●リプレイ本文
●と、言うことで〜ヘルメス合流〜
──道中
冒険者ギルドから依頼を受けた一行。
その途中で、ヘルメスと名乗る女性がさらにメンバーに加わり、一行はマント領へと向かっていった。
「ヘルメスさんは、何をしている人なのですか?」
そう問い掛けているのはティルフェリス・フォールティン(ea0121)。
「普段は吟遊詩人ですわね。この前もドレスタットで子供達に物語を聞かせてあげてきた所ですわ‥‥」
手にしているリュートをポロンと鳴らし、にこやかにそう告げるヘルメス。
冒険者兼吟遊詩人という事で、背中に武器としてブラックロット(漆黒の長棍)を持っているのも実にお茶目。
「一つ聞かせて欲しい。アンタが用事のある知り合いの名前は何だ?」
そう問い掛けるのはレイジ・クロゾルム(ea2924)。
「アンドラスっていうのよ‥‥なかなかいい名前でしょ?」
無邪気にそう告げるヘルメス。
その名前は一同聞いたことはない。
「‥‥同行ではなく、参加と言うからにはお前も戦えるんだろうな‥‥?」
「それは勿論。私の出来る限りで宜しければ、皆さんのお手伝いをさせて頂きますわ」
にっこりと微笑むヘルメス。
(別人みたいですね‥‥)
本多桂(ea5840)はそう考えて、ヘルメスに話し掛けようとしたがあえて止めた。
まさか、ここで『酒場のある席で噂になっていた』女性とと一緒に旅をすることになるとは、思ってもみなかったであろう。
酒場シャンゼリゼの一角では、なにやら冒険者達が自分達の持っている情報を交換している所もあるらしいが、普段はあんまり人がいないこと、そしてその巧い情報交換技術によって、そこでの話しはあまり大勢には聞こえていないらしい。
それでも、以前その席でヘルメスの話が上がっていたこともあり、桂自身は今それを思い出した。
その噂では、ヘルメスはドレスタットに姿を現わした吟遊詩人。
そして悪魔。
だが、それは噂レベルでしかなく、実際にドレスタットのギルドで報告書を読んだのではないから、その真意は判らない。
もし時間があったなら、ドレスタットにいる知人にでもシフール便を出して、それらについて調べて貰うという方法もあっのだが。
「あまり、好きではないですが、信用したいので心を読ませていただきます。抵抗はしないでください」
そうヘルメスに話し掛けるのは淋麗(ea7509)。
「クレリックさんかしら? 相手を信用する為ですといって心を読むっていうのは、あまり感心しませんけれど‥‥」
そう告げると、ヘルメスはすぅっと深呼吸。
「あまり人に魔法をかけられるのは好きではないのです‥‥心の準備がまだ出来ないのですわ。ちょっとみなさん後ろを向いていてくださいます?」
そう告げて、ヘルメスは其の場にしゃがみこむと、バックパックをゴソゴソと探す。
──ジーッ
その光景を見ていたレイジに、ヘルメスはさらに告げる。
「あまり、女性の革鞄は除くものではありませんわ。貴方もお願いね‥‥」
そのまま全員が後ろを向く。
そして10秒ほどで、ヘルメスが皆を呼ぶ。
「あ、ありましたわ、どうぞ‥‥」
バックバックの中から皮のワイン袋を取りだし、それを一口飲むヘルメス。
「ふぅ‥‥さあどうぞ!!」
「それでは失礼します‥‥」
そして麗はリードシンキングを発動させる。
淡い輝きが麗の全身に現われ、そして一瞬だけヘルメスの思考を読み取った。
(人に恩恵を与えるクレリックが、人を疑うなんて‥‥これだから‥‥)
あ、表面は冷静なヘルメスさん、内心怒っているし。
「すいません‥‥」
とりあえずはそう頭を下げる麗。
