メリッサの棘

■ショートシナリオ


担当:九ヶ谷志保

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月24日〜09月29日

リプレイ公開日:2006年10月11日

●オープニング

 白刃が振り下ろされた。

「くっ!」
 とっさに避けたものの、メリッサの左腕から、血の飛沫が飛ぶ。
「しぶてぇッ!」
 再び反り返った刃が振り上げられ――


「貴様ぁっ! そこで何してる!!」
 金属を触れ合わせる音を立てて、武装した一団が姿を現せた。
 揃いの鎧とマントに身を固めた、パリの衛士たちだ。

 血を流す女性。
 その前には、刃物を振り上げる、夜が近いというのに顔を覆面で覆った男。
 それを認めると、彼らは一斉に腰の剣を抜いた。

 襲撃者は、呆れる程の素早さで身を翻した。
 巧みに入り組んだ古い街路に姿を消す。

「ご婦人、大丈夫ですか!? おい、誰か回復魔法を‥‥」
「だ、大丈夫です‥‥大した傷では」
 衛士の一人に助けられ、ふらふらと、メリッサ・ベリニは立ち上がる。

 そうだ。
 傷は、大した事は無い。
 少なくとも、「この」傷は。

 だが‥‥これから先は?


<占い師、メリッサ・ベリニの護衛をお願いいたします。
 私は現在、二人連れのならず者に命を狙われております。
 二週間ほど前、私の占いの結果に不満を持った、とある富豪に雇われた襲撃者たちです。
 私は昼間から夕方にかけてパリ市内で占いの卓を立てて生計をたてておりますが、
 その仕事時間中は勿論、夜間の襲撃に備え、自宅の警戒に当たっていただきたく存じます。
 腕に自信がおありの皆様をお待ちいたしております>
―――依頼人 占い師 メリッサ・ベリニ


「あ〜! 本物のメリッサ・ベリニさん!? あの、当たるって評判の!?」
 誰かが、その依頼人である浅黒い肌に黒髪の、どこか不思議なイメージの女性を見て歓声を上げた。最近、パリでは結構名が売れ始めた占い師らしい。
 彼女は知っていて下さって嬉しいわ、ありがとう、と言ってにこっと微笑みを浮かべたが、その底に淀む恐怖と怒りは消えない。

「あの、占いの結果に不満で命狙う‥‥って、どんな結果を占ったんですか?」
 誰かがそう尋ねた。
 命を狙われる程、強烈な逆恨みを呼ぶ占い結果とは?
「‥‥大した事じゃないわ。ただ『あなたが今手掛けている取引は、良くない性質のもので、しかも大失敗に終わるはずだ』ってそう言っただけ。占いでそう出たから、そう言ったのよ」
 しれっと、彼女は言った。
 わざわざ彼女を呼びつけて占わせたその豪商は、その結果を聞いて怒り、礼金も値切り倒して彼女を追い出したのだそうだ。
 しかし。
 実際、その直後、その豪商は取引に失敗し、しかも違法な商品を扱っていたとの疑いを当局に掛けられた。
 全て、恐ろしい程占いに合致していたのだ。

 襲撃が始まったのは、その翌々日の事。

「このままでは、私は占い師を辞めざるを得ないわ‥‥実際、今の状態じゃ、お客さんを巻き込むのが怖くて占いの卓なんか立てられないし」
 メリッサが低い声でそう告げた。
「辞めても、きっとあの連中は諦めないでしょうけど‥‥。衛士の方々も、気を付けるようには言ってくれたけど、私の周辺だけ気を配ってもらう訳にも‥‥」
 

「‥‥占い師ってのは、ああいう問題があるんだよね。悪い事を言い当てると、逆恨みされたりするんだよ‥‥」
 誰かが溜息と共に呟く。
「占いは、占いだよ。運命だし、運命でしかない‥‥。それを暴力で押さえ込もうってのが、そもそも違うんじゃないか?」
 誰かが、そう言って立ち上がり、彼女の方に歩いて行った。

