聖者の墓
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■ショートシナリオ
担当:九ヶ谷志保
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:12人
サポート参加人数:7人
冒険期間:09月05日〜09月10日
リプレイ公開日:2006年09月15日
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●オープニング
それは、今から何十年も昔の事。
今のノルマンの国王陛下のお祖父様に当たられる、初代国王の御世での事でした。
ノルマンに、それはそれは素晴らしい神聖騎士ジョルジュ・ラ=トゥールがおられました。
武勇に秀でているばかりでなく、その人格の高潔さは、全ての騎士が範とすべきものでした。
彼は、慈愛の神セーラを信じる全ての人々を悪の手から守るために、仲間たちと共に冒険の旅に出て、害なす様々なモンスターや、悪魔とも戦いました。
一方、怪我や病に苦しむ人には、慈愛神の力を借りた白の神聖魔法を施してやり、死に瀕した人には、慈愛神の教えを説いて死の恐怖を取り除いてあげるのが常でした。
しかし。
長い事人々のために戦い続けた彼も、ついにセーラの御許に帰る日がやって来たのです。
彼は自らの死を感じ取ると、残された者たちに、こう告げました。
『私が今までの旅で手に入れたものを、この修道院に残しておいてほしい。後世に、悪と戦う意思を持った者たちの助けとなるように』
こうして彼はその修道院で没し、亡骸は祭壇の下に収められました。
一方、彼が後世の勇者たちのために残した様々なものは、修道院のあちこちに保管される事になりました。
長い事、勇者の遺品はその修道院で大切に保管されておりました。
が、ノルマン王国が一度滅ぼされた際、修道士たちは修道院を追われ、以来、その修道院は廃墟となってしまいました。
十年前、ノルマンが復興戦争に勝利した後も、修道院に人は戻って来なかったのです。
神聖騎士が眠る聖なる廃墟は、彼の残した宝を抱いたまま、今も静かに、悪と戦う意思を持つ冒険者たちの来訪を待っているのです。
<パリから徒歩一日半、廃墟となった修道院に眠る、神聖騎士ジョルジュ・ラ=トゥールの残した宝を探して来て下さい。
修道院の廃墟を取り囲む森には、ゴブリンが住み付いておりますので、戦いの準備をお忘れなく。
悪と戦う意思のある勇気ある方々のご参加を、お待ちしております>
―――依頼人 廃墟修道院一時預かり 司祭 フェルディナン・デュルケーム
●リプレイ本文
その修道院は、森の中に忘れ去られたように佇んでいた。
遠くから見ても、壁の一部が崩れかけているのが分かる。
ばさばさっと羽音がして、鞄を持ったシフールが上空を横切って行った。
「‥‥この手紙によると、神聖騎士のジュルジュ・ラ=トゥールさんて、ジャイアント族の人だったんだね」
パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)は、急遽依頼人から届けられたシフール便を読みながらそう言った。
「元々はローマの人だったみたい。人間じゃないから迫害されて、同じように迫害されていた人たちを連れて、建国したばかりだったノルマンに移って来たんだって」
「‥‥ジャイアント‥‥」
何か感じるところがあったのか、先頭を歩いていた、同じジャイアント族であるチェムザ・オルムガ(ea8568)が、ふと呟いた。
冒険者たちは、やや急な斜面となっている森の中を、一団になって歩いていた。
人が行き来しなくなって久しいのか、道は荒れ、少々歩き難い。
「おい!」
警告の叫びを発したのは、スラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)だ。ざわりとした殺気を感知する。
「みんな、下がって!」
ほぼ同時に、天津風美沙樹(eb5363)が叫んでいた。
