でもあれば、それはさぞかしオルドの心を支えてくれるに違いないとどちらも思っていたのだけれど。
 でも。
「あの人、みたいに‥‥なりたい」
「ああ、それは良い目標ですね」
 神聖騎士になりたい。その希望に名が残るような素晴らしい先達の姿が加わって、二人を安堵させた。いずれは、神聖騎士オルドの名前が人々に覚えられるようにと願っている。
けれども今は。
「疲れた。変わってくれ」
 全然疲れた様子も見せずに、踊りの輪から抜けてきたベインがしんみりしていた三人を追い立てる。追われて、人の囲まれることに恐怖心があったこともあるオルドが、すんなりと人の輪に入っていくのを見て、思わず微笑んだのが何人も。

 そうしてパリへの帰り道。
「この絵は葡萄畑だけだけど、世界はこんなに広くて、見たこともないものに満ちているでしょう? どこにだって行けるし、努力次第でなんだって出来る。だから、自分の可能性を信じてくださいね」
 僕も将来はもっとすごいものを作って見せますから。
 ミカエルがいつの間にか彫り上げていた木製の浮き彫りは、巧みなものというには幾らか修行が足りなかったけれど、オルドが葡萄畑で多くの人と働いている姿を写したものだった。
 覗き見た人々は、『多分これが自分』と確認しては、のんびりと歩みを進めている。それは行きより、随分と和やかな雰囲気のものだった。

(代筆:龍河流)