●リプレイ本文
●始まりましたよ!!
ドレスタット郊外
──未勝利戦
春G1がパリにて開催される事が決定し、ドレスタット競馬教会の所有するコースでは、時折寂しそうに馬を引いている厩務員の姿が見えていた。
だが、いよいよドレスタット競馬にも春が訪れる。
まず最初は未勝利戦。距離は1800m、楕円形コースで行われる。
今回の馬は昨年の『2歳新馬達』。
一体どんなレースを見せてくれるか、今から愉しみである。
──オークサー厩舎
「いい毛色ですね‥‥」
そう呟いているのは氷室明(ea3266)。
もう競馬をする事はないだろうと思い、最後のラストランを飾ってみせた。
だが、思いもよらず、再び馬に乗ることが出来た為、その嬉しさもひとしおのようである。
彼の前に立っているのは『王者・アドマイアー』。
鹿毛の牡馬、その父親はなんと『沈黙のサンデー』である。
「そうでしょう。あの沈黙の血筋にして最強の毛色。お舘様が頼み込んで種付けしてもらったという秀逸な馬ですよ」
にこにことそう告げるのは、ここの厩務員である。
「まさかとは思うけれど‥‥」
そう、静かに話し掛けようとするが。
「大丈夫です。この馬は強い馬ですよ。『スズカの悲劇』のような事故はもう起こりませんよ」
その言葉を待っていた。
「では、ゆっくりとならしていきましょうか‥‥」
そう告げて、氷室は『王者・アドマイアー』を連れてコースへと出ていった。
すでにコースには、かつて自分が乗っていた名馬『レディエルシエーロ』が『併せ』の為に待機している。
その横に静かに並ぶと、静かに走り始める氷室。
「これからは、こいつの時代なのかもな‥‥」
かつての相棒と新しい相棒。
二つの馬に囲まれて、氷室は走りつづけた。
──オロッパス厩舎
「これから宜しくお願いします」
丁寧に挨拶をする堅苦しい騎士。
セイロム・デイバック(ea5564)は厩舎を訪れると、そのまままずは厩務員たちの集っている部屋に向かうと、丁寧に挨拶をしていた。
「まあ、堅苦しい挨拶は抜きですよ。『嘆きのハーツ』については私達が色々と教えますので、貴方は自分と馬にあったいい調教パターンを見付けてくださいね‥‥」
そのまま厩務員はセイロムを『嘆きのハーツ』の元に案内する。
鹿毛の牡馬。
鋭い瞳は、眼の前に現われたセイロムをも品定めしているような雰囲気を見せる。
「いい顔をしていますね。この馬の特徴は何ですか? 先行型とか、追いきりとか、逃げの足を持っているとか?」
そう厩務員に問い掛けるセイロム。
「まだはっきりとしていないのですよ。資質は十分ありますし、どのタイプに育つかは今後の調教次第というところですね‥‥」
まだまだ能力は未知数。
兎にも角にも、セイロムは『嘆きのハーツ』の資質を見定めるような調教方法を考えることにした。
──アロマ厩舎
「さて、依頼主にはお初になる俺はSチームリーダー、ジョン・ストライカー」
厩務員達の前で挨拶をしているのはジョン・ストライカー(ea6153)。
「通称新ヨークの死神。奇襲戦法と乗馬の名人だ。今回の依頼だが依頼人の馬の性能を『完膚なきまでに』引き出し『最大限に』勝利しろとのこと。ふっ、俺のような天才的操り手でなければ百戦錬磨のオグリの乗り手は務まらん。こいつ程の潜在能力があれば神聖ローマ軍だって5馬身差でぶち抜いてみせる!!」
一気にそう告げるジョン。
「ははは‥‥まあ、そう気負いすぎないで。確かに勝利することは大切ですけれど、それだけでは騎手は努まらないですよ?」
そう告げる厩務員。
「どういう事だ?」
「競馬を楽しむことが必要なのです。この競馬の世界、実際に騎手の資質が問われる部分はそこにあります。事実、馬7騎手3と呼ばれるほど、騎手の能力よりも馬の能力が重要でして、その馬の資質を何処まで引出すかが、騎手の力の見せ所なのですよ‥‥」
そう告げて、厩務員はジョンを『鬼神のキャップ』の元へと案内した。
静かな厩舎には、様々な馬がいる。
その中でも特に奥の房に、『鬼神のキャップ』はいた。
芦毛の牡。精悍な顔立ちの『鬼神のキャップ』は、静かにそこにたたずんでいた。
「‥‥なんだこの馬は?」
ジョンは最初、そこに居る馬の存在がよく理解できなかった。
存在感のない馬。
それが『鬼神のキャップ』。
「不思議でしょう? いつもこんな感じなのですよ。それでいて、コースを走るときなどは、まるで別の馬のような走りを見せるものですから‥‥」