そしてそのままパーティーの最後尾に付くと、そのまま旅を続けた。
なお、ヘルメスが他の仲間たちと話をしているときでも、時折麗は高速詠唱&リードシンキングで思考を読み取ろうとした。
が、その時の思考は普通の『冒険者』そのものでしかなく、麗は取り敢えず警戒を少しだけ弱めてみた。
●マント領〜あれ? どこも厳戒体制じゃないし〜
──領正面街道入り口
そこから先はマント領城下街。
そこまでも時折旅の商人や冒険者といういでたちの人が通り過ぎたり、一行を抜きさっていったりしていたものの、特におかしいと思える所は見えなかった。
そしてマント領の入り口に当たる場所にたどり着いたときも、街道ぞいに立っている見張りは冒険者達を別段怪しい視線で見ていることは無かった。
「あれ? 普通ですねぇ‥‥」
「領民は、今回の騒動についてはなにもしらない。自警団での守りなど、真実を知らない人がやっていれば別段怪しむことも無く、普通に見えるな‥‥」
冷静に判断するレイジ。
「ということは、噂のカルロス伯爵の悪行についても、この地の人たちは知らない方が大半ということですか?」
サーラ・カトレア(ea4078)がそう問い掛ける。
「おそらくな‥‥我々の任務は、だからこそ難易度が高い。陽動を行うにあたって、『倒すべき相手、倒してはならない相手』を見極める必要もあるという事か‥‥」
レイジがそう告げる。
──ゴクッ
息を飲む音が一行の中から聞こえる。
ただ暴れるだけなら楽な仕事。
だが、相手を見誤ると犯罪者。
そのまま一行は、城下街を抜けてマント城へと向かっていった。
──マント城正面入り口
がっしりと扉は閉じられている。
その正面には、4人の御衛士。
「‥‥ここからが正念場ですか‥‥」
そうムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)が呟いた時、御衛士の一人が冒険者に向かって近づいていく。
「ここはカルロス伯爵様の居城です。如何なる御用件ですか?」
丁寧にそう話し掛けてくる御衛士。
「実は、カルロス伯爵にご謁見をと思いまして‥‥」
サーラはまず相手の出方を見る。
「現在伯爵様は外出なさっています。後日またいらっしゃってください」
そう告げると、御衛士は静かに入り口に向かって戻っていったが。
(さて、このままおとなしくしていても埒があかないですか‥‥)
──ブゥゥゥン
素早くムーンリーズが詠唱開始。
それも派手に、叫ぶように!!
正面扉は石造りだが、それでも脅しとしての効果は十分!!
「我が名は、雷神の腕ムーンリーズ、荒ぶる雷光を浴びたいのは誰です」
──バリバリバリッ
一条の雷光が御衛士の横をすり抜けて扉に直撃。
「いきなりなにをっ!!」
御衛士達はいきなり抜刀すると、そのまま一行へ向かって走り出した。
「‥‥このままだと犯罪者のような気もしますけれどねぇ‥‥」
そう呟きつつ、借り物の魔法剣を抜刀してフラリと歩いていく桂。
待ってました先生!!
「ということは、私もかしら?」
そう自分を指差しているヘルメスに、一行は全員同時に肯く。
「前衛を頼む!!」
そう告げつつ、ティルフェリスもギリリと弓を構え、矢を番えて一気に引く。
「ふぅ‥‥判りましたわ‥‥」
そう呟くと、ヘルメスも前に出る。
──ガギィィィィン
まずは桂に向かっていった御衛士の一撃。
それを難無く受止めると、桂はそのまま峰打ちで御衛士に向かって切り付ける。
──ドゴォッ
そのまま別のターゲットに移動。
桂を追いかけようとする御衛士には、さらにヘルメスがドロップキック!!
