●リプレイ本文
●と言うことで〜さっそく始まりました〜
──吟遊詩人ギルド
そこはとある建物。
バード達にはよくお馴染みの『吟遊詩人ギルド』である。
今回の依頼を受けた冒険者達は、その建物の一角に集められ、プロデューサーである『ザンク!!』がまずは挨拶。
「今回の依頼を受けてくれてありがとう。君達は今回、倍率2500倍の難関を生き残り、見事に栄光への片道切符を手に入れることが出来た‥‥」
早速そう告げると、『ザンク!!』は一行をじっと見てさらに言葉を綴る。
「私は諸君のことを、『まだ新しいワイン』のようなものだと思っている。良いワインというのは、熟成されることで様々な味わいを生み出す。私は君達をワインのように育てたいのだ!!」
まあ、ワインなんていうものは、そんなものだが。
しかし飲み頃である最高のピークを過ぎると、あとはゆっくり下り坂になる‥‥そして古ワインとなって皆に愛されるのですね。
つまり、失敗すると‥‥。
大衆お笑い芸人への道が待っているのか。
「では、早速だが、諸君に最高のユニット名を付けさせて頂く!!」
そう叫んだときも、オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)がそっと手を上げた。
「ザンクさん」
「『ザンク!!』だっ!!」
「は、はい‥‥えーっと『ザンク!!』さん。ユニット名ですが提案があります。『スーパーシックス』というのはいかがでしょうか? 」
そう告げたオイフェミアに、『ザンク!!』はウーーーンと唸ってみせる。
「スーパーシックスねぇ‥‥うちのメンバーはスパイの集団じゃないんだし、拳で語る武道家や水の魔法使い、柔軟な肉体を持つファイターはいないからねぇ‥‥」
あ、ラリホーな方たちですね。
と言うことで、『ザンク!!』は一行の姿をじっと見つめる。
「ユニット名‥‥以前シャンゼリゼで飲んでいたとき、とあるパラがいい名前を呟いていたなぁ。あのイメージがぴったりだ。『ぺったん娘。』っていう」
「はーーいはいはいはいはい。『ザンク!!』さん提案です!」
『ザンク!!』の意見をぶった斬って、クリス・ラインハルト(ea2004)がそう叫ぶ。
(危ない‥‥ここでも貧乳ネタが‥‥)
そう動揺しているクリスが一旦呼吸を整えると、静かに話しを続けた。
「Les Chatons。(レ・シャトン。‥‥子猫たち)っていうのは如何ですか?」
「それなら私も。『おにゃん娘。』っていうのはどうかしら?」
ディーネ・ノート(ea1542)がそう提案。
「私は特に意見はないですね。『ザンク!!』さんにお任せします」
「はわわ〜私もですぅ。イメージに合わせて頂ければいいですぅ」
ルナール・レンベルー(eb2135)に続いてラテリカ・ラートベル(ea1641)もそう手を上げて発言。
「私は『おにゃん娘』が宜しいかと思いますが‥‥」
淋麗(ea7509)も静かにそう告げる。
「ふーむ」
腕を組んでメンバーの周囲をぐるっと回る『ザンク!!』。
と、突然パン、とクリスの肩を叩くと一言。
「君の意見を使ってみよう。判りやすいように『レ・シャトン。』とする。新ユニットは『レ・シャトン。』で決定!! 早速歌唱の特訓にはいるが‥‥今回は吟遊詩人ギルドのメンバーが特別に歌唱の指導をしてくれることになった!!」
バッ、とオーバーアクションでそう叫ぶと、入り口を指差す。
「リル先生だ」
──シーーーン
そこには誰もいませんて。
『うわぁーい♪〜』
と、隣の部屋からリルの声が聞こえる。