一行が慌てて下がったその直後、道の片側の斜面から大きな音と共に、子供ほどもある大きさの石が転げ落ちて来た。冒険者たちの目と鼻の先をすり抜け、道の反対側の崖下に転がる。
連れてきていた馬やロバたちが騒いだが、どうにかなだめすかす。
「こンのぉー!」
ハーリー・エンジュ(ea8117)が飛び上がって、ファイヤーバードの詠唱に入った。
相棒の狼クンネニシと共に、クンネソヤ(eb5005)が前進する。
罠が不発に終わったゴブリンの一団が、喚きながら斜面を滑り落ちる。
「‥‥征く先、阻むもの‥‥力で、斬り拓く。コレ、簡単」
ぼそりと呟くや否や、チェムザのセンチュリオンソードが振るわれ、衝撃波が飛び出した。ゴブリンの一塊が、文字通りの意味で飛び散る。
その脇を掻い潜ったゴブリンに、狼の牙が突き立てられる。仰け反ったゴブリンの隙を逃さず、その主クンネソヤの振るった小刀がとどめを刺した。
が、それでもまだいる無傷のゴブリンの一団を、鳥の形をした炎が薙ぎ払った。
「喰らえー! 必殺! 火の鳥だー!!」
広がった炎の翼に繰り返し焼かれ打ち据えられ、まだ息があって動けるゴブリンたちは、喚きながら逃げ出した。
ゴブリンさえいなくなれば、そう難しい道程でもない。
一行は程なく、古い建築様式を残す修道院の廃墟へと辿り着いた。
ばさばさっという羽音と呼びかける声に一行が上空を振り仰ぐ。
「あら、ご苦労様」
さっきのとは違うシフールから手紙を受け取り、美沙樹はそれを読み始めた。
「‥‥どうも、ノルマンが一旦滅ぼされた時に、この修道院は外敵の略奪に遭ったらしいわね。ジョルジュ・ラ=トゥールさんが実際身に付けていたような凄い武器や防具は、粗方その時に‥‥」
「んん!? ちょっと待て。そりゃ、お宝なんか無いって事なのか!?」
思わず抗議するかのように、パネブ・センネフェル(ea8063)が声を上げる。
「まさか。いくら何でも、全部を持ち出したりは出来ないんじゃない?」
首を傾げるのは神楽香(ea8104)だ。
「しかし‥‥いくら敵国とは言え、神聖騎士の墓を荒らすなんて‥‥」
ここに侵略して来た者たちとて、同じ神の教えを奉ずる者たちであろうに。
ポーラ・モンテクッコリ(eb6508)は、神に仕える者として嫌悪を隠し切れなかった。
「兎に角、中を確認してから探索した方が良さそうですね」
リディエール・アンティロープ(eb5977)は、微かな溜息と共に、崩れかけた修道院の外壁を見上げた。
修道院周辺に罠は無く、警戒すべきは外からのゴブリンの侵入だけだ。
香の助言を受け、美沙樹は外の風や走り回る小動物の影響を受けない、修道院内部の壁の割れ目や、大きめの窓などを中心に鳴子罠を張り巡らせた。スラッシュがそれを手伝う。
明らかに荒らされた後、長い年月放置された形跡のある聖堂は、それにも関わらず、奇妙な安らぎに満ちていた。
それであっても、古びた聖像の真下、祭壇手前の聖者の名が彫り込まれている墓石代わりの床の石板が外され、放り出されているのを見ると、聖職者でなくとも冒険者たちの胸は痛んだ。騎士の白骨は荒され、恐らく一緒に入っていたのだろう何かが持ち去られていた。
「全く‥‥俺はお宝を探しに来たんだがな‥‥」
泥棒な態度全開な事を口にしつつも、思わず誰よりもキリキリ働いて、騎士の墓を元通りにするパネブであった。
墓所が整えられ、それぞれのやり方で礼拝を行い、神聖騎士の魂に探索の許可を願い出る。無論、返事がある訳でも無いのだが、どことなく空気が暖かくなったような気がした。
美沙樹が供えた野の花が、柔らかく薫っていた。
「ジョルジュ・ラ=トゥール様‥‥安らぎの場を騒がす事、どうかお許し下さい‥‥」
聖堂の一角に掲げられていた肖像画の前で、ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)は改めて祈りを捧げていたが、ふと、何かに気付いて顔を上げた。
「気付いたかい? 神聖騎士ジョルジュ‥‥『彼』とよく似ている」
等身大に近い大きな肖像画の前で、まさに神聖騎士であるジュネイ・ラングフォルド(ea9480)は、彼もジュヌヴィエーヴもよく知るジャイアント族の少年、パリのとある教会に保護されている元剣奴、オルド・イガエスを思い出していた。
