ただ友のために

■ショートシナリオ


担当:九ヶ谷志保

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月20日〜06月25日

リプレイ公開日:2006年06月26日

●オープニング

「森でいなくなった娘を探して下さい!」

 冒険者ギルドに駆け込んで来た中年の男は、蒼白い顔でそう言った。
「あの忌々しい狼を追いかけて、出て行ってしまったんです! ああ畜生! 森にはモンスターだっているのに…!」

 その場にいた者たちは、彼を落ち着かせ、順を追って話すよう促した。

 彼はジレ・カンプ、いなくなった娘は七歳でアンナマリアという名だという。
 パリ郊外、歩いて半日程のカイーレの村に住んでいるそうだ。

「三ヶ月ほど前でした。娘が、森で子犬を拾ったと言って、黒くて毛並みの長い子犬を連れて来たんです」
「犬ですか?」
「ええ、最初はただの犬だと思っていました。ところが、段々大きくなるにつれて、どうもそれが狼らしいと分かって…」
 狼と犬は近縁だ。丸々とした子供の頃は、ただの犬に見えるのも無理なかろう。

「森に捨てて来ようとすると、娘が泣き喚いてやめさせようと…しかし、狼を飼う訳にも参りませんので、娘が寝ている間に、私と近所の男衆とで、森の奥に捨てて来たのです」
 その事を翌朝知った娘は、激怒して父に詰め寄った。
 彼の説得も空しく、その日の午後、彼女は森に行ったまま帰って来なくなったのだ。

「きっと、あの狼を探しに行って、帰って来れなくなったに違いない…。お願いです。娘を…アンナマリアを探して連れ戻して下さい! 狼が一緒にいたら、始末してしまって下さい」

 さて…どうしたものか…?

●今回の参加者

 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea8086 アリーン・アグラム(19歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 eb3327 ガンバートル・ノムホンモリ(40歳・♀・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5292 エファ・ブルームハルト(29歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb5324 ウィルフレッド・オゥコナー(35歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

「ええか〜、体濡れたら病気なるさかい、水は飲んだらちゃんと器出しといて‥」
「中丹さん。気持ちは分かるけど、向こうに着くの遅くなるわよ?」
 ペットのうさぎ、うさ丹をギルドの受付係に無理矢理預けた中 丹(eb5231)と、どうにかギルドから彼を引っぺがしたユリゼ・ファルアート(ea3502)の声を後に引きながら、一行はカイーレの村へ向かった。
 パリから、森と牧草地を抜け、ほぼ半日で深い森に面した村へ着く。周囲に葡萄畑が広がる、緑豊かな田舎だ。村の奥の大きな建物は、ワインの蔵元だろうか。

「‥あれ? 依頼人ってあの人だよねぇ?」
 森を吹き過ぎる風に乗るようにふわりと浮き上がったアリーン・アグラム(ea8086)が、村のとある家の前で何事かまくしたてている男を指差した。依頼人のジレ・カンプに間違い無いようだ。隣には途方に暮れた様子の女性が額に手を当てて立っている。雰囲気からすると、彼女が依頼人の妻、行方不明の少女の母親であろう。彼らの前には、帽子を被った猟師風の男が、大きな犬を連れて向かい合っている。
「冒険者、只今参上ッ! って、何かあったの?」
 エファ・ブルームハルト(eb5292)が軽い足取りで、まくし立てる依頼人に近付いた。
「ああ、来て下さったか!」
 安堵の吐息を落とし、ジレが六人の冒険者に向き直る。
「どうかなさったのか? 何か悪い事でも?」
 ガンバートル・ノムホンモリ(eb3327)が豊かな美髯を揺らせて悠然と近付いた。最悪の事態が、一瞬だが彼女と仲間たちの脳裏を過ぎる。
「いや、そうではありませんが‥」
「ほんの少し、私が隣村から来るのが早ければ‥あなた方の手を煩わせる事も無かったかも知れなかったのですよ。丁度今、カンプさんとその話をしていましてね」
 口ごもったジレ・カンプに代わり、猟師が帽子を持ち上げながら溜息をついた。
「‥どういう意味なの? 何があった訳?」
 訝しそうに、ウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)が問いかける。

「私なら、狼を引き取っても良かったのですよ。むしろ、金を払ってでも子供の狼なら欲しかった」
 思いがけない一言に、冒険者たちが顔を見合わせた。
「猟師のオッチャン。どーゆーこっちゃ、そりゃ?」
 中が問うと、猟師は自分の犬を指し、
「ウチでは代々、猟犬として狼と犬の混血‥狼犬ってヤツを使っていましてね。コイツもそうなんですよ。狼そのものでも、子供のうちに馴らせば、猟犬として使えるんです」
 はぁっとジレが荒い吐息を落とし、その妻が嗚咽を漏らす。つまり。
「‥‥何て事だ。猟師殿があと一週間早く来て下されば、狼は捨てられてなどいなかった、という事か」
 思わずモリが口にした一言が、全員の気持ちを代弁していた。アンナマリアは寂しがったかも知れないが、それでも身元のしれた人物の手に渡るのと、捨てるのとは根本から違う。