「‥‥あまりストレートではないですわ‥‥」
さらに起き上がると、桂の相手をしている次の敵に向かってヘルメスも移動開始。
そして残った御衛士には、ムーンリーズとレイジが一斉に魔法攻撃開始。
「ライトニング‥‥サンダーボルトッ!!」
「大地の精よ、汝の理を持ちて、彼の者を戒めよ‥‥グラビティキャノンっ!!」
殺しはしない。
ただ、苛めるだけ。
そんな戦いにもやがて終止符がうたれる。
御衛士達は戦闘不能状況となって撤退。
横にある小さな扉から内部に向かって救援要請に向かったのであろう。
「それじゃあ、ぼちぼち本気で行きますかっ!!」
レイジが扉に向かってグラビティキャノンを叩き込む。
──ドッゴォォォォン
一撃では吹き飛ばなかったものの、数発叩き込んだときには扉は完全に破壊されていた。
そこから内部に飛込んだ一行は、城の入り口方面からやってくる奇妙な一行を見て一斉に戦闘体勢に入る。
「ケーッケッケッケッケッ‥‥愚かな人間共め‥‥」
「ここから先は伯爵様の居城。貴様達にはここで屍となって頂く!!」
「‥‥という事だ!!」
なんか投げやりにも感じる奇妙な生物が3体。
そしてその後方から出て来た出て来たアンデット!!
──ゾロゾロゾロッ
現われたのはズゥンビの群れ。
──チュッ
だが、現れていきなりサーラの放ったサンレーザーに焼かれる可哀想なズゥンビ。
さらに!!
「打ち砕けっ‥‥一式極神撃っ!!」
叫び声と同時に、風を切りつつ放たれたティルフェリスの矢。
──ドゴォッ
それは深々とズゥンビの頭部に突き刺さった。
が、それで死ぬような奴ではない。
というかもう死んでいるし。
「あ‥‥あれはインプよっ!!」
驚きつつそう叫ぶヘルメス。
「では、あいつから始末しましょう‥‥」
「とうとう悪魔のお出ましか‥‥」
「悪魔には手加減しませんわっ!!」
すかさず印を組み韻を紡ぐムーンリーズとレイジ、サーラの3名。
ティルフェリスは後方から次の矢を番えて再びギリリと弓を絞り、桂は真っ直ぐに敵インプに向かって切りかかっていく。
そしてヘルメスも気持ちを立ち直らせると、背中に担いでいた愛用のブラックロットを静かに構える。
──ピキーーーン
と、ここで麗は再びリードシンキング。
『全く‥‥あんた達雑魚には用事はないのよ‥‥』
あ、普通の思考です。
それを確認して、麗も素早く印を組むと、インプの出方を伺っていた。
「ケーッケッケッケッケッ!!」
背中の翼を一気に延ばし、インプ達は上空へと飛び上がった!!
「人間は飛べないからなぁ‥‥」
「ここからやらせてもらうぜっ!!」
「だとさっ!!」
その瞬間、インプ達も印を組む。
そして先制を取ったのはインプ!!
「お前っ!! 『武器を捨てろ』っ」
そう桂に向かって叫ぶインプ。
──チャキーーン!!
だが、その『魔力のこもった言葉』など気合で抵抗する桂。
「何をしたのかは知らないけれど、効かないよっ!!」
さらに別のインプはレイジに向かって一言。
「『詠唱を止めな』っ」
──チャキーーーン
はい、レイジも難無く抵抗。
でもコメントはなし。詠唱止まるから。
そして最後のインプは何を考えているのか。
「『うちにカエレ』っ!!」
そうヘルメスに叫ぶが。
──チャキーーン
当然抵抗。
「私が帰る前に、貴方たちを帰してあげるわよっ!!」
そしてレイジとムーンリーズ、サーラの魔法が完成!!
──ジュッ!!
地上から空中へと向けられたサンレーザーによる対空攻撃。
「貴方たちこそ、とっととお家に帰って下さいっ」
その攻撃で身体を焼かれるインプ。
「‥‥あぢあぢあぢっ」
──キィィィン‥‥ドッゴォォォォォン
さらに上空で火傷の為小躍りしているインプに向かって、レイジ渾身のグラビティキャノン発動。
「この程度の相手か‥‥雑魚だな」
はい、おっしゃるとおりで。
──バチバヂハヂバチッ‥‥
止めはムーンリーズのライトニングサンダーボルト。
その一撃でほぼ戦闘意識を失くしたインプ1体は、そのまま撤退開始。
「よくも相棒をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
──ドゴッ!!