●今回の参加者

 ea3690 ジュエル・ハンター(31歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 ea8063 パネブ・センネフェル(58歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 ea8117 ハーリー・エンジュ(26歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 ea8407 神楽 鈴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5005 クンネソヤ(35歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5486 スラッシュ・ザ・スレイヤー(38歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb6340 オルフェ・ラディアス(26歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb6508 ポーラ・モンテクッコリ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ライト・オレンジ(ea4023)/ エグゼ・クエーサー(ea7191)/ 時奈 瑠兎(eb1617)/ 水上 流水(eb5521

●リプレイ本文

 依頼人メリッサの自宅は、閑静ないしは人気がないとも言える住宅街の一角にあった。依頼を受けた十人の冒険者からすればおあつらえ向きに、一軒家だ。
「まったく、逆恨みなんて困ったものだよねー」
 少し調べ物をしてから来る仲間もいる中、いの一番の勢いで駆けつけたハーリー・エンジュ(ea8117)は、居間のテーブルの上でぷりぷりと怒っている。同様に駆けつけた仲間は他にもいて、神楽鈴(ea8407)やクンネソヤ(eb5005)、リディエール・アンティロープ(eb5977)とジュエル・ハンター(ea3690)が間取りの確認などしていた。
「随分周りが静かだが、空き家ではないな」
「ええ。昼間は皆仕事に行っているのよ。狙われているとは言っていないけど、そうね、この間は仕事のことで絡まれたとくらいは思われているかも」
 家の中に篭るのも気が塞ぐだろうからと、ジュエルが連れてきた愛猫を抱きながら、メリッサは尋ねられたことに淡々と答えている。鈴が見たところ、最初より顔に赤みが戻ったようだ。
「ちょっと窮屈かもしれないけど我慢してね。買い物なんかもあたい達がするから、何でも遠慮なく言ってよね」
 鈴の申し出にハーリーが胸を張って同意し、家の周囲も巡ってきたクンネソヤとリディエールがジュエルの友人達が調べてくれた事柄を他に伝えた。
「早朝と夕方に人通りが多いようですね。その時間は安心かもしれません」
 リディエールが皆で相談したおおまかな班分けと、巡回方法をメリッサに説明している。ジュエルも言葉を添えていたが、基本的に周辺の気配を探っているようだ。その様子にちらちらと目をやるメリッサに、それまでほとんど口を開かず、何を考えているのか掴みにくかったクンネソヤが。
「占い師はおいらの故郷のチュプオンカミクルみたいなものだと聞いた。だったらおいらはカムイラメトクとして全力でメリッサ・ベリニを守るぜ」
 メリッサがクンネソヤの言うカムイラメトクが何か知っていたかは不明だが、言葉に込められた気持ちは十二分に受け止めたようだ。安心してくださいと皆に労われ、少し遅れていた他の面子が揃って、ようやく彼女の肩から力が抜けた。
 だが、わざわざ時間を割いてメリッサを狙っていると思われる豪商の身辺を調べに出向いたはずのポーラ・モンテクッコリ(eb6508)は、一抱えほども葡萄を持ち込んできた。籠もないので当人だけでは持ちきれず、パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)とオルフェ・ラディアス(eb6340)が少しずつ助けている。パネブ・センネフェル(ea8063)とスラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)が手を空けているのは、いざというときのための用心だ。他の三人も両手が塞がるようなことはしていない。
「これはお土産ですのよ。食べながらお話しましょ」
 当人の趣味か、それとも買い物もままならなかったメリッサへの心遣いか、ポーラがテーブルに葡萄で一山築いている。あまりの明るさにメリッサのみならず、先に到着していた面々もいささか面食らったが、豪商の調査に回った人々はもう慣れた様子だ。それぞれメリッサに挨拶しているが、中でもスラッシュが。
「噂のメリッサちゃんの護衛とは、男冥利に尽きるねぇ。気合が入るよ」
 挨拶というには随分長く握手していたものだと、皆に注目されている。メリッサは面食らうことばかりのようだが、それも皆の話を聞くまでだ。
「手分けして、あちこち調べてみたんだけど」
 代表でパトゥーシャが説明しているが、五人が調べたのはそれぞれ別の方面からだ。パトゥーシャのように衛士から事情の聞き取りをした者もいるし、日頃使っているつてを頼った者もいる。更には家の周辺を巡って、襲撃路の予測をつけていた者まで。
「問題の人は、取り調べを受けていたんだけど、姿をくらましたみたいなの。やっぱり扱っていたものが良くなかったみたい」
「薬の関係のような話を耳にしたから、麻薬か何かかもしれないな」
 パネブが言葉を添えたが、情報の出所は口にしない。これを聞いて、パトゥーシャが『逆恨みなんて最低』と呟いたが、これには唱和する者が何人も。だが。
「占いの内容で逆恨みはもちろん論外だが、それを話した時の態度はどうだった? 余計なことだろうし、今回のことは当然収めるが、悪い結果を悪いまま投げつければ、こういうことは何度も起きるぞ」
 パネブが続けた言葉にメリッサはきっとした視線を返したが、それより素早くハーリーがパネブの耳を引っ張りに飛んでいる。それは言い過ぎではとポーラやパトゥーシャ、リディエールなども返したが、スラッシュがメリッサに話しかける。先程とは随分と雰囲気が違い、厳しい調子だ。
「俺はあんたが取引を知っていて、衛士に売ったと疑われたんじゃないかとも考えたが、そういうことはないか? ‥‥ないならいいが、世の中ちょっとの事で刃物を抜く奴もいるんだぜ。一応思い返してみたほうがいい」
「スラッシュさんは、仕事に戻ってから些細なことで殴られたらいけないと心配していらっしゃるんでしょう。そう言えばよろしいのに」
 襲われて冒険者ギルドに依頼を出すのだから、メリッサは相当気丈な女性である。その性質が仕事で理不尽な振る舞いに及ぶ相手にも発揮されれば、パネブの苦言も今後注意すべき事柄かもしれない。とはいえ、いつ言われても嬉しい内容ではないし、特に今は避けても良かろうにと、鈴から言われていた。
「男の人って、美人には上手いこと言えないのよね」
 これには男性陣から一言の反論もなかったようだ。