その言葉の意味は、実際にコースでの練習を開始した瞬間に判った。
無駄の無い走法、ミスの許されない手綱裁き。
走る瞬間、ジョンは自分の乗っているのが『馬』ではない錯覚に陥った。
「騎手はこの馬にとってはおまけでしかないのか‥‥」
それがジョンの感想であった。
──ディービー厩舎
「前回の依頼では申し訳ありません‥‥」
そう厩務員達に頭を下げているのは鑪純直(ea7179)。
冬季GIでは純直は途中から騎手を降りた。
それについて謝っているのであろうが、厩務員たちはニコニコとしている。
「冒険者ですから、それはしかたありませんよ。専属騎手でない以上、冒険者というのは、その時その時の依頼で全力を出してくれるものであると、私達は信じていますから」
そう告げて、厩務員は純直を『漢・ツルマール』の元に連れていく。
鹿毛の牡。
楽しそうに飼葉を食むその姿は、何処か微笑ましい。
「いい馬ですね。毛つやもいいし、何より瞳が輝いています」
楽しそうにそう告げる純直に、厩務員は静かに肯いている。
だが、純直は瞬時に見切った。
一見して穏やかそうな『漢・ツルマール』だが、中々気性が難しそうな雰囲気を漂わせてもいた事を。
そして実際、調教の時はとにかく激しい。
純直が乗っても、言うことをなかなか聞いてくれなかった‥‥。
「レースまでには、どうにかして‥‥くっ‥‥」
相性が悪かったのですかねぇ‥‥。
──カイゼル厩舎
静かに龍宮殿真那(ea8106)とシルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)は立っていた。
厩舎の中にある一つの房。
先月までは、そこには『静かなるスズカ』が住んでいた。
今、そこには小さな墓碑が置いてある。
天へと駈け昇った駿馬・『静かなるスズカ』。
そう記されている墓碑の前で、真那は零れ行く涙をそっと拭った。
「涙はここでお終いじゃ!!」
ビシッと自分に言い聞かせると、真那は厩務員の元に向かう。
「それでは私も失礼します‥‥レースでの戦いを愉しみにしていますわ」
そう告げて、シルフィーナも自分の厩舎へと戻っていった。
真那は今回の馬『深きインパクト』を紹介してもらうと、静かにその身体を撫で上げる。
鹿毛の牡。
心臓に爆弾を抱えていると伝えられている『沈黙』の血筋。
一見したら、とてもそうとは思えない雰囲気を漂わせている。
「うん。何処となく似ておるのぅ。鈴鹿の事では済まなかったのじゃよ。インパクト宜しくじゃよ」
そう告げて、真那は厩務員の元に向かう。
今回は調教計画を長期に設定し、無理のない計画を厩務員たちと打ち合わせ。
そして午後からは、心肺能力を鍛えるためのメニューを幾つか取り入れ、兎に角『深きインパクト』を色々な意味で強くする為の調教を心掛けていた。
──マイリー厩舎
「これが『最高のウィーク』ですか」
目の前の馬を見て、シルフィーナは鳥肌が立った。
シルフィーナは冒険者。
今までにも色々な馬を見、触れる機会はあった。
だが、明らかに今まで自分が見てきた馬とは『格』が違う。
黒鹿毛の牡。
精悍というよりも、すでにその顔は気品にさえ満ちている。
「はっはっはっ。いい馬でしょう?」
そう告げる厩務員に、シルフィードは挨拶を行うと、率直に問い掛けた。
「この馬は‥‥どんな馬なのですか?」
「うーん。簡単にいいますと‥‥『いい脚を長く使う』っていう所ですかねぇ‥‥」
その説明だけでシルフィーナには十分。
さっそく調教開始した。
知人から借りてきた馬『シルフィード』との併せ、足腰の鍛練など、できる限りの調教を続け本戦に持っていくようスタイルを作る。
そしていよいよ本戦となった‥‥。
●マンシュウの『ボクに聞けっ!!』
──コース横特設会場
あら? エモン・プジョーじゃない。
「はい。僕はジャパンからやってきた『予想屋』の『郷原万太郎』といいます。通称はマンシュウ。それでは行きましょう。今回のレース、注目はこの4頭。『深きインパクト』『最高のウィーク』『嘆きのハーツ』『王者・アドマイアー』。実はこの4頭は、すべて父親が『沈黙』の血筋なのです!! 貴族達がその沈黙の血筋に注目し、種付けを頼み込んで生まれた『運命の四頭』なのです。一体どんなレースになるか予想も付きませんが、僕の予測はこの2頭!!」