手にした棍棒で、いきなり桂を殴りつけるインプ。
だが、その一撃を難無く受け流すと、桂は一歩踏込んで神速の一撃を叩き込む!!
──ドシュッ
「馬鹿なっ。この俺の肉体を傷つけるだとっ!!」
切り裂かれた肉体を見てそう叫ぶインプ。
「あたしの流派は『夢想流』。開祖・林崎重信の生み出した居合の流派よっ。その太刀裁きの速度とこの魔法剣があれば、あたしの前に敵は存在しないわっ!!」
そう叫んでから、腰から下げている酒を照りだし一口グイーーッと。
「‥‥ングッングッ‥‥ぷはーーーーっ!!」
あんた余裕だねぇ。
「何故だ‥‥この俺たち高等なる『悪魔』が、なんでぶざまな人間ごときにここまで追込まれなくてはならないんだっ!!」
そう叫びつつ、インプの一体がいきなり後ろを向いているヘルメスに向かって不意打ちを叩き込む!!
──ゴイーーーーン
その後頭部にインプの棍棒が痛打!!
──ドサッ‥‥
あ、ヘルメスさん倒れるし。
「ヘルメスさんっ!! ブラックホーリー!!」
麗は高速詠唱でインプに向かってブラックホーリーを叩き込む。
──ドシュッ!!
聖なる光にその身を焼かれるインプ。
そして後頭部を摩りつつ、ヘルメスがゆっくりと起き上がる。
その頭には、傷は一つもない‥‥。
「うはぁっ!! なんで俺の一撃で死なないんだッ!! なんで傷つかないんだッ!! お前悪魔みたいな奴だな!!」
動揺してそう叫ぶインプ。
いや、アンタには言われたくないと思うけど。
「悪魔みたいって‥‥あんたねぇ‥‥」
素早く拳を握ると、そのままインプの首を鷲づかみにするヘルメス。
「グハッ‥‥く、苦しいかも‥‥」
でも、あんた達は首締められても死なないだろうという一同の突っ込みはさておいて、問題は無傷のヘルメス。
「あのねぇ‥‥あんた達みたいな『格下の下っ端』程度では、この私に傷を付けるのさえ無理なのよ。こうして『触れられている』だけでも、光栄と思ったほうがいいわよ‥‥」
「ばっ、何を戯れ事をっ。我等が主、『アンドラス様』にこの事は報告してやるっ‥‥」
さらに悪態を付くインプだが。
「その格下アントラスに伝えなさい。ヘルメスが、貴方の行為を快く思っていないとね‥‥」
パッと手を離すヘルメス。
「グハックバッ‥‥ヘ、ヘルメスだぁ‥‥」
咽を押さえてそう吐き捨てるインプだが。
じっと自分を凝視している瞳に、全身が金縛りのような感覚に陥ってしまう。
「ま‥‥ まさか‥‥貴方『様』は‥‥」
慌てて逃げていくインプ。
そしてさらに入れ違いに城内から『黒山羊の紋章』の記された盾を装備した『カルロス伯爵付き騎士団』が姿を表わす!!
「この神聖なるカルロス城に入ってくるとは無礼な奴め。我等騎士団の埃に駆けて、貴様達を打ちのめす!!」
──チャキーーン
一斉に剣を引き抜く突進してくる騎士団。
だが、『そんな騎士団』を相手している余裕は、一行には無かった。
「ヘルメス‥‥おまえ、どうして傷つかないんだ?」
ティルフェリスが一歩下がりつつそう叫ぶ。
そして一瞬のうちに弓を番えると、ヘルメスに向かって渾身の一撃を叩き込む。
──ドシュッ
それはヘルメスの右胸に命中する。
が、衣服を突き破っただけで、その皮膚には突き刺さらない。
「あら‥‥この服気に入っていたのよ‥‥」
まるでなにも無かったようにそう告げるヘルメスだが。
「ふーん。やっぱりあいつの言っていた事は本当だったんだ‥‥」
レイジがそう呟く。
「あんた、悪魔だろう? 俺の友達に、アンタと同じ名前の悪魔に憑依された事がある奴がいるんだ‥‥とっとと正体を表わしたらどうだっ!!」
素早く印を組、詠唱を開始するレイジ。
だが、その詠唱事態がフラグ!!