「あー、ちょっと待っていて‥‥」
そのまま『ザンク!!』は隣の楽器倉庫に向かうと、各国の様々な楽器に紛れて楽しんでいるリルを発見。
「あー。先生、リ・ル・先生っ!!」
「あ、『ザンク!!』さんだー」
もう最初の目的を忘れているリル。
「私の名前は良いので兎に角こちらに‥‥」
「いーーやーーだーーー。もっと楽器で遊ぶぅぅぅぅぅぅぅ」
そのまま『ザンク!!』に連れられると、リルはそのまま一行の前に登場。
そのまま時間も押し進む中、歌唱訓練は始まった。
●激しく強く、そしてたくましく〜チームイメージはあとで〜
──レッスン場
「あっいっうっえっえっおっあっおっ!!」
全員がまずは発声練習。
先日のリル先生の講習により、一行はまずはベーシックな部分をマスター。
翌日はさらに一歩進んだレッスン。
午前中の発声練習とライン取り、そして午後からは『デビュー曲』の為に必要な振り付けの特訓。
ほとばしる汗をものともせずに、一行は文句一つ言わずにただ『ザンク!!』の教えのままに。
──ラテリカ宅
夜はラテリカ宅にお泊まり会。
メンバーが泊まるだけのベッドが無い為、急遽毛布や寝袋を広げて、全員でゴロンと眠る。
「ふーーんふふーーんふんふんふんーーーん」
昼間の特訓で覚えたメロディーを口ずさむディーネ。
「はい、1.2.3.4っ。そこでターン‥‥あらぁ?」
パンパンと手を叩きつつ、オイフェミアとラテリカのダンス指導をしているのはクリスである。
「駄目だよ。ラテリカぁ‥‥テンポを合わせないとねっ」
そう横でテヘッと舌を出しているラテリカに告げるオイフェミアだが。
「オイフェミアが早いのよっ!!」
そう突っ込みをいれるクリス。
「あたしが早いですって? もう1度お願いっ!!」
プライドをくすぐられたオイフェミア、もう一度ラテリカと一緒にやり直し。
「いい、それではっ1.2.3.4っ.ターンって‥‥オイフェミアぁぁぁぁ!!」
4に入った瞬間にターンするオイフェミア。
と、全員の視線が痛い。
「あっらぁ? これは参ったわねぇ‥‥ゴメンゴメン!!」
慌てて謝るオイフェミアと、その光景をクスクスと笑ってみているルナール。
そんなルナールも、歌を歌っている最中に魔法を発動させないようにと言われてしまった為、必死に精神集中している所であった。
なお、麗はというと、夕方になって完成した衣裳を目の前に置き、じっとイメージトレーニング中。
(この服を着て、大勢の人の前で、あたしが歌を‥‥はわ‥‥)
──バターーーン
「ああああ、麗がまた倒れたぁぁぁぁ」
「急いでベッドの上に。タオルを絞って持って来て!!」
とまあ、夜も楽しい一行。
まもなく特訓の成果が見られるのかと思うとねぇ‥‥。
●ゲリライベント〜仕込みは万全〜
──中央・噴水前
そこには、簡易ではあるが舞台が作られていた。
ディーネの知人であるフィラが、依頼初日に設計施行を行った改心の作である。
借りてきたステンドグラスを舞台の後ろに配置し、さらに後方は黒い幕で覆う。
舞台には、『ザンク!!』が染料を使って全員の立ち位置を記していき、その後で控え室で待機しているメンバーの元にやってきた。
「準備はいいか子猫ちゃん達!!」
楽しそうにそう告げる『ザンク!!』だが、場馴れしていないメンバーは緊張のあまり声もでないようである。
(冒険やミサだと思えば‥‥でも‥‥)
麗はすでに精神的に追い詰められている。
「皆こっちに来てっ!!」
クリスが全員を呼ぶと、みんなで輪を描いて手を繋ぐ。