 豪商が姿をくらましていても、すでに依頼を受けた襲撃者が仕事を諦めるとは限らない。よって十人の冒険者はメリッサの身辺警護に白クレリックのポーラとカムイラメトクのクンネソヤの二人をつけ、パトゥーシャとオルフェのレンジャー二人とウィザードのハーリー、ファイターのスラッシュで一組、ジュエルとパネブのレンジャー二人と志士の鈴、ウィザードのリディエールでもう一組として、交代で家の内外の警戒に当たることになった。
 最初はパトゥーシャが精を出していた鳴子の設置も、あっという間に他の三人のレンジャーも加わって、メリッサが物珍しげに眺めている間に家の周囲に張り巡らされる。一見してメリッサにも見えるものと、言われないと気付かないものの二通りだ。
「後ろ暗いことに手を染めた同業者の可能性があるから、これも完璧ではないがな」
 こういうものがあると見せ付けるだけでも、時間稼ぎにはなるだろうとジュエルが苦々しげに口にしている。レンジャーの技は色々あるが、人に雇われて暗殺や襲撃を生業にするためではないと当人は思っているのだろう。
「ここまでしたら、すぐに片が付きそうな気がするわ」
 メリッサがこんな音がすると聞かされて、頷きながら、唇を少し綻ばせた。幸いメリッサも仕事を控えて出掛けることもないので、窮屈ながらも家の中で護衛されている。今は居間の窓の近くにリディエール、玄関扉の傍らに鈴、ジュエルとパネブの二人は見事に気配を消していて、どこにいるのか分からないが警戒に当たっている。
 メリッサの側にはクンネソヤとポーラがいるのだが、他の四人も集まっていて‥‥
「気晴らしにカードでもするか」
「踊ってあげてもいいよ」
「お茶を淹れたよ」
 スラッシュ、ハーリー、パトゥーシャが、メリッサの気晴らしにこれ努めている。オルフェは戸惑っていたが、カードの仲間に引きずり込まれていた。ポーラとクンネソヤも含めるとカードには向かない人数なので、適当に入れ替わることになる。
 もちろん窓や扉の近くはスラッシュやオルフェ、クンネソヤが占めていて、誰もが手元から自分の武具は離していないが、それでも雰囲気は随分と和やかだった。
「なんだか他の人に悪いみたいだけど」
「後で交代するので、お気になさらず」
「そうそう、交代までに一休みする必要があるから、早寝早起きしないとね」
 オルフェがまったく緊張を感じさせない口調で言い、ポーラがはたと手を打っていつまでも遊んでいてはいけないと断言した。白クレリックの早寝早起きは普通の人とは大分違いそうだが、ワインを勧められて気が緩んだらしいメリッサは早々に寝室に引き取っている。さすがに場所が場所なので、ポーラが室内、クンネソヤが扉前、家の外の巡回はジュエルが回った。
 奇襲の常套は深夜と明け方、どちらも人の気持ちが自然と緩む頃合だということで、明け方前に巡回の交代をした一同は、だが何事もなく二日目を迎えた。