──バリバリバリバリッ
高速詠唱でライトニングサンダーボルトを発動させるムーンリーズ。
「あらぁん。あの剣士さんのお友達だったの‥‥これは失敗ね‥‥」
ヘルメスの周囲に黒い霧が立ちこめる。
が、ムーンリーズのライトニングサンダーボルトは、その霧を突き破ってヘルメスに直撃!!
「グフッ‥‥いい感じね‥‥」
皮膚がライトニングサンダーボルトに突き破られ、真っ赤な体液が吹き出す。
だが、それは大地に吸収されることなく、身体から吹き出した瞬間に霧のようになって消えていった。
「二式・聖速撃っ!!」
ティルフェリスの神速の矢。
しかも対悪魔用に持ってきたシルバーアローが、ヘルメスの肉体を手抜く。
──ドシュッ
深々と突き刺さった矢。
それを引抜き、グシャッと素手でへし折ると、ヘルメスはそのまま一行に向かって静かに呟く。
「貴方たちと戦う気はないのよ‥‥これは本当なのに‥‥」
「黙りなさい!! 貴方が悪魔である限り、私は貴方の存在を許さない!! 我が神タロンの裁きを受けて、奈落へと落ちていくのですっ」
──パーン
麗は素早く両の掌を併せる。
そして素早く掌を引くと、そこに漆黒の球体を生み出す。
再現神タロンの加護、全てを破壊する黒き破壊球・ディストロイ。
それは高速でヘルメスに向かって飛んでいった!!
──キィィィン
だが、ヘルメスも素早く掌を差し出すと、飛んできたブラックホーリーに向かって『ブラックホーリー』を叩き込んで威力を軽減させる。
直撃はしたものの、衣服が殆ど吹き飛ばされ、全身が少し傷つくヘルメス。
「嘘っ!!」
「クスクスッ。再現神タロンの加護ねぇ‥‥でも、貴方の信じている神は、どうやら私の存在を認めたみたいね‥‥」
そのヘルメスの嘲笑ともいえる呟きに、麗は全身から血の気が引いていく。
「あり得ないわ‥‥今のは錯覚。神は、貴方のような悪魔の存在を認めるはずが無い‥‥」
今度はブラックホーリーを発動させる麗だが、やはりヘルメスのブラックホーリーで対消滅。
「あらぁん。でも、私も使えるのよ、『ブラックホーリー』。貴方の信じている神は、私のような悪魔には力を貸さないんじゃなかったのかしら? でもほら‥‥」
さらにブラックホーリーを発動させると、それを麗に向かって叩き込むヘルメス。
──キィィィン!!