「森で狼を見付けたら、生け捕りにして、私に譲ってくれないでしょうか? これを使って下さい」
 猟師がそう言って差し出したのは、燻製にした鹿の腿肉だった。
「承知した」
 受け取って、ガンバートルはそれをバックパックに収める。
「そや。狼の名前、なんて言うんや? 名前呼んだら反応するん違う?」
「娘はリュシアンと呼んでいました‥‥」
 中の問いに、涙を拭ってアンナマリアの母が答えた。
 ウィルフレッドは、村人数人に当たって森の地理を確かめる。森は奥に行く程凹凸の激しい地形となり、村人の立ち入る場所とそうでない場所の境には川が流れ、沢になっていると言う。その先には天然の洞穴やうろのある巨木が生い茂り、かなりモンスターも出て危険なのだそうだ。
『いるなら、川の向こう側ね』と見当を付けた。
 アリーンは、ジレに狼を捨ててきた場所を尋ねた。
「川の向こう側です。あちらは滅多に村人も立ち入りませんから」
「いるのは水場の近くのはずよ。まずまっすぐ川を目指そ?」
 エファの提案に反対する者はいなかった。

 ばらけるのは危険と判断し全員で水場を目指す。最前列に中丹、少し後に弓を構えたモリ、背後にエファが援護として入り、ウィルフレッドとアリーンがそれぞれブレスセンサー、テレスコープの連携で探す事になった。森歩きに慣れたユリゼは、少女の足跡とモンスターの足跡に気を配る。
 森の浅い部分は、村人たちに踏み固められ足跡を辿るのは困難だったが、奥の水場に近付くにつれ、様々な足跡が見分けられるようになった。まずモリ、次いでユリゼが少女と狼の足跡を見付けた。
「この近くにいるんか!? おおーい、アンナマリアちゃーん! リュシアン君やーい!」
 中が呼ぶ。と、独特の響きを帯びた遠吠えが森に響き渡った。
「狼や!」
「何か来る!」
 ブレスセンサーを発動させていたウィルフレッドが、警戒の声を上げた。どうやら大声のせいでモンスターまで呼び寄せてしまったようだ。
「ゴブリンが三匹、ホブゴブリンが一匹よ!」
 アリーンが近付いて来た生き物をテレスコープで確認し、戦いの邪魔にならぬよう、側の木の葉陰に退避。
 ユリゼはクリエイトウォーターを唱え、ゴブリンのいる方角の地面に水をぶちまけ、すぐさまウォーターコントロールでそこを泥濘に変えた。

 甲高い奇声と共にゴブリンが殺到してきた――が、いきなり泥にはまってつんのめった。
「くらえ龍飛翔ッ!」
 中の拳が跳ね上がり、ホブゴブリンの顎を砕いた。横殴りの拳で止めだ。同時にモリの短弓から矢が二本同時に飛び出し、瞬時にゴブリンを葬る。エファの長弓が唸り、二の矢で最後尾のゴブリンを仕留めた。モリの二撃目が、泥の中でもがく生き残りを沈める。

 余裕を持ってモンスターを葬った一行だったが、段々険しくなる地形に足を取られ、その日はどうにか辿り着いた沢の側で野宿となった。
 翌日、明るくなってから沢を越える。突き出た岩を辿り、急な勾配になっている岸をよじ登ると、人の手が殆ど入っていない原生林が広がる。
 ウィルフレッドがブレスセンサーを使うと、小柄な生き物の反応が二つ。アリーンのテレスコープの映像に、汚れやつれた幼い少女が大木の下の岩の裂け目から顔を出し、その側に狼がいるのが分かった。

「おお、探したで〜!」
「大丈夫だった?」
 中とユリゼが軽い足取りで近付くと、狼が前に出て唸った。
「おお、よしよし。アンナマリアを守ってくれていたのだな?」
 動物知識を生かし、モリは威圧感を与えぬよう注意しながらバックパックから鹿肉を取り出した。大した餌も採れなかったであろう狼がかぶりつく。
「さ、あなたもお腹空いたでしょ?」
 アリーンが差し出した保存食を、アンナマリアは夢中で食べた。余程飢えていたのか、一人と一匹は警戒心を忘れたようだ。食べ終わって落ち着いた所で、一行は説得に入った。
「どう、怪我は無い?」
 しゃがみ込んで少女と視線を同じにし、エファが問う。
「君の口から、事情を聞きたいな。どうして家を出たりしたの?」
 少女は顔を歪めた。
「だって、お父さんもお母さんも酷い。今まで可愛がってたくせに、狼だって分かった途端‥」
「でもね、ご両親はあなたを探す為に、わざわざパリまで来て私たちを雇ったんだよ?」
「あ、そや、狼引き取りたいってオッチャン、村に来てたで?」
 エファの言葉に悲しげに頷いた少女は、続いた中の言葉にぱっと顔を上げた。
「本当!?」
「ああ。隣村の猟師殿だ。さっきの肉もその方が下さった。あの方なら狼を飼っても問題無い」
 モリは手を伸ばして狼を撫でた。
「ねぇ、アンナマリアさん。狼は、いくら馴れていても、本能で人や動物を襲う事がある。それを抑えられる人に飼われるのが、その子の幸せよ?」
 こく、と頷いたアンナマリアに、アリーンが毛布を掛けてやる。ユリゼが静かに言った。
「ねぇ、帰ろう。お父さんもお母さんも、あなたが心配で泣いてるの」
 少女の目から、すうっと涙が零れた。

 依頼を終え、パリに戻った中が真っ先に向かったのは、冒険者ギルドだった。
「受付は〜ん、うさ丹返して‥って、何しとるんやー!」
 確かに、うさ丹はそこにいた。
 預けた受付係のいるカウンターで、冒険者たちに撫でられている。まるで元からこのギルドにいたかのような扱いだ。
「ええ〜い、勝手にギルドのマスコットにすなー! お、い、ら、の、やーーー!」
 中の叫びは、冒険者たちの「可愛いー!」コールにかき消されたのであった‥。