ビシッと掲示板に張付けられているデータを指差すマンシュウ。
「ずばり『最高のウィーク』と『王者・アドマイアー』。それでは賭札は隣の売店で販売していますので急いで購入してくださいっ!!」
──パーラパーパラパパーー
笛の音が響く。
各馬一斉にスタートラインに到着。
やがて笛の音が最高に達したとき、人がスタートライン横に着き旗を掲げる。
そして音が静かになっていき、消えた瞬間に旗が一気に振り下ろされた。
「それではっ。よーーーい、すたーーーとっ!!」
各馬一斉にスタートしました。
先頭は『鬼神のキャップ』。実にいい走りです。続く二番手は『深きインパクト』。その後方一馬身に『嘆きのハーツ』、さらにそこから『漢・ツルマール』『最高のウィーク』『王者・アドマイアー』と続きます。
各馬ゆっくりとペースとなっています。
「いい調子だ。このまま一気に突っ走る!!」
いきなり逃げの戦法に出たジョン。
「スタートダッシュが普通ではないぞよっ!! 『深きインパクト』、もっとペースを考えるのじゃ」
いきなり全力で駆け出した『深きインパクト』を押さえきれない真那。
「‥‥このまま逃げきりますっ!!」
セイロムはそう呟いた。
『嘆きのハーツ』の脚質は先行。が興奮のあまり、制御できなくなるかと思ったらかなり冷静にレースを展開している。
トップとの差はすぐ縮まる。
自信満々の走りを見せるセイロムであった。
残り1200m
順位に変動なし。
「負担はかかっていない。ペースもいい。この調子で行きましょう!!」
『王者・アドマイアー』にそう話し掛ける氷室。
常にペースを整え、無理をしない走りを見せる。
その前方ではシルフィードが『最高のウィーク』にまたがって上気分。
「いい感じの距離でだね‥‥このままのペースを少し維持してみようね‥‥」
さらに前方、『漢・ツルマール』にまたがっている純直もまたマイペース。
「今のところは良い感じですね‥‥このまま行けば、君の末脚が発揮できるのですけれど‥‥」
風を感じつつそう呟く純直。
いつも思う。
馬と共に走るこの瞬間が、純直にとっては気持ちがいい。
レースに勝てなくとも、この感覚をいつまでも感じていたい‥‥。
残り800m
順位に変動なし
残り400m
順位に変動なし
残り200m
大きく変動あり
「ここでスパートです!!」
ついに後方より『最高のウィーク』が加速開始。
前方ではすでに6馬身差を付けてトップを走る『鬼神のキャップ』の姿がある。
それを射程に捕らえると、いきなり『最高のウィーク』は前方の『漢・ツルマール』を追い抜くと、さらに『嘆きのハーツ』に並ぶ!!
「いきなり後方からですかっ!!」
ビシッと鞭をいれるセイロムだが、その横をグン!! と『最高のウィーク』が駆け抜ける。
「来たぞよ、逃げるのじゃ!!」
手綱をいれてそう叫ぶ真那だが、『深きインパクト』のペースが落ちていく。
首が上がり、息が切れている。
「ペース配分が出来ぬのか‥‥」
ここで『深きインパクト』は後方へと落ちていく。
「勝機!!」
すかさず『王者・アドマイアー』が末脚を炸裂。『深きインパクト』をスルーすると、二番手の『最高のウィーク』を射程に捕らえた!!
「横からですかっ!!」
『嘆きのハーツ』も徐々にペースが落ちていく‥‥。
さらにその『嘆きのハーツ』の横を、『漢・ツルマール』が追い抜く。
「人馬一体が競馬の基本だねっ!!」
そう告げてはーつ追い抜く純直。
ここでのスパートはもう無理だが、それでも走りつづける『嘆きのハーツ』と『漢・ツルマール』。
──そして
「ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉるっ」
トップは『鬼神のキャップ』。初勝利です!!
そして二着は首一つで『最高のウィーク』が勝利をもぎ取った。
1着:『鬼神のキャップ』
2着:『最高のウィーク』
3着:『王者・アドマイアー』
4着:『深きインパクト』
5着:『漢・ツルマール』
6着:『嘆きのハーツ』
歓声の中、ジョンとシルフィードはゆっくりとウィニングラン。
「これが特攻野郎Sチームの実力だぁ!!」
気分爽快のジョン。
その後ろでは、シルフィードが次のレースを射程に捕らえていた。
「次は負けません!!」
おお、シルフィードが萌えている、いや燃えている!!