その一撃に向かって、ムーンリーズがライトニングサンダーボルトを横から放って相殺。
「ギリギリだな‥‥まったく‥‥」
自身に向けられたものでない魔法の相殺。
ムーンリーズにも出来るとは思っていなかったのだろう。
一瞬の判断、そして距離。
全ての条件が偶然揃ったからこそ可能な技。
そして
──ドシュッ
再びティルフェリスの放った矢が命中する。
が、今度はシルバーアローすら突き刺さることは無かった。
「そんな‥‥これは銀の矢なのにっ!!」
「もう効かないわよ。私はね、如何なる武器にも耐性を作り出すことができるの‥‥」
そう告げると、いきなり切りかかってきた騎士に向かって拳を叩き込むと、其の手の中に白く光る弾を生みだす。
デスハートン。
魂を引き抜く悪魔の技。
それを口の中に放り込むと、ヘルメスは麗に向かって静かに告げる。
「どう? 貴方の信じているものに裏切られた気分は‥‥」
「そん‥‥そんな事‥‥そんな事はっ!!」
素早く詠唱を開始する麗。
だが、魔法は成就しない。
信仰を失った瞬間、神はその力を与えることはない。
麗は一瞬だけ、彼女を信じていたジーザスを、再現神タロンを疑った。
それが結果として、彼女より加護を全て奪い取ってしまったのである。
「あら‥‥とうとう神にも見放されたのね‥‥可哀想な子猫ちゃん‥‥」
「うっ‥‥うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そのまま立ち上がり、麗はヘルメスに向かって走り出す。
──ドシュッ
だが、その一瞬の隙に、桂がヘルメスの背後より一撃を叩き込む。
「ごちゃごちゃ言わないで、とっとと死んでね‥‥」
相手が悪魔なら、下手な小細工は躱わされる。
ならばと、ただ突き刺しただけ。
それでも魔法剣は深々とヘルメスの身体を突き破る。
──ヂュッ
さらにサーラが放ったサンレーザーが、ヘルメスの肉体を焼くが‥‥。
「戦う意志がないのなら、とっとと姿を消しやがれ‥‥」
レイジが吐き捨てるようにそう呟く。
彼なりの判断。
勝てる相手ではない。
次々と武器を叩き込んではいるものの、恐らくは次にはもうその攻撃は『無効化』される。
ヘルメスの言葉が真実ならは、今のレイジ達の戦力では、彼女は『絶対無敵』ということになる。
「何故私達に手を貸したんだっ!! 仲間のように入り込んで‥‥なにが楽しいんだっ!!」
ティルフェリスがそう叫ぶ。
「だって‥‥女の一人旅は危険ですし‥‥仲間は大勢いたほうが楽しいでしょう?」
「まだそんな世迷言を言うか‥‥」
そう呟くレイジ。
「人の心に絶望と恐怖を植え付ける‥‥か。麗、自分の神を信じるのです!! 貴方が悪魔の囁きに『耳を貸している限り』、神は貴方に語りかけません!!」
そのムーンリーズの叫びと同時に例は立ち止まって高速詠唱。
「神よ‥‥まだ未熟な私をお許しください‥‥」
──ブゥゥゥン
再び生み出される漆黒の球。
再び麗の手にブラックホーリーが生み出されたと同時に、ヘルメスは其の場からスッと消えた。
「逃げましたわ!!」
サーラの言葉。
と、それまで周囲を取り囲んで傍観していた騎士団も、ようやく事態を呑み込んだらしく、一行に向かって襲いかかっていく。
「こうなったらヤケだ!! ドンドンかかってこい!!」
レイジの叫びと同時に、陽動作戦は再び開始された。
●そして悪魔は微笑みかける〜あのねぇ〜
──パリ
無事に陽動作戦を終えた一行は、無事にパリヘと帰還した。
数は多かったものの、作戦をしっかりと組んでおいた為、それほど難しくはなかった。
帰り道、街のあちこちでクレリックが走りまわり、怪我人の治療を行なっていた。
そんなクレリックも、かなりの手傷を負っている。
一行も、必要な手を貸してあげると、そのまま怪我人の無事を祈り、パリヘと戻ってきたのである。
だが、今回の依頼で、改めて悪魔の強さを垣間見た一行。
言葉巧みに人の心を操り、如何なる攻撃にも耐性の出来る肉体。
瞬時に姿を消したりするその能力。
そしてそんな悪魔でさえ、秘密結社シルバーホークの幹部の一人でしかないという事実が、一行の中に衝撃を与えてしまった。
「これからは悪魔と戦う事も念頭にいれないと‥‥」
桂はそうボソリと呟く。
「出来るなら、シルバーホークとは関り合いにはなりたくないですね‥‥」
ムーンリーズのその言葉で、一行は別の話題に切替えていった。
〜Fin