ジョルジュはオルドと違い白髪であるものの、顎のライン、目元から鼻筋にかけては瓜二つだ。
彼とジョルジュの関係が何であるのかは、今の時点では判断が付かない。
が。
引っ掛かる何かを、彼らは感じ取っていた。
森の中のゴブリンや、それ以外のモンスターを警戒するため、探索と警護を分けて行う。
チェムザ、美沙樹、スラッシュの三人が、外に面した入口付近、回廊や居住棟などで侵入者を警戒する。
パネブ、香、ハーリー、ジュネイ、ジュヌヴィエーヴ、クンネソヤ、パトゥーシャ、リディエール、ポーラの九人が、実際の探索に当たった。
「‥‥?」
聖堂から少し離れた、読書室に当たる場所で、パティは古びた聖書を取り上げた。
そこも荒らされた形跡があり、残っている書物も殆どボロボロだが、それだけが何故か保存状態が良い。
手に取った時、隣の本との隙間から何かが滑り落ちた。二つに折られた羊皮紙。
「‥‥デビルの最大の武器は、武にあらず、魔法にあらず。そは『虚偽』そのものなり。しかれば、後世の志ある者よ、汝、虚偽に踊らされず‥‥」
それだけが、読み取れた。
「‥‥これは?」
手分けして修道院のあちこちを探していた冒険者たちの内、祭壇周辺を探していた数人の目の前で、祭壇脇の壁が動いた。
聖職者であるジュヌヴィエーヴの指摘によって、祭壇の近い場所のどこかに、表からは分からないようにされた、クレリックが瞑想に使うような部屋の存在の可能性が示されたのだ。
案の定だ。
ジャイアント族からすれば、手狭であったろう部屋には、聖典に関わる品に混じって、彼が冒険の旅で手に入れたものが幾つも置かれていた。古い時代のものと思しい物品まで。
‥‥どうやら、ジュルジュ・ラ=トゥールは、ジーザス教の力だけで戦った訳では、なさそうだ。
手持ち無沙汰に煙草をくゆらせながら、スラッシュは隠し部屋を見付けたと盛り上がっている仲間たちを、聖堂の外を巡る回廊から眺めていた。
視線の先には、色褪せた神聖騎士の肖像画。
ふと思う。決して真っ当な道を歩んできたとは言い難い自分であるが、もしこうなる前に彼のような人物と出会っていたら、違う道を歩んでいたのか、と。
『‥‥意味のねえ妄想だな‥‥』
踵を返そうとして。
ふと上げた視線の先に、輝く鎧の男性が一瞬だけ映し出された。籠手を着けた手が、回廊の窪みの一角を指す。
仲間たちが探索する隠し部屋からふと離れ、リディエールは聖堂の脇をすり抜けて、何とはなしに修道士たちの執務室へと向かった。
ここには、神聖騎士ジュルジュの魂が宿っていると噂される。なら、何とか接触してみたいのだが、その方法が分からない。
あの隠し部屋には、あまり彼の興味を引くものが無かった、というものも、あるにはあるのだが。
「!?」
廊下を、輝く鎧の大きな男性が横切った。
慌てて、後を追う。
そのまま入った、小さな部屋の一角。壁の一部が崩れ、木製の箱が覗いていた。
丸二日の探索の途中。
十二人のメンバーの全員が、最低でも一度ずつ、輝く鎧の大柄な男性の幻を目撃していた。特に探索に加わっていない者まで、その幻に導かれ、ちょっとしたものを手にしていた。
単なる幻か、それとも本当に伝説の神聖騎士の魂だったのか。
誰にも、それを確かめる術は無い。
「‥‥うーん。やっぱり一度略奪に遭ってるのが大きかったかな」
そう呟く香の手の中にあるのは、意外にもと言うべきか、所謂「ルーン文字」が刻まれたネックレス。どこかの遺跡から拾った古い時代の遺物を加工したのかも知れない。裏に何か紋様か紋章の一部らしい曲線が刻まれているが、小さすぎて判別不能だ。
その横で、俺にこんなモンをねえ、と苦笑いしながらも、白い天使の羽を手にしたスラッシュが「仕事の後の一服」をたしなんでいた。
それぞれ、手にしたものを持って、彼らは修道院を後にする。
来る時と同様、先頭にいたチェムザが、ふと立ち止まった。
振り向いた視線の先で、彼と同じくらいに大柄な騎士が、静かに冒険者たちを見送っていた。