「大丈夫。今日のために皆頑張ってきたんだからね‥‥」
ギュッと手を握るクリス。
「バーードもいればウィザードもいる。私達は冒険者の集まりでしかないけれど、歌を愛する心は誰にも負けないはず」
そのクリスの言葉にウンウンと肯く一行。
「あとはやるだけ。目の前の舞台はちっちゃいダンジョン。私達はそこで暴れるだけっ!!」
そして気合を入れた全員を『ザンク!!』は温かい瞳で見守っていた。
──会場
「みっなさーーん、お元気ですかァーーーー」
気合一閃、まずはマスターセレモニーの麗が観客の前で挨拶を開始。
気合の入った華国民族衣装を身に纏い、にっこりと微笑んでそう叫ぶ。
「本日は、私達『レ・シャトン。』のデビューステージにお集り頂き多〜謝(ありがとう)でーすっ!!」
あ、どうやらなにかが弾けたようですね。
やがて、奥の黒幕の中で待機していた楽団が静かに曲を奏でる。
「それでは聞いて下さい、私達のデビュー曲『恋はいつでもアドベンチャー』でーすっ!!」
その声と同時に、舞台袖から一斉に姿を表わす『レ・シャトン。』達。
全員がボーイッシュでラフな服を身に纏い、颯爽と登場。
麗も素早く服の裾を掴むと、一発で早変わり成功!!
その最中、オイフェミアは高速詠唱で舞台袖と観客席に飾ってある花に向かって『プラントコントロール』を次々と発動。
♪〜
始めての出会いは 小さな酒場〜
私は一人 窓辺にたたずむ‥‥
♪〜
歌い始めはディーネ。
まずは彼女が中央に立ち、そっと歌を紡いでいく。
♪〜
駆けていく貴方の背中 私はいつも見つめて
駆けていく貴方の横顔 私はいつも追いかけて‥‥
♪〜
静かに手を差し出し、前に出るラテリカ。
泣きそうな表情で空を見上げ、そして決意に満ちた表情で前を向く。
♪〜
じっとしているだけだは嫌なの
貴方と共に 私も走りたい
ねぇ 私を連れていってよ‥‥何処か遠くの世界へ
♪〜
オイフェミアが前に出る。
両手を前に差し出して、なにかを抱しめるようにそう歌う。
その瞬間、近くの花たちがクネクネと躍る。
まるで、歌に呼応しているように‥‥。
そしていきなりテンポが速くなる。
♪〜
駆け抜けてMy Ame
燃えるように心はBonheur
感じてSympatia
私は今ファーンタジィー!!
♪〜
麗とルナール二人が中央で熱唱。
後ろでは残ったメンバーが激しいダンスを展開!!
♪〜
触れて 心に
感じて 私を
抱しめて 今直に
キスして‥‥ここに そこに 私のすべてに〜
♪〜
全員が一斉に激しくシャウト!!
♪〜
そして連れていって 私も貴方の元に‥‥
♪〜
そして静かに曲が流れていく。
ゆっくりと麗が前に出ると、静かに言葉を紡いでいく。
「それでは‥‥メンバーの紹介をしまーすっ!!」
──ウオォォォォォォォォォォォォォォォォ
観客から絶叫が沸き起こる。
その絶叫の最中、一人一人が挨拶をして、最後に全員で一斉に頭を下げる。
「これからも、私達を宜しく可愛がって下さい!!」
そして歓声の中、全員が舞台を降りていく。
●そして〜祭りの後〜
──吟遊詩人ギルド
静かな室内。
全員がまだ興奮さめやらぬようである。
『ザンク!!』は皆に一言、『ありがとう』とだけ告げて立ち去ろうとしている。
「『ザンク!!』さん、これからどうするのですか?」
そう問い掛けるルナール。
と、静かに振り向くと、『ザンク!!』は一言、こう呟いた。
「目指してみるさ‥‥高みを極めるまで‥‥着いてくるか?」
『レ・シャトン。』の物語は、まだ始まったばかり‥‥。
〜Fin