 そうして二日目の日中、必要なものの買い出しをしてきた鈴とリディエールが周囲におかしな様子がないことも確かめてから戻って、一日前とは見違えるほど明るくなったメリッサと食事をどうするかと話していて、不意に言われた。
「あら、あなた、男の人なの?」
「よく間違えられます。スカートをはいているわけではないのですが」
 どうしてでしょうねと微笑んだリディエールに、メリッサはしばらく言葉選びに迷っていたようだが。
「気が付かないなんて、やっぱり緊張していたのね」
「休んでいてもいいよ。あたいじゃたいしたものは出来ないけどね」
 そのまま口に入る物も買ってきたしと、鈴が肩を落としたメリッサにまめまめしく買ったものを示している。自分は魔法も使えるし、他の人達も頼りになるから心配は知らないと励ましていて、買ったものを運ぼうとした途端に転んだ。
「ほんとに、大丈夫だからね」
「でも、鼻をぶつけたでしょ」
 テーブルに顔面から突っ込んだ鈴をリディエールが助け起こし、メリッサが怪我の有無を確認する。そうしている間に、居間の片隅で鏃の点検などをしていたジュエルとパネブが物音を聞きつけて様子を見に来たが、鈴の涙目で事情を察したらしい。
「傷口は良く洗えよ。なめれば治る程度の傷みたいだが」
 パネブは舐めれば治るという割に、水が足りなければ汲んでくると水がめを覗き。
「エレアに舐められないようにしておけ。痛むからな」
 するりと台所に入り込み、ちゃっかり干し魚を見付けて寄越せと鳴き出した黒猫の首を掴んで、ジュエルは台所から引き上げた。
 そんなことがあっても、何とか食事は交代でとって、その深夜。

 隠すように張り巡らせたほうの鳴子が、続けて二箇所で鳴った。玄関の近くと居間の窓の下辺り。居間の窓の側で警戒に当たっていたオルフェが、休んでいる人々に聞こえるような大声を出し、その後半が半ば悲鳴になった。
 どういう方法でか窓を一撃で破った襲撃者は、オルフェの額を切り裂いていた。正確には飛び込みざまに目を狙ったのだろうが、オルフェもそこだけは何とか回避している。傷も浅いが、こめかみが切れて出血がひどいので視界が利かず‥‥
「おまえは阿呆かっ」
 玄関と居間ならメリッサのいる寝室まで到達するには、居間で撃退すればいい。間取りからそう判断したスラッシュが巡回していた外から台所の戸口をくぐって駆けつけた時には、オルフェが居間から寝室に繋がる廊下で倒れ伏す寸前だった。見えないからと、体を張ったものらしい。
 それでも怪我は額だけ、腹に土が付いているのを見て取ったスラッシュは、蹴り倒されたオルフェを助け起こす前に、寝室扉の前で似たようなことをしでかしているクンネソヤの応援に入った。こちらは不意打ちでもなく、もう仲間へ知らせる必要もないので、互角以上に渡り合っている。その背後からスラッシュが入れば、叩き伏せるのはそれほど難しくない。
 だが。
 おかしいと気付いたのは、三人同時だ。玄関で音がしたにもかかわらず、そちらは誰も入り込んだ気配がない。台所も、同様だ。
「メリッサっ!」
 クンネソヤが信じられないほどの大声を上げて、扉を開け放つ。

 少し時間が戻って。
 外の巡回をしていたハーリーとパトゥーシャも、鳴子の音は聞きつけていた。ハーリーは高い位置から、パトゥーシャは矢筒に手を回した姿勢でメリッサの家の玄関まで駆け戻る。今は家のすぐ外と中にスラッシュやオルフェ、他の仲間もいるから万が一のこともあるとは思わないが、それでも中に入れずに済めばそれに越したことはない。
 けれども彼女達も玄関には誰の姿も見付けられず、家の中の音を探って、裏に当たる寝室へと向かった。その時には、窓が裂ける音がしている。
 鳴子の音に目を覚まして、メリッサを挟んで不測の事態に備えたポーラと鈴は、窓が強風で壊れるような様子に魔法だと直感した。だが襲撃者が魔法を使えるなら、以前にメリッサを襲った時に片を付けているはずだ。
「魔法を使うまでもなく、一人だね」
 殺気がぷんぷん臭うようだと言い捨てて、鈴が魔法の詠唱に入ろうとした。それが止まったのは、窓から突入してきた二人目がいたからだ。襲撃者の一人は廊下でやりあっているようだし、三人いたとは聞いていない。まさか仲間を増やしてきたかと、小さな体でメリッサを背後に庇うポーラの前で呪文詠唱に入り直すと。
 飛び込んできた二人目が、一人目にナイフを投げる。扉が開いて、クンネソヤの使っていたランプの乏しい明かりで見ると二人目はパネブだ。けれども彼は、腕にナイフが突き立った襲撃者がクンネソヤやスラッシュも加わったのを見て逃亡するのを制止はせず、横合いを通るに任せて。
「必殺、豪熱烈火、ファイヤーバードー!」
 近所が目覚める原因になったろうハーリーの掛け声と共に炎が窓をくぐった襲撃者を襲い、更にパトゥーシャと逃亡を警戒していて中に入らなかったジュエルからそれぞれ矢が放たれた。台所で寝ていたレンジャー二人は、スラッシュと逆に外を回って逃亡阻止に動いたのである。
「凍らせてもらって良かったかな」
 いささか出遅れてリディエールが、逃げる余力のない襲撃者をアイスコフィンで凍らせて、ポーラの手を煩わせることがないように取り計らった。ポーラはオルフェの傷を治してやったが、見た目と出血ほどにはひどい傷ではなかったようだ。
「スラッシュさんくらいになりたいですよ、早く」
 そんなことが言えれば上等だと、皆を安堵させていた。
 その後。窓を破ったのはスクロール魔法で、襲撃者も冒険者を警戒して全力を尽くしてきたのだろうと衛士から連絡があったが、肝心の冒険者達はあいにくと大層忙しかった。二箇所も窓を破られ、まだ首謀者が捕まらないうちは依頼終了にはならないと、大工の心得があるクンネソヤの指導で窓の修繕をしていたのだ。
 首謀者として名の上げられた豪商が他の嫌疑も色々付けて、衛士に捕まったと連絡が来たのは依頼が始まって五日目のこと。
「家まで直してもらって、本当に助かったわ。これからは気をつけて仕事をしないとね」
 いつでもすぐに駆けつけてもらえるわけではないからと、メリッサは全員に等分に笑顔を向けて礼を言ったが、それが意外だったり、物足りなかったりする者がいたようである。

(代筆:龍河流)